【資料1-1】今後の深海探査システムの在り方について


今後の深海探査システムの在り方について

平成28年8月
科学技術・学術審議会 海洋開発分科会
次世代深海探査システム委員会


1.経緯
 我が国は、四方を海に囲まれており、四つのプレート境界に位置しているため、周辺には、千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、南海トラフ、南西諸島海溝等の海溝が存在する。このため、我が国の排他的経済水域(EEZ)内では、その面積の約50%が水深4000m以上であり、また、水深6000m以深の海域が約6%と、世界有数の深海フィールドを有している。
 近年、深海域での巨大な海底変動が甚大な災害を引き起こしたことが明らかになり、深海域でのジオハザードに対する迅速かつ長期的な調査や観測の必要性が強く認識されるようになってきている。また、海底下に存在する広大かつ豊かな生命圏の存在が確認される等、深海域においては今後も新たな科学的知見の獲得や人類の未来に役立つ発見が期待されている。
 深海域における研究開発については、これまで研究機関や大学等が中心となり実施している。特に、国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」という。)は、有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「かいこう」等の深海探査機を開発・運用するとともに、内外の研究機関等と協働して研究を実施するなど、深海域における研究開発の実施機関として世界トップクラスの実績を有している。例えば、海溝底の泥試料から数々の極限環境微生物を発見、東北地方太平洋沖地震の地震断層が海溝底を突き抜けて活動したことなど、深海生物分野や地震・防災分野、海洋底地質分野等において多くの成果を得ている。
 一方、「しんかい6500」は建造・運航開始から25年以上の年月がたっており、設計や建造に携わっていた当時の技術者や初期の運航から携わってきた関係者が少なくなってきているという現状がある。そのため、このままでは我が国がこれまで培ってきた有人潜水調査船に関する技術やノウハウが失われるのではないかと指摘がある。また、近年までは「しんかい6500」は世界一深く潜ることのできる高機能な有人潜水調査船であったが、米国の「Alvin」の改造や、中国で水深7000m級の「蛟龍号」が運航開始するなど、諸外国でも深海への取り組みが行われている。我が国として、今後とも高度な深海探査システムを保有・整備し続けることは、深海域における研究開発において我が国が世界トップレベルかつ国際的に優位な立場でいるために重要である。
 第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)においても、海洋は国家戦略上重要なフロンティアと位置付けられており、『「海洋立国」として、その立場にふさわしい科学技術イノベーションの成果を上げるため、着実に取り組んでいくことが求められる。海洋に関する科学技術としては、(略)深海部(略)等の海洋の持続可能な開発・利用等に資する技術、海洋の安全の確保に資する技術、これらを支える科学的知見・基盤的技術などが挙げられる。』とされているところである。
 これらの背景を踏まえ、深海探査のこれまでの成果や評価、科学的観点以外も含めた新たなニーズ、次世代深海探査機のスペックやシステム等を踏まえながら、今後の深海探査システムの在り方について、本委員会にて検討を行った。


2.各研究分野における深海探査の主な成果
 JAMSTECでは、各深海探査機の特長や、探査の目的及びその水深を総合的に判断し、深海探査システムとして運用を行うことで、様々な探査を行っている。また、他機関と協働しながら、各研究分野において多くの成果を生み出してきた。ここでは、各研究分野における主な成果の内容を以下に示す。

(1)海洋生物分野
 海洋生物分野では、地球上最大の生命圏の一つである深海・地殻内微生物生態系の発見や多様な深海化学合成生態系の発見、様々な生理機能の世界記録を持つ微生物の発見や世界最深の微生物群、鯨骨生物群集の発見等、深海における海洋生物の多様性や生態系とその機能を明らかにしてきた。
 また、水深6000mを超える海域での調査において、他の海域では例がない特異な環境に生息する生物とそれら生物による物質循環を発見するとともに、これら深海生物・深海微生物の有用利用に関する研究も進められている。平成8年には「かいこう」を用いて世界最深のマリアナ海溝の堆積物を、平成10年に「アビスモ」を用いてマリアナ海溝の水塊を採取し、独特な深海微生物の生態を世界で初めて明らかにするなど、世界の研究をリードしてきた。現在も「しんかい6500」等を用いてインド洋や沖縄海域の海底熱水噴出域の極限環境に存在する生物やその生態系に関する調査研究等が進められている。

(2)海底資源分野
 海底資源分野では、近年、海底鉱物資源として注目を集めている日本周辺の海底熱水噴出域を深海探査機により発見し、その後、継続的な調査が実施されている。特に、沖縄トラフにおける海底熱水噴出域では、地球深部探査船「ちきゅう」による掘削調査と「ハイパードルフィン」等の深海探査機の協働により、重金属を含む広大な熱水だまりの存在を確認するとともに、形成中の黒鉱鉱物やその成因についての先端的な調査や深海熱水発電など画期的な海底工学研究開発の道を切り開いた。また、平成元年に沖縄トラフにおいて、海底から噴き出すCO2ハイドレートを「しんかい2000」で自然界において初めて発見しており、これは現在のCO2の回収・貯蔵(CCS)計画につながっている。平成4年には「しんかい6500」による調査で、南西諸島海溝の水深6400m地点において、海底一面に広がるマンガンクラストを発見した。

(3)地震・防災分野
 地震・防災分野では、「しんかい6500」による潜航調査で海底地震震源域の直接観測を行い、陸上や海上からでは得られない、多くの貴重なデータを得ている。平成3年の最初の日本海溝調査において、昭和8年に三陸地方に甚大な津波災害を引き起こしたアウターライズ地震である昭和三陸地震の震源域(水深6300m)の調査を行い、地震で生じた巨大な亀裂を発見した。また平成5年に発生した北海道南西沖地震について、翌月には「しんかい2000」が震源域において調査を実施し、地震で生じた斜面崩壊や地割れなどを発見した。更に平成23年の東北地方太平洋沖地震では、その4か月後、「しんかい6500」により震源域の日本海溝にて調査を実施し、超巨大地震による深海生態系への影響や海水中の化学変化、海底の変動等が確認された。
 また、平成10年には、「しんかい6500」により、リアルタイム多目的海底観測システム(VENUS)の設置展開作業を実施し、ケーブル式地震観測システムの技術基盤の構築に寄与した。こうした成果を踏まえ、平成18年から研究開発を進めてきた「地震・津波観測監視システム(DONET)」計画においては、「ハイパードルフィン」を中心にケーブル敷設地点付近の海底地形調査や観測点の設置作業等を実施し、システム構築に貢献している。

(4)その他
 研究分野以外にも、その優れた深海探査システムを用いて、これまでに社会の様々な緊急課題に応じて調査を実施してきた。代表的なものは、平成9年の島根県隠岐島沖の日本海で発生したロシア船籍のタンカー「ナホトカ号」沈没に伴う重油流出事故における水深約2500mの沈没部の状況確認、平成11年に父島北西約380kmの深海に落下したH-IIロケット8号機の第1段ロケットの「かいこう」による捜索・発見がある。
 また、国民の科学への理解増進にも多大な貢献をしており、最近では「しんかい6500」やその女性パイロットを主役とした小説、ドラマや漫画が好評を博し、またIT企業と協力して「しんかい6500」のカリブ海での潜航について生中継を実施し、多くのアクセスを得るなど、様々なメディアを通じて多くの国民に海洋科学への関心を高める機会を提供してきている。また、平成25年に国立科学博物館で開催された「深海展」では約60万人の来場者を集めたが、その展示内容の多くが深海探査システムによってもたらされたものである。


3.深海探査機の特長と技術的方向性
 今後の深海探査システムを検討するに当たり、各深海探査機の特長と技術的方向性について、その例を示す。

(1)有人探査機:HOV(Human Occupied Vehicle)
 有人潜水調査船「しんかい6500」を始めとする有人探査機は、母船とケーブルがつながっておらず前後左右上下へ移動が可能で機動性が高いこと、マニピュレータ等により海底面での軽作業やサンプリングが可能であること、人が直接観察することによって周辺の空間認識や瞬時の状況判断に優れた探査ができること等の特長を有している。今後、フルビジョン化などの視野性を更に向上させる技術(透明アクリル/ガラス球等による耐圧殻)を導入することにより、機動性や作業性の特長を生かしつつ、観察性能を向上させることが可能である。
 有人探査機は母船と直接ケーブル等でつながっていないことにより高い機動性がある反面、それによる制限も生じている。母船との通信手段については、音響通信が主な手段であるが、通信速度や容量が低く、リアルタイム通信や船上研究者へ上がる情報に制限がある。また、母船からの電力供給等がないため、探査機に搭載されているバッテリー容量が稼働時間に影響する。加えて、有人のため製造・運航等の安全性を重視した体制となっており、その分、無人機と比較してコストが割高である。また、我が国では「しんかい6500」以上に潜航可能な有人機を設計・製造したことがなく、水深6500m以深のフルデプス(水深約12000m)海域への技術が未確立である。
 そのため、これらを解決するための技術的方向性を以下に示す。海中通信技術の高度化により、通信性能を向上させる。また、フルデプス海域における活動時間を確保するために、沈降浮上時間の短縮やバッテリー性能を高度化させるほか、フルデプス海域に求められる浮力材や耐圧殻要素技術を開発させる。

(2)遠隔操作型無人探査機:ROV(Remotely Operated Vehicle)
 無人探査機「かいこう」を始めとする遠隔操作型無人探査機(ROV)は、母船からケーブルを通じた電力供給等により長時間探査を実施できること、大型の装置の搭載や海面下での大規模な作業が可能であること、ケーブル内の光ファイバー等を通じて映像やデータが高速かつ大容量、リアルタイムで母船に転送でき、船上の多数の研究者や技術者が同時に情報共有できること、等の特長を有している。今後、カメラや照明性能の技術開発により高画質映像が取得でき、更に臨場感を向上させることが可能である。
 一方、ROVは、母船と直接ケーブルつながっているため、ケーブルの取り回しや絡まり防止等の安全を確保する必要があり、探査範囲が比較的限られてしまう。また、水深が深くなるにつれてケーブルの総重量が増加するため、母船やケーブル自身への負荷が増大し、ケーブルが途中で破断することへの対応が必要である。また、基本的にはカメラを通じた遠隔による観察のため、空間認識や瞬時の状況判断では、有人探査機に劣るといった側面もある。
 そのため、これらを解決するための技術的方向性としては、機体の軽量化やケーブルの高強度化等といった、探査機自身の機動性の向上に向けた技術開発が挙げられる。

(3)自律型無人探査機:AUV(Autonomous Underwater Vehicle)
 深海巡航探査機「うらしま」を始めとする無人探査機(AUV)は、事前に設定したプログラムに基づいた自動航行により、海底地形図や海水の化学データ等を長時間かつ広範囲に取得が可能であること、また、有人での運航やケーブルシステムの操作を考慮する必要が無いため、設計の自由度が高く、小型のものから大型のものまで多様な形態が考えられる等の特長を有している。
 一方、AUVは、海底への衝突回避等の安全性を考慮し、海底面から一定距離離れて航行する必要があるため、海底面に接近した映像の取得、海底面や海底下へのアプローチが難しい。また、有人探査機と同様に母船と直接ケーブル等でつながっておらず、データの抽出・解析を基本的に探査機揚収後に船上で行うため、研究者がリアルタイムに情報を取得できる体制になっていない。また、母船からの直接の電力供給等もできないため、搭載されているバッテリー容量が稼働時間に影響してしまう。更に、深度については、JAMSTECが保有する「うらしま」の最大深度は3500m、諸外国でも5000m級のAUVの開発実績はあるが、フルデプス海域に対応したAUVの技術は未確立となっている。
 そのため、これらを解決するための技術的方向性としては、位置検出性能の技術開発により運動性能を向上させること、バッテリーの技術開発により稼働時間を延長させることが挙げられる。また、フルデプス海域に求められる浮力材や耐圧容器の要素技術の開発が挙げられる。


4.各研究分野における今後の深海探査のニーズ
 各研究分野において深海探査による研究の進捗や成果の創出が進むことにより、調査が十分に進んでいないような未知なる深海域の探査等、様々な深海探査へのニーズが発生している。ここでは、各研究分野等における、今後の深海探査への課題やニーズ等の具体例を以下に挙げる。

(1)海洋生物分野
 近年、外洋漁業による深海生態系の壊滅的破壊や、深海資源開発による海洋生態系へのかく乱、また、気候変動による深海生態系への変動も懸念されており、そのため海洋における生物多様性や生態系の保全は、生物多様性条約・気候変動に関する国際連合枠組条約等にも表れているように全世界が取り組む課題となっている。G7 茨城・つくば科学技術大臣会合におけるコミュニケでは、「(略)海洋で起きている変化やその経済へ与える影響を評価するために必要な科学的知識を発展させることが極めて重要であることを確信した。また、我々は、海洋の持続可能な利用を確立するため、海洋に関する適切な政策を立案しなければならない。(略)」とされており、海洋のガバナンスに向けて、生物資源の情報・知見を蓄積していく必要がある。
 例えば、沿岸・浅海の生態系・生物多様性についての調査は深海に比べ進んでいるが、陸からの距離や水深が増すごとに海洋生物の知見は極端に減少する。特に1000m以深での生物データは限られたピンポイントでの調査結果が散見される程度である。このため生物多様性に関する知見は限られた環境ゲノムにより推定される大多数の未知種による遺伝的多様性のみであり、種多様性や機能的な多様性の理解はほとんど進んでいない。
 世界有数の多様性の高い海を持ち、深海生態系の研究開発や環境影響評価をリードしてきた我が国は、今後一層、深海生態系の構造や機能を明らかにし、これらの課題解決に貢献する責務がある。更には、生物多様性や生物環境評価に関する研究開発により、深海の生物や微生物が有する酵素等の物質や生体機能が解明され、創薬・化学・農業等の産業応用が期待されている。
 例えば、これまでの深海域の調査では、地上の生態系とは全く異なる化学合成生態系が発見されている。化学合成生態系研究は、生命起源・地球外生命・進化メカニズムといった人類の根源的命題へ迫ろうとしている。現在確認されている世界最深の化学合成生態系は日本海溝7450m、世界最深の熱水生態系はケイマンライズ(カリブ海)の5500mであるが、より深海域にも異なる生態系が数多く存在することが予想されており、調査が十分に進んでいない7000m以深の深海探査により、極限環境に適応した未知の生態系等の発見が見込まれている。そのため、深海における現場の環境を保持したままの高度なサンプリング技術や、現場計測・現場培養・現場実験を可能とする新たな機能を備えた深海探査システムが望まれている。

(2)海洋鉱物分野
 我が国では、沖縄トラフ周辺海域や伊豆・小笠原海域において海底熱水鉱床が発見されており、今後もこれらの海域を中心に新たな熱水鉱床が発見される可能性がある。また、海洋基本計画(平成25年4月26日閣議決定)においては、「平成30年代後半以降に民間が参画する商業化プロジェクトが開始されるよう(略)」とされ、海底熱水鉱床の開発に向けたプロジェクトが進んでいる。そのため、海底熱水鉱床の探査や開発に関連する需要が増加すると考えられる。また海洋鉱物資源の調査や把握は、海洋生物分野と同様に、海洋のガバナンスの点からも重要な取り組みである。
 海洋鉱物資源の探査や開発に向けては、AUVを用いて広範囲の海域を探査し、海底熱水鉱床が存在する地点を効率的に絞り込む技術、ROV等の海底下で作業可能な機器を用いてサンプリングを実施する技術、更には、開発に伴う環境影響評価手法の確立等が必要である。

(3)地震・防災分野
 我が国はプレート境界に位置しており、世界でもまれに見る地震大国である。大型海底地震の発生地域となっている日本海溝等の日本近海に、長期間の観測が可能な海底地震計を設置しているものの、水深6000m以上の海域については、地震計自体の耐圧性能や当該海域へのアクセス手段がないことから、設置ができていない。しかし、東北地方太平洋沖地震では、地震時に海溝付近のプレート境界が大きく滑ったことが判明しているが、震源域近傍(8000m)は未観察であったことから、これまで観測空白域であった超深海域における観測が必要であることが認識されている。
 そのため、水深6000m以上の超深海域で、地震、津波、地殻変動等の観測が安定的に実施できる装置が必要であるとともに、そうした観測装置を海底下の任意の地点に正確に設置・維持するためのシステムも重要となる。現存の深海探査機では水深7000mが限界であり、日本海溝最先端部での観測システムの設置・維持のためには、より高深度化への対応が必要である。更に、海底下から断層試料をサンプリングするため、深海の精密な地形の計測や海底下の詳細な構造の調査を可能にするとともに、その情報をもとに正確な位置でのサンプリングが可能となるシステムが望まれている。

(4)海洋底地質分野
 我が国周辺は千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、南海トラフ、南西諸島海溝等様々な深海フィールドを有しており、それぞれの海溝底はプレートの沈み込み角度の違いによって多様である。また、房総沖には海溝の三重点が存在する等、海底地形としては世界有数の特異な場所となっている。また、海溝底はプレート境界断層に沿って海底から海中に向かって多量に地殻構成物質が供給されるなど「地殻内部への窓」とも言われる特異な場所となっている。
 しかし、現代の科学においても、プレートがどのように沈み込むか、沈み込み方に違いはないのか、それらを規定する要因は何かに関しては不明点が多く存在しており、それらの解明に向け、プレート沈み込み帯の最前線である深海の海溝底の観測が重要である。また、地質分野ではフィールドワーク調査が重要であることから、深海においても陸上と同程度の精度で海底地形・地質・変動現象を調査・観測できるシステムを整備すべきである。これにより、水深6000mを超える海洋底の周辺ではどのような状況であるか、どのような現象が発生しているかについてのデータが蓄積され、それらは日本列島や大陸誕生のメカニズムを担うプレートテクトニクス理論の発展に寄与する。また、海底地形変動は海底地震によっても発生することから、地震発生のメカニズムや物理モデルの高度化等にも貢献できる。


5.水深別の深海探査のニーズ
 深海探査機の開発における技術的課題は、水深が深くなるごとにその困難さが増大する。このため、ここでは、深海探査のニーズについて、水深別に分類を行い、整理する。

(1)水深3000m程度までの海域
 比較的浅い海域として、これまでも多くの探査がなされている。今後、海洋の保全及び持続可能な利用のための生物多様性・生態系・環境評価等の調査研究、海底鉱物資源の将来的な利用開発を見据えた存在量の調査や必要な研究開発、海底地震観測システムの敷設等のニーズがある。
 また、それぞれのニーズにおいて具体的に重要となる探査システムを示す。生物多様性等の調査研究においては、海底面付近を探査し状況の調査及び良質(的確)な試料の採取、モニタリング装置等を設置展開して長期の安定的な観察・観測、特定海域における物理・化学データの効率的取得を可能にさせる探査システムの構築が重要である。海洋鉱物においては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査し資源調査海域の絞り込み、海底面付近を探査し状況の調査及び良質(的確)な試料の採取を可能にさせるシステムが重要である。
 更に、海底地震観測システムの敷設においては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査、観測システム等の設置・メンテナンスが可能となるシステムが重要である。
 なお、当該海域は、海洋石油・天然ガス開発において産業利用も行われている海域であり、水深2000m程度であれば海洋レジャー用の探査機等も製品化されている。そのため、当該分野からの技術導入、当該分野への技術波及も可能である。

(2)水深3000m~7000mの海域
 我が国が現在保有する深海探査機「しんかい6500」の水深6500mや「かいこう」の水深7000mが対応する海域である。これらの深海探査機を活用しつつ、今後、深海域における生物・生態系・多様性等の調査研究、深海域における地質・地形調査、海底地震観測システムの敷設等のニーズがある。特に、海底地震観測システムにおいては、地震・津波観測監視システム(DONET)を水深4000mまでの海域に敷設をしており、今後も敷設のニーズがあると考えられる。
 また、それぞれのニーズにおける具体的に重要となる探査システムを示す。生物等の調査研究においては、海底面付近を探査し状況の調査及び良質(的確)な試料の採取、モニタリング装置等を設置展開して長期の安定的な観察・観測、特定海域における物理・化学データの効率的取得を可能にさせる探査システムの構築が重要である。地質・地形調査においては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査、海底面付近を探査して状況の調査及び良質(的確)な試料の採取、海溝型地震発生時の状況調査を可能にさせる探査システムの構築が重要である。
 更に、海底地震観測システムの敷設においては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査、観測システム等の設置・メンテナンスが可能となる探査システムの構築が重要である。

(3)水深7000m以深の海域
 以前は、JAMSTECの1万m級無人探査機「かいこう」やウッズホール海洋研究所(米国)の無人潜水機ネレウスにおいて探査が可能であったが、ケーブル破断や圧壊により亡失している。ケーブル等の技術的問題は解決しているが、現在、水深7000m以深からフルデプスの海域おける作業やサンプリング等が可能な深海探査機を保有している機関はない。そのため、当該海域は世界的に未調査領域であり、当該海域を改めて探査することで新たなる深海生物・生態系・地質等といった科学的発見等が期待される。また、国・国民の安全安心等の観点から、超深海域の海溝底における大規模地震発生メカニズム等の調査・研究を進めることが重要である。更に、我が国の排他的水域内には7000m以深の海域も含まれていることから、当該海域へのアクセス手段を保有することも、安心安全の観点からも必要となってくる。
 それぞれのニーズにおいて、重要となる探査システムを示す。大規模地震発生メカニズムにおいては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査、観測システム等の設置、メンテナンス、海溝型地震発生時の状況調査を可能にさせる探査システムの構築が重要である。超深海域における未知の深海生物・生態系・地質等の調査研究においては、海底地形等を広域かつ網羅的に探査して物理・化学・生物サンプルの効率的取得、海底面付近を探査して状況の調査及び良質(的確)な試料の採取を可能にさせる探査システムの構築が重要である。更に、EEZ内へのアクセス手段の確保のためには、海底面付近における状態の調査及び作業が可能となるシステムが重要である。


6.次世代深海探査システムの在り方
 次世代の深海探査システムについては、それぞれの研究分野や水深別のニーズを踏まえつつ、有人探査機及び無人探査機のそれぞれの特性を生かし、機動的かつ統合的な深海探査システムを構築することが重要であり、ニーズの緊急性や重要性、技術的なフィージビリティーを踏まえたシステムを構築すべきである。

 具体的には、国・国民の安全安心等の観点から、まずは遠隔操作型無人探査機(ROV)システムを活用し、我が国として、7000m以深のフルデプス海域へのアクセス能力を確立していくことが必要である。また、現在、活動可能な水深が3000m程度である自律型無人探査機(AUV)システムについても、大深度化等を図りつつ、高機動化や高性能な観察能力の付加等により、7000m以深の超深海域において広範囲の海底地形や科学データの取得を効率的に行う技術を確立していくことが重要である。
 更に、有人探査機については、現在保有している「しんかい6500」の最大限の活用を図り、その運航状況を踏まえつつ、フルビジョン化などの視野性を飛躍的に向上させる技術についても検討すべきである。こうした中で、今後重要性が増す海洋ガバナンス等に適切に対応するため、水深3000m程度までの有人探査機の導入(又は開発)について検討することが重要である。
 なお、7000m以深のフルデプスの有人探査機は、上記の深海探査システムによる成果を踏まえ、社会的・科学的ニーズ、技術動向、費用対効果、我が国の技術開発戦略等を踏まえつつ、継続的に検討していく必要がある。
 これらの取り組みと平行して、機動的かつ統合的な探査システムの構築に向けては、複数台の有人探査機や無人探査機を同時搭載・同時運用によって、より広範囲の海域を探査することや、複数の観点からの探査することが重要である。これを実現させるため、探査機の軽量小型化や音響通信技術等の研究開発を進めるべきである。
 
 なお、これらの取り組みに当たっては、以下の点に留意すべきである。
 海洋石油・天然ガス開発や海洋レジャー等(水深約3000m以内)の技術等の既存技術の活用や海洋分野以外の技術(人工知能(AI)や情報通信(ICT)等)の活用を図るとともに、次世代深海探査で使用される技術が産業界や他分野へ効率的に波及していくようにすべきである。
 また、諸外国と比較して、我が国の深海探査技術はどのような位置付けにあるのか、これまで我が国とJAMSTECが30年間以上培ってきた有人潜水船を無事故で運航してきた安全管理技術等を次世代ではどのように維持・発展させるべきかといった観点を考慮すべきである。
 更に、人類最後のフロンティアである深海の魅力や知見の拡大を効果的に伝えることで国民の海洋分野、更には科学技術全般の理解増進につなげ、将来の科学技術を担う子供たちの深海や科学の探究心を駆り立てられるような深海探査システムを構築すべきである。


以上



(参考1)

科学技術・学術審議会 海洋開発分科会
次世代深海探査システム委員会 委員名簿



(臨時委員)
 浦   環  九州工業大学社会ロボット具現化センター長
 小原 一成  東京大学地震研究所長
 瀧澤美奈子  科学ジャーナリスト
 竹山 春子  早稲田大学理工学術院先進理工学部教授
 辻本 崇史  独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構理事

(専門委員)
 織田 洋一  株式会社三井物産戦略研究所技術・イノベーション情報部
        シニア・プロジェクト・マネージャー
 竹内  章  富山大学名誉教授
 竹内 真幸  清水建設株式会社海洋未来都市プロジェクト
        プロジェクトリーダー
 中野不二男  京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授
 西山 淳一  財団法人未来工学研究所政策調査分析センター研究参与
 藤井 輝夫  東京大学生産技術研究所所長
◎道田  豊  東京大学大気海洋研究所副所長
 山崎 直子  宇宙飛行士

◎:主査




(参考2)

次世代深海探査システム委員会 検討経緯


<第1回> 平成28年1月8日(金曜日)
 ・深海探査に携わる関係機関へのヒアリング

<第2回> 平成28年3月22日(火曜日)
 ・研究機関より深海探査の成果報告
 ・今後の深海探査の在り方についてヒアリング
 ・諸外国における深海探査の動向について

<第3回> 平成28年5月16日(月曜日)
 ・今後の深海探査の在り方についてヒアリング
 ・研究機関より深海探査の成果報告

<第4回> 平成28年6月20日(月曜日)
 ・今後の深海探査の在り方についてヒアリング
 ・次世代深海探査技術システムの方向性に関する意見交換

<第5回> 平成28年7月1日(金曜日)
 ・「今後の深海探査システムの在り方について(案)」について




お問合せ先

研究開発局海洋地球課

-- 登録:平成30年02月 --