深海地球ドリリング計画中間評価報告書について 概要

1.評価の対象

 深海地球ドリリング計画について、平成10年12月の航空・電子等技術審議会による事前評価を踏まえ、それ以降の本計画関係者の取組みについて中間的な評価を行った。

2.評価の実施体制と方針

 科学技術・学術審議会海洋開発分科会深海掘削委員会が評価を行い、報告書をとりまとめた。評価にあたっては、深海掘削委員会に設置した評価小委員会が報告書案を作成した。評価小委員会は、深海掘削委員会委員の中から深海地球ドリリング計画に直接的に関与しない委員によって構成され、「文部科学省における研究及び開発に関する評価指針」に基づき、評価に取り組んだ。

3.深海掘削の経緯

 深海掘削は1959年マントルへの到達を目標とする「モホール計画」の提唱を起源とし、米国によって取り組まれてきたが、1975年からは、米国主導の国際プロジェクトとなり、我が国も参加してきた。これまで深海掘削は、プレートテクトニクスの証明等地球科学の発展において重要な役割を果たした。2003年10月からは、統合国際深海掘削計画(IODP)が我が国と米国の主導によって開始された。

4.航空・電子等技術審議会による事前評価の確認

 航空・電子等技術審議会による事前評価(平成10年12月)の結果として、本計画は、科学的、技術的及び社会的意義が大きいものであることから、我が国が地球深部探査船「ちきゅう」を建造し、IODPを推進することとなった。今回の中間評価においては、この結果について、現在においても妥当であることを確認した。

5.事前評価後の深海地球ドリリング計画に対する評価

5.1.1 地球深部探査船に関する取組みについて

(1)「ちきゅう」の建造

 「ちきゅう」はライザー掘削方式等の採用によって、事前評価で適当とされた性能を満足する船となっている。今後、国際運用に向けて着実に準備を進め、さらに、科学者のニーズに応え、地殻とマントルとの境界を貫くため、機器開発及び運用技術の検討を行なっていくことで、水深4,000メートル級での大深度掘削の実現に向けて取り組むべきである。
 「ちきゅう」の建造については、我が国に技術力が蓄積するような建造形態を確保しつつ、適切な体制で建造されたと認められる。

(2)「ちきゅう」及び関連施設の運用環境

 「ちきゅう」の運用環境は、その艤装に携わり、十分な実績を有する国内外の会社の人材が配置されることにより、円滑な運用に必要な体制が備えられている。また、安全管理システムの導入、事前調査としての地質の把握等により、安全な運用のための総合的な体制が適切に構築されている。
 「ちきゅう」の船上研究支援体制の整備については、専門家の意見を反映しつつコアを適切に処理し、解析できるよう取り組まれている。高知大学海洋コア総合研究センターについても、IODP等により採取されたコアの適切な保存・解析に必要な整備が行われている。

5.1.2 IODPの構造と我が国の取組みについて

(1)IODPの意義

 IODPの科学目標は地球環境変動解明、地球内部構造解明及び地殻内生命探求を三大テーマとしたもので、我が国の国民の関心も高いと思われる地震発生機構等の理解を含めた地球と生命に関する広範囲な科学分野に大幅な前進をもたらすと考えられる。
 また、IODPで日米欧の複数の掘削船を用いることは、掘削の目的等に応じた計画的運用を可能とし、科学目標を効率的に達成するために適切な体制となっている。
 IODPにおける「ちきゅう」の運用により、地震発生予測及び緊急通報による地震防災、気候変動モデルの検証による将来予測の精密化等の科学的成果を用いた実用分野の発展が期待され、我が国の社会・経済に対する波及的効果も大きい。

(2)IODP主導国としての我が国の取組み

 IODPにおいて、日米は重要事項の決定について、同等に主導できることとなっており、IODPの枠組みの構築に係る取組みは評価できる。IODPを国際的なプロジェクトとして発展させることは、主導国である我が国の課題であり、今後も、積極的に諸外国に参加を働きかけるべきであるが、我が国の貢献に見合う科学的・技術的成果が十分に還元されるよう、戦略的に取り組むことも必要である。
 我が国は、「ちきゅう」及び海洋コア総合研究センターをIODPに提供することで、強くその存在をアピールできている。今後はこれらハードの活用を含むソフト面で参加各国をリードしていくことが重要である。
 我が国の研究者は関連会合に数多く参加しており、その活動は業績として高く評価されるべきである。今後は、会合においてより積極的に参加できる体制の確立及び会合への派遣の継続による人材育成が必要である。また、我が国の研究者がIODPの研究航海に参加し、共同首席研究者として活動していることは評価できる。乗船研究は、関連研究推進等の観点から最も重要な活動の一つであり、継続して参加できるよう一層配慮されるべきである。

(3)国内におけるIODP関連研究の推進体制

 海洋研究開発機構(以下「機構」という)内でのIODP関連研究を我が国の中心として総合的に推進する組織の設置、日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC)の設立、国内統一目標の策定等IODPを主導するための研究体制の構築が進められ、継続的な検討が行われており、これらの活動に研究者が主体的に取り組んでいる。今後も、研究者の活動の円滑化及び活性化に努めるべきである。
 しかし、必要な事前調査費の確保等の問題のために、掘削計画の提案というIODPの根幹となる活動において、我が国はリードできていないことから、新規の掘削計画開拓のための研究を担う競争的資金及び我が国がIODP主導国としての責務を果たすための活動を担う経常的な予算措置による研究支援体制について早急に検討する必要がある。

5.1.3 人材の育成について

 機構及びJ-DESCは、研究者の経験蓄積の促進、大学・研究機関におけるIODP関連活動への理解に繋がる活動等研究者の育成に取り組んでいる。今後は、次代のIODPをリードする研究者の育成のため、若手研究者の乗船研究機会の拡大及び興味を喚起するアウトリーチ活動に一層取り組んでいくことが重要である。
 また、機構は、米国の掘削船への乗船を支援することで技術者を育成してきた。ライザー掘削技術については、海底油田の探査のために開発され、発展してきたものであることから、我が国が遅れていることは事実であり、欧米の優れた掘削技術の我が国への移転に早急に取り組むことが必要である。
 さらに、我が国のIODPにおけるプレゼンスの向上及び国内研究者組織運営のため、科学的知識を持ちながら国内外の機関でマネジメントに従事する人材の育成が課題である。

5.1.4 国民への説明について

 「ちきゅう」の必要性及びIODPの科学的成果に関する理解はもとより、科学技術の理解増進及び活性化を図る活動が行なわれている。今後は完成した「ちきゅう」を活用し、国民の関心の高いプロジェクトとして認知されるよう努力すべきであり、特に、中高生を対象とした教育的な観点からの広報等に継続的に取り組んでいくことが必要である。
 さらに、IODP推進を通じて育成された人材の産業界での活躍の場の提供等が実現するよう努力すべきである。

5.2 総合評価

 本計画は、現在も科学的及び社会的に意義が高いものであり、関係各機関により適切に進められてきていると認められる。よって、我が国が本計画を推進することは極めて有意義であると評価できる。今後は、その成果が最大限に得られ、社会に大きく貢献していくために、関係者がさらに協力し、計画推進により一層取り組むべきである。
 ただし、引き続き関連研究活動における課題の改善に向けた努力が必要である。

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