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(0) 課題番号:1410
(1) 実施機関名:東京大学地震研究所
(2) 研究課題名:高温高圧下における水−岩石系の物性と破壊・摩擦特性
(3) 最も関連の深い建議の項目:1.(4)イ.地殻・上部マントルの物質・物性と摩擦・破壊構成則パラメータ
(4) その他関連する建議の項目:1.(4)ア.摩擦・破壊提唱の物理・化学的素過程
(5) 平成15年度までの関連する研究成果(または観測実績)の概要
 温度・圧力・流体圧・歪み速度などの環境条件がせん断破壊構成則に与える影響を定量的に評価した。深さ10キロメートル(温度300ド以下)以浅の温度・圧力条件下では、花崗岩のせん断破壊強度は線形に増加するが、深さ10キロメートル以深ではせん断強度は減少し、破壊過程の安定性が深さ(主に温度)とともに増加した。実験後の試料観察により黒雲母と石英の塑性流動が、脆性破壊と徐々に混在化することで上記の変化が生じたことを示した。また、陸上付加体に存在する過去の断層帯周辺の岩石を用いて、高温高圧下でせん断破壊実験・透水率測定を行い、その結果に基づき、透水率の低い砂岩がキャップロックとなり、沈み込む堆積物から脱水する水がトラップされることで深部反射面(DSR)が形成されるというモデルを提唱した。
(6) 本課題の平成16年度からの5ヶ年の到達目標と、それに対する平成16年度実施計画の位置付け
 地震サイクル等の数値シミュレーションで説得力のある結果を提出するためには、確かな根拠に基づいて破壊・摩擦構成則のパラメータの分布を与える必要がある。構成則パラメータの温度・圧力依存性が明らかになってきたのは第1次新地震予知研究計画での大きな成果であるが、物質の違いなど未解明の要因が残っており、震源域のパラメータの値を推定できる段階には至っていない。最近、種々の構造探査により、Vp、Vs、比抵抗、Qなどが同一断面上にマッピングされるようになってきた。第2次新予知研究計画中には、更に高い精度で求められることが期待される。それら観測可能なVp、Vs、比抵抗、Qなどから、どのような物質がどのような状態にあり、どのような破壊・摩擦特性をもっているのか推定できるようになることを目指した、実験的・理論的研究を推進する。そのためには、室内実験によりVp、Vs、比抵抗などと、破壊・摩擦特性を様々な条件下で同時測定する(技術的に困難な場合は同一の物質を用いて同一の条件で、複数のパラメータを測定する)ことが必要である。間隙の形状や連結性に依存する物性パラメータは、温度・圧力を与えても一意に定まるとは限らないので、信頼のおける結果を得るには同時測定が有効である。また、Vp、Vs、比抵抗、Qなどは地殻中の水の状態に強く依存するため、間隙水の実態に関する研究、浸透率構造に関する研究なども併せて推し進める。
 プレート境界に蛇紋岩が存在する状況証拠が得られてきており、また、最近の実験的研究により、カンラン岩がわずかに蛇紋岩化するだけで強度が大きく低下すること、蛇紋岩の種類や岩石内部の水の状態によって摩擦特性が大きく異なること、などがわかってきた。したがって、まず主な3種類の蛇紋岩について、高温高圧下で様々な間隙水の条件下で物性パラメータを調べることが重要である。このような研究を通じ、プレート境界で棲み分けていると予想されるアスペリティや非地震性すべり領域の実体についての理解が深まるだろう。また、すべりモードの遷移が、部分的塑性流動や板状鉱物の存在によって起こっているのなら、そのような条件で発達しやすいマイロナイト的な組織の各種物性への影響を知る必要がある。
 さらに、素過程の解明には実験・理論研究に加えて、フィールド研究を組み入れることも重要である。フィールド調査の利点は、隆起・削剥を経て現在地表に露出する、震源域物質の変形にじかに触れることができる点である。これまでに多くの断層帯(あるいは付加帯)について、変形の機構、変形時の歪、応力状態などに関する重要な情報が抽出されている。室内実験と天然の変形を比較・検討し実際の震源域における素過程を明らかにしていく。
 「地震発生の素過程」自体が第2次新予知研究計画で新たに始まった項目であり、初年度にあたる平成16年度は、装置の整備、開発などに重点を置いて進める。
(7) 平成16年度実施計画の概要
 本計画は、室内実験によりVp、Vs、比抵抗などと、破壊・摩擦特性を様々な条件下で同時測定する(技術的に困難な場合は同一の物質を用いて同一の条件で、複数のパラメータを測定する)ことを目標としている。平成16年度は、東大地震研に設置されている高温高圧試験機で、Vp、Vs、比抵抗を測定できるように装置を改造する。高温高圧で間隙水存在下での岩石の比抵抗の測定は、200数十度を境に、それ以上になると急に技術的に難しくなる。電気抵抗測定の基本は、試料を絶縁して測定することであるが、その基本に従った測定ができなくなるからである。封圧をかけるときは、岩石試料に加圧液体(封圧媒体)が入り込まないようにジャケットで被覆して実験するが、絶縁ジャケットとして最も高温で使えるテフロンの使用最高温度は、200数十度である。それより高温では、薄い銅チューブなどの金属ジャケットを使わざるをえず、試料を電気的に絶縁できなくなる。そのような状態で測定するにはジャケットを流れる電流と試料内を流れる電流を分離するなどの様々な工夫が必要になってくる。
 大阪大と東大地震研で開発中のピストンシリンダー型超高圧発生装置を完成させ、花崗岩-水系、ハンレイ岩-水系、及び様々な含水量の蛇紋岩などについて、Vp、Vs、減衰係数の測定を開始する。
下部地殻における地殻変形と岩石-水の有効物性、破壊・摩擦挙動に対する水の影響を調べるため、東北大理や静岡大に設定されている装置を用い、高温高圧変形実験に基づく研究を推進する。
 一種の応力腐食割れ的な破壊現象であると考えられる熱水が誘起する破壊現象について、実験およびフィールド地質学的手法から検証・解明する。また、地殻中の流体は、溶解物などを考慮すると超臨界状態にある可能性が指摘されており、そのような条件での流体と破壊の相互作用を明らかにする。
 断層物質について、高速熱水摩擦試験機やガス圧式高温高圧変形・透水試験機を使った摩擦実験や、変形・透水実験を行なうことで、高速、高温、高圧下、あるいは熱水条件下における断層の摩擦特性、透水性などの性質を明らかにすることを目的とした研究を行なう。その際、変形組織観察などの断層調査を同時に行なって、実験で形成された変形組織と天然の組織を比較することで、例えば天然の断層で観察される変形組織に力学的意味付けを与える。
(8) 実施機関の参加者氏名または部署等名
吉田真吾、中谷正生
他機関との共同研究の有無:
東北大院環境科学 土屋範芳
東北大理 大槻憲四郎
富山大理 渡辺了
東大院理 田中秀美、清水以知子
静岡大理 増田俊明
京大院人間・環境学 加藤護
京大防災研巨大災害研究センター 川方裕則
京大院理 堤昭人
大阪大院理 佐藤博樹
JAMSTEC 加藤愛太郎
(9) 問い合わせ先
 部署等名:地震予知研究推進センター
 電話:03-5841-5712
 e-mail:
 URL:http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/index-j.html


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