平成20年度年次報告
課題番号:1708
名古屋大学環境学研究科
精密制御震源(アクロス)の実用化と地下の常時モニター手法
3‐(3)地下構造と状態変化をモニターするための技術の開発と高度化
1‐(2)イ.内陸地震発生域の不均質構造と歪・応力集中機構
2‐(2)イ.東海地域
本課題では,平成16年からの5ヶ年において,アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証実験に最も重点を置く.プレート境界面での固着の度合いにより地震波の反射強度が異なる可能性があることが観測や実験により示唆されている.本計画では,東海地震の震源域である静岡県西部および愛知県東部をターゲットとして観測を実施する.また,震源装置を設置する.理由は,この地域では,2001年東海中部地殻構造探査によりプレート境界面からの反射波であると思われる非常に強い反射波が検出されていること,2000年からスロースリップが発生しており,固着が変化しやすい場所であると考えられることである.
上記の到達目標に沿って,具体的に以下の年次計画で研究を実施してきた.
※ 平成17年度: 試験観測の解析と結果の評価,設置候補地調査
※ 平成18年度: 設置環境整備(基礎工事など),震源装置の移設,試験運転
※ 平成19年度~20年度: 受信用アレイ地震計の設置と連続運転による変動検出
2台のアクロス震源装置の発振信号の位相と振幅とを独立に制御して震源のフェイズド・アレイを構成し,振動の伝播方向を制御する技術(ビーム・フォーミング)の検討のため,震源を中心に半径1キロメートルの円周上に地震計を配置し,送信パラメータを変化させて2ヶ月程度の観測を行う.フェイズド・アレイの効果を確認できれば,震源の送信設計を行うと共にデータ処理手法を確立する.三河観測所のネットワーク整備と連携した,遠隔モニタリング,遠隔操作のシステムの構築を引き続き進める.
それぞれ平成17年(2005年)に約10ヶ月間,平成18年(2006年)に約6ヶ月間実施した,愛知県新城市(旧鳳来町)の「愛知県民の森」おける地震計アレイによるオフライン連続観測の結果,アクロス信号が高い安定性を保っていること,アレイ観測に再現性があることが確認された.また,センブランス解析により検出された各波群はアクロス信号であることが確認された.平成19年度にはアレイ観測を実施しなかったため,平成20年度に再度同様なアレイ観測を実施する.
既存の定常地震観測網を用いた長期モニタリング実証試験を行うために,中部地方における名古屋大学およびHi‐netの連続地震波形データの収録を継続すると共に,解析を行う.特に,アレイ観測を実施している鳳来(N.HOUH)ではすでに15ヶ月の連続記録の解析を行っており,これを延長して長期に渡る伝達関数の変動を調べる.図3に示すように,この地域にはアクロス震源が3ヶ所で稼働しており,共同研究を実施している他機関との共同で解析を進める.
次期計画での実施に向け,火山地域におけるアクロスによる火山活動および噴火準備過程のモニタリングを行うため,火山地域における低周波数地震波信号の伝達効率,低周波数送信が可能な震源についての基礎的研究に着手する.
2台のアクロス震源装置の発振信号の位相と振幅とを独立に制御した震源のフェイズド・アレイ実験を実施した.震源を中心に半径約800~1200メートルの円周上に8点の地震観測点を設置し,3月から5月にかけて2ヶ月間の観測を行った.観測点付近の地形や標高差の影響もあり,採用した単純な解析方法では当初予想されたほどのフェイズド・アレイの効果が確認できていないため,データ解析の見直しを行い高度化を進めている.
三河観測所のアクロス震源装置は6月~8月に制御系の故障と停電,回転装置の不具合解消のため停止したが,それ以外はおおむね順調に稼働した.現在,2台の震源装置はそれぞれ10.01±5
Hz,15.01±5 Hzの周波数で連続稼働している.三河観測所のネットワーク整備と連携した,遠隔モニタリング,遠隔操作のシステムの構築は現在も継続して行っている.
図1: 三河観測所を中心とした観測点の配置
(Photo by Google)
現在東海地域ではアクロス震源が3ヶ所(土岐,森町,豊橋)で稼働しており,共同研究を実施している他機関とも共同して研究を実施している.
平成17年(2005年)に約10ヶ月間,平成18年(2006年)に約6ヶ月間実施した,愛知県新城市(旧鳳来町)の「愛知県民の森」おける地震計アレイによるオフライン連続観測のデータの再解析を実施し,アクロス信号と地表地震計アレイ観測に高い再現性と安定性があること,センブランス解析により検出された各波群はアクロス信号であることが確認された.また,構造モデルからの推定によりプレート境界からの反射波と解釈された到達時刻14秒付近の波群がアクロス震源の方向から小さい入射角で到来しており,深部からの反射とする解釈と矛盾しないことが確認された.今年度9月から同じ「愛知県民の森」において,地表地震計11点からなるアレイ観測を実施している(次年度まで継続する予定).
既存の定常地震観測網を用いた長期モニタリング実証試験を行うために,中部地方における名古屋大学観測点およびHi‐netの連続地震波形データを収録している.特に,アレイ観測を実施している鳳来(N.HOUH)ではすでに約2年の連続記録の解析を行っており,以下の結果を得た.
図2: 地震計アレイおよびHi‐netで観測された土岐アクロス信号の伝達関数.(左)震源から到来する方向のセンブランス.(中)到達時刻14秒の波群の到来方向.(右)その波群の到達時刻の長期時間変動
4月~9月にかけて東京大学地震研究所などとの共同研究により,静岡県掛川市から岐阜県瑞浪市にかけて臨時地震観測を実施した.これによりこの地域の地下構造情報が得られ,地下構造モデルの構築や伝達関数の解釈が大きく進むと考えられる.また,10月から気象研究所と共同で愛知県豊田市において,主として森町アクロス震源の伝達関数の波群同定を目的として地震計アレイ観測を実施している.
アクロスによる火山活動および噴火準備過程のモニタリングは次期計画から本格的に実行する計画であるが,その基礎的検討のため,直線型加振機の性能評価実験,伝達関数の時間変化から火山内部構造の変化を再構成するモデル計算などの基礎研究に着手した.
生田領野, 國友孝洋, 羽佐田葉子, 山岡耕春, 渡辺俊樹, 地震波ACROSS震源アレイを用いた弾性波信号の干渉実験,
日本地球惑星科学連合2008年大会, S144‐P005, 2008.
Yamazaki, K., Watanabe, T., Hasada, Y., Furukawa, T., Yamaoka, K., Nakamichi,
H. and Ikuta, R., Analysis of ACROSS signal from Toki using Horai seismometer
array in 2006, 第7回アジア国際地震学連合(ASC)総会・2008年日本地震学会秋季大会合同大会,
Y3‐222, 2008.
Furukawa, T., Watanabe, T., Hasada, Y., Yamaoka, K., Yamazaki, K. and Ikuta,
R., Time variation of wave phases of 2 years of ACROSS continuous transfer function
observed at Hi‐net Hourai station, 第7回アジア国際地震学連合(ASC)総会・2008年日本地震学会秋季大会合同大会,
Y3‐223, 2008.
Yamaoka, K., Watanabe, T., Ikuta, R. and Kunitomo, T., Temporal variation
of seismic propagation property by ACROSS system, Eos Trans. AGU, 89(53),
Fall Meet. Suppl., Abstract S51E‐06, 2008.
Hasada, Y., Watanabe, T., Yamaoka, K., Fujii, N., Kumazawa, M., Simultaneous
Near‐Field Monitoring During Active Monitoring by seismic ACROSS, Eos Trans.
AGU, 89(53), Fall Meet. Suppl., Abstract NG51A‐1199, 2008.
アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証実は本課題の中心的研究課題であったが,以下のような成果を得た.
このように,監視を行うための主要な課題は達成されたと考える.
また,東海地震の震源域である静岡県西部および愛知県東部をターゲットとして観測を実施するために,愛知県豊橋市にある名古屋大学三河観測所の構内に2台のアクロス震源装置を移設した.これにより東海監視を行う準備が整ったとともに,震源アレイなどの基礎研究が実施できる環境が整った.
山岡耕春,渡辺俊樹,羽佐田葉子,古川俊之,山崎賢志ほか
他機関との共同研究の有無: 有
静岡大学(藤井直之ほか5名),東京理科大学(佐伯昌之),気象庁気象研究所(吉田康宏ほか3名)
部署等名:名古屋大学環境学研究科附属地震火山・防災研究センター
電話:052‐789‐3046
URL:http://www.seis.nagoya‐u.ac.jp/
研究開発局地震・防災研究課