科学技術・学術審議会 学術分科会長声明について

平成27年11月30日
科学技術・学術審議会学術分科会

 

学術研究の持続的発展と卓越した成果創出のために(声明)
-ノーベル賞連続受賞を祝して-

 

 この度、大村智博士がノーベル生理学・医学賞、梶田隆章博士がノーベル物理学賞の栄誉に浴したことに対し、心からの敬意と祝意を表したいと思います。
 大村博士は、静岡県の土壌より放線菌を発見し、米国企業との共同研究により、この放線菌が生産する抗寄生虫活性物質「エバーメクチン」及びこれを化学変換した「イベルメクチン」を発見・開発されました。イベルメクチンは今日まで世界で最も多く使用され、食糧の増産等の発展に多大な貢献をするとともに、イベルメクチンのヒト用製剤「メクチザン」は、累計10億人が服用し、オンコセルカ症撲滅に多大な成果を挙げています。
 梶田博士は、カミオカンデ、またそれを大型化したスーパーカミオカンデを用い国際共同研究により「ニュートリノ振動」の存在確認することに成功しました。これにより、従来の素粒子物理学の標準理論ではニュートリノの質量はゼロとされていたものを覆し、質量があることを証明されました。この成果により、従来の理論の見直しが進み、基本物理法則の解明に多大な貢献が期待されています。

 

 両博士の受賞は、昨年の物理学賞を受賞された赤﨑勇博士、天野浩博士、中村修二博士に続き2年連続となり、21世紀に入ってからの自然科学分野の日本人の受賞者数は世界第2位に達しています。日本人研究者による独創的な発想による真理の発見が、人類社会の持続的な発展や国際社会に大きく貢献し、世界から認められていることを、日本人の一人として誇りに思います。

 

 学術研究は予見に基づく計画どおりに進展せず、当初の目的とは違った成果が生まれることも少なくありません。当初の目的に照らせば「失敗」とされたり、予期せぬ結果に至ったりした膨大な研究結果やデータの先に、既存の知識やその応用を超えるブレークスルーが生まれます。カミオカンデはその日本名が「神岡核子崩壊実験」ということからも明らかなように第一目的は核子の崩壊の実験装置として設置されたもので、異なった方向の研究で偉大な成果が出た好例でしょう。また両博士の成果はいずれも国際的な研究活動の成果である点も強調されるべきでしょう。
 各博士のご業績もこのような粘り強い知への熱望と深い理解に裏打ちされた知的試行の蓄積の上に実を結んだものであり、また、世界の科学の発展をリードしてきた日本の学術研究の水準の高さを証すものです。

 

 他方、多くの分野において、論文数及び論文引用状況から見た日本の順位が低下傾向であり、科学研究のグローバルな競争の中で、日本の存在感が薄れ、新たに台頭する国々の間で埋没してしまう恐れが顕在化しています。また、個々の研究者に目を向けると、様々な制約の下、細分化した専門分野において成果を挙げることを急ぐ半面、長期的な展望を持ち、分野・国境の壁を越えるような大胆な挑戦が少なくなってきていることが危惧されます。

 

 日本の学術研究が、こうした懸念を払拭し、これからもノーベル賞級の卓越した成果を生み出し続け、「国力の源」としての真価を発揮していくためには、個々の研究者の独創的な発想を大切にし、その多様な挑戦を積極的に支援していくとともに、組織の枠を越えて研究者の知を結集し、研究環境を整備していく必要があることは論を俟ちません。

 

 望ましい研究環境づくりに向けては、様々な施策を総合的に講じていくため、公的投資を充実させる必要があります。政府の研究開発投資を対GDP比1%にするという目標を、第5期科学技術基本計画においてもしっかりと位置づけつつ達成を目指していく中で、まさに、未来への先行投資として、個人の研究を支え、日本の論文生産を牽引している科研費や、附置研究所等を含む大学全体を下支えしている運営費交付金等の基盤的経費を中心に、学術研究・基礎研究に重点投資することが望まれます。

 

 科学技術・学術審議会学術分科会では、本年1月に「学術研究の総合的な推進方策について」(最終報告書)をとりまとめ、挑戦性、国際性などをより一層高める観点からの改革方策を提言しました。また、本年9月には、この提言を踏まえた「科研費改革の実施方針」を了承し、研究者の活動がより創造的、挑戦的となること等を促すための改革の基本的な考え方と工程を明らかにしました。今般、改めて、これらの具現化のため、所要の予算の確保・充実を図ることを強く求めます。さらに、大学等の研究機関に対しては、本分科会の提言等を理解の上、明確なビジョンや戦略に基づく資源配分を実施するなど自己改革の推進を期待します。

 
平成27年11月30日
科学技術・学術審議会学術分科会長
           佐藤 勝彦 

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

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(研究振興局振興企画課学術企画室)