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2.地殻活動の予測シミュレーションとモニタリングのための観測研究の推進

(2)「地殻活動モニタリングシステムの高度化」研究計画

   日本列島全域の地殻活動モニタリングは、政府の地震調査研究推進本部が策定した基盤的調査観測としての地震及びGPS観測網により行われ、今日では、その観測データ及び解析結果は広く公開されている。モニタリングシステムによって得られるデータは、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築やシミュレーション結果の検証において必須なものである。また、過去のデータとともに日本列島地殻活動情報データベースとして整備されることにより、大地震発生時の即時対応等にも活用できる。列島規模の広域のモニタリングシステムだけでなく、想定東海地震震源域や想定東南海・南海地震震源域等、大地震の発生が予想される特定の地域における地殻活動モニタリングの高度化も重要である。
 本研究計画では、関連研究者の連携のもと、モニタリングシステム高度化のために、新たなモニタリング手法の研究開発、既存のモニタリング手法の改善、既存の観測網やデータ流通網等の整備や改善、地殻活動モニタリングに有用なその他諸観測の整備等を実施している。また、特定の地域においては更に高密度かつ多項目の観測を実施している。

ア. 日本列島域
  (地殻変動データによる地殻活動モニタリングシステムの高度化)
 基盤的GPS観測網GEONETによる日本列島の広域地殻活動モニタリングを実施しており、そのデータは広く公開されて多くの研究者に活用されているとともに、解析結果は、地震調査研究推進本部地震調査委員会や地震予知連絡会等の重要な検討資料となっている。これに加えて、VLBI測量、高精度三次元測量(水準測量)、高度地域基準点測量(GPS測量)等を実施しGEONETによる観測データを補足する詳細な地殻変動情報を提供している(国土地理院[課題番号:6001、6008、6009]、国土地理院,2005a、国土地理院,2006a、国土地理院,2006g、国土地理院,2006h)。
  GEONETの1秒毎のデータがリアルタイムで取得可能になったことから、短時間で地殻変動を検出できるリアルタイム地殻変動監視システムを開発し、その解析結果を電子国土Webシステムに重畳して利用可能にした(今給黎・ほか,2005)。この結果、電子基準点の変動がリアルタイムで追跡可能になり、変動図やモデル図が迅速に他のデータと重畳して利用可能になった(国土地理院[課題番号:6006])。
 沿岸や離島のGPS観測についてもデータ利用が進められており、平成17年度は、2004年(平成16年)紀伊半島南東沖の地震(マグニチュード7.1、マグニチュード7.4)による銭洲の地殻変動方向の変化(図42)や、2005年(平成17年)福岡県西方沖の地震(マグニチュード7.0)に伴う地殻変動等について、観測されたデータを解析し地震予知連絡会等に公表している(海上保安庁[課題番号:8005]、海上保安庁,2006)。
  GEONETデータを用いた地殻変動モニタリング手法の高度化のため、これまで用いられてきた状態空間モデルに基づく断層滑り速度の推定手法の改良を行った。従来の手法では、滑り速度が時間的に滑らかに変化することを規定する超パラメータを定数と仮定していたが、新しい手法では超パラメータの時間変化を許すことにした。開発した新手法を2003年(平成15年)十勝沖地震(マグニチュード8.0)の余効変動に適用した結果、十勝沖地震直後の余効滑り速度は従来の手法によって得られた滑り速度に比べて顕著に大きいことが示された(図43)。また、房総沖ゆっくり滑りにおける滑り速度の時空間変化では、従来の手法に比べはるかに明瞭に推定することができた(東京大学地震研究所[課題番号:1413]、Fukuda,2005)。
 広域応力場をモニタリングする手法として、応力の逆解析法と微小地震活動度を併せて広域応力場を推定する手法が開発された。それを日高山脈地域に適用したところ、浦河町の海岸付近と沖合の2か所に特徴的なパターンが現れ、沖合では上下方向に圧縮力を受けていること等が推定された(図44)(北海道大学[課題番号:1009])。

(地震観測データによる地殻活動モニタリングシステムの高度化)
 地震活動度の変化と応力変化を関連付ける手法を、2003年十勝沖地震により北海道の内陸地方で誘発された地震活動に適用した。その結果、地震活動度の変化と応力変化を関連付けるパラメータを見積もり、さらに、応力の増減が地震活動の変化から推定可能であることを示した(図45)(気象庁[課題番号:7004]、前田,2005a,b)。
 基盤的高感度地震観測網Hi-netと基盤的強震観測網K-NETの高度化により効率的なデータの収集と処理が実現され、これらのデータをモニタリングすることによって、日常的な地殻活動に対する監視能力が飛躍的に高まった。その結果、深部低周波微動と短期的ゆっくり滑りの関連性や、その時空間分布の推移に関する詳細な知見が得られるとともに(Hirose and Obara,2005、Obara and Hirose,2006)、海溝近傍で発生する超低周波地震活動の特徴等が明らかになってきた(図46)(防災科学技術研究所[課題番号:3007])。
 日本の地殻内で発生する地震については、地震発生層の上限と下限の空間分布を1997年10月〜2003年9月までの一元化震源を用いて調査し、地殻内地震発生域の地域的な特徴を示した(気象庁[課題番号:7004])。
 震源決定精度の向上のため、御前崎の海底地震計の堆積層補正の補正値を検討し、補正値の導入による海域の震源決定精度の改善効果を評価した。また、初動発震機構解決定のため、自動処理を導入し業務の効率化と決定能力の向上を図った(気象庁[課題番号:7005、7006])。

(地殻活動モニタリング高度化に資する諸観測の実施)
 地下水位と地殻歪との関係を明らかにし、地殻活動モニタリングの高度化を行っている。2004年(平成16年)インドネシア・スマトラ島沖大地震(マグニチュード9.0:米国地質調査所)に伴う日本における地下水変化をボアホール歪計記録等と比較解析することにより、地球を周回する表面波に伴う体積歪変化によって生じた水圧変化を検出した(図47)(産業技術総合研究所[課題番号:5009]、京都大学防災研究所[課題番号:1810]、Kano and Yanagitani,2006、Kitagawa et al.,2006)。
 日本列島域における地磁気基準点(柿岡、女満別、鹿屋、父島)の観測を継続的に実施するとともに、地磁気変化観測装置の精度向上を進めた(気象庁[課題番号:7003]、生駒・他,2005)。また、全国11点の地磁気連続観測を実施するとともに、10点の地磁気連続観測点及び3点の一等磁気点で絶対観測を実施した(国土地理院[課題番号:6003]、Shirai et al.,2005、Ji X et al.,2005、紀・ほか,2005、国土地理院,2005d)。伊豆諸島(八丈島)における地磁気全磁力、地磁気三成分の連続観測を実施した(海上保安庁[課題番号:8006])。
 御前崎を含め全国4か所で絶対重力観測を実施した(国土地理院[課題番号:6013]、国土地理院,2006d)。
 全国25験潮場で潮位連続観測(30秒間隔)を実施し、毎時潮位、日平均潮位、月平均潮位等のデータをホームページで公開するとともに、30秒値等のデータを即時公開できるようシステムを改良した(国土地理院[課題番号:6007]、国土地理院,2004、国土地理院,2005c)。また、別の全国28か所でも潮位観測を引き続き実施し、リアルタイム験潮データとしてホームページで公表した。2005年(平成17年)宮城県沖の地震(マグニチュード7.2)による津波と2006年(平成18年)の鳥島近海の地震津波による潮位変化の記録が示された(海上保安庁[課題番号:8004])。気象庁では全国69か所の検潮所で潮位の連続観測を行い、観測結果をホームページ及びCD-ROMで公開した(気象庁[課題番号:7007])。

イ. 東海地域
   大地震の発生が予測されている東海地域においては、列島規模のモニタリングに加えて、より高度化された地殻活動モニタリングのための研究開発が実施されている。
 2000年後半頃に始まった浜名湖付近の長期的ゆっくり滑りについて過去の傾斜変動、地震活動記録を遡ることで、このゆっくり滑りがほぼ10年の間隔をおいて繰り返してきたものであることを示した(松村,2005)。さらに、2005年7月に愛知県東部において低周波微動に伴うゆっくり滑りがあったことを検知し、過去の繰り返しの推移を明らかにした(防災科学技術研究所[課題番号:3008]、Hirose and Obara,2006)。
 国土地理院のGPSデータから、2004年9月5日の紀伊半島南東沖の地震後から2004年末にかけて、紀伊半島東部から東海、中部地方の範囲において南向きの水平変位を見いだした。そして、この変位が地震の余効滑りとしてほぼ説明できること、この変位を取り除けば紀伊半島南東沖の地震後も浜名湖下の(長期的)ゆっくり滑りは依然として継続していたことを明らかにした(気象庁[課題番号:7008]、小林・他,2005)。
 東海地域における地殻変動監視機能の検知能力向上のために、防災科学技術研究所の傾斜計及び国土地理院の傾斜計・三成分歪計について、ノイズレベル調査を行った結果を反映し、異常監視を開始した。また、三成分歪計については、柿岡のリアルタイム地磁気データを用いて、オンライン地磁気補正を開始した。これによって三成分歪計の信号/雑音比が向上し、より微小な地殻変動の検知が可能になった。2005年7月及び2006年1月に発生した短期的ゆっくり滑りにおいて、隣接する観測点同士の同時異常監視が現象の早期発見及び把握に極めて有効であることが確かめられた(気象庁[課題番号:7007])。
 地下水位観測では、東海の主要7観測点について、気圧変化に対する水位変化の周波数特性を求め、地下水位観測による東海地震の前駆滑り検出能力を取りまとめた(松本・北川,2005)。また、最新の観測データの公開(産業技術総合研究所、2006)、過去の地震前後における地下水変化事例のデータベース化を進めた(産業技術総合研究所[課題番号:5009]、産業技術総合研究所,2006)。
 繰り返し水準測量は、森−掛川−浜岡−御前崎検潮所間の路線で4回実施し、東海地域の他の路線、伊豆、南関東地域においても実施した(国土地理院[課題番号:6011]、国土地理院,2005b、国土地理院,2006f)。御前崎においては800メートル深井戸の歪計・傾斜計・長距離水管傾斜計等の連続観測の実施、切山観測点では長距離水管傾斜計、館山では水晶管伸縮計・水管傾斜計の連続観測を実施するとともに、計測機器を更新した(国土地理院[課題番号:6012]、国土地理院,2006e、国土地理院,2006f)。
 これらのデータを総合して直前過程の把握に活かすために、三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーションを実施し、想定震源域近傍で地震が発生した場合の影響の幅等を求めた。(気象庁[課題番号:7008]、青木・他,2005)。

ウ. 東南海・南海地域
   東南海・南海地域では、巨大地震発生域である固着域の深部側で深部低周波微動及び間欠的ゆっくり滑りが発生し、固着域の浅部側では間欠的に超低周波地震が発生している。これらは、プレートの沈み込む過程を反映するものと考えられることから、これらのモニタリングを高度化し、その相互関係等を解明し、プレート境界域における歪・応力集中機構を明らかにしていくことが重要である。
 南海トラフ沿いで発生する超低周波地震について、防災科学技術研究所のHi-netに併設されている高感度加速度計水平動成分(傾斜計)及びF-net観測波形記録を用いCMT解を求めた結果、震源の深さは非常に浅く、発震機構は高角の傾斜角を持つ逆断層であることが推定された。したがって、これらの地震のほとんどは、トラフ陸側に厚く堆積する付加体内部で発生していると考えられ、反射法探査等から明らかになっている付加体内部の逆断層の発達とも整合する。2004年9月5日の紀伊半島南東沖の地震の発生後、同震源域において超低周波地震が活発化したが、通常の地震活動とは棲み分けしているようにも見える(図48a)。また、超低周波地震の発震機構解は逆断層であり、その断層面の走向は大局的には南海トラフに平行であるが、詳細に見ると海底地形の等深線によく一致している。さらに、陸側に向かって傾き下がる面を逆断層面だとすると、海溝軸より陸に向かうに従って、その傾斜角は次第に高角になる(図48b)。これは、付加体内部の断層や分岐断層の幾何的形状ともよく合い、付加体内部での応力状態を反映したものと考えられる(防災科学技術研究所[課題番号:3009]、Ito and Obara,2006、Obara and Ito,2005)。
 東南海地域のプレート形状に対して、変換波の波形解析等の新情報に基づいて、従来モデルと代わる新しいモデルを提示した(図49)(防災科学技術研究所[課題番号:3008]、Shiomi et al.,2006)。
 平成15年度より東南海・南海地震の想定震源域において実施している海底地震観測は、平成17年度に長期観測型海底地震計を入れ替え、23観測点による地震観測を実施した。これまでの解析から、海域に発生した地震の震源決定は、陸域の観測網だけでは特に震源の深さ分解能が不足していることが明らかになった。気象庁一元化震源で深さ30〜40キロメートル付近に分布する潮岬沖の地震活動は、海底地震観測の解析により、実際は深さ20〜30キロメートルで発生していることが明らかになった。これらの地震は沈み込むフィリピン海プレート地殻からマントルで発生していて、プレート上面の地震活動は見られない(図50a)。また、南海トラフ沿いの微小地震活動は他の地域に比べて地震活動度が低い。2004年紀伊半島南東沖の地震も、自己浮上式海底地震計及び長期観測型海底地震計による観測を行った結果、前震・本震が海洋性プレート上部マントル内で発生していたこと、及び余震の震源が二群(海洋性地殻内及び海洋性上部マントル内)に分かれていたことが明らかになった(図50b)(東京大学地震研究所[課題番号:1415]、Sakai et al,2005a、b)。
 地殻変動に関しては、紀伊半島先端部及び室戸岬周辺で水準測量を実施した(国土地理院[課題番号:6014]、国土地理院,2006b、国土地理院,2006c)。

エ. その他特定の地域
   大地震の発生が予測されているその他の特定の地域においても、列島規模のモニタリングに加えて、より高度化された地殻活動モニタリングのための研究開発が実施された。

(宮城県沖地震の震源域)
 宮城県沖においては、長期繰り返し海底地震観測を平成14年度以来行っている(東北大学[課題番号:1206]、東京大学地震研究所[課題番号:1416]、気象庁[課題番号:7010])。2005年8月16日に宮城県沖で発生したマグニチュード7.2の地震はこうした海底地震観測網の直下で発生した。地震の詳細については既に1.(2)「地震発生に至る準備・直前過程における地殻活動」研究計画で扱ったのでここでは省略する。図51は、本震の震央に近い5点の海底地震計のデータと陸上観測点のデータとを併合して決定した本震及び余震の震源分布である。多くの余震は本震の震央の周囲20かける25キロメートルの範囲のプレート境界面と考えられる面上に集中して発生している。この活発な余震活動の範囲は、本震の地震波形から推定された破壊域の広がりとよい一致を示す(Hino et al., in press)。
 この地震に伴って本震直後から余効的な地殻変動がGPSによって観測されている。この余効変動がプレート境界面上のゆっくり滑りであると仮定し、その分布を逆解析により推定した結果を図52に示す。本震時の滑り量分布(図52a)と比較して、余効滑り分布の中心は本震の破壊域の南隣に位置しており、地震時滑りとほとんど重なっていない(図52b)。推定された余効滑りのモーメント解放量は1.9かける10の19乗Nm(ニュートンメートル)かっこMw(モーメントマグニチュード)6.8)であり、本震による解放量の20〜30パーセントに相当する。2005年(平成17年)12月2日に発生したマグニチュード6.6のプレート境界地震の発生後にも余効変動が観測され、求められた滑り分布は、本震直後のものと概ね一致する(図52c)。また、1978年(昭和53年)宮城県沖地震(マグニチュード7.4)震源域の北側のプレート境界で2002年11月3日に発生した地震(マグニチュード6.3)の後にも、わずかながら余効変動が観測され、滑り域は1978宮城県沖地震震源域の北側に分布することが分かった(図52d)(Miura et al.,2006)。
 相似地震データによるプレート間滑りのモニタリングでは、自動処理手法の改良により、平成17年4月以降、安定して相似地震の抽出が行われるようになった(図53)。2005年8月16日に宮城県沖で発生したマグニチュード7.2の地震の周辺について、本震の直後に1群の相似地震が活発化した他は、この地震以降に顕著な相似地震の増加は見られなかった。このことから、相似地震解析に用いられているマグニチュード2.5の地震の滑り量(約10センチメートル)を大きく超えるような余効滑りは発生していないと考えられる。この結果はGPSデータの解析結果とも調和的である(Okada et al.,2005)。
 以上を総合すると、2002年11月以降の地震活動によって1978年のアスペリティ周辺のプレート境界上では非地震性滑りが発生している一方で、その大部分は依然として固着状態にあり、次の宮城県沖地震発生の準備過程にあると考えられる(東北大学[課題番号:1206])。
 平成16年度「パイロット的な重点的調査観測」で実施した大規模人工地震構造調査の解析を進め、深さ50キロメートルまでの海底下構造を明らかにした。この結果、沈み込む太平洋プレートは、海溝軸から陸寄り約140キロメートルの地点で急に深く沈み込むことが明らかとなった。1978年と1981年の地震のアスペリティは、折れ曲がり部分を挟んでそれぞれ太平洋プレートの沈み込み角度が大きい部分にあり、アスペリティの分布は沈み込む海洋プレートの形状と関係する可能性がある(東京大学地震研究所[課題番号:1416]、Watanabe et al.,2005)。
 平成17年5月19日から7月5日にかけて想定宮城県沖地震の震源域周辺に自己浮上式海底地震計を展開して観測を行った。陸域観測点の一元化検測値と併合処理した結果、震源分布が集中し、太平洋プレート上面に沿った地震活動が精度良く把握できた(気象庁[課題番号:7010]、山本・他,2005)。
 測量に関しては、牡鹿地区で水準測量を実施した(国土地理院[課題番号:6014]、国土地理院,2006b、国土地理院,2006c)。

(糸魚川−静岡構造線の震源域)
 糸魚川−静岡構造線の震源域においては、パイロット的な重点調査観測の下に、平成14〜16年度に、地震活動や地下構造調査、地殻変動調査等を実施した。そのデータを解析した結果、糸魚川−静岡構造線の構造が、諏訪湖を挟んで北と南で大きく異なり、諏訪湖の南側の富士見地区で、深さ10キロメートルまでの地殻構造が明らかになった(Panayotopoulos et al.,2005)。また、活動度の高い活断層の周辺でも、断層活動に直接関係付けられる微小地震活動は小さいことが分かった(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 2005年10月から11月にかけて、対象地域におけるGPS繰り返し観測を実施した。過去5年間の観測結果から、この地域の地殻変動速度を推定し、その分布から変形の集中する領域の存在等を確認した(国土地理院[課題番号:6016]、国土地理院ほか、2006)。

(南関東とその周辺域、伊豆半島東部)
 南関東とその周辺域においては、平成15年度に房総半島に集中して設置した多数の地震計(地震計アレイ)によって、房総半島周辺の地震活動をモニターする手法を開発した。トモグラフィ法によって調べた関東直下のフィリピン海プレートの形は、反射法による構造(Hirata et al.,2005、Sato et al.,2005)と大局的には矛盾のない結果が得られたが、房総半島ではプレート上面がやや深いことが分かった(Hagiwara et al.,2006)。この成果を用いて、地震活動のモニタリングの精度を向上させることが出来るようになった(東京大学地震研究所[課題番号:1416])。
 関東においては、相似地震解析、地震波速度構造解析、地震活動・発震機構解析等を行い、プレートの構造と運動の詳細を解明した。特にフィリピン海プレートの上面形状の改訂を行い、また、固着状況の地域性を解明した(Kimura et al.,2006)。また、微小地震活動の時空間変化から地震発生前の応力分布状況の動きを察知することで中規模地震の発生確率の高まりを知らせるリアルタイム表示システムの開発を進めてきたが、2005年(平成17年)7月23日千葉県北西部の地震(マグニチュード6.0)発生前に震源付近で確率の異常な高まりがあることを検知した(防災科学技術研究所[課題番号:3008]、Imoto,2005)。

(日本海溝・千島海溝周辺)
 青森沖(三陸沖北部)において開始した18観測点による繰り返し長期海底地震観測は、平成17年10月に回収し、平成17年12月から根室半島沖での観測を開始した。青森沖での観測は約7か月間であり、震源決定は一部終了した(東京大学地震研究所[課題番号:1415])。
 北海道東部に5点、牡鹿半島沖の網地島に1点のGPS連続観測点を設置した。2005年8月16日に発生した宮城県沖の地震の地震時の地殻変動及びその後の余効変動について、原因となるプレート間滑りの時空間的広がりを地殻変動観測データから解明した。また、2003年十勝沖地震以降の北海道東部の地殻変動の推移を詳細に解析し、本震の震源域周辺から徐々に東方(厚岸・釧路沖)に拡大した余効滑りが、2004年末の釧路沖の二つのマグニチュード7級地震を誘発した可能性を指摘した(国土地理院[課題番号:6023]、国土地理院,2005a、国土地理院,2006a、国土地理院,2006b、Murakami et al.,2006、村上・他,2005)。

(その他)
 深部低周波微動の波形の中から特定の位相の到着時刻を読み取るのは往々にして困難な作業であり、これが深部低周波微動の検出と震源決定を難しくしている理由の一つである。走査型震源決定法を用いて、深部低周波地震の震源分布を推定することを試みた。この方法の特徴は、低周波微動波形中の特定の位相の同定をあらかじめ行う必要がなく、計算機による地震検出の自動化が容易なことである。ここでは、鳥取県西部地域の低周波地震を例に、本手法の有効性を確かめることを試みた。図54(a)に用いた低周波微動の波形例、図54(c)にこの微動について求められた震源尤度の分布を示す。震源尤度の大きな領域が震源域を表すと考えられている。従来の震源決定手法に求められた震源位置(図54(b))とほぼ同様の点が震源尤度最大の点として推定されることが分かった。なお、本手法は、想定以上に計算機能力を必要とすることが判明したので、新たに計算機の増強を図った(京都大学防災研究所[課題番号:1809]、大見・Honn,2005)。

課題と展望
   平成17年度は、地殻変動データによるモニタリングの高度化が進展した年であった。GEONETのリアルタイム地殻変動監視装置が開発され電子基準点の変動がリアルタイムで追跡可能になりリアルタイムGPS測量によるモニタリングの高度化に期待が寄せられる。さらに、GEONETデータを用いたプレート境界上のゆっくり滑りの推定精度の向上のための手法改良、応力逆解析法と微小地震活動度を併用した広域応力場のモニタリング手法の開発、レーザー干渉計を用いた新しい地殻変動観測手法の開発、地下水位・水圧変化による地殻変動モニタリングの高度化の進展等が成果として示された。平成16年度に進展した地震データによるモニタリングの高度化とともに、プレート境界におけるモニタリング手段が充実してきたと言えよう。こうして、2005年宮城県沖の地震の発生の際には、1978年のアスペリティの大部分が依然として固着状態にあり、その周辺のプレート境界上ではゆっくり滑りが発生しているという極めて明確な情報発信を行うことができたと言えよう。
 モニタリングデータは、地殻活動予測シミュレーションモデルの構築やシミュレーション結果の検証に利用されることで、更に予測の精度向上に寄与するものである。このため、モニタリングの手法の開発だけでなく、モニタリングによって得られたデータを、地殻活動予測シミュレーションのモデルの構築やシミュレーション結果の検証等に活用する段階へと進むことが必要である。そこで平成17年11月10日〜11日にかけて、関連の研究者による研究集会「地殻活動データに基づく予測シミュレーションモデル構築に向けて」を開催し、研究発表と意見交換、今後の共同研究の推進等を討論した。今後このような研究会を通じて、モニタリングとシミュレーションのより密接な関係を築いていくことが重要であろう。

参考文献
 

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図42: 銭州のユーラシアプレート安定域に対する水平変動:平成15年6月〜17年8月に実施した5回の観測結果から、プレート運動に伴う銭州の定常的な動きの向きが、平成16年後半以降やや北寄りに変化したことを検出した(海上保安庁[課題番号8005]、海上保安庁,2006.)。



図43: 2003年十勝沖地震後3日間の滑り速度の時空間変化。(a):新手法により推定された滑り速度。(b):従来の手法から推定された滑り速度。新手法によれは、十勝沖地震直後の余効滑り速度は従来の手法によって得られた滑り速度に比べて顕著に大きい(東京大学地震研究所[課題番号:1413])。



図44: 北海道日高地域の広域応力場のモニタリング:深さ30キロメートルにおける法線応力(Sxx、Syy、Szz)とせん断応力(Sxy、Syz、Sxz)の空間分布。東西方向がX軸で東が正、南北方向がY軸で北が正、鉛直方向がZ軸で下向きが正である。法線応力は伸張が正、圧縮が負である。静岩圧係数aイコール1.0、実効摩擦係数uイコール0.5と仮定した。法線応力成分は静岩圧Pを差し引いた値を示した(北海道大学[課題番号:1009])。



図45: [上図]2003年十勝沖地震によるクーロン応力の変化。震源断層モデルは国土地理院(2004)による1枚の断層モデル、レシーバ断層は北70度東の走行を持つ鉛直右横ずれ断層を仮定。領域A〜Dは地震発生後に地震活動が顕著に活発化した領域。[中図]領域Aにおける地震回数の積算データ(青線)と地震活動を三つの改良大森式で近似したときの地震発生率変化(緑線)と回数積算(水色線)。[下図]十勝沖地震による地震活動のステップ応答から求めたパラメータを用い、中図の地震発生率変化から推定した応力の時間変化(気象庁[課題番号:7004])。



図46: 深部低周波微動に同期した短期的ゆっくり滑りによる地震モーメント解放の時空間分布。上:位置図。下:時空間分布図。各矩形の縦軸の長さは(滑り量スラッシュプレート間相対速度)を表す。帯の色の違いは、それぞれのイベントの違いを表す(防災科学技術研究所[課題番号:3007])。



図47: インドネシア・スマトラ島沖大地震(マグニチュード9.0:米国地質調査所)による表面波(レイリー波、下図)と安富北観測点の地下水圧変化(上図、200から500秒のバンドパスフィルターをかけている)(Kitagawa et al.,2006)(産業技術総合研究所[課題番号:5009])。



図48: (a)紀伊半島南東沖の地震とその余震及びその後に活発化した超低周波地震のCMT解。(b)超低周波地震の逆断層面の傾斜角。左下の赤丸は紀伊半島南東沖、青三角は日向灘における結果であり、いずれも海溝軸から陸側に向かって遠ざかるにつれて、傾斜角はより大きくなる(防災科学技術研究所[課題番号:3009])。



図49: 変換波の波形解析に基づく速度不連続面の推定等の新情報に基づく、東南海地域のプレート形状の新しいモデル(防災科学技術研究所[課題番号:3008])。



図50: (a)紀伊半島潮岬沖で観測された微小地震の断面図。気象庁一元化震源(水色)に対する海底地震計(OBS)による震源(赤)。灰色は1997年〜2005年の気象庁一元化震源。
(b)2004年紀伊半島南東沖の地震の断面図。海底地震計で決めた余震(灰色)を基準にして、海底地震計設置前の余震も震源再決定した(色は深さを表す)。その結果、2群に分かれている余震の中で本震(青色星印)や前震(桃色星印)は深い方の余震群(上部マントル内)に位置することが分かった(東京大学地震研究所[課題番号:1415])。



図51: 海底地震計のデータを加えて再決定された2005年宮城県沖の地震の本震及び余震の震源分布。a)震央分布。本震の震央を星印で示す。灰色及び黒丸は、余震(本震発生から8月24日まで)の震央。絶対走時を用いて求めたものを灰色、DD法によって求めたものを黒丸で示す。白丸は震源決定に使用した観測点の位置。等値線は地震時滑り量分布。ただし、破壊の開始点が再決定された本震の震央に一致するように全体をシフトして表示している。b)本震及び余震の震源深さ分布。震源を示すシンボルはa)と同じ。点線は人工地震波探査により推定された主要な地下境界面の位置(Ito et al.,2005)。AM:島弧地殻のモホ面、PB:プレート境界面、OM:海洋性地殻のモホ面(東北大学[課題番号:1206])。



図52: 陸上GPS観測網のデータ解析により推定された2005年宮城県沖の地震の震源域周辺におけるプレート間滑りの空間分布。(a)8月16日の本震時の地震時滑り量分布。(b)本震後67日間の余効滑りの分布。(c)12月2日の地震(マグニチュード6.6)発生後25日間の非地震性滑り分布。(d)2002年11月3日の地震(マグニチュード6.3)後の非地震性滑りの分布。黒矢印:観測された水平変位ベクトル、灰色矢印:推定されたプレート境界上の滑り、白矢印:推定された滑り分布から計算された各観測点の水平変位ベクトル(東北大学[課題番号:1206])。



図53: マグニチュード2.5以上の地震波形データの解析により推定された2005年宮城県沖の地震の震源域周辺における1か月ごとの相似地震分布。解析期間は1984年7月〜2005年12月(東北大学[課題番号:1206])。



図54: 走査型震源決定法による低周波地震の震源推定の例
(a:左上)観測波形の例、(b:左下)観測点と気象庁による震源
(c:右)走査型震源決定法による震源尤度分布
(京都大学防災研究所[課題番号:1809])


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