資料1 論点の展開イメージ(案)

科学技術・学術審議会 学術分科会
学術の基本問題に関する特別委員会
(第7期第3回)
平成26年4月2日 

  論点展開イメージ

 はじめに

(1) 危機に立つ日本

○ 我が国は、少子高齢化や人口減等の構造的な課題を抱えつつ、資源エネルギー問題等グローバルな課題への対応が緊要性を増しており、山積する難題を前に、国民の不安感・閉塞感が高まっている。この状況を打破し、我が国が持続的に発展していくための拠り所となるのは新たな知と、それを創出し活用する人材より他にない。

○ 学術研究は、新たな知を創出・蓄積し、継承・発展させることにより、人類社会の持続的発展の基盤を形成するとともに、そのような新たな知への挑戦を通じて人材を育成することにより、現在及び将来の人類の福祉に寄与するものであり、その重要性は一層増している。

○ それにもかかわらず、昨今の長引く経済不況と国家財政状況逼迫の中、学術の中心である大学等の研究環境は悪化し、大学等の疲弊により、研究の推進はもとより、人材育成にも大きな影響を及ぼし始めている。

○ このままでは、学術研究の衰退により、我が国の将来的な発展や国際社会への貢献が阻害されるとともに、これまで我が国が築き上げてきた「高度知的国家」としての国際社会における地位や存在感が保てなくなってしまう。

○ このような危機的状況を打破するため、学術分科会として改めて学術研究の振興の在り方について抜本的な議論を行い、人類社会発展への貢献の在り方や、そのために必要な自己改革の具体的方策等を提示することが、我々の喫緊の責務と考える。


(2) 学術研究をめぐる危機的状況の主な要因

(大学等の研究現場の疲弊)
○ 大学等の学術研究の現場は、近年の厳しい財政状況の中、基盤的経費の減少によるデュアルサポートシステムの歪み、人件費の減少による安定的なポストの減少、学術研究に携わる職の魅力の低下、優れた人材が学術研究を目指さなくなる等々の負の循環に陥っている。

(資源配分の偏り)
○ 短期的経済効果等を求め特定の目的を設定した巨額の時限付き研究プロジェクトの増加などによる資源配分の偏りは、上記の負の循環と相まって、研究者が内在的動機に基づき多様な学術研究にじっくり取り組むことを困難にし、ひいては研究者育成にも悪影響を及ぼしている。

(短期的経済効果をもたらすことがイノベーションであるという誤認識)
○ 短期的経済効果をもたらすことがイノベーションであるという誤認識に基づき、学術研究の成果を性急に求める傾向が、負の循環を一層深刻なものにしている。


(3) 持続可能なイノベーションの源泉としての学術研究

(イノベーションへの期待)
○ 経済の低迷が我が国の経済社会に深刻な影響をもたらしていることに加え、我が国はいずれ世界の国々が直面することとなる少子高齢化、エネルギー問題などに真っ先に取り組まざるを得ない「課題先進国」でもある。これは、世界に先駆けて課題を解決することができれば、新たな成長分野で一躍世界のトップに躍り出るチャンスを前にしているということでもあり、イノベーションへの期待の高まりは当然のことと言えよう。

(イノベーションの意味)
○ そもそも科学技術イノベーションとは、第4期科学技術基本計画によると、「科学的な発見や発明等による新たな知識を基にした知的・文化的価値の創造と、それらの知識を発展させて経済的・公共的価値の創造に結びつける革新」と定義されている。すなわち、学術研究による知の創造が基盤であり、それが充実して初めて経済的・公共的価値等を含むイノベーションが可能となる。

○ しかしながら、経済再生が最優先課題となっている今日、イノベーションは短期的経済効果をもたらす技術革新といった狭い意味で用いられることも少なくなく、このことが、いわゆる出口指向の研究に対する資源配分の偏りを強めている。

(新たな出口を創出する学術研究)
○ このような出口指向の研究は、既に見えている出口に向けて技術改良等を重ねてイノベーションを目指すものであるが、既知の出口は有限であり、それは早晩枯渇してしまう。絶え間ないイノベーションの連鎖を生み出すためには、出口のないところに新たな出口を創出したり、新次元の出口を示唆する入口を拓く学術研究により、多様で質の高い芽を生み出し続けることが不可欠である。この意味で、学術研究は、本質的にハイリスク・ハイインパクトなものであると言える。

(イノベーションにおける学術研究の役割)
○ リニアモデルでイノベーションがおこることはまれであり、入口と出口がどこで出会うかわからないオープンイノベーションの時代にあって、イノベーションのためには、社会の変化に応じた様々な需要に応える多様で質の高い学術研究という苗床、学術研究と社会とのインターアクト(知の共有と還流)、イノベーションを担う人材が必要となる。

○ 言い換えれば、学術研究により多様な芽を生み育て、重層で質の高い知を蓄積しておくことがイノベーションには不可欠であり、多様な芽を新たな価値につなげていくためには、学術研究の成果は社会に開かれたものでなければならない。入口と出口は相互補完・対流関係にあり、出口からのフィードバックで学術研究が発展することからも、社会とのインターアクトを常に意識し、社会から情報を得つつ、社会に貢献する姿勢が必要となる。そして、大学等における教育研究活動を通じてこれらを担う人材を育成することが必要である。

 

1.「国力の源」としての学術研究の本来的意義等について

(学術研究とは)
○ 学術研究は、個々の研究者の内在的動機に基づき、自己責任の下で進められ、真理の探究や課題解決とともに新しい課題の発見が重視される研究であり、基礎研究、応用研究、開発研究を含むものである。

(「国力の源」としての学術研究)
○ 資源の少ない我が国にとっての国力とは、知をもって人類社会の持続的発展、現在及び将来の人類の福祉に寄与するとともに、国際社会において地位を保ち存在感を発揮することである。その源となるのは、サステイナブルに創出・蓄積・継承・発展される新たな知と、それらの活動を通じて育成される、豊かな教養や高度な専門的知識を備えた次代を担う人材である。


1-1 学術研究の意義

(「国力の源」の観点から改めて意義を整理)
(1) 知的探究活動それ自体により知的・文化的価値を創出・蓄積(人類の本質的な知的欲求に対する新たな知見の提供にも寄与)

(2) 現代社会において実際的な経済的・社会的・公共的価値を創出(産業への応用・技術革新、生活の安全性・利便性向上、病気の治癒・健康増進、リスク対応、新概念の創出)
  
  ※上記のような価値は、当初意図しないところ(研究遂行に必要な機器の開発等も含む)から創出されることも少なくない。

(3) 豊かな教養や高度な専門的知識を備えた人材の養成・輩出の基盤
(教育研究を通じて、我が国の知的・文化的背景を踏まえ世界に通用する豊かな教養や高度な専門的知識を有し、自ら課題を発見したり、未知のものへ挑戦する学術マインドを備え、広く社会で活躍する人材を養成・輩出)

(4) 上記(1)~(3)を通じた知の形成や価値の創出等による国際社会貢献(高度知的国家の責務)・国際社会におけるプレゼンス向上 →経済・外交・文化交流等全ての礎

○ 上記(1)~(4)は、各々個別のものではなく相互に関連・作用しており、「国力の源」となっている。


1-2 学術研究の特性

(価値の創造に必要な時間)
○ 学術研究は、未知なるものへの挑戦が基軸であり、試行錯誤を伴うため、価値の創造には構造的にある程度の時間が必要である。

(学術研究に必要な能力)
○ 学術研究は、与えられた課題の解決ではなく、新たな課題を発見し、それに挑戦するもの。そのためには、セレンディピティ(目的とは違った実験結果や失敗を新しい発見やアイディアにつなげる能力)も重要である。

 

2.学術研究が「国力の源」としての役割を果たすための課題と解決の方向性

○ 新たな知の創出等と人材育成により「国力の源」となるべき学術研究が、大学等の研究現場の疲弊等により危機的状況にある。学術研究が本来の役割を十分に果たせるよう、何が課題となっているのかを検討し、その解決に全力で取り組むことが必要である。


2-1 現状と課題

(大学等の研究現場の状況)
○ 次のような状況が負の循環をうみ、学術研究の土台を担い、人材を輩出する大学を疲弊させており、学術研究の推進のみならず人材育成にも影響が及んでいる。
  ・基盤的経費の減少(デュアルサポートシステムの歪み)(人件費の減少による安定的なポストの減少)
  ・特定分野への資源配分の偏り(若手研究者の意識にまで影響)
  ・若手研究者を育てる研究体制の崩壊(スタッフ化、不安定なポスト、シニア研究者等の意識、研究職の魅力の減少)
  ・研究時間の減少(競争的資金獲得のための申請書作成、評価書等の作成時間の増加)
  ・学術基盤の脆弱化(施設・設備の老朽化、学術情報基盤の脆弱化)
  ・短期的な成果を求める傾向(論文数・IF偏重)  等

(学術研究に対する厳しい見方)
○ 学術研究は近年の厳しい財政状況の中でも一定の財政投資がなされてきたが、論文指標の国際的・相対的な低迷などその投資効果について厳しい見方も強まっている。学術研究の現場が次のような状況であるため、十分な投資効果が出ていないのではないかという意見がある。
  ・タコツボ化(分野間連携や異分野融合が進んでいない、国際的なネットワークに積極的に参加していない)
  ・人事・研究費等の既得権化(未来への可能性の観点が不十分な評価に基づく人事・研究費配分等)
  ・社会との繋がりが不十分(社会の付託を常に意識し、応えていく姿勢の欠如、発信不足)等


2-2 課題解決の基本的方向性等

(負の循環を断ち切る)
○ 学術研究の現場の負の循環を断ち切るため、国と学術研究の担い手である学術界(研究者個人、大学等研究機関、学術コミュニティ(学会等))は必要な取組を行う。

(社会への説明責任を果たす)
○ 厳しい財政状況の下、学術研究に投資された財源を真に「生き金」にするために、国と学術界は必要な取組を行う。

○ 課題解決の検討に当たっては、学術研究と社会とのインターアクト(対話、発信)に留意が必要。また、分野の特性に応じた取組や支援が必要。

 

3.具体的な取組(課題解決方策)

○ 負の循環を断ち切り、学術界が自主的・自律的に「国力の源」として研究活動を活発に行い、積極的に社会への説明責任を果たすための取組について(これまでの取組も踏まえ、さらに必要な取組を検討)

(国による取組)
  ・学術研究の意義・役割や国立大学法人化後の状況等を踏まえた成果最大化のための財政支援・制度改革
  ・各施策における意識改革促進のための改善
  ・学術研究の意義や成果等の戦略的発信(広報)の強化  等

(学術界における取組)
  ・現場レベルにおける徹底的な意識改革(個人レベル、組織レベル、学会等レベル)
   ※意識改革は制度改革等と相補的に取り組む必要があることに留意。
  ・組織改革、評価制度・人事制度、組織内資源配分等の改革
  ・説明責任をよりよく果たすための学術研究の意義や成果等の戦略的発信(広報、対話)の強化  等

(企業等による取組)
  ・博士修了者の雇用促進
  ・橋渡し研究における連携強化・投資  等

お問合せ先

研究振興局振興企画課学術企画室

(研究振興局振興企画課学術企画室)