資料2 アカデミッククラウド・データ科学の進展を踏まえた学術情報基盤整備―次期学術情報ネットワーク(SINET5)―の在り方について(審議まとめ)【たたき台】

1.社会的背景等

 

(IT戦略の重要性)

【世界最先端IT国家創造宣言について(平成25年6月14日閣議決定)】
・我が国の抱える課題解決、成長戦略の実現が求められる中で、その柱がIT戦略であり、情報通信技術(IT)は万能ツールとして、イノベーションを誘発する力を持っている。
・2001年「e-Japan」戦略の策定により、我が国はインフラ整備において世界最高水準を実現したが、現在では、多くの国の後塵を拝している。
・世界最高水準のIT社会を実現し、成長戦略を実現する必要がある。
・その際、ヒト、モノ、カネと並んで「情報資源」は新たな経営資源であり、その活用こそが、経済成長をもたらす鍵であり、課題解決につながる。ビッグデータやオープンデータに期待されるように、分野・領域を超えた情報資源の収集・融合・活用により新たな付加価値を創造する。
・安全で信頼できるサーバー空間の構築、近年、国境を越えたサービス等のネットワークの活用は一層深化しており、情報資源の十全な活用のためにはグローバルな情報の自由な流通空間の拡充等に向けて、国際的な連携も図りつつ、取り組むことが重要である。

(大学教育改革及び科学技術・学術振興における必要性)

【教育振興基本計画】
・アクティブラーニング等のための教育の質的転換として、ICTの活用に関し、近年急速に広まりつつある大規模公開オンライン講座(MOOC)による講義の配信やオープンコースウェア(OCW)による教育内容の配信など、大学の知を世界に開放するとともに大学教育の質の向上にもつながる取組への各大学の積極的な参加を促す。

【日本再興戦略】
・デジタル教材の開発や教員の指導力の向上に関する取組を進め、双方向型の教育やグローバルな遠隔教育など、新しい学びへの授業革新を推進する。

【科学技術基本計画】
・デジタル情報資源のネットワーク化、データの標準化、コンテンツの所在を示す基本的な情報整備、領域横断的な統合検索、構造化、知識抽出の自動化を推進する。知識インフラとしてのシステムを構築、展開する。
【アカデミッククラウドに関する検討会提言(平成24年7月4日)】
・大量で多種多様なデータを分析し活用するビッグデータの重要性が国内外で注目される中で、アカデミアにおいては、研究対象の学際的な進行に対して、研究データを共有する場がほとんどなく有効な利活用が成されていない。アカデミアにある膨大なデータを連携し、高度に処理・活用するデータ科学を高度化する共通基盤技術の開発やアカデミッククラウド環境の構築により、新たな知の創造、科学技術イノベーションの創出、社会的・科学的課題解決につなげる必要性が高まっている。

(クラウド環境構築と学術情報ネットワーク(SINET)整備の関係)
 大学間の学術情報ネットワークであるSINETは、これまで、研究成果の共有・流通を通して、大学等の横断的な教育研究活動を支え、我が国の科学技術・学術振興に大きな役割を担ってきている。
 大学等においては、上述の社会的背景等を踏まえ、IT環境の充実が不可欠になっているが、特に、教育研究活動の高度化と効率化を同時に実現できる効果が期待され、今後大きな普及が見込まれるクラウド環境でのサイバー空間の利活用、さらには、クラウド環境の連携による機能強化に対し、それらを支える重要な共通基盤として、次期SINET整備の在り方を検討する必要がある。

2.アカデミッククラウド環境構築の現状と課題について

(クラウドについて)
 ICTの進展・高度化は著しく、大学等の機能強化において、情報通信環境の整備に対するニーズとともに負担も大きくなっているが、その解決のための選択肢がクラウドサービスである。
 クラウドとは、様々な形で機関内に設置したサーバ等のシステムに蓄積している情報をインターネット回線を利用して、外部のデータセンターに集約して保存することをいい、情報の分散管理の一元化、システム維持に必要な設備投資の抑制、情報基盤の質的・量的高度化へ対する負担軽減、環境変化への迅速性等、多くのメリットがある。一方でアウトソーシングすることになることから、情報セキュリティの確保、サービスの継続性等に対する不安がある。

(大学におけるクラウドの導入状況)
 学術情報基盤実態調査(平成24年度)によると、全大学の55%がクラウドサービスを導入し運用しているが、そのうち59%は機関単独で実施しており、また、その内容については運営管理業務主体であり、研究・教育業務での活用は4%にとどまっている。

<具体的な活用事例を例示> 

(アカデミッククラウドの定義)
 大学等の有する公共性の高いミッションを踏まえ、クラウドの導入により単に管理運営面の効率化だけでなく、各機関の持つ情報資源を共有する環境を整備し、データや資料等の相互利用を効果的に促進することによって、教育・研究を含めた機能の総合的な高度化を図ることをアカデミッククラウドという。

(アカデミッククラウドの導入)
 アカデミッククラウドを導入することにより、得られる効果、ユーザーの期待、今後の課題、関連する留意点等は、以下のとおりである。

<詳細は、システム調査研究の成果を踏まえて記載>
 

【教育支援】
 e-learnig、OCW、MOOC、遠隔講義等、ICTを活用した多様な教育スタイルの実現、教育・学習情報のデータベース化による個別指導(eポートフォリオ)・学習管理システムの運用、教育コンテンツの共有・利活用による全国的な教育の質的向上・保証

【研究支援】
 ビッグデータ、シミュレーション科学、大規模科学等の大量データ流通を伴う最先端研究の推進(仮想空間による最適計算資源の提供、プラットフォーム・ソフトウェアの共有)、データベースのバックアップ機能、研究コンテンツの共有・利活用による研究の高度化・効率化

【管理運営支援】
 教育研究を支援する管理運営サービス(メーリングシステムや学務系システム、経費管理システム等)の仮想空間による運用、シンクライアントやBYOD等による情報通信基盤の効率化等を通じた機能強化と経費抑制の実現

【アカデミッククラウド構築にあたって留意すべき事項】

〔ネットワーク〕
 アカデミッククラウドの普及においては、大量データ流通を支える高速ネットワークが不可欠であり、そのためのバックボーンとしてSINETの整備が重要である。ネットワーク環境としては、一般的に機関間ではSINET、学内では自機関で整備したネットワークを活用しているが、学内とSINETを接続するアクセス回線の高速化が遅れていることも課題となっている。
 学内のネットワーク環境において利便性の高い無線LANについては、73%の機関が機関全体で管理・運営しており、モバイル対応による教育研究ニーズの高まりが影響している。

〔セキュリティ〕
 セキュリティ対策はアカデミッククラウドの展開において最も重要な課題である。ネットワークの運営過程において常に強化していく視点が重要であり、厳しい状況でも予算を確保し、維持していかないと今後のサーバー社会は生き残れないことを認識すべきである。調査研究の結果におけるインシデント発生経験30%というのは、残り70%は気づいていないと考えるのが妥当であり、ユーザーサイドでは守れないので、ネットワークの入口で守ると同時に大学側のセキュリティも強化する仕組みを考える必要がある。

〔認証〕
 クラウド環境を効果的に利活用するためには、機関間での認証機能の統一化、認証連携が不可欠である。NIIの提供する学認のトラストフレームを最大限に活用することが現実的であり、その普及を推進し、シングルサインオンでの利用環境の実現を図るべきである。

〔人材育成〕
 大学等の内部に、教育・研究・管理運営業務と情報基盤整備との関係を理解し、安心して仮想空間やネットワークを利用できる環境の整備を支える人材を養成する必要がある。その際、個人情報保護、機密情報保護、SLA(提供サービスの保証契約)標準化、BCP(災害時等の事業継続計画)対策等に対応できる人材も必要である。クラウドを想定した新しいネットワーク技術の導入に対して管理者及び利用者への適切な教育を実施することが求められる。

3.次期学術情報ネットワーク(SINET5)の整備について

(これからのネットワーク整備の方向性) 
 大学等のおける情報環境は、今後、通信とクラウドが一体となって高度化され、学生・研究者に必要なサイバー空間が提供されることが一般化する。
 内容に応じて、パブリッククラウド、プライベートクラウド、プライベートクラウドを連携させたインタークラウドなどの形態が想定されるが、いずれの活用においても、高速、安全、高機能なネットワーク環境への接続ニーズが拡大することは必至である。海外を含め、機関を越えた連携が不可欠であり、広範化とともに、高度なセキュリティ対策を継続的に実施することが必要になる。

(NIIの果たしてきた役割)
 国立情報学研究所(NII)は、情報学分野における大学共同利用機関として、研究開発から基盤整備、啓発活動、人材育成までをマルチに対応している。
SINETに関しては、ユーザーである大学等のニーズをとりまとめ、一元的に整備することで、高速、低価格、安全安心なネットワーク環境を提供するとともに、最新の研究開発の成果を反映させることにより、ネットワークの継続的な高度化を実現してきた。こうした対応は、他の機関や商用のネットワークでは対応できないものであり、今後のアカデミッククラウドの展開においては、更に高度な情報技術の連携が不可欠になることから、NIIの役割は増大することが考えられる。

(SINET4の現状)
 現在、SINET4では、700機関以上が参加し、約200万人以上のユーザーが利用している。回線の太さは、一番太い部分が東京-大阪間で40Gbps×2本であり、それ以外は、10Gbpsもしくは2.4Gbpsという状況の中で、冗長性を確保し、唯一東日本大震災にも耐えた信頼性の高いネットワークを維持してきた。SINET4の整備目標である最大120Gbpsの環境を実現できていないこともあり、NIIでは、大学共同利用機関としてネットワーク連携本部を設置し、大型研究や教育利用のニーズを調整しつつ整備することにより、極めて効率的なネットワークを実現し、ユーザーの教育研究に支障が出ないようにしてきている。
 また、国際共同研究等において、大型の共有研究装置を用いた大量のデータ流通が活発になっており、高速安定のネットワーク環境整備とともに、海外の類似の研究ネットワークとの接続が不可欠になっているが、商用ネットワークでは接続できないため、我が国としても相応の研究ネットワークを構築する必要がある。海外では、100Gbpsがベースになっているが、SINETでは10Gbps×3本にとどまっており、十分な回線を用意できていないのが現状である。
 また、大学における情報蓄積や流通量の増加から生じるクラウドサービス需要に応えるため、商用ベンダーとの接続も進めており、現在、10カ所を設定し、高セキュアなプライベートクラウドとしての活用も可能になっている。

(SINET5の整備)
アカデミッククラウドの普及に向けて、その基盤としてのSINETの高機能化は不可欠になる。また、スーパーコンピュータを用いたシミュレーション科学やビッグデータ解析によるデータ科学の推進、大学間の教育研究情報利用のためのプラットフォーム構築、機関を越えたオンライン教育の展開のためのデータ流通等がオープンアクセスやオープンデータの流れに乗って加速する。これらの流通をユーザーが安心して利活用できる環境を整備することが科学技術の発展、それを支える人材育成を促し、我が国の競争力を強化する上で必要であり、基盤となるネットワークの重要性はますます大きくなる。また、その実現には、セキュリティ対策、サービスの標準化・共通化が不可欠であり、これらを担当できるのは、情報分野における最先端の研究開発を実施しているNIIしかないと考えられる。

【必要な回線確保】 
〔国内回線〕
 各機関では、これまで、学内は高速、学外接続はニーズとコストを考え低速な回線整備となっている状況である。今後は、情報量の増加とクラウド環境による機関内外の境界が消失することになり、学外でも学内と同程度の高速ネットワークが必要になる。これらの需要増に対応するため、SINET5では、専用線を確保するのではなく、通信会社が使用していないケーブルを活用するダークファイバーを使用する方法への転換を図る。ケーブル単位で借用することから、情報量にあまり影響を受けず安価で太い回線の確保が実現できる。従来、各機関の接続回線をつないで中間とりまとめ的なノード校を通じてSINETに接続していた方式を改め、SINETに直接接続するインターフェイスを設け、各機関からダークファイバーを活用して、ノード校を経由せずにつなぐ方式にする。アクセス回線は各機関負担であるが共同調達により経費を節減し、その結果、学内からSINETを経由して他機関やデータセンターまで高速を維持することを可能にする。このダークファイバーの活用は沖縄以外で可能であり、沖縄との間では従来同様の専用回線が必要となるが、ほとんどの国内環境では100Gbps単位のネットワーク整備が効率的に実現でき、広範な高速ネットワークを構築することができる。

〔国際回線〕
 最先端の研究開発においては、大型の研究装置や大量データ共有による国際共同研究の進展により、国際間のネットワーク増強が必要な状況にある。既に諸外国の研究ネットワークは100Gbps規模の増強が進んでいることから、我が国においても対等な環境整備が求められている。
 また、欧州間については、北米経由で流通していることからデータ利用に遅延が生じてきており、シベリア経由の回線整備が望まれる。


<具体的な数値目標について今後追記>

【最新ネットワーク技術の導入】
 SINET5では、安全安心のクラウド環境を提供するネットワークを整備するため、ネットワーク利用におけるセキュリティ強化をクラウド化する。IDSという侵入検知システムをクラウド化し共通化することにより、中小大学もネットワークにおけるクラウド環境を維持することが可能になる。
 セキュリティと合わせて重要になるのが個人を同定してネットワークを利用できるようにする認証の仕組みであり、NIIが整備する認証連携フェデレーションである「学認」により、これを標準化し、共通仕様とすることにより、学外のクラウドサービスにもシームレスにアクセスできるようにする。
 更に仮想ネットワークを実現するため、最新ネットワーク技術であるSDN(ネットワーク構成を需要に応じて柔軟に変更する技術)とNFV(セキュリティ機能をクラウド上の汎用サーバに実装し、コスト削減を図る技術)を用いて高効率で高セキュアな環境を整備する。

【コンテンツの利用環境】
 情報資源は貴重な資産であり、大学における教育研究成果の流通促進も極めて重要であることから、各機関の教育研究成果等を蓄積した機関リポジトリの構築を推進している。NIIでは、機関リポジトリをネットワークで連携するJAIROを展開するとともに、機関リポジトリのシステムをクラウド環境で利用できるJAIROクラウドサービスを提供している。大学等がJAIROクラウドを活用することにより、コンテンツの標準化が進み、流通の促進が期待できることから普及を進める。
 今後は、大学等の情報公開ニーズの高まりも踏まえ、論文等の研究成果だけでなく、書籍、データや講義、教材といった教育研究活動に関わる様々なコンテンツが機関リポジトリに蓄積され、発信されるようになると考えられ、それらを情報資源として、大学間で共有、利活用する仕組みを一層強化する必要がある。そのため、現在、コンテンツのメタデータを整備し、ディスカバリー機能を提供しているCiNiiを高度化し、SINETを介してコンテンツ間の連携を図り、知識基盤としての共有を推進する。

【Cloud Gateway機能の整備】
 このような大学の情報資源の効率的活用につながる多様なクラウドサービスの利用を加速するため、大学とNIIが協力し、商用ベンダーとも連携して、利用できるクラウドサービスをネットワーク上でメニュー化し、ポータルとして整備することにより、各大学がカスタマイズして、シングルサインオンで様々なサービスを利活用できる環境としてクラウドゲートウェイの実現を図る。これらの取組は既に欧米で進みつつあり、大学等がニーズに合ったクラウドを適切に導入する上で、効果的に機能するものと期待される。

<SINET5整備のロードマップを今後追記>

4.まとめ

我が国が高度な科学技術に依存し、ボーダーレス社会、グローバル化が進展する中においては、大学等が国際競争力を保って、優れた教育研究の遂行に支障なく取り組める ネットワーク環境整備が必要であり、こうした取組において、各大学等が独自に行うではなく、大学共同利用機関としてのNIIが一元的に対応することでコスト削減と機能強化の一体整備が可能になっていることを改めて認識すべきである。その上で、国はアカデミアにおいても世界最高水準のIT環境実現のため、次期SINET構築に向けた整備を着実に実施する必要がある。各大学は、共有する最新ネットワーク環境のメリットを生かし、教育研究の高度化につながるアカデミッククラウドを効果的に導入することにより、それぞれのミッションを踏まえた機能強化を図り、社会貢献を果たすことが求められる。

お問合せ先

研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室

首東、佐藤
電話番号:03-6734-4080
ファクシミリ番号:03-6734-4077
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