人文学・社会科学振興の在り方に関するワーキンググループ(第1回) 議事録

1.日時

平成30年10月25日(木曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省東館3階 3F2特別会議室

3.出席者

委員

(委員、臨時委員)
西尾主査、庄田委員、小長谷委員、岡部委員、小林傳司委員、小林良彰委員、城山委員
(科学官)
頼住科学官

文部科学省

磯谷研究振興局長、千原研究振興局審議官、渡辺振興企画課長、梶山学術研究助成課長、春山学術企画室長、丸山学術基盤整備室長、藤川学術企画室長補佐

オブザーバー

有本国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター 上席フェロー、前田国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー、窪田人間文化研究機構理事、森田 国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター長、津田 国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 企画運営室長

4.議事録

【西尾主査】  ただいまより、「第1回科学技術・学術審議会学術分科会人文学・社会科学振興の在り方に関するワーキンググループ」を開催いたします。
 委員の方で、途中から出席をいただけるということで伺っている方もおられます。そういうことも踏まえまして、これから審議を進めてまいりたいと思っております。冒頭のみ、カメラ撮影を行いますので、御承知いただければと思います。
 まずは事務局より、配付資料の確認をお願いいたします。

【春山学術企画室長】  はい。失礼いたします。本日、議事次第をお配りしておりますところに配布資料の一覧がございます。お手元の資料を御確認いただきまして、万が一欠落等ございましたら、お近くの職員にお知らせいただければと思います。あと、最後のところで冊子、本日御発表いただきます、JSTのCRDSの方から、新しくできたばかりの戦略プロポーザルの冊子等、ついてございますので、こちらについても併せて御覧いただければと思います。資料確認は以上でございます。

【西尾主査】  それでは、資料のことにつきましては、どうかよろしくお願いをいたします。ありがとうございました。
 議事に入らせていただきます。本日の議事は次第のとおりですけれども、まず1番目としまして、「人文学・社会科学の振興について」ということで御審議いただきますが、本日は、本ワーキンググループの第1回となりますので、審議に入る前に、事務局より、このワーキンググループについて説明をお願いいたします。

【春山学術企画室長】  失礼いたします。資料1-1をお手元に御用意いただきますよう、お願いいたします。1パラグラフ目ですが、第6期の科学技術基本計画に関する議論が、いずれ始まるということで、その上で、学術研究の意義を更に適切に位置づけられるように学術分科会として検討していくということがございますけれども、そうした上で、人文学・社会科学についての考え方を整理することが重要であるということ。また、現在我が国ではSociety5.0の実現等々の状況がございますが、そうした中で、人文学・社会科学の学術的意義に懸かる期待は大きいと。そういう中で、人文学・社会科学の本来的な意義を踏まえて、それについて検討するためにワーキングを設けると。こういった趣旨でワーキングの設置ということになった次第でございます。
 「審議事項」につきましては、「未来社会の共創に向けた人文学・社会科学的アプローチからの応答と提案の活性化」、それから、「人文学・社会科学を支える研究環境等」ということでございます。
 3.以下の「検討体制」につきましては、記載のとおりでございます。
 それから、資料1-2の委員名簿ですが、御参加いただいた委員におかれましては、ありがとうございました。小林傳司先生、大阪大学の理事・副学長先生のみ学術分科会以外からの参加ということで、本日も御出席を頂いているところでございます。また、本ワーキンググループの議事運営につきましては、参考資料2にもございますけれども、学術分科会の運営規則がございますが、こちらを準用して運営することでさせていただければと思っております。また、議事や議事録についても、原則公開というような取扱いということで考えております。
 以上でございます。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。今、御説明がありましたような形態で、今後、審議を進めてまいりたいと思っております。ワーキンググループのことにつきましての御質問や御意見等はございませんでしょうか。よろしいですか。
 皆さん方のお手元には、資料2-2がありますでしょうか。親委員会である学術分科会におきまして、既に議論を開始しておりまして、そこで出ました主な意見が書かれております。先ほど、室長から今後このワーキンググループで議論することの大きな柱を説明いただきましたけれども、その柱につきまして、これまでどのような意見が出ているのかということを、うまくまとめていただいております。この書かれている内容を、今後、内容的により深めていくことも、このワーキンググループとしての大きな役目だと考えております。

【春山学術企画室長】  その点も御説明させていただきます。資料2-1の方でございますけれども、今、資料1関係で御説明させていただきました、ワーキンググループの設置の趣旨ということを踏まえまして、これからの進め方ということが、資料2-1として御用意させていただいております。「審議の目的及び進め方」というところでございますが、以下の論点、1から3、前回の分科会で、分科会長私案という形で御議論いただきましたところに書いてあります論点の3つでございます。こうしたものを議論の軸といたしまして、「1. 未来社会の共創に向けた人文学・社会科学的アプローチからの応答と提案の活性化」、それから「2. 人文学・社会科学を支える研究環境等」についてということで、この2つについて、このワーキングとしてのアウトプットを得るというような形にしております。
 各回の構成ということでございます。今回、この第1回でございますが、これは論点の1、2を中心といたしまして、趣旨にもございましたけれども、第6期科学技術基本計画における学術研究、それから人文学・社会科学の位置付けということの検討に資するということで、学術知の総合性、特に、人文学・社会科学と自然科学の連携ということについて、ヒアリングを行うという形にしております。
 11月の第2回のところでは、これは人文学・社会科学固有の視点からということでございまして、取組の活性化でございますとか、国際展開の活性化、それから(3)のところでは、現行の事業ということで、これはJSPSの方で実施しております事業についてのヒアリングということを予定させていただいております。
 第3回の12月のところでは、これは分科会との合同開催になりますが、第1回、第2回のヒアリングも踏まえて、議論のまとめを行っていくことでございます。
 それから資料2-2、今、主査の方から御紹介も頂いておりますけれども、既にこれまで2回の学術分科会の方でも、本テーマについての御議論を、いろいろ頂いたところでございます。項目が、未整理のところはございますが、幾つかの観点でまとめております。「1. 未来社会の共創に向けた連携・協働」ということでは、今、いろいろ社会が変わっている中での人文学・社会科学の役割であるとか、そういうことが書いてあるところです。それから「2. 現代の社会的課題への対応」ということで、ヒアリングや御意見を頂きましたとおり、どういったことが今、期待されているのか、それからその発信の仕方について、どのような形があるのかというような御議論がされたとメモしてございます。それから国際性の向上ですとか、2枚目から3枚目にかけて、「4. 研究環境」というところですが、ここについてはいろいろ御提案を頂きまして、3枚目を御覧いただきますと、今、大学間競争の中で、機関をまたいで研究者が連携するというところがなかなか行われていないというようなことがございますけれども、こうしたものを意図的にどう作っていくかというような問題ですとか、それから、申請者がお互いに議論をして研究テーマを決める共創型のプロジェクトというものを考えられるのじゃないかということですとか、データアーカイブの必要性等々の御議論を頂いておりますので、これにつきまして、また議論と併せて御覧いただければと思っております。
 以上でございます。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。学術分科会で2回ほど議論しまして、その議論の過程で、やはりワーキングループを設置して、より深い審議をした方がいいのではないかということで、ワーキングループを開催させていただいている次第です。12月14日には、学術分科会との合同で開催し、そこで、ワーキンググループでこれから2回議論したことを持って上がって議論を深めたいと考えています。それと、学術分科会で言われていたことで、1つ重要な観点があります。それは人文学・社会科学系に関して、これまでいろいろな委員会などで議論がなされてきている経緯です。そういう中で、今回の学術分科会の議論として、どのような新しい視点、新しい重要な観点をきっちりと掘り起こして、それを政策にどのように生かしていくということが可能かということが問われています。その点もどうかよろしくお願いいたします。今までの説明につきまして、何か御質問や御意見はございますか。
 それでは、早々ですが、今説明がありましたとおり、本日は第1回として、学術知の総合性、人文学・社会科学と自然科学の連携について、委員の方々、また有識者の方々から御発表を頂きたいと思っております。最初に、人文学・社会科学と自然科学の連携に関する課題や方策について、小林傳司委員、及び、科学技術振興機構より御発表いただきます。なお、時間のことに関しましては、きょうは4件の御説明をしていただくことになっておりますので詰まっている状況です。そこで、事務局から、時間に関しての合図等をさせていただきます。その点に関しましては、失礼なことだとは思いながらも、全体の議論を円滑に進めていくためにも御承知おきいただければと思います。まずは、小林委員より、「科学技術社会連携委員会における審議について、御発表いただきます。どうかよろしくお願いいたします。

【小林(傳)委員】  大阪大学の小林でございます。資料は3-1でございます。3点の資料を付けております。最初に、2つ目の「Miraikan」と書いてある資料を御覧いただきたいと思います。ここでは、科学技術と社会に関して、科学技術基本計画で、どのように扱われてきたかということの歴史的な変遷が記されております。第1期以来、こういうステップを踏んで、科学技術と社会に関して、基本計画で書き込まれてきたのだと。そして政策は、このような形で行われてきたのだということの御紹介でございます。そして、その1枚裏側を見ていただきますと、それを非常にシンプルにまとめまして、「理解増進」から「双方向」の対話、そして「参加」、そして現在、「共創」という、そういうステージへ上がっていっていると。こういう理解のもとに、科学技術と社会の関係については議論されてきたというのが日本の状況であります。そして、これは実は、世界とも共通しております。
 次のページに、こういう棒グラフというか、層になっているものがあると思います。最初の資料は、これらの層で表された取組の全てが、常に現在も堆積して必要であるということを表現するために、このように層で並べているということでございます。上の方は、これは日本の基本計画の歩みでございます。下の方は、ヨーロッパのポリシーの歩みでございます。極めて類似した問題意識のもとに、科学技術と社会の関係の議論がなされてきたということがお分かりいただけるかと思います。
 その上で、資料3-1の最初の紙に戻りたいと思います。これは科学技術基本計画に関する、科学技術と社会の項目を審議する委員会というものが、従来ございませんでして、それで新たに、科学技術・社会連携委員会というものが設けられ、私が主査をしております。そこで今年の2月に取りまとめたペーパーを基に、簡単に内容を御説明いたしたいと思います。当然、人文・社会学には、様々な、そして固有の役割がございます。しかし、現代社会において、巨大な力としての科学技術にどうコミットするかという課題は、すぐれて人文・社会系の現代的な課題であるという認識が広がっております。
 そして、科学技術を社会の中でどのように活用するか、及び、どのように制御するかという課題は、どんどんと大きくなっているのが現代社会でございます。例えば1960年代ぐらいまでは、科学技術の進歩は、そのまま受け入れるということで話は進んだわけですが、70年代以降は、それが本当に必要な科学技術かどうかということの吟味が必要になってきている。そういう時代の中で、科学技術をどのように推進するかという課題が重要になっております。
 そこにおいて、人文・社会科学の参画、そして市民の参画という、その2つの側面がございます。理工系の知に対して、人文・社会科学が関与すべきであるという意味では、これは学際的な営みということになりますが、それに加えて、アカデミズムが生み出す人文・社会も含めた学術的な知識に対して、その知識の活用と恩恵を享受するとともに負の影響も受け得る市民がどのように関与するか。これがトランスディシプリナリーな課題という形で浮上してくるわけでございます。
 この資料のペーパーは、そういう観点から、どのような形で科学技術に対して人文・社会科学がコミットするのかということを簡単にまとめたものでございます。2ページ目を見ていただきたいと思います。基本的に2つの考え方をここでは整理しております。1つは、まず技術が先に発展していく、そしてそれを社会にどのようにインプリメントしていくかというところで生じる問題。いわば技術売り込み型のようなもの、あるいはシーズプッシュという言い方をするかと思います。そこでは、社会にそのような新しい技術を実装するに当たって、社会が広い意味でのテクノロジー・アセスメントをしなくてはならないだろうと。つまり本当に必要な技術なのか、それともほかのソリューション、技術以外のソリューションはないのか、あるいは副作用はどのようなものなのか、そういった観点から、この科学技術の発展に対して、歩みを共にして、発展の最初のころから、開発の最初のころから議論に参加していくという、そういうことがこれから大事になっていく。これを科学的知見や技術を拠点とした調整型アプローチと呼んでおります。
 もう一つの問題は、社会的課題、あるいは社会的動向から科学技術を再構成していくという、いわば課題から研究を再構成するという意味で、御用聞き型、あるいはニーズプルといった形になるかと思います。ここでは、再構成型アプローチということで、社会(国民)からの、研究開発者への課題提案、例えばSDGsなどはそういうタイプの問題であり、それに対して科学技術がどのように答えるかという問題の立て方がなされます。しかしそこで出てきた科学技術は、もう一度、社会の中で本当に受容されるかというフェーズへ戻っていくと。そういう形で循環をするようなモデルでございます。最近では、SDGs、あるいはFuture Earthなどが、そのようなタイプの研究開発のモデルになろうかと思います。
 いずれにせよ、検討の初期、つまり科学技術の開発段階から、人文・社会系の研究者が参画する、あるいは市民社会が参画するということが大変重要であるという認識は、これは日本のみならず、ヨーロッパにおいても広がっております。
 3ページ目の(3)でございますが、これは現在において、よりどちらが重要かということですが、研究者はおおむね研究から入って、それを社会の方に受け入れてくださいという形で動くわけですが、現在は、貴重なパブリックファンドをどの方向に使うかというときには、やはり社会的課題の設定、そしてそれに対する科学技術のレスポンスという、再構成型のアプローチに重点を置かざるを得ない状況になっているのだろうと思います。そういう状況ですので、再構成型のアプローチというものが、これからかなり重要になっていくだろうと思います。
 そして(4)、ここが大変大事な問題でありまして、このような科学技術の進展に対して、それをハンドリングする社会科学系の人材、これを「社会技術の担い手」と呼んでいいかと思いますが、その社会技術によるチェック・アンド・バランスということをこれからやっていく必要がある。例えば科学技術者は、善意からではあれ、やはり科学技術に関するステークホルダーでありまして、自分の科学技術が社会にとって意味がないなどということは絶対に思いません。大事であると確信することによって研究は進みます。しかしそれが本当にそうかというのは、また別のフェーズで吟味しなくてはいけないと。そういう意味で、科学技術者は実は中立ではないということを踏まえて、社会の中の、社会のための科学技術を考えるという観点から人文・社会というのが必要であると考えております。
 そういう観点から見たときに、我が国、日本の問題は何かということですが、きょう後で発表されますけれども、RISTEXなどでは、そういった観点からの取組を進めてまいりました。しかし日本全体における科学技術の営みの中では、比較的小さな営みということになろうかと思います。そして、そういう研究の蓄積の中で、様々な成果も上げ、人材も育成してまいりましたが、それが短期間のファンディングを繰り返すことによって途切れていくということがずっと続いております。
 ですので、課題といたしましては、このような社会技術的活動をどのように継続するか、それからそれの担い手の人材をどのように継続的に育成するかということになろうかと思います。その点で、日本のアカデミズムセクターも文系と理系が分断されている側面をなかなか克服できていないために、そういう人材がうまく育成できない、又はそういう問題に関心を持った学生、研究者が出てきた場合に、その評価システムが十分でないために、結局のところ、人材の継続性が図られない。この点は、欧米が小さいながらも非常に継続性のある研究機関のようなものをたくさん作り始めておりますので、そういったことを日本はこれから本気で考えるべきではないか。短期間のファンディングの継続ではなく、薄くても、小さくても、そういうものを継続するという仕組みを構築することが今後このような問題を日本においてきちんとやっていくために必要であろうと。
 Society5.0における議論におきましても、あのような技術群を社会にどのようにインプリメントするかというところで、人文・社会系が大変大事であるということは、経団連のレポートなどでも指摘されておりますので、それに対する積極的な対応が今後求められていると思います。
 簡単ではございますが、以上でございます。

【西尾主査】  非常に簡潔に重要な点をきちんと押さえて御説明いただきまして、どうもありがとうございました。
 それでは、引き続いて、科学技術振興機構研究開発戦略センターの有本上席フェローより、「自然科学と人文・社会科学との連携を具体化するための連携方策と先行事例」というテーマで、御発表を頂きます。どうかよろしくお願いいたします。

【有本上席フェロー】  ありがとうございます。こういう機会を頂きましてありがとうございます。私どもの資料は、資料3-2、それから、分厚い「戦略プロポーザル」というものがございます、この2つを使って御説明します。私がイントロ的に一、二分やって、あとはこれを苦労しながら、3年有余はやってきました前田さんに話をしてもらいます。
 まずそもそも、研究開発戦略センター(CRDS)とは何者か、なぜこういうことをやり出したか。従来は、ハードサイエンス、科学技術、工学、医学、ハードサイエンスのプライオリティフィールドはどういうものがあるか、それからそれのファンディングのやり方、エコシステムをどうするかということを中心にやってきました。今やそれだけの時代じゃないだろうということで、社会との関係性を強く記載したわけです。通常は1年半ぐらいかけてプロポーザルというのは出すのですけれども、これは3年余りかけました。CRDSの中のマインドセットを変えていくということも含めて、少し時間をかけながらやってきた次第でございます。
 ポイントとしましては、先ほど小林先生が、理念的枠組み的なところで言われました。このプロポーザルではもっと具体的に、役所レベル、あるいはファンディングエージェンシーレベルで、どういうことをやったらいいのかということを基本にしています。あと御紹介しますけれども、14、15ぐらいの先行事例です。各大学・機関もいろいろやり始めておられますけれども、そういうものを詳しく調べて、更にインタビューに行く、それをしっかり記述する。その蓄積をもとに共通的なところはどこなのだということもできるだけ抽出したつもりです。
 私どもも第6期の科学技術基本計画というのが年明けから加速度的に行われるというときに、できるだけ、CRDS全体としても、自然科学と社会科学、人文学の連携に加えて、AI・ゲノム編集とか、エマージングテクノロジーの社会インパクトというところを意識的に、とりあげて第6期に向けて、いろいろ仕事をしていくという方針だと思ってございます。
 では、前田さんからポイントの御説明をお願いします。

【前田フェロー】  前田でございます。プロポーザルの内容を説明させていただきます。お手元の資料3-2で、スライド、2つを1つに印刷してございますけれども、スライド番号の2番のところから説明をしていきたいと思います。アウトラインとしては1番のスライドに入っているようなとおりで、こちらの流れで御説明したいと思います。
 最初に、何を自然科学、人文・社会科学と言うかに関しましては、ごく一般的な定義を用いております。総務省の調査報告書にあります定義を踏まえて、細かい点については科研費の分科細目も利用しながら、自然科学は理学や工学、人文・社会科学は人文学と社会科学であるということで検討を進めてまいりました。
 それから、私ども「連携」という言い方をしておりますけれども、連携とは何かということを説明しているところが、3番の絵につながる内容でございます。異分野のアドバイスを受けるとか、既存の知見や方法を使うということも連携だと考えていますし、あるいは課題解決型の研究プログラムなどによく見られますように、ビジョンを共に検討する、あるいはビジョンは共有した上で、研究は別々にやるけれども成果は統合的に活用する、あるいは最初から統合的なテーマを設定するというような、こういったプロジェクト型の研究開発を進める際のものも連携と考えますし、あと5番目にありますように、個人プレーとして、異分野の知識を自主的に研究者の方が身に付ける、あるいは異分野に越境してしまうというようなことも連携です。よく、連携という話をしますと、分野融合ですね、文理融合ですねという方も多いのですが、そのイメージが6番です。このように、浅いものから深いものまでも連携だと考えて検討を進めてまいりました。これは、必ずしも番号が大きくなることを推奨しているわけではなく、課題の必要性に応じて、適宜、必要な形の連携が行われればいいと考えて検討を進めてまいりました。
 4番と5番のスライドには、今、有本からも申し上げましたように、こちらを検討するに当たって参考にしました先行事例を示してございます。上にありますのが、研究テーマや取組に対するもの、下にありますのが、方法に関する先行事例となっております。いずれについても、プロポーザルの本文で詳しい説明を付けておりますので、御覧いただければと思います。
 次に、プロポーザルのまとめに当たっての、現状認識、問題点ということで、スライドの6番です。現代社会は、科学技術も社会も共に変容しております。そうした中で、人社連携に対する認識が高まっている。これは社会が複雑化して、価値判断が求められる様々な課題に対しては、単独の分野の知識だけでは駄目で、多くの分野が統合的に関わっていく必要があるということが背景にあると思います。そして、こうした認識は国内外の関連動向にも、Society5.0(第5期計画)、あるいはEU(欧州連合)の研究開発プログラム等に表れていますが、日本においてはなかなか、いろいろな課題があってうまくいっていないという状況でございます。
 社会や科学技術の変容についての説明は7番のスライド、それから国内外の関連動向に関しては8番目のスライドに書いてありますので、こちらで御覧ください。
 そして9番目に行きまして、連携をめぐる日本における課題ですけれども、基本政策の文章の中で、人文・社会科学と自然科学の連携が必要だということは、言及はされるのですけれども、具体化するための方法というのはほとんど検討されてきておりません。また、連携ということについて、どういうものを連携というのかもきちんとまとめられてはいないのが現状だと思います。
 それから、異分野の方が関わる中ではいろいろと課題がありまして、連携を困難にしてきた要因、9番のスライドの3つ目のポツですけれども、研究者の方々に聞きますと、用語の違いですとか、コミュニケーションが不足しているといったような問題点があります。こういったもののほかに、どうしても理系主導で連携を求めるという、文科系の方のインセンティブの問題という、4番目の点に掲げてあるような課題があります。
 こうした課題に対応するために、我々は連携方策を検討してきたのですけれども、これは短期的には様々な事例が積み上げられて、課題が解決され、イノベーションにつながっていくことを狙っておりますけれども、長期的には、やはり分化した諸学が総合的になっていくことを目指すことも、長期的な視野として置いております。
 そういうわけで、連携方策を検討してまいったわけですけれども、それに当たっては、11番のスライドを見ていただいて、主に2つのことを、検討する際には明らかにしました。1つが「連携の形と深さ」ということで、これは冒頭に説明したとおりです。
 もう一つは、人文・社会科学と自然科学の連携がどういうところで必要とされるかということを、3つのフェーズという形で整理いたしました。課題の探索・設定、社会ビジョンの抽出、研究開発活動そのもの、実装を視野に入れた取組の3つにカテゴライズできるのですが、これらは、どのような研究や取組に連携が必要とされますかということを有識者の先生方にヒアリングして、得られたものをこちらのグループに分けたものです。
 これらを、社会的要請に対応するための研究プロセスと対応付けますと、プロセスの図を示したものが12番のスライドに、3つのフェーズをあてはめたものを13番のスライドに示してあります。こうしてターゲットや形を明らかにした上で、連携方策を検討してまいったわけでございます。
 連携方策の内容ですけれども、14番のスライドに行っていただいて、6点を提案させていただいております。1つ目は、提案の担い手のマインドセットであり、2番目はコミュニケーション不足であるとか、連携を困難にしてきた要因への対応として提案しているものです。提案の3から5は、今、御説明しました、連携が必要とされる3つのフェーズに対応する提案となっております。また6つ目は、これらの提案を実施するために必要な、基盤的な人材育成策の提案になっております。
 そして15番のスライドですが、連携方策の担い手と所属組織としては、こちらにあるような、行政や、あとは資金配分機関の研究プログラムの担当者など、あるいは大学のマネジメントの方々も、実際の研究者、実務家の方だけではなくて、こういう方々も担い手として想定しております。
 16番が全体構造のイメージを図示したものになっておりまして、17番に、主な担い手と、提案との関係を示しております。制度・事業、研究プログラムや大学の運営といったところでの担当者の方の役割が大きいものとなっております。
 提案は6つございますけれども、中から特に重要なものを幾つか説明させていただきます。
 19番のスライド、提案2です。やはりこの場づくり、ネットワーキングの活動というのは、最もコアになる活動かと思います。これはコミュニケーション不足を改善していくために非常に重要で、事例も見られておりますし、プログラムの運営や、大学の中で研究テーマを設定するために非常に重要なものになっておりますので、大学の経営者の方々等は、こういった提案を学内で是非活用していただきたいと考えております。
 少し飛ばしまして、スライドの22番、提案5でございます。成果の実装を視野に入れた取組の中では、技術の社会的影響という、ELSIに関するものへの対応で、人社系への期待があるだけではなく、もう一つ、将来のニーズを取り入れたデザイン思考の研究開発の取組にも、理系以外の視点が必要とされると考えておりまして、プログラムを設計する際に、こういう活動をあらかじめ組み込んでいくような形で、この提案を活用していただければと思います。
 それから提案6、23番のスライドです。この中では、東京工業大学でやっておられます教養教育の拡充、教養教育の取組は非常に重要だと思いますし、この点を特に強調していきたいと考えております。
 こうした1から6番までの提案は、この中から、状況や目的に応じて必要なものを選択して、柔軟に運用していければと考えております。
 最後、「おわりに」ということで、26番のスライドです。これらの提案は不可欠な要素であり、今後、いろいろな連携事例を積み上げる形の中で生かせていければと考えております。そしてこちらのプロポーザルをまとめたことを、人文・社会科学と自然科学の連携を今後も実質化していくために、議論を広げ、深めていくための契機としていきたいと考えております。
 私からの説明は以上です。

【有本上席フェロー】  補足をいたしたいと思います。スライドナンバー28、29で御紹介したいと思います。OECDのGFS(Global Science Forum)、ここはOECDの中の科学技術政策のシンクタンクの集団であります。ここは科学助言・ファンディング制度などとりあげてきましたけれども、新しいプロジェクトを立ち上げようということで、我々もいろいろ相談を受けた上で、Transdisciplinary Researchをあげています。今年の年末に立ち上げて、1年半ぐらいかけて、今、10数か国が参加します。方法としては、各国のこういうアプローチをやっているものについて、文献収集、インタビューなどでケーススタディを集める。その上で共通項目を見つけ出して、それを各国にもプロポーザル、提案していく仕組みになると思います。日本も共同議長になってほしいということですので、積極的に対応するつもりです。各国の動向もよく分かります。
 その準備の中で、29ページに、既にOECDの中でも、Institutional Arrangements、Funding、Peer-review、Training and Education、Data Integration、こういうところにいろいろな困難があるんじゃないかというものも出ておりますので、御注目いただきたいと思います。
 それから、折り込みのA3に言及します。これは啓蒙のために、いろいろな機関・機会に使っています。現代の科学技術は、どのように社会相互に関係してきたか。3年前に私どものグループで、『科学的助言』とタイトルで、東大出版会から出した本の中に書いたものです。ポイントは、科学技術基本法が95年にできて、ブダペスト宣言が来年20周年になるわけです。Science in Society, Science for Societyと。この20年間にScienceもSocietyも、ものすごく変わっている。国際的にブダペスト宣言について総点検しようという動きもあって、来年11月のブダペストで、20周年の会議があります。メーンテーマが、Ethics and Responsibility of Scienceという、まさしくずばりのものです。そういう中で、第6期科学技術基本計画の検討がすすめられるわけです。CRDSは最近、Beyond Disciplinesという標題で、理工系、医学系の中での異分野融合をとりあげ、12テーマを示しました。
以上です。ありがとうございました。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。本当に具体的な提案が書かれていることに非常に感銘を受けました。
 人文学・社会科学と自然科学の連携ということでの議論が、まず1番目の議論ですが、それについての2つの発表を頂きました。その中で、連携の必要性であるとか重要性、そして今後連携が必要となる分野、社会的な課題は何なのかをお話しいただきました。さらに、具体的なケースとして、Society5.0、SDGs、それからELSIの問題やOECDのGFSと関連した話題も出ました。それ以外にもどういうような場合があるのか。
 また、連携する場合に障害となるのは何なのか、それを克服するためには何が必要なのか。一方で、連携が容易なのはどういう取組なのか。そういうことも含めて、人文学・社会科学のアカデミアに期待される役割、取組というものを再度考える必要があると思っております。
 有本様から、ScienceもSocietyも、ドラスティックに変わっていっているのだとおっしゃっていただきました。そのような状況の中で、人文学・社会科学と自然科学の連携をどのように捉え直すのかという観点で、御意見を頂ければと思いますがいかがでしょうか。

【有本上席フェロー】  ちょっと先生よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【有本上席フェロー】  この3年間、外務省の依頼で、SDGsのゴール、達成に向けて、世界のサイエンスコミュニティーがどうアドレスするかという会議に盛んに出ております。そこで必ず議論に出てくるのが、Science、インテグリティーとクオリティーを維持しながら、SDGsのゴール達成に提言するかというところは大切と考えております。ちょっと言い忘れまして、失礼しました。

【西尾主査】  重要な視点、ありがとうございました。
 どうでしょうか、いろいろ御意見等ございませんでしょうか。

【小林(傳)委員】  よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【小林(傳)委員】  こういう営みが大事であるという認識は世界じゅうで広がっておりますし、日本でもそれなりに、小規模ながら続けてきたということは事実で、例えば社会技術研究開発センターはそういうことをやってきた中心地なのですが、最大の問題は、こういう問題に関心を持つ若者のキャリアパスがうまく動かないということなんですね。結局、ファンディングが時限で行きますので、それが終わるとなかなか継続できない。海外の事例を見ますと、やはり大学などの中に、あるいは政府系の機関の中に、継続的にこういうタイプの議論をするような組織を組み込んでいます。そして、それでずっと科学の変化、社会の変化をウオッチし続けながら、そこで研究者が育成されていくという仕組みがあるのですが、日本の場合はファンディングが消えると雲散霧消して、またゼロスクラッチで始まるということを繰り返してきていると。ここを何とかしない限り、いつまでたっても同じことの繰り返しになるんじゃないか、それが一番の問題だと思っています。

【西尾主査】  自然科学と人文学・社会科学の連携をどのように図っていくかというようなことに関しての科学技術政策をきっちりできるような人材のキャリアパスが全然確立されていないということが大きな問題であるとの御指摘かと思います。そういう方たちが、例えばこういう委員会に出席して、様々なエビデンスデータ等をベースにした議論を展開してくださることが非常に重要なのだけれども、そういう人がなかなか育っていなくて、日本全体では非常に少数な方しかいないということが、我が国の該当分野を振興する上では大きな問題なのではないかということと捉えることができると考えます。
 それは今後是非、大きな問題として考えたいと思います。大学等において、こういう科学技術政策論を究める専攻がどれだけあるのかというようなことも、我々、きっちりと考えなければならない大きな問題だと思っております。どうぞ。

【有本上席フェロー】  よろしいですか。今、西尾先生が、科学技術政策論をやる大学のコースはどういうものがあるのかという御質問です。6年前に、小林先生も御参画いただいて、「科学技術政策のための科学」というプログラムを作って、GRIPS、東大、一橋、阪大、京大、九州大学がコアで続けてきました。やっとスタンダードなコアカリキュラムというものを編集しました。四十章ぐらいのもので、近々公開いたします。こういう領域の集団・若者が、本当にちゃんとサステイナブルにキャリアパスとしてできるのかというところは、いまだに十分解決できていないところでございます。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。
 先ほど、前田様からいろいろ具体的な提案等々もございました。そういうことも踏まえて、御質問や御意見等はありますか。

【庄田委員】  御説明、ありがとうございました。CRDSの資料にあった「連携の形と深さ」の類型化と先行事例に関する質問です。第5期科学技術基本計画に基づいて、自然科学を主体とした多くの研究開発プログラムが進行中ですが、「連携の形と深さ」の類型4に関してです。PDCAの観点から言うと、自然科学では、論文や知的財産がアウトプットにあたりますが、ビジョンはアウトカムと言い換えることができるかと思います。アウトカムは時間を要する課題ですが、先行事例の中で、既にアウトカムを見る段階まで進んでいるものがあるのでしょうか。

【有本上席フェロー】  よろしいですか。後から実践的なことで御紹介があると思うのですけれども、私が見るところ、アウトカムまで行っているというものについては、Future Earth、その前のベルモント・フォーラムでのファンディングなどは、環境分野についてはかなり実現し始めている。IPCCの勧告内容にもつながっているアウトカムもあると思います。RISTEXが後から御紹介があると思います。CRESTでも、幾つか進んでいる。選んだPOに相当意識があったと。これは個人で支えられているわけです。仕組みじゃなくて。

【西尾主査】  よろしいですか。もう一つは、皆様方に、今回の委員会で再度確認をさせていただきたいのは、小林委員からおっしゃっていただきました、人文学・社会科学系と自然科学を考えた場合の役割ということです。最初の役割が「調整型アプローチ」です。これは、例えばイノベーションを起こしていくというときに、自然科学系が飛行機の主翼であって、それが駆動的な役割としてぐっと引っ張っていくときに、人文学・社会科学系が尾翼の役割をしながら、それが間違った方向にいかないように、うまくコントロールをして、しかるべき健全なイノベーションに導いていくことです。
 それで2つ目の役割は、これが新しい方向性だと思うのですけれども、「再構成アプローチ」という言葉で説明された方向性です。社会的な課題がより複雑化している状況の中で、いろいろな視点で考えなければならないときに、人文学・社会科学系が、それはどういう課題なのか、どのように課題の解決を考えていくのかを主導するようなアプローチだと考えます。
 以上のような2つのアプローチを紹介いただいたのですけれども、我々が今後議論を進めるときに、それらの大きな2つのアプローチで考えていくということで良いのか。いや、更に別のアプローチがあるのではないかとか、まずは小林先生からの御発表に対して議論を深めさせていただければと思いますが、いかがでしょうか。

【小林(傳)委員】  Future Earthの議論のときに、最初にイメージされたのは主査がおっしゃったようなことでありまして、アジェンダセッティングのあたりのところについては、人文・社会科系と、それから理工系、技術系の方々のウェートよりは、人文・社会系の方がやや強めの形でスタートする可能性がある。しかしそこで、一旦具体的な研究開発目標が定まってくると、今度は当然、出番は科学技術系の人たちになると。そしてそれが一定の成果を上げ出すと、それを社会にインプリメントするというところで、知識のユーザーの関与が入ってくるという、そういう流れで考えるべきであると。そういう意味では、今おっしゃったように、最初の部分での関与が、人社系が増えるというのが、SDGsなどに見られるようなタイプのものだろうと思います。
 日本の場合どうも、今の飛行機の比喩で言いますと、研究開発というと、パイロットと機体と燃料ばかりにつぎ込んでいるんですね、資源を。だけどそれだけで飛行機は飛んでいるわけではないわけでありまして、滑走路の整備から、地上要員、管制システム、様々なものの集積で飛行機は飛んでいるわけですから、科学技術も実は同じなのですが、ともすれば我々は、燃料を欲しがっている人の大きな声や、パイロットで、操縦桿(かん)を握っている人の大きな声の方に行ってしまうのですけれども、もうちょっと全体を見るという観点で、科学技術政策は考えるべきじゃないかと思います。

【有本上席フェロー】  よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【有本上席フェロー】  このレポートの中に書きましたが、アメリカのヒトゲノムのプロジェクト。そのプログラムを立ち上げるときに、これはいろいろ思わく絡みでもあるようですが、Double Helixのワトソンが提唱して、巨大なゲノム解析予算の中に、15%ぐらいをちゃんと、ソーシャルインパクトとか、エシックスの問題を考える予算枠として、制度として設定した。これは大事なインパクトがあって、それが人材養成にもつながっています。AIと社会について今、いろいろなドキュメントがどんどん出ているのにも、ここで言った人材がつながっている。きちんとした制度として入れる類似の動向を総覧、レビューしてもらうといいんじゃないかと思います。

【西尾主査】  そうしますと、今後の第6期の科学技術基本計画を考えるときに、御提案いただきましたような制度は、大切ではないかと思っています。特にAI等においては、例えばディープラーニングひとつとっても、そこにおける制御可能性であるとか、透明性ということに関して、日本が世界に向けて、その重要性をどんどんアピールしていくことが重要だと思っています。その観点からも、有本様からおっしゃっていただいたことを制度的に、具体的に進める枠組みが必要ではないかと考えます。
 小林先生にお伺いしたいのは、この第6期というようなことをいろいろ考えた際には、やっぱり「再構成型アプローチ」というのが、そこでは大きな役割を果たしていくだろうという考えでよろしいですか。

【小林(傳)委員】  ここはなかなか悩ましい問題で、科学技術の発展というのが、やはり研究者の創意から生まれるという側面、これを無視するわけにはいかない。ただ、パブリックファンドの制約の中で、今、どちらに力点を置くべきかという問題を考えると、日本の場合、まだ再構成型のところはそれほど強くないので、そこにもう少し注力すべきだとは思うのですが、全体のバジェットが小さくなっているので、なかなか、はい分かりましたと研究者の方はおっしゃらないということは事実だろうと思います。ですから、その研究者の方にも、もちろん自由な発想からのボトムアップ型の研究をやっていただくのはいいのですが、それがやはり社会の中で役に立つという側面を考えていただくことが大事になりますよと言わざるを得ないのじゃないか。ただ、100年後になりますよという研究が無意味だとは私は申しませんが、おのずから、金額的な制約が今出ている時代になっているような気はいたします。そうですね、多分、調整型を日本はもっときちっとやるべきだと思いますし、海外もそう感じですね。先週、ドイツに行ってまいりましたけれども、ドイツで、イノベーション・アンド・ダイバーシティというワークショップをずっとやっているのですが、そこでも、Digitalizationという言葉遣いで、それが社会の中でどういう意味を持つのかということで、ドイツの労働省の中に、研究者と官僚が一緒になって、ワークショップができるスペースを作りまして、そのスペースの立てつけは、日本でも大学でいろいろやっているワークショップ型のスペースなんですが、そこで議論をして、政策インプリケーションを持っているような研究を進めていくというようなことをやっぱり彼らも始めていますので、そういうものがどうしても必要になってきた時代だろうなと思います。だからそれとピュアサイエンス的な議論とのバランス問題が今、一番難しい問題だとは思います。

【西尾主査】  どうぞ。

【岡部委員】  私は医学、生物学、脳科学の研究者なので、分野外からの意見になってしまうのですけれども、脳科学を自分が主に研究していて、2014年に、アメリカでBRAIN Initiativeという大型の脳研究プロジェクトが始まったのですね。同じ年にヨーロッパでも、Human Brain Projectという、これはEUのフラッグシッププロジェクトの1つとして認められたものでこれもかなり大型な研究費を費やすプロジェクトです。日本でも、その翌年から、革新脳という、日本の脳研究プロジェクトが始まりまして、今、4年ぐらいが経過して、昨年から、それが国際のイニシアティブという、International Brain Initiativeという形で、各国の国際連携を始めるようになっています。その国際連携プロジェクトで、まず始めにワーキングループを作ったのが、ニューロエシックスだったんですね。そのときに、ニューロエシックスを最初に立てた理由というのは、多分、調整型と再構成型の両方やろうという、そういうアイデアだったと思います。つまりBRAIN Science、脳科学はいろいろ、まだ応用を探っている段階ですので、それが決まる前に、きちんと倫理のことを考えて、どの範囲、どちらの方向性を生み出すのが一番いいのだろうかという議論をして、かつ、その研究が進んで、進展していく過程では、調整型の、実際起きてきた問題を解決するという形で進んでいます。
 10月に、韓国で最初のGlobal Neuroscience Summitという会議がありまして、私も参加してきたんですけれども、そこで感じたことは、やはり国際的なそういう連携機構みたいなものが走ってしまうと、やっぱりエシックスはすごく大事だなということで、日本だけのことを考えていっては、余り話が通じなくなってしまうんですね。実際、脳科学関連のいろいろなデータシェアリングですとか、あるいは脳バンクみたいな、ドネーションしていただくような話をしても、ヨーロッパ、アメリカの方の認識と、日本、韓国、中国の認識はかなり違っていて、そういう議論をしようと思うと、更に後ろに戻って、じゃあアメリカ、ヨーロッパのカルチャーと、日本のカルチャーは何が違うのかというような議論になってしまうんですね。
 そこで感じるのは、やはり人材が、日本は圧倒的に不足していて、そういうことを、話に加わってもらおうと思って日本国内を探しても、なかなか見つけることができないという問題があります。脳科学でもそうですので多分、ほかの生命科学、自然科学の分野で、同様に倫理関係のことをどなたか、国際会議に参加していただこうと思っても、まず多分、人が見つからないだろうと思うんですね。こういう状況は多分、今後どんどん拡大していくと思いますので、先生が言われたように人材育成ですね。分野横断型の人材育成ができて、自然科学の分野にも、きちんとした知識をお持ちの方で、かつ倫理関係のことが扱える方というのを育成していくことが、本当に喫緊の課題ではないかと感じました。

【西尾主査】  貴重な御意見を頂き、ありがとうございました。国際化、あるいはグローバル化においても、そういう人材の問題が非常に大きく関わってくるということの具体的な問題をお話しいただきました。どうぞ。

【小林(傳)委員】  今の御指摘は非常に重要で、その点では、日本の教育システムが非常に問題をはらんでおります。実は私は理学部出身者でございます。ですので、Scienceも、現場感覚に若干触れた経験を持っているわけですが、やはり高校のところで文理の区別の後、ずっと分かれてしまいますと、なかなかそういう問題に踏み込む人間が出てこないんですね。そういう点で、大学の教育システムの中で、そういう人材を作るための工夫というものが本当は必要なんですが、それは先ほど申しました、キャリアパスのところに見えないので、関心を持つ若手は明らかにいますが、時限のプロジェクトをやったら、その後放り出されますので、それではなかなかできないということを繰り返しているんですね。もう10年以上も。これを何とかしない限り、先生がおっしゃっているようなところへの日本の対応がなかなか進まないという気がいたします。

【有本上席フェロー】  よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【有本上席フェロー】  ちょっと心配なのは、さっきのSDGsについて、やっと総合学術会議がワーキングループを作ってくれて、そこで議論がいろいろあって、私もそれに参画して動きを目撃しております。SDGsというのは、結局は課題解決だという理解、政治に近いほど、そういうふうに割り切りがちです。第6期に向けてですね。しかしSTI for SDGsを海外といろいろ議論して、科学技術界のトップの方々が参画しているプラットフォームでは、SDGsというのは、Fundamental Scienceがきちんとサステイナブルに動いていなかったら、SDGsの課題解決はできやしないという基本が盛んに言われるわけです。
 その上でもう一つは、SDGsというのを、ここをよく見たら、課題解決と言いながらも、ここに学問のフロンティアがあるはずだと。これを見つけるのが本当のトップサイエンスじゃないかという議論もよく出ています。是非そういう観点からの議論もよろしくお願いします。

【西尾主査】  本当に貴重な観点を御指摘いただきました。SDGsに対する考えを我々がきっちりと捉え直す必要がありますね。
 ほかに御意見とかございますか。これまで、まずは連携の大きな枠組みに関しての議論をいただいきました。後半で、前田様からいろいろ御提言いただきました、具体的にどう連携をとっていくのか、どういうプラットフォームを作るのかということについては、御提示いただきましたような形で明確に掘り下げた議論のレポートは今まで見たことがなくて、非常に興味を持ちました。どうもありがとうございました。
 それでは、きょうの2つ目のテーマとして、人文学・社会科学と自然科学との連携に関し、実際に取組をされておられる具体的事例について、人間文化研究機構及び科学技術振興機構より報告を頂きたいと思っております。まず初めに、人間文化研究機構の窪田理事より、総合地球環境学研究所における取組を中心に、お話を頂きます。よろしくお願いいたします。

【窪田理事】  人間文化研究機構理事の窪田でございます。この3月まで、総合地球環境学研究所におりました。ちょっと離れてしまいましたので、多少しゃべりにくいところもあるのですけども、実際の現場でどういうことを考えて文理融合をやってきたのかという話をさせていただければと思います
 1枚めくっていただきまして、2ページに簡単な自己紹介を書いてございますが、私も実は理系の出身です。したがって、今日の話は、理系から見た文理融合プロジェクトの話だと考えていただければと思います。
 地球研では、そのページに書いてありますように、3つのプロジェクトをやっております。もともとの専門が水循環、水文学ですので、そういう関係のプロジェクトをさせていただきました。
今日の話題ですが、先ほども申し上げましたとおり、文理融合的な研究を進める組織として、ある種、実験的に作られた大学共同利用機関という、非常に面白い組織だと私自身は思っているのですけれども、その地球研の概要をまず述べます。そして、地球研が組織としてどのように文理融合を目指したのか。具体的にどの辺が難しかったのか、あるいはどういうことを考えていったらいいのかということを、少し現場感覚で話させていただければと思います。研究名の内容については、時間も限られていますので、できるだけ紹介するようにはしますが、仕組みとか、それから具体的にどういう難しさがあった話をさせていただきたいと思います。
 次の3ページ、4ページですけれども、これは先日の研究基盤部会で、地球研がどんなところであるかを紹介させていただいたスライドでございます。先ほどから話題に出ておりますように、地球環境学、環境問題をどう解決していったらいいのかという、かなり具体的な課題を扱うため、2001年にできた、比較的新しい大学共同利用機関です。文理融合によって、解決に向けた道筋を探っていこうということです。
 4ページの右側に、地球研のプロジェクトに関わっている研究者の専門分野、あるいは所属機関というものを示していますけれども、約半分がやはり自然系です。ただし、人文系もそれなりの数が入った形で研究を進めているというところが特徴かと思います。
 5ページに行きまして、先ほど小林先生より、日本あるいは世界でのこういう文理融合的な研究の流れというのを紹介していただきましたけれども、それに対応するような形で、地球研の中でもどういうふうに進めればいいかというのを考えて、課題は結構変わってきています。第1期、第2期、第3期というのは、中期目標・中期計画期間を指していますけれども、当初はやはり、文理融合をとにかくやってみようといったら変ですけれども、そういう形でスタートしています。ただし文理融合を上から号令をかけてやってみようだけでやり続けられるかというと、研究者の側(がわ)にモチベーションがないとできないというところがあります。
 モチベーションを作り出すために、そこで社会的な課題というものを強く意識させるということを第2期あたりから考えるようになりました。さらには第3期、これは多分、世界的な動きの中でもかなり早い方なのですけれども、社会との連携を具体的に図ることを目指しました。地球研全体のアジェンダセッティングについても政策決定者、自治体やNPOの方などを招いたワークショップをやって決めるとか、それからFuture Earthの課題、アジアに関して、どういう課題が重要なのかを多様な関係者と一緒に抽出する、そういう取組もしてございます。
 それで、既に紹介されていてもう説明する必要もないのですが、6ページに改めてDisciplinary、Interdisciplinary、Transdisciplinaryの説明を、これはアメリカの研究者が書いたものですけれども、簡単に示しています。
 真ん中の下、Transdisciplinaryの説明にあるのですけれども、Disciplinary Depth and Interdisciplinary Breadthとあります。ここが私は非常に大事だと思っていて、単純な分野融合ではなくて、研究としての広さと深さをどう確保するのかというのが一番重要なところだと思っています。
 7ページにまいります。組織として地球研というのはどういう特徴があるかを示します。地球環境問題についてはもう説明の必要はないかと思いますけれども、人間自身の問題であるということ、解決するのも人間であるという考えで、それがこの人間文化研究機構という中に地球研が存在しているということの意味でございます。それから、そもそもこの環境問題、複雑な問題ではあるので、様々な分野が関わらないとできない。さらには、最終的に未来はどうあるべきかを考えることになりますので、そこの価値判断は科学だけではできないという考え方も持っています。これをプロジェクトとしてやろうというのが地球研です。完全公募型です。詳しく話していると時間がなくなるのですけれども、基本的にはほとんどアジェンダを定めずに、研究者の自由な発想によってプロジェクトを提案するスタイルをとっています。そうでないと研究者側のモチベーションがもたないというところが強くあります。そこが1つの特徴だと思っています。更にこれはプロジェクト型で、ある期間だけ地球研に来てもらう、基本的には専任として来ていただくことにしています。地球研自体が単なるファンディングエージェンシーではなくて、更に融合的な研究を発展させる場とするために、そういう制度をとっています。
 8ページは、科学と社会の在り方についての地球研の考え方です。真ん中のところでプロジェクトデザインのところから共同して、実際に研究を実施して、それを更にインプリメントしていくというところを科学と社会が共同してやりましょうという考え方をしているわけですけれども、やはり科学は科学として、そのアウトプットをきちんと持っている。これがないと、やはり科学者はできません。また、社会に成果をインプリメントしていくとき、科学者が全部それをやるのかといったらそれも無理だろう。そこは社会の様々な関係者が関わる仕組みが一方で必要だろうという考え方をしています。
 さて、実際にこういうイメージでプロジェクトをやっていきますと、うまく文理融合を進めるためにポイントになるところが幾つかございます。まず1点目、人文・社会科学の重要性という点です。これは、今日も既に随分議論されたことでございます。やはり価値観の問題を扱うというあたりが、人文・社会科学分野に私たちが一番期待するところです。先ほども申し上げたとおり、地球研としては、文理融合を掲げる目的として、社会的な課題の解決を目指す、Issue-drivenであるという言い方をしています。ただし、それだけではやはり研究として成立しないというか、うまくいかないことも多くあります。
 それから、異分野融合というような言い方で、特定の分野の組合せで行う方が、うまくいくケースも多いのですけれども、むしろ総合的に、社会的な課題にアプローチするということを地球研としては考えてやってきました。
 10ページでは、どれだけ環境問題がSDGsに関わっているかという話をしております。既に議論がありましたので省略させていただきますが、SDGsの多くの項目で環境問題が関わっています。そこに対する人文・社会科学の関与、あるいは貢献というのが期待されているということは、もう議論を待たないかと思われます。
 11ページにまいりますけれども、実際に今、地球研で走っているプロジェクト、8本ほどございます。非常に多様なテーマですが、よく見ていただくとSDGsにかなり対応するような形で設定されているということがおわかりいただけるかと思います。また、研究の多様性というのが地球研という組織、あるいは仕組みの特徴だと考えていただければと思います。
 地球研でプロジェクトをやってきた上で、どの辺が難しいのか、あるいはどういうふうにそれを克服してきたかということですが、12ページにまとめています。初めの頃は、文理融合自体が目的化してしまったというような苦い経験があります。そこで社会的な課題を目的として取り組もうとしたことがまず挙げられます。ただし、そこにはいろいろな要素が入っていて、公募テーマを研究所側が決めてしまうと、提案の発想が自由ではなくなる。研究としての魅力が薄れるところがどうしても出てまいります。もっとひどいのは、先に研究分野があって、ファンドを取るために無理に文理を組み合わせるというものが出てきます。そういうのはやはりうまくいかないものです。
 ところが、社会課題を優先させますと、特にグローバルな課題は、どうやってそれを取り組めばいいのかというのが、まだ正直、誰も分かっていません。そのため、地域の問題、あるいは比較的解決しやすい問題に傾きがちです。これは研究のスケール感を失わせます。また、研究者が過度に実践に入り込んでしまう。そういう意味では、アカデミックな研究成果が出てこないということもおきてしまいます。
 それから流動性、新規性を確保するために、プロジェクトは5年間ですが、任期もそれに合わせています。乱暴な言い方をすれば、地球研という組織の流動性や新規性のために研究者を消費しているという側面もあります。また、任期制には組織の継続性をどう確保するのかという難しさがあります。更に専任の優れた教官が、任期制の研究所になかなか来ていただけないという問題がどうしても出てきます。そのため、クロスアポイントメント制度を積極的に使っています。ただしこれは、結果的には教員が地球研にいる時間が減ってきて、本来地球研で期待している、地球研の中での融合的な研究というのがなかなか進まないということで、いわばトレードオフの関係があります。
 いずれにしても、研究の最初の段階で、どのような課題を設定するのか、サイエンティフィックなスケール感はあるか、それがきちんとブレークダウンされた実現可能性のある研究計画であるか、学術的な意義もあるかを問うことになります。そういう研究デザインを作っていく最初が一番大事です。それをどう評価して、どうサポートしていくのかが、次に組織として問われることになります。
 13ページに、プロジェクト評価の仕組みを示します。これは先ほどの前田さんの報告にも少し書かれていますし、「最初を大事にする」とも対応しています。PR、FRというのが本研究期間という意味ですが、そこまでのセレクションが強くかかっているのと、そこに時間をかけています。プロジェクトの開始まで一ないし、二年かかります。今の感覚で言うと遅いと言われているのですが、プロジェクト形成の時間を十分取っているわけです。最終的にプロジェクトとして認めるかどうかは、外部評価委員会が決める形をとっております。
 具体的に、どういうことを求めているのかが、14ページに示します。第3期中期目標・計画期間当初のプロジェクトを採択する基準です。実際には8つぐらいあるのですが、最初の3つだけ示します。まず、解くべき課題を明確にしてくださいと。次に、そのために必要な分野がきちんとそろっているかどうかを見せてください。さらに、社会への連携をどうとるか。それらをプロジェクト採択の基準としていました。
 具体的なプロジェクトがどう実行されているかを若干説明します。「アムール・オホーツクプロジェクト」、これは割と古いプロジェクトですけれども、陸と海洋、それから社会科学も連携した形で、科学的にも非常にすぐれた成果を上げましたし、また最終的には、4か国の研究者の連合体による継続的な活動に結び付けたという意味で、非常にユニークな研究です。
 15ページは省略させていただきます。
 16ページに3つ目の論点整理を示します。文理融合に向けて地球研では様々な取組をしてきました。それでも難しいというのが正直なところです。実際、地球研のプロジェクトの中で、人文学・社会科学でも、よく機能している分野は地域研究、あるいは歴史学、考古学といったあたりです。これは人文学自体のそもそも持っている性格が、理系のようにブレークダウンして共同研究をやりやすいものとは異なっており、簡単にそれはシステマティックに組み合わすことができるものではないだろうと思っています。ですから人文学の特性をどう生かすのかが非常に大事になってきます。
 また、リーダー(オーガナイザー)がどれだけ俯瞰(ふかん)的に、きちんと多様な分野の成果を拾い、まとめるのかというのが、最終的にはこれはパーソナリティの話になってしまうのですが、大変重要です。
 地球研としては、こうした文理融合による共同研究を、どんな議論をしてプランニングをしていたかという部分も含めて、全部実はアーカイブをしています。それは、研究のアイデアの部分もあるので、完全にオープンにはできないのですけれども、そういう形で蓄積しています。ただし、プロジェクトの遂行に伴って収集、あるいは生成されるプロダクト、データについては、プロジェクトの成果公表をやる方が優先してしまい、そういうところがきちんとデータセットになっていないというところもあります。特に人文学、あるいは社会科学に関わる多様なデータをうまくアーカイブできていません。そういう意味では様々な、人文・社会科学に関するデジタルアーカイブを、これは個別の研究とは別にセットアップしていただく。その中にプロジェクト形成みたいな仕組みも含めて作っていただくと良いのかなというのが提案でございます。
 18ページにまとめを示します。繰り返しになるところは避けます。研究者育成、あるいはキャリアパスの話を書いていませんが、これは難しいです。若手研究員も多く雇用していますけれども、従来の分野に帰っていく人、それから、たまたま新しい学部ができて、そこに入る人、それから職を失う人。同じくらいです、実を言いますと。それは、もともとパーマネントの職を持っていて、任期制で地球研に来られ、優れた成果を残したプロジェクトリーダーでさえも職に就くのが難しいこともあります。ただし、それは仕方がない部分もあるかなとは思っています。こういう文理融合的な組織を、いろいろなところに、パーマネントにボリュームを持って作れるかというと、多分それは難しいのだろうと思っています。文理融合的な研究、総合的な研究を進めるプラットフォームとして、いろいろな人が来てやっていただく。そしてまた元のところに戻るという、そういう仕組みを作るのが精いっぱいかなというのが私たちの考えているところでございます。
 以上、ちょっと雑駁(ざっぱく)な話で申し訳ございませんが、私の発表を終わらせていただきます。

【西尾主査】  実際、今までに進めてこられたことをベースに、本当に貴重な発表を頂きましてありがとうございました。
 引き続きまして、科学技術振興機構社会技術研究開発センターの森田センター長より、センターでの取組を発表いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【森田センター長】  社会技術研究開発センター(RISTEX)のセンター長、森田でございます。私自身は、まだセンター長になってそれほど時間がたっておりませんで、RISTEXそのものの役割とか活動につきましては、むしろ有本さんとか小林さんの方がよく御存じではないかと思います。今RISTEXで何をしているかということについて、資料でお話ししたいと思いますけれども、その前に、今までの議論を踏まえて、私自身の感じたことを少し述べさせていただきたいと思います。
 と申しますのは、自然科学と人文・社会科学がなるべく協力し合って、連携すべしというお話でございますけれども、そもそも自然科学がどういうものであり、人文・社会科学、人文学と社会科学も相当違うものだと思いますけれども、それがどういうものかということについて、どれくらい共有されているのかなということについて、少し違和感を抱きましたので、それについて印象を述べさせていただきます。私自身の専門は、広い意味での政治学、狭義で言いますと、行政学という学問ですけれども、政治学もそうですし、一般的な社会科学といいますのは、人間を対象としております。人間も、感情をどう持つのかとか、あるいはどう思考するのか、行動はどのように決まっているのか、そうしたことについて、個人の、いわば頭の中の在り方と、あるいは集団的な行動がどうなっているかについて、歴史的にずっと関心を持って分析をしてきた学問であると思います。
 ベースになりますのは、人間の行動ないし思考を規定しておりますのは、先ほども出ましたけれども、価値というものでありまして、何がいいか悪いかということになります。正しいか、間違っているかといいますと、これは規範という形で表れてきて、それを主として対象にしているのが、例えば倫理学であるとか、法律学ではないかと思います。ある価値、特に物質的なと言いましょうか、欲求としての価値を最大化することについて、それを手掛かりにして、人間の行動、あるいは社会の在り方を分析しているのが経済学だと思います。かなり乱暴な要約の仕方ですが、私のやっております政治学は、これは小林良彰先生が御専門かと思いますけれども、権力という概念を媒介にして、社会現象、人間の行動を見ています。その場合、人間があくまで自由な意思といいましょうか、合理的に思考・判断をして行動するということがベースになっていると思います。
 そうした仮定の上で、いろいろな理論の体系ができているわけでございますけれども、社会科学の場合には、自然科学と違いまして、それを客観的に検証することは非常に難しい。歴史的にどういう方法を採ってきたかと言いますと、人間の行動の観察、あるいは自分の思考をもう一度あとづけて見直すことによって、それが経験値になるわけですけれども、それを論理的に記述していく。そしてそれを文章で表現し、その文章を読んだ人が納得することによって、1つの法則なり何なりが確立される。それが社会科学の在り方であったと思います。納得しない人がたくさんいますと、そこから議論が始まるということになります。それは自然科学が自然現象というものを観測して、仮説を立て、検証して、法則を見出(いだ)していくというのと、ちょっとアプローチが違っていると思います。
 何を申し上げたいかといいますと、最近それが大きく変わってきて、特にこの融合とか、ELSIの問題が出てきた背景といいますのは、そうした人間の行動であるとか、思考のプロセスに自然科学的な光が当てられるようになってきたことです。まさにAIと倫理の問題であるとか、更に言いますと、ゲノムの問題というのは、本来は自由意志を持ったと言いましょうか、それを前提としていた人間自体が、必ずしもそうではないということになってきたと思います。
 これは、社会科学の方から見ますと、大変大きな問題提起でありまして、というのは、原則として、自由意志を持った人間が、自律的に行動するというのが前提で、この世の中は民主主義という制度が成り立っているわけですから、その基盤を揺るがすような問題提起であると思います。その意味で言いますと、まさにELSIの問題というのは非常に重要だということになってまいります。ただ、逆にそうした社会科学における人間の行動の解析が、社会的な課題の解決に大きく貢献してきたということも否定できないわけでして、例えて言いますと、環境問題で言えば、CO2の排出権の取引というのは経済学の理論がなければあり得なかったと思いますし、それ以外、どれくらい社会科学的な解決になっているかどうか知りませんけれども、いわゆる核エネルギーの安全性の問題である等。それが、今日AIとかゲノムの方にも入ってきていると思っております。
 この議論を進めていくために、私自身は、社会科学、人文・社会科学を専攻している者は、自然科学的な発想と、その成果について、もっと勉強しなければなりませんし、自然科学を専攻されている方も、そこのところを勉強していただきませんと、キリスト教とイスラム教が共存するためには、お互いの教義をよく知るということが重要であって、自分の信仰を変える必要はないわけですけれども、相手の教義を知ることが必要だという気がします。その意味で言いますと、人材育成もそうですけれども、そこまで踏み込んだ形での自然科学と人文・社会科学の連携と言いますか、そういう議論がされていないのではないか。僭越(せんえつ)ではございますけれども、そういう印象を持ったところでございます。
 さて、RISTEXでございます。資料の4ページから始まりますけれども、かねてより、そうした意味での自然科学と社会科学をつなぐということで、それを社会技術という形で定義をして、研究といいますか、事業を進めてまいりました。その社会技術はどうかということは、ここで説明するより、まさに私たちの資料の方でも引用をさせていただいたと思いますけれども、小林先生の先ほどのペーパーで、より的確に書かれていると思います。いずれにしましても、役割は、下の方に書きましたけれども、社会を観察することで起こってくる問題、これを多面的に理解をしていくことの必要性、また、その社会システムを構成している要素というもの、これは人間の意志であるとか、その心理の面も含めてですけれども、それを分析していくということ。そして、それをできるだけ科学的な方法で検証し、応用できるような形での提言といいましょうか、それを抽出していくことがミッションではないかと考えています。
 具体的な事例としましては、5ページ目にございますけれども、現在進めております領域の1つとして、人と情報のエコシステムというのがございます。これはAI、ロボットであるとか、様々な新しい情報系の技術が開発されているわけでございますけれども、それが社会的に応用されるようになったときに、どのような問題が起こってくるのか。それをどのように、いわば人間の社会にマイナスにならないような形で制御していくことができるかを研究しているところです。まさにELSIが当てはまる1つの領域であると思います。
 そこに、責任主体をめぐる議論というのを1つの例として挙げておりますけれども、現在の刑事法といいますか、法律の場合は、あくまでも意思の主体である人間に、何か起こったとき、例えば不法行為があった場合には、責任が帰属するという構成になっていて、それによって社会的な規律を保つという仕組みが採用されているわけですけれども、果たして自動運転の自動車になった場合には、それがどうなるかとか、そうしたことについて、解決する必要があるであろうということで、下の方にございますけれども、哲学的視点、心理学的視点、法学的な視点から、こういうプロジェクトを採択しているところでございます。この辺につきましては、領域の総括補佐を城山さんにやってもらっていますので、もし御質問があれば、城山さんに聞いていただきたいと思います。
 また、ELSIに関しましては、7ページ以降ですけれども、私どもで調べた限りでは、海外では、先ほどもございましたように、こうした形での研究組織というものが存在しております。日本の場合にはRISTEXだけなのかもしれませんけれども、ほかの諸外国に比べますと、その意味での研究体制は非常にもろいと思います。
 日本ではどうなっているかということが、その次のページにございますとおりで、ここで、先ほどからお話がございますように、なかなか知識、経験が積み重なっていかない。いつもゼロベースからスタートになって、終わったらそれで切れてしまうと、小林先生もおっしゃっていたところを書いてございます。
 そして次、9ページになりますけれども、そうした意味で、JSTとしましては、様々な、特にゲノム関係の研究を端緒といたしまして、この問題にきちんと取り組むべきであるということで、RISTEXの方にそういう役割が与えられているところです。この問題について、どういう形で研究を進めていくか、結論を出すことは非常に難しいところだと思いますし、先ほども岡部先生からございましたように、海外ではいろいろな形で研究がされていると理解しております。ただ、先ほどもございましたように、国によって倫理の根拠が違います。死生観1つをとってもそうですけれども、後ろに文化であるとか、宗教であるとかというものが存在しておりまして、それがどのような形で倫理に反映されるかということは、まさに人文・社会科学の解明すべきところだと思います。
 ただ、この場合、いろいろなところで、日本でも何人かの方は先験的に取り組んでいらっしゃいますけれども、むしろ何と言いましょうか、研究成果、RISTEXでやるということ、そこで期待されてることは何かといいますと、ゲノム等の研究の現場において、それが倫理的に可能であるかどうかということ、それを判断するための、かなり具体的、客観的な基準が期待されているところではないかと思っておりまして、宗教観、倫理観を分析するところから、そこまでたどりつくためには、かなり距離があるような気もいたします。それに対して、できるだけ応えられるように取り組んでいきたいと思いますけれども、正直申し上げまして、なかなか難しいというところで、そうしたことに関心を皆さん持っていただいて、それをサポートするような仕組みと、更に言いますと、組織と、そして両方の、大谷翔平ではないですが、二刀流の若い優秀な人材の育成を期待したいところです。
 10ページがゲノムの話になりまして、さらに、先ほどからお話が出ておりますので、簡単に済ませますけれども、私どももSDGsという形で、かなり大きな、こうした研究の動きが出ておりますので、それに参加し、そしてそれを推進していきたいと考えております。それにつきましては、12ページに書いてあるとおりですけれども、これも、余計なことを一言言わせていただきますと、このSDGsの17項目というのは、まだ、かなり一般的、抽象的な形です。少なくとも、こうした課題に対して、どういう自然科学的な成果が活用できるのか。それを考える1つの導きとしての考え方としては大変意義があるものだと理解しております。そのため、まだどういう形で使えるか。先ほどの窪田先生のお話で、関連するところはこういうところだという御議論がありましたけれども、私どもでは、そうしたそれぞれの項目に関して、どのような自然科学的な知見というものが結び付いて活用できるのかというようなことを考えながら、研究助成の方でも支援をしていくべきではないかと思っているところでございます。
 そうした動きにつきまして、9月の終わりに福岡で開かれました、13ページでございますけれども、World Social Science Forumで、ここにRISTEXの方でも幾つかのプログラム、領域で参加をしてまいりました。こうした世界の動きとも、一緒にやっていくということを考えていきたいと思います。
 そしてRISTEX自身といたしましては、14ページになりますけれども、そこに図がございますような形で、来年度からはかなり積極的に、かなりのエネルギーを割いて取り組んでいきたいと考えております。課題がどういうことであるのか。そして社会的な課題のソリューションというものはどういうものか。先ほど申し上げたことですけれども、それを結びつける道筋といいますのは、まだ明らかじゃない。政治的な解釈を加えますと、必ずしも明確でない、多義的な解釈が可能なシンボルですので、それがどのような形で使われるか、それを期待して、あのシンボルを掲げているということですので、中身を規定しながら、それを追求していきたいと考えているところでございます。
 時間がなくなったようですけれども、最後に、我々として、人文・社会科学コミュニティーへの期待ということですけれども、1番目は、ある意味で当然のことですけれども、人文・社会科学は、今申し上げてまいりましたように、大変重要であると思っております。そして今や、国際的な連携の時代ですから、日本だけということはあり得ないわけでして、それを調整していかなければいけない。しかし、先ほど申し上げましたように、倫理とか、人の心、価値観というものは、国際的な連携・調整というのはかなり難しいかもしれません。しかしこれはやっていかなければならないだろうと思います。
 そして最後は、ある意味で当然ですし、これがきょうの課題だと思いますけれども、自然科学とどう連携を強化していくか。先ほど申し上げましたように、相互乗り入れをしていくことが必要ですし、実際、少しですけれども、非常に優秀な若い人材で、二刀流の人材も出てきておりますので、そういう人たちのキャリアパスをきちんと確保しながら、そうした人材を増やしていくことが課題ではないかと思います。現実に、そうした両刀を教えることのできる教員が、今、ある程度の人以上でいるかというと、これはいないと思いますので、そちらの方の理解と連携というのも必要ではないかと思います。その場として、RISTEXがそれなりの役割を果たすことができればと思っているところでございます。
 以上でございます。

【西尾主査】  このワーキンググループでの議論を深める上で、多くの示唆に富んだ御発表、本当にどうもありがとうございました。心より感謝申し上げます。
 それでは2つの御発表を基に、より具体的な課題等をベースにした議論をしたいと思います。先ほどの前半部分の議論に関する御意見も、もし、更に追加的にあれば結構ですので、いろいろとお考えをお話しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

【小林(傳)委員】  よろしいですか。

【西尾主査】  はい。

【小林(傳)委員】  森田先生の発表資料の7ページを御覧いただきたいんですけれども、これが極めて象徴的なんですね。これだけアメリカやヨーロッパがこういうものを作り続けているということが、世界の科学技術のこういう問題像の議論、アジェンダを全部彼らが作るという能力のベースにあるわけです。先ほど岡部先生がおっしゃったように、日本でそういう人はなかなか出てこない。ところがヨーロッパやアメリカは、こういう人材をずーっと作り続けているんですね。これを我々は毎回ゼロスクラッチで、数年間のプロジェクトでやってきているということで、議論の厚みが出てこないし、こういうタイプの人材育成ができないんです。
 実は私は、献血のできない体になっているんですが、それはイギリスで狂牛病が発生したときに、1年半過ごしていたからなんですね。当初は、1日でも、あの時期にいた人間は駄目だと言っていました。それからだんだんと伸びていくんです。1か月とか何とかになっていくわけです。私はなぜそれが伸びていくのかが非常に不思議だったので、血液製剤専門の団体のところに問い合わせたんですね。そうすると、よく聞いてくれましたとおっしゃって、どういうふうに説明されたかというと、日本は、血液の中身を測定する専門家はたくさんいると。だけど線引きをする専門家がいないと。だからどうやっているのかというと、海外で一番厳しい基準を探して、それに合わせていると。それが緩めば、それに合わせて緩めていると。要するに自分で考えていないんです。訴訟リスクヘッジだけ取っているんです。
 そういう体質だったために、今だったらAIだと思いますが、そういうタイプの科学技術を社会にインプリメントすると、社会にとってどんな問題が起こり、どういう判断をしなくちゃいけないかということを検討するような人材を自前で作るという発想がなかった。アメリカを見る、ヨーロッパを見るということをやっていましたが、本当の先進国というのは自分で考えなくちゃいけない国なので、今、日本に欠けているのはそういう部分ではないかというのを強く感じて、この研究所のデータを見たら、大学の中にこれだけのものがあると。日本の場合は非常に貧困であるというのは如実に分かろうかと思います。ここが大きな問題だと思っています。

【西尾主査】  とても厳しい視点ですね。日本が術ではある程度戦えても、政策では勝負できないという、まさにそういうことを如実に表しているお話でして、このようなことを文部科学省として政策的にどう考えるかということを、我々一緒に考えなければならないと思っています。ほかに御意見ありますか。どうぞ。

【城山委員】  済みません、途中から参加していただいたので、若干文脈をずらしているかもしれませんが、2つほどあります。1つは今、小林先生が指摘された、この7ページのを見て、確かに日本にこれはないという側面も一方ではあるのですけれども、他方、最後、御報告いただいた地球研の話にしろ、社会技術の話にしろ、いずれも2000年代の早い時期からやってきて、15年ぐらいやっているわけですね。そういう意味で言うと、それぞれのところに、実はいろいろな試みというのはなされていて、それに加えて、更に人文・社会科学振興のための別個のプロジェクトもあるので、逆に言うと、そういう幾つかの経験をきちんと総括して、何かボトムアップに次のステップに行くことを考えることも大事なのかな、そういう意味では、海外モデルももちろん大事なのですけれども、やはりその辺、日本で積み上げてきたものをきちんと考えることも大事かなと思います。
 これはたしか、前回の学術分科会の際に、喜連川先生がおっしゃっていたことでもあったと思うのですが、例えばこういう人材というのは、むしろ理系の中にも実は必要な分野というのがあって、受け入れられるんだという話もあったので、だとすると、今日御報告いただいた理系との接点にて幾つかの仕組みを、より人社振興という観点で、人社にフレンドリーな形にするだとか、あるいはそういうところにどうやって人社振興を埋め込んでいくかというところの、何か具体論に踏み込むことが多分、例えばこのワーキングループなり、今後報告において大事なのかなと思います。
 そういう意味で言うと、今回のワーキングループは、西尾先生自らが座長、主査をやっていただいているということでもあるので、何か人文・社会科学を別個に切り出すのではなくて、学術全体の中で人社を活(い)かせる場をどういうふうにつくるのかという観点を持つことはすごく大事だなという感じがしました。
 それからもう一つは、これは森田先生が言われたこととも関わるのですが、他方、価値が大事だとか、社会像を考えることが大事だということがあり、地球研の中でも、そういう社会像自身を議論することがあるので、そういうのは人社の独自の要素だとおっしゃったわけですが、逆に、そういうプロジェクトをどう評価するかということを少し詰めて考えないといけないのかなと思います。神々の論争というか、価値論争をすることは大事で、そのディスコースも大事なんですが、やっぱりある種のプロジェクトとしてやっていってもらおうと思うと、評価することは大事で、そこの基準をどうするかですね。
 先ほど森田先生が言われたので言うと、その価値レベル、イスラム教とキリスト教の争いだけではなくて、具体的な基準みたいな話が重要という話をされましたけれども、多分そういうことを考えていく、次のステップに行く必要があるんだろうなと。ただし、ここは今まで、若干難しいのは、特に理系の文脈の中に社会科学を入れていくと、得てして社会実装のために社会科学に助けを求める、そういうところだけで何か呼ばれているところがあって、そうすると、評価基準は実装されたかどうかということになるわけです。いい実装か悪い実装は問われないと。極端なことを言えばですね。
 やっぱりそうじゃなくて、ある種の社会制度としての提案みたいなのがあって、それの具体性なり、どこまで検討したかをちゃんと評価する基準を作っていくことが大事で、それは恐らく技術系も一緒なわけですね。科学技術開発をやって、実際に使われるかどうかは、多分いろいろなファクターによるので、別にいい技術が使われる保証はないんだけど、やっぱり研究開発を蓄積していくことは大事だというのと同じで、多分社会の方の話も、社会像なり、社会制度のオプションなりをきちんと考えて、ここは先ほどの小林先生の議論と重なってくるのですが、こういう判断で、ここまでリスクヘッジすべきだとか、トレードオフの中でここで線引きすべきだという、むしろ具体案を出していって、それを評価するようなことをやっていくということが、多分、そういったところを実質的に動かしていくためには必要なのかなという感じがしました。
 以上2点です。

【西尾主査】  森田先生、何か今のことで御意見ありますか。

【森田センター長】  今、御説明になったのは、私が申し上げたこととかなり重なるところがあると思いますけども、やはりどう評価をしていくかということです。現実で言いますと技術の進歩がものすごく早いものですから、あるところで評価基準を作って、それを基準として適用すると、すぐ時代遅れになってしまう。したがって、評価基準そのものの見直しといいましょうか、ローリングしてそれを見直していくという社会的な仕組みをどう考えていくのか。それも重要だと思います。
 例えば個人情報保護で、住基ネットのときに、あれは最高裁判決で、一元的にデータを管理するのはいかんという判決が出たのですが、そのときクラウドという技術は多分、裁判に関わった方、どなたも御存じなかったと思います。それを一元的と解釈するかどうかは別ですけど、全く違った技術の場面が開けてくるわけでして、それに対応していくだけの評価基準というものもリファインしていかなければいけない。その仕組みを考える、RISTEXで考えるかどうかは知りませんけれども、これはすごく重要なことだと思います。

【西尾主査】  評価ということになりますと、有本様の御意見を是非聞きたいのですが。

【有本上席フェロー】  ちょっと城山先生のお話で、刺激を受けたものですから。2001年の第2期科学技術基本計画で、科学と社会という概念が初めて入った。一方でアカデミアでは、小林先生たちが努力され、科学技術社会論学会も設立された。それ以来、科学コミュニケーション施策、関連の人材養成など、たくさん出てきたんだけれども、文部科学省の中でも行政が縦割りになっているわけで全体が俯瞰(ふかん)されていない。高等教育局はリーディング大学院のプログラムで、似たような趣旨のものもあるし、科学技術・学術政策局は、さっき申し上げましたように、政策のための科学というのをやっている。そういう意味で、せっかくですからビッグピクチャーで、種々の関係プログラムを、まとめてもらうと、議論が深まっていくんじゃないかという気がいたしてございます。

【西尾主査】  磯谷局長、どうでしょうか。是非お願いします。

【磯谷研究振興局長】  次回、用意させていただきたいと思います。それがやっぱり、全ての政策にも関わるのですけど、今までの蓄積というものを踏まえての政策というのが、やっぱり今までなくて、おっしゃるように縦割りのこともありましたし、それは資料として出させていただきます。

【西尾主査】  科学技術・学術政策局、それから研究振興局、それから高等教育局、それら3局を全部つないだ形の、今までの施策を一回おさらいすることは非常に大事かと思います。どうかよろしくお願いいたします。
 ほかに御意見ございますか。

【森田センター長】  よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【森田センター長】  自然科学と社会科学をつなぐと言いましょうか、更にそれを社会に実装するという場合に、私自身、感じますのは、やはり経済学的な発想とかアプローチは非常に重要だと思うんです。けれども、それが、今回もそうですけれども、人文・社会科学というとき、倫理と法律は出てくるんですけれども、経済学は、あっても後ろの方に出てくる。実は今、経済学が持つ意義は非常に大きいと思います。実際、私どもの方で採択したプロジェクトの中にあるのですが、いわゆるiPS細胞をはじめとする再生医療があります。これは確かに、その病気で苦しんでいた患者さんにとっては、まさに輝かしいというか、すばらしい治療法の開発ですけれども、1件当たりのコストがものすごく掛かるわけです。これをいかに企業化してコストを下げるかという努力はされておりますけれども、逆に言いますと、医療保険の方から、それを支払うことができるかどうかという検討はほとんどされておりません。
 私自身も医療政策に関わっていたものですから、ざっと計算しても、かなり難しいのではないかと思われます。そうしますと、そういう技術を開発したとしても、何が起こるかと言いますと、海外のメガファーマーがその技術を買い取って、世界のお金持ちは恩恵を受けるかもしれませんけれども、日本の一般国民、被保険者が恩恵を受けるというのは相当難しいのではないか。そういうことに対して、どの程度ファンディングと言いましょうか、研究をするかということも、そうした経済学的な視点から、マーケットの視点から見て評価をしていく必要があろうかと思います。余り言い過ぎるとよくないのかもしれませんが、今のところはそうではなくて、やろう、やろうという雰囲気が強過ぎるという気がいたします。

【西尾主査】  非常に貴重なコメントだと思います。いわゆる社会実装ということをきっちり考える場合、経済学の持つ意味を、我々は再度認識する必要があると思っています。いろいろな制度設計の中でも、それがきっちり生かされていかないと、せっかくの日本の科学技術力が生かせていけないということを感じております。
 ほかに御意見とかございますか。どうぞ。

【城山委員】  もう一つ、森田先生の御発言で若干触発されてなのですが、多分、ELSIみたいな話と、将来の社会像をどう考えていくんだという、2つの要素はこれまでも議論されてきましたし、西尾先生の試案の中にも入っているところなんですが、多分もう一つ、ある種の社会現象を理解する上で、理系と文系がもうちょっと横断的に議論するという、何か基礎論みたいな分野も実はあり得るんだろうなと思います。AIなんかの話もそうですし、脳科学みたいなものとかですね。実はそういう議論は、やっていなかったわけではないんだと思うんですね。例えば先ほどの人間の合理性の仮定という話がありましたけれども、ある意味では、それこそ行政学・組織論みたいなところは、ある種の合理性の限界みたいなことを言うわけですね。ちなみにその組織論を議論したサイモンという人は人工知能の人でもあるわけです。
 だから実は、我々は別々の分野で理解しているんですけれども、結構共通の人だったりして、そういう部分の、ある種の人間理解だとか、社会理解の基礎論のところを少し文理横断的に議論するというのも、多分、潜在的にはすごくチャレンジングかつ重要な領域だと思います。そこでは多分、経済学の中でも、ここは私の知らない領域ですけれども、むしろ心理学との間みたいなところで、結構国際的にはすごく議論が増えているところで、そういう分野をきちんと、ちゃんと開拓していくことにもつながるのかなと思います。

【西尾主査】  岡部先生、是非、御意見をお願いします。

【岡部委員】  先ほど森田先生の御意見、非常に共鳴するところがありまして、医学の分野で考えると、日本の社会の将来的に一番の問題は、やはり老化、人口の超高齢化なわけですね。超高齢化と医療、診断治療に掛かるコストをどう調整していくのか、あとその社会自体の超高齢化に伴う社会構造の変化、それから人間の価値観の変化、それから自分がどう主体として意思決定していくか自体、かなり大きな、今後変化が起こる分野だと思いますので、それはまさに、人文・社会学と自然科学、両方が共存してやらなければ解けない課題だと思っています。ですから、そこは是非、こういう場で一番議論が進めばいいんじゃないかなと思っています。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。窪田先生どうぞ。

【窪田理事】  少し違う視点から発言させていただきます。地球環境学にとって何が課題だったかというと、地球環境問題は大事であるということは皆がわかっていながら、社会がそれに向かって動かないということでした。ではどうすれば社会は変わるのかと。ところがパリ協定あたりで随分社会が動きました。これが研究の成果かと言われると、そうではないように思います。先ほど、海外にはいろいろな大学・組織等でできている、そういう海外がリードしたのかというと、そうでもないような気もします。
 私たち地球研が本当に研究したかった、あるいは一番求めていたことは、個人の認識が集団の行動にどのように繋(つな)がっていくのか、社会がどう変わっていくのかという、そのプロセス自体だったと思います。その課題を、環境問題を題材にしてくれるような人文系の、あるいは社会科学系の研究者をうまく巻き込めたかというと、なかなか難しかったと思います。それは、必要だからというような「べき」論から形だけ人文系、社会科学系の方に入っていただいても、なかなかうまくいかない。どのように人文学、社会科学の先生方が、興味を持っていただけるような枠組み、あるいはプログラム、あるいはプロジェクトを作り出すかということを私たちとしては苦心してきました。
 ですから、日本は国際的にこうだ、こうあるべきだという方向性、それは一方で結構なのですけれども、もう一方で、人文学・社会科学をやっている先生方が、どうやったらそうした課題に興味を持っていただけるのかを考えておく必要があると思います。それは評価も含めてですけれども、そういう発想も必要なのかなと私自身は感じています。

【西尾主査】  きょうは先生のお話を伺いまして、文理融合の重要さは、いろいろなところで言われるのですけれど、それだけ容易ものではない、ということを先生の今までの御苦労から認識しました。また、それをどのように解決してこられたのかという、そのプロセスも本当に興味深く聞かせていただき、大変勉強になりました。

【小林(傳)委員】  よろしいですか。

【西尾主査】  どうぞ。

【小林(傳)委員】  今の御指摘はそのとおりです。じゃあ欧米はうまくやっているかというと、全然そうじゃないです。きょうRISTEXの森田先生の資料の中に組織が載っておりますけれども、あれは別に人文・社会系の人だけでやっているんじゃなくて、むしろヘッドは理系の人です。ですから、彼らもやっぱりなかなかうまくいかないと言っています。ただ、大きく違うのは、彼らはやってみています。もっと。だから地球研がやっているようなことを、もっといっぱいやっているんですが、我々はそれをやる勇気がなくて、結局数が少ないんですね。RISTEXぐらいなものなんですけれども、彼らはやっぱりたくさんやって、いろいろなことを失敗しています。それによって学んで、そして新しいタイプの理系人材が、こういう問題をやるようになったり、ファンドレイジングとマネジメントをやりながら自分の研究をやっているような、そういう人たちがヘッドになって、そこに新たなタイプの人・社系の人が入ってという、そういうコンフィギュレーションが今生まれているわけですが、それを作る力が弱いんじゃないかというのが私の一番の問題意識ですね。

【西尾主査】  小林(良)先生、御意見はいかがでしょうか。

【小林(良)委員】  余り発言しないように心がけていましたけれども。私も献血ができない身体なのですけれども。イギリスにいましたので。いろいろ全体のお話を伺っていて、いかに人文・社会科学が自然科学に貢献できるかというような軸の議論だったのかなという気がいたします。やはり一番感じるのは、自然科学か人文・社会科学かという軸ではなくて、やはり国民という存在があると思うのです。その国民のニーズをどうやって吸収するのか、要するに国民のニーズに対応した技術とは何なのか。これは見方を変えれば、国民は例えば消費者でもあるし、有権者でもあります。消費者のニーズに基づかない技術はどんなに高度なものでも売れないです。また有権者のニーズに基づかない政策というのは支持されないです。
 だから自然科学か人文・社会科学かという二項対立ではなくて、やはり国民というのをベースに議論していくべきかなと思います。権力を研究しているというのは、政治学の半分はそうですが、私は権力には余り興味がなくて、市民・国民の方に興味があるので、ずっとそういう調査をして、仮説を立てて、データでそれを証明してきた側(がわ)なので、人文・社会科学と自然科学というのは、私は共存可能だと思っています。一番貢献できるのは、国民のニーズがこういうところにありますよとお伝えすることができると思います。
 それから、欧米でいろいろな研究機関があるという一覧を見ましたが、実はアジアでもたくさんやっています。韓国でもやっていますし、それから台湾のAcademia Sinicaも、この問題はやっています。だから欧米から遅れているだけではなくて、アジアからも随分遅れているのではないかと私は感じています。

【西尾主査】  どうもありがとうございました。小長谷先生、どうぞ。

【小長谷委員】  ありがとうございます。具体的に感じたことが3点あります。1つは、例えばジェンダーの問題を扱っている研究者はたくさんいるんですけれども、SDGsとは思っていないんですね。そういう意味で、時代的要請に関するセンサーが若干弱いところは、人文系自身が持っている問題かなと思います。
 それから2番目は、地球研ができているとき、初代所長は文理融合プロジェクトをチャーハンに例えていらっしゃったんですね。実際に提案されたプロジェクトのうち、成立しないものを見ると、具材の切りそろえが大事なのに、1つの分野は切り刻んだ肉を入れて、別の分野は抜いたままのにんじんを入れるみたいな、1つの課題のために研究方法が切りそろってこないという状況でした。やっぱり少し時間をかけて、そろっていないなということを学ぶ期間、すなわちプロジェクト形成が必要です。最初の段階に時間をかけるということを、みんなが広く経験するとよくなるだろうと思います。
 3つ目は、成功したプロジェクトで育った研究者で統合もできているし、NGOなど社会的なことも、コミュニケーションもできているし、非常にスペックのそろった人が、やっぱり就職できないんですね。まだそこまで求められていないから。先ほどの人材とは違うレベルで、本当にまだ問題だなと思っています。ありがとうございました。

【西尾主査】  どうも御指摘ありがとうございました。そろそろ時間がきておりますが、これだけは必ず言っておきたいということはございませんか、よろしいですか。
 きょう頂きました様々な貴重な御意見、また、委員の方々から頂きましたコメント、発表の内容等を踏まえまして、このワーキンググループでは引き続き、検討をしていきたいと思っております。
 それでは時間となりましたので、本日の議論は終了させていただきます。事務局の方へバトンタッチします。

【春山学術企画室長】  ありがとうございました。次回以降でございますけれども、次回、第2回は11月14日、人文学・社会科学固有の視点からということで、こちらに書いてあるような議題について、ヒアリング及び議論をしていただくことを予定しております。また3回目につきましては12月14日ということで、学術分科会との合同になりますが、このワーキンググループでの2回を含めた議論のまとめをしていただくというような形です。よろしくお願いします。

【西尾主査】それでは、ワーキンググループの単独の会合としての次回は、11月14日です。その日に第2回を行いまして、それから12月の合同委員会に持っていきたいと思っております。それでは、本当に貴重な御発表、御意見を頂きまして、どうもありがとうございました。これで閉会いたします。

                                                                  ―― 了 ――

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