2.大学図書館を取り巻く課題

2.(1)大学図書館の財政基盤が不安定

 現在、国公私立大学図書館の所蔵する図書は2億7千万冊を数えるが、一大学あたりの平均年間購入冊数が年々減少していることを考えると、電子ジャーナルへの対応とあわせて、安定的な学術情報収集への財政投資は喫緊の課題である。
 国立大学では歴史的に、図書館資料費は学部・研究科等の部局からの配分に主として負ってきたという経緯があり、学生用図書経費等、大学全体の共通経費から大学図書館が裁量できる部分はさほど大きくない例が多い。大学予算全体が厳しい状況にある中、図書館予算枠の確保が十分でなければ、図書館固有の財政基盤が不安定となり、例えば学生の日常の学習資料として不可欠な学生用図書の購入にも大きな影響がある等、大学の教育活動に支障を生ずる恐れがある。

2.(2)電子化への対応の遅れ

 電子図書館の構築については、奈良先端科学技術大学院大学におけるモデル事業を契機として、平成8年の学術審議会「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について(建議)」以降、15国立大学に電子図書館経費が措置され、また、他の国立大学においても独自に電子図書館化が進められた。
 しかし、電子図書館化を進めた大学図書館の多くは、大学全体の教育研究活動との直接的な連携に欠けたこと、電子化の対象資料が一部に偏ったこと、メタデータの不十分さ、検索機能の弱さなど、インターネット時代の電子情報の長所を活かしきれていないことなどの欠点が見受けられ、これらにより本来持つべき機能が十分備えられているとはいいがたい状況にある。
 また、学内の研究者・教員が生産する研究成果、教育用資料等が最初から電子的形態を持つことが一般化しつつあるにもかかわらず、その組織化・保存・管理・利用に対応する体制・システムの整備がほとんどなされていない。このことにより、大学図書館が果たすべき学術的・社会的責任を十分に果たすことができていない状況にある。

2.(3)体系的な資料の収集・保存が困難

(ア)基盤的経費の減少により、体系的な資料の収集・保存が困難

 科学技術基本計画により、政府研究開発投資は増加しつつあるが、主に競争的資金などの直接的な研究開発に振り向けられ、図書資料の整備のような基盤的経費の部分はほとんど増加が見られなかった。
 特に、国立大学においては、1.(3)に述べたように、国立大学法人運営費交付金の基礎額部分に毎年1パーセントの効率化係数がかけられることとなったため、ここに含まれる大学図書館の運営経費は毎年減少する可能性がある。この場合、資料の体系的な収集・保存が困難となることが考えられる。
 しかし、研究上必要な資料を体系的に収集することは、大学運営上重要なことである。特に、人文・社会科学の分野においては、図書等の文献・資料は、自然科学分野における実験装置と同様の役割をもち、研究上不可欠な基盤であり、その整備を図ることが重要である。

(イ)資料保存のための環境が未整備

 従来の紙媒体の資料の長期的な保存のためには、適正な温度、湿度が保たれる環境管理や、虫害を防止するためのモニタリング等の多様な手段が取られた施設内での保存が必要である。また、酸性紙に起因する資料の劣化には脱酸処理により資料保存をする必要があるが、多くの大学では、通常の書庫内での環境測定や酸性紙対策にも手が回らないのが実情である。
 今後、各大学の事情に合わせた保存環境整備の方針策定、保存方法に関する関係者の研修事業等を進めていく必要がある。

2.(4)目録所在情報サービスの問題点

 国立情報学研究所の目録所在情報サービス(NACSIS-CAT/ILL)は、全国規模で大学図書館を結ぶ我が国唯一の書誌ユーティリティである。
 現在、NACSIS-CAT/ILLの参加機関数は大学図書館を中心に1,000機関を超え、また、目録データは約750万件が構築されており、図書館の業務システムをサポートすると共に我が国の学術情報流通基盤を支えるサービスシステムとして成長した。
 しかし、近年NACSIS-CAT/ILL書誌ユーティリティ全体の中に、データベースの品質を共同維持するという意識の薄れ、担当者の削減とスキルの低下、業務の低コストでの外注化による、重複書誌レコードの頻発に代表される図書ファイルの品質低下、雑誌所蔵データ未更新による雑誌ファイルの品質低下、ILL謝絶率の上昇等によるILLサービスの品質低下というような問題が顕在化してきている。

2.(5)図書館サービスの問題点

(ア)主題知識、専門知識を持った専任の図書館職員が不十分

 高度の図書館サービスを提供するためには、図書館職員としての専門知識と経験のほか、特定の専門分野についての高度の知識を持つサブジェクトライブラリアンが、レファレンスサービス、情報資源の組織化や選書等において、専門性を発揮する必要がある。また、図書館職員には伝統的な図書館業務に関わる理念と知識、技能に加え、情報通信技術の活用と人的サービスを行うコミュニケーション能力を持った、いわゆるデジタルライブラリアンともいうべき人材も求められるが、現在の大学図書館には、そのような人材は少なく、その有効活用や人材育成への取組みも十分に行われていない状況である。

(イ)情報リテラシー教育の位置付けが不明確

 先にも取り上げた平成8年の学術審議会「大学図書館における電子図書館的機能の充実・強化について(建議)」においては、「電子的情報資料の有効利用を含めた、情報リテラシー(情報利活用能力)教育の重要性も認識されてきて」おり、「大学図書館は、・・・情報リテラシー教育・・・において、その一翼を担うことが求められている。特に、学生向けの利用者教育は、情報リテラシー教育の一環として、大学図書館の協力の下に、全学的に取り組むことができるよう、教育体制の整備が必要である」と述べられている。平成15年度からは国立情報学研究所(NII)が「学術情報リテラシー教育担当者研修」を実施し、多くの大学図書館員参加者がある。しかし現時点で、多くの大学で行われている情報リテラシー教育は教養教育及び各専門分野における教育との連携が不十分であり、効果が限定的である。このため、学生に対する利用者教育、特に各分野の教員との連携を考慮した情報リテラシー教育の推進に関する検討が必要である。

(ウ)利用者ニーズの把握が不十分

 今日、インターネットや検索エンジンの普及により、多くの電子情報資源がネットワークで提供され、利用者がハイパーリンク機能を通じて直接一次情報を入手できるようになった。なお重要度を失わない伝統的な紙媒体資料と電子情報資源の混在した情報環境において、研究者も学生も情報ニーズと利用行動に変化を来たしている。その一方で、検索スキルや情報源評価能力の格差は広がりつつある。大学図書館は、このような変化に対応できるように、具体的なサービス改善策等を検討する必要があり、そのため利用者調査等により、利用者ニーズの把握に努める必要があるが、この取組みが十分になされている状況とは言いがたい。

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研究振興局情報課 学術基盤整備室

(研究振興局情報課 学術基盤整備室)