2.改革のための具体的方策 2.若手研究者の活性化に向けた制度整備

≪現状≫

○ 我が国の競争的研究資金の配分実績を見ると、50歳代を中心に分布している(40歳~44歳が15%、45歳~49歳が18%、50歳~55歳が22%、55歳~60歳が19%)。結果として、若手研究者が資金を獲得する機会が損なわれている(ノーベル賞の受賞対象となった研究時期等によると、多くの研究者が創造性を発揮する年齢は30歳から40歳)。

○ 我が国の競争的研究資金の多くは、申請書の内容が、研究計画自体よりも研究者の経歴、過去の業績に重点が置かれている。さらに、研究費の小規模な研究開発課題が多い。このため、若手研究者を中心に多数の申請を行わざるを得ない状況となっており、その結果、欧米に比べても、膨大な数の申請件数となり、評価に過重な負担をかける一因となっているものがある(科学研究費補助金(2002年度予算1703億円)で申請件数約85000(採択件数約21000)、NIH(2000年予算1兆7269億円)で申請件数約27000(採択件数約8600))。

○ 一部又は全部が若手研究者を対象とする制度があるが、全体の6%程度にすぎない。いずれも35~39歳以下といった年齢で限定している。また、若手研究者向けプログラムの1課題当たりの研究費は、同一制度内の他のプログラムに比べて少額の場合が多く、さらに制度によっては、若手研究者向けプログラムへの申請が、同一制度内の他のプログラムへ申請することを制限しているものがある。

○ 一方、米国では研究計画の評価に重点が置かれ、申請書では研究計画の部分が大きい。若手支援のグラントも多数存在するが、それらは年齢ではなく、研究経歴(例えば常勤職に就いて5年以内)で応募者を限定している。

○ また、米国では、若手研究者は任期を付して雇用し、その間の業績を評価して任期を付さない職を与えるテニュア制が、研究開発環境の活性化の源と言われ、ポストドクター、テニュアトラック、テニュアというキャリアパスが明確である。任期付のテニュアトラックがテニュアを獲得する際の評価基準に競争的研究資金の獲得が位置付けられ、その獲得インセンティブが非常に高い。

○ これに対し、我が国の研究者のキャリアパスを見ると、若手研究者(国立大学の助手、講師等)の大部分が終身雇用のため、競争的研究資金の獲得が昇進のインセンティブになっていない(第2期科学技術基本計画において、30代半ば程度までの若手研究者について、広く任期付任用を図ることとされているが、我が国の大学においては任期付任用は2%程度にとどまっている。)。

○ ポストドクターは出身校に留まる等流動性が低く、また、研究内容や専門知識が産業界のニーズに必ずしも適合していない。

≪具体的方策≫

(1)研究実績よりも研究計画の内容を重視した審査への転換

○ 研究の質の向上のためには、研究者の経歴や業績ではなく、研究計画で評価する体制に改めることが不可欠である。各制度の申請書の書式を改めて、1~2ページではなく、きっちりとした研究計画(例えば、米国のNIHやNSFでは、研究計画を15~25ページ程度で記載)で審査を行う。これに併せて、事後評価(必要に応じて中間評価)について、外部評価を含め配分機関側の評価体制を整備する。

(2)「研究者」を育てる制度への転換

○ 若手研究者の独立性を確立し、より流動的な環境の中で研究を進められるようにするため、若手研究者向けの競争的研究資金の拡充を図る。特に、若手向けの競争的研究資金制度については、若手研究者育成の観点から、単純な年齢による判別だけではなく、研究経歴による応募資格(例えば常勤職(特に任期付)に就いて5年以内)、他分野から移って来た多様な人材を排除しないこと等を含め、制度の見直し、充実を図る。

○ 交付される研究費が小規模な若手向け制度については、金額の規模を大きくすることを検討する(例えば、米国の代表的な若手研究者向けプログラムは、NSF(Career Program)が1200万円/年、NIH(K Awards)が1000~4000万円/年、両者とも研究期間は約5年間。一方、科学研究費補助金の若手研究Bは、研究期間2~3年で合計500万円)。また、若手プログラムへの申請が同一制度内の他のプログラムへの申請の制限を設けているものについては、見直しを図る。

○ 研究機関は、競争的研究資金を獲得した若手研究者(助手、講師、助教授)が教授等から独立して独自の研究開発を実施できるよう、研究従事者や研究実施場所を確保する。

(3)研究者のキャリアパスの再構築

○ 日本の若手研究者の活性化を図っていくためには、競争的研究資金制度の改革と共に、研究者のキャリアパスの再構築が不可欠である。そのためには、大学等研究機関は、若手研究者を中心に、広く任期付任用(米国でのテニュアトラック)を定着させ、その段階における業績評価の主要な項目の一つとして、競争的研究資金の獲得を位置付ける。

○ 助手、講師、助教授の教授からの独立性を向上させるため、学校教育法における助手、講師、助教授の職務や名称を定める規定の見直しを行う。

(4)ポストドクター及び大学院生の育成

○ ポストドクターは、テニュアトラックへの前段階として、研究者のキャリアパス全体の中での位置付けの明確化を図っていくべきである。また、日本のポストドクターは流動性が低いが、今後、競争的研究資金による雇用型の支援を拡大し、人材の流動性を高めていく。

○ 競争的研究資金による研究開発課題にポストドクター及び大学院生(修士課程を含む)が参画する場合には、研究開発の実施においてポストドクターや大学院生が費やした労力や時間、また、その能力や役割に応じた給与を与える。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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