資料1 日本私立大学団体連合会 楠見副会長(関西大学学長)提出資料

 

科学技術・学術審議会学術分科会
「学術研究の推進方策に関する総合的な審議について(中間報告)」にかかる意見

日本私立大学団体連合会
平成26年10月22日

 平成26年5月にとりまとめられた『中間報告』につきまして、貴分科会のご努力を多とし、敬意を表します。
 内容の詳細につきまして、事案の性格に鑑み、今後の検討において、一層強調すべき点、さらに議論を深化させ具体提案を必要とすると考えられる点など、さらに審議を深められるよう切望し、特に私立大学の立場から以下の諸点について意見具申をいたします。

1. 失われる日本の強み―危機に立つ我が国の学術研究

  •  我が国はアジアの中で高等教育と科学技術に支えられた国際競争力のもとで欧米に伍してGDP世界2位の国力を維持してきた。しかしながら、新興国の追い上げにより産業経済面はもとより、科学技術・学術の分野においてもこれまでの優位を保ち続けることが不安視されている。このような難局を克服し、創造的な社会を持続的に構築していくためには、単なる競争だけではなく、高等教育機関や研究機関がそれぞれの所有する資源を共有・共存し、有効かつ有機的に活かした基盤を作り上げることが肝要である。特に研究面においては、ますます学際化・多様化が進む傾向の中で、既存の枠組みを超えた施策を導入することが求められる。
  •  政府による科学技術・学術研究活動への投資は、科学技術創造立国実現のための重要な柱であり、イノベーションの創出を通じた国力増進の源泉である。天然資源に乏しい我が国が、ますますグローバル化が進展する現代社会において、これからも東アジアをはじめ、世界を牽引するリーダーとして、国際的に重要な役割を果たすためには、人財の育成と科学技術の振興こそが国家戦略として最重要課題である。
  •  また、教育面においても、最近のMOOC、OCW、オンデマンド化、などICT活用による高等教育の国際的な再編につながる動きも見逃せない。本邦大学の人財育成機能を強化するという視点ばかりでなく、我が国の高等教育と研究活動のプレゼンス向上のためにも、これらの活用は重要な課題であり、我が国の主導による国際協働の実現にもつながるものである。

2. 持続可能なイノベーションの源泉としての学術研究
3. 社会における学術研究の様々な役割

  •  科学技術政策は、18世紀の産業革命以降、国際競争力の強化を図る世界の先進各国において重要な国家的課題として扱われてきた。今日では、環境問題や食糧問題、エネルギー問題など、一国の国力強化の問題にとどまらず、国家という枠組みを超えた人類が直面する諸問題の解決に対して科学技術政策の関与が不可避となっている。
  •  少子高齢化が加速的に進展するなか、我が国が今後においても国力の維持・発展を遂げ、世界をリードしていくためには、活力に溢れた新しい多様な価値を創造できる「自立した人財」が多く必要である。社会基盤全体のレベルアップを図る人財育成と、我が国の産業競争力を強化するために科学技術の研究開発を進める研究人財の育成との両輪をもって学術研究の推進が図られるべきである。
  •  今回の『中間報告』に謳う「持続可能なイノベーション」の創出を実現し続けるためには、基礎研究における科学的発見や発明と、その成果を具体的なイノベーションへとつなげていく実用化のための環境整備が必要である。
  •  さらには、多様な文化・制度の共生する世界の持続的発展を考えるならば、科学技術成果の社会実装を行ううえで、科学技術及び科学技術研究者の一層の社会性が求められる。

4. 我が国の学術研究の現状と直面する課題

  •  我が国の高等教育に対する公財政支出は、OECD加盟国平均が対GDP比1.1%であるのに対し、対GDP比0.5%にとどまり、加盟国中で最下位である。まずは、少なくともOECD加盟国平均までに達するよう、早期に科学技術関連経費を含めた高等教育関係経費の量的拡充が達成され、質的拡充へと踏み出すべきである。
  •  特に、欧米をはじめとする主要国では、科学技術関係予算が拡充されているのに対し、我が国は先進主要国において最も低い数値となっていることから、科学技術関係予算の飛躍的拡充は、我が国が先進主要国間においてリーダーシップを発揮していく視点から最重要の課題である。
  •  我が国の大学生(学部)の約8割と大学教員の約6割を擁する私立大学は、全国各地において教育研究活動を展開している。我が国の研究者の多くは私立大学に所属し、設備・施設・敷地等において決して恵まれているとはいえないものの、高い研究実績と幾多の可能性を有しており、機会さえ得られれば大きく飛躍する潜在力に溢れているこのような人財を国家的戦略のもとに育成、能力開発、処遇していくための環境をいかに図るかによって、日本の将来は大きく左右される
  •  社会人の再教育、学際的研究への多角的取り組みや、グローバル化対応に先行している私立大学の潜在力が十分活用されていないのは、国家的損失といえる。
  •  私立大学と国立大学の間には、研究費、そして大学院を中心とした教育研究環境の格差が厳然とあり、この格差が競争的資金の獲得実績に直接的な影響をもたらしていることは強く認識されるべきである。
  •  私立大学の学術研究及び研究環境の整備に対する国の財政的支援の補助率は2分の1以内あるいは3分の2以内とされ、残りは私立大学が自ら負担する原則となっていることが研究環境改善の推進の障害の要因となっている。私立大学に対する国の財政的支援を全額補助とすることを早期に実現すべきである。
  •  我が国では、国の研究費配分上位10番目の大学の研究費が、最も配分額の多い大学の10%程度にまで減少してしまうのに対し、米国において最も配分額の多い大学の10%程度にまで減少するのは概ね100番目の大学である。一部の頂上を引き上げるだけでなく、裾野の広い研究開発投資を行い、裾野の多くを担っている私立大学の潜在的研究力を活用し、多様性の確保に努めることが、21世紀における科学技術振興のために極めて重要である。とりわけ収入の多くを学生の授業料に依拠せざるを得ない私立大学の研究活動に対しては、国による積極的な投資がさらに拡充されるべきある。
  •  我が国の研究投資総額の約8割が民間投資であり、その多くが製品開発などの開発研究に当てられているため、真にイノベーションの創出につながる投資は少ない。基礎研究の段階からイノベーション創出までをつなぐ研究活動に果たす公共投資の役割は大きく、これらの研究活動を中核的に担う大学に対して公共投資の拡充が幅広く図られるべきである。

5. 学術研究が社会における役割を十分に発揮するために

(1)改革のための基本的な考え方

  •  基礎研究の新たな発展のためには、複数の学術研究分野に立脚した新たな学術研究分野や融合分野の開拓が必須である。また、今後の人類的な課題解決に資する基礎研究には、人文・社会科学的課題との連携が不可欠である。我が国の科学技術が一層の飛躍を遂げるためには、人文・社会科学を含めた「諸科学の調和ある発展」がますます重要である。この点でも私立大学の役割は大きい。
  •  人財育成の側面からも、科学技術に偏向せず、人文・社会科学をも含めて、人間としての調和のとれた人財の育成こそが、今後の我が国の科学技術の発展を支える礎となる。経済と環境の両立、自然共生・循環型社会の実現、脳科学と人文科学の連携、技術経営(MOT)や弁理士などの科学技術の発展に資する人財育成等、複数の研究コミュニティ間の議論を積み重ねることが必要である。上記の新しい研究分野においては、国立大学に限らず私立大学に共同利用中核研究拠点を設置することも可能である。
  •  研究者の自由な発想に基づく研究活動がなければ、真のイノベーション創出は継続し得ない。裾野の広い学術研究に対する振興支援と重点的投資とのバランスのとれた政策が必要であり、「科学研究費補助金」をはじめとする「幅広な基礎研究」への果敢で継続性のある公共投資が不可欠である。

(2)具体的な取組の方向性

 以下に、私立大学の立場から具体的な取組の方向性にかかる意見を述べることとする。
【私立大学が有する潜在力の活用とさらなる開発】

  •  これまでの学術研究分野における国家プロジェクトは、主として国立大学、その附置研究所及び大学共同利用機関の教員を中心として、関係学会等において構想が検討、推進されてきた。今後は、多くの学術研究分野で活躍する私立大学の意見をより有効に反映し、学術界の総力を結集する体制で取り組んでいく必要がある。
  •  私立大学の大型共同利用施設の利用人数や、日本学術振興会の大学院博士課程在学者を対象とする特別研究員の採用人数には、国立大学と比べ格段の格差が存在する。公募共同利用の不均衡の是正や、利用しやすい環境整備、具体的には宿泊施設の整備や交通費等の物質的補助を含む私立大学研究者の大型プロジェクト参画への配慮、大学院学生への補助を含む参画への配慮等サポート体制の充実を図り、私立大学研究者が利用しやすいシステムの確立が不可欠である。また、教員・学生の公私の枠を超えた新しい流動性の確保も重要である。
  •  全国津々浦々に所在する私立大学は、社会に対するきめ細やかな対話の窓口として、学術研究の意義や役割、成果等についてわかりやすく説明する情報発信拠点となり得るが、この潜在力が十分に活かされているとはいえない。

【教育と教育のための学生支援の重要性】

  •  大学院に人財を供給する学部段階、特に初年度あるいは低学年次における教育の充実が欠かせない。8割の学部学生を擁する私立大学にはこの面でも十分な手当てが要請される。
  •  18歳人口の過半が進学する大学・短期大学においては、科学リテラシー教育や倫理、さらにはレギュラトリーサイエンス(科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学:第4次科学技術基本計画)などの教育の促進が図られるべきである。
  •  我が国の博士課程の大学院学生や若手研究者に海外研修を義務づけるなど、諸外国の多様な研究環境に接し、グローバルな視野を獲得できる機会を創出するための政策も不可欠である。
  •  大学教育に対する積極的な投資がなければ、我が国の未来を支える質・量ともに豊かな科学技術人財層の形成は不可能である。人財層の形成に果たす役割の大きい私立大学の教育に対する一層の支援が不可欠であり、とりわけ国立大学に比べ、施設・設備や研究装置、教員数などの教育環境の整備に対する経費負担が重く、特に国際競争力のあるレベルを確保できていない私立大学の理工系学部に対する財政支援が講じられる必要がある。
  •  公私を問わず大学院学生を対象とした給付制奨学金の創設のほか、TAやRA、学費減免などの経済支援を行っている大学に対する支援の強化が望まれる。
  •  博士課程の研究者やポスドクは国の財産であり、有能で意欲のある若手研究者が安心して活躍できる環境・処遇の整備や就業支援は重要課題である。特に私立大学と国立大学の大学院学生(博士課程)では、日本学術振興会の特別研究員の採用率に大きな差がある現状に鑑みると、私立大学への援助の増加が大いに望まれる。博士課程修了者の多様な進路を確保するため、産学連携によるインターンシップやキャリア教育など、学生のキャリアパス形成に取り組む大学に対する支援を進めることも必要である。さらに、博士課程の研究者やポスドクを社会全体で活用する仕組みづくりが必要である。
  •  博士課程進学のインセンティブを高めるとともに、国際的な大学院教育の質保証を図るためには、標準修業年限内における博士学位の円滑な授与を促進する必要があり、コースワークの設定や学位審査の年度内複数実施など制度の柔軟化の促進を図る必要がある。

【地域における学術研究の振興】

  •  今後、我が国は加速する人口減少と、それに伴う若年層の地方部から都市部への流出等により、4分の1以上にも及ぶ地方自治体が消滅することが政府の「選択する未来」委員会による報告書において予測されるように、地域、とりわけ地方の活性化が喫緊の課題となっている。私立大学は地域に深く根ざした高等教育機関として、我が国の均衡ある発展に資するべく、地方・地域のニーズを踏まえた人財養成のみならず、地域の学術研究の拠点として、地域産業及び公的研究機関との共同研究、地域の雇用創造等をはじめとする地域固有の問題の解決に高い期待が寄せられている。これらの問題解決に向けては、私立大学の研究基盤の強化や、基礎研究からイノベーション創出に至るまでの学術研究全般の幅広い支援体制の整備とともに、特に地域創生に関わる学術研究を対象とする研究費支援の制度創出が望まれる。私立大学には地域貢献の潜在力を有するところが多々あることにも留意すべきである。

【政府による研究開発投資】

  •  国と産業界が共同出資し、大学を対象とするイノベイティブな研究を促進する研究資金を設けるなどの国公立・私立の枠を超えた新たな政策が望まれる。

【その他】

  •  従来の大型装置の建設・利用を中心にした大型プロジェクトだけでなく、必ずしも大型装置の導入を必要とせずとも、私立大学を含む多数の多様な分散研究拠点をネットワークで結んでコミュニケーションをとりながら、効率よく研究を進めていく分散ネットワーク型大型研究の導入が必要である。その際、学術情報ネットワーク等の研究情報環境のさらなる拡充も必要である。
  •  科学技術・イノベーション政策の推進を国是とするためにも、政策の内容が国民全体の課題・ニーズに応えるものであり、その成果が広く社会に還元され、国民社会がその利益を享受できるようにすることが強く要請される。人文・社会科学を含む科学技術の最先端の知識を広める努力を行うことが必要であり、研究内容や成果をわかりやすく定期的に根気強く説明する機会の創出や人財の育成が求められる。このためにも私立大学には人的余裕が必要である。
  •  研究費の申請時期や使用可能な期間をよりフレキシブルにするなど、現場のニーズを反映した予算の使い方の効率化など、国が責任をもって制度改革を行う必要がある。
  •  また、間接経費の充実は大学の基礎体力の充実にとって重要であるが、プロジェクト毎に間接経費をつける方式から、総額を機関への直接一括交付とするほうが、安定的であり、大学の研究環境整備には適当である。
  •  私立大学に所属する教員を国家的な研究プロジェクトに専従させる場合、大学の教育活動に支障を与えないよう配慮する必要がある。その意味において、代替教員等の雇用に対する経費負担等の措置が併せて図られるべきである。
  •  我が国の学術研究の発展・振興のためには、私立大学における研究者が、安心して教育研究に専念できるよう、教育研究業務やプロジェクトマネジメント等を支援する組織体制の充実、例えば、人件費、事業推進費等、旅費、設備や備品費等に対する支援が不可欠である。特に、人件費をはじめとする私立大学における教育研究基盤の充実に向けては、私立大学等経常費補助金の2分の1補助の速やかな実現が望まれる。
  •  女子学生や女性教員の全体的な比率が国立大学よりも高い私立大学の努力を一層支援する施策が必要である。
  •  全国の大規模共同利用施設への私立大学の利用促進策も必要である。既存の国立施設や独立行政法人などの研究施設を活用しやすくするなど、一段の配慮が望まれる。
  •  私立大学の教員とポスドク・大学院学生が共同利用機関の施設を利用するためのサポートシステムの構築が必要である。
  •  オールジャパン体制で今回の『中間報告』にある「研究・学術人財のスマートグリッド化」の実現を目指すことを提案したい。
  •  以上を行うにあたって、財政基盤の問題から私立大学の体力が国立・公立に比べて著しく劣る現状を改善することが急務である。
  •  有期雇用によってプロジェクトに参加する研究者の活性を保つには、プロジェクト終了後にも次のプロジェクトにかかわれる見込みがあることが重要である。私立大学一機関での無期雇用に限界があり有期雇用に頼らざるを得ない状況があることから、無期雇用を展望できる仕組みづくりなど、学術コミュニティあるいは社会総体として研究者の活用方策が検討されるべきである。
  •  また、私立大学に特有の問題として、教員組合との関係がある。優秀な研究者・教員を見分け、若手研究者の発展可能性を評価し処遇するには、その役割を明確にするとともに、大学教員に対して企業労働者とは異なる位置付けが必要である。
  •  今後の我が国の学術研究、人財育成及びその社会への還元の流れを抜本的に向上させるためには、これまでのような、国立・公立・私立とは異なる区分での大学政策の考え方が必要になると思われる。

  私立大学は我が国の学術研究の一翼を担って、その発展に寄与する十分な潜在力と意欲を有していることを強調したい。

以上

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研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)