2.(3)「地殻活動情報総合データベースの構築」研究計画

 「地殻活動情報総合データベースの構築」の研究は、地殻活動予測シミュレーションモデルの開発の基礎となる観測データを整備し、地殻活動モニタリングシステムから有効に情報を取り出すために必要不可欠である。本研究計画では、これまで蓄積されてきた日本列島規模の各種の基礎データを整理・統合する「ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築」を実施するとともに、地殻活動モニタリングシステムからの多種・大量の観測データを有効処理するための「イ.地殻活動データ解析システムの開発」を目指してきた。

ア.日本列島地殻活動情報データベースの構築

 日本列島全域を網羅する高精度で稠密な重力データベースの構築を目指して、北海道内の重力データ空白地域について、既存データの収集と新たな観測を行った。日高地域では、平成16年度~17年度にわたり新たに287点で測定し、既存データと合わせて重力異常マップを作成した。これにより、戸蔦別岩体の形状が明らかになり、島弧衝突地域の地殻変動の様子も明瞭になった。北海道北部地域はオホーツクプレートとアムールプレートの境界域である可能性があり、2004年の12月には留萌支庁南部でM6.1の地震が発生している。当地域において、平成19年度に北海道大学内の一等重力点を基準とする合計478点の相対重力測定を行い、重力データベースに追加した。さらに平成20年度には天塩町及び遠別町周辺において合計325点の重力測定を行った。この地域は、基本的に日本海東部地域に連なる南北方向の褶曲構造が発達している地域であるが、重力測定の結果によると、本震の震源は背斜構造の中でドーム状に高密度岩体が高まった所の南端にあり、それから北にドーム状構造の中に余震が広がっていることが示された。また、幌延断層に対応して、北北西‐南南東方向に直線上に重力異常の水平勾配が高い領域の存在が明らかになった(北海道大学[課題番号:1010])。
 強震計(SMAC型)の強震記録のフィルム作成作業を実施し、デジタル画像の作成を行った。これは、今後データベース化して活用される予定である。また、世界の大地震について収集された記録およそ500枚を画像化(tiff形式)し、研究者が迅速に利用できるようにインデックスデータベース作成と公開に適した新しい画像形式であるzoomaへの変換を行った。日本付近の過去の大地震について、古い地震記象や津波記録、測地記録などの所在情報とそのスキャンデータのデータベース化を行い、研究者が必要なときに迅速に利用できるようなシステムの構築を行った。所在データベース作成にあたっては、関係機関の協力のもと日本列島に散在する過去の大地震の記録を調査し作成を行った。東京大学地震研究所所蔵の歴史地震記象検索システム・津波波形画像検索システム等はウェブから利用可能なシステムとなっている(東京大学地震研究所[課題番号:1417])。
 全国の高感度地震観測施設と基盤強震観測施設、強震観測施設から得られるデータを効率的に収集・処理・蓄積し、日本列島全域における地震観測データベースを逐次的に追加・更新した(防災科学技術研究所[課題番号:3011])。
 過去さまざまな機関で実施された活断層調査の情報を網羅的に収集した活断層データベースを構築し、インターネット上での公開を行った。平成20年度中に、既存文献の断層位置情報については、主な断層帯の調査データの入力をほぼ完了した。また、断層位置情報の表示にGoogleマップを導入し、英語版においても断層位置を表示できるようにしたほか、日本語版も従来の電子国土に加えてGoogleマップにも対応させた(産業技術総合研究所[課題番号:5010])。
 10,000km2を達成目標として、活断層の詳細な位置、関連する地形の分布等の情報を、1:25,000都市圏活断層図として整備・公表してきた。平成20年度には、高山周辺の活断層「高山東部」「高山西部」「高山西南部」3面、岩国断層帯とその周辺「岩国」「下松」2面を公表した。合計30面、約12,000km2を整備し目標を達成した(国土地理院[課題番号:6019])。
 GPS連続観測データクリアリングハウスの整備として、電子基準点(GEONET観測点)や機動観測点等の国土地理院が運用するGPS観測点の観測データの関連情報を定期的に更新した。地震調査研究機関等が所有するGPS連続観測点の諸元情報、観測データの所在情報など、GPSデータに関する各種情報をウェブ上で提供するシステムの構築・運用を行ってきた(国土地理院[課題番号:6029])。
 柿岡・女満別・鹿屋・父島で観測された地磁気観測データを整理し、平成16年度に策定した統一的なデータフォーマットへ変換した。変換が終了したデータは、改定を進めている地磁気永年変化標準磁場(JGRF)の作成にも利用された。現存する1897~1912年の地磁気観測の1時間値データについて、印刷資料からデジタル化するとともに、デジタル化したデータを点検し、必要な補正を施したファイルを作成した。さらに、観測測器情報のデータベースへの登録形式の検討および柿岡・女満別・鹿屋で過去に使用された観測測器情報の調査を実施した(気象庁[課題番号:7013])。
 一元化処理による全国地震カタログの作成作業を継続して行い、平成15年12月~平成20年11月分の地震・火山月報(カタログ編)、平成15年~平成19年分の地震年報(平成15年~平成18年分はCD‐ROM版、平成19年分はDVR‐ROM版)を刊行した(気象庁[課題番号:7014])。震源カタログの高精度化と均質化を図るための過去の震源計算と総合的な地震カタログの作成も継続しており、1969‐1970年を対象に精度よく決まる可能性がある地震について、気象庁火山観測点の検測を行い再計算を実施した。1965‐1975年の大学等関係機関の検測値をコード化するとともに、1965・1969・1970年の震源再計算を実施した(気象庁[課題番号:7015])。これらに加え、各官署に保存してある地震記象紙について、保存・廃棄の基準を明確にするとともに、1960年代に撮影し、すでに劣化が進んだマイクロフィルムを新たに複製する等の作業も行われた(気象庁[課題番号:7012])。

イ.地殻活動データ解析システムの開発

 地殻活動総合解析システムの開発、運用を行っているが、新たに行われた観測データの追加、水準測量の原データのフォーマット変更への対応、水準測量データの整合性の確認、潮位データの修正、GPSデータにおけるデータベース項目の追加、GEONETの新解析戦略による解析結果への更新など、データベース内容の確認と更新を実施した。また、システムのバグの修正や利用環境の改良、SAR(合成開口レーダー)視線方向の変動量計算機能の追加などの機能拡張を行った(国土地理院[課題番号:6020])。

課題と展望

 データベースを構築するためには、基礎となる多項目で大量の観測データを効率よく整理・統合することが必要不可欠である。基礎データの収集蓄積とこれを整理統合するためのデータベース構築についてはそれぞれの関係機関により精力的に進められた。しかしながら、本計画の5ヵ年では、データ入力を担う「地殻活動モニタリングシステムの高度化」の課題やデータベースを利用する「地殻活動シミュレーション」の課題との連携が必ずしも密ではなかった感がある。今後は、これらの課題とも密接に連携して、最終的な目標である地殻活動予測シミュレーションモデルに寄与するためのデータベースを効率的に構築する必要がある。

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研究開発局地震・防災研究課

(研究開発局地震・防災研究課)

-- 登録:平成22年02月 --