資料4 第9回 学術の基本問題に関する特別委員会概要(ポイント)

 

○ ある程度学術として深く掘り下げることは学術の世界でしっかりやっていかなければいけないが、産業界からすると、既にいろいろ深掘りされたものを融合させて新しい物を作ることが大事。シンセシス型イノベーションを生み出せるスーパーバイザーの育成が必要であり、シンセシスというものを本当にしっかり、イノベーションの中でやっていかなければいけない。

○ シンセシス型イノベーションを生み出せるスーパーバイザーの要素は、効率的な組み合わせをしっかり見抜ける目利き能力、専門分野だけでなく広い知識・視野、何を行うかではなく何を実現するかという目的意識とバイタリティー、柔軟な発想・創造力、多様性をもたらすマネジメント能力とリーダーシップ、そして時期の運などがある。一朝一夕での育成は不可能であり、科学技術政策や教育政策の中で学術コミュニティーと連携した育成方針を早急に確立していく必要がある。また、開かれた研究コミュニティー、細切れ・縦割りの組織の解消、女性や外国人などのダイバーシティーの実現、アライアンスの促進、勝つための集中投資なども必要。

○ 特に大学における補助は、大企業の研究費に比べて少額のバラマキになっている。もう少し多くても良いとは思うが、予算的に難しいので、勝つための集中投資が求められる。

○ 独創的な研究に重点配分をしていくことや論文偏重のコミュニティー文化から脱却をしていくことも重要。企業との直接のオープン・イノベーションの奨励については、学術は学術、企業の研究開発は企業の研究開発という形になると、海外に比べ日本では産学共同が薄くなってしまうため、そこも充実させる必要がある。これを意識した研究支援体制の充実も必要。

○ ダイバーシティーについて、理系女子を増やしていただきたいが、大学でやっても無理であり、小学校や中学校のぐらいのところからしっかりやらなければいけない。また、日本のカルチャーも少し変えていくことが必要で、小さいときからの性差役割分業意識の解消や文理選択の仕組みなど、そういうものを全部含めて魅力的にしないといけない。女性の研究者等の働く環境の整備や外国人の給与体系など、国の研究機関でもそういうところを整備していくことが必要。

○ 産業界の考えるイノベーションとは、社会や人々の課題を解決することにより、新たな市場や事業が生まれ、収益が上がり、結果として経済成長や雇用の拡大に寄与するというもの。その中で、学術研究という活動はイノベーションを起こすための一つの重要な要素であるが、十分条件ではない。そのほかにいろいろな条件がうまく絡み合ってイノベーションが起こってくる。

○ 産業界は、知の創出力や人材育成力を支える学術研究の重要性、研究者が自律的、自主的に研究活動をすることは理解するが、成果がどうやって社会に生かされるか、応用されていくかを問題にしている。また、大学や国研の活動について、出口論や橋渡しの議論があちこちでやられているが、これは我々産業界の立場から見て非常にいいこと。一方で、あえてこの議論が盛んに行われるようになったということは、過去の大学や国研の在り方が、この部分に問題があったということの一つの証だと考えている。この議論が実りある成果として、何らかの改善が進んでいくということを強く期待している。

○ 税金により行われる大学の研究活動には、社会にどうやって貢献していくかという意思表示やロードマップが当然必要。計画通りに行かないとか、考えていたことと違う現象が起こってしまうのは新分野であれば当然のことだが、失敗を余り問題にせず、黙って見ているべきだというのは少し度が過ぎたやり方。税金を投入してやるからには、社会に対してオープンにすることが最低限の義務であり、それにより社会的な共有知となっていくことは非常に大事。また、社会に対して分かりやすい言葉で問い掛けをして、意思表示やコミュニケーションを取らないと、これ以上の税金投入を躊躇する気持ちが出てくるのも当然。

○ 大学や国研での研究投資規模が小さいながら世界的活動をしていることに敬意を払う一方、財政逼迫の中で、研究開発への投資効率を上げねばならない現状を受け止めるべき。この研究に関してはここで打ち止めてその分の資金と人材をこちらの方に回していく、というようなダイナミックな運営を行うべき。

○ 研究の目的と目標について、第三者の評価が必要。アカデミアによる総合評価も専門性の評価では大事だが、本当に成果に近づいているか否かは民間の技術者でもある程度直感的に分かるので、そういう意味で外部の人に評価してもらう事が必要。

○ 今後は一つの専門性の深掘りではなく横の連携の中で一つの新しいものを作っていくような、幅の広い活動が必要になりいわゆるマネジャーが必要になるため、大学はもっと横の連携強化や調整をするマネジメント能力を付けていかないといけない。アメリカやヨーロッパの大きな講座を運営している大学の教授は、ビジネスマンから見ても人の使い方、集め方や資金の集め方などマネジメントが非常に優れている。そういう目で日本を見たときに、そのような人材があまりに少なすぎるのではないかと思う。

○ 工学部は自然科学を応用して社会に役立てていくことを目的に活動していると思うので、明確な出口やロードマップなしに産業界と一緒にやっていくことはあり得ない。工学部でも部分的に自主研究、自らのアイデアを試してみる研究テーマはあっても構わないが、それが大半を占めるようなことがあれば不健全。

○ 日本は先進国の中でも人口比率で見てドクターの数が非常に少ないし、民間企業の多くがドクターを採りたがらない状況は20年ほど続いている。これはまさに大学と社会や産業界とのニーズのミスマッチから起こっている。日本では博士課程が学者の後継者の養成機関として機能しているのに対し、先進国では既にその段階から大きくエクスパンドしている。産業界の最先端の技術を事業化していく人材として学生を育てていくという方向に切り替えるべき。

○ 企業がなかなかポスドクを採りたがらないのは、ポスドクが顧客と接触するのを嫌がり、研究をしていい論文を書けばいいのだと会社の中で自己主張するため、この人に事業化を託したいというモチベーションを企業側が持てず萎えてしまうからではないか。また、企業の中で新事業を作っていくという経験を積んだ人が大学の中に入っていかないと、大学自身が社会との接点を強化していく方向に動いていかないのではないか。

○ ヨーロッパでは、学問は生活の中から生まれてきているというのを感じるが、日本は大学が社会の中から自然発生したのではなく、諸外国に追い付くためにという目的を持って国が大学を作ったものであり、その伝統が続いているために、大学が社会と遊離したら存在できないのではないか。社会の要請に従って、社会や政治家などに対して発信し社会を引っ張っていくというのが、大学の非常に重要な仕事。そういう意味で、社会とのコミュニケーションを行わない大学に、税金が回されなくなってくるのは自然の成り行き。逆にそこを改善すれば、日本は教育に対する敬意を持った国であり、大学の予算を2倍に増やすなどと言えるのではないか。

○ 4月の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議において、経済再生担当大臣より提出された改革戦略の連携施策は、大学、公的研究機関、産業の間で相互に密接に連関しており、この相互の連関課題の抽出と可視化をしてみると、同改革戦略は科学技術・学術のみならず、大学教育改革面に及ぶ内包的な意味を持っている。イノベーション側からの、科学技術・学術側との橋渡し機能強化を求めた画期的なメッセージと受け止めるべき。

○ 10年前の経済財政諮問会議では科学技術投資をコストとして捉えていたが、今は逆に投資として発信し始めている。経済財政諮問会議のいう橋渡しは、大学と公的研究機関と産業という3つのドメインを、知と社会経済的な価値の創造のために結ぶもの。改革のポイントは、産学連携のオープン・イノベーション実現による革新的技術を事業化につなぐ橋渡し機能の抜本的強化である。

○ 公的研究機関の大学・産業間の橋渡し機能について、世界レベルの産学官の橋渡し機能強化には、大学院の博士課程の教育研究機能も実践(実戦)的に組み込まないとできない。これは今のイノベーション側にはないので、文部科学省が組み込むべき。

○ 従来から産業界も言っているとおり、公的研究機関を核とした世界的な産学官共同研究拠点・ネットワークの形成として、受け入れた学生を企業からの受託研究や産学官共同研究に参加させてイノベーションマインドを養成することが重要。博士課程修了者を産業界で活躍させる時期に来ており、これは教育と研究とイノベーションの一体施策が伴わないとできず、教育側が本気にならないと駄目。

○ 戦略に書かれている橋渡し機能の強化に向けたファンディング機関の改革、効率的な資金配分の在り方を含めた技術シーズ創出力強化のためには、複雑なファンディングのメカニズムへ本当にメスを入れなければならない。

○ 戦略には、大学や公的研究機関の改革が書かれているが、単独の改革は不可能であり、大学院の教育研究改革と総合連関の制度改正が必要。また、産学連携活動と教育が二人三脚になることも必要。イノベーション・ハブ構想はここから出てきており、教育と研究とイノベーションの三位一体推進の実践の場になる試金石。

○ 戦略には、初等中等教育から高等教育、大学院の教育の立て直しを目指した橋渡し機能の視野がすっぽり欠けている。初中教育の再生から高等教育の実質化、大学院博士課程教育研究の世界レベル化など、全体の橋渡し機能強化の一体的戦略が必要。これは、中央教育審議会と科学技術・学術審議会との特別な合同部会を作ればできると思う。

○ 社会のための科学技術と教育の両面において積極的に橋渡し機能を果たすべき時期。科学技術イノベーション改革と教育改革の統合的な一体推進がポイントであり、この視座を学術の基本問題の1つの柱として位置付けるということを提案したい。その中に、欠落している初等中等教育に起因する科学技術と技術教育の乖離が科学技術・イノベーション創造立国にもたらしている負の循環を立て直すことも含めていただきたい。

○ 国内主要大学の間に競争がないことが根本的な課題。努力しなくても常に順位は変わらない。そこに風を通さないといけない。また、教育の問題については、入試改革の議論が進んでおり、従来の方法を根本的に転換すべく議論が行われている。

○ ベースになる学術研究がもっと社会と密接に結び付くべきとのことだが、すぐに明日お金になるような研究でないといけないと取られる可能性があり、それまでにはかなりのステップがあるので全体をシステムとして捉えるべき。建設的に、学術研究から本当のイノベーションまでシステムとして総合的に考えていく必要があり、それには、科研費等々については特にデータベースをしっかり構成し、常に誰でもその成果にアクセスできるような仕組みが必要。学術研究については、各国はむしろ戦略的に、マーケットオリエンテッドとは異なる、ベースの部分で競争するという構造が、特に国際共同研究の場で相当顕著になっており、これは中国との関係等も含め非常に大事なところ。

○ 博士課程の育成について、博士課程教育リーディングプログラムが文科省にあるが、このプログラムは高等教育局でやっており、研究振興局とも協力しながら進めていく必要があるのではないか。

○ 産業界からの意見について、学術界も真摯に受け止めなければならないが、建設的に物事を進めていくためには、もう少し具体的に踏み込んで情報の共有をすることが必要。

○ 競争させない日本の初等中等教育の中からは、大学入学後に競争できる学生が育つわけがない。アメリカでは全米科学教育者アソシエーションがあり、企業と連携した取組を行っているが、日本は競争と言ったら受け皿がない。中国でも、科学教育のカリキュラムコンテストをやったら、教育部から全師範大学でやってほしいという話になった。とにかく競争させていいものを生むことが良いというカルチャーを持っているのはアメリカと中国であって、日本は全く逆。

○ 小中学校では全国学力・学習状況調査を悉皆で行い、B問題という記述力を測る問題が随分出されるようになったが、そういうことが高等学校、大学へとつながっていない事が課題。また、次期学習指導要領がもうすぐ諮問されるが、精神論では中々届かないところがあるため、産業界からも、具体的な情報を持ってご協力いただければと思う。

○ 例えば自動車の中には数え切れないほどの学術体系があるが、学術側として、まだ見える化、価値化し切れていない。日本学術会議においても、漠然と総合工学となっている。教育の現場もどう教育に落とし込んでいいか分かっていない。それは我々学術界の問題ではないか。

○ 科研費は、人文学、社会科学から自然科学すべてカバーしており、これからの技術は、特にシステム系の場合は、どういう分野の技術が役に立つかわからない。そう考えたときに、一番下の土壌においては、若い研究者を含め、自分からこう研究したいという気持ちを持って何かの種を生み出していくことにより、戦略研究やマーケットオリエンテッドリサーチが色々なところから種を受け取ることができるのがこれからの時代の在り方ではないか。

○ 視野の広い技術で競争力を維持していくためには色々なところに投資、手を打たなければならないことはわかるが、一方でそれをやると副作用も出てくる。
また、技術、あるいは商品の競争力は、その瞬間その瞬間に技術がブレークスルーしたから実現できてきた。その際、このアイデアを出した人の評価がないと、科学技術少年は生まれにくく、社会から見えにくくなってしまう。

○ 地方国立大学の規模が人口減少とともに縮小するのを食い止めるには、その地域の特色を生かした産業や観光ビジネスを盛んにすることや、地方をよみがえらせる知恵を出す人材育成などを担うべき。それにより地方大学もグローバル大学に成長するチャンスがある。

○ オープン・イノベーションを意識した研究支援体制の充実を行う場合、教育とリンクしていく必要があるが、それは今のリーディングプログラムとは別のプログラムになるのではないか。

○ 本当の独創、そして成果に結びつくような研究というのは、結局は競争のプロセスの中から事後的に発見されていくもの。競争の重要性はまさにアイデアの市場における競争であり、そのアイデアが結実したプロダクトの市場の観点だけで競争を語るべきではない。また、事前には何が最善であるか分からないから研究しているのであり、あらかじめベストが誰かによって認定され、助成がそこに集中していく仕組みは健全ではなく、モデルとして出されているアメリカや欧米でのアイデアの市場はそうなっていない。大学のランキングが固定化されているのは、ある意味では大学をランク付けして、それに対して助成の仕組みを作ってしまうから。ランキングは事後的に、研究の成功によって発見されていくという観点を入れないと固定的な仕組みは変わらない。

○ これからのシンセシスの時代の中では勝者に投資するのではなく、知識を見識に昇華させ、そこから突然の直感力を持って組み合わせができる人の層をたくさん作ることが必要。これからのシンセシスの時代の中では確率でもってそういう人を育てていかないと、本当のイノベーションはできない。

○ 日本の企業が行う国内の大学との共同研究等の規模が海外大学のそれに比して小さいということについて。例えば清華大学は本当の意味で政府とつながっており、そこで行った研究が実用化されて、またお金が付くという確率が非常に高い。日本の場合は、決まったアイテムに対して少額で行い、出てきた成果に国からまた金が出ることはあり得ない。全体で考えると、国の政策と教育がある程度リンクしており、金だけではなく人脈も見える。大学でやったものが本当に応用され、例えば社会インフラに即適用されるなど先が見えることが大切ではないか。

○ 海外では大学と具体的な契約書を取り交わすが、日本の大学と民間企業の場合は抽象的な契約。日本人はお互いにその場でけんかが起こらないようにうまく契約をやっていく習慣があり、ビジネスライクに見ると、何が成功して何がだめだったかの議論が棚上げされてしまう。結局民間から見ると海外大学との方が契約しやすいということになってしまう。

○ 理系独特かもしれないが、海外での共同研究について、企業と一緒に提案してやっているテーマでは、オーバーヘッド等から大学院生にスカラシップが出せるようになっている。知財は大学院生も含めて契約をする事が必要。年何回か企業との共同研究の際には、必ずロードマップを含めトレーニングをやっている。また、日本の大学でも基礎研究のいい芽が出ていることは現実で、それに対して海外企業の方から先に声が掛かることが少なからずあるのが大変心配。

○ ふるさと納税のように、企業に対して研究者納税のような制度を作れば、リスキーで利益の面からも厳しいが新しいことをやってみたいという時に、大学の合理的に物を考えられる訓練をした人たちに研究をやってもらうために、税金を回すことができるようになるので、企業から喜んで大学の方に資金を流していく道ができるのではないか。

○ 何を研究するかではなく、何を実現するかにコミットした上で、ロードマップでその中途段階でちゃんとそれを成果発表していきながらゴールに行くことが大事。その際、できないと大変だからやらないという話にならないよう、ある程度研究のリスクを考慮したフレキシビリティーをお互いに理解しておけば、それなりのお金も期間も、日本の企業はちゃんとやると思う。

○ 博士課程の学生は自ら研究課題を設定して取り組むスタイルを尊重すべきであり、必ずしも博士の学生の研究が産業界との共同研究の課題と相容れるわけではないことは産業界の方々にご理解頂きたい。企業との共同研究を行う際には、研究員を必ず雇っており、そうしないと継続性や持続性を保てず責任を果たすことができない。

○ 工学部に入学した学生は、入学した時点から社会に興味を持ち、これからどういう分野が伸びていくかなど、社会の状況を見ながら自分の専門を決めていくものである。同時に、先生との相談、企業実習、先輩技術者からの情報収集などを通じて、社会の中での自分のポジションを模索していくもの。そういう意味で、企業との共同研究に参加するかの提案に対しては当然先生との相談があり、決断するのは大学側であって、学問の自由はそこに存在していると考えている。

○ 日本の大学に向けての企業からの大きな委託研究等が、欧米や中国のそれと比べて何故実施されないのかについては、今後産業界と大学側が膝を交えた議論を積極的に行う時期に来ているのではないか。文部科学省でもそういう機会を作っていただくことで、本委員会で議論している教育、研究、イノベーションが密にリンケージしていくことを考えなければならない。

○ 今の大学入試は知識を競わせているが、本当は見識を競わせないといけない。記憶力を一生懸命競わせても仕方がなく、理解力を競わせることができれば、そこで直感力などを持った人がそれなりに育つと考えている。

○ 評価について、特に誰もやったことのない新しい分野で提案や判断をするのは難しい。断片的な実験データを見て方向が合っているかどうか判断する際には、ジャッジ自身にもミスが伴うことをある程度前提にしない限り身動きできない。その代わり、後で違ったら方向転換しようと言って修正する、そういうオープンな社会雰囲気、組織雰囲気を作り上げていくのも、健全な社会の発展に非常に重要。

(以上)

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