3 数物系科学の研究動向(要旨)

◇当該分野の特徴・特性等

 数物系科学の研究対象は広大な宇宙から極微の素粒子、さらには抽象化された数学的概念にまで及び、極めて多様である。この多様な自然現象に潜む法則性を、科学的な観察・実験と理論的考察を通じて解明し、知のフロンティアを拡大することにこの分野の共通性がある。また、研究者の自由な発想に基づく大学・研究機関での個人・小規模グループでの基盤的研究と、先進的な大型共同研究が、密接不可分に結びついて研究が展開されている点が特徴と言えよう。

◇過去10年間の研究動向と今後の展開への展望

1) 数学では、ポアンカレ予想の解決などの大きな進展があり、高次元代数幾何、保型関数、数論幾何、関数解析、微分方程式などの分野で、日本発信の優れた研究がある。代数幾何と符号理論、数理物理と幾何学、結び目理論、実解析とウェーブレット、偏微分方程式と逆問題・制御理論、確率論とファイナンス、数理統計学、代数的組み合わせ論などが、周辺分野と関わりつつ発展している。
2) 物理学では、素粒子・原子核関連科学としてニュートリノ振動やB中間子における対称性の破れなど独創的で優れた成果があり、次世代の大型国際共同実験による、標準理論を超える物理の研究が始まろうとしている。また、物性関連科学では、超伝導などの強相関物理、低次元・ナノ構造の量子物性、表面ナノ科学、超高速現象と量子光学、精密固体分光学などで多くの成果があり、更なる展開が始まっている。
3) 天文・宇宙科学では、大規模構造形成、銀河形成史、元素合成史、ガンマ線バースト、太陽系外惑星などの研究が大きく進展した。大型地上望遠鏡や一連の天文科学衛星による成果があり、観測的宇宙論と系外惑星探査の研究での発展が見込まれる。
4) 地球惑星科学では、地球の起源、全歴史、生命圏を含む複合システムとしての仕組みと挙動の解明が進むとともに、惑星科学・太陽圏科学が大きく発展した。一方で、地球環境問題や自然災害等への対応も求められている。
5) プラズマ科学では、核融合の実現に向けた国際的研究が組織されると共に、応用プロセスプラズマや宇宙・惑星プラズマ研究が進展し、学際的学問として発展してきている。

◇諸課題と推進手法(改善の検討を要する事項)

1) 基盤的研究環境の整備:科学技術基本法による重点領域についての支援は充実したが、国立大学の法人化以後、大学等の研究環境が悪化しており、基礎科学の研究分野では深刻な事態となっている。運営費交付金の増額など、多様な研究を保証する財政的・組織的改善が緊急の課題である。
2) 若手育成:ポスドクなど任期付きポストの増大で研究者人口は増えたものの、安定した研究職への道は狭く、若手研究者が研究者の道に進むことにより展望がもてるよう制度改革を行うことが急務である。
3) 大型化国際化への対応:先端的研究の遂行に大型設備が重要な役割を果たすプロジェクト研究では、予算規模の増大とプロジェクトの長期化が問題となってきている。国際連携への対応やプロジェクト評価体制の構築が急務であろう。

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