資料2-1(2) 第5期科学技術基本計画(学術研究関係部分抜粋)

科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)

第4章 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化

先行きの見通しが立ちにくい大変革時代において、持続的な発展を遂げていくためには、国として、いかなる状況変化や新しい課題に直面しても、柔軟かつ的確に対応できる基盤的な力を備えておく必要がある。そのためには、高度な専門的知識に加え、従来の慣習や常識にとらわれない柔軟な思考と斬新な発想を持つ人材を育成・確保するとともに、イノベーションの源である多様で卓越した知を生み出す基盤を強化していくことが不可欠である。
このため、科学技術イノベーションを支える人材力を徹底的に強化する。新たな知識や価値を生み出す高度人材やイノベーション創出を加速する多様な人材を育成・確保するとともに、一人ひとりが能力と意欲に応じて適材適所で最大限活躍できる環境を整備する。さらに、我が国からイノベーションが創出される可能性を最大限高めるため、異なる知識、視点、発想等を持つ多様な人材の活躍を促進するとともに、人材の流動性を高める。
また、近年、企業等においては、国際競争環境の変化の中で短期的な成果を求める傾向が高まっており、知の創出における大学や公的研究機関の役割の重要性が増している。オープンサイエンス等の新たな潮流にも適切に対応しつつ、学術研究と基礎研究の推進に向けた改革と強化を進めるとともに、研究開発活動を支える施設・設備、情報基盤等の強化を図る。
さらに、これらの科学技術イノベーション活動を支える資金の改革を推進する。特に、政府が負担している資金をより効果的・効率的に活用するため、基盤的な力を強化する上で重要な役割を担う大学について、組織改革と研究資金改革とを一体的かつ強力に推進する。
  
(1)人材力の強化
科学技術イノベーションを担うのは「人」である。世界中で高度人材の獲得競争が激化する一方、我が国では若年人口の減少が進んでいる。こうした中で、科学技術イノベーション人材の質の向上と能力発揮が一層重要になってきている。
しかし、我が国の科学技術イノベーション人材を巡る状況、とりわけ、その重要な担い手である若手研究者を巡る状況は危機的である。高い能力を持つ学生等が、知の創出をはじめ科学技術イノベーション活動の中核を担う博士人材となることを躊躇するようになってきており、このことは、我が国が科学技術イノベーション力を持続的に確保していく上での深刻な問題である。このため、大学等における若手研究者の育成と活躍促進のための取組を強力かつ速やかに推進する。
あわせて、科学技術イノベーション人材が、社会の多様な場において適材適所で活躍できるように促していくことも重要であり、産学官が科学技術イノベーション活動を共に進める中で、多様な職種のキャリアパスの確立と人材の育成・確保を進める。また、科学技術イノベーション人材の質の向上を図るため、初等中等教育段階から大学院教育段階に至るまでの教育改革を進め、加えて、社会人を対象とした学びの充実を図る。
さらに、我が国からイノベーションが創出される可能性を最大限高めるためには、女性や外国人といった多様な人材の活躍を促進するとともに、分野、組織、セクター、国境等の壁を越えて人材が流動し、グローバルな環境の下での知の融合や研究成果の社会実装を進めていく必要がある。これまで、こうした取組は必ずしも十分でなかったことから、人材の多様性確保と流動化促進のための取組を強化する。
なお、人材力の強化に当たっては、大学及び公的研究機関等が、組織として人材育成や雇用する若手研究者のキャリアパス形成に強い責任感を持って取り組むことが重要である。同時に、博士課程学生やポストドクターをはじめとする若手人材自身も、自らのキャリアパスは自ら切り拓くものとの意識を持ち、自らの持つ能力を高め、社会の様々な場でその能力を発揮していくことが求められる。
これらの取組を通じ、我が国において、多様で優秀な人材を持続的に育成・確保し、科学技術イノベーション活動に携わる人材が、知的プロフェッショナルとして学界や産業界等の多様な場で活躍できる社会を創り出す。

[1] 知的プロフェッショナルとしての人材の育成・確保と活躍促進
1)若手研究者の育成・活躍促進

科学技術イノベーションの重要な担い手は、ポストドクターをはじめとする若手研究者である。しかし、大学等における若手研究者のキャリアパスが不透明で雇用が不安定な状況にあり、若手研究者が自立的に研究を行う環境も十分に整備されていない。
このため、博士課程修了後に独立した研究者・大学教員に至るまでのキャリアパスを明確化するとともに、若手研究者がキャリアの段階に応じて高い能力と意欲を最大限発揮できる環境を整備する。
大学及び公的研究機関においては、ポストドクター等として実績を積んだ若手研究者が挑戦できる任期を付さないポストを拡充することが求められる。その際、シニア研究者に対する年俸制やクロスアポイントメント制度の導入、人事評価の導入と評価結果の処遇への反映、再審査の導入、外部資金による任期付雇用への転換促進といった取組を進めることが必要である。また同時に、こうした若手研究者を研究室主宰者(PI:Principal Investigator)候補として新規採用する際には、任期を付さないポストを確保の上で、その前段階としてテニュアトラック制又はこれと同趣旨の公正で透明性の高い人事システムを原則導入することが求められる。その際、海外での経験や、その間の新しいスキルの修得状況及び研究業績が適切に評価されること、また、より経験を積んだ者から適切な助言を受ける機会を設けること等が重要である。国は、国立大学法人運営費交付金における重点配分や、国立研究開発法人の業務実績評価等の枠組みなども活用しつつ、各機関におけるこうした人事システムの構築を促進する。
また、国は、若手研究者が研究能力を高め、その能力と意欲を最大限発揮できるための研究費支援等の取組を推進する。特に、優れた若手研究者に対しては、安定したポストに就きながら独立した自由な研究環境の下で活躍できるようにするための制度を創設し、若手支援の強化を図る。
さらに、国は、若手研究者の育成・活躍促進の観点から公募型資金の改革を継続的に進める。その一環として、国立大学(大学共同利用機関を含む。以下同じ。)における人事給与システム改革の実施を前提として、公募型資金の直接経費から研究代表者等への人件費支出が可能となるよう直接経費支出の柔軟化に向けた検討を進め、必要な措置を講ずる。
こうした取組を通じ、まずは、大学における若手教員割合が増えることを目指す。具体的には、第5期基本計画期間中に、40歳未満の大学本務教員の数を1割増加させるとともに、将来的に、我が国全体の大学本務教員に占める40歳未満の教員の割合が3割以上となることを目指す。

2)科学技術イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍促進
大学及び公的研究機関等において、高度な知の創出と社会実装を推進するためには、研究開発プロジェクトの企画・管理を担うプログラムマネージャー、研究活動全体のマネジメントを主務とするリサーチ・アドミニストレーター(URA:University Research Administrator)、研究施設・設備等を支える技術支援者、さらには、技術移転人材や大学経営人材といった多様な人材が必要である。また、企業等においても、知の社会実装を迅速かつ効果的に推進するためには、新規事業開発やビジネスモデル変革の経営戦略を担う人材、技術経営や知的財産に関して高度な専門性を有する人材等が求められている。こうした人材が、各人の持つ高度な専門性を生かしつつ、適材適所で能力を発揮できる環境を創り出すことが不可欠である。
しかし、大学と産業界等との間における人材の質的・量的ミスマッチが生じていることもあり、こうした職に就く人材は不足し、また、各人の持つ能力が社会の急速な変化に対応できていないなどの問題が生じている。
このため、科学技術イノベーションを担う多様な人材について、キャリアパスの確立と人材の育成・確保のための取組を推進する。国は、産学官がこうした多様な人材の育成方策について検討する場を設けるとともに、学生等が多様な経験を積み、様々なキャリアパスに対する展望を持てるようにするための産学官協働による大学・大学院教育改革を促進する。加えて、博士人材のデータベースの整備・活用等を推進する。また、プログラムマネージャー、URA、技術支援者等の人材に関して、職種ごとに求められる知識やスキルの一層の明確化等を図る。
さらに、科学技術イノベーションは、企業等に在籍する多くの技術者によって支えられており、国は、技術者育成に向けた教育改革を促進するとともに、特に人材不足が顕著な情報通信分野等における技術者について、大学、高等専門学校、専修学校等において産学が協働し育成・確保を進めることを促す。あわせて、技術士制度について、産業界での活用が促進されるよう、時代の要請に応じた見直しを行う。

3)大学院教育改革の推進
科学技術イノベーションを担う人材の質を高める上で、大学院教育が果たす役割は大きい。特に、大学院教育を通じて、高度な専門的知識と倫理観を基盤に自ら考え行動し、新たな知及びそれに基づく価値を創造し、グローバルに活躍する高度な博士人材について、産学官の連携の下で育成することが求められている。
このため、大学と産業界等との協働による大学院教育改革を推進する。博士課程を有する大学においては、博士号取得者の質を保証するための取組を実施するとともに、産業界との協働による教育プログラムの開発、教職員が社会の多様な場で経験を積む機会の充実、企業等の研究者・技術者等に対する博士課程教育の充実といった取組を進めることが求められ、国はその促進を図る。
また、優秀な学生、社会人を国内外から引き付けるため、大学院生、特に博士課程(後期)学生に対する経済的支援を充実する。大学及び公的研究機関等においては、ティーチングアシスタント(TA)、リサーチアシスタント(RA)等としての博士課程(後期)学生の雇用の拡大と処遇の改善を進めることが求められる。国は、各機関の取組を促進するとともに、フェローシップの充実等を図る。これにより、「博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す」との第3期及び第4期基本計画が掲げた目標についての早期達成に努める。
さらに、大学院教育改革を強力に進めるため、国は、世界最高水準の教育力と研究力を備え、文理融合分野など異分野の一体的教育や我が国が強い分野の最先端の教育を推進する大学院形成のための制度を創設し、推進を図る。
また、以上のような取組を中心に、第5期基本計画期間中における大学院教育改革の方向性と体系的・集中的な取組を明示した計画を策定し推進する。

4)次代の科学技術イノベーションを担う人材の育成
我が国が科学技術イノベーション力を持続的に向上していくためには、初等中等教育及び大学教育を通じて、次代の科学技術イノベーションを担う人材の育成を図り、その能力・才能の伸長を促すとともに、理数好きの児童生徒の拡大を図ることが重要である。
このため、創造性を育む教育や理数学習の機会の提供等を通じて、優れた素質を持つ児童生徒及び学生の才能を伸ばす取組を推進する。国は、学校における「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)」の視点からの学習・指導方法の改善を促進するとともに、先進的な理数教育を行う高等学校等を支援する。また、意欲・能力を有する学生・生徒が研究等を行う機会や、国内外の学生・生徒が切磋琢磨し能力を伸長する機会の充実等を図る。さらに、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的な改革を進める。
また、児童生徒が、科学技術や理科・数学に対する関心・素養を高めるための取組を推進する。国は、課題解決的な学習や理数教育の充実等を図った学習指導要領に基づく教育を推進するとともに、高度な専門的知識を有する人材や産業界・地域人材を活用した先進的な理数教育の充実等を図る。

[2] 人材の多様性確保と流動化の促進
1)女性の活躍促進

多様な視点や優れた発想を取り入れ科学技術イノベーション活動を活性化していくためには、女性の能力を最大限に発揮できる環境を整備し、その活躍を促進していくことが不可欠である。我が国の研究者全体に占める女性の割合は増加傾向にあるものの、主要国と比較するといまだ低い水準にとどまっている。組織の意思決定の場に参画している女性研究者は少なく、第4期基本計画が掲げた女性研究者の新規採用割合に関する目標値(自然科学系全体で30%、理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%)も達成されていない状況である。
この状況を打開すべく、女性が、研究者や技術者をはじめ科学技術イノベーションを担う多様な人材として一層活躍できるよう取組を加速する。その際、男女問わず、公平に評価する透明な雇用プロセスの構築と、より多様な人材の活躍と働き方の改革が科学技術イノベーション活動を活性化するとの認識を幅広い関係者が共有することが重要である。
国、大学、公的研究機関及び産業界においては、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」を活用し、各事業主が、採用割合や指導的立場への登用割合などの目標設定と公表等を行う取組を加速する。特に、女性研究者の新規採用割合については、第4期基本計画が掲げた上記の目標値について、第5期基本計画期間中に速やかに達成すべく、国は、関連する取組について、産学官の総力を結集して総合的に推進する。また、国は、女性が、研究等とライフイベントとの両立を図るための支援や環境整備を行うとともに、ロールモデルや好事例を幅広く周知し、情報共有を図る。さらに、組織の意思決定を行うマネジメント層やPI等への女性リーダーの育成と登用に積極的に取り組む大学及び公的研究機関等の取組を促進する。これらを通じて、組織のマネジメント層を中心とした意識改革等を図る。
また、国は、次代を担う女性が科学技術イノベーションに関連して将来活躍できるよう、女子中高生やその保護者への科学技術系の進路に対する興味関心や理解を深める取組を推進するとともに、関係府省や産業界、学界、民間団体など産学官の連携を強化し、理工系分野での女性の活躍に関する社会一般からの理解の獲得を促進する。

2)国際的な研究ネットワーク構築の強化
我が国として、国際的な研究ネットワークを構築し、その強化を図っていくことは喫緊の課題である。そうした中、我が国の研究者等の内向き志向を打破し、海外での活躍を積極的に促すことは、世界の知を取り込み、我が国の国際競争力の維持・強化に資するのみならず、国際的な研究ネットワークにおいて確たる地位や信望を獲得するために不可欠である。同時に、優れた外国人研究者を受け入れ、活躍を促進していくことは、国際的な研究ネットワークを一層強化するとともに、多様な視点や発想に基づく知識や価値を創出する観点から重要である。
このため、海外に出て世界レベルで研究活動を展開する研究者等に対する支援を強化する。具体的には、国は、大学及び公的研究機関等における、高いポテンシャルを有する海外研究機関との組織間ネットワーク構築、国際共同プロジェクトへの参画、国際機関及び海外の大学等の研究機関への研究者派遣、グローバルヤングアカデミーへの参画等を促進するとともに、海外派遣研究者及び在日経験を有する外国人研究者等のネットワーク構築等を推進する。
また、世界レベルで研究活動を展開する研究者が、帰国後に自立的環境の下で研究を行えるようにすることも重要であり、大学及び公的研究機関等においては、海外派遣中の研究者等が応募しやすい公募・採用プロセスの工夫や海外経験を積極的に評価する評価方式の導入等の取組が求められる。
さらに、優秀な外国人研究者や留学生の受入れ及び定着に向けた取組を強化する。国は、世界レベルの研究者獲得のための処遇の改善・充実を図るとともに、外国人ポストドクター等の優れた若手研究者や留学生の受入れを促進するための奨学金制度等の支援の充実、新興国・途上国等との科学技術・教育分野における連携・交流の強化等を図る。さらに、こうした優秀な外国人の受入れ及び定着を促進するため、同伴する子供の教育、配偶者就業対策等の生活環境の整備、大学及び公的研究機関における英語による研究支援等の研究環境の整備、高度人材ポイント制の活用促進等の取組を推進する。

3)分野、組織、セクター等の壁を越えた流動化の促進
人材の流動性を高めることで、それぞれの人材が資質と能力を高め、また、多様な知識の融合や触発による新たな知の創出や研究成果の社会実装の推進等が図られる。しかし、我が国では長期雇用を前提に人材を育成・確保する考え方が基本となっており、多くの社会システムもその考え方に基づいて整備されていること等から、分野や組織、セクター等を越えた人材の流動性が高まっていない状況にある。
このため、若手からシニアまであらゆる世代の人材が適材適所で活躍できることを目指し、科学技術イノベーション人材の流動性を高めることのできる仕組みを構築する。大学及び公的研究機関等においては、年俸制やクロスアポイントメント制度といった新たな給与制度・雇用制度を積極的に導入することが求められるとともに、採用時において組織間の移動経験を積極的に評価する、内部昇格を前提としない等の取組を広く実施することが期待される。さらに、大学等の研究機関において、人文社会科学及び自然科学のあらゆる分野間の人材の交流が推進されることも重要であり、学際的・分野融合的な研究を促進する組織的取組の実施が期待される。加えて、セクターを越えた移動の促進のためには、学生の段階から企業等の外部の研究機関で経験を積む機会を充実することも重要である。国は、こうした人材の流動性向上のための取組を促進するとともに、科学技術イノベーションを担う多様な人材を育成するための取組を推進する。また、科学技術イノベーション人材のキャリアパスを多様化し、研究機関のみならず、起業・経営、初等中等教育、公務といった社会の様々な場において、科学技術イノベーション活動で培われた知見や能力が活用されることを促す。

(2)知の基盤の強化
持続的なイノベーションの創出のためには、イノベーションの源である多様で卓越した知を生み出す基盤の強化が不可欠であり、その際、従来の慣習や常識にとらわれない柔軟な思考と斬新な発想を持って研究が実施されることが特に重要である。しかし、我が国の論文数、高被引用度論文数は共に伸びが十分でなく、国際的な共著論文の伸びも相対的に低い。そうしたことから、我が国の基礎研究力の低下が懸念される。
このため、研究者の内在的動機に基づく独創的で質の高い多様な成果を生み出す学術研究と政策的な戦略・要請に基づく基礎研究の推進に向けて、両者のバランスに配慮しつつ、その改革と強化に取り組む。さらに、我が国が世界の中で存在感を発揮していくため、学際的・分野融合的な研究や国際共同研究を推進するとともに、国内外から第一線の研究者を引き付ける世界トップレベルの研究拠点を形成する。なお、こうした取組の実施に当たっては、研究者が腰を据えて研究に取り組める環境を整備することや、組織の多様性・自律性を尊重しつつ、長期的な観点で成果の創出を見守ることが重要であることにも留意する。
また、こうした研究開発活動を支える共通基盤的な技術、先端的な研究施設・設備や知的基盤の整備・共用、情報基盤の強化等にも積極的に対応するとともに、イノベーションの創出につながるオープンサイエンスの世界的な流れに適切に対応する。
このような取組を通じ、知の基盤について、質的・量的双方の観点から強化することを目指す。ただし、論文の質そのものの評価は難しいことから、その代替的な評価指標として普及している高被引用度論文に注目し、我が国の総論文数を増やしつつ、我が国の総論文数に占める被引用回数トップ10%論文数の割合が第5期基本計画期間中に10%となることを目指す。

[1] イノベーションの源泉としての学術研究と基礎研究の推進
1)学術研究の推進に向けた改革と強化

知のフロンティアが急速な拡大と革新を遂げている中で、研究者の内在的動機に基づく学術研究は、新たな学際的・分野融合的領域を創出するとともに、幅広い分野でのイノベーション創出の可能性を有しており、イノベーションの源泉となっている。
このため、学術研究の推進に向けて、挑戦性、総合性、融合性及び国際性の観点から改革と強化を進め、学術研究に対する社会からの負託に応えていく。
具体的には、科学研究費助成事業(以下「科研費」という。)について、審査システムの見直し、研究種目・枠組みの見直し、柔軟かつ適正な研究費使用の促進を行う。その際、国際共同研究等の促進を図るとともに、研究者が新たな課題を積極的に探索し、挑戦することを可能とする支援を強化する。さらに、研究者が独立するための研究基盤の形成に寄与する取組を進める。加えて、研究成果の一層の可視化と活用に向けて、科研費成果等を含むデータベースの構築等に取り組む。このような改革を進め、新規採択率30%の目標を目指しつつ、科研費の充実強化を図る。
また、大学共同利用機関及び共同利用・共同研究拠点においては、分野間連携・異分野融合や新たな学際領域の開拓、人材育成の拠点としての機能を充実するため、各機関及び拠点の意義及びミッションを再確認した上で改革と強化を図ることが求められる。国は、各機関及び拠点へのメリハリある支援を行うとともに、我が国全体の共同利用・共同研究体制の構築に貢献する学術研究の大型プロジェクトについて戦略的・計画的な推進を図る。

2)戦略的・要請的な基礎研究の推進に向けた改革と強化
企業のみでは十分に取り組まれない未踏の分野への挑戦や、分野間連携・異分野融合等の更なる推進といった観点から、国の政策的な戦略・要請に基づく基礎研究は、学術研究と共に、イノベーションの源泉として重要である。このため、国は、政策的な戦略・要請に基づく基礎研究の充実強化を図る。
国の戦略に基づく基礎研究の実施に当たっては、客観的根拠に立脚した戦略目標の策定に向けた改革に取り組むとともに、独創的・革新的な研究の支援を強化する観点から、若手・女性等による挑戦的な研究の機会や分野・組織を超えた研究の機会の充実を図る。
また、学際的・分野融合的な研究の充実を図る。その際、関係府省や関係機関の連携が重要であり、特に、医療分野とそれ以外の分野との学際・融合領域においては、総合科学技術・イノベーション会議と健康・医療戦略推進本部との連携・協力体制の下、関係府省や資金配分機関などの関係機関の連携を強化する。

3)国際共同研究の推進と世界トップレベルの研究拠点の形成
我が国が世界の研究ネットワークの主要な一角に位置付けられ、世界の中で存在感を発揮していくためには、国際共同研究を戦略的に推進するとともに、国内に国際頭脳循環の中核となる研究拠点を形成することが重要である。
このため、国は、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点を活用しつつ、滞在型の国際共同研究を充実する。核融合、加速器、宇宙開発利用などのビッグサイエンスについては、国内外施設の活用及び運用を図り、諸外国との国際共同研究を活発化する仕組みを構築するなど、国として推進する。また、二国間、多国間協力を強化し、相互に有益な関係を構築するため、共通課題の抽出など相手国と戦略的に連携しつつ、マッチングファンドや海外共同拠点の運営の充実を図る。
さらに、国は、国内外から第一線の研究者を引き付け、優れた研究環境と高い研究水準を誇る世界トップレベルの研究拠点の形成を進める。また、沖縄科学技術大学院大学における取組を捉え、必要な展開を図る。

[2] 研究開発活動を支える共通基盤技術、施設・設備、情報基盤の戦略的強化
1)共通基盤技術と研究機器の戦略的開発・利用

広範で多様な研究領域・応用分野を横断的に支える共通基盤技術や先端的な研究機器は、我が国の様々な科学技術の発展に貢献し、また、我が国の基幹産業を支える重要なものである。
このため、国は、共通基盤技術に関する研究開発及び複数領域に横断的に活用可能な科学に関する研究開発を推進する。その際、広範なユーザー層のニーズを十分に考慮に入れた研究開発となるよう留意する。加えて、国は、ユーザー視点に立った上で先端研究機器の開発及び普及を促進する。

2)産学官が利用する研究施設・設備及び知的基盤の整備・共用、ネットワーク化
世界最先端の大型研究施設や、産学官が共用可能な研究施設・設備等は、研究開発の進展に貢献するのみならず、その施設・設備等を通じて多種多様な人材が交流することにより、科学技術イノベーションの持続的な創出や加速が期待される。
このため、国は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に基づく最先端の大型研究施設について、産学官の幅広い共用と利用体制構築、計画的な高度化、関連する技術開発等に対する適切な支援を行う。また、幅広い研究分野・領域や、産業界を含めた幅広い研究者等の利用が見込まれる研究施設・設備等の産学官への共用を積極的に促進し、共用可能な施設・設備等を我が国全体として拡大する。さらに、こうした施設・設備間のネットワーク構築や、各施設・設備等における利用者視点や組織戦略に基づく整備運用・共用体制の持続的な改善を促す。加えて、幅広い研究開発活動や経済・社会活動を安定的かつ効果的に促進するために不可欠なデータベースや計量標準、生物遺伝資源等の知的基盤について、公的研究機関を実施機関として戦略的・体系的に整備する。

3)大学等の施設・設備の整備と情報基盤の強化
大学及び公的研究機関の所有する研究施設・設備は、あらゆる科学技術イノベーション活動を支える重要なインフラである。このため、国は、大学及び公的研究機関の研究施設・設備について、計画的な更新や整備を進めるとともに、更新・整備された施設・設備については各機関に共用取組の実施を促しつつ、その運転時間や利用体制を確保するための適切な支援を行う。
特に、国立大学法人等(国立大学法人、大学共同利用機関法人及び国立高等専門学校を指す。以下同じ。)の施設については、国が策定する国立大学法人等の全体の施設整備計画に基づき、安定的・継続的な支援を通じて、計画的・重点的な施設整備を進める。国立大学法人等においては、戦略的な施設マネジメントや多様な財源を活用した施設整備を推進する。研究開発法人の施設については、国立大学法人等の施設整備計画を参考に老朽化施設等の整備の方向性について検討し、必要な措置を講ずる。
また、情報基盤は、科学技術イノベーションの創出に必要不可欠な役割・機能を担っており、研究情報ネットワークの強化や、情報システム資源のクラウド集約化、最新のICTを導入したセキュリティ機能の強化など、情報基盤の強化と円滑な運用を図る。

[3] オープンサイエンスの推進
オープンサイエンスとは、オープンアクセスと研究データのオープン化(オープンデータ)を含む概念である。オープンアクセスが進むことにより、学界、産業界、市民等あらゆるユーザーが研究成果を広く利用可能となり、その結果、研究者の所属機関、専門分野、国境を越えた新たな協働による知の創出を加速し、新たな価値を生み出していくことが可能となる。また、オープンデータが進むことで、社会に対する研究プロセスの透明化や研究成果の幅広い活用が図られ、また、こうした協働に市民の参画や国際交流を促す効果も見込まれる。さらに、研究の基礎データを市民が提供する、観察者として研究プロジェクトに参画するなどの新たな研究方策としても関心が高まりつつあり、市民参画型のサイエンス(シチズンサイエンス)が拡大する兆しにある。近年、こうしたオープンサイエンスの概念が世界的に急速な広がりを見せており、オープンイノベーションの重要な基盤としても注目されている。
こうした潮流を踏まえ、国は、資金配分機関、大学等の研究機関、研究者等の関係者と連携し、オープンサイエンスの推進体制を構築する。公的資金による研究成果については、その利活用を可能な限り拡大することを、我が国のオープンサイエンス推進の基本姿勢とする。その他の研究成果としての研究二次データについても、分野により研究データの保存と共有方法が異なることを念頭に置いた上で可能な範囲で公開する。
ただし、研究成果のうち、国家安全保障等に係るデータ、商業目的で収集されたデータなどは公開適用対象外とする。また、データへのアクセスやデータの利用には、個人のプライバシー保護、財産的価値のある成果物の保護の観点から制限事項を設ける。なお、研究分野によって研究データの保存と共有の方法に違いがあることを認識するとともに、国益等を意識したオープン・アンド・クローズ戦略及び知的財産の実施等に留意することが重要である。
また、国は、科学研究活動の効率化と生産性の向上を目指し、オープンサイエンスの推進のルールに基づき、適切な国際連携により、研究成果・データを共有するプラットフォームを構築する。

(3)資金改革の強化
政府が負担する資金には、運営費交付金、施設整備費補助金、私学助成等の研究や教育を安定的・継続的に支える基盤的経費と、優れた研究や特定の目的に資する研究などを推進するために配分する公募型資金があるが、これらは共に科学技術イノベーション活動の根幹を支えるものであり、その在り方は研究力や研究成果、組織の運営、人材の配置等に大きな影響を与えるものである。
特に、多くの公的資金が投じられている国立大学については、組織を抜本的に改革し、多様な研究資金を効果的・効率的に活用する環境を整えると同時に、ガバナンスの強化等を促進することで、その機能の強化を図っていく必要がある。
このため、国は、基盤的経費と公募型資金の双方について改革を進めるとともに、特に国立大学に対しては、組織改革と政府の研究資金制度改革とを一体的に推進する。その際、基盤的経費と公募型資金の最適な組合せを常に考慮することが重要である。

[1] 基盤的経費の改革
大学及び研究開発法人がミッションを遂行するためには、研究や教育を支える基盤的経費が不可欠である。しかし、大学については、基盤的経費が年々減少する中で裁量的経費が減少しており、経営・人事システムの改革の遅れなどともあいまって、研究の多様性や基礎研究力の相対的低下、若手人材の雇用の不安定化といった問題が生じている。また、研究開発法人については、その活動を支える基盤的経費である運営費交付金及び施設整備費補助金が減少傾向にあり、計画的な研究活動、施設及び設備の更新等に課題が生じつつある。
こうした状況も踏まえ、大学及び研究開発法人がその役割を適切に果たせるよう、組織基盤の改革や財源の多様化といった取組を促すとともに、国は、基盤的経費について、各機関の一層効率的・効果的な運営を可能とするための改革を進め、確実な措置を行う。
その際、私立大学については、建学の精神及び私学の特色を生かした質の高い教育研究等に取り組むことができるよう、私学助成等について、国は一層のメリハリある配分を行う。

[2] 公募型資金の改革
公募型資金の中でも、競争的資金として分類される制度については、我が国における研究開発の多様性を確保し競争的な研究開発環境の形成に資する重要な資金であることから、国は、競争的資金について、研究力及び研究成果の最大化、一層効果的・効率的な資金の活用を目指す。
具体的には、競争的資金について、その政策目的等を踏まえて対象を再整理し、全ての競争的資金において間接経費の原則30%措置、使い勝手の改善等の府省統一ルールの徹底を図る。また、競争的資金以外の研究資金についても、間接経費の導入、使い勝手の改善等の実施について、大学改革の進展等を視野に入れつつ検討を進め、必要な措置を講ずる。加えて、研究機器の共用化の促進を図るとともに、資金配分機関の多様性の確保を前提としつつ、制度・府省をまたいだ複数研究費の合算による使用、研究の進展に合わせた切れ目ない支援が可能となるような制度間の接続の円滑化並びに複数年にわたる研究実施の円滑化に向けた検討を行い、必要な措置を講ずる。
また、大学及び公的研究機関等における研究開発システム等の改革の促進を目的とした経費については、事業終了後においてその目的達成が担保できる仕組みを検討し、必要な措置を講ずる。

[3] 国立大学改革と研究資金改革との一体的推進
科学技術イノベーションを推進する上で、その中核的な実行主体である国立大学の組織を抜本的に改革し、機能の強化を図ることが喫緊の課題であり、国立大学改革と政府の研究資金制度改革とを一体的に推進する。
大学改革の主体は大学自身であり、自らの理念に基づき教育研究の現場に改革を実装していく責務を持っている。このため、国は、自らの強み、特色を最大限生かしつつ自己改革に積極的に取り組む国立大学を重点支援し、グローバルな視点から大学間競争を活性化する。具体的には、大学の機能強化の方向性に応じた運営費交付金の新たな配分・評価方式について、国立大学の第3期中期目標期間から実行する。各大学においては、自らの強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することが求められる。具体的には、教育研究組織の大胆な再編や新陳代謝、学長のリーダーシップやマネジメント力の強化、人事給与システムの改革、経営人材の育成・確保等が求められる。さらに、経営力強化に向けた財務基盤の強化のための方策を講ずることが重要であり、国内外の企業との共同研究等の拡大に向けた、大学による企業との対話の努力及び協力の枠組みの構築等が求められる。国は、このような取組状況等を評価し、運営費交付金の配分等に適切に反映する。
こうした取組と併せて、特に国際的な厳しい競争環境に対応し得る一定の条件を満たしている国立大学について、組織基盤や財源の多様化の取組を制度面も含めて格段に強化するため、国は、国立大学法人制度の特例を設け、こうした国立大学に対する支援・評価を行うことを検討し、必要な措置を講ずる。
さらに、国は、大学における基盤的経費と公募型資金の役割を明確化するとともに、それぞれを適切に配分し、一体的に有効活用を図ることで、国立大学における資金の効果的・効率的な活用を促す。

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