平成20年度年次報告
課題番号:5003
独立行政法人産業技術総合研究所
海溝型地震及び海域活断層の履歴解明
1.(2)エ.地震発生サイクル
日本周辺の主要な海溝で発生する海溝型地震の発生履歴とその規模や発生間隔の多様性を明らかにすることを5年間の到達目標としている。平成20年度は引き続き、日本海溝、南海トラフ、インド洋沿岸域の古地震学的調査・研究を進めるとともに、それらの沈み込み帯で今までに得られた結果を総合的に考察し、とりまとめを行う。
日本海溝沿いの連動型海溝地震であると推定される貞観の地震に伴う地殻変動を明らかにする目的で、仙台周辺の海岸平野で完新統の堆積環境の調査を行う。南海トラフで発生する海溝型地震の多様性を解明するため、津波堆積物と地殻変動に関する調査を進める。インド洋の東縁に沿った沈み込み帯で発生する地震の間隔を明らかにするため、インドネシア、タイ、アンダマン諸島、ミャンマーで津波堆積物と地殻変動に関する調査・分析を実施する。今までに得られた、古地震学的な海溝型地震の発生履歴と歴史地震や観測記録とを比較検討する。
仙台平野では地中レーダーによる探査を実施し、貞観地震以降に1回の急激な隆起と、最近数百年間の緩やかな沈降の可能性を示す断面データが得られた。福島県の常磐海岸でも海岸堆積物の採取を行い、地殻変動を復元するための調査地を選定した。
北海道の太平洋岸で発生する連動型地震について、陸域の調査で明らかになっている津波堆積物の分布を説明するために、1)通常の海溝型地震より海側と陸側に大きく広げた断層モデル、2)海溝に沿った部分だけの断層モデル、3)通常の地震よりやや海側に広げた断層モデルを検討した結果、3)のモデルが津波堆積物の分布を最もよく説明できることを検証し、その結果を国際誌に公表した。
富士川では過去約1500年間に繰り返した泥層と泥炭層の繰り返しと歴史地震との関係を明らかにするため、試料採取と年代測定を追加して実施した結果、いくつかの歴史地震に対比できる可能性が高くなった。牧之原市(旧榛原町)に分布する浜堤列の一部について掘削調査を行った結果、完新世後半の隆起の蓄積が確認された。
志摩半島の志島低地でボーリングを実施し、過去約6000年間の津波堆積物を含む地層を採取した。紀伊半島の潮岬周辺の海岸線で旧汀線指標であるヤッコカンザシの調査を実施した結果、標高4m以下に4つの異なるレベルの群集を見出し、400
0600年間隔で大きく隆起していることが明らかになった。最近では1707年宝永地震にそのような隆起が生じたことが明らかになった。四国の足摺岬でも地震性隆起の履歴を示す可能性が高いヤッコカンザシを検出した。
ミャンマー西海岸のMun
Aung島に少なくとも4段の海岸段丘が発達していることを明らかにし、段丘面上から採取した隆起カキ礁の年代測定を行った結果、過去約3000年間に4回の隆起イベントが約900年間隔で発生していることが明らかになった。また、タイのプーケット北方で2004年のスマトラ沖地震以前の巨大津波による津波堆積物を発見し、Natureに公表した。スマトラ島本島の海岸平野での津波堆積物調査を実施し、連続性はよくないが津波堆積物である可能性が高い砂層を発見した。
後藤 和久・藤野 滋弘(2008)2004年インド洋大津波後の津波堆積物研究の課題と展望.地質学雑誌,114,
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Shishikura, M., Echigo, T. and Namegaya, Y. (2008) Evidence
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津波堆積物の調査によって,海溝型地震は常に同じような規模で発生するのではなく,まれに複数の震源域が連動破壊して巨大津波を発生させることを,千島海溝西部や宮城県沖日本海溝で明らかにし,チリ海溝やインド洋東岸でも巨大津波の履歴の解明に成功した.また,津波堆積物が分布しない隆起域では,ヤッコカンザシやカキ等の化石の調査によって連動型地震の履歴を明らかにできることを、南海トラフやミャンマー西岸で明らかにした.
活断層研究センター
他機関との共同研究の有無:有
東京大学、アメリカ(CALTEC)、インドネシア(科学院)、ミヤンマー(気象水文局)やインド(1名)等の研究機関
部署等名:部署等名:産業技術総合研究所 活断層研究センター
電話:029‐861‐3855
e‐mail:okamura‐y@aist.go.jp
研究開発局地震・防災研究課