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(0) 課題番号:1708
(1) 実施機関名:名古屋大学大学院環境学研究科
(2) 研究課題名
精密制御震源(アクロス)の実用化と地下の常時モニター手法
(3) 最も関連の深い建議の項目:3(3)地下構造と状態変化をモニターするための技術の開発と高度化
(4) その他関連する建議の項目
1(2)イ. 内陸地震発生域の不均質構造と歪・応力集中機構
2(2)イ. 東海地域
(5) 平成15年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要
 平成15年度までに、地殻を伝わる弾性波の伝播特性の時間変動を高い安定性の元に高分解能で測定するためのアクロス震源装置による実証実験を行ってきた。実験は、核燃料サイクル開発機構東濃地科学センターのアクロス研究グループと共同で行い、淡路島の野島断層近傍にある震源装置、岐阜県東濃地方の土岐市にある震源装置および岐阜県各務原市にある震源装置を用いた。
1. 送信信号を正確な時計へ同期する方法の確立
 アクロス震源装置を正確に長期間連続で運転するための技術のうち最も重要なものにFM変調(周波数スイープ)を正確な時計(GPS)へ同期するための震源の制御技術がある。このために特別なパルス信号発生装置を開発し、送信と受信側を直接の通信なしに同期させることが可能になった。
2. 15ヶ月連続観測の成功
 2000年1月から野島断層への注水実験にあわせて連続運転を開始し、2002年4月まで15ヶ月継続運転することができた。近傍に設置された深さ800メートルと1700メートルのボアホール地震計によって捉えられた信号は衛星テレメータを経由して名古屋大学で記録され、衛星テレメータシステムが有用であることがあわせて示された。
3. P・S波の走時時間変動の検出
 淡路島での15ヶ月連続運転の記録から100マイクロ秒を上回る分解能でP波およびS波の伝播速度を連続モニターした。開発上重要な課題として、震源装置近傍の地盤の時間変動の除去が重要であることが示された。アクロス・システムの優秀性を示す成果として、有感地震による地震波速度変動を十分な信頼性で検出した。この変動はS波の変化が特に大きいこと、また、S波の速度変化に異方性があり、速度変化が大きい方向が断層に直交することが明らかになった。
4. 地震計アレイ
 東濃の震源装置の信号を用いて地震波伝播特性の時間変動を検出するため、瑞浪の地殻変動観測豪に15点の地震計によるアレイを設置し、地震計アレイに関連した技術開発を行った。現在のところ気圧に相関した変化が検出されつつある。
(6) 本課題の平成16年度からの5ヶ年の到達目標と、それに対する平成16年度実施計画の位置付け
 本課題では、平成16年からの5ヶ年において、アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証実験に最も重点を置く。プレート境界面での固着の度合いにより地震波の反射強度が異なる可能性があることが観測や実験により示唆されている。本計画では、固着の時間変化によって反射強度が変化する可能性が高い東海地震の震源域に震源装置を設置し、その検出を試みる。設置候補地は2001年東海中部地殻構造探査実験の発破点が置かれた静岡県西部とする。理由は、実験によりプレート境界面からの反射波であると思われる非常に強い反射波が検出されていること、また、この地域は2000年からスロースリップが発生している地域であり、固着が変化しやすい場所であると考えられることである。具体的には以下の年次計画で行う。
  平成16年度:設置候補地調査および設置環境整備(基礎工事など)
  平成17年度:各務原で稼働中の震源装置を移設
  平成18年度:試験運転と受信用アレイ地震計の設置
  平成18年度後半〜20年度:連続運転による変動検出
また、本5ヶ年計画の後半から、次世代のアクロス送信として、数Hz帯の送信を目指した装置の改良、あるいはリニアモーション型の装置の開発を視野に入れた研究を開始する。
(7) 平成16年度実施計画の概要
 平成16年度には、アクロス震源装置と地震計アレイを用いたプレートからの地震波の反射係数の時間変動検出法の実証実験を行うために、以下の要素課題に着手する。
1. アクロス震源によるプレートからの反射波の検出
 2001年東海中部地殻構造探査実験の測線にほぼ沿った愛知県東部および静岡県西部のHi-net観測点の記録から、東濃のアクロス震源装置の信号がプレートで反射したと推定される強い波群が検出されている。そこで、Hi-net観測点を補完するとともに反射波を効率よく同定することが可能な測線を設けて観測点を展開し、アクロス震源によるプレートからの反射波が検出できることを確認する。この検討は次に述べる移設候補地の選定に当たって重要な情報となる。
2. 設置候補地調査および設置環境整備(基礎工事など)
 現在各務原に設置されているアクロス震源の移設地を選定する。設置候補地は愛知県東部または静岡県西部とする。用地選定後は平成17年度内に予定している移設のための基礎工事に着手する。
3. 震源関数推定手法の高度化
 深部での地震波伝播の時間変化を高精度で検出するためには、震源関数を正確に知るだけでなく、その時間変動も知る必要がある。そこで、震源だけでなく震源周辺の岩盤も含めて送信装置と考え震源関数を推定する手法を高度化する。震源装置周辺や浅部岩盤中に設置した地震計を利用してインバージョンを行い、周辺地盤構造とその時間変動を推定するとともに、震源と周辺岩盤とを含めた力学的モデルを作成し、震源関数の推定手法を確立する。
4. 地震計アレイによる検出法の高度化
 瑞浪の地殻変動観測豪に地震計アレイを設置し、深部からの反射波の検出精度の向上を目指した研究を行っており、この研究を継続するとともに、併設されている歪計・伸縮計・傾斜計・地下水位計などの記録との比較観測を行い、比較的浅部に原因があると推定している地震波伝播特性の変化の原因を具体的に特定するとともに、深部の変動に対するバイアスを除去する。
(8) 実施機関の参加者氏名または部署等名:藤井直之・渡辺 俊樹ほか5名程度
 他機関との共同研究の有無:
 東京大学地震研究所(2名)、核燃料サイクル開発機構東濃地科学センター(7名)、気象庁気象研究所(2名)
(9) 問い合わせ先
 部署等名:環境学研究科附属地震火山・防災研究センター
 電話:052-789-3046
 e-mail:
 URL:http://www.seis.nagoya-u.ac.jp


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