3 科学研究費補助金制度の評価

(1)科学研究費補助金制度の見直しの状況

 科学研究費補助金制度の改善については、従前より科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会において審議し、定期的に見直しを図っている。
 平成13年1月には、「基盤研究(S)」、「学術創成研究費」の創設及び間接経費の導入、研究支援者の雇用の必要性について報告をまとめ、また、同年7月には、科学研究費補助金の応募の枠組みを改善するとともに、「萌芽研究」、「若手研究」の設定について報告をまとめている。
 今後とも、科学技術基本計画が基礎研究を重視していることを踏まえ、科学研究費補助金制度の一層の充実を図るため、学術的要請や社会的要請等を勘案しつつ、研究費部会や科学研究費補助金審査部会における審議を通じて、科学研究費補助金制度の不断の見直し改善を図る必要がある。

(2)研究種目等の設定について

ア) 科学研究費補助金制度においては、学問分野の動向に対応するため、分科細目の定期的な見直しを行うとともに、新しい学問分野の創出に貢献する研究種目を設定している。

イ) 科学研究費補助金の「基盤研究」等の申請や審査の際に必要となる分科細目表は、従前より、科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会において5年毎に見直されており、学問分野の融合、あるいは、細分化に対応した改正がなされている。例えば、平成15年度の公募から適用している分科細目のうち、総合・新領域系については、それまでの「複合領域」を大幅に見直して設定されたもので、総合的な分野(総合領域)と2つ以上の系にまたがる比較的新しい分野(複合新領域)に区分された。総合・新領域系の設定に当たっては、統合・廃止が20細目、分割・新設が56細目となっており、学術研究の最新の動向を踏まえて、新しい学問分野への対応を含め、多様性の確保が図られている。今後とも、学術研究の動向を反映するために、分科細目の定期的な見直しを進める必要がある。

ウ) 分科細目の設定を柔軟かつ機動的に行うために設けられた時限付き分科細目は、当該分野の研究の発展状況を見極めつつ、「総合・新領域系」の分科細目へ適宜組み入れていくという方針の下、毎年3~6分野程度設定されている。これについては、新しい学問分野の創出への有効な方策としてより一層の活用を検討する必要がある。

エ) 「萌芽研究」は、新しい研究分野の展開につながるような成果が生まれること、又はその契機となることが期待されるものを対象にした研究種目として、既存の分科細目を前提としつつも、その枠を越える研究者個人の発想からの新分野の創出を支援する仕組になっており、今後とも充実を図る必要がある。

オ) 「特定領域研究」は、研究領域の設定自体を研究者が提案することで、研究者の自発性を最大限に引き出す研究種目であり、新しい学問分野の創出や研究者層の厚みを充実していくために極めて重要な役割を果たしている。研究領域の設定期間・申請金額には幅があり、研究領域を設定する研究者に大きな自由度が与えられている点で意義が大きい。また、研究者が相互に競争するだけではなく、研究領域が全体として成果を上げるという我が国独自の特徴的な研究支援を可能にし、特に、長期的な研究者の育成にも大きな効果を発揮しており、新しい学問分野を創出するための最も有効な方策として、今後とも充実する必要がある。

(3)研究費等の配分について

ア)研究費配分の状況

a) 近年、学術研究はその内容・規模等において多様化しているが、研究者のニーズや審議会の報告を踏まえて申請金額の上限を引き上げるなどの改善が図られ、一課題あたりの配分額は増加してきている。このため、科学研究費補助金においても比較的大規模の研究が可能となってきている。今後とも、一課題あたりの配分額を充実していくことが適当であり、科学研究費補助金の予算の拡充が必要である。

b) 「基盤研究」等への配分額全体に対して、年次計画による後年度内約分の占める割合は、平成4年度の26.0%から平成14年度は41.3%に増加している。特に、平成8年度に後年度内約額を増額改善した後、その割合は急激に高まっており、内約額の増額改善が安定的な研究遂行に大きく貢献している点は評価すべきである。
 科学研究費補助金の新規課題においては、「基盤研究」等への配分額の割合は、平成4年度以降増加傾向にある。平成12年度には、他の研究種目の予算増などを反映して一時的にその比率は減少したが、現在は60%台まで回復している。科学研究費補助金の配分に当たっては、今後とも「基盤研究」等を重視した配分が望ましい。

c) 新規採択課題の研究費の年齢別配分状況は、50歳代前半が18.2%と最も高い。これは、50歳代においてそれまでの研究が大きく発展し、研究が大規模になる傾向が強いためであると考えられる。しかし、採択件数の状況は後述するように、30歳代後半の割合が最も高くなっており、年齢別の分布の傾向としては、概ね適正な分布と考えるべきである。

イ)「基盤研究」等の研究期間

 「基盤研究」等の研究期間については、平成9年の学術審議会報告を踏まえた制度改善により長期の研究課題に対応できるようになってきている。
 また、「特別推進研究」及び「基盤研究」の研究課題のうち研究期間が4年以上のものは、従前においては研究終了年度にしか認められていなかった新規申請について、研究終了年度の1年前から申請することが可能となり、継続的・安定的な研究遂行について改善が図られている。

ウ)採択件数の状況

a) 独創的、先駆的な研究を格段に発展させるものを対象とする「基盤研究」は、科学研究費補助金制度を代表する研究種目であり、人文・社会科学分野の研究や自然科学系の理論研究等の比較的少額で実施可能な研究から、発展段階にある中規模程度の研究に至る研究者のニーズに対応するものであるが、その新規採択件数は、近年9千件前後で推移している。今後とも研究者のニーズに対応することが重要であり、「基盤研究」の新規採択件数については、引き続き維持拡大していく必要がある。

b) 新規申請件数の年齢別の割合は、20~30歳代が全体の1/3を占めており、科学研究費補助金に対する認識が若手研究者層に浸透している状況がうかがえる。また、新規採択件数の年齢別の割合は、30歳代後半の割合が19.0%と最も高く、若手研究者の研究の活性化に対し配慮がなされている。研究者を育成するとともに、学問分野の裾野を広げピークを創出していくためには、今後とも学術研究の将来を担う若手研究者に配慮する方向が望ましい。

エ)採択率の状況

a) 科学研究費補助金全体の平均採択率は、平成7年度は29.4%に達したが、審議会の報告を踏まえた申請金額の上限引き上げ、研究期間の長期化等の改善を図った結果、近年は24%前後で推移している。
 近年の採択率の水準については、国際的な学問的水準から見て十分に採択に値する優れた研究内容・計画が、予算的な制約のために、みすみす不採択とせざるを得ないとの意見が審査に携わった多くの研究者から寄せられており、改善を図る必要がある。その際、これまで実施した改善の趣旨を活かすことを前提とし、科学研究費補助金を拡充する中で、欧米の採択率30%を一つの目安として採択率を上げていく必要がある。

b) 採択率を研究種目別で見ると、「若手研究」が30%前後、「基盤研究」が20%前後、「特別推進研究」が10%前後であり、各研究種目の性格を反映して推移している。この状況は、科学研究費補助金制度の持つ若手研究者への支援の結果であり概ね適当であると考えられる。科学研究費補助金制度には、その発足当初から、本来的に「研究者」を育てる制度としての仕組みが組み込まれているので、若手研究者向けの研究資金については、今後も引き続き予算の拡充に配慮する必要がある。
 なお、いわゆる若手研究者に限らず、他分野から移ってくる多様な人材に対する支援については、これらの人材が新たな分野での研究経験が長いとは限らないが、若手研究者の支援とは同列に扱うことは必ずしも適当ではないと考えられることから、研究者全体の人材流動化の状況を見ながら、若手研究者の支援とは別に支援の在り方を検討する必要がある。
 また、現在の我が国の研究水準を維持向上させるためには、将来を担う優れた若手研究者を育成するとともに、世界の第一線で活躍している我が国の優れた研究者に対する支援も忘れてはならない。

オ)各学問分野への配分状況

a) 平成8年度から14年度までの研究分野別の件数ベースの配分状況においては、人文・社会系の割合が12.7%から16.8%と増加しているが、他の競争的研究資金では対応できない人文・社会科学の振興について、今後とも配慮が必要である。

b) 各分野へ科学研究費補助金を配分する方式には、学問的要請や社会的要請を第一線の研究者が総合的に判断して分野間調整を図るタイプ(分野調整型)と、分科細目ごとの申請件数・申請金額に応じて算出するタイプ(試算型)がある。配分方式のタイプごとに、分野別の採択状況を比較すると、分野調整型による「特別推進研究」・「特定領域研究」等の配分においては、学問的要請や社会的要請を反映して生物系の割合は35.3%から43.2%に大幅に増加し、理工系の割合は56.2%から43.8%に大幅に減少している。ただし、理工系の中においても、国家的社会的要請の強い情報・電子系は4.6%から6.5%に増加しているなど、社会の動向も短期間で反映する仕組みとなっているといえる。
 一方、試算型による「基盤研究」等の配分においては、5年程度では、人文・社会系、理工系及び生物系の割合に大きな変動はない。
 科学研究費補助金全体として、安定的な試算型の配分方法と学問的要請や社会的要請等を反映して変動する分野調整型の配分方法の組み合わせは、広く学問的な動向や社会的ニーズへの対応が可能なシステムとなっていると評価することができる。

c) 科学研究費補助金全体の分野別配分状況においては、各分野の配分割合があまり変動していない。これは、科学研究費補助金が、我が国の学術研究を総合的に推進しつつ、長期的な研究者の育成の効果を有する研究費であることを示していると考えられる。5、6年の期間で学問分野別の配分割合が大きく変動するようでは、学術研究の継続性・多様性の維持に支障を来すということに留意し、この基盤の上に立って研究資金の拡充を図っていく必要がある。

カ)配分方法の改善

 学術研究の振興を目的とする科学研究費補助金制度においては、多様な学問分野を維持発展させることが最も重要な課題の一つである。客観的な公平さをもって科学研究費補助金を各学問分野に配分する観点からは、「基盤研究」等については試算型以外には適切な配分方法が見あたらないのが現状である。試算型は必ずしも万能ではないが、学術研究を振興する上で大きな役割を果たしてきたことも事実であることから、現状を基本としつつ、双方の配分方式を組み合わせた科学研究費補助金全体の配分の在り方については、今後とも継続的に検討していくことが適当である。

キ)資金の管理形態

 科学研究費補助金は、研究機関が補助金の交付申請の事務を行い、交付を受け、直接に責任を負って、そのほぼ全額を執行管理する制度となっている。今後は、現在例外的に認められている研究分担者に配分される分担金についても、研究者の負担軽減のため、研究者本人ではなく、研究機関が管理する制度とすべきである。

ク)間接経費の拡充

 間接経費については、科学研究費補助金を効果的・効率的に活用できるようにするため、研究の実施に伴い研究機関において必要となる管理等に係る経費を、研究費(直接経費)に上積みして措置するものであり、研究代表者の研究環境の改善や研究機関全体の機能の向上に資することを目的としている。
 現在、間接経費は、「特別推進研究」、「学術創成研究費」、「基盤研究(S)」、「基盤研究(A)」、及び「若手研究(A)」に導入されているが、研究機関における研究環境を向上するために、他の研究種目への拡充にも努めるべきである。ただし、その際には、直接経費への影響がないようにすることが肝要である。

ケ)年度間繰越

 平成15年度より科学研究費補助金制度に繰越明許制度が導入され、法令に基づく諸手続を経た上で、年度を越えた使用が可能となったことは、大きな進展である。今後、実際の研究活動に合わせて繰越明許制度を活用していくためには、諸手続に係る研究者の負担軽減等も考慮し、事務手続の簡素化・合理化が望まれる。

(4)審査評価体制について

ア)審査の重要性

 科学研究費補助金制度が、その趣旨・目的に沿い、最大限にその効果を発揮するためには、その審査の在り方が最も重要である。
 これまで、審査員の増員や審査結果の公表などについて、格段に充実が図られてきているが、今後とも、必要な審査体制・方法の改善を行うとともに、審査員の資質向上を図るための方策についても検討するなど、より一層の審査の充実のために努力していく必要がある。

イ)審査体制

a) 科学研究費補助金制度においては、幅広い学術研究の分野の振興を効果的に進めるために第一線の研究者によるピアレビューを導入している。
 採択すべき課題の審査及びその後の中間・事後評価(以下、「審査評価」という。)については、研究種目の目的・性格、規模等に応じて審査評価体制を工夫している。制度全体としては、特に審査を重視して改善を図ってきているが、今後とも、発展が期待される課題を効果的に支援していくためにも、審査を充実した制度とすべきである。

b) 「特別推進研究」及び「特定領域研究」の課題は、科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会において審査されている。審査部会の下に置かれる人文・社会系、理工系、生物系の各委員会においては、1.レフェリーによる評価、2.書面審査とその後の合議審査、及び3.ヒアリングの三段階の審査を実施している。三段階の審査体制は、現在、我が国で採りうる最善のものであり、積極的に評価すべきである。
 各委員会での審査は、各課題ごとに依頼した特定の研究課題に対応した専門研究者(レフェリー)により作成される審査意見書と、より広い視野での第一線の研究者によるヒアリングが組み合わされることで、総合的な判断が可能となっている。

c) 日本学術振興会科学研究費委員会において実施している「基盤研究」等の審査は2段階で実施されており、分科細目表の細目毎に6名または3名の委員による第一段の書面審査及び第二段のそれぞれの分野ごとの合議審査を経て、課題を採択している。これらの審査は、平成11年度の科学研究費補助金業務の日本学術振興会への移管後に抜本的に拡充されており、現在、約4,500名の研究者が審査に参画している。なお、現在の申請状況が続く場合には、審査員をさらに増員するなど、一人当たりの審査の負担を軽減し、より効率よくきめ細かな審査が行えるよう中長期的視点からさらに検討が必要である。

ウ)中間評価、事後評価

a) 「特別推進研究」及び「特定領域研究」の中間評価及び事後評価は、科学技術・学術審議会学術分科会科学研究費補助金審査部会において実施され、その結果は文部科学省のホームページ等を通じて一般に公開されている。
 「特別推進研究」の中間評価では、採択翌年度に現地調査、3年目、4年目にヒアリングを、また、「特定領域研究」の中間評価ではヒアリングを実施しており、研究の進展状況、これまでの研究成果、研究組織、研究費の使用を評定要素として評価している。事後評価では、研究終了後に研究目的の達成度、当該学問分野、関連学問分野への貢献度、その研究成果についてヒアリングを実施している。「特別推進研究」については、中間評価から事後評価まで、ほぼ毎年の評価が行われており、研究者の大きな負担となっている。
 研究活動においては、中間段階における適切な評価の実施とともに、研究評価が研究者の過重な負担とならないよう配慮することも重要であり、効果的・効率的な中間評価の在り方については検討の余地がある。

b) 「基盤研究」等の事後評価は、学界における成果発表、相互評価を通じて日常的に行われているが、制度の仕組みの中では、次の新規申請の審査を、さきの研究の事後評価と併せて行う方法を採っている。これは、研究者に過重な負担をかけずに効率的に評価を行う仕組みである。「基盤研究」等については、今後とも事後評価と新規申請の審査を連結する仕組みを維持することが適当である。

エ)学術調査官等のプログラム管理者の充実による審査評価体制の整備

 科学研究費補助金の審査評価はピアレビューを基本としているが、「特別推進研究」、「特定領域研究」については、例えば、審査の際に情報提供を行い、中間評価、事後評価により研究の進捗状況を把握するなど、これまでの審査評価の公平性・透明性を高め、審査評価の充実や研究者のニーズを踏まえた一層のサービスの向上を目指すべきである。さらに、プログラム管理者の役割としては、審査員の選考、制度改善方策の検討・提案などが考えられ、日本学術振興会の学術システム研究センターの充実や文部科学省の学術調査官の適切な配置により審査評価体制の一層の充実を図る必要がある。

オ)独立した配分機関体制の構築

 現在、科学研究費補助金の審査は、文部科学省及び日本学術振興会で分担して行われている。文部科学省においては、政策的な重要性等の観点から「特別推進研究」及び「特定領域研究」の審査を行い、日本学術振興会においては、制度的に定着した「基盤研究」等の審査を行っている。
 今後、科学研究費補助金制度において、審査体制等制度の一層の充実を図るとともに、研究者へのサービスの向上を図る観点からは、文部科学省において行っている科学研究費補助金の審査交付業務について、将来的に条件が整えば、日本学術振興会へ移管する方向が望ましい。
 その際、特殊法人改革等の動向も踏まえつつ、日本学術振興会に予算上の制約が課されることがないようにするとともに、審査交付業務を支援する事務局体制を大幅に充実する必要がある。(米国のNSFはプログラムオフィサー400名に対し事務局800名程度、ドイツのDFGはプログラムマネージャー60名に対して事務局100名程度。日本学術振興会においては、学術システム研究センター研究員は約50名の予定であり、事務局は18名で科学研究費補助金の業務に当っている。)

カ)審査員の決定

a) 「基盤研究」等の審査員の選考は、日本学術会議から定数の2倍以上の候補者の推薦を得た上で、日本学術振興会において実施している。審査員の選考に当たっては、審査にあたる学問分野に精通しているか、年齢構成等の配慮がされているか、特定の研究機関に審査員の所属が偏っていないかなど、審査員の選考規程に基づき、学術参与等が中心となって審査員の構成の調整を図っている。

b) 科学研究費補助金の審査は、ピアレビューに適した第一線の研究者が当たるべきである。当該学問分野に精通している研究者が審査に当たっているかという点に関して、審査すべき分科細目と日本学術会議から推薦される審査員候補者の専門分野とのミスマッチは、分科細目の内容等を理解しやすくするためにキーワードを例示として付すことにより解消してきている。

c) しかしながら、ピアレビューを効果的に機能させるためには、日本学術振興会において審査員の候補者情報を多数蓄積し、審査すべき分科細目に応じた適切なレビューアを選任することが必要と考えられる。その際、あらゆる学問分野において、毎年8万件にも及ぶ科学研究費補助金の研究計画調書を適切に審査するためには、審査員の候補者情報を多数蓄積するとともに、常に新たな候補者情報の追加や更新を行っていくことが必要であり、この場合にも、日本学術会議や学会等の協力が必要と考えられる。そのような協力も得つつ、蓄積した情報をもとに日本学術振興会において審査員を選考することが望ましい。

d) 研究者がこのような審査に携わることは、研究者の責務であることから、審査員の候補者情報の蓄積を図り、できるだけ多くの研究者が責任をもって審査に携わるような環境を整備する必要がある。
 一方、科学研究費補助金の申請件数に鑑みれば、研究者にかかる審査の負担が過重にならないように配慮することも大きな課題であり、1人あたりの審査件数を軽減する方策等を検討する必要がある。

キ)研究計画調書

a) 研究計画調書の記載事項は、各研究種目の性格に応じて、工夫されている。「基盤研究」においては、研究目的、準備状況、研究計画・方法、研究業績等について、それぞれ頁数を制限した上で、10頁の内容を基本としているが、特に「基盤研究(S)」については、より高額である点などを考慮し、研究者調書及びエフォートの記載を求めている。さらに、「特別推進研究」においては、研究の必要性、文献、研究者調書を追加し、より詳細な内容を記載する様式となっている。また、研究計画・方法と並んでその計画の実現可能性を見るために研究業績欄を設けている。
 一方、独創的な発想、特に意外性のある着想に基づく芽生え期の研究を対象とする「萌芽研究」の研究計画調書では、新しい研究分野の展開につながるような成果やその契機となることが期待されるものを選定する審査を行うため、研究業績欄は設けず、研究計画・方法を中心とした調書となっている。
 なお、英語による研究計画調書の記載は従前より全ての研究種目において可能である。

b) 科学研究費補助金制度においては、各研究種目の性格に応じて、研究計画・方法と研究実績のバランスを考慮した研究計画調書の項目を工夫しており、その点では現行の研究計画調書の内容構成は概ね適当と考えられる。

c) 今後、さらに適切な審査に資するために、研究計画調書における研究計画・方法についての頁数の制限を見直し、より具体的な計画の記載を求めることについて検討する必要がある。

ク)科学研究費補助金の応募対象

 学術研究の発展のためには、できるだけ幅広い分野の研究者の能力を活用していくことが望ましいと考えられる。このような観点から、科学研究費補助金の応募対象は、その目的にかなう限り広くするよう運用の徹底を図る必要がある。科学研究費補助金においては、大学以外でも、国や地方公共団体の研究機関、独立行政法人研究機関、公益法人研究機関をその対象として、近年、特に積極的に範囲を広げてきている。また、これまでも民間企業の研究者が共同研究者として、科学研究費補助金の研究課題に加わることは制度上可能であり、民間企業の研究者が参画する研究課題は、年間1,000件(平成14年度)に達している。
 しかしながら、幅広い分野の研究者の能力の活用を考えるに当たっては、科学研究費補助金が研究者の自由な発想に基づく優れた独創的・先駆的研究を格段に発展させることを目指し、学術の振興を図ることを目的としたものであり、その成果の公開を前提とするなど、公的性格の研究を助成対象としてまず支援しなければならないことに留意する必要がある。この点において、将来の利潤を念頭に置いた民間企業における研究と大学における公開前提の学術研究とはその目的・性格を異にするものである。このように、目的・性格の異なる研究を単一の競争的研究資金制度で推進しようとすることは合理的ではない。様々な競争的研究資金制度により研究が推進されている現状からすれば、それぞれの目的・性格を踏まえた対応がなされるべきものと考える。また、採択率の状況が示すとおり、現在の科学研究費補助金の予算は、必ずしも学術研究を助成するのに十分な規模とはなっていない。このような現状においては、科学研究費補助金制度の目的・性格に沿った方向での運営を進めていくことがまず求められることから、科学研究費補助金においては、民間企業の研究者を研究分担者として受け入れていく現在の仕組みについて、さらに周知徹底を行い、この制度の積極的な活用を図ることなどにより民間の研究者の参加を促進していくことが大切と考える。

ケ)年複数回申請

 年複数回申請は、迅速かつ機動的な研究費助成という点では利点もあるが、一方で、同じ申請を何度も繰り返すなど、申請件数の増加も予想される。年複数回申請の実現には審査・事務体制の充実をはじめ、解決すべき課題も多く、引き続き十分な検討が必要である。

コ)電子システム化とデータベース化

 科学研究費補助金制度に関する電子システム化は、研究者へのサービス向上の観点から、検討を進める必要があり、可能なところから電子システム化を図ることが望ましい。ただし、年間約8万件の新規申請課題を電子申請で受け付けるためには、研究計画調書の受付から書面審査、交付までの一貫したシステムとしての検討が不可欠であり、制度全体の電子システム化については、情報セキュリティの徹底を含め、十分な検討が必要である。

(5)研究成果について

ア) 科学研究費補助金は、学術研究の振興を目的としており、我が国の学術研究の活性化や水準の向上に資するものを助成している。学術研究の費用対効果を示すことは難しいが、一方で、現在の我が国の大学等における研究ポテンシャルは国際的にも高く、論文発表数は世界第2位、論文被引用回数は世界第4位となっており、ここ10年以上にわたりこのような高い学問水準を維持向上しており、これは科学研究費補助金により得られた研究成果の累積の結果といえる。

イ) 学術研究は公開前提の研究であり、その成果は、国内外の学界における研究者相互の評価という形で常に厳しい専門家の眼にさらされている。相互評価を通じて、発展可能性が適正に評価された研究成果は、次の研究に発展し、次の研究成果の創出につながっていく。我が国においても、この研究者相互の評価システムの中で、研究成果は不断に評価され、研究ポテンシャルが維持されていると考えられる。

ウ) 科学研究費補助金制度そのものにも、同様の仕組みが内在しているといえる。申請課題は、萌芽的段階からその研究計画、研究内容、申請金額の妥当性により、研究の発展可能性について審査される。課題採択後、その研究は国内外の学界の厳しい相互評価等にさらされ、研究成果について一定の評価を得たものについては、次の新規申請の際に評価され、継続的な支援が得られる仕組みとなっている。結果として、科学研究費補助金により世界最高水準の研究が推進され、新しい学問分野が創出されている。

エ) 学術研究は多様な観点から評価されるが、例えば、国内外の著名な学術賞の受賞という形で評価されている例も多々ある。また、実用化等により間接的・直接的に社会の発展に貢献している例も多い。しかしながら、学術研究の成果が評価され、研究者及びその研究成果が顕彰され、あるいは、実用化されるまでには一定の期間が必要であり、特に、著名な国際賞により評価されるまでには数十年の期間を要する場合もある。
 我が国においては、科学研究費補助金制度が長期にわたり運営され、その過程で優れた研究が継続的に支援されてきたことも事実である。我が国の学術研究がその健全性を維持しつつ、発展してきたことは、科学研究費補助金制度の成果の一つとして評価されるべきである。

オ) また、視点を科学研究費補助金による研究がもたらす効果に移すと、科学研究費補助金を獲得する優れた研究者のもとで大学院学生等が指導を受け、研究計画に参画しつつ研究者としての資質を身につけてきたというこれまでの大学における研究教育の状況に鑑みれば、科学研究費補助金制度が実質的な研究者養成及び研究者の資質向上に果たしてきた役割についても高く評価できる。

(6)中長期的観点からさらに検討すべき課題

ア)科学研究費補助金制度の全体像

 科学研究費補助金制度が大学等の研究推進に果たす役割の大きさを考えると、制度の在り方は、大学及び研究機関における今後の研究の在り方を左右する重要なファクターの1つである。したがって、今後とも科学研究費補助金制度を有効に機能させるためには、大学改革の進展を十分踏まえつつ、審査支援業務、補助金交付業務等の事務体制を含めた制度全体について不断の見直しを行っていくことが重要である。その際、科学研究費補助金による研究成果の創出から、社会への還元までの一連の仕組みの整備についても視野に入れる必要がある。
 なお、米国においては、競争的研究資金が獲得できない学問分野は廃れているなど日本の学術研究体制とは異なった状況もあるので、制度改革の検討に当たっては、競争的研究資金の観点だけでなく、我が国の研究資金全体という観点にも留意する必要がある。

イ)研究と教育の関係

 科学研究費補助金の制度設計の原点は、大学における教育と研究に要する経費をその設置者が措置することを前提としつつ、さらなる研究者の自主性に基づく学術研究を助成するというものである。そして科学研究費補助金については、前述のように、大学院学生や若手研究者に対する教育という機能を有するものであるが、それが科学研究費補助金の中でどれだけの割合を占めているかということを明示することはそもそも困難である。同時に、教育と研究が一体的に行われ、また、そのことに大きな意義がある大学の活動において、両者の割合を明確にすることや両者の経費を区分することも困難であるが、大学においては研究の在り方とともに教育の在り方についても検討する必要がある。
 特に、研究の要素が大きくなる大学院レベルにおいては、大学院教育の重要性を再認識する必要があり、米国の主だった大学の例に見られるように、まず教育機能を重視し、それが十分に浸透、確立した上で研究活動があり、その研究を支える資金が十分に用意されているということが大切である。
 我が国においても様々な競争的研究資金を充実し、大学における多様な研究を促進していくことは大切であるが、そのことが大学院教育に要する経費を圧迫するようなことになってはならないと考える。

ウ)競争的な給与・人事システムの構築

 研究者が魅力ある職業であることを社会に広めることは重要である。研究者を目指すことを奨励する意味も込めて、競争的研究資金により得られた研究成果を研究者の待遇に反映させることも、研究活動のインセンティブの向上の観点からは一定の効果を上げることが予想される。
 ただし、科学研究費補助金から研究者本人の給与を支出することは、我が国の研究者の雇用システムの根幹にも関わる問題であるとともに、直接的な研究経費が圧迫されることとなるものであり、研究費補助金の在り方として適当であるかなどについて、慎重に検討する必要がある。

エ)我が国における研究のコスト

 科学研究費補助金を含む我が国の研究費は、国際的に見ても割高となっている。まず、研究現場の状況把握に努める必要があるが、例えば、大学等における技術系職員の減少により、十分な研究支援を得ることが困難となり、独創性が発揮されるべき試作や装置開発に十分な時間を割くことができず、市販の装置や試薬、特に外国製品を使って研究を進めているという状況等があると考えられ、学問分野によっては米国の数倍のコストをかけて研究を行っていると推測される。このようなことは、これまでの我が国を取り巻く状況からすればやむを得なかった面もあるが、我が国の学術・科学技術の国際競争力の維持・向上の観点からは、ゆゆしき問題であり、我が国の研究とその支援に関わる者全体の問題として意識し、各方面において改善のための努力が払われるべきである。

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)