第7期研究費部会(懇談会) 議事録

1.日時

平成25年6月26日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3階1特別会議室

3.議題

  1. 科研費等における研究活動の不正行為防止のための取組について
  2. 我が国の論文生産への科研費の関与状況等について
  3. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,髙橋委員,柘植委員,金田委員,谷口委員,上田委員,山本日本学術振興会学術システム研究センター科研費ワーキンググループ副主査,佐久間日本学術振興会研究事業部長,富澤科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室長,市川信州大学医学部特任教授

文部科学省

袖山学術研究助成課長,山口学術研究助成課企画室長,生川振興企画課長,佐藤科学技術・学術政策局基盤政策課人材政策企画官,他関係官

【佐藤部会長】
 ただいまから学術審議会学術分科会研究費部会を始めたいと思います。
 初めに,本日の会議は事前に第4回研究費部会として御案内を申し上げておりましたが,残念ながら出席人数が足りない状況となりましたので,正式な部会としてではなく懇談会という形式で進めさせていただきたいと思っております。
 ただし,議事,会議資料及び議事概要の公開については,通常の部会と同様にさせていただきたいと思います。よろしゅうございますか。

(「異議なし」の声あり)

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。それでは,議事に入っていきたいと思います。
 この初めのかがみにありますように,本日は大きな二つの議題がございます。第1は,科研費における研究活動の不正行為防止のための取組についての議論をしてまいりたいと思っております。その際,関連する先進事例としまして,信州大学を中心とした研究者育成のための行動規範教育の標準化,これについての取組事例を信州大学の市川先生より御紹介いただくことになっております。
 第2の課題は,前々回まで議論しておりました我が国の論文生産における科研費の果たしている役割について,更に進めた議論をしたいと思っております。

(1) 科研費等における研究活動の不正行為防止のための取組について

 事務局より資料2,参考資料1及び参考資料2に基づき説明がなされ,市川信州大学医学部特任教授より資料3に基づき事例発表が行われた後,意見交換が行われた。

【佐藤部会長】
 科研費は随分いろいろ改革があり,使用についてのミスに近いようなものは少なくなっているとは思いますけれども,研究全般についての不正な研究,そのあたりの問題も残っているわけです。
 それでは,本日は信州大学医学部特任教授の市川家國先生からお話を聞くことになっております。信州大学を中心として,研究者育成のための行動規範教育の標準化に向けたCITI Japan,シティ・ジャパンと呼ぶそうでございますけれども,この取組についてお話を頂くことになっております。
 この取組はアメリカにおいて実施されている競争的資金申請の前提として受けることが義務づけられている研究者の行動規範学習のためのCITIプログラムを参考として,我が国における研究者の行動規範教育の標準化を全国展開することを目指している取組と伺っております。
 それでは,市川先生,どうぞよろしくお願いいたします。

【市川特任教授】 
 それでは,早速始めさせていただきます。
 資料3に従って,概要(Power Point 4)からお話しさせていただこうと思います。 まず,CITI Japanプロジェクトの背景ですが,研究分野での不正行為が日本に限らず世界で存在しているが,欧米では取締りではできかねるということで,重点が教育へ傾いている。そして,そういう教育の機会というものが日本にはないというのが背景です,私どもは大学院・研究機関での国際標準を満たすe-learningというものを使ったプロジェクトを始めました。小さい規模として数年前から始めたのですが,今回は文科省の大学間連携共同教育推進事業に応募し,昨年度から支援のもと,本格的活動を開始しました。
 御存じのとおり,この教育推進事業の募集に当たっては,一つの大学が参加できるのは三つの事業までという縛りがありました。その中で,「倫理」といったテーマでは,大学内の他のプロジェクトに比べてのプライオリティという点で,なかなか大きな大学が連携校として参加する余地はなく,比較的規模の小さい大学が集まって始めたものが私どものプロジェクトです。一方,大きい大学にはそれなりの専門家が個人としておられるので,教材作成に当たっては一人一人をリクルートして,全国的な人材規模で作成に当たった,と言えるのではないかと思います。
 一方,私自身が米国の教員をやっているということもありまして,米国の教材を参考に,日本化した草稿を作成し,後ほどお話ししますけれども,さらに,教材にいろいろな専門家の意見,さらにはパブリックから意見を取り入れてネット化したものを配信するということでございます。
 一方では,教材の存在を皆様に知っていただいて全国的な展開にすることを目指しています。それは,各地でそれぞれ違う内容を教えているというのでは国内標準化はもとより国際化というものにならないわけです。
 もう一つの大事な作業は,米国発のオリジナル教材の作成に参画するということ。三番目は,グローバルな運動を日本,米国が一緒になって世界に広げていくということでございます。
 ここで,我が国の国内における種々の報道は別にして,研究上の不正行為に関して我が国の状況が海外からどのように見られているかという点に触れておきましょう。最近,JSTの方自身が「頭を抱えている」,として私どもに示されたNatureの記事があります。記事は,「研究者のミスコンダクトに対するJSTの無頓着ぶりは世界記録を更新したようだ」,と伝えています。では,実際に他の国と比較してどの程度かという客観的な比較ですが,これには御存じのとおり,既に発表された論文の取下げ数という指標があります。日本はこの点において世界で3番目,米国,ドイツに続きますが,これはこれらの国における発表論文数全体の多さも反映しています。そこで,取下げ率ではどうかという問題ですが,これを比較した論文があります。
 その論文は,米国は1,000本に対して0.6と,アジアの国とさほど差がない,としています。米国のこの高さの背景には留学生が多いという状況があるのかも知れません。この論文に掲載された日本の数字。それを他と比較して感じられることは,日本発の研究成果というのは,言わば「日本車の品質が中国車やアメリカ車と同じ品質に見られている」,といった状況にあるのだな,という憂うべき状態です。
 では,ミスコンダクトの率とは別に,ミスコンダクト防止に向けた「教育」に関してはどうか。米国では過去10年間,この面で,飛躍的な活発化が見られました。この面での我が国の海外評価はどうでしょう。これに関して,米国政府の方でCITI活動に参画している方が,私にじかに発言されたことがあります。「教育を日本ではやっていないではないか」と(PPT5)。この方が世界各地に出向いて講演する際に提示するスライドの一つがこれです(PPT6)。その中で,日本の方々は楽観的で自信過剰のようで教育していない,と伝えています。アジアのいろいろな国と比べて,我が国をこのように評価しているというのが現状です。事実はどうかということとは別に,そのように捉えられているということはそれなりに問題があるでしょう。
 では,米国における取組の内容はどのようなものでしょうか。米国では研究公正局という部署が,従来不正行為の取締りに重点を置いてきましたが,職員10人ではとても取締りが不完全で,これによって効果をあげることができない,ということで,教育に重点を移してきたというのが,ここ10~12年の動きです(PPT7)。
 3年ほど前に,米国政府は教育すべき内容についてもかなり具体的な提示を行うに至っています(PPT8)。いわゆる研究者の行動規範教育というものを,4年ごとに8時間以上,学部学生に始まって,新任教員に至るまでやらなくてはいけない。しかも,Web教育に加えてそれ以外のものということになりましたから,かなりのものだということです。
 実際の教育項目に関しては,パブリックコメントを十年以上前に求めたということもあり,既に決まっています(PPT9)。その中で特に学習者の評価手段を持つべし,としていることが特徴的です。
 さて,研究における不正行為という問題は世界的な問題で,3年ほど前からワールド・コングレス・オブ・リサーチ・インテグリティ(研究の公正性に関する世界会議)という国際学会ができました。第3回会議が今年も開かれましたが,第2回会議には私も参加しました。その中で,アメリカでは全米各地の教員からなるNPO団体が作成した「研究者の行動規範」に関する教材が,ほとんど全ての大学で使われているという発言があり,一方,イギリスでは企業ベースで,10施設で同様な学習が始まった,という発言もありました(PPT10)。後者は,その後,第3回の会議までに,ほぼ英国全土に広がった,とのことです。
 では,このアメリカでの教員NPO団体の教材とはどのようなものか,またそれがどのように使われているか,ということを説明させていただきます。ここにリストしたものは,ハーバード大,MIT,スタンフォード大,などの代表的な大学あるいは研究所のホームページのサイトで,ここから教材へと進むことができます(PPT11)。ここにその一例として,実際のMITのホームページを示しますが,画面の下部にCITIという文字が出ています(PPT12)。これを学習者がクリックすると,教材サイトへと誘導されることになっています。次に示すハーバード大でも同様です(PPT13)。
 これはNASAのホームページですが(PPT14),その中にもこのようにCITI trainingサイトというものがあり,そこには研究審査申請書を提出するに当たっては「CITI教材を学習すること」,そして「申請書には修了証書を添付すること」,との記載があります(PPT15)。
 このようにネット上のツールとして,教材が多くの研究機関・教育機関で使われていると御認識いただけると思います。
 一方国際的な研究,殊に地球を回る軌道に人間を乗せる,といった研究は人体実験というべきものですから,NASAでは倫理教育の大切さを認識し,各国の共同教育者にも倫理教育を求めています。我が国のJAXAに対しては,CITI Japanの教材を学習するよう指示しています。
 どうしてアメリカがこのようなことをほかの国にも要求できるか,ということですが,例えば,もし共同研究している我が国の研究者が倫理の学習をしなければ,アメリカの研究者が研究できなくなる,というルールがあるためです。
 実際にCITIサイトへのリンクボタンをクリックしてみますと,そのホーム画面が現れます(PPT16)。これが個人個人の学習者に当てられた画面なのですが,その右上の「language」を開きますと9か国語訳が選べるようになっています。「Japanese(日本語)」以外の,ほかの言語のものは全て,いわゆるインターナショナル版といってアメリカの法律などを取り除いたCITI教材の各国語訳なのですが,「Japanese(日本語)」はそれだけでなく,日本の法律,日本の指針というものを取り入れて非常にユニークな存在です。
 次に,CITI教材がどのように利用されているかという点です(PPT17)。CITI団体が2000年に発足した当時はまだ小さな団体だったのですが,今では,その作成する教材が,全米の大学ランキング100あるうちの99の大学で使われるようなものに成長している。利用状況では,10月1日に始まる1か月半の間に95万6,000人が使った,ということですから,これは単に生命科学系だけではなく理工系の大学でも使っているということです。2000年に発足したとはいえ,各地で広く使われるようになったのは2005~2006年ころからなので,その前に我が国から米国留学から帰国されてしまっている方々などは,恐らくCITI教材の存在を知らないということであろうかと思います。
 CITIの全体会議は,1年に1度ほど開かれ,今後の活動方針,教材内容の検討を行います(PPT18)。会議の場は,研究者という現場の者と倫理あるいは法律の専門家という意見の隔たりのある者同士が妥協を求めて議論する場であり,そういった議論を踏まえた教材であるからこそ,広く教材として受け入れられるに至ったと理解されます。
 CITIには教材の領域,さらには単元ごとにグループが編成されているわけですが,その中の一つにインターナショナルチームといってグローバルな教材を作成するというグループもあります。
さて,我が国の現状を振り返りますと,日本学術会議は今年,8年振りに研究者の行動規範に関して新しい声明を出しました(PPT19)。そこには我が国の現状分析と教育の重要性も盛り込まれていると理解しております。実際に,これに沿うように研究者の行動規範教育に関するシンポジウムが日本学術会議主催で今年の2月に開かれております(PPT20)。シンポジウムでは現在進行中のプログラムとして,私どものものの他,東北大学と早稲田大学からのものが発表されています(PPT21)。それぞれは対象,目的,方式が異なるところがあり,現在はまず,私どものプロジェクトと東北大学が協力し合える接点を探しているところです。
 さて,我が国においての研究者主導による米国,あるいは英国同様の動きとして紹介するのが今日,私が紹介するCITI Japanプロジェクトです。先ほど紹介したCITIサイトの”Language”中の”Japanese(日本)”を開きますと,ここに示すCITI Japanのホームページが出てきます(PPT22)。ここから先の操作方法ですが,まず,個人のユーザー名,パスワードを入れてログインしますと,まず,この学習者個人画面が出てきます(PPT23)。そこには,研究者個人に対し所属する研究機関が義務としている学習教材,及び任意としている学習教材が示されます。
 更に「受講」というものを開きますと,実際の教材(「単元」と申します)のリストが出現します(PPT24)。データの扱い,オーサーシップ,ピア・レビューといったものです。リストの一番下には公的研究費の取扱い,科学分野のミスコンダクトというものもあります。そして,これらの単元の一つをクリックします。
 例えば,「科学分野のミスコンダクト」の単元を選んでクリックします。すると,いよいよ教材が出てきて(PPT25),「アイザック・ニュートンやグレゴール・メンデルやルイ・パスツールの研究データというのはきれい過ぎる。データを取捨選択して少しきれいにまとめ過ぎた面があるのだ」,というような話が始まります(PPT26)。最近のハーバードにおける不正行為の事例だとか,我が国での事例も教材として語られていきます(PPT27)。
 ただ,我が国における不正の事例を紹介することに非常に難しい面があるのは,我が国の場合は,司法の場に登場することが極めて少なく,新聞記事を掲載するといったことになり,正確性に難点があります(PPT28)。
 次はいわゆる内部告発に関する教材の一画面です(PPT29)。我が国にも公益通報者保護法がありますが,これは研究者一人一人に対して,「内部告発をするのには,やはり手順を踏むことが必要である」ということを教育します(PPT30)。やたらと上の方・・・文科省,政府・・・に訴えるのは非常に困りもので,適切な解決への道を拓(ひら)くものではなく,内部での対応をまず求めるというルールは,やはり学んでおいていただかなければいけない,こういうことでございます。
 こういった具体的なやり方についてはなかなか書かれたものが我が国にはないので,米国のものを参考にする。言ってみると,足りないものは積極的に輸入するというような姿勢で教材が作成されていると御理解いただければよろしいと思います。
 教材の末尾には,クイズが設けられております(PPT31)。5題ぐらいあるのですが,多肢選択式です(PPT32)。それぞれ自分の選択肢を選んで,最後に送信しますと(PPT33),正解と得点が返信されてきます(PPT34)。所属する研究施設が設定する合格点数を得ていれば,単元リストの中の今,学習し終えた単元の部分が「未完了」から「完了」になっています(PPT35)。こうして,義務とされている単元の全てを完了すると,自分に与えられた義務の教材を終えたということになるわけです。
 この,ネット上の教材指定-配信-成績管理のシステムの中で(PPT36),学習者の成績を管理する部署は,学生の場合は大学の中にあるのが通常ですが,研究者の場合はファンディング・エージェンシーにあってもよいと思われます。そういった部署は,その管理する学習者が学習すべき教材を,サーバーに集積された教材の中から選択します。そして選択された教材がサーバーから個々の学習者,学生に配信されていきます。学習者は教材を学習した後,それに続くテストに回答すると,成績がサーバーで自動的に処理されて,個人に成績が通知されると同時に,学習者全員の成績が一括して,管理部署に届きます。こうして,倫理委員会も各研究者等の履修状況を把握することになります。
 作成された教材には,我が国独自のものもあります。例えば放射性物質の取扱いに関する教材です。放射能安全対策といった課題については,米国では州ごとにルールが違うものですから,私どもにとって参考になるものが存在しないという状況があります。私どもは福島の原発事故以来,放射能による健康被害対策で中心的な役割を担われた長崎大学教授・山下俊一先生とその知己の方々にお願いして,独自の教材を作成しています。一方では,他の多くの領域については,米国CITIに既に存在する教材を翻訳するなど参考にしながら,まず我が国の法律・指針・文化・歴史というものに置き換えていく作業を行います(PPT37)。そして,教材の領域ごとの専門家による査読,これは全国的に応援を仰いで行います。この過程で修正が加えられた後,CITI本部による査読のプロセスへと送られます,これはグローバル性を担保することが目的です。このCITIによる査読の過程で教材の一部について説明を求められることがありますが,修正を求められたことはありません。教材はその後,いよいよネット上に掲載され,利用に供されるわけですが,非常に大事なことは,教材作りはここで終止符が打たれるわけではなく,利用者等から御批判を頂いて,改訂を繰り返し,それを通じて「我が国の教材」としての質を高めていくわけです。
 CITI Japanプロジェクトのもう一つの作業,それは我が国用の教材を作成・配信を行うだけではなく,オリジナルのCITI教材作りに参画するということです。その第一歩として,我々のグループは昨年の11月2日にマイアミで行われたCITIの全体会議に出席しています(PPT38)。
 CITI Japanプロジェクトは更に三つ目の活動があります。それは私どもが開始したような各国の環境に則したグローバルな教材づくりを世界展開する・・・その運動をまずアジアの国から始める(PPT39)。つまり,単なる「米国流」を削除したインターナショナル版にとどまらず,アジアそれぞれの国に受け入れられるべく,その土地の法律,指針等を教材に組み入れる運動を広げるというものです。つまり,CITI Japan プロジェクトは,教材の作成と配信に加えて,グローバル教材の作成協力,その拡販という活動をしよういうことでございます(PPT40)。
 最後に,私の説明不足から多くの質問をお持ちかと思います。ここに掲げたものだけではないと思うのですが,典型的と思われるものをリストします(PPT41)。
「倫理はマンツーマン,フェース・トゥ・フェースで教えるものではないか。」
 もっともな話です。一方,私どもの目標は,まさにその際に必要な世界共通の基本的なボキャブラリーを提供すると考えていただくのが良いと思います。例えば利益相反,知的財産,オーサーシップ,といった言葉は(PPT42),我が国へ輸入され,定着したのはごく最近ですが,多くの方々はその都度その都度の都合によってそれらの概念の一部を利用しているだけで,基本的な概念を勉強する機会がなかなかありません。CITI Japanの教材はその機会を設けるということであります。「倫理教育はフェース・トゥ・フェースであるべき」という場合,「倫理」とは「良識」のことを大部分意味しておられるのではないかと思います(PPT43)。そういった良識教育というのは,もっと低学年で行われているべきもの,あるいは現場でやるべきものだと思うのですが,それとは別な,今日必要な「世界の常識」という範疇(はんちゅう)に入ってくるのがオーサーシップとか利益相反とか言うもので,これらはつい最近注目され,定着した概念であって,「良識」とは別の次元のものと思われます。「良識」は現場で,あるいは直接教えていただきたい。あるいは低学年で是非教えていただきたいということでございます。
 「”なりすまし”などの不正行為が起きないか。」
 これはいわゆる講習会をやっても,携帯などをあらかじめ他の人に頼んで講習中に鳴らしてもらって,退席する・・・そんな方もいる,ということに似ていると思うのですが,もし「なりすまし」を防ぐことが本当に必要,あるいは「ウチの学生はどうも信用できない」,というのであれば,検定試験をペーパーと言った形でやっていただければいいことではないか,と思われます。
 「CITI教材はもともとアメリカのものではないか。」
 そうなのですが,我が国でゼロから始めるとなると,なかなか議論がまとまらず,出発点が見つからないのではないかという,懸念があってCITI Japanプロジェクトが開始されています。CITI教材利用が今日ではインターナショナルになりつつあり,教材の内容自体が研究者の行動規範の世界標準になりつつあるという時点では,ここを出発点にすることでよろしいのではないかということでございます。いろいろな施設,いろいろな国で使っているというところに意味合いがある,と考えています(PPT44)。
 「日本標準はどのように担保するのか。」
 これは非常に大切な問題です。私どもとしては,教材作成に当たってのガバナンスの透明化,可視化をするということと,パブリックコメントを求めるなど,社会一般の意見を反映させることをするわけですね。そして,利用者等の意見に耳を傾けて継続的に改訂するというプロセスを保つ・・・それがこの大切な問題への取り組みです。
 ここにガバナンスの大まかな図を示します(PPT45)。教材作成作業は,米国からの教材を和訳するというところに始まります。図中の白抜きのステップは6大学中の関係者で行うものです。日本の学生・研究者を対象とした教材とは別に,その教材を英語化したもの,も作成します。これは30万人の日本に来る留学生に対して,日本のルールを教える必要性に基づいたものです。私自身,講習会で日本の学生と外国人留学生を同時に教える,という任務を担ったことが何度かありましたが,スライド,配布資料,しゃべり方を工夫しても,なかなかうまくいかないものです。彼らにはやはり英語版の「日本教材」を与えないといけない,という課題があるわけです。このピンク色のステップは外部の専門家の方々で構成されるもので,査読を通じて,日本の指針,文化等を盛り込む上での正確な専門的知識を注入していただく。それからもう一つ,先ほど言いましたように,なおかつグローバル性を担保するステップが設けられています。
 さらに,外部識者からの意見,学習者,利用機関からの意見を求めるべくユーザーミーティングなどを開いて,意見を採り入れるということ。そして社会一般からの意見をくみ取る。特に公式なパブリックコメントを求めるという仕組みも設けてあるわけでございます。
 「世界標準と国内標準は相入れないのではないか。」
これは,そこで出てくる当然の疑問ですが,倫理を教える,というのは「考え方」を伝える,ということですから,異なる考え方があれば,併記しておけば良いということでございます。
 「なぜこの6大学なのか。」
 それは,冒頭に申し上げましたように,文科省からのプロジェクト募集に際しては,一つの大学が三つまでのプロジェクトに主幹あるいは連携できるという条件がありました。そうなると,国立大学の大きいところなどでは,どうしても他のプロジェクトに対して「倫理教育」というのはプライオリティの点で譲らざるを得ない。そういった中で,6つの比較的小さい大学が集まってプロジェクトを形成したということでございます。連携を組むに当たっては,それぞれの大学の特徴,例えば上智大学や沖縄科学技術大学院大学といったプロジェクトの中で自学の特色を生かせる大学が集まったという次第です。一方,大きな大学からは個人レベルで専門家に査読等で協力してもらうことで,教材作成は全国規模となっています。
 文科省からの支援が終了する際には,CITI Japanプロジェクトは米国CITIと同様なNPO組織への移行を計画しています(PPT46)。それは,活動を継続していく上での必須事項と考えています。国からの支援には頼らず,教材の利用者負担で行おうというものです。既に,これまでも,ネット環境の構築から運営まで,テクニカルな面はNPOに委託しており,支援の終了後はそのNPOを通じて利用者・利用機関からの,公的研究費の間接費の一部を拠出する形での利用料に頼って継続していこう,と考えております。その点に関しましては,米国では1万人の学習者をかかえる大学・研究機関に対しても年間20万円というような利用料でCITI教材が利用されています。利用者が増えれば増えるほどNPOの運営は成り立つわけで,CITI Japanは4年後までに,利用者が十分に広がることを期待しているということでございます。 最後の方になりますが,科学技術振興機構(JST)が試験的に今年度から利用を始めるということの御紹介でございます(PPT47)。
 これはJST経由の公的研究費に採択された方の義務として試験的にCITI Japan教材を利用するということです。我が国の場合,研究者が所属する大学・研究機関によっては,ネット上で学習者の成績管理を行う,という部署を持たないところもあるので,成績管理については,JSTが一括担当するとし,受講科目もCITI Japan教材の中から決めていただいています(PPT48)。
 「ミスコンダクトがこれで減るという証拠があるのか。」
 これは,最も重要な点ですが,率直に申しまして,CITI自体も認めているように,データは不足しています。一つ,言えることは,研究者の姿勢を社会に示す,また国際社会に示すという意味合いがあります。さて,これはCITIが学習者を対象にして行ったアンケート調査5万7,757人のデータの一つです(PPT49)。その質問は,「あなたは,“今,終えたCITIの学習コースは,私が今後よりよい研究をする上で役に立つと思う”という見解に同意しますか?」というもの。これに対して,大いに賛成するという人が約3分の2という結果です。そういう意味で,学習者自体が研究を行う上でCITI教材の学習は重要なことだと感じているということが言えましょう。
 最後に資料としてお出しするのが,現在から将来にかけての予定を含めた教材リストです(PPT50)。この中にリストされていないのが理工系の教材ですが,理工系の教材についても非常に多くの希望が寄せられています。欧米においても,行動規範教育が一般化するのは,喫緊の必要性を感じている生命科学系における教材作りから始まっています。CITIからは,数年前から理工系向けの教材も提供されており,CITI Japanプロジェクトは理工系の教材作りに必要な,人脈作りに向けて作業に入っている段階でございます。

【佐藤部会長】
 市川先生,どうもありがとうございました。
 大変すばらしい取組の御紹介を頂いたわけでございますけれども,それでは,皆様から御質問,コメントをお受けして議論を展開していきたいと思いますが,いかがでしょうか。
 市川先生,これはもう既にNPO法人になっていますか。

【市川特任教授】
 文科省の支援が,今年度2年目で,全5年間で終了しますので,その段階でNPOへと。つまり,その時点で利用施設が十分に増えていれば,というふうに希望しています。

【佐藤部会長】
 今は大学連携でやられていると。

【市川特任教授】
 いわゆるアカデミックな教材作りに大学連携及びほかの専門の方と,原稿を作るところまでそこで行い,そこからネットに載せるなどの作業はNPOでやっている,こういうことでございます。

【佐藤部会長】
 ですから,今もう既にNPOはあるわけですか。

【市川特任教授】
 はい,存在しております。

【佐藤部会長】
 それを例えばJSTが使うとか,使用義務をつけるとかしているということでございますか。

【市川特任教授】
 はい,結局そういうことです。

【佐藤部会長】
 大ざっぱに1年ぐらい前のことですが,まず中南米,これはかなり米国のものを全面的に使っている。その主な理由は,いわゆるNIHの科研費と関連しているためにそういうふうにしている。アジアでは,教材を一番多く使い始めているのは韓国です。例のクローニングのことで国のメンツがつぶれることがあったのでそういうことをやっていると思われます。
 それから,全面的に使っているのは,御想像のとおりシンガポールあるいは台湾。台湾が非常に多いですね。中国では北京大学と,たしか上海大学といった学生・研究者が多いところですが,中国というのは御存じのとおり余り統一がとれていないような国なので,なかなか広げるのは難しく,政府が前面に出てこれを取り入れようとしている,というのを最近の動きとして聞いております。
 ヨーロッパの中では,東ヨーロッパに,CITIを採用しようという流れがあるのですが,EUでは,イギリスが,先ほど御紹介したように企業ベースで作ったものを全国版に使おうとしています。あとの国は,国それぞれ別々にやろうとしているのではないかと私は理解しております。あるいは,中にはまだe-learningというレベルではないものもあるかもしれません。EUというのは一つにまとまるというのは,御存じのとおり非常に難しいところで,その辺が鍵かなと思っております。

【佐藤部会長】
 イギリスは会社ベースということなのですけれども,ほかの国は政府が直接関与しているのか,やはりNPOなどの任意団体が加わっているのですか。

【市川特任教授】
 韓国は,ソウルカトリック大学が。そこは医学部としては一番大きいところだったので,そこが全国展開を始めるに当たって国が支援しました。当初はCITI教材をもとに教科書作りから始まりました。そして,e-ラーニングへと移行し,私が知っている2年ぐらい前には,既に5,000人の学習者がいたので,うなぎ登りで増えている,という状況です。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。
 全体の概要はそのように進んでいるようでございますけれども。

【柘植委員】
 正直言ってここまでやらざるを得ないのかなという感想がありますが,私自身,どちらかという理工系でありまして,17ページのCITI教材利用状況を見ると,先生もおっしゃったように,この数からすると,理工系も相当もう既に使われていると。多分ライフサイエンス系と共通のところも当然あるのですけれども,何を理工系の場合,研究者というか,技術者の育成も実はあるわけですけれども,彼ら,彼女らは,社会に出ていくと,今度は社会の中の技術者としての倫理をいかに生涯保ってくれるかということの教育の視野も私は問題だなと。
 たとえが適切かどうか分からないですけれども,やはり私は福島の問題なども,社会人の中の技術者倫理の問題が今までのままでいいのかという問題意識を持っています。その辺の視野で,今先生のお話を聞いて,理工系の中でライフサイエンス系プラス何かを教育の中で入れたらいいのか。それはこの試験の中で入れるのか,あるいは理工系の学部教育,大学院教育の中に埋め込んでいくべきものなのか,そんなふうに整理しなければいけないと,まだその発想しかなくて,先生,何かその思いがもしございましたら教えていただきたいと思います。

【市川特任教授】
 先生,ありがとうございます。先生には,すぐにでもお手伝いいただきたいという気持ちです。私たちも,以前から理工系の先生方と話すと,やはり文化が少し違うなと,感じております。ですから,信州大学をはじめとする6大学で今までやってきた方式・・・上から下へという,と言うとおかしいのですけれども・・・をそのまま理工系に当てはめて,この6大学でまとめようという意識はなく,代わって全く別の組織を作っていただいて,私どものやったノウハウを伝授する。そういう方が現実的であろうと思います。
 率直に申し上げて,私自身が経験したように,学生や研究者は「今までやらされなかったことをやらされる」という意識を抱く。学習者は非常に腹を立てているところから始まるわけです。そういう方々に対して行動規範の理屈を分かっていただくという目的を果たす上で,教育上のレトリックというのもありますので,そのようなものを提供するというのが現存の6大学組織となるでしょう。あとは理工系の方々にそれなりの組織を作ってやっていただく,そういうことだと思っています。我々自身が取り仕切るとか,そういう意識はありませんが,米国のCITI教材は,そのときには出発点として参考にはなると思います。日本の現状と見比べながらやっていただければ良いことではないかと思っております。

【柘植委員】
 ありがとうございます。

【佐藤部会長】 

 米国などでは,理工系については,何かそういう進歩はあるんでしょうし,進められているのでしょうか。

【市川特任教授】
 米国の理工系の教材ができたのが,わずか7年ぐらい前です。ですから,理工系というのはどちらかというと遅かった。私どもも,この生命科学系の教材を作り始めたときに,理工系の方にも声をかけました,理工系の状況を知らずに。でも,やはり興味がある方は本当に少なくて,なかなか組織的な動きにならなかったというのが実際でした。でも,今では必要とする声はもっと大きくなっていると思います。

【佐藤部会長】
 もともとは,これは生命系で始まって,US Department of Health & Human Serviceですか,ここから出ているのですけれども,そうすると,アメリカのCITIプログラムそのもののサイトとか,そういうのは政府ではなくて,何か任意団体のホームページになっていますか。

【市川特任教授】
 これこそNPO団体で,全国の教員を集めた,いわゆるボランティア団体ですね。我々が一番初めに目指したのも,アメリカと同じような組織でした。一つには,いわゆる政府資金に頼り切った場合,いつ途切れて,そこから先があるかないか分からない,というような状況になってしまいますから,NPO組織で始めようとした次第です。当初の立ち上げ資金の課題がありましたが。
 アメリカの場合は,NPOを大学の中に作るということができるのですが,日本にはそういうシステムがなかったので,外に出して始めた,そういうことです。

【佐藤部会長】
 理工系は,大体必要なことはカバーされてできているわけですか,テキストなどは。

【市川特任教授】
 理工系はこれからでして。

【佐藤部会長】
 アメリカでもそうですか。

【市川特任教授】
 現在は教材作りのための人脈作りを行いつつあるところです。

【佐藤部会長】
 作りつつあるということであれば,随分昔に参加したとはいえ,そういうものはできていなかったということですか。

【市川特任教授】
 理工系はまだ・・・ということで,先生にお手伝いをいただければと思います。

【柘植委員】
 私,工学系の学会を束ねている,日本工学会ですけれども,その中でも技術者倫理は,今までもやっているのに,やはり社会に出た技術者たちは,本当にそれを守っているかというと,今までの単なる技術者倫理という話のドメインではないのではないかという,そこの課題性までは来ていまして,その辺の活動と各学会もそれを独自にやっていますので,市川先生の今のサジェスチョンは,何とか学ぶことがないかという視点を理工系の中に少し注入していきたいと思っております。ありがとうございます。

【谷口委員】 
 ちょっと私,最初どういう議論がされているか知りませんので誤解があったらお許しいただきたいのですが,この研究費部会で何を議論するのが目的なのかというところなのですが,資料2を拝見しますと,科研費の不正に関しては,いろいろな取組,ルールの徹底など行われていますと書いてあるわけですね。これについて科研費のルールを変更するかしないかということを研究費部会で議論するために今日こういう議論をしているのか,一般の勉強をしましょうと言っているわけでは恐らくないはずなので,ちょっと誤解のないように教えていただきたいのですが。

【佐藤部会長】
 これに関しては,今レポートがありましたようなCITI教育とかを,例えば科研費応募に義務づけるとか,そういうことを議論するのが目的ではないでしょうか。

【山口企画室長】
 事務局でございますが,アメリカの動きなども御紹介する中で,要は,発生後のことについて,十分とはもちろん申さないのですが,一定の整備はなされつつある中で,特に入り口の部分で本来期待される取組が殊の外弱いのではないかという問題意識です。さらには,個別になりますが,JSTさんの方で先進的に取り組まれている実例があることや,アメリカとの文化の違い等々ございますけれど,日本でもそういったものに対して取り組んでいるという信州大学さんの動きもありますので,そういったものを踏まえながら,科研費についてがコアのことではございますが,どういうふうに手続論等として取り組んでいったらいいか。あるいはもうちょっと広い御示唆があれば,せっかくなので頂戴できればと考えております。

【谷口委員】
 先ほどから御指摘があったように,JSTの話題も出ましたね。ですから,これは科研費だけの問題ではなくて,文部科学省としてしかるべき,もし何か対応すべき対策があるなら,やはり統一した指針なり,あるいは先ほど市川先生が御説明になったようなものを日本でいかに生かしていくかというようなことを議論するような場所があった方がいいのではないかという気がするんですけれどもね。科研費だけでこれをやりましたって,余り影響がないのではないかという気がいたします。

【山口企画室長】
 御指摘ごもっともでございまして,平成18年の不正行為対応ガイドラインも,特別委員会を設けて,作られております。現在,今般の基本方針をとりまとめられた総会の方からも,つかさつかさで鋭意検討いたしましょうということです。なので,まずはこの研究費部会の方で科研費についてはもちろんですが,ある程度広がりのある議論ができれば,それを上げていくことで,さらには文科省全般,競争的資金の所管府省庁ですとか,そういった広がりを持った議論にもなり得るということでございます。

【谷口委員】
 ということで,今度は市川先生にもちょっと御意見等をお伺いできればと思います。不正に関する告発をした者がどういう立場になるかというお話が先ほどあったと思うのですが,告発をするということをよしとする前提として結構議論されているところがあると思うのですが,悪意の告発というのもあります。 これは大変困ったことで,下手をしますと,それこそ科研費の根幹とも言えるような自由な発想とか,大胆な仮説を立てるとか,そういう学問の本当のドライビングフォースになるような意欲を下手するとそぎ落としてしまうことになるのではということが見られなくもありません。
 これに関しては,文科省はどうか知りませんが,大学としてそれぞれ各大学でいろいろな対応があって,告発をした者が明らかに意図的に間違った告発をした場合は法律的に処罰するというルールを設けている大学もあります。
 それから,告発をしたときに匿名か匿名でないかによって,匿名のものは一切扱わないというケースもあれば,匿名のものについてはまずは大学本部ではなくて弁護士,法律家がそれを全部預かる。その預かった法律家を通して,フィルターのようなものを通して大学に知らせるということになっているので,大学側は誰が告発したか分からないようになっている。そういう形である程度告発者の権利を守るとともに,悪質な告発者がいた場合は排除するようなシステムを設けている大学もございます。実名は申しませんけれども。
 いろいろな対応がなされているので,そういうものも考慮しながら,日本に根づくようなルールというのが非常に重要なのではないかと思います。
 もう一つ例を申しますと,最近ではインターネットとか,いろいろなものが出回っていますので,ツィッターかフェースブックかそういうもので明らかに意図的に実名を上げて,あたかも不正行為をしたかのような記事を載せているのがいる。これは私に言わせれば,非常に悪質で,学術の進展を遅らせると言ってもいいかもしれません。
 ただ,それをまともに受けて,学会が大学の総長宛てに「こういう人がこういう疑惑を持たれているけれども,あなたたちは調査しましたか」なんていう質問状を出したことがあって,私はその学会に対して抗議をしました。「こんなものでもって大学の総長に調査をしろと言うこと自体が間違っている。これは悪意の告発ではないか」と。その後お返事を頂いていませんので,どうなったか分かりませんが,そういう非常に悩ましい,確かに不正はいけないのですけれども,それを更に不正をする行為に関する悪用みたいことを行うような風潮があるということも,これは大変悩ましいことで,アメリカなどでは,これはどうやっているか,私も,Office of Research Integrityがどうしているか分かりませんが,恐らく似たような例はあると思います。それは非常に注意していただきたい。なぜならば,これは学問に対する根本的な挑戦と言ってもいいぐらい重要な問題だと私は思います。

【市川特任教授】
 我々が扱うのは,まず基本的に倫理ということです。それは,「考え方」を内容としますから,今先生がおっしゃった非常に危ない面というものを全て表に出して学習者に考えさせる。「こういうリスクがある」ということを伝えた上で,「だから,こうするべきではないか」ということを伝えるわけです。我が国の法律教育だけでは,公益通報者を保護すべきだというようなルールを伝えることはできますが,それ以外の倫理的な面を学習する機会はありません。
 ですから,末尾にはルールを伝える場面を設ける一方,そこに至るまでは考え方を教える。基本的には私どもの教材の役目というのは,「内部告発にはいろいろな側面があるから,疑問のある行為を目撃した際は,まず内部での対応を求めるべきだ」というところから始まります。ところが,もしそういう内容の教材を,個々の大学あるいは研究機関で作って「学習せよ」とすると,それは自分たちの組織防衛を目的としたものではないかと学習者には理解されてしまって,なかなか内容を素直には受け入れられないものです。
 一方,「これが,全国的,あるいはインターナショナルなやり方のスタンダードだ」,というふうに学習していただければ,むやみやたらに文科省に電話を掛けるというようなことも差し支えるということになると思います。
 そういう意味で,先生が経験された内部告発の持つ問題点を,教材を通じて学んでもらい,学習者には,「ああしろ,こうしろ」ではなくて,問題点を出発点から理解していただけるような教材作りを目指しています。

【佐藤部会長】
 谷口先生の質問に本当に関係すると思うのですけれども,参考資料1がありますね。

【佐藤科学技術・学術政策局基盤政策課人材政策企画官】
 基盤政策課の佐藤と申します。このガイドラインの担当になりますので,若干お話をいたします。
 これは冒頭山口室長の方から説明がありましたけれども,平成18年に,告発とか,そういったものがあった場合についての対応のガイドラインということで示したものでございます。これは各大学等に既に18年に示しておるものでございます。
 ここでは,一応告発は顕名を原則として,ただ,匿名の場合についても内容に応じて対応するということで,まず予備調査をやってくださいと。それで,この告発がどういう内容かということを見た上で,きちっとこれは調査すべきだということになったら,本調査をしてしかるべき対応をしてくださいということで,そのための,例えば告発の窓口ですとか,そういったものを大学で設置をする。それから,規定といいますか,そういったものを整備してくださいと示しているものでございます。これを踏まえて各大学等で対応が行われていると理解をしております。
 国としてがっちり決めて対応というのも,なかなか難しい対応でございまして,最初の説明にもありましたように,やはり研究コミュニティの自治,あるいは研究そのものの自治が非常に重要だと思いますので,私どもとしてはこういった形で対応の仕方をお示ししているというところでございます。
 また,実はこの報告書は2部構成になっていまして,第1部には,基本的考え方ということで,不正行為というものはどういうものであるかというようなことも示しております。これは大学に対して対応を求めるためのものでございますので,こういう告発があった場合の対応とか規定の整備とかをお願いしますということで示しておりますけれども,併せて第1部も当然周知をして,そういった啓発的なことも是非やっていただきたいというふうには考えておりますが,そういう中で,先ほどの御説明にもありましたように,そういったCITIのプログラムというのは,非常に重要なものだというふうには受けとめております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。
 教育の中身についてはこういうようなことで,ある程度ガイドラインに示されているわけで,市川先生,これはそちらのサイトでも使われていることですか。

【市川特任教授】
 そうですね。こういうものを踏まえて教材を作っている。これは余りほかの国と違いはありません,基本的には。

【谷口委員】
 先ほどの告発で,どこを不正と考えるかという問題とちょっと関係するので,こういうことも視野に入れて我々は検討しなければいけないと思うのですけれども,ここ二,三年,『ネイチャー』をはじめとする雑誌にかなりショッキングな記事が出ておりまして,何かと申しますと,製薬企業が『ネイチャー』等インパクト・ファクターの高い学術雑誌に報告された研究成果をリプロデュースしてみた。してみたというよりは,製薬会社にとってみれば,新しい開発に1,000億円かかるという,そんな時代ですので,彼らはそういうトップジャーナルに出た論文に関しては,再現性をとって薬の開発につなげたいということでやるわけです。
 驚くべき結果は,その中の,それはがん研究のみですけれども,何と約11%しかリプロデューシビリティ,再現性を見ることができなかったという報告。これは『ネイチャー』と『ネイチャー・バイオテクノロジー』ですか,出ております。
 さらに,その製薬会社のトップに私が個人的に聞いてみまして,「その後,どうするの」と言ったら,彼らはそれで著者に問合せをするそうです。すると,「いやあ,5回実験をやったんだけれども,2回はこういうデータが出た」とか,3回か2回か知りませんけれども,そういう回答が返ってくるのだそうです。
 これを果たして不正行為と言うかどうか。でも,実際はリプロデューシビリティがないという結果になったわけですから,その辺の背景にあるのは,ルールを作って,研究者を縛って倫理教育をするだけで済むかどうか。それは重要な問題ではあるのですが,それ以外の,例えばインパクト・ファクターの高いジャーナルに論文を早く投稿しないと,世の中で勝ち抜けないといったような世の中の流れとか,いろいろな要素を分析しながら,私たちが正しい学術ジャーナルの在り方,評価の仕方といったものを考えたり,リプロデューシビリティのないデータに関してもジャーナルに投稿できるといったような,そういうアプローチをしていったりしないと,今みたいな非常に悩ましい問題はなかなか解決できないというふうな気がいたしますので,ちょっと付け加えます。

【佐藤部会長】
 これはなかなか最先端の話と結ぶ難しい話ですね。

【柘植委員】
 山口室長が説明した資料2の方にもう一回市川先生の話を戻してみると,4ページに論点が書いてありましたけれども,やはりこういう方向に,いわゆる罰則から教育,研修ということまで行かざるを得ないというのは正直なところですから,この方向は是(ぜ)とした上での科学技術・学術審議会の立場で,少し枝分かれですけれども,忘れてはならないのではないかという,つまり,資料2の不正防止のための取組について,ここに書いてない視点をちょっとお話ししたいと思うんです。
 それは,なぜこういうミスコンダクトをするかという現場なり最先端の研究者の心の中まで入ったときに,この教育・研修だけでいいんだろうかという話があります。これは全てのトラブルが起こったときの,本当の原因のところまで掘り下げなさいというのが鉄則なのですけれども,その中には,私としては,本当に今の最先端の科学の中で勝ち残らない限りはもう生きていくことができないという焦りというか,それがあると思うんです。その中で,やっぱりそれに挑戦してくれる方々を,ほかの分野で,その最先端では勝てないかもしれないけれども,ほかの問題で解決できるという道もあるのだということを,評価体系も含めて与えていく,分かってもらう,導く,こういう話はやっぱり我々学術審議会で非常に大事ではないか。
 そういう目で見ると,先ほど資料2の3ページでも山口室長が引用されました,この1月に出されました大臣への建議書,東日本大震災を踏まえた在り方,この中でもう一つ違う視点で大事な話が私はあるのではないかと思います。それは,新たな評価システムの構築というのが建議の中に書かれております。
 ちょっと抜粋してみますと,大学において主流となる学術研究については,学問分野の特性に配慮しつつ,自ら研究課題を探索し,発見する取組を評価することが必要である。中略しますが,こうした研究については,研究論文数や論文引用数に限った評価を行わない配慮が必要であるということで,そういう論文以外の取組についても積極的に評価することが必要である。ここまで大臣建議書を我々は書いたわけですね。
 ですから,この話も言い放しではなくて,今のミスコンダクトを起こす最先端の研究者の心まで入れば,多分こういう新しい評価体制の中でバトルできるぞと,リディレクトしていく,こういう道というのを我々はきちっと開いてあげることが必要かなと思っています。
 私自身もそれは今日の論点の中の傍流だなと分かっていますけれども,しかし,その傍流も忘れてはいけない。せっかく大臣に建議したので,何とかこれを今日の問題に対しても生かしていくようなことをちょっとこだわり続ける必要があろうかなと思います。
 以上です。

【佐藤部会長】
 大事な視点をお話しいただきましてありがとうございます。論文偏重のゆえにこういう問題が生じていることはそのとおりだと思います。

【山口企画室長】
 柘植委員のおっしゃったことはまことにそのとおりでして,今一義的には評価の方の部会で,論文指標以外の評価の仕方もしっかりやっていかなくてはいけないということがプレイアップされておりますので,念のため申し添えます。

【柘植委員】
 分かりました。

【佐藤部会長】
 今日の会議は,とにかく山口室長からお話もありましたように,研究全体の不正の話ではありますけれども,学術審議会の中で議論するとなれば,研究費部会でまず少し詰めてもらうのがいいのではないかという観点で意見を出していただいているわけですが,全体的なこういうe-learningを義務づけるとか,申請の段階,実施の段階,そういうことについての御意見はいかがでしょうか。
 実際,そうすると,JST関係では義務付けられているわけですよね。

【市川特任教授】
 採択者に対して義務付けている。今年度は,時間的な制約もありましたので。

【佐藤部会長】
 何かそれに対するリアクションはございますか。大変賛成だとか,面倒だとか,実際実効性があった,よかったとか,そういうことについてのリアクションはないですか。

【市川特任教授】
 ちょっと付け加えさせていただくと,大体一つの単元が20分から30分です。ですから,6~8つの単元というと,一番多く見積もって4時間,短く見積もると2時間ぐらいですか,そういう状況です。

【佐藤部会長】
 始めてからどのぐらいたっていますか。件数で言えば,どのぐらいの方々がそれを受けているわけですか。

【市川特任教授】
 JSTは登録という段階ですけれども,いろいろな大学を集めてみると,去年は千何人ですね。いろいろな大学で,大学院生が対象だと思います。今年の予想は1万人前後ということになります。

【谷口委員】
 市川先生はアメリカと日本と両方で教育・研究に携わっておられて,両方の側面をよく御存じかと思うのでお聞きするのですけれども,日本の文化の学問を支えている,文化と言うと大げさかもしれませんが,暗い部分といいますか,先ほどの告発の問題もそうですが,じめじめとした部分がすごくあり,もう一つは上意下達的な文化というのがあって,何かこういうことをやると,不正がいけない,だから,ルールを作って,何か教育をする,だから,こういう講座を受けろ,こういうような形で頭ごなしにやる傾向があると思います。
 アメリカというのは,もう少しそこは自由で,若い人たちにやる気を起こさせるようなトレーニングといいますか,そういうふうな工夫がうまくなされているのではないかと私は思うんですけれども。やたらと上から押しつけて教育をしてもなかなか若い人たちが,実際にこれをディセミネートしようとか,ほかの人たちとディスカッションしようとか,そういう雰囲気を作っていかないと,日本の学問は将来がないのではないかという気がするのですけれども,いかがでしょうか。

【市川特任教授】
 ちょっと私は,それについてこうだというふうにお答えできるほどの資格はありませんが,米国の場合,どういうふうになっているかというと,どの教材を大学が選ぼうと自由です。ただ,先ほどもお示ししましたように,4年間に8時間,つまり,1年間に2時間の学習を義務付けているということですね。大学自体が,もちろん自治がありますから,それなりのものを選ぶということですが,結果的にCITIというものを選んでいる。
 実を申しますと,生命科学分野については,10年ぐらい前にNIH自体がe-ラーニング教材を作っています。ただ,内部の人たちだけで作ったためでしょうか,なかなか練れていない。結局CITI教材の利用の方向へと皆さんは移っていったということです。したがって,そういう点では,教材の選択は飽くまで自由な状況です。
 私自身は我が国も本来,同様に教材は自由選択であるべきと,思っています。アメリカの場合は政府が大学を通じて,先ほど申しました4年間に8時間の学習を義務付ける一方,学習すべき項目を提示しています。大学・研究機関を通して公的資金が配算される以上,学習の機会を保障することが大学・研究機関に要求されており,その立場から大学・研究機関は自主的に教材選びをしており,結果的にCITI教材を選んでいる・・・そういう状況です。
 基本的には私は我が国もやがて同じことになるのではないかと思っています。私はいろいろな教材があって,切磋琢磨(せっさたくま)することの意義を認識する一人ですが,今のところ,周りを見てみると,CITI Japan教材だけですので,私どもが自主的に教材の質を最大限に高める責務があると強く感じています。

【谷口委員】
 例えばエピソードとか,歴史とか,いろいろ交えて教えるとかですね。ノーベル賞を受賞したけれども,それは間違ったものを発見してノーベル賞を受賞したというケースは結構あります。ノーベル賞どうこうはおいといても,それは誤謬であって,不正ではないわけです。ところが,意図的にこうこう,こういう事情があって,背景があって,こんな不正が行われたという有名なケースも幾つもある。そういうことをきちんとどこが不正で,どこが誤謬であるということを,エピソードを交えて,科学の歴史を教えて,その文脈の中で,今,これからの時代はどうすべきかといったような,そういうアプローチをやっていくと,学生も興味を持ちます。

【市川特任教授】
 先生の言うとおりです。まさに,それはそうだと思いますね。

【谷口委員】
 だから,その方が学生にやる気を起こさせるのではないか。やたらとルールを作って,あれしなさい,これしなさいという講義で,嫌々ながら聞いたって駄目ですよ。

【市川特任教授】
 我々が始めた理由もそんなところにあります。どちらかというと,我が国で行われている講演,講習というのは,ルール解説に終始しています。指針を。ただ,それではなかなか守りにくい。むしろ,「こういう理由だから」,というものを言ってあげた方がいい。そういうことでCITI Japan教材も理由を分かっていただくという目標をかかげて作り上げているということです。最終的には,ルール,ここを踏み外すと困りますよということは言うのですが,ともかくかなりの部分が「理由」。倫理というのは論理でもあるので,そういうことを中心にすることに,かなり精力を割いているつもりです。

【髙橋委員】
 谷口先生のお言葉にちょっと感銘を,いつもですけれども,今回は特に。
 CITIは,今ざっと拝見しただけでよく分かっていないかもしれないのですが,確かに上から,これをやれとか,それから正誤表の得点とかいったら,押しつけられた気分になると思いますが,今おっしゃったようなこと,例えばDVDなんかで,ちょっとしたエピソードストーリーみたいなムービーを,モニターの上で見るとかいうのは,私も含めて若者には受けるだろうなと思います。
 もう一つは,この内容はどうなっていますか。テストの内容は難しいですか,80点取るためには。

【市川特任教授】
 そこは,作戦なので。テストがあるというだけで,みんな一生懸命見ます。ただ,それをやたらと難しくしてしまうと,不満が髣髴(ほうふつ)してしまうので,テストは比較的やさしくしてある。ただ,後ろにあるぞ,と学習中に意識させることなんですね。
 先生が言われたムービーも,CITIのオリジナル版には取り入れられています。ただ,CITI Japanで省いた一つの理由は,出演者は全てアメリカ人だからということと,では日本人の作品を入れられるかというと,予算の関係で今のところは省いているというところです。
 DVDというものを私どもが二の次にしてしまったもう一つの理由は,どちらかというと,学習者は,個人個人で学習のペースが違うのです。大事なのは,学習者の達成度を同じにするということであって,学習時間を同じにするということではありません。つまり,教材は自分に適したスピードで修得してください。分かっているところは,どうぞ飛ばして結構ですというような形で,本人にとってやりやすいような形で教材を提供することを目指しました。DVDはその点が難しく,米国の場合は,「見たかったらどうぞ」,というふうな形で提供しています。

【髙橋委員】
 ありがとうございます。
 これは大変すばらしいプログラムですけれども,現場はどうかというと,やたらといろいろ忙しいですね。京都大学も,一体何のためにやるのだというようなことがたくさんありまして,そうなると,現場の若者はどうなるかというと,全部押しつけに思うのです。これをやらないと罰せられるだろうと。今,こういう風潮があって,その中において,学問をどう守っていくかということが一番大切な議論だと思います。
 もう一つだけ。これは文科省さんにどういうふうな取組というか,どういうふうにお考えかちょっとお聞きしたい。 私たちの分野のまあまあ身近なところで不正と思われるかもしれない事態が発生して,今いろいろ困っているところです。実名等々申しませんが,対処法はどうとかというよりも,若者がどういうふうにそこで思っているか,本当の声は何かということをちょっとだけ申し上げます。
 その方は,『ネイチャー』にぼこぼこと出したけれども,ちょっと不正があったのではないかと。コレスポンディング・オーサーの処分等々は恐らく今検討中なのですが,一番若者にとって何が身近であるかというと,その不正かもしれないと思われている『ネイチャー』なり何なりに筆頭著者で出した。そうすると,ポジションがパーンと来たわけですね。そういう方々がどんどんポジションを取られていく。このいい悪いは,私は今申し上げる立場ではありませんが,そういうのを現場の若者が見てどう思うかということです。
 30代,ここでも何回も議論にもなっていますが,みんな物すごくいいサイエンスをしているのに,ポジションがなくて死ぬほど困っているわけです。その人たち,ほとんどの人は不正をせずにやっている。一生懸命やっている。99.9%はそうじゃないですかね。だけど,なかなかうまくいかないのです。実験というのはほとんどがネガティブデータで,なかなかうまくいきません。『ネイチャー』に載るなんて,なかなかできないことなのです。
 そうやって純粋に頑張っている若者が,そういう事実を前にして,どう思うかということなんです。不正かもしれない論文の著者に入って,ぽんぽんぽんといいところにポジションをとった。でも,自分はまだ来年の身も保障されていない。この議論も何回もありました。5年の科研費で雇うけど……,そういう議論になるわけですね。そうすると,心は病むわ,ぐちゃぐちゃになってしまうケースが多々あるのではないかと思います。
 その中において,倫理を守れだ何だと,教育は全くそのとおりだと思いますが,一方で,失礼な言い方をするかもしれないのですけれども,若干白けている雰囲気はありますね。その人たちに,未来は明るいということをどう持っていくか,この際お聞きできればと思います。文科省の方では,そこをどういうふうにお考えか。すぐにできるなんて私も思っていません。ただ,新聞報道では,誰々が不正の疑いがあり,処分は何々だ,懲戒解雇だ,そういう暗い話題は幾らでも出てくるのですが,それを見て若者は,よし,明日も頑張るぞとは思えないはずですよ。そこの対処,もし何かあればお教えいただけませんでしょうか。それが問題なければ,私も現場に戻って「君たち,頑張りなさい」と言えるかもしれない。

【袖山学術研究助成課長】
 私の方で今のお話について代表してお答えできる立場にあるかどうかは差し置かせていただきまして,いろいろと科学技術・学術審議会の検討の骨子としてまとめられたものの中でも,若手の研究者をどう育成するか最重要課題ということで位置づけられておりますし,まさに先日発表されました科学技術白書でも大きな課題として取り上げている。そういうことで,認識としては,今,髙橋先生がおっしゃったようなことを大きな課題として認識をしている,これは間違いないところでございます。
 そういったことの解決策ということで,これをやればすぐ解決するということがあるというわけではないと思いますし,様々な手段を講じながらということになろうかと思いますけれども,その中で,研究費,科研費というところでは,更に若手の研究者というものを元気づけていくということの一つの方策として,前回,前々回議論いただいているような方向性というのも考えて,来年度実施をしていきたいということも考えております。
 さらに,若手の研究費の在り方というのをどうしていくべきかということについては,夏以降も引き続きこの研究費部会でも議論いただきたいと思っております。特に,ポジションとの関係でどういうふうに研究費というものを考えていくべきか。今の科研費の仕組みで言いますと,ポジションがあって,人件費というのは別途措置されているということを前提として研究費が措置されているのが科研費の基本的な仕組みになっているわけですけれども,果たしてそういった仕組みで現在の状況に応えていけるのかどうかというようなところもやはり大きな課題になってきていると思っておりますので,そういったところも含めて更に御議論いただきたいというふうに思っている次第でございます。

【髙橋委員】
 ごめんなさい,よく分からなかったんですけれど,ですからこういう議論は,例えばこれをやり出したら,どこの委員会で言っても,「それは大変難しい問題でありまして,今後検討が必要ですね」で終わると思います。これから10年続くかもしれない。そうこうしているうちに,日本の学問は崩壊してしまうと思います。だから,今のところが一番緊急の課題であるということを申し上げたいと思います。
 それと,倫理に関しては,もう一回私,くどいようですが言わせていただきますと,少なくとも生命科学の現場では,ほとんどの人間は真っ正直に純粋な気持ちで真理の追究をしているはずです。ごくごくごく一部の人がいろいろなことをなさっている。もちろんそれがいいとは言いませんが,忘れていただきたくないことは,ほとんどの人間は純粋に頑張っています。ですから,彼らが,私も含めて正直者がばかをみると思った時点で,もうおしまいだと思いますね。そこを大前提で,このCITIプログラムもそうだと思うのですけれども,何かの不正が出てきたときにこれは氷山の一角だ,まだまだたくさんあるぞという考え方があります。でも,私はここであえて申し上げたいのは,ほとんどの若者は真っ白な心で頑張っています。それを是非お忘れなくいただければと思いますね。前提をどこに立つかということです。よろしくお願いいたします。

【上田委員】
 私は企業の研究所の人間なので,ちょっと違う視点で物を言いたいのですけれども,倫理,今,本質論がありましたけれども,これは世の中の犯罪,全部一緒で,ある一定率は何をやっても,どういう教育をしても,なる場合はなる。ならない場合はならない。ただ,企業でも,倫理研修等は定期的に行われて,こういうe-learningを取り入れております。
 重要なのは,例えば先ほど何かプレッシャーがかかって不正をする人がいるのではないかという話があったと思うのですけれども,それはある程度あると思います。だから,それを気づかせるために,定期的にこういうe-learning等をやって,ああ,やはりいけないことだということのものであって,これで本質的に解決するとかしないとか,そんなことを議論しても何も解決できないですね。そういう解決できる本質論はあるか,それはないです。
 問題は,そのスレッショルドになっている人たちを少しでも正しい方向に導くための気づきであって,運転免許だって同じで,ああいう事故の映像を見て「やっぱり無謀な運転をしてはいけないな」ということを2年か3年おきに見るわけですね。でも,やはり不正をした人に対してはそれなりのペナルティーを設けないといけないので,こういうガイドラインをきちんと設けて,もしやった場合には大変なことになるということもCITIの中に多少エピソード的に入れてやるということで,JSTでやっているのでしたら,当然科研でも普通にやればいい話であって,これは面倒だ何だという,むしろそうではなくて,国の税金で研究をするという研究者としての義務として,こういうことをきちんと気づくという習慣を身につけて,少しでもスレッショルドにいる人たちを,そういう方向に導かないような仕組みだと思います。
 それの教育うんぬんの本質論は,これは幾ら議論しても,世界中で犯罪をなくすことはできますか,そんな教育はできますかという議論をするのと全く同じで,倫理観というのは,個人の価値観,哲学なんですね。できない人は一生かけてもできません。なので,そういう議論に持っていくよりは,今回の議論は,こういう制度を,ジャパンCITIをきちんと普及させてやるということで私はいいと考えます。

【佐藤部会長】 
 ありがとうございました。

【谷口委員】
 今の上田委員の御意見,ごもっともなところもあったと思いますが,私は,いい悪いは,全くそれは別にしまして,企業における研究と大学における研究というのは違ってしかるべきだというふうに思っております。それから,研究者の管理の仕方も違ってしかるべきだ。それはお互いに全く立場が違うので,それが一緒になってこそ国の力が強くなるのだというのが基本的な考えで,やっぱり大学のよさ,大学の大切さというのを,企業のよさ,企業の大切と同様に尊重していかないと,なかなか学問は進まない。
 髙橋先生は,学術審議会の委員でいらっしゃいますよね。

【髙橋委員】
 はい。

【谷口委員】
 だから,その総会で野依会長におっしゃったらいかがですか。文部科学大臣も来られたら堂々とそこでおっしゃるべきですよ。あるいは,個別に御相談に行かれてもいいかもしれませんが,これは非常に重要な,これからの日本の大学をどう支えていくかという非常に基本的な問題だと思います。会社は会社ですごく立派な,それはそれですごく重要だということは申し上げるまでもないのですが,そこはやはりお互いにそれぞれの力を発揮するということが重要ではないかと思います。

【佐藤部会長】
 ちょっと時間も迫ってきましたので,この議論は打ち切りたいと思いますが,髙橋先生は総会でもそういう発言をされておりますね。きちんと発信されております。

【谷口委員】
 そうですか。

【佐藤部会長】
 今日の議論ですけど,上田委員の方から,非常に文科省の意図を分かりやすく伝えていただいたと私は思っておりますし,これまでの議論ですぐに取りまとめるのは難しいとは思いますが,やはりこのような教育は必要ではないのか。これをどうするか。それを義務づけまではいかないにしても,このような教育の必要性は皆さんは認識されているのではないかと思います。今日はもう時間もございませんので深められませんけれども,次回なり,別の機会で深めていきたいと思います。
 2番目の議題でございますけれども,我が国の論文生産への研究費の関与状況のことでございます。本日は,科学政策研究所からも御参加いただいておりますし,山口室長から御報告いただいた後に,少し議論をしたいと思います。よろしくお願いします。

(2) 我が国の論文生産への科研費の関与状況等について

事務局より資料4及び参考資料3に基づき説明がなされた後,議論が行われた。

【佐藤部会長】
 最後のトップ1%のことがちょっと気になったんですけど,大型というときに科研費以外の大型が効いているということなんですか。特別推進研究だってあるわけですから,そういうものよりも、ほかの、JSTなどの大型研究費の方が効いている,多いということですか。

【山口企画室長】
 トップ1%論文は,金額だと「2,000万円超」という区分と,研究資金の種類だと「科研費以外の競争的資金」との相関性が強いという内容ですので,科研費全体だと後者のような結果になりますが,前者の限りにおいては,科研費のうち大型も入ってくるということです。

【佐藤部会長】
 基盤研究(S)だとか特別推進研究とか,そういうのが入っているという意味ですね。

【山口企画室長】
 はい。

【佐藤部会長】
 科研費でないような印象を受けたので確認したのですが,ただいまの御報告につきまして,何か御意見等はございますか。科研費のパフォーマンスがいいことは分かりますが。

【富澤科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室長】
 科学技術政策研究所の富澤でございます。ただいま山口室長からもありましたけれども,過去数回こちらで議論いただいたことに関して,今まで示した調査で分からないこととして例えば科研費とほかの資金がどういうふうに重複しているのかとか,そもそも科研費の成果を見るためにほかの資金の貢献とどう比べるか,そういうことが分からないといけないという議論がございましたので,それを踏まえまして,今度はWOS論文の著者の中からランダムサンプリングして,その方に直接調査票を送って,どういう研究資金でこの研究を行ったかということを聞こうということを考えております。
 今日御紹介いただきましたこの資料というのは,ある意味それの先行研究的なもので,これは10年ぐらい前のもので,現在と違って国立大学法人化以前の状況ですので,大分今と状況が違っているわけですので,改めてといいますか,新しい状況を調べるということを今計画しているところで,夏ぐらいには調査を実施して,秋には何とか結果を出したいと考えております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。調べるための人員,データベースとか,そのあたりは十分にお持ちでしょうか。

【富澤科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室長】
 データベースは幸い持っておりまして,なるべくすぐにやろうとは思っております。データベースに基づいて,著者をアイデンティファイして調査票を送るということを考えております。

【佐藤部会長】
 例えば8月ごろに御報告いただけるということは……。

【富澤科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室長】
 8月だと,ちょっとまだ,秋ぐらいになってしまうのではないかと思います。

【佐藤部会長】
 どうぞよろしくお願いいたします。
 その他御意見等はございますか。

【谷口委員】
 学会のホームページとか新聞とかいろいろ見ていますと,日本版NIHを作るという話があって,一方では,学会がいろいろな声明を出しているなど,研究費部会は非常に関係のあることかと思いますので,お差し支えない範囲で結構なのですが,今,どういう状況にあるのですか。研究費部会にも影響が及ぶような可能性はあるのでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 日本版NIHの議論につきましては,先般決定されましたいわゆる日本再興戦略,まあ成長戦略といわれているもの,あるいは健康医療戦略というものの中で決定され,その中で言及されているものでございまして,方向性といたしましてこれを作っていくと。我が国の特に基礎から橋渡し研究,そして臨床につなげていくという医療分野における研究につきまして戦略的に進めていくために,各省が有している研究資金を一元化し,戦略的に配分するための独立行政法人を新たに設立していくということが閣議決定で決められたというのが現状でございますが,その具体的な内容については,この夏までに推進本部というものを立ち上げ,更に具体的に検討していくというな段取りになっております。今のところ,決まっているのはそういった内容についてのみでございまして,そういった大きな議論がなされる中で,特に基礎研究の重要性というものが,このNIH構想の中で,ともすると置き去りにされてしまうのではないかという懸念というものが,各学会あるいは大学関係者の方から示され,様々な声明というふうな形で公表されているというところでございます。
 いずれにいたしましても,我々といたしましては,そういった基礎研究の重要性というものをしっかりと踏まえながら,今後の具体的な構想というものに向けて取組を進めてまいりたいというところでございます。

【佐藤部会長】
 これは総会とかで議題になるような大きな問題だと思うのですけれども,科学技術・学術審議会全体で情報を頂いて審議できるようなことは何とかできないのでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 総会の担当者の方にお伝えをいたしたいと思います。

【佐藤部会長】
 時間も来ましたが,何か御意見等はございませんか。

【上田委員】
 この資料の質問なのですけれども,3ページと4ページのグラフを見たときにどう読み取るかですけれども,基本は科研費が結局上位10%の論文を生んでいることに貢献をしていて,でも,総額は小さいです,と。だから,コストパフォーマンスは非常に良いのだと。だから,今後も,例えば科研費とかJSTとか,そういう役割に関してはよりそういう色を出していくということをおっしゃりたいのか,これから何を言おうとされていますか。

【山口企画室長】
 まずは,今までのインプット,アウトプットを比較したときに,しかるべきパフォーマンスを出しているかという問題意識を問われていますので,過去について検証している。次回にまた御提案申し上げたい話なのですが,やはりデュアルサポートの大切性ですとか,科研費のレーゾンデートル的な部分をしっかりメリハリをつけていく前提資料の一つという趣旨でございます。

【袖山学術研究助成課長】
 先ほど申し上げました日本版NIHの話は,参考資料4の,日本再興戦略の5ページの下段から6ページにかけまして記載されておりますとともに,工程表の10ページの方にもそういった具体的な工程が書かれているところでございますので,御参考にしていただければと思います。

(3) その他

 事務局より参考資料3,4について説明がなされた後,意見交換が行われた。

【佐藤部会長】
 特に労働契約法の問題は,深刻な問題で,大学関係につきましては,うまくすり合わせしていただいて,適用除外といいましょうか,そういうことは必要だと思いますけれども,これの議論の進捗状況は報告できる状況ではないのでしょうか。

【佐藤科学技術・学術政策局基盤政策課人材政策企画官】
 結論から申し上げますと,まだなかなか報告できる状況にはございませんが,これは予算委員会の方でも,厚生労働大臣,文部科学大臣いずれもがお互いに相談しながら対応を考えますということを国会の場でも答弁をいたしておりまして,それを踏まえまして,今,厚生労働省の方と協議といいますか,相談をしているところでございます。
 先ほど御紹介がありましたように,そういった戦略とかいったものにも書かれておりますので,1年をめどにその結論を得てということで,今相談を進めているということでございまして,具体的なところについてはまだ申し上げるところではないということでございます。

【佐藤部会長】
 1年をめどということですが,できるだけ早く進んでほしいと思いますが。

【佐藤科学技術・学術政策局基盤政策課人材政策企画官】
 この問題は,通算して5年を超えると無期に転換するということでございますから,実際に無期転換が始まるのは5年後ではないかという御意見もあるのですけれども,ただ,人事の話でございますので,時間があるようでない話だと我々も認識しておりますので,できるだけ早く,少なくとも方向性といいますか,今後の人事を進めていくに当たっても影響は大きかろうと思っておりますので,できるだけ早くというふうには思って,今厚生労働省とも相談しているところでございます。

【佐藤部会長】
 5年後でも人事制度設計する立場に立てば,ある程度急ぐ必要があるわけでございますし,御尽力をお願いしたいと思います。
 
―― 了 ――

 

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