1 背景・基本認識

 学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲に基づく研究であって、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野にわたる知的創造活動であり、その成果は学術全体の発展を通じて人類共通の知的資産を形成する。この意味で学術研究は、いわゆる科学技術の振興のみにとどまらず、人々の生活・活動のあらゆる側面において絶えず進歩・発展を実現していく上で極めて重要なものである。研究者自らがテーマを設定し、研究を実施することにより、新しい現象・法則・原理の発見、方法論の確立、新しい知識や技術の体系化、先端的な学問領域の開拓等、学問分野全体にわたる総合的な知的創造活動が推進される。
 研究活動への政府の支援は、(1)研究の目標・内容等を政府があらかじめ定めるタイプのものと、(2)研究者の自由な発想に基づく研究(学術研究)を支援するタイプのものとがあり、その双方について、「科学技術創造立国」を目指した第2期科学技術基本計画等を踏まえ、様々な施策が実施されている。
 これらのうち(1)については、その時々の政府の方針や重点分野に従い、資源の重点的投入などが当然行われるが、(2)の学術研究への支援は、次の時代の社会基盤を先取りするような萌芽的研究や新しい発想に基づく新たな知の創出が期待できる研究への支援など、研究者の自主性を尊重しつつ、長期的視点に立ったより広範なものでなければならない。
 (2)の学術研究への支援は、(1)に係る重点分野の研究の推進にとっても重要である。研究活動全体の基盤である学術研究への支援が充実されることによってこそ(1)に係る重点分野の研究においても新たな可能性に挑戦するプロジェクトの推進を図ることができる(広範な学術研究が、国全体としてセーフティーネットの役割を果たす)。また、将来の重点分野の形成という観点から、学術研究からブレークスルーが生まれ、新しい重点分野の開拓につながってきたことは、歴史が示すところである。
 学術研究に対する政府の財政的支援の具体的な方法としては、1競争的研究資金による優れた研究の支援、2基盤的研究資金による全ての研究の支援、3大学共同利用機関の設置等による特定分野の研究の支援などがある。
 本部会が所管する科学研究費補助金(以下「科研費」という。)は、前記の「1競争的研究資金による優れた研究の支援」に属するものであるが、予算額的に見ても、2,000億円(平成16年度予算額1,830億円)に近づきつつあり、我が国の学術研究を維持・拡大していく上で、極めて重要な支援策となっている。
 科研費の将来の在り方に係る課題は、(1)全体の予算規模の拡大という課題と、(2)応募・評価・使用等に係るルールの改善という課題の2つに大別できる。
 これらのうち「(1)全体の予算規模の拡大」については、第2期科学技術基本計画(平成13年3月30日閣議決定)において、科研費を含む「競争的研究資金」全体を、平成12年度の予算額をベースとして、平成17年度末までの5年間に倍増させるという目標が掲げられている。
 これを受けて、平成16年度までの4年間に、「競争的研究資金」は約22%拡大されている(科研費:約29%、その他:約15%)。政府の一般歳出予算がこの間の合計で約1%削減され、「競争的研究資金」以外の「科学技術関係経費」が約9%の伸びにとどまっていることに鑑みれば、「競争的研究資金」は高い伸び率を示しており、科学技術関係経費の中でも特に重要なものと位置づけられている。
 しかしながら、「平成17年度末までの倍増」という目標を考えれば、今後とも、学界全体としても、また、科研費を所管する文部科学省としても、一層の努力が必要であると思われる。ただし、その場合、既に述べた「2基盤的研究資金による全ての研究の支援」と「3大学共同利用機関の設置等による特定分野の研究の支援」等、学術研究に対するその他の支援を十分に行いながら、科研費の予算額を伸ばしていく必要がある。
 また、「(2)応募・評価・使用等に係るルールの改善」については、本部会における審議・検討等に基づき、費目間流用の弾力化や年度間繰越の実現なども含め、様々な改善を不断に行っている結果、科研費は、政府の28の競争的研究資金の中で、研究者の多様なニーズを最も幅広く受け止められる経費と言われるに至っている。
 今後とも研究機関の在り方や研究活動の実態の変化等に対応して、これらのルールについては、常に見直しや改善を進めていくことが必要である。

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