学術分科会(第24回)・学術研究推進部会(第17回)合同会議 議事録

1.日時

平成19年11月2日(金曜日) 13時~15時

2.場所

東海大学校友会館 「朝日・東海・三保」

3.出席者

委員

(委員(※))
野依会長、佐々木分科会長、井上孝美委員、上野委員、笹月委員、中西委員、深見委員、家委員、石委員、井上明久委員、井上一委員、甲斐委員、小林委員、巽委員、塚本委員、水野委員
(外部有識者)
平山 英夫 高エネルギー加速器研究機構理事
(科 学 官)
清水科学官、福島科学官、吉田科学官

(※)委員総数31名中出席15名、1名から委任を受けて、定足数を満たし本会議は成立した。

文部科学省

徳永研究振興局長、合田総括審議官、藤嶋政策評価審議官、岩瀬科学技術・学術総括官、藤木審議官、藤原高等教育企画課長、鈴木高等教育局企画官、中岡大学振興課長、戸渡政策課長、伊藤振興企画課長、森学術機関課長、菱山ライフサイエンス課長、袖山学術研究助成課企画室長、加藤量子放射線研究推進室室長補佐、松尾研究開発戦略官、門岡学術企画室長 他関係官

4.議事録

【佐々木分科会長】

 それでは、ただいまから科学技術・学術審議会学術分科会(第24回会合)及び同分科会学術研究推進部会(第17回会合)の合同開催を始めます。
 本日は、野依会長にもご出席をいただいております。それでは、配付資料の確認を事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】

 資料については、議事次第2枚目のとおりにご用意させていただいております。欠落等があったら、お知らせいただきたいと思います。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 それでは、議事に入ります。
 まず、1番として、長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策についてご審議をお願いします。
 10月18日の科学技術・学術審議会総会において、渡海文部科学大臣から、長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策について諮問がありました。この諮問に対する具体的な審議については、野依会長より、本分科会及び研究計画・評価分科会に付託されたところであります。
 付託に当たって、野依会長より、本分科会と研究計画・評価分科会の合同で審議を行うなど、相互に連携を図りつつ審議を行うことが要請されたところであります。これを踏まえ、本付託事項については、両分科会の合同による専門の委員会を設置し、その委員会で検討を進めることを提案させていただきたいと思っております。詳細については、これから事務局から説明をお願いするが、それを踏まえて審議のほど、よろしくお願いします。
 まず、審議に先立ち、本諮問に至った経緯について事務局より説明をいただき、質疑応答を行いたいと思います。
 それでは、藤木審議官からよろしくお願いします。

【藤木研究振興局担当審議官】

 それでは、ただいま佐々木分科会長からお話があったように、先月18日に開催された審議会総会において、大臣から長期的展望に立つ脳科学研究の基本的構想及び推進方策についてということで諮問をさせていただいたので、その背景、経緯について若干ご説明を申し上げたいと思います。
 まず、我が国全体として社会が大変高齢化してきて、あるいは多様化、複雑化しているという状況が進む中で、うつ病、認知症などの精神神経疾患等、心に問題を抱える方の数が著しく増加してきているという大きな社会問題が生じております。そんな背景もある中で、人間の脳は、認知、記憶、思考、情動、意志などをつかさどる、いわば人間が人間であることの根幹をなす心を生み出す基盤であるということで、このような脳に関する研究は、ほんとうの意味で人間自体、心を理解するというための科学的基盤になるということと、心の理解、人類社会の調和と発展といった、そのようなものにつながる科学的価値の高い成果も生み出す研究であるし、先ほど社会の高齢化等々の問題を触れさせていただいたけれども、そういう社会問題の解決にも資するものと期待されていると考えております。
 そこで、近年では、さまざまな研究の道具が非常に発展してまいりました。生物関係でいうと、いわゆる遺伝子の全塩基配列が解読されるといった分子生物学的な進展も著しくあるし、あるいは、動物や人間の体を外部から精密に見ることができるさまざまな外部分析計測技術なども大変進歩しておりまして、そのような成果を用いて、脳科学研究も大変従来とは異なった様相を呈してきていると認識しておりまして、これらの有力な道具あるいは研究成果を使うことで、これまでもちろん大変多くの研究がなされているところですが、記憶や学習などの脳機能、あるいはそれらを生み出すメカニズム、そういったものをさらに具体的解決、解明していけるのではないかということで、そういった科学の発展に大きく貢献できる研究分野であるということでもあるし、先ほどから何度か触れさせていただいているアルツハイマー、うつ病といった精神神経疾患の病気のほんとうの原因の解明、それに基づく予防、治療法の開発、あるいは脳からの情報で直接制御される身体補助具の開発など、さまざまな面で人間生活の質の向上といったところに大きく貢献できる研究分野でもあると考えているわけでございます。
 さらに、これは脳の記憶や学習のメカニズムというものを解明するということにつながりますので、将来的には、教育への応用といったものも期待されると考えられますし、こういったさまざまな学術的価値あるいは社会的価値を生み出すということが大変期待されるのが現段階の脳科学の状況であるということから、現時点で積極的に研究開発を進めて、その成果を社会に還元していく努力をしていくべきであると考えた次第でございます。
 そのような考え方に沿って、このたび脳科学について長期的あるいは根本的に国としてどう取り組むのかといったことについて、ご検討をいただく必要があると考えて諮問をさせていただいたという経緯でございます。
 そこで、総会においてもお願いをしたところですが、今後の審議に当たって、脳科学という分野が自然科学から人文・社会科学まで含む大変広い総合的学問であるということであるから、これについて、ともすると脳科学というと自然科学の研究であるというとらえ方があるかと思うけれども、それよりもずっとずっとすそ野が広いものだと考えておられますので、そういった人文・社会科学まで含めたさまざまな観点から、今後の研究のあり方についてご検討をお願いしたいと考えております。
 それから、これから脳科学研究、今申したように大変総合的な学問分野であると思いますので、それにかかわる研究者の方々、あるいは機関も大変多様、広いのではないかと思いますので、これから脳研究を進めるに当たって、大学や大学共同利用機関、独立行政法人などにおけるそれぞれの研究の推進体制もあるけれども、その連携のあり方、あるいはそれらに共通した問題として、脳科学の研究人材の育成のあり方などについてもご検討をお願いしたいと思っています。
 それから、これは先ほどの人文・社会の話とも関係いたしますが、やはり人間の脳に何らかの形で触る、関係、関連するという研究分野が非常に多く出てくるわけであるので、倫理的側面をはじめとする脳研究を行うことの社会への影響といったものがいろいろ予想されると思うので、研究を進めるに当たり、あるいは研究の成果を活用するに当たって必要な倫理的側面、社会との調和等についてもご検討をお願いしたいと考えております。
 今回の諮問については、さまざまな学術的側面、社会への活用の側面、先ほどの病気、疾患等の社会問題の解決に資するという側面等々、多々あるということで、それらのすべての面から審議していただくということで、この学術の分科会ともう1つ研究計画・評価分科会にも付託されたという状況でございます。どうかこの本分科会におかれても、研究計画・評価分科会と相互に連携を図っていただきながら、幅広い観点からご審議をお願いしたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

【佐々木分科会長】

 どうもありがとうございます。会長、何か一言ありますでしょうか。

【野依会長】

 特にありません。

【佐々木分科会長】

 よろしいでしょうか。それでは、これまでの経緯についてただいま説明がありましたので、委員各位から何かご質問等があったら、ご意見をお出しいただきたいと思います。
 それでは、この議題についてはまだ審議があるので、後でまた追加的にご質問もいただければと思います。
 それでは、事務局から脳科学委員会の設置について説明をお願いします。ライフサイエンス課長、よろしくお願いします。

【菱山ライフサイエンス課長】

 ライフサイエンス課長の菱山です。よろしくお願いします。
 資料1-3をごらんいただけますでしょうか。資料1-3に、脳科学委員会の設置について(案)というのがあります。これに沿って設置の趣旨、主な検討課題、設置の形態等についてご説明を申し上げたいと思います。
 まず、設置の趣旨でありますが、今、藤木審議官からご説明申し上げたように、脳というのは、認知、記憶、情動、意志等をつかさどる人間の本質をなす器官だということでもありますし、また、脳科学という学問自体が非常に自然科学に残された最大の未知領域の1つだということとともに、非常に幅広いものであるということである。心理学や認知科学、社会学、教育学等、人文・社会科学とも融合した分野だということであって、非常に横断的であり、かつ総合的な科学であるということが言えます。
 また、近年、ヒトゲノムの全塩基配列の解読や、そういった分子生物学の進展、情報科学や非侵襲的に外部から脳の内部を計測する技術の発展、そういった脳科学研究を大きく進展させる手段が発達してきているところであります。こうしたことから、脳科学研究を進めることによって、まず基礎的なところとしては、記憶や学習などの脳の高次機能の解明が進められるだろうし、また、うつ病等、認知症等の精神神経疾患の病気の原因の解明、あるいは予防法や治療法が新しく開発されるだろうといったこと。それから、脳からの情報を取り出したりすることによって、自由に考えたとおりに動く身体補助具や、視覚や聴覚を補助する機械の開発等が可能になってきているという状況でもあります。
 また一方で、これも先ほどご説明申し上げたように、脳科学研究は社会への影響が非常に大きいということが予想されるということであって、倫理的側面をはじめとして、社会との調和に配慮した研究を進めていくことが不可欠であります。このように非常に幅広い脳科学であるので、我が国における脳科学に関する研究開発計画の作成、あるいは推進並びに学術研究の振興及び評価に係る事項を総合的に調査審議するということで、脳科学委員会を設置していただきたいというものです。
 それから、主な検討課題ですが、そこに4つほど挙げられております。まずは、脳科学研究の基本的な構想と推進方策ということで、脳科学研究を進めるに当たって全体の構想をご検討いただきたいということであります。特に脳科学は非常に幅広いということでありますので、総合的なご検討をお願いしたいというものであります。
 それから、(2)については、脳科学と社会との関係ということで、脳科学研究を進めることは社会への影響も大きいということですので、どのように社会と調和して進めていくべきか、そういったことが検討課題になるのではないかと考えております。
 (3)については、脳科学研究に関する評価ということで、脳科学を進めていってどのような効果が上げられるのか、あるいは、社会へどういうふうに還元していくのかといったことがありますので、評価をどうするのかといったことをご検討いただきたいというものであります。
 (4)であるが、あとは、そのほかさまざまなことがあるだろうということで、その他ということで検討課題に上げさせていただいておる。
 次は設置形態である。先ほどご説明申し上げたように、脳科学自体は非常に幅が広いということで、人文・社会との融合等があるし、また、脳科学研究を戦略的に推進するための体制整備のあり方ということで、大学や大学共同利用機関、あるいは独立行政法人、そういった体制整備のあり方、幅広く体制整備のあり方を検討していく必要がありますし、また、人文学や社会科学との融合、そういったともある。そのような研究体制や人材育成、そういったことを長期的展望に立って脳科学の基本的構想と推進方策の検討を行っていただくということでありますので、先ほど分科会長からもお話がありましたが、研究計画・評価分科会と学術分科会学術研究推進部会との合同設置とするというものでございます。
 なお、研究計画・評価分科会については、10月18日に開催されて、脳科学委員会の設置がご了承されているところであります。
 また、庶務についてだが、これについては関係課が非常に多岐にわたると思うので、関係課室にいろいろ協力をしていただいて、そのもとに私どものライフサイエンス課が処理するということにさせていただきたいと考えております。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 どうもありがとうございます。
 ただいまのご説明について、またご意見を伺いたいと思いますが、話の流れを申しますと、脳科学委員会というものを設置するということですが、これは研究計画・評価分科会と学術分科会の共同設置ということにしたいということであり、2月に開催した第22回の学術分科会において決定した学術分科会運営規則において、ただいまお手元にある資料1-3の2枚目にあるように、説明によれば、この学術研究推進部会のもとにこれを設置したいというのがご提案である。その学術研究推進部会の調査審議事項にこれは該当するものであると、こういう判断であって、学術分科会のもとの1つの部会の下にこの委員会として設置すると。ただし、共同設置ということであるけれども、組織上の位置はこういうことになるということである。したがって、脳科学委員会で学術研究の振興及び研究開発の推進の両面から検討していただき、原案を作成し、そして本分科会、学術分科会及び研究計画・評価分科会でご審議をいただいた上で、総会において答申として取りまとめると、こういう構造になっているということです。
 こういうご提案の趣旨について、内容についてももちろん結構であるので、委員からご質問、ご意見をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
 どうぞ、井上委員。

【井上(孝)委員】

 学術分科会と研究計画・評価分科会の合同設置ということについては、私も大賛成だが、この課題の中で、今までのご議論を聞いていて1つ感じるのは、自然科学を中心に、人文・社会科学との融合によって新しい人間科学を創出するという、そういう基本方向は確かにそのとおりであるし、それと、学習とか記憶の点で教育との関係ということで、この点についてちょっとご意見を申し上げたいと思います。少子高齢化で、特に子供たちの発達段階でいろいろな問題が生じてきているということから、脳科学によってそれらを解明していくという必要性というのは、十分これは理由があることだと思っておって、そういう中で、特に最近は少子化に伴ういろいろな問題の中で、ADHDとか高機能の自閉症の問題、そういういろいろな新しい学習障害児をめぐる問題もありますので、そういう意味では、脳科学の研究というのは非常に総合的に進めていただく必要があると思いますが、先ほどもちょっと分科会長から倫理的な面という点について感じておりますのは、実際にそういう研究成果を教育の面に活用するという場合、もちろん、心理学、教育学、認知科学、いろいろな面から総合的に研究すると思いますが、やはりそれらが実際に子供たちに研究成果がどう生かされるかというのは、実証的に研究をする必要もまたあると思うわけで、特に社会との関係という場合に、教育の面でそれらをどう活用するかということについては、十分慎重でなければならないと思っているわけです。
 それと、最近は、学校でいじめの問題があるが、いろいろ報道を聞くと、リストラその他があって、企業でも非常にいじめが多くて、それに伴ってうつ病の発生その他があって、そういう点について、企業についても、やはり教育だけじゃなくて、人事管理の面でそういうものを活用することによって、うつ病等の発生を抑制するような、そういう効果があれば、非常に世の中が明るくなるんじゃないかと思うわけです。
 それと、高齢化社会になって、やはりアルツハイマーとか認知症とかいろんな問題が出てきているだけに、そういうものを解明することによって、できるだけ早く、症状を発見したら、治療法が確立されれば、そういうものに対して高齢者を取り巻く家族の負担も非常に軽くなるし、医療技術の上でも非常にメリットがあると思いますので、そういう点で、今後、この脳科学の研究は総合的に推進されることによって、社会、そして一人一人の人間の幸せにも結びつく活用がされる慎重な対応をぜひお願いしたいと思います。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 ただいま井上委員から大変貴重なご指摘をいただきありがとうございます。前回の総会においても、今委員おっしゃられたことに関連する発言が多々委員からも述べられてきた経緯もあるので、十分慎重かつ着実にこの問題に取り組む必要があるということについては、我々、肝に銘じなければいけないと思っていますので、この委員会においても、ぜひそういう点も含めて検討をお願いするということになろうかと思っております。大変貴重なご指摘、ありがとうございました。
 ほかに委員から何かご発言やご意見、ご質問等はありませんか。
 それでは、中西委員、お願いします。

【中西委員】

 この前もちょっと申し上げましたが、脳研究というのは人間の考え方とかあり方そのものを問う研究だと思います。だから、今までのほかの科学技術とはやはりあり方が違って、何か豊かになろうとか、経済的にメリットがあると発展した科学技術とは違うと思います。だから、もちろん、人文科学との融合はものすごく大切で、もっと積極的にということは先ほどからおっしゃったとおりですけれども、科学技術のというか、研究の発達は、経済的価値というものではなくて、新しいこういう価値を生み出すんだという、そういう面もぜひ考えて生み出していただければと思います。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 ほかにありませんか。それでは、会長、よろしくお願いします。

【野依会長】

 今おっしゃったこと、そのとおりだと思う。加えて、脳科学というのは社会との接点が非常に高いものだから、えせ科学、疑似科学と非常に紛らわしい点があります。さらに、悪徳商業主義の介入するところもやはり憂慮されるところですので、分科会では揺るぎない脳科学をつくり上げていくという覚悟が必要ではないかと思うので、そういった非科学的なるもの、あるいはそれを悪用しようとする勢力に対して、毅然とした態度をとっていただくということも必要じゃないかと思っております。よろしくお願いします。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 ほかにご発言はありませんか。
 大変貴重なご発言、ありがとうございます。事柄の重要性については、ご指摘いただいたとおりです。とりあえず、本日直接お諮りしているテーマは、先ほど言った脳科学委員会を設けさせていただくということについて、本委員会としてご了承いただけるかどうかということですけれども、そして、先ほどご提案申し上げましたように、組織上の位置というものも、この資料にあるようなところに位置づけると、こういうことであるが、この点についていかがでしょうか。ご了承いただけますでしょうか。内容については、また今後、同委員会及び本分科会においてさらに議論を重ねるという手続を経ることになります。ありがとうございます。
 既に研究計画・評価分科会においては、同様の決議がなされておるということから、皆様のご了承が得られれば、本議決をもって脳科学委員会の発足が正式に決まったと、こういうことになります。同委員会の活動内容については、適宜本分科会、または学術研究推進部会においてご報告をいただきながら、答申案等については、分科会及び部会においての審議となりますが、そういう手続、そして最終的には総会にそれをお出しすると、こういうことになります。
 なお、脳科学委員会のメンバー、人選については、この組織図の学術研究推進部会運営規則第2条第3項の規定に基づいて、学術研究推進部会長の指名とされております。そういうことで、白井部会長に指名をお願いするということになりますが、研究計画・評価分科会長と相談の上、指名をさせていただくということになると思いますので、この点についてもあらかじめご了承をいただきたいと思います。
 それでは、2つ目の議題に入りたいと思います。
 「学士課程教育の再構築に向けて(審議経過報告)」を議題とします。本報告は、中央教育審議会大学分科会制度・教育部会のもとに設置されている学士課程教育の在り方に関する小委員会において、9月18日に審議経過報告としてまとめられたものです。本分科会の審議とも関連があることであるので、本日、これを議題といたします。
 それでは、事務局からの説明をお願いします。鈴木企画官からお願いします。

【鈴木高等教育局企画官】

 高等教育局でございます。
 お手元の資料ですが、資料2-1とある1枚の紙、それから、資料番号は付していませんが、学士課程教育の再構築に向けてと題する白い冊子がございます。また、このほかに机上配付資料として教育雑誌の特別号「Between」というもののコピーを机上のみにお配りさせていただいております。これらによってご紹介させていただければと思います。
 まず、資料2-1をごらんいただければと存じますが、大学分科会、中央教育審議会のもとにあるが、第4期の審議会がことしの2月から発足いたしました。その中に置かれている制度・教育部会のもとにさらにこの小委員会が設置されました。その審議経過を9月に取りまとめたところです。したがって、まだ最終的な答申というものはなく、あくまでこの小委員会から制度・教育部会に対してなされた報告であると、そのような位置づけであるということをご理解いただければと存じます。
 また、学士課程教育、つまり学部段階の教育でありますが、これを取り上げたことの背景、趣旨等を若干申し上げますと、大学分科会においては、過去、平成17年に学部段階、大学院段階、全体を通じてのグランドデザイン、高等教育の将来像と題する答申を平成17年1月に取りまとめを行っております。その中で、また引き続き具体化を要する重要な事項が提起されていたわけですが、そのうち大学院関係については、同じく平成17年9月に大学院教育に関する答申を取りまとめをいただいたところであります。そして、流れからして、学士課程、学部段階の教育についてさらにいろいろと議論を進める点があると、必要があるということで、主として昨年以降、学士課程に重点を置いたご審議が大学分科会でなされてきたということであります。そうした流れを受けて、ことし発足した第4期の大学分科会において、小委員会で取りまとめを急いだという経緯になっておるところであります。
 こちらの小委員会の構成については、白い冊子の巻末にメンバー表がありますので、ご参照いただければと存じますが、この報告書全体の構成については、資料2-1の中ほどにある柱立てになっております。はじめに、おわりにを除くと3章構成ということで、第1章は経緯と現状に関する基本認識。主としては、平成3年の大学設置基準大綱化以来の経緯について振り返り、現状、すなわちグローバル化の進む中でのユニバーサル段階というべき状況、あるいは大学全入という状況、そういった現状に対する基本認識を第1章で記しております。
 その上で、第2章が改革の基本方向ということで、サブタイトルとして競争と協同、多様性と標準性の調和をということを言っておりますが、これは第3章以降における具体的な改革策を貫く全体的な考え方、ある意味、要約が第2章であります。
 第3章は、具体的な方策ということで、主として5つの節。大学の出口、中身、入り口に当たるところの学位の授与、教育内容・方法、高等学校との接続、それら3つの節。さらに、そういった出口、中身、入り口の改革を支えるところの教職員の職の開発や質保証、そういった環境整備にかかわる問題を4節、5節でという形で取りまとめを行っているところであります。
 これは全体を通じてのことであるが、これは必ずしも文言の上で明確にしているわけではないが、学士課程教育、学部段階といっても非常に広いわけであるけれども、どういった点に主たるターゲットがあるかということについて申し上げれば、いわゆる知的なトップエリートの養成というよりは、むしろ学部教育全体の底上げというものを念頭に置いているということが申せようかと存じます。
 また、全体の詳しい中身は、ごらんいただければと思いますが、記述のスタイルに関しては、さまざまな従来の答申において、ともすると、答申での提言事項の実施主体が各大学がやるべきことなのか、あるいは国の役割なのかが必ずしも判然としない点もありましたので、今回の報告書の中では、それぞれ大学がやることなのか、国がやることなのか、そのあたりの書き分けというのを留意して記述がなされているということがあります。
 そういった全体的なことがありますが、内容の具体的な骨子については、こちらの白表紙の冊子、69ページをごらんいただくと、ごく簡単に1枚に骨子をまとめているところです。
 こちらに沿って若干ご紹介をさせていただければと存じますが、まず、基本的な考え方としてある、枠囲いになっているところにありますが、社会の変化、端的に一言で言えば知識基盤社会ということでとらえた上で、大学教育の量的拡大について積極的に受けとめていこうと。その上で、社会からの信頼にこたえ、国際通用性を備えた教育を構築しようという考え方が示されているところであります。
 若干付言すると、言うならば、量か質かということの二者択一という考え方ではなく、何とかそういった積極的に量的拡大を受けとめながら、質をどうやって維持、確保していくのか、そのあたりのところを何とか乗り越えていこうということが1つ提起としてあるわけであります。
 その上で、いろいろな改革の手法という意味においては、大学の自主性、自立性を尊重しながら、このあたりは教育基本法の改正を受けてのことでありますが、そういったものを尊重しながら、大学に対するさまざまな多角的な支援、これを飛躍的に充実していくことが必要であるということがうたわれているところであります。
 具体的な方策、この骨子においては、主として国が実施主体としてやるべき支援なり取り組みについて特にまとめて骨子を、こちらの資料ではなっておりますが、それに沿ってご紹介すると、まず1番目にあるとおり、国全体としての学位の水準の維持・向上に向けた枠組みづくりを考えていこうということで、その一環として、我が国の大学が授与する学士号、これが一体どういう能力を保証するものであるのかということについて、明確化をしていこうということがご提案されているところであります。これが報道などにおいても、この報告書に関して、学士力というものが大きく取り上げられているところでありますが、学士課程共通の学習の成果として何を目指すのか、このあたりについて整理をしようということであります。
 もちろん、日本の大学の実情からいえば、相当に多様化が進んでいる、レベルもさまざまでありますが、そうはいっても、やはり何らか学士号というものについて語るべき、そういうものがないといけないのではないかということで、この中で示されているところでありますが、具体的には、本文であると、16ページのところでそういった能力要素というものが示されているところであります。詳しくはまたごらんいただければと思いますが、16ページの中では、そういった具体的な能力要素として、全体としては13ほどの能力というものがここで列記されております。
 これは、あくまで参考の指針という位置づけがなされているものであって、何かこれを踏まえて、国のレベルで法令、基準で各大学に一律に縛る、強制するということを意図してご提言がなされているものではなくて、まさにこういったものを参考にしながら、それぞれの大学及び学部、学科等の段階で、みずからの教育のプログラムがどのような学習成果を保証するのかをご検討いただくための呼び水としてこういったものを提起しようということになっているところです。
 これはあくまで、しかも分野横断的なものとして、いわゆるジェネリックスキルに相当するものを含めてご提案があるわけですが、当然、それぞれの分野別の質保証ということは、また別途考えなければならないわけでありますので、こういった共通的な性格を、学士としての共通性を踏まえながら、それぞれの分野としての質保証、これからどう進めていくのか、このあたりについても、学協会等との連携をとりながら枠組みを考えていこうと、その必要があるだろうということが提起されているところです。
 その際、当然、それは国家のレベルですべてできるものではないので、学協会にどのように働きかけていくのか、そういう意味では、単なる期待感を表明するにとどまらず、何らかの枠組みについて国としてもバックアップ、支援をしていくことが必要ではないかということについて提起をいただいているところであります。
 なお、学士力というものをめぐっては、ご参考の机上資料にもあるような、中でもQ&Aみたいなものがありますが、いろいろと、例えば経済産業省が提唱している社会人基礎力とか、いわゆるコンピテンシーにかかわる提案というのが国内外いろいろあるわけですが、そういったものとの相違点なり共通性なりについては、そういった資料の中でまたご紹介もしておりますので、ごらんいただければと存じます。
 また、報告書の中においても、巻末の資料の中で、こういった学習の成果、ランニングアウトカムを大学教育の改革の1つの重点に置いていく流れについては、参考資料の中で掲載しておりますので、またご参照いただければと存じます。
 また、学士力というものをめぐって、ややマスコミの報道でミスリーディングな点もあって、あたかもそれで学士力というものを国が一律に定めて、それをまた国が何らか試験のようなもので測定すると受けとめられかねない報道も一部ありました。ただ、本文、15ページにそういった記述はありますが、正確には、それは国のレベルで何か標準的な、統一的な試験をやるということでは、一切そのような提言をしているものではなく、各大学において、みずからの責任で学位を授与する際に、1つのやり方、方法として学内の試験というものもあり得るだろうと、そういうオプションを提示している以上のものではないので、その点は誤解のないようにと存じます。
 また、これについては、さきに科学技術・学術審議会の総会においてこの件をご報告した際にも、ご出席の委員から、そういった統一的な試験的なものは望ましくないのではないかというご意見をいただいておりますが、基本的には、この小委員会の認識としても、安易にそういったものを統一的に評価、測定するということは、必ずしも好ましくないというのが基本のスタンスでありますので、その点はご理解をいただければと思っております。
 そういったことで、ともすると、出口の学士力というところに社会的関心は集まっているところもありますが、実際の提言については、この資料にもあるとおり、教育内容、方法の中身、あるいは高大接続の入り口、それぞれの改革の必要性について提起をしているわけです。
 この資料の69ページ、骨子の次のページには、概念図のようなものが、チャートが掲載されておりますが、まさに出口、中身、入り口、このあたりが三位一体となった教学経営の改革、これがなされないといけないだろうというのが全体の趣旨であります。教育課程については、そういった学士力を踏まえつつも、それぞれの大学が目指すべき出口をどう具体的に実現するかという観点に立って、それぞれの教育課程の体系化、構造化を図っていただきます。また、教育方法の双方向性を高めていく、成績評価の厳格化を図っていく等々のことが求められるということで、具体的なご提言がなされているわけであります。
 その際、1つの反省点、大綱化以来のいろいろな改革の帰結としての反省点としては、やはりいろいろなカリキュラムを含め、幅広い学びというものを保証していく必要があるだろうと。このあたりのところについて、やはり強調がなされているところでありますが、ともすると、学部や学科が縦割り構造になっていると。その結果として、さまざまな幅広い学びを保証するプログラムの開発という意味でも、制約になっている面があるのではないかというご指摘もあります。このあたりは、単純に教育内容の問題ではなく、まさにガバナンスにもかかわる問題でもあるわけですが、そういった点も含めての見直しということを提起されているところであります。
 また、入り口の入試のところにかかわっては、今まさに大学全入と呼ばれる時代にもなり、志願者のうち約9割が大学に入学するという状況でもあります。そうした中で、さまざまなシステムの見直しが必要だろうということであります。ただ、今回は審議経過報告においては、まだ高大接続の部分については、ごくごく中間的なもの、現状分析と問題提起にとどまっている点が多くて、主たる、より具体的な方策の検討はこれからの課題に残されているという状況でありますが、いずれにしても、現状の入試のいろいろな選抜方法、選抜の尺度の多様化、多元化、こういった事柄については、やはり一定の見直しというのが必要ではないかと。特に推薦やAO入試というものが今広がっている中で、ともすると、実態が学力だけに偏った選抜はいけないというのが本来の趣旨であるわけですが、結果的には学力不問という状態も生じつつあるのではないかというところもご指摘がなされているところであります。
 そういった意味で、推薦、AOを含め、大学入試の多様化というもののあり方については、現状をしっかり見直す必要があるだろうと。高等学校との関係で申し上げれば、さまざまな高等学校の調査書、いわゆる内申書のあり方についても、昨年、必履修教科・科目の未履修という問題が表面化したことに示されるとおり、やはりそういった調査書、そのものの信頼性が根本から揺らぐ事態も発生していると。しかしながら、高等学校段階の学習成果をきっちりと保証して、その成果をまた評価しなければならないという必要性も一方であるわけでありますので、そうした意味で、高等学校との接続については、十分な見直しがこれから必要であるという点が提起されているところです。
 さらに、そういった諸改革を支える上で、やはり何といっても教職員の資質、能力の向上は欠かせないということで、FD、SDと呼ばれる職能開発について、1節を設けてかなり詳しいご提言もいただいているところであります。
 FDに関しては、来年度から各大学においてその実施が義務化をなされるということですが、現状においては、ともすると、一方向的な講義、伝達型の講義形式のFDで済まされている面も多いのではないかと。そのあたり、もっと実効性を高める、双方向型のFDというものを進めていく必要があるのではないかと。また、FDをきちんと実質化していく上では、教員の教育業績の評価というものももっと普及して徹底されなければいけないのではないか。そういった観点から、種々ご提言がなされているところであります。
 また、特にこのあたりは、諸外国との対比の上においても、やはり職員というものの専門性を高めて、教員と共同していくという、そういうことがまた不可欠ではないかということで、単なる教員の方のアシスタントにとどまらない専門性の高い職員というのをいかに確保、養成していくのか。いわゆるアドミニストレーターと呼ばれる職員をいかに養成して、戦略的な企画であるとか、マネジメントの能力を高めていくべきか、そういった点についてもご提言をいただいているところであります。
 全体としては、骨子としてはそのような内容でありますが、今後の動きに関して若干申し上げたいと存じます。
 この報告書そのものは、去る9月18日に公表したところでありますが、その後、意見募集の手続をとって、3週間であるが、意見募集を一応終えて、新たに大学分科会、小委員会や部会においての議論をまた再開したと、そのようなタイミングであります。
 その意見募集の期間においては、先ほど申し上げたように、科学技術・学術審議会の総会においてもご意見をちょうだいして、そのご意見については、大学分科会の会議でもご紹介させていただいたところであります。
 そういったさまざまなご意見を踏まえて、現在、審議を再開しているところですが、まだ再開したばかりでありますが、学士力というところが1つ話題になっている点でありますが、こういった社会、さまざまな方面からのご意見においても、基本的には、こういった全体のトーンについては評価をいただいたということもありますので、そういった学士に求められるさまざまな能力について、学士力という用語を使っていくことについては、現在のところ、大学分科会で特段のご異論はなく、部会においてもご了解をいただけているということであります。
 また、産業界との関係で、特に最近の状況においては、就職問題、採用の一層の早期化が進んでいることが懸念されていることもあって、そういった意味では、学部段階の教育の充実にとっては非常に大きな制約になるのではないかという強い懸念が審議会の中でも示されております。ただ、そういったいろいろな産業界との関係をクリアしていく上でも、産業界との関係を橋渡ししていく概念として、きちんと学士力というものを位置づけて、そういった橋渡しの役割、機能を果たしていく方策を探っていくべきではないかということもまたご意見として強く示されているところであります。
 ただ、まだいろいろな積み残しの点もありますので、こういった学士力として提起されている具体的な能力要素が果たして必要にして十分であるのか、あるいは、これが単に参考指針ということではあるが、それぞれの大学の具体的な改善にどのようにつなげていけばよいのか、その方策はどうあるべきなのか、そういった点については、これからさらに十分な議論が必要だろうという意見が大勢であります。
 なお、先ほどの繰り返しにもなりますが、学士力、そういったものをまた安易に何らかの標準化されたテストで測定することは不適切ではないのではないかと、このあたりは改めてそういったご意見が大学分科会の中でも強く示されているところであります。
 文部科学省あるいは中教審としては、今後、年度内のこの問題についての取りまとめに向けて、さらに審議を急いでいきたいということであります。
 残る重要課題としては、先ほども触れたように高大接続の問題をはじめ幾つかあるが、報告書の46ページの中において、そういった残りの課題ということについて列挙されているところであります。
 さまざまな文科省としての取り組みという意味においては、予算面で、まずはできるところから支援策を実行していこうということで、平成20年度の概算要求においては、さまざま基盤的経費の拡充、あるいはすぐれた教育の実践、グッドプラクティスを応援していく事業を新しく発展させていきます。あるいは、さまざまな大学間の連携を支援していく事業、そういったものを新たに設ける、そういった内容とする概算要求の実現に当面、まずは全力を挙げてまいりたいと考えております。
 また、さらに中長期的な課題としては、中教審においては、現在、教育振興基本計画の策定に向けて議論を進めているところであります。順調にいけば、近々そういったもの、中間的な整理の公表もした上で意見募集ということの手続に入るのではないかという見通しでありますが、こういった中で高等教育財政の問題をどのように位置づけていくのか、このあたりについても、今後さらに議論が重ねられる必要があるであろうと。少なくとも、この学士課程教育の議論の関係から申し上げても、やはり国際的に遜色のないレベルでの投資というのが絶対に必要であろうと。
 そういう意味では、本文中にもあるが、対GDP費における公財政支出という面で、我が国の水準が非常に低いということもありますが、より実質的な尺度として考えた場合には、例えば1人当たりの学生に投じられる教育のコストがどうかということにおいても、アメリカの半分のレベルであると。しかも、それが減りつつあるという状況。そういった点についてやはり大きな問題があるのではないかと。この学士課程教育でさまざま提案されている、いろいろなメニューがあるわけであるが、これをやはり本気で実際に取り組んでいく上では、職員の質や量、あるいはICTや学習情報環境、さまざまな大学間ネットワークのインフラもろもろについて、相当のコストがかかることは間違いないことであろうということであります。
 そういった意味で、文科省としても、この中教審の全体の議論の中で、きちんと教育振興基本計画の中で、そういった財政的な措置について適切な内容が盛り込まれるよう、大学分科会のご意見を踏まえながら対処してまいりたいと考えておりますが、そのためにも、対社会的には、学士課程教育の成果というものはどういうものを追求していくのかということについて、やはり明確にしていくということが社会的コンセンサスを得る上でまた必須の課題であろうとも認識をしております。
 大変駆け足で雑駁な説明で恐縮でありますが、ご報告とさせていただきます。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの報告について、ご質問、ご意見等をいただければと思います。
 石委員、どうぞ。

【石委員】

 今、雑駁という言い方があったが、実に微に入り細をうがった大変立派なご報告をいただいて、僕は初めて聞くけれども、よくわかった。大変よくできていると思う。
 ただ、以下、二、三感想を申させていただくと、学士力という言葉を使ったがゆえにかなりマスコミが注目しているわけだ。学士力という言葉は何やらひとり歩きしているところもないことはなく、それは今チェックをかけたので、うまく行動すればいいと思うけれども、そもそも学士力、今、○○力がやたらとはやっている。そういうねらいもあったんだろう。とりあえず、そういう点から注目を浴びたいといった、これは私の感想だから、別に質問ではないが、その面ではおそらく成功したよ。僕は、何のためにこういうことをやられているのかなと。
 つまり、過去10年、15年、こういうことを各大学、今まで全部やっているんだよね。おそらくまとめたというところにポイントがあるんだと思うんだが、聞いていくと、やっぱり最後は予算との絡みなんだね。予算獲得というものの基盤というか、基礎をつくっていきたいと。これはこれでいと思うんですよ、政策当局がやるんだから。ただ、予算の請求といったって、個々の細かいことについて具体的に予算措置はできないよね。例えば高大連携だの補助金なんて、どだいできないと思うから、結局、グッドプラクティス、大きな枠づくりのための1つの支えになるようなことをおっしゃっているのかなと思っているが、質問は、具体的に、その辺の予算絡みとしては、今、例えば70ページに書いてある概念図があるよね。おそらく学士力の測定なんてやらないと言っているんだし、アドミッション・ポリシーについて、何やらいろんな形で支援するということも当然しないんだろうから、その辺は個々に、具体的に予算措置を考える余地があるのかどうか。
 あるいは、今までどおりの大きな固まりとしてのグッドプラクティスみたいなものの支えになっているのかと、この辺の問題意識があればお聞かせいただきたいということと、一部マスコミでこれに対するコメントとして、今の状況で、とりあえず学生の質が落ちた、そしてどう改革するかという点の視点なんだが、マスコミの報道について、僕も賛成の部分がかなりあるんだが、外枠のほう、つまり、今何が問題かというと、18歳人口が減って大学全入時代になってきたということは、大学がオーバーサプライなわけだね。したがって、アドミッション・ポリシーとか何とか言っちゃって、やたらと簡単な形で入れちゃって、補習、リメディアルをやったり、従来、考えられないことを今大学が始めちゃったんだね。それを認めた上でこういうことをやるということ自体に、非常に根本的な問題があるんじゃないかと思うんだね。僕は外枠が議論されたのかどうかというのが第2の質問です。ちょっとあるけれども、このぐらいにしておきます。

【佐々木分科会長】

 何かありますか。

【鈴木高等教育局企画官】

 まさに実は私どもはというか、中教審でもこれから考えねばならない点も含めてのご意見を賜ったと理解しております。例えば学士力というもの、おっしゃられるとおり、確かに、これまで大学審議会や中教審でもいろいろ断片的に言われていたことをある種体系化したという面もある。
 ○○力というのも、確かに陳腐化している面もあるわけですが、外国のこの種のものを言うと、例えばジェネリックスキルなりグラジュエートアトリビュートなりいろんな言い方があるようでありますが、日本語にすると、相当の議論をいただいたのですが、○○力にかわるよい日本語というのはなかなかないなということもあって、こういったことにもなっているわけでありますが、ただ、いずれにしても、単なるキャッチフレーズではなくて、どう実質化していくかということにも一定、先ほど評価や測定ということについても、もちろん国が統一的にというのはなかなか難しいし、望ましくないのではないかということもありますが、一方では、大学評価、認証評価のシステムの中で、一体どのようにそういった学習成果重視の評価ということができるのかできないのか、このあたりは研究を要するテーマであろうかと思いますし、あるいは、一部報道でもありますが、OECDにおいては、国際的な到達度調査、小中教育の段階で実施されておるPISAと呼ばれるものの高等教育版を検討しようというプロジェクトも動き始めていますので、果たして日本としてそれにどのように関与、対応していくのかということも一方でありますので、そういった意味では、学習の成果をどう評価、測定していくかという議論は、これからますます深めていく必要があるだろうと存じます。
 グッドプラクティスの事業においても、そういった意味で、こういったさまざまな改革がどううまく全体としてPDCAのサイクルが機能しているのか、そのあたり、まさにつまみ食いでない応援策をきちっとグッドプラクティスの支援の中で考えていく必要があるだろうと思うし、一方で、例えば今回の概算要求もそうでありますが、FDのようなものについては、これはあまねくいろんな大学でやっていただく、きちっとやっていただくという意味では、GPというよりは、むしろ基盤的経費の中でのご支援が必要だと思います。米国においても、やはりFD専任の職員、スタッフというものがきちっといた上で、そういった方々がネットワークを組織してバックアップしているという面もありますので、それはGPというよりはむしろ基盤的経費での措置で応援すべきところではないかということもあって、今回、国公立大学の交付金なり私学助成の増額の要求ということもいたしているところであります。
 最後、外枠のところについては、これもまさに高等学校とのつなぎのところがこれから大いに議論になるところでありますが、まだそういう意味では、コンセンサスという意味ではもちろんないが、議論の経過の中では、やはり推薦やAO入試等の問題について、やはり何が大きな1つの問題かということについて申し上げれば、例えばアドミッションオフィスのAO入試というものも、もともと由来しておるアメリカであれば、さまざまなSATのような外形的な基準も一方でありながら、そういったものがトータルで機能していると。それに対して日本は、非常にその辺があいまいなまま学力というものについて、まさにきちっと、高等学校の学習成果というものが問われない、はっきり把握されないまま普及が進んでしまったということに1つ大きな反省点があるのではないかと。やはりそのあたりのシステムを見直す必要があるだろうということで、この点はまさにこれからご議論を深めていただきたい重要なテーマであると考えております。

【佐々木分科会長】

 ほかにいかがか。それでは、会長、それから上野委員、お願いします。

【野依会長】

 ぜひ、名前はともかくとして、学士力を上げていただきたいと思います。
 それから、石委員が今おっしゃったけれども、概算要求のための策であってほしくないと思うんだね。やっぱり国際水準の高等教育をやるためには、国際水準の財政支援が必要だろうと思う。先ほどちょっとお話があったけれども、OECD諸国と対GDP費の話があったけれども、日本は0.5%でOECDの平均の半分だね。北欧諸国と比べると3分の1だね。だから、これを平均にするということは、0.5%を1%にするということは、2兆6,000億増ということだね。まあ、非現実的と思われるかもしれないけれども、文部科学省として数値目標はあるのか。

【佐々木分科会長】

 どうでしょうか。

【鈴木高等教育局企画官】

 過去の平成17年の将来像(答申)においても、やはりそういったGDP費を含めた指標が欧米水準並みを目指そうという方向性については、提言をいただいておりますし、私どももそういった意味で、そういったものを受けて、それに近づくべき努力をいたしたいということは文科省としても考えているわけであります。
 ただ、まさにそれを実際に、単なる夢物語りではなく、具体的にいつまで、どのようにという意味での具体化の事柄ができていないということもありますので、まさにこの教育振興基本計画そのものは来年から5年スパンの計画であるけれども、さらにその先の10年なり20年先も見据えた上での計画をつくろうという動きでもありますので、できるだけ我々としても、もちろん現実可能性を踏まえる必要はあるが、具体的な目標設定というものができ得るように、さらにこれから議論していきたいと、考えてまいりたいと思っております。

【野依会長】

 石委員に考えていただかなきゃいけないんだが、私は、やっぱり、教育目的財源のようなものがないと、0.5%を1%にするということは到底無理じゃないかと思っておるけれども、石委員、何か妙案は。

【石委員】

 あらゆる分野の予算をすぐ目的化しようというつもりはない。福祉がしかり、それから今も教育が話題になったよね。そういうことを言うと、だれも皆、自分の領域が一番重要なんだよね。我々、ここにいると、皆、教育が一番重要で、研究が重要なんだよ。ところが、一歩外に出て農村に行けば、農業基盤が重要で、道路が重要なんていう話が出てきているから、これは残るは政治力だよ。いかに政治的に、そうすると、それは何かというと、おそらく政治家を使うとか、あるいはもっと国民の支持を得るということなので、今おっしゃったように、2兆6,000億は消費税1%だよ。だから、消費税を1%上げて、高等教育のために、一肌脱ごうという国民が出てくれば不可能じゃないんだよ。消費税1%上がると2兆5,000億上がるんだよ。だから、考えによっては、毎日毎日の買い物を含めて、1%分を払うというほど、皆さんで支えてやろうと持ってくるのがまさに応援だよ。それが出てくるのが一番重要だと思うし、それは今随分努力されているので、高等教育についての国民的な支持は少しずつは高まっている、僕は全面的に高まったとは言わないけど、野依先生みたいな声の大きい人、声じゃなくて発言力の強い人が頑張って言えば、かなり支持が上がってくると思うよ。頑張らなきゃいけないね。

【野依会長】

 石先生ほど声は大きくないんだけれども、ぜひ、何といってもやっぱり国民的な盛り上がり、これが一番大事だろうと私は思っておる。それがやっぱり政治に反映するんじゃないかと思っているので、その戦略をぜひ考えていかなきゃいけないんじゃないかと。

【佐々木分科会長】

 上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 議論の様子、ないし方向性についてのお考えをお尋ねしたいという趣旨での発言です。
 この審議経過報告は、私の周囲では注目されて、大変丁寧に書き込まれているものだという、私の周囲は既に大変評価をしています。それで、中身に関して、特に今の学士力のところですが、これを見たときに、私個人的に想起したのは、平成14年の学位授与機構がなさった教養教育に関する評価の試行のことを私はすぐ想起した。それから、先ほど経過でご指摘のあった平成14年の教養教育のあり方について、さらに、90年代から経団連等が幾つかお出しになった大学でつけるべき力と、あの辺のところはかなり私の頭の中で重なった理解をした。
 そうすると、これはどちらかというと、学部でつけるべき力というところが、もしこの影響力が大変インパクトが強く広がってまいると、大学における教育がかなり古典的な教養という意味ではなくて、ここ10年あたりで議論されてきた教養教育の部分にかなり傾斜した内容的な把握にとらえられるという傾向も出てくるのではないかと思っている。
 私自身の勤務先では、卒業時にどういう力をつけるべきかということで、こういったスキームになりやすい内容と、それから、それぞれの専門のところで、自分の担当授業ではこういう力をつけたいということを今教員の中で、カリキュラムフレームワークという名称を勝手につけておるが、そういう作業をしているところだが、最終的に、つまり、学部教育として、各専門ではなかなかこういうふうに整理しにくいものがあるが、そうすると、こうした学士力ということをこういう形で提起するということで、ある意味である方がおっしゃる学部においては、専門を加味した教養人的な育成に今後なるのではないかというところの一種先取りのようにも思えるのですが、そのあたりは議論が、現実にそういう方向になるんだろうという読みも私個人もしておるが、ただ、大学はまだそこまでの決断ができておらないので、中教審のところでそういった議論がおありだったかどうか、あるいは、少し先取りすれば、その辺の判断も既に働いているのかどうかというあたりを参考までにお尋ねしたいと思う。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 どうぞ。

【鈴木高等教育局企画官】

 大変本質的なお尋ねでありますが、今回の審議、まさに流れとして、先ほど少し申し上げた、例えば平成17年の将来像(答申)とか、さまざまなこれまでの大きな答申の流れを踏まえた考え方に立っているということがありますので、例えばそういう意味で、学士課程と大学院課程との関係においても、従来の答申においても、専門教育の完成というものを大学院に持っていく、一方で、学士課程においては、主としては教養なり専門の基礎に比重を移していくということがうたわれているところであります。
 そういった意味では、これもある先生の表現をかりれば、教養ある専門人を育成するというよりは、従来がそういう考え方に立っていたとするならば、今回、今後は、どちらかというと、ある種の専門性を備えた教養人を育てていくというのが学士課程の役割ではないかというご意見もあるが、いずれにしても、そういった意味で、共通的な、ベーシックなものを考えていこうと。ただ、その際、そうはいっても、作業部会からさまざまご提起のある、あるいは経済産業省のおっしゃる社会人基礎力というのは、あくまで産業界側からの求める能力でありコンピテンシーであるので、それだけに解消されるものではないだろうということで、今回の学士力の中のさまざまな能力要素の中の、冒頭にある異文化理解やそういった他文化理解といったものをはじめとする幾つかの内容は、そういった意味で、大学の教養の教育としてのあるべきもの、単なる職業人としてのものと異なる点としてやはり必要ではないかという議論があって入ってきたと。そのような経緯があります。
 あとは、そういった意味で、それぞれの専門学部、学科、あるいは個々の先生方のシラバスというものの設計において、いかにそれがどう具現化していくかということは、まさにそれぞれの学内でのご議論、学内改革でのご尽力、ご努力をまつべき点が多いのかなと考えております。

【佐々木分科会長】

 よろしいでしょうか。

【上野委員】

 はい。

【佐々木分科会長】

 それでは、井上委員、どうぞ。

【井上(孝)委員】

 大学教育については、事前チェックから事後評価へという全体の流れの中で、どうしても学士課程修了者に一定の学力があるかどうか、学士号にふさわしいかどうかというのを各大学が個々に、教学系のシステムとしてアドミッション・ポリシーとかカリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーと、そういうもののサイクルを確立して、それによって、各大学が自己点検、自己評価でそれぞれ評価していくというのは、実際には今までにも行われてきたし、今後それを強化するということだと思うのですが、その場合に、実は質の保証というのが出てくるので、最初、私はこれを聞いて誤解したのは、義務教育では、教育課程が決まっていて、学習指導要領が決まっていて、今年度から義務教育の質の保証をやるために全国学力調査をやるというので、4月から小学校は6年、中学校は3年生に、国語、算数、国語、数学の全国学力調査をやって、それによって、実際にカリキュラム、プランと、それが実際に学校でどういう教育が実施されているかというドゥー、それと、全国学力調査等でチェックをして、それをアクション、調査結果を分析し、改善して、それをアクションに移すというPDCAサイクルをこれからやっていこう、それによって義務教育の保証をしようという、そういう教育界の一方の考え方がある。
 ただ、高等学校については、これは義務教育じゃないので、97%以上の中学卒業生が入っているので、共通性と多様性を認めざるを得ないということから、高等学校の学習指導要領は、そういう観点で、最低保証であるけれども、実際のカリキュラム編成については、共通性と多様性を各学校によって認めていく方向で、そうしないと、高校の中途退学者が非常に多くなるという実態もあるので、そういう現実を見て、質の保証をやらざるを得ないと思う。
 だが、大学の場合、もう800校近くの国公・私立大学があって、実態を見ると、同じような学士力かというと、決してそんなことはあり得ないわけで、その辺をどういうふうに、国際通用性のある学士力といっても、だれもそんなことは本心では信用しないわけだから、それをどれだけ各大学ごとの学士力を保証していくかというのが質の保証システムだと思うわけで、そういう点では、国が、あるいはOECDのPISA調査を小中学校でやっているが、大学ではそれは、先般、報道で何か今後検討するということが出たけど、事実上、専門分野が多分化、非常に多様に分かれているだけに、そういうことはまずできないと思うのですが、そういうことから言うと、今、高等教育でいろいろ取り組んでいる、そういうことをさらに社会一般に評価してもらう、あるいは学部卒業生がアメリカ、ヨーロッパ等の大学院へ進学する場合に、それで十分そういう学力がついているとか、そういう保証がここでねらいになってくるのではないかと思います。その場合、すべて800校の大学が同じ保証というのはまずあり得ないわけだから、そこのところは、大学ごとにしっかりこういう、今お話があった大学のPDCAサイクルというものを十分実施していくという取り組みをやっていただく以外ないのではないかなと思うわけで、それは大学は研究と教育が一体だから、学術分科会で学術研究の推進、質の向上をずっと議論してきて、それが大学教育にももちろん反映されると思うわけだから、そういう意味で、やはり研究レベル自体、大学における研究者の研究レベル自体を上げることが質の保証にもつながっていくのではないか、こういうふうに思うので、今後、そういう点について、教育界で質の保証の意味がちょっと違う点についても、やはり十分説明してもらいたいなと、このように思っております。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 何かありますか。

【鈴木高等教育局企画官】

 重要なご指摘、ありがとうございます。
 私の説明でも、そういった意味で、評価の問題については説明を簡単にしすぎてしまった面もありますが、43ページ、44ページにおいて、さまざま、自己点検評価をはじめとする点についての改善方策についての提案もありますが、今まさにご指摘いただいたとおり、いろいろな水準確保の上で、やはり大学の場合であれば、特に自己点検評価の役割、比重は大きいだろうと存じます。平成3年以来、いろいろな制度化が図られて、努力義務から実施義務へと制度上は仕組みが整備されつつ来ているわけでありますが、いかに制度に魂を入れるかという意味においては、自己点検評価のあり方はさらに考えるべき点が多々あるのではないかと。特にそういった意味で、もちろん学士力のどのレベルまでという水準については、それはそれぞれの大学の特色に応じて設定されざるを得ない面があるわけですが、ただ、みずから設定した水準をみずからがどの程度達成しているかということについて、きちんとまさに挙証していただく、エビデンスベースで挙証していただくということを自己点検評価の中でいかにきちんとやっていただくのか、ここが1つ非常に重要なことであろうかなと存じます。
 そういった意味で、財政的な面、国による支援、取り組みにも一部触れておりますが、より一層アカウンタビリティーを求めていくという意味では、自己点検評価の法令上の義務が不履行な場合は当然のことでありますが、説明責任を果たさないというケースについては、財政支援についても厳格に対応する必要があるだろうということも含めてご提案があるわけでありますが、いずれにしても、そういったPDCAのためには、今ご指摘があった観点が大変重要ではないかと考えております。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 どうぞ。

【井上(孝)委員】

 ちょっと恐縮だが、先ほど、高等教育全体の予算が国際標準がGDPに対して0.5%で、アメリカ、ヨーロッパ諸国に比べると半分だというお話があったのですが、この話は、実は教育振興基本計画特別部会でも最初に出たんだが、ただ、そういう全体の議論では、なかなか振興計画の中に具体的な数値目標とか、そういうものを盛り込むことは、まず出ても説得力を持たないということから、高等教育で今何を、どういう課題があって、それに対してどういう財政投資をすべきかというのを明確化していこうという議論をしておって、大学分科会でその点の議論をしていただいておるので、今必要な課題とか財政投資を、緊急にやるべきことを、この5年間でどういうことが必要か、そういうものの積み上げによって、先ほど野依会長もおっしゃった1%に向けた財政支援の確保に向けていくべきじゃないかというのが今の議論です。私はそちらにも参加しているので、ご紹介します。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 いずれにせよ、この問題は学術分科会としても重大な関心を持っているということで、これからどんなふうに審議を進められるか、またしかるべき時期にこういう機会を持ちたいと思っております。大変活発なご議論をいただき、ありがとうございました。
 それでは、もしよろしければ、その他に移らせていただきます。
 まず、大強度陽子加速器計画中間評価報告書について、ご報告と質疑応答を行いたいと思います。
 本年6月に学術研究推進部会のもとに設置された大強度陽子加速器計画評価作業部会において中間評価報告書が取りまとめられました。なお、本作業部会は、研究計画・評価分科会の原子力分野の研究開発に関する委員会との合同設置となっております。
 それでは、同作業部会の主査である井上明久委員からご報告をお願いしたいと思います。

【井上(明)委員】

 まず、私が全体の概要について、経緯について説明させていただいて、あとは事務局から詳細説明をお願いしたいと思いますが、大強度陽子器加速器、J-PARC計画は、高エネルギー加速器研究機構及び日本原子力研究開発機構の共同プロジェクトとして、平成13年度より建設を開始したものであります。
 本計画は、世界最高レベルのビーム強度を持つ陽子加速器を建設し、高速に近い速さまで加速された陽子を標的となる金属の原子核に衝突させることにより発生する中性子、ニュートリノ、中間子等の多様な二次粒子を用いて、原子核、素粒子物理学や物質・生命科学など幅広い分野において最先端の研究を行うための多目的研究施設であり、大変意義の高い計画であります。また同時に、本計画は、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構というミッションや文化が異なる機関が共同で進めているという画期的な計画でもあり、今後のビッグプロジェクトの進め方の試金石でもあるともとらえられております。本作業部会では、平成20年度後半からの、来年後半からのビーム供用開始を控え、J-PARCを円滑に利活用するために必要な体制の整備等について検討する評価作業部会を研究計画・評価分科会と合同で設置し、約半年間、延べ9回にわたり、視察を入れると計10回でありますが、各分野における利用ユーザーからの意見も聴取、反映するなど、活発な議論を重ねてまいりました。そして、ことしの6月に中間評価報告書を取りまとめたところでありますが、この報告書の詳細な内容については、事務局からご説明をお願いします。

【佐々木分科会長】

 それでは、事務局からお願いします。

【加藤量子放射線研究推進室室長補佐】

 研究振興局量子放射線研究推進室の加藤と申します。
 資料3-1-1と資料番号は付していませんが、その下の冊子の大強度陽子加速器計画中間評価報告書、資料3-1-2になりますでしょうか、こちらについてご説明をさせていただければと考えております。時間も限りがあるので、資料3-1-1を中心にご説明させていただければと考えております。
 先ほど井上委員からもお話がありましたが、本報告書は、来年度、平成20年度のビームの供用開始を控えて、適切な運営、利用体制などの構築が必要な極めて重要な時期にJ-PARCは来ておりますので、そちらに関してどういうふうにやっていったらいいかということを検討したものであって、また、平成15年の中間評価実施後、3年が経過して諸事情の変化なども見られるため、それらも踏まえて施設の運用体制や利用体制を中心に評価を行ったというところであります。
 全体的な計画が着実に進められて、現在、約7割強の施設が完成して、初期の施設についても計画どおり行っているということで、計画が順調に進捗しているということが評価できるとまず評価をいただいております。
 2枚目に入って、項目立てとしては、1.、2.、3.という形になっておりますが、先ほど申し上げた中間評価における指摘事項への対応ということで、2ページ目の3.の部分ですが、まず、リニアック性能回復についてということで、J-PARKは加速の段階がリニアックという部分と3GeVの部分、報告書の中の資料1というのをごらんいただけると全体の図がわかりますが、リニアックというのは直線の部分で、その次に3GeVシンクロトロンというのがあって、次に50GeVシンクロトロン。加速器が3段階あるのですが、このリニアックという部分について、最初は400MeVというものでやるという話でしたが、今の段階では、計画を変更して200MeVでエネルギーが達成できるようにということでやらせていただいておりまして、それを初期の性能、400MeVに戻すというものを平成20年度から着手するということは適切であると評価をいただいております。
 2番目ですが、第2期計画についてということで、原子核・素粒子実験などの充実についてというのは、関連する研究者コミュニティーとかデータマネジメントとかで議論して優先順位づけを行って、その時点での財政状況などを踏まえて判断することが必要であるとご評価をいただいております。
 あと、核変換技術については、重要な基盤技術として引き続き研究開発を進める必要がありますが、核変換実験施設の整備については、原子力政策全体の中で検討していくことが必要であり、今後、原子力委員会などの評価を踏まえて進めていくことが適切と指摘をいただいております。
 4番目の多目的研究施設としての運用体制の構築ということですが、J-PARCというのは、先ほど井上先生からもお話があったとおり、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の両者が行うものということで、J-PARCというものを一体的かつ効率的な運営をするためにJ-PARCセンター、両者の機関でつくったものを設置して運営していくことが適切であるといただいておりまして、また事業を決定するときに運営会議というものを設置して、重要事項について意思決定メカニズムを構成することですとか、予算の執行や施設の運転管理などについて、柔軟な運営をすることは可能であるといただいております。だが、当面は、JAEAとKEKの両機関の協力のもとで一体となってセンターを運営していくということが大切であると指摘をいただいております。
 5番目ですが、円滑な施設利用体制の構築ということで、まず1つ目に、利用ポリシー・課題選定などということで、まず、実験などを行ったときに、成果を公開する課題の利用については、原則利用料金を取らない、原則無償とすることは適切であると。次に、なおということで、物質・生命科学実験施設、これも参考資料の1、報告書の本文の中に入っている資料を見ていただくと、どこがそれに当たるかというのはわかるかと思いますが、こちらについては、成果非公開の場合は、1ビームライン当たりの使用料金として1日当たり約180万円から210万円がほかの同様な大型施設の利用料金と比較して妥当なのではないかと指摘をいただいております。
 各実験施設とも課題公募というのは、受け付けから審査結果通知まで一元的に行う、ワンストップの窓口の体制が整備されるということが大切であるとあわせて指摘をいただいております。
 2番目ですが、先端研究施設としての幅広い利用への対応についてということで、J-PARC、原子核素粒子の実験施設というのもありますが、中性子が物質・生命科学実験施設というのは主に使われるもので、まだ中性子の産業利用というのは、放射光とかとか比べて産業界に根づいている状況ではなくて、当面は基礎的な分野で最先端の成果を創出するとともに、トライアルユースと施設共用制度などを最大限利用して、ユーザー層を広げていくことが重要であると指摘をいただいております。
 今後、両機関のミッションを超える分野で利用されるビームラインの設置が必要になった場合や、より多くのユーザーが利用するようになり、かつトライアルユースのような既存の制度で対応が困難になる場合が生じた場合には、共用法などの適用などで国が必要な対応をしていくことも求められると意見をいただいております。
 3ページ目に入って、今後のビームラインの整備に当たって、20本程度のビームラインを設置できるように物質科学、生命科学実験施設にはなっているのですが、今後のビームラインの整備に当たっては、利用ニーズの把握やこれらを踏まえた研究分野間、学術研究、産業利用のバランスを考えて設置していくことが必要であると意見をいただいております。
 3番目ですが、物質・生命科学実験施設の産業利用について、まだこれは産業利用が進んではいないところなのですが、産学官一体となって、コーディネーターや技術支援者の養成なんかをやって、産業利用の幅を広げていくとともに、産業界が利用したときに知的財産の保護だとか、機密の保全の徹底などといった産業界に使いやすい仕組みを早急に整備することが大切であるという指摘もいただいております。
 6番目の運転経費の考え方ということですが、すぐに定常運転とはならないのですが、定常運転をした場合に、運転日数は約230日で、利用日数は約200日、施設全体の運転経費が約187億円と算定した考え方は妥当です。ただ、まだ今後も経費の節減に向けて努力をすることが大切だということをご指摘いただいております。
 7番目の国際公共財としての取り組みですが、研究環境及び生活環境の整備が必要ですので、地元の茨城県さんだとか東海村さんなどの自治体と協力、連携のもとで、速やかにそれに対応していくことが大切であるというご指摘をいただいております。
 諸外国との関係だが、まず、アジア・オセアニア圏における求心的な役割を果たすとともに、原子核・素粒子物理分野においても世界における中心的な役割を担うことが期待されておりますので、そういうものを皆さんにわかってもらえるように、国際的な広報活動の強化を図っていくことが大切であると指摘をいただいております。
 今後の課題については、今後の情勢だとか、研究や技術の進展、利用ニーズの動向、運用開始後における知見や経験などを踏まえて、適切な時期にレビューを行うことが大切といただいております。
 最後にということで、先ほども井上委員からお話があったが、今後のビッグプロジェクトの進め方の試金石ということで、新しい文化や成果が発信されることが期待されると提言をいただいております。
 簡単ではありますが、以上で説明を終わらせていただきます。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございました。
 ただいまの説明に対してご質問等があったら、どうぞ。特にありませんでしょうか。
 では、ご説明を伺ったということで、ありがとうございました。
 次に、もう1つあって、ITER計画、幅広いアプローチをはじめとする我が国の核融合研究の推進方策についてという件について、ご報告と質疑応答を行いたいと思います。
 本年6月に研究計画・評価分科会の原子力分野の研究開発に関する委員会のもとに設置されている核融合研究作業部会において、報告書が取りまとめらました。本報告書の取りまとめに当たっては、学術研究推進部会との連携を図ることとされていますので、本日、ここで、この場でご報告をいただくということにしたところです。
 それでは、事務局からのご報告をお願いします。

【松尾研究開発戦略官】

 それでは、事務局からご説明させていただきます。
 資料であるが、資料ナンバーを付していないでまことに恐縮ですが、こういう白表紙でITER計画、幅広いアプローチをはじめとする我が国の核融合研究の推進方策についてということで、6月27日付の資料があるので、これを用いて簡単にご報告させていただきます。
 本来、ここの取りまとめ役には中部大学総長の飯吉先生になっていただいており、本学術分科会の部会の委員でもあるので、飯吉先生からということでありましたが、きょうご欠席ということで、事務局からご説明させていただきます。
 冒頭、佐々木先生からありましたとおり、これは原子力に関する分科会の下の作業部会であります。そこで審議を経たものでありまして、学術分科会とも連携をとるということで、中間段階で一度ご報告をさせていただいておりますので、ポイントだけごくごく簡単にご紹介をさせていただきたいと思います。
 資料をおめくりいただいて15ページでありますが、ここに委員構成があって、飯吉先生を座長に20名近い先生で審議をしていただいております。
 1枚めくっていただくと、その審議経過ですが、これは先生方ご存じのとおり、今原子力については、核を分裂する原子核、それと核を融合する核融合ということで、こちらは核融合ということで審議をしております。一昨年、核融合についてはITER計画というのがカダラッシュで行うということが決まったわけであって、それを踏まえて、種々協定等々が動いているわけであって、無事10月24日にITER協定を発効させていただいた。その間、先生方には、いろいろご尽力、ご支援をいただき、ほんとうにありがとうございます。冒頭、まずは御礼申し上げたいと思います。
 これについては、ITER計画、それを補完する幅広いアプローチ計画、この2つが走っているわけであって、ITER計画については、カダラッシュを立地地点として、ブロードアプローチの計画については日本を拠点として行うということで、それをオールジャパンの体制としてどうやって進めていくかということで、審議計画にあるとおり、昨年の5月から7回にわたって審議を経て取りまとめたものであります。
 ページをおめくりいただくと、最後のページに概要、43ページでありますが、ついておりますので、概略、ポイントだけご報告させていただきます。
 このITER計画と幅広いアプローチの推進方策ですが、第1章、第2章と分けてあります。第1章には、2つの計画を中心とした核融合全体の現状と課題を列記しております。意義、基本方針、現状、産業界のあり方、人材育成です。
 第2章に今後の推進方策ということで、これも4つの項目で分けております。第2章の1.には、ITER計画と幅広いアプローチを中心とした研究開発の推進方策、そして2.には、学術研究ということで、やはりオールジャパンの体制でやるときには、人材育成も含めて学術との連携が一番重要だということで、大きくパラグラフをとらせていただいております。それから、産業連携。産業とのあり方については、ITERというものをつくるに当たっては、やはり建設、10年間で最も重要なのは産業ということであります。したがって、そこに1つ段をつけさせていただきました。また、これを含めて人材養成、国民への説明、理解を求めるあり方についてご議論をして、推進方策とさせていただいたわけであります。
 1つ目のITER計画及び幅広いアプローチを中心とした研究開発の推進でありますが、これは言わずもがな、しっかりと研究開発を進めるということで、ポイントは、(3)の推進に当たっての環境整備ということで、核融合エネルギーフォーラムをつくって、産学官で全体意見を集約する場合を構築するというのがここの要諦であります。
 2番目の学術研究の推進であるが、大きな予算を投資するということで、やはり集中化と自由な発想、この2つを要諦として研究を進めるということ。そして、具体的な推進方策として、重点化を進めるということで、これは既に決まっているものであるけれども、それについてもチェック・アンド・レビューをきちんとかけて進めるということ。それから、共同利用、共同研究の推進の重要性。そして、やはり大きなプロジェクトと学術研究と共同研究のあり方、これについて記載をさせていただきました。
 ただ、核融合については、1つエネルギー取り出しということだけではなくて、産業界への波及ということもありますので、(3)としてさまざまな分野との学術連携について記載をしたところであります。産業との連携について記載をし、そして、4番目、人材育成・確保、そして国民への理解ということで、やはり大学、核融合研、中核である原子力機構とのネットワークの構築、いろんなプログラムを利用した幅広い人材育成、キャリアパスのあり方について記載をし、そして国民への説明をしっかりやるということをうたわせていただいたわけであります。
 現在、作業部会は6月で一応区切りをつけましたが、これをさらに深掘りしてまた次の施策に生かすという観点から、先週からもう1回作業部会をさせていただいておりまして、人材育成のあり方等々について、深堀りをさせていただいているところであります。そういったことで、またこの報告書をもとにいろんな施策を打ち出していきたいということでやっているということであります。
 事務局から説明は以上ですが、もしよろしければ、きょう、本作業部会取りまとめに当たって、高エネ研の平山先生にもご参画いただいておって、オブザーバーとしてご出席いただいておりますので、付言いただければありがたいと思います。

【佐々木分科会長】

 それでは、平山さん、どうぞ。

【平山高エネルギー加速器研究機構理事】

 それでは、概要は説明されたとおりですが、違う分野からの絡みで参加して、それから、1つ前の大強度との比較ということで、若干気がついたことを述べさせていただきます。
 大強度の場合には、先ほどご説明があったように、原子力機構とKEKが一緒になってJ-PARCセンターという共同の運営の組織をつくってやっていると、それ自身もいろいろ難しい面があるのですが、ITER、BAの場合は、国際的な関係もあって、原子力機構が基本的に対応する組織になって、それに対して核融合研、大学等が協力するという形態になっています。
 そういう意味では、多分、ここで報告されているように、実際に建設していくとかいろんなハード的な面は問題ないのだと思うのですが、これからも課題になっている、実際に学術的な分野がどうかかわっていくかというのは、多分、これから進めていく上でかなりいろいろな新しいことを考えないと、なかなか大学から、例えばある期間、人が出ていって、実際に貢献していく、あるいは実験に参加するということがそう簡単ではないのではないかなという気がしています。新しく再開されたところも、そういう意味で人材育成という課題になっていますが、特に、今後、ITERを含めて大きなプロジェクトが各国レベルではなくて国際的な共同体としてやっていくという形になると、いろんな面で、こういう場でもぜひ新しい制度なり、国際機関との絡みみたいなことも考えていかないと、なかなか法人化後の大学の中で、ある特定の分野の研究者が長期間なり、あるいは若手も含めて出ていくというのはなかなか難しいのではないかなという印象を持っています。それで、制度そのものも非常に難しいというのはよくわかるのですが、こういう国際的な中で、日本がほんとうに貢献していくためには、そういう人材的な面での貢献がやりやすいということもぜひご検討していただきたいという印象を持っています。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 何かご質問等ありませんか。
 では、局長から。

【徳永研究振興局長】

 今、平山先生からそういうご意見がありましたが、必ずしも核融合研究直接ではないけれども、プラズマ物理学を含む核融合に関する研究ということに関しては、既に学術分科会の研究基盤部会で前回ご報告したところでありますが、核融合科学研究所、それに筑波大学のレーザーセンター、京都大学の旧ヘリオトロン研究センターの後継機関、さらに九州大学の応用力学研究所等を結んだ形でのネットワーク型の双方向共同研究という仕組みができ上がっておりまして、前回、学術分科会としてご報告、審議経過をお認めいただいたネットワーク型の共同研究の拠点の主モデルとしては機能しているところであります。
 そういう意味では、現在、核融合の分野については、核融合研を中心に新しい形での個別の大学の先生が、いわば核融合研が文部科学省と外部からの資金を確保して、それを関係分野の先生方に公募の形でそれを共同研究という形で資金支援をしていくというスキームができていて、そのことがほかの学術分野にとってもフロントランナーとなっている新しい仕組みが動いているということについて、あわせてご紹介させていただければと思います。

【佐々木分科会長】

 どうもありがとうございます。
 ほかに。それでは、家委員、どうぞ。

【家委員】

 この報告書、ちゃんと読ませていただければどこかに書いてあるんだと思うけれども、ITER計画が走り出したときに、JT60の位置づけというのはどういうことになっているのでしょうか。

【松尾研究開発戦略官】

 JT60でありますが、ITERはカダラッシュで実験炉であります。JT60については、幅広いアプローチの中に含まれておって、今幅広いアプローチは3つのプロジェクトがあります。青森で行うコンピューター関係のプロジェクト、材料関係のプロジェクト、それからJT60、これは那珂研である。JT60の位置づけですが、ITERを支援、補完するということであって、例えばITERは30メートル掛ける30メートルぐらいで、JTは13メートルぐらい、13メートルぐらいであるので、まずそこで初期実験を行って、いろんな条件設定をしてITERにつなぐという位置づけで、今、JT60も幅広いアプローチ協定の1つのアイテムとして、ITERを支援、補完するプログラムとして含まれているところです。これについては、ヨーロッパと日本とで共同で超伝導化をするということで、幅広いアプローチの中に含まれたプログラムという位置づけになっております。

【佐々木分科会長】

 よろしいでしょうか。

【家委員】

 はい。

【佐々木分科会長】

 ほかにありませんか。
 それでは、本件についてのご報告と質疑も終わらせていただきます。ありがとうございました。
 以上で、本日予定した議題はすべて終わりました。貴重なご意見、ありがとうございます。何か事務局から連絡事項はありますか。

【門岡学術企画室長】

 次回の学術分科会の予定ですが、平成20年1月31日木曜日の10時から12時を今のところ予定しております。場所等、詳細については、改めてご連絡をさせていただきたいと思います。また、本日の資料については、机上にお残しいただければ郵送させていただきます。
 以上です。

【佐々木分科会長】

 ありがとうございます。
 それでは、本日の会議はこれで終了いたします。

―― 了 ――

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