2 地震・火山現象解明のための観測研究の推進

(1)日本列島及び周辺域の長期・広域の地震・火山現象

○ 日本列島の周辺で発生する地震現象や火山現象の予測にとって基本的に重要である長期的なプレート運動とそれに伴う広域の応力場を明らかにする。また、上部マントルにおけるマグマの生成・上昇機構を解明する。これらに加え、マグマ等の地殻流体の分布を含む広域の地殻・上部マントル構造を明らかにする研究や、地震活動と火山活動の相互作用に関する研究を推進して、プレートの沈み込みがどのように地震現象・火山現象全体に影響するかを統一的に理解する研究を進める。

(2)地震・火山噴火に至る準備過程

(2-1)地震準備過程

○ プレート境界の地震発生の準備過程を理解するために、海洋及び陸側の地殻とマントルで応力が特定の領域に集中し地震発生に至る過程を明らかにする観測研究を実施する。M7~M8クラスの大地震の発生領域を調査してアスペリティの分布を解明し、アスペリティ間の相互作用を含む破壊過程の特徴を精査する。また、大地震から超巨大地震までの様々な規模の地震の発生様式を解明し、アスペリティモデルを用いた地震発生モデルが適用できる時空間的範囲を再検討する。さらに、地震発生の準備過程の多様性についての理解を深め、その特性を組み込んだ複数の地震発生モデルの研究を進める。同時に、地殻とマントルの境界面の形状と滑り特性との関係を明らかにする観測的及び理論的研究を実施する。内陸地震については、広域の応力によって非弾性的な変形が進行して、特定の震源断層に応力が集中する過程を定量的にモデル化する。そのために、ひずみ集中帯の観測を強化し、地殻・マントルの不均質構造と変形様式を詳細に明らかにすることで、ひずみの集中機構を解明する。また、スラブ内地震の発生機構を理解するために、スラブ内に取り込まれた流体の分布と挙動を明らかにする。

(2-2)火山噴火準備過程

○ 観測に基づき火山活動の現状を評価し、噴火の時期と規模を予測するために、複数の火山において多項目の地球物理学的観測や探査及び地質調査を実施して、マグマ上昇・蓄積過程の多様性の理解とモデル化を目指した研究を推進する。また、これらのマグマ上昇・蓄積を支配する火山体構造や、水蒸気爆発の準備過程の理解に必要な火山体浅部における火山流体の状態と変動についても解明を進める。

○ 噴火間隔、規模、様式についての規則性や時間的変化を理解するため、全国の活火山の地質調査・岩石学的研究を実施して精度の高い噴火履歴を解読するとともに、マグマ溜まりにおけるマグマの分化や混合などのマグマ発達過程を解明することを目指す。

(3)地震発生先行・破壊過程と火山噴火過程

(3-1)地震発生先行過程

○ 地震発生の予測の時間精度を高め、短期予測を可能にするためには、地震発生の直前に発生する非可逆的な物理・化学過程(直前過程)を理解して、予測シミュレーションモデルにそれらの知見を反映させ、直前過程に伴う現象を的確に捕捉して活動の推移を予測する必要がある。これまでの研究によって、地震に先行して発生する現象は多種多様であり、地震発生準備過程から直前過程にまたがって発生する現象の理解を進める必要性が認識されてきた。このために、1.地震に先行する地殻等の諸過程を地震発生先行過程と位置付けて研究し、2.そのメカニズムを明らかにして、特定の先行過程が地震準備過程や直前過程のどの段階にあるかを評価し、3.数値モデルを作成し、4.モデルを予測シミュレーションシステムに組み込む必要がある。地震発生予測システムの研究で行う3.と4.の研究に資するために、地震発生先行過程に関する研究では、上記のうち1.と2.を実施する。

(3-2)地震破壊過程と強震動

○ 大地震の断層面の不均質性と動的破壊特性及び強震動・津波の生成・伝播(でんぱ)過程を理解するために、震源解析及び震源物理に基づく破壊過程の研究を推進する。プレート境界のアスペリティ分布及び内陸活断層やスラブ内地震の強震動生成域を事前に推定するために、強震動生成域と地震活動や地殻不均質構造等との関連性を調査する。短周期強震動の生成に関わる、断層滑りの動的特性とアスペリティ内の微細構造との関連を重点的に調査する。不均質な地下構造や詳細な海底地形及び断層破壊の動的特性を正しく評価した震源モデルを用いて、強震動及び津波の大規模数値シミュレーションを行い、マグニチュード(M)8クラスの海溝型地震からM6クラスの内陸地震まで、幅広い規模の地震に用いることができる強震動・津波の予測手法の開発を目指す。

(3-3)火山噴火過程

○ 火山噴火の規模や爆発性を支配する要因を理解するために、火山浅部でのマグマの上昇と火山爆発現象のモデル化を行うことを目標とする。そのために、繰り返し発生する噴火を対象として集中的な地球物理学・物質科学的観測を行い、火道浅部におけるマグマの移動、発泡、脱ガス等に伴う諸過程やマグマの物性変化を高時空間分解能で明らかにする。

○ また、噴火の推移を支配する物理・化学的要因を理解するために、新たに噴火が発生した火山において地球物理学・地球化学・物質科学的観測を実施する。さらに、火道の構造やマグマの動態を理解するために、ボーリング探査を実施する。これらの観測結果や地質学的情報に基づいて、噴火推移に関する定量的な噴火シナリオの開発研究を行う。

(4)地震発生・火山噴火素過程

○ 地球構成物質の変形・破壊の特性を、広い条件範囲にわたって実験的に明らかにする。地下深部の岩石の変形・破壊特性を推定するために、地震波速度や比抵抗等の地球物理学的観測による推定が可能な物理量と変形・破壊特性との定量的関係を室内実験により解明する。地震発生モデルで利用するために、変形・破壊の物理・化学的素過程を理解して、実験結果の実験条件範囲外での適用可能性について検討する。様々な規模の地震破壊を至近距離で観察できる鉱山の誘発地震等を用いて、変形・破壊現象の規模依存性を明らかにするための実験・観測研究を行う。さらに、火山噴火においては、変形・破壊以外に、マグマの性質と挙動を理解することが不可欠であるので、噴出物の分析・解析や室内実験を行うとともに、それらの結果を考慮した噴火過程の検討を行う。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)