【参考資料4】科学技術基本計画(抜粋)


科学技術基本計画(抜粋)

平成28年1月22日
閣議決定


第2章 未来の産業創造と社会変革に向けた新たな価値創出の取組

 知識や価値の創出プロセスが大きく変貌し、経済や社会の在り方、産業構造が急速に変化する大変革時代が到来している。このような時代においては、次々に生み出される新しい知識やアイデアが、組織や国の競争力を大きく左右し、いわゆるゲームチェンジが頻繁に起こることが想定される。
 また、ICTの進化に伴うネットワーク化やサイバー空間利用の飛躍的発展は、こうした潮流の牽引役を担っており、我が国、そして世界の経済・社会が向かう大きな方向性を示している。インターネットを媒介して様々な情報が「もの」とつながるIoT、全てとつながるInternet of Everything(IoE)が飛躍的な広がりを見せる中、莫大なデータから新たな知識が創出され、また、過去には全く想定されていなかった異なる事象の結び付きや融合から、消費者のニーズに合わせた新たな製品やサービスが生まれ、一気に市場が広がるなど、様々な形でイノベーションが生み出される状況を迎えている。
 こうした中、過去の延長線上からは想定できないような価値やサービスを創出し、経済や社会に変革を起こしていくためには、これまでの基本計画で進めてきた取組に加え、更なる挑戦を促すような新機軸のアプローチを打ち出すことが必須となっている。
 先行きの見通しを立てることが難しい大変革時代においては、ゲームチェンジにつながる新たな知識やアイデアを生み出し、時代を先取りしていくことが不可欠である。このため、新しい試みに果敢に挑戦し、非連続なイノベーションを積極的に生み出す取組を強化する。
 また、ネットワーク化やサイバー空間利用の飛躍的発展といった潮流を踏まえ、サイバー空間の積極的な利活用を中心とした取組を通して、新しい価値やサービスが次々と創出され、社会の主体たる人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会の姿として共有する。その上で、こうした社会を世界に先駆けて実現するための取組を強化する。

(1)未来に果敢に挑戦する研究開発と人材の強化
 日々新しい知識や技術が生み出され、地球規模の経済・社会活動として展開され、競争力の中核が移り変わる中、我が国の国際競争力を強化し持続的発展を実現していくためには、新たな価値を積極的に生み出し、この変革を先導していくことが重要である。
 そのためには、特に、失敗を恐れず高いハードルに果敢に挑戦し、他の追随を許さないイノベーションを生み出していく営みが重要である。既存の慣習やパラダイムにとらわれることなく、社会変革の源泉となる知識や技術のフロンティアに挑戦し、社会実装を試行し続けていくことで、新たな知識や技術を生み出し、そこから画期的な価値を創出することが求められる。そして、そうした価値は、既存の競争ルールを一変させ、競争力に大きな影響を与え得るものである。
 このため、従来型の研究開発に加えて、アイデアの斬新さと経済・社会的インパクトを重視した研究開発に挑戦することを促す仕掛けを取り入れ、非連続なイノベーションの創出を加速する。また、様々な異なるアイデアの苗床なくしてこれらの政策は成り立たない。したがって、より創造的なアイデアと、それを実装する行動力を持つ人材に研究開発プロジェクトの形でアイデアの試行機会を提供する。さらに、これらの特性を意識して効果的なプロジェクトの運営管理を実施できる人材の育成・確保を図る。
 以上を踏まえ、国は、各府省の研究開発プロジェクトにおいて、挑戦的(チャレンジング)な研究開発の推進に適した手法を普及拡大する。
 具体的には、研究開発マネジメントにおけるプログラムマネージャーの導入と権限強化による新しいアイデアを持つ研究者への機会の付与、必ずしも確度は高くない(リスクが高い)ものの成功時に大きなインパクトが期待できるような研究を奨励する評価の実施、画期的だがリスクが高い研究について進捗の段階ごとに成果を確認しつつ発展させるステージゲート制、新しいアイデアに基づく研究を奨励するアワード方式の導入等が考えられる。こうした手法の普及拡大を通じて、従来の主要な研究開発プロジェクトでは実施されなかったような研究開発と、チャレンジングな人材の活躍等を促進する。
 その際、「リスクが高い研究開発において失敗は付き物であり、挑戦すること自体にも価値がある」という考えの下、その失敗を次のステップや別の課題の解決に生かしていく仕組みも重要である。
 また、チャレンジングな性格を有する研究開発プロジェクトである革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)について、更なる発展・展開を図るとともに、これをモデルケースとして、関係府省が所管する研究開発プロジェクトへも、このような仕組みの普及拡大を図っていく。
 なお、チャレンジングな研究開発から生まれた知識からゲームチェンジを起こすには、知識から価値への転換を、スピード感を持って実現する必要がある。この転換においては、特にベンチャー企業の役割が極めて重要であり、そうした企業が継続的に創出され、活躍できる環境の整備が不可欠である。

(2)世界に先駆けた「超スマート社会」の実現(Society 5.0)
 ICTが発展し、ネットワーク化やIoTの利活用が進む中、世界では、ドイツの「インダストリー4.0」、米国の「先進製造パートナーシップ」、中国の「中国製造2025」等、ものづくり分野でICTを最大限に活用し、第4次産業革命とも言うべき変化を先導していく取組が、官民協力の下で打ち出され始めている。
 今後、ICTは更に発展していくことが見込まれており、従来は個別に機能していた「もの」がサイバー空間を利活用して「システム化」され、さらには、分野の異なる個別のシステム同士が連携協調することにより、自律化・自動化の範囲が広がり、社会の至るところで新たな価値が生み出されていく。これにより、生産・流通・販売、交通、健康・医療、金融、公共サービス等の幅広い産業構造の変革、人々の働き方やライフスタイルの変化、国民にとって豊かで質の高い生活の実現の原動力になることが想定される。
 特に、少子高齢化の影響が顕在化しつつある我が国において、個人が活き活きと暮らせる豊かな社会を実現するためには、システム化やその連携協調の取組を、ものづくり分野の産業だけでなく、様々な分野に広げ、経済成長や健康長寿社会の形成、さらには社会変革につなげていくことが極めて重要である。また、このような取組は、ICTをはじめとする科学技術の成果の普及がこれまで十分でなかった分野や領域に対して、その浸透を促し、ビジネス力の強化やサービスの質の向上につながるものとして期待される。
 こうしたことから、ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していく。

 1  超スマート社会の姿
  超スマート社会とは、
 「必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細かに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な違いを乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会」
 である。
  このような社会では、例えば、生活の質の向上をもたらす人とロボット・AIとの共生、ユーザーの多様なニーズにきめ細かに応えるカスタマイズされたサービスの提供、潜在的ニーズを先取りして人の活動を支援するサービスの提供、地域や年齢等によるサービス格差の解消、誰もがサービス提供者となれる環境の整備等の実現が期待される。
  また、超スマート社会に向けた取組の進展に伴い、エネルギー、交通、製造、サービスなど、個々のシステムが組み合わされるだけにとどまらず、将来的には、人事、経理、法務のような組織のマネジメント機能や、労働力の提供及びアイデアの創出など人が実施する作業の価値までもが組み合わされ、更なる価値の創出が期待できる。
  一方、超スマート社会では、サイバー空間と現実世界とが高度に融合した社会となり、サイバー攻撃を通じて、現実世界にもたらされる被害が深刻化し、国民生活や経済・社会活動に重大な被害を生じさせる可能性がある。このため、より高いレベルのセキュリティ品質を実現していくことが求められ、こうした取組が企業価値や国際競争力の源泉となる。

 2  実現に必要となる取組
  超スマート社会の実現には、様々な「もの」がネットワークを介してつながり、それらが高度にシステム化されるとともに、複数の異なるシステムを連携協調させることが必要である。それにより、多種多様なデータを収集・解析し、連携協調したシステム間で横断的に活用できるようになることで、新しい価値やサービスが次々と生まれてくる。
  しかし、あらゆるシステムの連携協調を可能とするような仕組みを一気に構築することは現実的ではない。このため、国として取り組むべき経済・社会的課題を踏まえて総合戦略2015 で定めた11のシステムの開発を先行的に進め、それらの個別システムの高度化を通じて、段階的に連携協調を進めていく。
  まずは、個別システムのそれぞれに対して設定されている達成すべき課題を踏まえ、産学官・関係府省連携の下、それら11 システムの高度化の取組を着実に進めるとともに、各取組の間で好事例や問題点等を共有し、相互活用を図る。
  また、それら11システム個別の取組と並行して、複数のシステム間の連携協調を可能とし、現在では想定されないような新しいサービスも含め、様々なサービスに活用できる共通のプラットフォームを段階的に構築していく。特に、複数のシステムとの連携促進や産業競争力向上の観点から、「高度道路交通システム」、「エネルギーバリューチェーンの最適化」及び「新たなものづくりシステム」をコアシステムとして開発し、「地域包括ケアシステムの推進」、「スマート・フードチェーンシステム」及び「スマート生産システム」などの他のシステムとの連携協調を早急に図り、経済・社会に新たな価値を創出していく。
  その際、システム全体の企画・設計段階からセキュリティの確保を盛り込むセキュリティ・バイ・デザインの考え方に基づき推進することが必要である。
  以上を踏まえ、国は、産学官・関係府省連携の下で、超スマート社会の実現に向けてIoTを有効活用した共通のプラットフォーム(以下「超スマート社会サービスプラットフォーム」という。)の構築に必要となる取組を推進する。
  具体的には、複数システム間のデータ利活用を促進するインターフェースやデータフォーマット等の標準化、全システムに共通するセキュリティ技術の高度化及び社会実装の推進、リスクマネジメントを適切に行う機能の構築を進める。
  また、三次元地図・測位データや気象データのような「準天頂衛星システム」、「データ統合・解析システム(DIAS:Data Integration and Analysis System)」及び「公的認証基盤」等の我が国の共通的基盤システムから提供される情報を、システム間で広く活用できるようにする仕組みの整備及び関連技術開発を進める。
  さらに、システムの大規模化や複雑化に対応するための情報通信基盤技術の開発強化、経済・社会に対するインパクトや社会コストを明らかにする社会計測機能の強化を図る。
  加えて、個人情報保護、製造者及びサービス提供者の責任等に係る課題への対応、社会実装に向けた文理融合による倫理的・法制度的・社会的取組の強化、新しいサービスの提供や事業を可能とする規制緩和・制度改革等の検討、適切な規制や制度作りに資する科学の推進を図る。
  また、これらの取組と並行して、超スマート社会サービスプラットフォームの構築に資する研究開発人材や、これを活用して新しい価値やサービスを創出する人材を育成する。
  なお、これらの取組は、我が国の重要な課題である健康長寿社会の形成にも資するものであることから、総合科学技術・イノベーション会議は、健康・医療戦略推進本部との連携・協力を進めるとともに、ICT関連の司令塔である高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部及びサイバーセキュリティ戦略本部との連携を進める。その上で、総合科学技術・イノベーション会議は、超スマート社会サービスプラットフォームの構築に向けた産学官・関係府省の連携体制を整備するとともに、毎年度策定する総合戦略において取組の重点化や詳細な目標設定等を実施する。

(3)「超スマート社会」における競争力向上と基盤技術の強化
 1  競争力向上に必要となる取組
  超スマート社会において、我が国が競争力を維持・強化していくためには、世界に先駆けてこうした取組を進め、ノウハウや知識を蓄積することにより、先行的に知的財産化や国際標準化を進めていく必要がある。また、構築されるプラットフォームを常に高度化し、多様なニーズに的確に応える新しい事業の創出を促進するとともに、このプラットフォームや個別システムに我が国ならではの特長を持たせ優位性を確保していくことが重要である。
  このため、国は、産学官・関係府省連携の下で、超スマート社会サービスプラットフォームの技術やインターフェース等に係る知的財産戦略と国際標準化戦略を推進する。
  また、超スマート社会サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術の強化や、個別システムで新たな価値創出のコアとなる我が国が強みを有する技術を更に強化していくことが必要であり、具体的な技術領域と推進方策については次項に示す。
  さらに、課題達成の実証を完了したシステムのパッケージ輸出の促進を通じ、我が国発の新しいグローバルビジネスの創出を図り、少子高齢化、エネルギー等の制約、自然災害のリスク等の課題を有する課題先進国であることを強みに変える。
  あわせて、超スマート社会サービスプラットフォームを活用し、新しい価値やサービスを生み出す事業の創出や、新しい事業モデルを構築できる人材、データ解析やプログラミング等の基本的知識を持ちつつビッグデータやAI等の基盤技術を新しい課題の発見・解決に活用できる人材などの強化を図る。

 2  基盤技術の戦略的強化
 1 )超スマート社会サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術
  超スマート社会サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術、すなわちサイバー空間における情報の流通・処理・蓄積に関する技術は、我が国が世界に先駆けて超スマート社会を形成し、ビッグデータ等から付加価値を生み出していく上で不可欠な技術である。
  このため、国は、特に以下の基盤技術について速やかな強化を図る。
 ・設計から廃棄までのライフサイクルが長いといったIoTの特徴も踏まえた、安全な情報通信を支える「サイバーセキュリティ技術」
 ・ハードウェアとソフトウェアのコンポーネント化や大規模システムの構築・運用等を実現する「IoTシステム構築技術」
 ・非構造データを含む多種多様で大規模なデータから知識・価値を導出する「ビッグデータ解析技術」
 ・IoTやビッグデータ解析、高度なコミュニケーションを支える「AI技術」
 ・大規模データの高速・リアルタイム処理を低消費電力で実現するための「デバイス技術」
 ・大規模化するデータを大容量・高速で流通するための「ネットワーク技術」
 ・IoTの高度化に必要となる現場システムでのリアルタイム処理の高速化や多様化を実現する「エッジコンピューティング」
  また、これらの基盤技術を支える横断的な科学技術として数理科学が挙げられ、各技術の研究開発との連携強化や人材育成の強化に留意しつつ、その振興を図る。

 2 )新たな価値創出のコアとなる強みを有する基盤技術
  我が国が強みを有する技術を生かしたコンポーネントを各システムの要素に組み込むことで、我が国の優位性を確保し、国内外の経済・社会の多様なニーズに対応する新たな価値を生み出すシステムとすることが可能となる。
  このように、個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する技術として、国は、特に以下の基盤技術について強化を図る。
 ・コミュニケーション、福祉・作業支援、ものづくり等様々な分野での活用が期待できる「ロボット技術」
 ・人やあらゆる「もの」から情報を収集する「センサ技術」
 ・サイバー空間における情報処理・分析の結果を現実世界に作用させるための機構・駆動・制御に関する「アクチュエータ技術」
 ・センサ技術やアクチュエータ技術に変革をもたらす「バイオテクノロジー」
 ・拡張現実や感性工学、脳科学等を活用した「ヒューマンインターフェース技術」
 ・革新的な構造材料や新機能材料など、様々なコンポーネントの高度化によりシステムの差別化につながる「素材・ナノテクノロジー」
 ・革新的な計測技術、情報・エネルギー伝達技術、加工技術など、様々なコンポーネントの高度化によりシステムの差別化につながる「光・量子技術」
  なお、1 )及び2 )に掲げた基盤技術については、例えば、AIとロボットとの連携がAIによる認識とロボットの運動能力の向上をもたらすように、複数の技術が有機的に結び付くことで、相互の技術の進展を促すことも予想されるため、技術間の連携と統合にも十分留意する。

 3 )基盤技術の強化の在り方
  1 )及び2 )に掲げた基盤技術の強化に当たっては、超スマート社会への展開を考慮しつつ10 年程度先を見据えた中長期的視野から、各技術において高い達成目標を設定し、その目標の実現に向けて取り組むべきである。
  その中で、技術の社会実装が円滑に進むよう、産学官が協働して研究開発を進めていく仕組みを構築することが重要である。特に、基礎研究から社会実装に向けた開発まで、研究開発をリニアモデルで進めるのではなく、社会実装に向けた開発と基礎研究とが相互に刺激し合いスパイラル的に研究開発することにより、新たな科学の創出、革新的技術の実現、実用化及び事業化を同時並行的に進めることのできる環境を整備することが重要である。
  加えて、世界中から優れた人材、知識、資金を取り入れて研究開発及び人材育成を進めるとともに、AI技術やセキュリティ技術の領域などでは、人文社会科学及び自然科学の研究者が積極的に連携・融合した研究開発を行い、技術の進展がもたらす社会への影響や人間及び社会の在り方に対する洞察を深めることも重要である。また、こうした研究開発環境の実現に向けて、優れたリーダーの下、国内外から優れた人材を結集し、研究開発プロジェクトを柔軟に運営できる体制の構築も重要である。
  総合科学技術・イノベーション会議は、重要な基盤技術について、上述の内容を踏まえた上で、各府省を俯瞰した戦略を策定し、効果的・効率的な研究開発の推進を先導する。その際、各重要技術領域における研究開発の進捗状況を評価し、メリハリを付けながら進めるとともに、技術動向や経済・社会の変化に対し、技術領域や目標の適切な見直しも含めて、弾力的に研究開発を推進する。


第3章 経済・社会的課題への対応

 国内、そして地球規模で顕在化している課題はますます多岐にわたり、複雑化している。目指すべき国の姿として掲げた「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」、「国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現」及び「地球規模課題への対応と世界の発展への貢献」を実現していくためには、科学技術イノベーションを総動員し、戦略的に課題の解決に取り組んでいく必要がある。
 このため、国内外で顕在化する様々な課題の中から、目指すべき国の姿に向けて、課題解決への科学技術イノベーションの貢献度が高いと判断される重要政策課題を抽出するとともに、各政策課題の解決の鍵となる取組や技術的課題を提示する。こうした取組や技術的課題を中心に、産学官・関係府省が連携し、社会の多様なステークホルダーとも協働しながら、また、府省及び分野の枠を超えて横断的に取り組むSIPを最大限に活用しながら、研究開発から社会実装までの取組を一体的に進めていく。その際、研究開発成果の迅速な社会実装と国際展開、さらには競争力の向上のために、知的財産と国際標準化の戦略的活用を図っていくことが重要である。あわせて、東日本大震災をはじめ、各地の災害からの復興状況等を鑑み、国、地方自治体等が一体となり、新技術や被災地の新産業につながる科学技術イノベーションの取組を進めていくことが重要である。
 なお、経済・社会の状況は年々変化しており、各課題の解決に向けて、特に重点的かつ緊急的に取り組むべき事項は変化し得る。このため、各課題の解決に向けた研究開発の推進に当たっては、本基本計画に掲げた事項を軸としつつ、毎年度策定する総合戦略において更なる取組の重点化や詳細な目標設定等を実施する。
 本基本計画の最終年度である2020 年度は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「大会」という。)の開催年であり、大会を、国内外に我が国の科学技術イノベーションの成果を発信するショーケースとして活用するとともに、我が国産業の世界展開や海外企業の対日投資等を喚起し、2020 年度以降も我が国全体で経済の好循環を引き起こす絶好の機会として位置付ける。このため、訪日客のコミュニケーションや移動のストレスを取り除く多言語翻訳技術、新たな感動を創出する映像関連技術等、大会に向けて取組を加速していくべき我が国発の科学技術イノベーションに資するプロジェクトについて、企業の参画を促しつつ着実に推進する。

(1)持続的な成長と地域社会の自律的な発展
 我が国の持続的な成長のためには、現在、そして将来の我が国が直面する社会コストの増大に適切な対応を図っていくことが求められる。このため、エネルギー、資源、食料等を安定的に確保し海外依存度を低下させるとともに、健康長寿社会の実現や、持続的な社会保障制度の構築、インフラに係る維持管理・更新等の全プロセスの効率化などを実現することが重要である。また、地域社会の自律的発展に向けて、地域の活力や都市機能を維持していくことも重要である。さらに、産業競争力の向上は、我が国の成長力と地域活力の根幹であり、ものづくりや医療、農林水産業、エネルギーといった産業から新しいビジネスを生み出していくことも求められる。こうしたことから、以下の1 から3 の三つの視点に基づき、七つの重要政策課題を設定し、研究開発の重点化を行う。

 1  エネルギー、資源、食料の安定的な確保
 1 )エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化
  我が国のエネルギー源は化石燃料が中心であり、その大半を輸入に頼っている。中でも、電力供給は化石燃料、原子力、水力等により賄われてきたが、東日本大震災以降の原子力発電所の停止に伴う電力供給の減少を、主に火力発電の焚き増しで補っている状況である。近年の政策により再生可能エネルギーの導入は進んでいるものの、国際的に見て非常に脆弱なエネルギー供給構造になっている。
  このため、将来のエネルギー需給構造を見据えた最適なエネルギーミックスに向け、エネルギーの安定的な確保と効率的な利用を図る必要があり、現行技術の高度化と先進技術の導入の推進を図りつつ、革新的技術の創出にも取り組む。
  具体的には、産業、民生(家庭、業務)及び運輸(車両、船舶、航空機)の各部門において、より一層の省エネルギー技術等の研究開発及び普及を図る。また、再生可能エネルギーの高効率化・低コスト化技術や導入拡大に資する系統運用技術の高度化、水素や蓄エネルギー等によるエネルギー利用の安定化技術などの研究開発及び普及を推進する。加えて、化石燃料の高効率利用、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発を推進する。さらに、将来に向けた重要な技術である核融合等の革新的技術、核燃料サイクル技術の確立に向けた研究開発にも取り組む。

 2 )資源の安定的な確保と循環的な利用
  我が国は、化石燃料やレアメタルの大半を輸入に頼っており、輸出入の制限や遅延、資源の需要増大による価格高騰等は、経済や産業の活動に直接的な影響がある。また、資源の採掘・精錬等に伴う汚染、排出される廃棄物の増加等も喫緊の課題である。
  このため、資源の安定的な確保を図りつつ、ライフサイクルを踏まえ、資源生産性と循環利用率を向上させ最終処分量を抑制した持続的な循環型社会の実現を目指す。
  具体的には、我が国の管轄海域における非在来型エネルギー資源のポテンシャル評価や利用技術、海底熱水鉱床等での海底資源の探査・生産技術の研究開発を、海洋環境の保全との調和を図りながら推進する。また、省資源化技術や代替素材技術、環境負荷の低い原料精製技術、資源の回収・分離・再生技術の研究開発を推進する。さらに、バイオマスや廃棄物等からの燃料や化学品等の製造・利用技術及び廃棄物処理技術の研究開発等にも取り組む。

 3 )食料の安定的な確保
  世界規模での人口増加と地球温暖化等の変化による将来的な食料不足や栽培適地の変化が顕在化しつつある中で、国民に食料の安定供給を確保することは喫緊の課題であり、かつ国の重要な責務でもある。一方で、我が国の地域経済を支える重要な産業である農林水産業を取り巻く現状を見ると、就業者の減少や担い手の高齢化が急速に進行しており、環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉等の結果も踏まえた農林水産業の生産性の向上や関連産業の活性化が課題である。
  このため、意欲ある新規就業者の増加や農林水産物・食品の輸出の促進及び食料自給率向上の実現を目指す。
  具体的には、ICTやロボット技術を活用した低コスト・大規模生産等を可能とする農業のスマート化や新たな育種技術等を利用した高品質・多収性の農林水産物の開発を推進し、収益性を高め、新たなビジネスモデルを構築して農林水産業を魅力あるものにする。また、鮮度保持技術等、海外市場を視野に入れた加工・流通技術に関する研究開発を推進する。

 2  超高齢化・人口減少社会等に対応する持続可能な社会の実現
 1 )世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成
  我が国は既に世界に先駆けて超高齢社会を迎えており、我が国の基礎科学研究を展開して医療技術の開発を推進し、その成果を活用した健康寿命の延伸を実現するとともに、医療制度の持続性を確保することが求められている。その際、我が国発の創薬や医療機器及び医療技術開発の実現を通じて、医療関連分野における産業競争力の向上を図り、我が国の経済成長に貢献することが期待される。
  このため、健康・医療戦略推進本部の下、健康・医療戦略及び医療分野研究開発推進計画に基づき、国立研究開発法人日本医療研究開発機構を中心に、オールジャパンでの医薬品創出・医療機器開発、革新的医療技術創出拠点の整備、再生医療やゲノム医療など世界最先端の医療の実現、がん、認知症、精神疾患、新興・再興感染症や難病の克服に向けた研究開発などを着実に推進する。
  また、我が国の医療技術や産業競争力を生かし、例えば、感染症対策などの分野で、諸外国との連携による地球規模の課題への取組や、我が国の優れた力を生かした国際貢献といった主導的取組を進めていく。
  さらに、医療連携や医学研究などに用いる「医療等分野の番号」の導入、医療情報等のデータの電子化・標準化等による医療ICT基盤の構築を図り、検査・治療・投薬等診療情報の収集・利活用の促進、地域医療情報連携等の推進を図るとともに、医療・介護の質の向上や研究開発促進など医療・介護分野でのデータの一層の活用や民間ヘルスケアビジネス等による利活用の環境整備を行う。

 2 )持続可能な都市及び地域のための社会基盤の実現
  我が国の都市や地域は、急激な人口減少と少子高齢化などにより、日々の生活の移動を支える公共交通インフラ、予防・医療・介護サービス、商業などの生活環境の維持などが求められるとともに、若者や育児・介護世代、高齢者など、あらゆる世代の国民が、住み慣れた地域で生きがいを持って自分らしい暮らしを送ることができる社会基盤の実現が求められている。また、国内のみならず、同様の課題に直面している諸外国との連携・協調の可能性を意識することも重要である。
  このため、ICT等を駆使することによって、あらゆる世代の国民が、住み慣れた地域で快適かつ活動的に日々の生活を過ごせる社会の実現に資する基盤構築に取り組む。
  具体的には、ICT等を駆使して、コンパクトで機能的なまちづくり、交通事故や交通渋滞のない安全かつ効率的で誰もが利用しやすい高度道路交通システムの構築を推進する。また、予防・医療・介護サービスなどにより、認知症患者を含む高齢者等への自立支援や介護従事者の負担軽減を行い、健康長寿を地域全体で支えるICT基盤を活用した地域における包括的ライフケア基盤システムの構築などの取組を、海外との協調を図りながら、システムの有効性を適時適切に評価しつつ、推進する。

 3 )効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策
  国民生活、経済・社会活動を支えている公共インフラについては、ICTやロボット技術などを含む新技術を活用し、効率的にその維持管理・更新を行っていくことが、持続可能な社会の実現を目指す上で重要である。
  これまでも、インフラの点検技術や点検結果の評価技術、必要に応じた補修や更新の技術などの要素技術の開発は進展しているが、今後は、限られた財源と人材により最適なインフラ維持管理・更新を確実に実施する。
  具体的には、各要素技術の更なる水準向上と、その組合せによる技術全体の最適化を図り、地域ニーズに応じたアセットマネジメント技術としての開発を推進する。
  また、研究開発段階から地域特性等を考慮することや、技術の性能(技術完成度)とコストのバランスを保つことで、開発された技術の実効性を高めて、地方自治体等に稼働可能なシステムを提示する。

 3  ものづくり・コトづくりの競争力向上
  製造業は、我が国の経済を支える基幹産業であるが、安価な生産コストを武器とした新興国の追い上げや、飛躍的発展を遂げているICTを利用して国家イニシアチブを強力に進める欧米主要国のグローバル戦略などにより、これまでの競争優位性が脅かされている。このような中で、新たな生産技術とICTとの融合により、多様化するユーザーニーズに柔軟に対応するものづくり技術や、ユーザーに満足や感動を与える新たなビジネスモデル(コトづくり)が求められている。
  このため、ICTを活用し、サプライチェーン全体にわたりネットワーク化を進めるとともに、顧客ニーズから、製品企画、設計、生産、物流、販売、保守に至る様々なデータを、ビッグデータ解析技術やAI技術を駆使して解析・活用し、顧客満足度の高い製品やサービスを提供できる新しいものづくり・コトづくりを推進する。その際、我が国のものづくりを支える中小企業の活力向上や素材産業の競争力強化も併せて実現する。
  具体的には、我が国の強みである生産技術の更なる高度化に加え、製品・サービスを融合した商品企画、潜在的ニーズを先取りした新たな設計手法、ニーズに柔軟に対応可能な新たな加工、組立て等の生産技術、さらにはそれらを相互に連携させるプラットフォーム等の開発を推進する。加えて、中堅・中小企業の活力向上のため、サプライチェーン上の様々なデータの利活用、熟練技術者の匠の技の活用、ロボット・工作機械の知能化等を推進する。
  また、計算科学・データ科学を駆使した革新的な機能性材料、構造材料等の創製を進めるとともに、その開発期間の大幅な短縮を実現する。

(2)国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現
 国民の安全・安心を確保し豊かで質の高い生活を実現するためには、防災・減災や国土強靱化等に向けた取組を進めていくとともに、国民の快適な生活環境や労働衛生を確保していくことが重要である。さらに、国の安全を確保していく上では、我が国を巡る安全保障環境の変化や、犯罪、テロ、サイバー攻撃等の発生への適切な対応が欠かせない。こうしたことから、以下の四つの課題を重要政策課題として更に設定し、研究開発の重点化を行う。

 1  自然災害への対応
  我が国は、地震・津波、水害・土砂災害、火山噴火などの大規模な自然災害により数多くの被害を受けてきた。南海トラフ地震や首都直下地震などの巨大災害の切迫性が指摘され、一度発生すれば国家存亡の危機を招くおそれもある。また、平成23 年の東日本大震災や平成26 年の広島市土砂災害、御嶽山の火山災害、平成27 年の関東・東北豪雨のように、多種多様な自然災害が頻発しており、これまでの災害から得られた教訓を今後の大規模自然災害等への備えに生かすことが強く求められている。
  このため、このような自然災害に対して、国民の安全・安心を確保してレジリエントな社会を構築する。
  具体的には、災害に負けないインフラを構築する技術、災害を予測・察知してその正体を知る技術、発災時に被害を最小限に抑えるために、早期に被害状況を把握し、国民の安全な避難行動に資する技術や迅速な復旧を可能とする技術などの研究開発を推進し、さらにはこれらを組み合わせて連動させ、リスクの効率的な低減を図るとともに、災害情報をリアルタイムで共有し、利活用する仕組みの構築を推進する。

 2  食品安全、生活環境、労働衛生等の確保
  食品の安全性の確保は、国民の健康的な生活を守る上で極めて重要である。また、食品の生産・加工・流通・消費が多様化しており、食品の安全を確保するために、より迅速かつ効果的にリスクを評価し、適切に管理する必要がある。
  このため、科学的根拠に基づく的確な予測、評価及び判断を行うための科学の充実・強化により、汚染物質等(放射性物質を含む。)の規制等に関連する知見の探求及び集積を図り、科学的根拠に基づく食品等(食品添加物、残留農薬、食品汚染物質、器具・容器包装等を含む。)の国内基準や行動規範の策定、事業者等の衛生管理レベルの向上に資する研究等を推進するとともに、国内のみならず国際機関にも研究成果を提供し、国際貢献の観点からも推進する。
  また、生活環境における安全・安心の確保については、越境汚染を含むPM2.5 等の大気汚染や、化学物質等の水・土壌汚染や生物への影響、東日本大震災からの復興の障害となっている放射性物質による汚染等への対応が求められている。
  このため、遠隔分析技術等を用いた広域の大気汚染現象の解明や、健全な水循環、土壌及び生態系を保全するための評価・管理技術の開発、放射性物質の環境中の動態解明・分布予測等の研究と効果的な除染・減容等処理技術の開発を推進する。さらに、日常生活に利用される種々の化学物質(ナノマテリアルを含む。)のリスク評価も重要であり、規制・ガイドラインの新設や見直し等を行うため、評価の迅速化・高度化、子供を含む人への健康影響評価手法、シックハウス対策等の研究を推進するとともに、研究成果を化学物質の安全性評価に係る基礎データとして活用し、国際貢献の観点からも推進する。
  他方、職場環境の変化や過重労働によるストレス過多が生じている職場において、労働者の安全と健康を確保し快適な職場環境を形成することが求められている。
  このため、労働現場の詳細な実態把握及び医学的データの蓄積に基づき、労働者の安全対策、メンタルヘルス等の対策、仕事と治療の両立支援及び化学物質等による職業性疾病の予防対策等に資する研究を推進する。

 3  サイバーセキュリティの確保
  ICTの進展によりサイバー空間の利用が経済・社会活動の基盤として定着するに伴い、パソコンのみならず、家電、自動車、ロボット、スマートメーター等のあらゆる「もの」がインターネット等のネットワークに接続され、現実世界とサイバー空間との融合が高度に深化した社会を迎えつつある。このため、サイバー空間の安全の確保はこれまで以上に重要となっている。しかし、サイバー空間を脅かす悪意ある攻撃がとどまることはなく、ウェブサイト改ざんのような個人の愉快犯から、詐欺、機密情報の窃取、重要インフラを狙ったサイバー攻撃、国家の関与が疑われるようなサイバー攻撃に発展し、国民生活及び経済・社会活動に影響を及ぼしており、我が国の安全保障に対する脅威も年々高まってきている。また、セキュリティに対する意識や知識が国民全体に十分に浸透しているとは言い難く、かつ国民のICTに対するリテラシーの度合いにかかわらず、様々な場面において危険性が顕在化している状況にある。
  このため、サイバーセキュリティの確保の重要性に関する社会的認知の向上や、サイバーセキュリティに対する国民のリテラシーの向上、質的にも量的にも不足している人材の育成のための取組を推進しつつ、日々進化するサイバー攻撃の脅威に対処して、サイバー攻撃から国民生活及び経済・社会活動を守るための技術開発に取り組む。
  具体的には、サイバー攻撃の検知・防御技術、認証技術、制御システムセキュリティ技術、暗号技術、IoT分野でのセキュリティ技術、ハードウェアの真正性を確認する技術、重要インフラのシステム構築時及び運用時にシステムとして健全な状態であることを監視・確認できる技術等の開発及び社会実装を推進する。

 4  国家安全保障上の諸課題への対応
  我が国の安全保障を巡る環境が一層厳しさを増している中で、国及び国民の安全・安心を確保するためには、我が国の様々な高い技術力の活用が重要である。国家安全保障戦略を踏まえ、国家安全保障上の諸課題に対し、関係府省・産学官連携の下、適切な国際的連携体制の構築も含め必要な技術の研究開発を推進する。
  その際、海洋、宇宙空間、サイバー空間に関するリスクへの対応、国際テロ・災害対策等技術が貢献し得る分野を含む、我が国の安全保障の確保に資する技術の研究開発を行う。
  なお、これらの研究開発の推進と共に、安全保障の視点から、関係府省連携の下、科学技術について、動向の把握に努めていくことが重要である。

(3)地球規模課題への対応と世界の発展への貢献
 気候変動、生物多様性の減少、食料・水資源問題、感染症など、世界人類が直面する地球規模課題の解決に対して、我が国のポテンシャルを生かして国際連携・協力に積極的に関与し、戦略性を持ちつつ、世界の発展へ貢献することが重要である。このため、以下の二つの課題を重要政策課題として更に設定し、研究開発の重点化を行う。
 なお、これらの課題も含め、地球規模課題の解決に当たっては、経済協力開発機構(OECD)、国際連合(UN)、地球観測に関する政府間会合(GEO)等の国際機関等の活用も視野に入れつつ世界規模で協力関係を構築し、アジェンダ設定、研究開発、社会実装に向けた取組を戦略的に展開する。また、国際機関等との連携を通じて、2015 年に策定されたUNの持続可能な開発目標(SDGs)をはじめとする国際的・地域的な目標に関し、その進捗状況や目標達成に向けた計画などを、科学的な客観的根拠に基づき、我が国が優位性を持つ技術と有機的に組み合わせて提示していく。さらに、このような活動での活用も含め、関連する研究開発の実施を通じて得られた地球観測データ等については、適時的確に課題解決に資するよう取り扱うことに留意する。

 1  地球規模の気候変動への対応
  地球規模課題の一つである地球温暖化の主な要因は、人為的な温室効果ガスの排出増加とされ、地球温暖化に伴う気候変動が今後更に経済・社会等に重大な影響を与えるおそれがある。
  このため、地球規模での温室効果ガスの大幅な削減を目指すとともに、我が国のみならず世界における気候変動の影響への適応に貢献する。
  具体的には、気候変動の監視のため、人工衛星、レーダ、センサ等による地球環境の継続的観測や、スーパーコンピュータ等を活用した予測技術の高度化、気候変動メカニズムの解明を進め、全球地球観測システムの構築に貢献するとともに、気候変動の緩和のため、二酸化炭素回収貯留技術や温室効果ガスの排出量算定・検証技術等の研究開発を推進し、さらには、長期的視野に立った温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するための戦略策定を進める。また、気候変動が顕著に表れる北極域は、北極海航路の利活用等もあいまって国際的な関心が高まっており、北極域観測技術の開発を含めた観測・研究や北極海航路の可能性予測等を行う。さらに、気候変動の影響への適応のため、気候変動の影響に関する予測・評価技術と気候リスク対応の技術等の研究開発を推進する。加えて、地球環境の情報をビッグデータとして捉え、気候変動に起因する経済・社会的課題の解決のために地球環境情報プラットフォームを構築するとともに、フューチャー・アース構想等、国内外のステークホルダーとの協働による研究を推進する。

 2  生物多様性への対応
  豊かな生物多様性と健全な生態系は、人間社会の存立基盤をもたらす自然資本として重要である。近年、地球規模での生物多様性の減少や生態系サービスの劣化が生じていることから、自然と共生する世界の実現は、国内だけでなく国際社会でも重要な目標となっており、生物多様性の損失の防止を図ることが求められている。また、自然に対する働きかけの縮小による影響が生じており、国土の価値の向上に資するために里地里山等の二次的自然の保全活用も課題となっている。
  このため、絶滅危惧種の保護に関する技術や、侵略的外来種の防除に関する技術、二次的自然を含む生態系のモニタリングや維持・回復技術等の研究開発を推進し、生物多様性の保全を進める。また、遺伝資源を含む生態系サービスと自然資本の経済・社会的価値の評価技術及び持続可能な管理・利用技術、気候変動の影響への適応等の分野における生態系機能の活用技術の研究開発を推進する。

(4)国家戦略上重要なフロンティアの開拓
 海洋や宇宙の適切な開発、利用及び管理を支える一連の科学技術は、産業競争力の強化や上記(1)から(3)の経済・社会的課題への対応に加えて、我が国の存立基盤を確固たるものとするものである。また同時に、我が国が国際社会において高い評価と尊敬を得ることができ、国民に科学への啓発をもたらす等の更なる大きな価値を生みだす国家戦略上重要な科学技術として位置付けられるため、長期的視野に立って継続して強化していく必要がある。
 海洋に関しては、我が国は世界第6位の排他的経済水域を有しており、「海洋立国」として、その立場にふさわしい科学技術イノベーションの成果を上げるため、着実に取り組んでいくことが求められる。海洋に関する科学技術としては、氷海域、深海部、海底下を含む海洋の調査・観測技術、海洋資源(生物資源を含む。)、輸送、観光、環境保全等の海洋の持続可能な開発・利用等に資する技術、海洋の安全の確保に資する技術、これらを支える科学的知見・基盤的技術などが挙げられる。
 宇宙に関しては、人類共通の知的資産に貢献し活動領域を広げ得るものであるとともに、近年世界的に安全保障、民生利用面での重要性が高まっていることから、我が国としてもその基盤としての科学技術を、宇宙の開発・利用と一体的に振興していく必要がある。宇宙に関する技術としては、衛星測位、衛星リモートセンシング、衛星通信・衛星放送、宇宙輸送システム、宇宙科学・探査、有人宇宙活動、宇宙状況把握等の技術などが挙げられる。
 総合科学技術・イノベーション会議は、総合海洋政策本部や宇宙開発戦略本部と連携し、海洋基本計画や宇宙基本計画と整合を図りつつ、海洋や宇宙に関する技術開発課題等の解決に向けた取組を推進する。



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-- 登録:平成30年02月 --