これからの学術研究の推進に向けて

平成16年6月30日
科学技術・学術審議会学術分科会・基本問題特別委員会

 我が国の学術研究の推進の在り方については、平成11年6月の学術審議会答申で「先導的・独創的な学術研究を推進させることにより、「知的存在感のある国」を目指すべき」と基本的方向性が示されている。一方、本年4月には国立大学等が法人化されるなど、学術研究に関わる制度、環境に重要な変化が起こりつつあることから、基本問題特別委員会では、学術研究の意義を再確認するとともに、今後の学術研究の推進に向け特に留意すべき点等について検討を行い、以下のとおり取りまとめた。

1.学術研究の意義

 学術研究は、大学等を中核に行われる研究者の自由な発想に基づく知的創造活動であり、国家社会発展の重要な基盤を形成するとともに、社会制度や科学技術をも支えている。
 学術研究は、量子力学の導入やDNA二重らせん構造の発見など画期的な研究成果をもたらしており、これらの独創的な研究成果は、中・長期的な視点から学術研究を推進することによりはじめて生み出されるものである。
 また、地球環境や生命倫理の問題など人類的課題の解決等のためにも、人文・社会科学、自然科学が一体となった学術研究の果たす役割が極めて大きい。

2.学術研究の推進に向けて

 知の活用と創造に大きな価値が置かれる21世紀において、我が国における学術研究は、これまでの知的資産の継承と活用から新たな知の創造とそれを担う人材養成へと幅を広げていくことが急務となっており、以下の点に留意し今後の学術研究を推進していくことが必要である。


(1)大学の自主性・自律性の発揮と社会との連携の強化

 国立大学等の法人化、学校法人の管理運営制度の改善など、各大学等の主体的な取組を可能とする改革が図られており、各大学等には、その自主性・自律性を最大限に発揮し、個性豊かで多様な教育研究活動を積極的に展開していくことが強く求められている。
 また、国民の理解と支援を得るため、個々の研究者を含めた大学等、研究者コミュニティ及び国が、研究の内容やその意義、学術研究の動向等に関する情報発信を積極的に行うとともに、産業界や地域社会と大学等の連携の具体的取組を着実に推進するなど、社会との連携を強化していくことが必要である。

(2)大学・大学共同利用機関の枠を超えた知の融合の推進

 我が国の学術研究は、独自のシステムである全国共同利用体制の整備をはじめ、各大学等の枠にとらわれない共同研究など知の共有、融合を通じて、世界的にも高いレベルの研究成果を上げてきた。
 大学等は、現在、特色ある教育研究の実施などその個性化を競い合っているが、今後の学術研究の推進に当たっては、それにとどまらず、新たな学問分野の創出などより高い水準の学術研究の実現を目指し、大学共同利用機関、大学の連携強化による新たな知の創造に向けた機動的・戦略的な研究体制の構築とともに、各大学等の協力・連携の取組を支援していくことが必要である。

(3)デュアルサポートシステムを踏まえた学術研究への十分な投資

 学術研究に対する我が国の投資は、欧米諸国に比べまだ十分とはいえない。
 大学等が「多様な知の創造と継承」というその使命を果たしていくためには、日常的な教育研究活動を支える基盤的資金と競争的な資金とがあいまって学術研究を支えていく「デュアルサポートシステム」の重要性を認識し、国立大学等の運営費交付金、私立大学に対する経常費補助金などの基盤的資金とともに、科学研究費補助金などの競争的資金の充実を図るなど、学術研究の特性を踏まえた十分な投資が必要不可欠である。

おわりに

 幅広い国民の理解を得て、新しい時代の学術研究を国全体として大きく発展させていくことは、我が国にとって最重要課題のひとつであり、そのため、上記のような学術研究の推進に向けた取組及び支援を積極的に行っていくことが強く求められている。また、科学技術・学術審議会学術分科会においても、今後の学術研究の状況を的確に把握し、国公私立大学等全体を視野に入れた我が国の学術研究のさらなる推進方策について継続的に審議していく必要がある。

これからの学術研究の推進に向けて

平成16年6月30日
科学技術・学術審議会学術分科会
基本問題特別委員会

 我が国の学術研究の推進の在り方については、平成11年6月、学術審議会より総合的な答申(「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」)がなされ、「我が国は、今こそ先導的・独創的な学術研究を推進させることにより、新たな文明の構築に貢献し、優れた学術や文化が日本から生み出されていると世界の人々に受け止められる状態、言わば「知的存在感のある国」を目指すべき」と、我が国の学術研究の将来在るべき方向性が示されている。
 この基本的方向性は、答申後約5年が経過した現在においても、十分に妥当するものである。しかしながら、学術研究の推進に中核的な役割を果たしている国立大学及び大学共同利用機関は、本年4月から独立の法人格を有する国立大学法人・大学共同利用機関法人に移行した。これは、国立大学制度発足以来の大きな制度改革であり、さらには、「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画(平成15年7月)」を受けて、知的財産立国の実現に向けた各大学等(大学及び大学共同利用機関)の取組が積極化するなど、学術研究に関わる制度、環境において重要な変化が起こりつつあり、今後の学術研究の在り方、推進方策について、改めて検討すべきものと考える。
 本特別委員会は、このような基本的認識に立ち、大学等における学術研究の意義を再確認するとともに、今後の学術研究の推進に向けて特に重視すべき点等について検討を行い、その考え方を以下のとおり取りまとめるものである。

1.学術研究の意義

 学術研究は、大学等を中核的担い手として行われる研究者の自由な発想と知的好奇心・探究心に根ざした知的創造活動であり、人文・社会科学から自然科学に至るあらゆる学問分野において蓄積されてきた人類の知的資産を正しく継承しつつ、それを新たな知的創造活動によって発展させる継続的な知的営為である。また、大学等においては、研究と教育とを総合的に推進することにより、将来の学術・科学技術を担う研究者の養成をはじめ、社会各層で活躍する人材の養成が行われており、学術研究はこの点において基本的な役割を果たしている。
 このような学術研究は、それ自体優れた文化的価値を形成しており、国の文化を発展させ、ひいてはその国際的地位を高めるなど、国家社会発展の重要な基盤を形成しているものである。さらに、学術研究は、その特性から基礎的な段階の研究が中心となるが、基礎研究にとどまらず社会・経済の発展につながる実用志向の応用研究まで幅広く包含しており、社会制度や科学技術の基盤を支えているものでもある。

2.学術研究の推進に向けて

 21世紀は知の創造と活用を図ることに大きな価値が置かれる知識社会になると考えられており、知の源泉としての大学等がその教育研究を活性化させ、社会の理解と信頼を得て社会との連携の下に発展することが重要である。
 現在、我が国は、国際社会において、社会、経済、学術、文化など様々な面で大きな役割を果たすことがより強く期待されている。これまで知的資産の継承と活用に重点が置かれていた学術研究の分野でも、21世紀においては新たな知の創造とそれを担う人材の養成へとさらに幅を広げ、人類の新しい知的資産の形成に積極的に貢献し、その責務を果たしていくことが強く求められている。
 このような状況を踏まえ、特に以下の点に留意しながら今後の学術研究の推進を図っていく必要がある。

(1)大学の自主性・自律性の発揮と社会との連携の強化

 国立大学等は、今回の法人化により、予算、人事、組織等の規制が大幅に緩和され、自主的、自律的な運営を行なうことが可能となった。このような状況のもと、各大学等では様々な改革の取組が既にはじまっている。
 また、私立大学に関しても、本年私立学校法の一部改正により、学校法人の管理運営制度が改善され、様々な課題に対して主体的、機動的に対応していくための体制の整備が図られている。
 大学等の使命は、教育研究活動を通じた知の創造と継承をその中核として、これらの成果、資源を活用して、社会各層への人材供給、産学連携など様々な形で社会に貢献するとともに、知を足掛りとして社会に働きかけ社会を変えていく機能を担うことにあり、大学等はこれらの役割を十分に果たすよう、社会から大きく期待されている。
 したがって、このような国立大学等の法人化をはじめとした大きな改革の時にあってこそ、大学等の運営に携わる全ての者が、大学等の社会的な存在意義を十分に認識し、その責任を果たすため、その自主性、自律性を最大限に発揮して、個性豊かで多様な教育研究活動を積極的に展開していくことが強く求められている。
 一方、それと同時に、個々の研究者を含めた各大学等が、学術研究は国民からの信託を受け学問の発展と人材養成という重大な責務を担っていることを十分に認識し、その行っている研究や教育の内容、意義、必要性について不断の自己点検・評価を行うとともに、その活動の内容を社会に積極的に情報発信していくなど、国民への説明責任を十分に果たしていく必要がある。また、研究者コミュニティとしても、産業界、マスメディアをはじめ国民各層との意見交換の機会を積極的に設けるなど社会との対話を通じて、学術研究の推進に関して社会的合意形成を図っていくための行動が求められている。国においては、競争的資金による研究の成果、大学等の世界的に注目されている優れた研究成果及び学術研究の動向について、情報発信体制の充実・強化を図っていくことが大切である。
 さらに、大学等と社会との連携を強化していく上では、産業界や地域社会との協力・連携などの具体的な取組を着実に推進していくことが重要である。こうした取組は、研究者自らが異なる目的意識、価値観に触れたり、社会的ニーズが刺激となって、新しい教育研究が展開されるなど、教育研究を活性化させるという点からも意義あるものであり、大学等においてより主体的、組織的に社会との連携に取り組む姿勢が求められている。

(2)大学・大学共同利用機関の枠を超えた知の融合の推進

 我が国の学術研究は、大学共同利用機関をはじめ、研究者の共同利用・交流を促すシステムが整備され、各大学等の枠にとらわれない共同研究や専門分野を超えた学融合的な協同作業など、知の共有、知の融合を通じて、世界的にも高いレベルの研究成果を上げてきた。特に、我が国独自の学術研究システムである全国共同利用体制は、個々の大学の枠を超え、全国の大学等から研究者が集まって、施設・設備等を共同で利用し、効果的な共同研究を進めるシステムであり、その仕組を用いている大学共同利用機関、大学附置の共同利用研究所等では、これまで様々な研究成果を生み出し、新たな知の創造と世界をリードする国際的COEとして人類の知的財産の創出に多大な貢献を果たしてきた。
 一方、大学等は、個性豊かな大学等の実現を目指し、特色ある教育、優れた研究の実施に積極的に取り組むなど個性化を競い合っており、国立大学等の法人化は各大学等のこの傾向を一層促進する方向に牽引することになると考えられる。
 このような中にあって、今後の学術研究の推進に当たっては、各大学・大学共同利用機関はそれぞれの個性を活かした取組の推進を図ることにとどまらず、各大学・大学共同利用機関の連携のより一層の強化や、個々の研究活動・研究プロジェクトにおける密接な協力を図り、これらの取組を総合化することにより、従来の学問分野を超えた新たな学問分野の創造を図るなど、我が国全体の学術研究をより高い水準に導いていく必要がある。また、進行しつつあるグローバル化に対応して、我が国の特徴を活かした共同利用、共同研究などを通じた知の連携によって、国内外に新たな知の創造活動を展開するとともに、より強い国際的なリーダーシップを発揮することが求められている。
 そのため、4つの機構に再編された大学共同利用機関法人等の機能を活かしつつ、今後さらに大学共同利用機関、大学附置研究所等の連携強化等による全国共同利用体制の発展充実を図り、新たな知の創造に向けた機動的・戦略的な研究体制を構築するとともに、国としても運営費交付金や関連施策の充実により、大学や国の枠を超えた協力、連携の取組を積極的に支援していく必要がある。

(3)デュアルサポートシステムを踏まえた学術研究への十分な投資

 現在の科学技術基本計画では、国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化(いわゆる重点4分野等)とともに、「研究者の自由な発想に基づき、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究」の推進が重点化の大きな柱として位置付けられており、例えば、競争的資金のうち科学研究費補助金が、全体の予算額で平成16年度で1830億円、平成7年度に比べて98%の増、平成12年度に比べて29%の増となるなど充実が図られつつある。
 しかし、高等教育機関への公財政支出の対GDP比(2000年)を見ると、アメリカ0.9%、イギリス0.7%、フランス、ドイツが1.0%であるのに対し、我が国は0.5%と国際的に見て低い水準にとどまっていること、また、我が国の競争的資金の政府研究開発投資に占める割合が、アメリカ(35%)に比べ10%と極めて低い水準にあることを踏まえれば、我が国における学術研究に対する投資水準は、その国力等に比べ決して十分とはいえない状況にある。
 21世紀の我が国にふさわしい学術研究を推進していくためには、大学等が、多様かつ広範な分野にわたる学術研究を総合的に行い、独創的・先駆的な研究成果など新しい「知」を創造し、蓄積するとともに、その「知」を次の世代に継承し、「多様な知の創造と継承」というその使命を適切に果たしていくことが重要である。そのためには、競争的資金の獲得にいたるまでの揺籃期の構想段階の模索的な研究など、研究者の日常的な研究活動や高度な人材養成を支えるものである基盤的資金の確保が不可欠である。このような基盤的資金と、それによって行われる日常的な教育研究活動の中から生まれる研究計画の中から優れたものを選んで優先的・重点的に助成するための競争的な資金とがあいまって大学の学術研究を支えていく「デュアルサポートシステム」が重要であることを十分に認識する必要がある。このため、国立大学等に対する運営費交付金や施設整備費補助金、私立大学に対する経常費補助金等の基盤的資金の充実に努めるとともに、科学研究費補助金、21世紀COEプログラム等の競争的な研究資金の拡充、競争的資金における間接経費の措置の拡大を図るなど、学術研究の特性を踏まえた十分な投資を行っていくことが必要不可欠である。特に、各国立大学等においては、法人化を受けて教育研究を高度化するための改革に積極的に取り組んでいるところであり、各国立大学等がそれぞれの明確な経営戦略と全学的な資源配分可能な体制のもと、各大学等の個性に応じた学術研究と人材養成の高度化を推進できるよう、特別教育研究経費などにより国として各大学等の取組を幅広く支援していく必要がある。
 以上のことを踏まえ、今後の我が国における学術研究に関する施策の展開に当たっては、国立大学等とともに学術研究や教育を担っている公私立大学を含め、これら全体を通じた我が国の学術研究の水準の向上を図るとの観点から、諸施策を進めていくことが肝要である。

おわりに

 学術研究は、これまで我々人類が生み出してきた様々な知の源であり、現在の我々を取り巻く社会制度の形成に資するとともに、生活の豊かさを支える科学技術の土台となっている。また、急速に発展する科学技術社会において、それにふさわしい精神文化を涵養し、成熟した社会制度を生み出していくことも、学術研究に課せられた大きな使命である。今後とも学術研究には、新しい知の創造によって人類全体の知的資産の拡大に貢献するともに、地球環境問題など人類が直面する様々な課題の解決に向けて新たな挑戦をし続けていくことが求められている。学術研究を積極的に推進し、国際社会の進歩・発展に貢献していくことは、知の時代と言われる21世紀のリーダーを目指す我が国に強く求められる役割であり、国際社会における我が国の存在感を高めることにもつながっていくものである。
 このような状況下にあって、幅広い国民の理解を得て、新しい時代の学術研究を国全体として大きく発展させていくことが、我が国にとって最重要課題のひとつであるとの認識の下に、上記のような学術研究の推進に向けた取組及び支援を積極的に行っていくことが強く求められている。また、科学技術・学術審議会学術分科会においても、今後の学術研究の状況を的確に把握し、国公私立大学等全体を視野に入れた我が国の学術研究のさらなる推進方策について継続的に審議していく必要がある。

第2期科学技術・学術審議会学術分科会 基本問題特別委員会委員名簿

(委員:7名)
主査 小平 桂一 総合研究大学院大学長
主査代理 石井 紫郎 東京大学名誉教授
池端 雪浦 東京外国語大学長
磯貝 彰 奈良先端科学技術大学院大学教授(バイオサイエンス研究科)
井上 孝美 放送大学学園理事長
郷 通子 長浜バイオ大学教授(バイオサイエンス学部長)
白井 克彦 早稲田大学総長
(臨時委員:6名)
伊賀 健一 日本学術振興会理事
小幡 純子 上智大学教授(大学院法学研究科)
谷口 維紹 東京大学教授(大学院医学系研究科)
戸塚 洋二 高エネルギー加速器研究機構長
鳥井 弘之 東京工業大学教授(原子炉工学研究所)
中村 道治 株式会社日立製作所代表執行役執行役副社長
(科学官:5名)
秋道 智彌 人間文化研究機構総合地球環境学研究所教授
西尾 章治郎 大阪大学大学院情報科学研究科長
加藤 礼三 理化学研究所主任研究員(平成16年4月1日~)
清水 孝雄 東京大学大学院医学研究科教授(平成16年4月1日~)
高埜 利彦 学習院大学文学部教授(平成16年4月1日~)
勝木 元也 岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所長(~平成16年3月31日まで)
寺西 重郎 一橋大学教授(経済研究所)(~平成16年3月31日まで)
本庶 佑 京都大学教授(大学院医学研究科長)(~平成16年3月31日まで)
本島 修 核融合科学研究所長(~平成16年3月31日まで)

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)