附属資料1 学術情報発信に関する学協会の実情についてのヒアリングの概要

 学術情報発信ワーキンググループでは、学協会が刊行する学術雑誌の現状を把握するため、関係委員からのヒアリングを行った。以下は、ヒアリング後の状況も踏まえた概要である。

日本動物学会

 日本哺乳類学会、日本哺乳卵子学会、日本鳥学会、日本古生物学会、日本爬虫両生類学会、日本動物学会は、国際学術情報流通基盤整備事業に参画し、電子ジャーナル6誌によるパッケージUnibio Pressを平成16年に創設した。UniBio Pressは、電子ジャーナルによる学術情報流通の時代に対応して、電子ジャーナルによるビジネスモデル構築を目指すものである。平成18年3月現在、サイトライセンス契約大学図書館は、26館である。UniBio Pressの各ジャーナルは、日本のそれぞれの分野の研究成果を代表するジャーナルと言えるものである。また、Zoological Scienceは、前掲誌である動物学雑誌、彙報を統合して1984年に創刊されており、通算して120年刊行されている、動物学を代表する国際誌である。
 UniBio Pressは平成18年、米国SPARCの支援する、生物系電子ジャーナルパッケージBioOneとの提携を結んだ。これにより海外図書館への販路の拡大を目指し、日本の生物系学協会ジャーナルの立場を明確にしていきたいと考える。

日本化学会

 日本化学会は、以前よりJ-STAGEとの協力で速報誌Chemistry Lettersを始めとする英文論文電子ジャーナルの刊行を進めており、現在では、電子投稿・査読、全文検索、全文公開、印刷前Web公開、目次お知らせサービス、2次情報データベースや他の論文誌へのリンク等が実現されている。電子ジャーナル化により、読者数と海外の購読割合が飛躍的に増加した。また、投稿受付から公開までの迅速化もはかられた。平成17年から有料公開とし、IPアドレス、ID・パスワードによる制限及びPPV(Pay per View)を開始したが、購読数にそれほど大きな影響は発生していない。さらに、著者支払いオプションと呼ばれる形でオープンアクセス運動にも対応した。これまでの取組みの経験から言えることは、電子ジャーナルへ移行し維持するためには、経済的、人的な投資が不可欠であるということである。

物理系学術誌刊行協会(IPAP)、日本物理学会、応用物理学会

 IPAPは、日本物理学会と応用物理学会が昭和37年に創設した刊行組織を平成5年に改組して協同運営している組織で、Journal of the Physical Society of Japan(日本物理学会編集)、Japanese Journal of Applied Physics(応用物理学会編集)等の英文論文誌を刊行している。平成9年には電子ジャーナルを独自に立ち上げ、平成15年まで無料で試行公開を続け、PDFダウンロード数は年間70万件に達していた。一方で、このような電子ジャーナル利用者の増加に伴い、冊子体販売数の減少が顕著になり経営が困難になったため、平成16年に電子ジャーナルの有料化に踏み切り、冊子体購入機関にのみダウンロードを許可することとし、さらに平成17年からはサイトライセンスへの移行を図っている。危惧された有料化による利用の減少もなく、むしろ増加しており、購読機関数の回復にも大きく寄与している。また、論文投稿の海外流出に伴う投稿数の減少に対処するために、両学会とIPAPの協調体制のもと、独自の電子投稿・審査システムの開発、電子アーカイブの作成、専任編集委員長の導入などを行い、掲載論文の質の維持、向上に努めている。

電子情報通信学会

 電子情報通信学会は、英文論文誌4誌の他、自然科学系の学会としては、和文論文誌を持っていることが特徴である。冊子体で刊行されているものは、国立情報学研究所のシステム(NII-ELS)で公開しており、平成5年からの和文論文誌や会誌等がすべてアーカイブされている。平成16年4月からは、J-STAGEを利用して電子ジャーナルのみの速報誌を刊行している。和英論文誌については、学会自身のサーバーでも平成11年から無料で公開していたが、それ自体はビジネスモデルとして成り立たない状態になっていた。そこで国際学術情報流通基盤整備事業から助言をもらって抜本的な改革を行い、英文論文誌については、平成17年から海外の電子ジャーナルプラットフォームを通して公開を始め、平成18年から海外サイトライセンス販売等を企画している。これによって、海外からも収入を得ていき、海外の購読を着実に獲得していくことを目指している。論文は読まれてこそのものであるので、コンピュータサイエンスに関する一大拠点になっている、アメリカのコンピュータ機械学会のポータルサイトに4論文誌の情報を登録することも行っている。

人文・社会科学系学会

 人文・社会科学の場合、全体として自然科学系に比べて英文での海外発信が立ち後れているが、その中でも人文科学と社会科学では温度差がある。英文誌については、社会科学にはいくつか存在するが、人文科学はごくわずかである。電子ジャーナルについても、社会科学はある程度出ているが、人文科学はほとんどない。これは、社会科学の場合には、ある程度の需要があり、外国の出版社から電子ジャーナル化の誘いがあるが、人文科学の場合はそうした需要がない点が異なるためである。一方、近代経済学の分野では英語でしか投稿しない研究者もたくさんいる。こうした分野では、定評のある学術雑誌もあり、海外出版者によって電子ジャーナル化されている。
 人文系の電子化立ち遅れの理由は、研究そのものが国内で賄われており、海外発信抜きに自足的に行っている面があるためである。数少ない海外発信の中には、英語以外の言語を扱うものも多いが、アルファベット以外を使用する言語については、フォントの開発が進んでいないために難しい局面を持つ。国内でも研究は行われているが、英語に比べたらまだ遅れている状況である。
 日本研究や日本のデータを使う社会科学の発信は今後も伸びていくものと思われる。