学術研究推進部会(第18回) 議事録

1.日時

平成20年1月31日(木曜日) 11時30分~12時15分

2.場所

文部科学省 3F 1特別会議室

3.出席者

委員

白井部会長、中西部会長代理、飯野委員、井上孝美委員、上野委員、西山委員、家委員、井上明久委員
(外部有識者)
北原 保雄 学生支援機構理事長

文部科学省

林文部科学審議官、徳永研究振興局長、合田総括審議官、藤嶋政策評価審議官、藤木大臣官房審議官(研究振興局担当)、伊藤振興企画課長、森学術機関課長、松永研究調整官、磯谷学術研究助成課長、袖山学術研究助成課企画室長、戸渡政策課長、江崎科学技術・学術政策局企画官、町田国語課長、後藤主任学術調査官、門岡学術企画室長 他関係官

4.議事録

【白井部会長】

 それでは、科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会第18回会合を開催します。
 配付資料について、事務局より説明をお願いします。

【門岡学術企画室長】

 資料については、次第の2枚目にあるとおり、資料1から資料4、参考資料1、2、3が配付されていますので、欠落等があれば、お知らせいただきます。
 以上。

【白井部会長】

 それでは、早速議事に入ります。
 きょうは国語の関する学術研究の推進についてご審議いただく予定です。日本学生支援機構理事長でいらっしゃる北原保雄先生にお越しいただいています。北原先生におかれましても、大変ご多用の中、ありがとうございます。我が国の国語研究の現状、課題について、北原先生からご意見をいただくこととしております。それでは、このたび、本部会では、国語に関する学術研究の推進について議論する背景について、まず、事務局より説明をお願いします。

【松永研究調整官】

 それでは、資料に沿ってご説明申し上げます。資料1と資料2が平成19年、昨年2月の文化審議会の答申です。この答申は、文化芸術振興基本法に基づいて、政府が作成することとされている文化芸術振興に関する基本方針の内容について審議されたものであります。資料1がその抜粋となっております。「国語の正しい理解」という項目で文化の基盤としての国語の重要性を踏まえ、社会全体としてその重要性を認識し、国語に対する理解を深めるなどの施策として、一番下のところであるが、「国立国語研究所や大学等の関係機関における調査研究の充実を図る」ということが求められております。
 この答申を受けて、このたび学術の観点から、大学等における国語に関する研究の推進についてご審議いただきたいと考えておりますが、資料3がこの後、問題提起、ご意見の発表していただく北原先生からご提出いただいた資料であります。
 資料4、1つ飛ばして、以下は参考資料でございます。先ほどご紹介した文化審議会の答申以後の動きとして、参考資料1は本部会の「人文学及び社会科学の振興に関する委員会」のほうで審議されている状況で、昨年8月にまとめられた審議経過の概要です。内容の説明は省略いたします。
 それから参考資料2です。参考資料2は、昨年12月24日に閣議決定された独立行政法人整理合理化計画の抜粋であります。一番下の別表というところで、独立行政法人国立国語研究所については、組織の見直しとして、「大学共同利用機関法人に移管する」ということが決定されております。
 あと参考資料3で、我が国の国語学等の現状に関する基礎資料として、大学における関係の研究科、専攻と関連する学会について一覧としたものであります。適宜ご参照いただければと存じます。
 私からは以上です。

【白井部会長】

 ありがとうございます。ご説明にあったような経緯ですが、昨年の2月の文化審議会の答申があったが、それを受けて、本部会としては国語に関する学術研究の推進についてということで今後審議する必要があると思います。
 きょうは最初に、北原保雄理事長から、ご専門の立場から国語に関する学術研究の現状、それから課題についてご意見をちょうだいしたいと思います。よろしくお願いします。

【北原学生支援機構理事長】

 ご紹介いただいた日本学生支援機構理事長の北原である。大変ありがたい機会を与えていただいて感謝いたします。時間は15分で。

【白井部会長】

 15分ぐらいということで、適当に。

【北原学生支援機構理事長】

 なるべくまとめてお話をしたいと思います。
 まず、「国語研究は科学である」と。そんな当たり前だとお思いかもしれないが、どうも小学校でも国語の先生がいて国語を教えている。高等学校でも国語があって、大学でも国語というと、何か国語についての正しい理解という文化審議会のようなとらえ方で、研究ではないのではないかと誤解されている方もいらっしゃるかもしれないので、ちょっとその辺について説明する。
 大学に入ると、国文科がある。国文科というのはどうも大学だけで、国語というのは小学校と同じことをやっているのではないかという誤解を解きたいと思う。これは国語研究だけではないが、言語研究一般であるが、言葉の仕組み、決まり、ルール、これの発見と簡単に言っていいかと思う。
 ただし、そのルールというのは自然科学などと違って、実験によって証明することができないようなものが多い。そこにGod’s truth linguisticsというのと、hocus-pocus linguisticsというのを書いておいたが、God’s truthというのは、言葉の仕組みというのは神様がつくったんだと。どこにあるかわからないけど、神様がつくったものとして原本的にあるという考え方の言語学である。それからhocus-pocusというのは、ごまかしとか、作り話。要するに研究者がでっち上げた虚構であると。決まりなんてないというような考え方。両極端の言語学の立場であるが、いずれにしても、言葉には決まりがある。神様がつくった決まりがある。けれども、それを私どもの面前に出してくるのは人間であって、その立場、あるいは研究方法によっていろいろなルールが出てくる。それも正しいけれども、これも正しいと。
 例えば、富士山よりも筑波山のほうがわかりやすいが、筑波山はこぶが2つあるが、あれは方向によって、筑波山は2つこぶがある山だというのも正しいし、方向によっては頂上は1つしかないという。あるいは飛行機から見れば、丸っこいという。どれも全部正しいが、それは立場によって、研究方法によって違ってくるということの例えになろうかと思う。
 我々のやっている国語研究というのは、そこに書いておいたように、まず、調べてみて、こういうことが言えそうだという仮説が出てくる。その仮説がほかの経験的事実にも広く適用されるものであることの検証が行われて、反証が今のところ一つもないということであると、その仮説は法則になると。こんなような手順である。それと同時に、そういう特定の法則を説明するような理論が立てられる。その理論によって、さらに新しい仮説が想定されて、それが事実によって検証されて、また法則ができる。そういうような形で、これを科学的ではないとおっしゃると困るが、私どもはそういう方法をとる研究をやっていて科学であると。決して作文の指導とか、国語の教育が国語研究ではないということをご承知いただきたい。
 先ほど実証ができないということも申したが、自然科学は実証ができるという言い方をしたが、国語研究でも非常に単位が小さいところでは実証できる。音韻とか音素とか、そういうものを組み合わせるとこういう音が出るとか、そういうことは言える。自然科学の場合も元素や分子や、もっと小さいところであると証明できるが、大きな、例えば地震だとか気象だとか、そういうふうな単位になると、実証ができていないのではないか。地震が起きる起きると言っても起きない。起きないと言っているところから起きると。後で言うと、混乱をさせると悪いから、断層があったけれども、隠したとか、そういうようなことを言ったりするが、大きなところは証明できない。そういう点では自然科学だけが実証可能であるという言い方はできないと思う。
 2番目に国語研究の分野は多彩であると書いておいたが、非常に多種多様である。まず、言葉の対象は時代によって全部ある。日本語、国語も文献が存在すれば、そこから言葉ができる。今のところ奈良時代の録音資料というのは出てこないが、文献資料で七、八世紀からずっと現在、現代でも、明治と大正と昭和と平成は非常に言葉が違っている。各時代について研究ができる。それを簡単に国語史研究と言っておく。それから方処、場所によって、これは方言研究というのを思い出していただくとわかっていただけると思うが、北海道から沖縄まで、いろんな場所でいろんな言語がある。これが全部研究対象になる。ですから、明治のころの沖縄というようなマトリックスができる。
 それから明治の大阪と限定しても、そこの言葉がいろんな分野というか単位があって、そこに1.から10.まで挙げたが、これは私のつくった朝倉書店の日本語講座全10巻の巻立てであるが、もっと細かくすればできるが、10巻にしたと。文字の研究、表記の研究、音声・音韻、語彙・意味、それから文法、文章・談話、敬語、言語行動、方言と。そういういろいろな研究の切り口があって、これが各時代の各地方、地域での言葉、それぞれについて行われて、大変多彩であると申し上げていいかと思う。
 そういう国語研究をどういうふうに推進していくかということであるが、3番目として、「共同研究・大型研究の必要性」ということを挙げたが、国語研究は、先ほど申したように、ある人がある立場からやるという、きわめて方法論に特性があるので、個人の立場で進められるものが今までは主流であった。しかし、多数の研究者が共同で進めている研究もある。その代表的なものが国立国語研究所の調査研究、特に方言とか言語生活の研究である。それから若い人の中には、最近は同一テーマで共同研究を進める者がたくさん出てきている。
 それからそこに書いておいた大辞典の編纂。これは小学館で『日本国語大辞典』という大きな辞典をつくっており、75万項目ぐらい入っている。私もその委員の一人であったが、大辞典は国がつくる。国の金でつくるぐらいのことを考えていただいたほうがいいので、一企業に任せていくような事業ではないだろうと思っているが、共同研究でやると。
 それから言語生活調査というのは、これは国立国語研究所が昔よくやったが、日本でどういう言葉が行われているかという実態調査、それからその研究、これが国語施策に関連してきたりする。それから文献語彙索引(コンコーダンス)、膨大な文献資料がある。文献というと、文学的に価値があるような文献と想像されると困るので、言葉の資料としての文献というのは、東大寺の柱に書いてあるいたずら書き、大工さんが書いたいたずら書きをはじめ、その辺の紙1枚というのも言葉が書いてあれば、これは文献として価値がある。どの時代にどういう言葉があったか。現在どういう言葉が行われているかという文献に載っている言葉のコンコーダンスというのが整備される。これも一つの大学、一人の個人でやれるものではない。
 それから国語施策のため、政策と書いたが、施策・政策のための基礎調査・研究。これも個人でやるというよりも、共同でやる大型のものである。あるいは国のレベルで特別予算をとってやったほうがいいというものである。
 それから4番目の研究資料センター設置の必要性ということであるが、国語研究の資料がある人に私的に私蔵されると、なかなかほかの人が利用できない。そういうようなことがあって、なかなか手に入らないような資料は独占されないように、コピーでも言葉の資料としては結構だと思うので、収集して、それが広く公開されるということが必要だと思う。それからそういう研究対象としての言葉の資料だけではなくて、研究成果、これもまとめたセンターがあると、皆さんが利用して、国語研究が全体的に推進する。そこに書いておいたように、研究対象資料、これは文献とか基礎データ、それから研究成果、論文などを集めたセンターが必要である。
 このセンターでは、ただ集積するだけではなくて、収集して整理して、これを提供するようなことがしっかりとできないといけない。すぐ近くに国文学研究資料館、伊井先生のところがあるが、これと一部重なるが、また違う分野があるので、この設置が必要だろうと。
 それから、国語研究を推進するために最も重要なことは、研究者を枯渇させないことだ。研究者の確保であると。お金で施設をつくる、あるいはお金で研究を進めるというのももちろん大事だが、国語研究は余り多くの金は要らない。というと、急に落とされるかもしれないので、ちょっとここは丁寧に申し上げるが、自然科学に比べてということ、自然科学のあの膨大な何十億なんかに比べて金が要らないということであるので、ぜひ誤解のないようにお願いしたい。
 強調したいのは、人と時間である。かなり地味なものであるけれども、人が必要である。最近、非常に研究者人口が減っている。それから若者の志望が少なくなっている。国語なんていったら世界から来ないんだから、日本語研究であるが、ここでは国語ということで、私は日本語という言葉は使わないが、私の著書の中で、国語と書いてある本は1冊だけで、何冊あるとは言わないが、全部日本語を使っている。大学院は今、国語を専攻する学生の8割ぐらいは外国人じゃないかと思う。日本人の学生は入ってこない。これはなぜかというと、将来性がないから。卒業しても行くところがない。そういうことがあって、これは私は大問題だと思っている。
 じゃあ、どうしたらいいかというと、国語を研究していく人を確保する。それはどうしたらいいかというと、大学や研究所に研究者が所属する、そういう場所を確保する必要がある。大学で、そこにも書いておいたが、国語の重要性が非常に叫ばれている。ところが、ほんとうに国語を教える人がいるのかということで、私は例えば教育学部の教員志望の人には理系でも体育でも全員の人に国語を教える。そうすると、先生が必要になる。それからほかの法学部だって国語をもっと教えなければいけない。教えるのは研究ではないが、教えて日本の国語力を高めることでお金をもらいながら、その一部の人はもっと研究をする。要するにその世界が活性化しないと、国語の振興はないと思っている。研究に対してのお金も大事であるが、人を増やす方策というのをぜひお考えいただきたい。
 これは思いつきではなくて、実は日本学術会議の19期でしたか、平成17年8月29日に学術の在り方常置委員会で新しい学術の在り方というのをまとめて、そのとき、私、常置委員会に属していたので、そこに私の報告を書いた。同じようなことを書いておいたが、研究者を確保するのと、研究者に希望を与えるということが非常に大事だと思う。ここにも書いたのを思い出したが、研究者に文系は賞が非常に少ない。私なんかは自分の所属する日本学会で「賞を出せ、賞を出せ」と言うけれども、文系の人は非常に奥ゆかしくて、賞なんてどうして出すのと。あるいはあんな人からもらっても賞はうれしくないでしょうとか、そういうことを言うような風土があって、それはいけないと。
 文科省でも受賞すると昇級していいよなんていうのを10年前におふれをもらって、私は理系の人を昇級させたりしているが、文系はそういうのが非常に少ない。国語は特に少ない。ですから、希望を与えるというのは、将来と、それからいい研究をしたら賞をやると。これはここでお願いしてもしようがないので、私どもで頑張る。
 まとまらないが、私のお話をこれぐらいにする。

【白井部会長】

 ありがとうございます。まだほんとうはたくさんお話をされたいことがあると思いますが、一応時間の制約があるので。
 それでは、ご質問とか、ご意見とか、よろしくお願いします。

【伊井委員】

 国文学と非常に密接なところで、身につまされるようなお話をお聞きしたけれども、4番目の提言の中に「研究資料センター設置の必要性」というのはどういうふうな、上の3番のようなものをまとめてセンターをつくったほうがいいとお考えの提言なのでしょうか。そのあたりだけをお聞かせいただければ。

【北原学生支援機構理事長】

 一応、(3)と(4)は別の気持ちでお話ししたが、共同研究をする場をこの研究資料センターにくっつけるということは可能だと思う。共同研究は3つか4つの大学の人たちでもできるし、それから大型研究はあれだが、大辞典の編纂とか、こういうのは一大学ではできないと思うので、黒ポチの2番目あたりは(4)のほうへ行くのか。一応、話としては別にしたが、一緒にやれたらいいと思っている。同じ場所で。

【井上(孝)委員】

 今、我が国の国民全体、特に若い人たちの国語力の低下が指摘されていて、中教審でも先般の1月17日に学習指導要領の改訂案の中で、小・中・高等学校を通じて、国語力の充実、特に言語力を、単に国語だけではなくて、他の教科でも表現力とか記述力とか、そういうのを増進するための言語力育成を重点課題にしているが、考えてみると、そういう教員の養成段階で、今、開放制だから、小学校は閉鎖制であるが、教養学部なり、あるいはほかの学部で教員になる人たちの国語教育というのはほんとうに充実しているのかというと、今お話のように非常に心もとないので、やはりそれを大学レベルで教育するには、研究がそれだけ充実して、その研究成果が大学教育にも生かされるというのが必要だと思うので、そういう点で、今後、研究を推進するためのセンター的機能がどうしても必要ではないかと私も思っている。そういう意味で国語研究所が従来の機能をさらに向上するという意味で、学術研究センターとして、日本の国語研究者の拠点として国語教育を充実する上でも非常に大きな期待があると思うが、そういう点についてはどう考えるか。

【北原学生支援機構理事長】

 ありがとうございます。おっしゃるとおりで、国立国語研究所に限ってきょうはお話ししていないが、国立国語研究所は、(3)とか(4)の機能を果たしてもらうとありがたい。学校の教員の国語的能力の向上、これは研究は国研などでやってもらいたいし、各大学でやってもらいたいと思うが、私は国語の先生だけではなくて、ほかの教科の先生が言葉を乱しているのではないかと。
 実はきのうもあるところの雑誌のインタビューを受けたが、そのときに先生は目線を子どもまで下げてしゃべっていると。これはいけないので、先生は先生なんだから、もうちょっと敬語を使ったほうがいいということをお話しした。「おまえらこっちへ来い」とか言って先生がやっている。あれではみんなおまえらになっちゃうので、「皆さん、こちらへ集まりなさい」とか、「いらっしゃい」とか、先生はもうちょっと言葉について敏感でなきゃいけない。そんなことも含めて、効果的にここはこういう言葉を使うとか、ここはこういうのを使う。そういう知識が先生にあれば、別にいつもいい言葉を使っていなきゃいけないわけではないが、先生になる人には大学で教育する。そのために人は必要であろうから、とにかく国語研究の推進のために人を確保したいということ。

【中西委員】

 言葉というものは文化そのものだと思う。人の考え方とか、生き方に深く関わる。日本語を使ってきたということは、それなりの文化をつくってきたことだと思う。よって、それを守って育っていくということは非常に大切だと思う。ただ、漢字ということを考えると、漢字というのは意味をあらわしているものだから、アルファベッドと違ってアナログ的である。よって、デジタルでない頭が育つという意味でも、日本語をはじめ、漢字圏の人の発展させる科学には特徴が出てくると思う。そういう面からも漢字というものを非常に大切にしていくべきだと思う。このような切り口で科学との接点、言語という立場からの切り口は余り議論されていないのか。脳研究との関係までいかなくても、科学技術そのものの考え方の特徴も発展させてほしい。また、アメリカ人がいろいろ言って彼らが納得する論理と、日本人同士で話していて納得される論理とは異なると思う。やはり言葉に基づいた考え方だと思うが。

【北原学生支援機構理事長】

 細かく入るといろいろな研究があって、またそれは研究の方法について議論していただければ。でも、確かに漢字文化圏の特色というのはあると思う。それをどういうふうに人間の思考と結びつけて分析するかというのは大事な問題だと思う。

【徳永研究振興局長】

 単純な質問して、私のつたない知識で。言語学が科学としてかなり認知され確立されたのは、インド・ヨーロッパ語族の発見だと私は理解しているが、そういう意味で比較言語研究というのがヨーロッパでは中心であるが、そういうヨーロッパで行われている比較言語研究みたいなものと日本の国語研究というのは性格が違うのか。あるいは現在、国語研究所では比較言語研究みたいなのは行っているのか。そういうのはむしろ大学なのか。その点について。あるいは今後、先生が推進すべきとされている国語研究という中にはそういうものも含むのかどうか。そこだけ教えていただければと思う。

【北原学生支援機構理事長】

 比較言語学というのはインド・ヨーロッパ語族というもとがあって、それから分かれてきたような言語を対象に可能だった。日本は日本の祖語がタミールだとか、ウラル・アルタイだとかいろいろあるが、そういうふうに分化してきたところがまだ押さえられていないということで、朝鮮半島の言葉と日本語がどうも関連があるので、いろいろ研究されたこともあるし、今、タミール語と日本語を比較言語学的なことでやっている方もいるが、むしろ今は対照言語学、comparativeじゃなくてcomtrastiveな対照言語学というほうがあれで、アメリカの英語と日本語はどういう関係になっているか。今、中西先生がおっしゃったような。そういうようなところのほうがむしろ主流であるということと、新しい比較言語学、先ほど申した祖語があって分かれているが、今新しくもなくなったが、ノーム・チョムスキーという人は、人間の言語能力というのは1つであると。深層では1つであると。それが各言語に分かれて表層になっていると。そういうとらえ方で、MITに留学する人たちは外国からどんどん来てくれと。それであなたの言葉で実験してみてくれと。英語の理論と日本語の理論が違うのは表層が違うので、中身が違うんだ。同じ系統でとらえるにしても、時代で国ごとにやるのと、今はむしろ人間の脳の中のどういうふうにジェネレートされていくかという、そういうのも大きな流れである。私がきょうお話ししたのは、全然その話は入っていなくて、国語研究の分野というのは日本語を研究するそのものみたいなとらえ方だったものだから、ちょっと話が狭かったかもしれない。

【白井部会長】

 ほかにありますでしょうか。

【上野委員】

 ありがとうございます。北原先生が(5)にお書きの1項目の国語研究を推進するために最も重要なことは、研究者を枯渇させないことだとおっしゃっています。この点に大変賛同します。私、人文学及び社会科学の振興の委員会に入れていただいており、国語も含めた人文的なことの必要性をずっと学んできたが、この前、樺山先生のお話を伺って、その中で、「人文学は基礎学としてある。それから教養教育ないし理論的な統合の基盤になる」とおっしゃるお話に私自身も感銘を受けましたが、理系の方々、異なるジャンルの方々が大変そこで人文学の意義を納得されたような説得あるお話だったと承った。
 それで今のお話から、研究を枯渇させないということと、もう一つ、教育のほうで人文的素養が大変低下しているという、言葉の扱いのみならず、思考力を含めて、教育に非常に危機的な状況があるというのが、今、社会科学人文の振興が最も必要だと私自身は考えている。そうすると、先生が今おっしゃった中で、研究者を枯渇させない。一方で、研究を活性化させるということが、教育のほうでも国語的、人文的なものに対する、今必要であるが、それに対する機運をさらに広めることができるという意味で、研究と教育を両方サポートしないといけないと思います。そこまでは全く同じであるが、それで、私、教員養成におりますので現状を見まするに、国語のジャンルというのは非常に細分化が激しい。それで教育に当たっても、境界領域、学際領域と言いつつ、そこで考えたり、貢献したりしようとおっしゃる発想がこのジャンルからは出にくくなっているという状況が私にはあるように思えます。
 ですので、これからきょうご提案があると思いますが、それを進められるに当たって、最先端の国語研究を振興させるということとともに、国語研究の研究者の育て方、あるいは国語研究のすそ野をもう少し細部に至る先端的な研究とともに、その先端をどういうふうに教育なり、きちんと活用ないし応用しているかという観点でお考えの方を入れていただいて、その研究と教育が峻別されないような国語研究の振興のあり方というあたりをお考えいただいたら、先ほどの研究としてのサポートするという観点からも少し貢献できるものになるのではないかと思いました。以上です。
 以上。

【北原学生支援機構理事長】

 ありがとうございます。私も全くそのあれで、きょうは研究についてであるから、研究者を確保するためにはという話をしましたが、国語のレベルアップについては、国語の先生が大学の全学生に教育するようなことをさせていただければ、それだけ人の確保ができるし、研究者のすそ野が大きければ、絶対に頂上も高くなると思います。
 それから、これは国語に関するということで国語という言葉しか使わなかったが、人文科学一般に、文学はもちろん近いが、人文科学一般に言えることであって、私の先ほど申し上げたレポートでは、人文科学の立場からというようなことで書いておりまして、人文科学全体に共通することであると思っております。

【西山委員】

 今、北原先生がおっしゃった教える人を増やしていくというのは、大いに推進していただきたいと思いますが、もちろん教える人が増えるということに伴って、日本人に対してよりよく正しく教えていくという人が増えることは大いに結構ですが、今、非常に国際化が進展する中で、留学生とか、諸外国から日本に来る人も非常に多いということで、日本の文化、日本の特性ということをよりよく理解する中でいろいろなことに協力していくことになるわけだから、一番根本的には日本の言語を理解していただく中であったほうがよりよく交流が進むし、理解できる。そういう点からも、そういうことも意図して教える人が増えていくということが望ましいと思います。ですから大賛成であるので推進していただきたいと思います。

【白井部会長】

 よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。

【北原学生支援機構理事長】

 ほんとうにありがとうございました。

【白井部会長】

 それでは、きょう決めていただかなきゃいけないことが1つございます。それは今お話しいただいたことにも基づいて、国語に関する学術研究の推進について、より専門的に審議するために、この部会のもとに、資料4にあるような委員会を設置したいということであります。今の議論もいろいろあったように、やはりもう少ししっかりと議論を詰めておいたほうがよろしいということかと思いますが、それをご了解いただけますでしょうか。
(「異議なし」の声あり)

【白井部会長】

 ありがとうございます。それでは、部会を設置させていただきます。これに属する委員、臨時委員、専門委員については、学術研究推進部会運営規則第2条第3項に基づき、部会長である私から指名を行い、今後、必要な手続きをとるとなっているので、それに従ってやらせていただきます。よろしくお願いします。
 以上であるが、ほかに、事務局等で何かあるか。

【門岡学術企画室長】

 次回の日程については、調整の上、改めてご連絡いたします。また、本日の資料については、机上にお残しいただければ、後ほど郵送いたします。
 以上です。

【白井部会長】

 どうもありがとうございました。

── 了 ──

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研究振興局 振興企画課