資料1 学術情報委員会(第3回:平成29年6月21日)における主な意見

1. 林科学技術・学術政策研究所上席研究官による意見発表

  〔意見抜粋〕
  ○ オープンサイエンスがドライブされる理由は、研究者と論文数の増大、学術商業出版社の台頭、ジャーナルの寡占と価格高騰化、研究の多様化が進む中、既存の論文出版におけるピアレビューの仕組みが限界になりつつある一方で、定量的な研究評価ニーズの高まりも踏まえ、研究成果公開と評価の在り方のいわゆるひずみをウェブインフラとICT技術によって打開できるのではないかという期待が背景にあると考えられる。
  ○ ICT技術の発展によって、多様な情報源との連携による、目的に応じたメトリクスが作成され、さらにそれぞれの情報流通アイテムに付与されたIDを基に、誰が、どこの研究機関において、どのような研究費を得て、どのような成果が出たのかがひも付けられることで、研究パフォーマンスの測定、ひいては大学の強み・弱みの把握が可能になっている。
  ○ 研究者が論文を雑誌に投稿する前に、リポジトリに登録して先に読んでもらうプレプリントサーバが最近1、2年の間に構築が進んできている。もともとは高エネルギー物理学分野から始まり、数学や経済、統計分野等にも拡大している状況で、特徴的な例として、ディープラーニング研究については、現在アーカイブ上が主戦場となっており、論文をアーカイブに載せると、次の日にはそれを引用した論文が新たに出されるというようなスピードで研究が公開されている。先にオープンにすることで早く先取権を確保することができるほか、マシンリーダブルにしておけば、早く検索機能に取り入れられ、社会に効率よく届けることができる。
  ○ プレプリントサーバに載せた後、改めてジャーナルに投稿し、ピアレビューを経てパブリッシュされたものを業績リストに挙げ、研究費の申請やプロモーションへの活用が進んでいる現状があり、興味深い状況である。
  ○ Wellcome Trustというイギリスの非政府系助成機関が2016年11月にウエルカムオープンリサーチというものを開発し、研究助成団体が用意する出版プラットフォームへの成果の登載を義務化した。論文やデータを含むあらゆる成果を登録することができ、プレプリントサーバと同等の機能を持つだけでなく、ピアレビューファカルティサウザンドと言われている別モジュールを導入して、ピアレビュアー2名の査読が通ればパブリッシュされたものとして検索インデックスにも入るようにし、さらに、バックグラウンドで査読者の貢献が見えるような仕掛けもなされている。出版社を介さずに研究助成団体が研究者とのみやりとりをすることで、研究成果をオープンにすることができるモデルも生まれつつある。
  ○ 研究者にとってのオープンサイエンスは、研究データをよりオープンにすることで可能性を見いだす、また、研究活動自体をよりオープンにすることによってインターディシプリナリやトランスディシプリナリのサイエンスを進めるなど、今まで難しかったサイエンスが付加的にできるようになり、研究成果や後継者の認識による研究評価の新展開が進むもの。
  ○ オープンサイエンスが目指すところは、研究データの共有から始まり、その先にある新しいサイエンスの活動のエコシステムを作ることが遠いビジョンとなる。
  ○ 欧州において、デジタル技術に基づく情報利用・サービス、ネットワークや経済の向上を目指すデジタルシングルマーケットというものが2015年5月に始まった。データ情報通信の標準化及び相互運用性の確保、インターオペラビリティーの確保が優先事項で、試算として、5億人、50兆円の経済効果が見込まれている。その後、ヨーロピアンオープンサイエンスクラウドを作り、67億ユーロを投入する計画もある。
  ○ 研究活動サイクルをモデル化し、そこにプラットフォームないしはサービスを提供して、研究者の活動を支援する繰り返しのフレーミングとモジュール作りが大事である。その際、必要なモジュールは、世界に標準のものがあればそれを導入することで、研究者が欲するサービスを実現することが重要である。
  ○ 研究におけるデータシェアリングの例として、ハイエナジーフィジックスにおける大量の実験データの共同解析は、公開というより研究者間での共有を進めている。共同観測に関しても、コデザイン、コプロダクション、コディストリビューションが可能な分野である。今までの情報インフラでは捨てざるを得なかった情報の再活用、あるいは、見方を変えれば価値が出るかもしれないようなデータを積極的に使ってみることもデータ共有の有効事例になり得る。
  ○ オープンサイエンスによって市民がより参画できることも大きなメリットで、シチズンサイエンスによってフィールドワークでのN数が増え、簡便に研究を進められるようになるほか、市民がサイエンスに興味を持つことによって、科学リテラシーが向上し、結果として科学がより進展することがあり得る。
  ○ academistというクラウドファンディングでは、学術を市民が支援する枠組みにより、多数の支援が実際に始まっている。研究のメリットを市民にアピールして、ネットで資金を集めるという形で、サイエンス、研究活動、その周辺も含めたエコサイクルが変化する中で、研究データの共有をどうしていくべきか考える必要がある。
  ○ オープンサイエンスに関わる分野別マッピングとして、横軸にその研究が産業界、知財と近いか遠いか、縦軸に社会との関わりが直接的か間接的かという観点を置いて整理してみると、天文学や地球科学は元々オープンサイエンスが進んでおり市民の関与もあったところ。一方、高エネルギー科学の場合は、社会との関わりは間接的でむしろコミュニティでの共有が望ましく、数学についても同様と考えられる。他方、ジオサイエンスや環境系の分野に関しては、オープンサイエンスのメリットを最も享受しやすく、新しい市民科学の可能性が模索されている。なお、有機合成化学などは知財との関連が強く、社会とのつながりが直接的ではないことから、オープンにする意味合いは少ないと見られがちではあるが、オープンイノベーションの理念を使うことでオープンサイエンスの効果を得ることも可能となり、創薬のオープンプラットフォームなども進んでいる状況である。
  ○ 一区切りついた、あるいは中断した研究のデータをリポジトリでまとめて管理・保存してみたらどうかという話がある。研究者は新しいテーマを見つけるとそちらに移っていく習性があり、その際に残ったデータを散逸させ将来のために管理できると良いのではないか。
  ○ オープンサイエンスでは、研究者に安心・安全と思ってもらえるデータ共有のいわゆる文化作りが最も重要である。簡便な蓄積をするためには簡便な利用とユースケース作り、サービスデザインが非常に重要で、このサービスを使わないと研究ができないというぐらいになると良い。研究者が論文を書くのは、自らの成果を世に広めたいという表向きの理由のみならず、論文を書かないと昇進しづらい、研究費も獲得できないという現実的な理由も裏側に存在しており、このようなインセンティブに裏打ちされたサービス設計が必要である。

  〔まとめ〕
  ○ オープンサイエンスは研究の在り方そのものを変え得るもので、より健全な研究評価体制を生み出すほか産業振興にもつながるもの。
  ○ 当面は研究データの公開の前段階として、共有から始めるのが良い方法と思われる。オープン研究の効率化及び加速、社会への迅速な波及効果を狙うものとして、必ずしもフルオープン化ということでなく、相対的に今のポジションよりもオープンにするということがオープン化の本質である。
  ○ 研究データや研究者に識別子を付与して、研究の着想の段階から成果の波及までをモニターすることで、研究活動の流れや効果をより測定しやすくすることも可能となる。
  ○ 研究領域、研究機関及び研究者コミュニティの特性を踏まえ、研究が発展し研究者の貢献がより健全に見える化することを前提に、あるいは研究をディスカレッジすることなく、新しいサイエンスを生み出すための推進策、今のサイエンスをより効率化するための推進策、そして、あえて現状の体制を維持するという、主に3つの施策を分野別に議論する必要がある。
  ○ 研究者の手間を増やし、意欲をそぐものであってはならず、むしろ将来の研究社会像を切り拓(ひら)くための前向きなもので、研究者が主体的に取り組むべきもの。
  ○ 研究データを研究者が安心して安全に共有できる基盤作りと文化作りが必要。

2. 意見交換

  ○ 研究者がステークホルダーにとらわれている状態にあるものを新たなところへ持っていこうとする場合、かなり大きなインセンティブがないとできないと思う。
  ○ エコサイクルが回っている研究活動・研究者をいたずらに刺激するものではなく、ICTの技術を生かした、あるいはインフラを生かしたサイエンスをやろうという人たちも数は少ないが生まれており、まずはそこを推し進めることだと思う。研究者のメーンの層をドラスティックに変えることはほぼ不可能であり、まずはやりたい人たちをいかに探すかが大事ではないか。
  ○ オープンサイエンスと言ったときに、知の探究に重心を置いている高エネルギー物理のように、読者と投稿者がニアリーイコールのコミュニティと、より産業応用が盛んな化学のような、読者が非常に広いコミュニティで議論を分ける必要がある。読者イコール投稿者であるコミュニティでは、なるべく早く先取権を確保すべきだ。一方、有機合成化学のような分野は、研究する人に対して利用する多数の人がおり、どれを読めば信頼できるのかというところにその論文の価値が生まれるので、クオリティコントロールを重視することが必要になってくる。
  ○ 分野によってオープン化が違うという主張を認めていくと、オープン化は進まないのではないか。研究者自身にこれだけの幅があり、分野の論理も異なる中で、オープンサイエンスというのはどこを目指していくべきなのかということの議論の方向性をどう考えたら良いか。
  ○ 材料化学系は、日本の強みである材料の情報を、オープンクローズ戦略を利用していかにオープンにしつつ、アメリカ等と組んで発展させていく、あるいはビッグデータ解析を加えることなどによって発展させ、新しい価値を生み出していくかという話がある。環境系など国際協調に乗り遅れないためにオープン化するような領域については、ドメイン別の議論をしていくことになるのではないか。海洋分野については、情報自体は一見オープンにしがちであるものの、海洋資源になると途端にウエットな議論が入ってくるので、議論を仕分けていくことになるのではないか。
  ○ デジタル人文社会学は面白い取組ではないか。日本の古文書などと情報系の人たちとを結び付けることで、日本オリジナルな物が出てくるような気がする。ただ、人文社会系の人たちにどうアプローチするか、あるいは、情報系の人たちにどう橋渡しするかは難しく、パイロットスタディーのようなものを提言することもあり得るのではないか。
  ○ 人文社会系のオープンサイエンスに関連して、例えば、心理学や社会学の分野における社会調査などについてもデータ共有し、研究者が分析できるようにする取り組みがある。歴史学に関しては、国立公文書館などが中心になってデジタル化を進めている。ある意味で、オープンサイエンス化を進めると最も研究が進みやすくなる領域でもあり、意識は非常に高いのではないか。
  ○ これからは、アカデミックなコミュニティの中だけでイノベーションが完結するものではなく、市民や産業界ともつながって、オープンな形でイノベーションを推進していくことが非常に重要になってくる。その場合、特にデータドリブンな研究の場合、データをどのように産業界と共有していくのかということについてはどのような整理が可能なのか。
  ○ ライセンスを踏まえた本当の意味でのオープンというのは、パブリックドメイン、CC0しかあり得ないということが分かっている。それ以外は、セミクローズ、セミオープンのような扱いになるが、クリエイティブコモンズライセンスのような形で、必ず引用するなら使ってよい、あるいは改変しなければ使ってよいという形で、ある程度制限を入れたライセンスを付加していくことから始まると思う。大事なことは、それをマシンリーダブルなメタデータのライセンスとして持っておくことによって、APIで処理するときも迅速に人の手を介さずに処理でき、データ解析が進むものと理解している。
  ○ 公的資金により得られた研究成果はオープンという原則が世界のコンセンサスを得つつある。それを背景にオープンバイデフォルトのデータ基盤がいずれ出来上がり、その上でほかのデータと組み合わせて価値を創出し産業にするという現実がやってくると思う。そこまでどう持っていくかということが論点になると思われるが、できるだけ広く公開する方向性と研究者のインセンティブの仕組みをどう作るのかが課題ではないか。
  ○ オープンバイデフォルトは例外もありうるものであり、財産的な価値があるものや商業的なものについては留保されている。公的な資金のオープン化がデフォルトではあるが、産業界と関連する研究のデータガバナンスの有様はまだ十分な検討がなされていない。
  ○ クリエイティブコモンズライセンスがデフォルトになりつつあるのは確かだが、厳密には、データには著作権がなく、著作権を前提としたクリエイティブコモンズには本来載ってこない。一方、著作権の有無にかかわらず、当該データを利用してもよいという意思を表示するためにCCを活用しているとみることもできるが、裁判所でエンフォースメントができるかといえばグレーである。その意味ではハードローでエンフォースメントの保証を目指すルールというよりは、ステークホルダーが皆で共有している認識のようものに依拠しているスキームなのではないか。
  ○ パブリッシュ、レポートの後に、研究資金を獲得するということが大きな活動のテーマだと思うが、その資金をどこから取ってくるのか。企業との連携は、資金獲得の部分があってこそ広がっていくものであると思われ、このプロセスの中に資金という概念は入れておいた方がより全体が見やすくなる。

3. 今後の議論の進め方

  ○ 発表で提示された論点のうち、もう少し深める必要があるものについて議論していきたい。オープンサイエンスに係る大体の方向感は共有されており、具体的な一歩をどう踏み出すかという観点で議論したい。
  ○ フィロソフィカルな話を繰り返してもほぼエンドレスであり、この際、我が国として何をすれば一番国家に資する方向感を得られるのかという点に絞って議論してはどうか。
  ○ 我が国にオープンサイエンスという切り札を入れたとしたら、この分野であればこうすればうまくいくだろうというような部分、どの分野であればどのように強くできるかというあたりに焦点を絞って議論してはどうか。
  ○ 研究者の負担が増し、我が国がますます細るようであれば、今はまだその時期でないという視点も重要で、さらに、不十分なところがあればどの部分を議論しなければならないかという点について検討してはどうか。
  ○ オープンサイエンスの枠組みや方向性、あるいは我が国としてどのように動かしていこうかという整理は、かなりの程度できてきており、今後、全体的な枠組みの中で具体的にどうしていくのかが大きな課題となる。我々としては何をしよう、こういう方向にしようという議論にもう少し向けていければよいのではないか。

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