「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について」(概要)

1.失われる日本の強み-危機に立つ我が国の学術研究-

○ 学術研究は、新たな知を創出・蓄積し、継承・発展させることにより、人類社会の持続的発展の基盤を形成するとともに、新たな知への挑戦を通じて広く社会で活躍する人材を育成し、現在及び将来の福祉に寄与するもの。
○ 天然資源に乏しい我が国においては、学術研究により生み出される知や人材が国としての強みとなり、国際社会における存在感の伸張に貢献。社会が様々な課題を抱える今日、我が国が持続的に発展するため、学術研究の重要性は増大。
○ 厳しい財政状況の中でも、科学技術関係予算は増加しているにも関わらず、大学等の研究環境は悪化。
○ このまま学術研究が衰退し、人材育成のメカニズムが崩壊すれば、国際社会における「高度知的国家」としての存在感の低下を招くとともに、広く社会で活躍する人材の輩出が困難となり、我が国全体の教養の低下は免れないと強く危惧。
○ 現在の学術研究の在り方が、将来の我が国の在り方に決定的な影響を持つため、学術研究による知の創出力と人材育成力の回復・強化が喫緊の課題。学術政策、大学政策及び科学技術政策が連携して対策を講じるとともに、学術界が責任を持って改革に取り組み、国と学術界が一体となって学術研究を推進していくことが急務。

2.持続可能なイノベーションの源泉としての学術研究

○ 我が国は、長引く経済の低迷、少子高齢化やエネルギー問題等に直面する「課題先進国」であり、これらの解決手段としてイノベーションへの社会の期待が増大。
○ 持続的なイノベーションのためには、イノベーションを既知の出口に向けた技術改良といった狭い意味でとらえるのではなく、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的、社会的・公共的価値の創造に結びつける革新」とされる「科学技術イノベーション」の本来的意味に立ち返り、新たな強みを創る学術研究を維持・強化することが必要。
○ 学術研究はイノベーションの源泉として、(1)多様で質の高い知を常に生み育て重層的に蓄積しておくこと、(2)社会の様々な需要に応じて知を価値につなげるために研究成果を常に社会に開いておくこと、(3)イノベーションの創出を担う人材を育成することが重要。

3.社会における学術研究の様々な役割

○ 学術研究は、研究者の自主性・自律性を前提とし、研究者が創造性を最大限発揮することにより、独創的で質の高い多様な成果を生み出すもの。成果が当初の目的とは異なることも多く、そこから生まれるブレークスルーが我が国の持続的発展等の基盤。
○ 学術研究が社会から期待されている主な役割は、
(1)人類社会の発展の原動力である知的探究活動それ自体による知的・文化的価値の創出・蓄積・継承・発展、
(2)現代社会における実際的な経済的・社会的・公共的価値の創出、
(3)豊かな教養と高度な専門的知識を備えた人材の養成・輩出の基盤、
(4)(1)~(3)を通じた知の形成や価値の創出等による国際社会貢献
であり、これらは相互に関連・作用。
○ 我が国は、学術研究により生み出される知と人材をもって現在及び将来の人類の福祉に寄与するとともに、国際社会における存在感を発揮。この意味で学術研究は「国力の源」。このため、学術研究の振興は国の責務であり、学術界は役割を十分に認識し、社会からの負託に応える責任。
○ 学術研究が「国力の源」としての役割を果たすためには、研究者が常に自らの研究課題の意義を自覚し明確に説明しつつ、新たな知の開拓に挑戦することが基本【挑戦性】。現代では特に、細分化された知を俯瞰(ふかん)し総合的な観点から捉えること【総合性】、異分野の研究者や国内外の様々な関係者との連携・協働により新たな学問領域を生み出すこと【融合性】、世界の学術コミュニティーにおける議論や検証を通じた研究の相対化により世界に貢献すること【国際性】が必要。また、次代を担う若手研究者をこのような観点で育成することが重要。

4.我が国の学術研究の現状と直面する課題

○ 我が国の学術研究は、多くの優れた成果を生み出し、我が国の強みの形成に寄与してきた一方、近年の論文指標の相対的低下を踏まえ、投資効果への疑義が存在。また、資源配分の既得権化、国際競争力の低下、多様性の低さ、異分野融合領域の脆弱(ぜいじゃく)さ、社会との繋(つな)がりの不十分さ等に関し厳しい指摘も散見。
○ これらの指摘等は、必ずしも学術研究についての正しい現状認識に基づいたものとは言えないものもあるが、学術研究自体にとっても社会からの期待という観点からも、極めて重要かつ本質的な「挑戦性、総合性、融合性、国際性」に関わる部分で我が国の学術研究は脆弱(ぜいじゃく)な面があるのではないかという問題を提起。
○ 国と学術界双方の資源配分における戦略不足がこの問題の根底にあり、具体的には、(1)政府において、学術政策、大学政策、科学技術政策各々の改善・充実、役割分担の明確化や連携による全体最適化の取組が不十分、(2)大学において、戦略やビジョンに基づく強みの明確化や学内外の資源の柔軟な再配分・共有が不十分、(3)(1)・(2)に伴い、学術界の意識が短期的で内向きになり、分野や国境等を越えた新たな知への挑戦や若手研究者育成等のための戦略的対策が不十分という課題が存在。その結果、学術研究の現場が疲弊するなどの現象を惹起(じゃっき)。

5.学術研究が社会における役割を十分に発揮するために

優れた教育研究活動に取り組んでいる研究者や次代を担う若者の挑戦を後押しし、学術研究が本来的役割を十分果たせるようにするため、(1)の基本的な考え方に基づき、(2)のような取組を推進することが必要。

(1)改革のための基本的な考え方
○ 現代的要請である「挑戦性、総合性、融合性、国際性」に着目し、多様性を進化させることにより、学術研究の本来的役割を最大限果たす。そのため、研究者の自律性を前提に、自由な発想を保障し、創造性を最大限発揮できる環境を整備するという基本に立ちつつ、資源配分に関する思い切った見直しを実施。
○ 柔軟な発想による多様な知の可能性への挑戦や国際的ネットワークへの参加が望まれる若手研究者から、学術界の先駆者として新領域の開拓や若手研究者の挑戦の後押しが期待される中堅・シニア研究者まで、各研究者がステージに応じた役割を果たすことを期待。国はそのような役割を意識し、学術政策、大学政策、科学技術政策が連携した施策を展開。
○ 広く社会でイノベーションの創出を担う人材を育成し、教養を形成するという学術研究の役割を重視。
○ 学術研究が社会からの期待に応えるため、社会との積極的な対話により、社会のニーズ等にも適切に対応した研究の一層の推進や効果的な情報発信を図るなど社会との交流を強化。

(2)具体的な取組の方向性
【デュアルサポートシステムの再構築】
○ 基盤的経費については、大学において明確なビジョンや戦略に基づいた配分により、その意義を最大化することが必要。その取組と相まって国が確保・充実に努めることが必要。
○ 科研費については、
・より簡素で開かれた仕組みによる多様な学術研究の推進のための分野横断型・創発型の丁寧な審査の導入や応募分野の大括(くく)り化等
・学術動向調査などの学術政策や科学技術政策への反映、イノベーションにつながる科研費の研究成果等を最大限把握・活用するためのデータベースの構築等
・学術振興機関間の交流や連携も活用した国際共同研究や海外ネットワークの促進
・卓越した若手や女性、外国人、海外の日本人など多様な研究者による質の高い学術研究支援の加速等
等のための改革に取り組むことが必要。なお、「学術研究助成基金」については、研究費の成果を最大化する観点からの充実が必要。
○ 科研費以外の競争的資金については、(1)の基本的考え方を一つの横串として位置づけて改善を図ることが、各々の競争的資金の目的の最大化につながるという観点から、総合科学技術・イノベーション会議において改革について議論することが必要。
○ 競争的資金による研究実施に伴う大学全体の管理費用として不可欠な間接経費については、競争的資金の拡充を図る中で確保・充実するとともに、大学においてより一層効果的に活用することが必要。

【若手研究者の育成・活躍促進】
○ リーダー育成のためには、若手研究者が主体的に課題を設定し、挑戦的な研究に取り組むことが極めて重要。学術界全体が若手研究者を育てる意識を共有し、自立した研究に必要な環境の整備やシニア研究者による若手研究者の支援など、自立を促しつつ適切にサポートする体制の構築が必要。
○ 国際社会における我が国の存在感の維持・向上のためには、若手研究者が国際的な学術コミュニティーにおいてリーダーシップを発揮することが肝要。このため、若手研究者による国際的なネットワークの形成等を積極的に促進するとともに、海外特別研究員や科研費はこれらの観点からの審査の充実が必要。
○ 若手研究者が安定的に自らの研究に専念するためには、シニア研究者を含めた人材の流動性を図りつつ、若手研究者の安定的なポストの確保が必要。このため、大学の人事・組織の在り方を見直すとともに、客観的で透明性の高い評価に基づき、適切な処遇を講じることが必要。
○ 博士課程学生やポストドクターに対して、特別研究員などのフェローシップの拡充やRA経費などの経済的支援の充実を図るとともに、博士課程修了者等が広く社会で活躍できるよう、多様なキャリア開発を促すことが重要。

【多様な人材の活躍促進】
○ 多様な発想による卓越知の創出のためには研究現場の多様性の実現が必要であり、女性研究者の活躍促進を図ることが重要。このため、特別研究員(RPD)の拡大、研究活動を指導する女性リーダー(PO)の活躍促進やシステム改革の推進が必要。
○ 優れた人材の獲得競争が世界的に激化する中で我が国の学術研究を持続的に強化するためには、優秀な人材とその多様性の確保が必要。このため、海外の優秀な日本人研究者や外国人研究者の戦略的な受入れや国際的な研究ネットワークの構築により、大学の国際化や多様性を確保するとともに、国際的な頭脳循環のハブを形成することが重要。

【共同利用・共同研究の充実等】
○ 大学共同利用機関や大学の共同利用・共同研究拠点等において組織の枠を越えて行われる共同利用・共同研究は、限られた人材・資源の効率的・効果的活用に資するものであるとともに、相補的・相乗的連携により、大学全体の研究機能の底上げに寄与。大学共同利用機関等には、異分野連携・融合や新たな学際領域の開拓とともに、国際的な頭脳循環のハブとしての役割や次世代中核研究者の育成センターとしての役割も期待。
○ 国全体の学術研究の発展に向けた共同利用・共同研究体制の一層の強化のため、ネットワーク型研究拠点の形成の促進、国際共同研究の推進のための体制整備、若手研究者の育成、「学術の大型プロジェクト」の推進が必要。

【学術研究を支える学術情報基盤の充実等】
○ 学術研究のボーダーレス化、グローバル化が進む中、全ての研究の推進を支える学術情報の流通・共有のための基盤整備は不可欠。このため、全国の学術情報基盤を担う組織が一体となり学術情報ネットワークの強化を図ることが必要。
○ 優れた研究成果の受発信・普及に重要な役割を担っている学術雑誌については、海外との情報受発信を強化する学協会の取組を支援するなど、学術情報の流通促進を図る科研費等の取組の強化が必要。

【学術界のコミットメント】
○ 以上のような改革の推進に当たっては、学術研究が研究者の自律的な活動である以上、学術界の覚悟に基づくコミットメントが不可欠。学術界は今後、より一層責任をもって、分野や機関等の利害を超え、学術振興施策の制度設計や審査、評価等に参画するとともに、伝統的に体系化された学問分野を踏まえつつ、異なる分野や組織と柔軟に連携して新しい学問分野を創出する未来志向の意識を共有するなど、更に積極的なコミットメントを行うことが必要。
○ 学術界は、学術研究の社会における本来的役割を認識し、自律的な評価と見直し、研究倫理の徹底等により学術研究の質を保証するとともに、社会の中の学術研究として社会との対話を重視し、学術研究の意義や役割、成果等について実態に即して分かりやすく説明することが必要。
○ 学術界が研究者の発展可能性等の未来志向の観点に基づく評価制度を確立し、優秀な研究者を伸ばす一方、多様な学術研究の役割のいずれをも担っていない研究者を見分ける峻烈(しゅんれつ)さを示し続け、メリハリある処遇や資源配分を行うことが何より重要。

 

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