第7期研究費部会(第5回) 議事録

1.日時

平成25年8月9日(金曜日)14時~16時

2.場所

東海大学校友会館「阿蘇の間」

3.議題

  1. 「学術研究助成の在り方について(研究費部会「審議のまとめ(その1)」)」(案)について
  2. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,奥野委員,髙橋委員,柘植委員,平野委員,谷口委員,西川委員,上田委員,佐久間日本学術振興会研究事業部長

文部科学省

袖山学術研究助成課長,山口学術研究助成課企画室長,生川振興企画課長,他関係官

5.議事録

【佐藤部会長】
 時間となりましたので,第5回の研究費部会を始めたいと思います。
 前回,「審議のまとめ(その1)」の案につきまして皆様の御意見を出していただきましたが,事務局にてそれらを踏まえた修正をしていただいております。
 本日は,引き続き当部会としての審議のまとめに向けての議論を行ってまいりたいと思っております。

(1) 「学術研究助成の在り方について(研究費部会「審議のまとめ(その1)」)」(案)について

事務局より資料2―1,2―2に基づき説明がなされ,意見交換が行われた。

【佐藤部会長】
 最初の3章は新たにお書きいただいたもので,後の方は前回の議論や最近の状況を踏まえて書き直していただいたものでございます。
 順を追って進めていくのがいいかと思いますので,まず「学術研究助成に関する基本的考え方」に関して委員の方々から御意見を賜ることができればと思うのですが,いかがでございましょうか。

【谷口委員】
 1ページの流れですけれども,「学術研究を支援するかけがえのなさ」というところを私が読んで思うのは,このようなコミュニティといいますか会議の中である程度コンセンサスが得られても,これが広く社会に出ていくということを考えますと,少し古典的と言ってもいいのか,そういう印象を持たなくもない。
 科学技術・学術審議会の野依会長のメッセージが3.11以降にも出されました。科学者は,我が国に対する,社会に対して,新しく問いかけをしなくてはいけない。やはり新しいいろいろな責任を持っているのだというような趣旨のメッセージが発せられたと思います。そこで恐らく野依先生がおっしゃりたかったこと,あるいは私どもも議論したことは,科学の在り方というのは,この現代にどうあるべきかといったところを根幹的に捉えていく,それによって社会の理解や支援を得ていくということが根幹になくてはいけないという,そういう認識ではなかったかと思います。
 そういう視点からこの1ページ目の文章の流れを見てみますと,相も変わらず研究者の自由な発想が大切で,あたかも科研費という中に囲われたような,大学等の研究者が好き勝手に研究をやっているとやがていいことが生まれて,そして,それが結果的には国の力になるのだという書き方になっている。言い方が悪かったらお許しいただきたいのですが,これを一般の人が読んだ際に,果たしてこういうことで国民の税金が使われているということが適切なのかという議論さえも巻き起こしかねないという印象を抱きます。
 例えば,前半で研究の成果というのは意外なきっかけから生まれてくると書いてある。確かにそうかもしれません。そういうケースはたくさんあります。しかし,それだけが研究の成果とは必ずしも限らないところもあると思います。
 その下に,革新的な発見というのはトップダウン型の研究や管理に基づいた研究からは生まれないと書いてありますが,私はそうは思いません。研究所のトップダウン型の研究からも革新的な成果が生まれるケースはいっぱいあると思います。しかしながら,やはり一方では,基礎的な研究から思わぬ発展がある。そこから生まれてくるケースもあるわけですが,かといって全てがそれから生まれてくるという書き方をされますと,やはり若干これに抵抗を覚える人たちがいるのではないかと思います。
 学術研究というのは,まさに研究者の自由な発想に基づく研究イコール学術研究という書き方をされているのも,大まかに間違っているとは申しませんが,若干この辺も気にならないと言ったらうそになります。
 それから,ずっと流れを見ていきますと,社会経済や持続的発展や文化的な豊かさや,世界に貢献できる国力の源泉としてこういうのが大切だと書いてありますが,果たしてこの上で述べられていることだけが国力の源泉になるのでしょうか。私は必ずしもそうではないと思います。
 ですから,社会に対する責任,タックスペイヤーに対して私たち研究者がどういう姿勢で臨んでいるかという姿が,この文章からは若干希薄に感じると言わざるを得ないと思います。それは何も応用研究をやれと言っているわけでは決してありません。だからこそ基礎研究が大切だということを言いたいわけで,世界レベルでの国際的な課題の解決とか,そういうものにも挑むということが学術研究の重要な側面ではないかと私は考えます。
 したがいまして,社会の理解とか支援を得ていくために,相変わらず科研費という枠の中に囲われて,大学の先生が好き勝手なことをやっていればそれでいいのだというようなイメージで取られるとすれば,それは問題ではないかと危惧するわけです。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。
 この文章は,基礎研究が本当にイノベーションにつながっていることを論点として書いていただいているのですが,谷口委員がおっしゃったような,社会への責任などの観点による書き方が少し弱いかもしれません。
 基本的には,科研費は,そういうボトムアップであることが大事で,それがイノベーションの芽になっているということが重要ですが,谷口委員のおっしゃったことについての記述も必要かと思います。

【柘植委員】
 参考意見をさせていただきます。
 今の谷口委員のお話,なるほどと思いました。すなわち,前回の案から比べてこの1ページ,2ページの,事務局が今までの意見をよくまとめてくれたなと思ったのは,基本的に我々の論理と同時に,やはり行政側といいますか,内閣府の総合科学技術会議の方も科研費を大事にしようとしていることであって,その辺の議論がかみ合うようにということで,大分苦労していただいて,そういう面では,私は非常によくなったと思います。
 よくなった結果,谷口委員のおっしゃった話は,確かに,そう言われるとそうだと。そこはどこで触れるべきかというと,1ページの一つ目の丸ですね。「学術研究を支援するかけがえのなさ」の丸1の部分,まさに基礎研究の大切さをうたっていますが,しかし,一方で確かに谷口委員のおっしゃった指摘の視点が,国民から,市民から見ると感じられないということに,今,私は委員の御発言で感じました。
 書き方はお任せしますが,確かに,私も谷口委員がおっしゃった話は,少し古い話ですけど,例のブダペスト宣言の,科学のための科学に対して,science for societyだし,in societyという言葉を使ったと思います。その上にあっての,この一つ目の丸だということの表現が,我々は忘れていないということを言うと,かなり谷口委員のおっしゃったことは,このまま国民に強く伝わるのではないか,かつ,前回のように,行政側というか,科学技術の司令塔の方との会話ができやすくなったと,両方を生かせるのではないか。
 提案は,一つ目の丸のところに,その趣旨をやはり忘れていないことを,忘れてはならないことを充実することでカバーできるかなと思いますけれども,いかがでしょうか。

【佐藤部会長】
 2ページあたりでは,本当に柘植先生がおっしゃったように,行政側のこういう方針を詳しく書いていただきまして,それにこの科研費のシステムがまさに必要だということを強調しているわけですけれども,出だしのところが少しクラシック過ぎたかもしれませんね。
 確かに,「学術研究を支援するかけがえのなさ」で,「人類の知見に限界のある以上うんぬん」とか,それから,「トップダウン型の管理に基づき狙って生まれるものではなく」と書いてあって,このあたりが少しきつい表現になっているのでソフトにしていただくとか,方法はあるのではないかとは思います。

【平野委員】
 今の御議論,私も理解を十分しているつもりですが,中で文章うんぬんというときに,谷口委員も言われたように,一番基になる背景をきちんと,大上段ではなくてもいいから,言っておいた方が良いと思います。もしも,この部会においても,それを全体の組織の中として理解されるのでしたら,科学技術・学術審議会の総会の方からまとめて建議をした,あの頭の部分,社会に対するという部分を入れ込んで,その背景を述べれば,全体の位置付けというのは分かるのではないかなと思いますが,いかがでしょうか。

【谷口委員】
 誤解のないように再度申し上げますけれども,私は,基礎研究が非常に重要であるから申し上げているのです。しかしながら,いつまでも学術研究,基礎研究が重要だというだけを唱えているばかりでは,現代,そしてこれからの時代に対応していけないのではないか。いかに基礎研究を充実させるかという文脈の中で,社会やいろいろなところの理解を得ていくという,その一種の戦略と言ってもいい。そういうものをきちんと捉えて考えていかないと,なかなかこれから,今の時代から基礎研究をしっかりと充実させるということが難しいのではないかと思っております。だから,ほかのものは大した研究ではなくて,こういう突発的な思わぬ発見とか,いつか出てくるような発見こそが学術の,科学の全てだという感じにしてしまうと,やはり少し良くないのではと感じます。

【平野委員】
 全く同感でありますが,この中へ入れるときの話として,私は,ここ全体での建議の背景は,そういう背景を持っていたはずだと思います。そこの中での基礎研究の大切さをうたってありますので,それを受けながら,より踏み込んだ形で,この部会としての考え方を次に述べていけば,分かってくれるのではないかと考えます。

【佐藤部会長】
 親委員会の審議文書も出ておりますので,そのあたりもうまく取り込んでいけば,強化されるのではと思っております。
 基礎科学の研究をやっている人間は,ただ単に自分の好奇心でやっているのではなくて,まず社会のために研究をしているのだと。その中で,本当に面白いことを探求するということは,それは社会のためになっているのだという,そういう意識を持つことが必要ですよね。その心を持てるようなことを,この文章で分かるようになればいいのではないかとは思っております。
 次は,「科研費による研究活動の論文生産性」につきましてはいかがでしょうか。

【柘植委員】
 大分充実したと思います。特に,9ページに記載されている国際共著論文の産出状況,これは非常に大事であって,しかし,3章以降になりますでしょうか,これから特に誰が何を検討すべきかということへのつなぎが少し弱い。つまり,国際共著論文のこの話は,私はもっと根が深いのではないかという一つの仮説を持っています。
 すなわち,私はこの数字,特に科研費の論文は国際共著論文の比が低いという話は,日本の研究者が日本の中だけで研究しているという,結果的に世界のネットワークの方から見ると希薄に見えたりするのではないかと。それはなぜかというと,ひょっとしたら,科研費の組立て方の欠陥なのか,あるいは,世界のやり方に対して低いのか,あるいは,海外に行って研究するという経験が少なくなったのかといろいろあるかと思いますが,この国際共著論文の産出状況のところは,今後とももう少し研究する必要があると思います。
 そういう面で見ると,二つ目の丸に,最後に,これらを踏まえ検討を行う必要があると書いてあるのですが,この「検討を行う必要がある」が,誰が,どういう視点でもう少し検討するのだということは,ここで書くか,あとの方,今度は各論の方でつなげるかという視点で,一度点検してほしいと思います。
 どこに書くかは別としても,例えば,EUの中でこういう基礎研究をやっている組立てはEUの中でファンディングを持つのですけれども,EU外とのパートナーは,EU外のパートナーもある程度研究ファンドを持って参加するというようなことのプラクティスがあるのではないかと私は理解しています。そういう面で見ると日本の科研費の組立てはそういう視点が入っているのかどうか、などですね。
 結論として,私は,ここに書くか書かないかは別としても,この「検討を行う必要がある」というところは,JSPSのヨーロッパ・アメリカのオフィスに研究してほしいなと思います。
 それは,そんな細かいことを書く必要はないのですが,是非ともこの9ページのところから,あとは,3以降の各論の中で,重要な事項が今後のアクションにつながるような文脈に充実してほしいと思います。

【袖山学術研究助成課長】
 今回の報告案の中で,検討の必要性をたくさん記述させていただいておりますが,これについては,基本的にはこの研究費部会で優先順位をつけながら検討していただきたいと思っております。
 そのため,現状では検討事項がこの報告書全体に散らばっておりますが,今後の検討課題として一覧に整理をするということも考えております。
 いずれにいたしましても,御検討いただくに当たりましては,様々な現状,あるいはファクトを積み上げた上で問題点を抽出していくことが必要でございますし,国際共著論文というようなことについては外国の状況というのも当然把握しなければいけないと思いますので,そういったデータ収集等については,JSPSの海外事務所にも協力を求めていきたいと考えております。

【髙橋委員】
 まとめのときにこういう質問をして恐縮ですが,余り議論がなかったかなと思いますので,文科省の方々に確認させてください。
 国際共著論文のデータについての議論がここまでありますが,国際共著論文が多くないといけないというのはどのような理屈に基づいていたのか,再度御説明いただけますか。世界が増えているからというのではなく。

【袖山学術研究助成課長】
 論文の質を表す代表的な考え方としての引用度という部分で,世界的な傾向として,いわゆる国際共著論文というのがトップ10%やトップ1%などの高引用度の,質の高いと見なされる論文に占める割合が非常に高い。したがって,国際共著論文というものの産出状況が,論文の質に直接関わってくるのではないかということが言われている。国際共著論文を増やしていくと我が国の論文指標というものも向上するのではないかという,端的な問題意識に基づいていると考えております。

【髙橋委員】
 ありがとうございます。
 恐らくそれは,日本の世界における位置付けというか,やはりプレゼンスを上げるということ,それからインパクトを上げる。インパクトファクターなどではなく,本当にいいものを出していく。何よりも大切なことは,国際的ネットワークをこれからつくっていくという理念がここに入るといいかなと。少しそこが寂しいかなというのが私の感想です。
 もし,それでいいとのことであれば,ここで更に付け加える,あるいは今後考えていくべきポイントとして,国際ネットワークを上げるためにはどうしたらいいかという大きな問題が,この背景にあると思います。例えば,今,若者がなかなかポスドクなり何なりで海外に行かなくなった,尻込みしてしまった。それはなぜか,帰ってこられないから。なぜか,ポジションがないから。既に何回か議論に出ていますが,そういうところに直結していると思いますね。そういう議論なくして国際論文の数だけについて述べるのであれば,主張力が弱いかなと思います。

【柘植委員】
 是非,(ウ)の丸の一つの上に,髙橋委員がおっしゃったような,なぜこの議論をするかという価値を。とにかく国際ネットワークの中で日本が少し希薄になってきていて,向こうから見ると考えてくれないようになってきているのではないか,なぜこれを考えるのが大事かということは,我々で議論したと思います。そのようなことを是非数行書いていただいて,工夫していただけたらと思います。

【佐藤部会長】
 分野による違いが大きいのですが,素粒子の研究とか,宇宙の研究は,まさにインターナショナルでやらないと全く最先端の研究が難しい状況になっているので,それに参加することによって共著論文は当然増えるわけで,そうして日本の存在感が伸びてきているわけですよね。もちろん,引用論文数も,非常に高くなっていますけど,それはまさに世界的にやらなければその分野の研究はできないということがあるわけです。
 一方,基盤研究(C)で行うようなものは,一人か二人でするような研究でやるので,優れた研究であってもサイテーションにはどうしても低くなってしまうという可能性があります。両方のバランスだとは思いますが,そのあたりを含めてお書きいただければいいかとは思います。

【髙橋委員】
 この議論はしたかなと思いつつも,実は,理念の議論は余りしていなかったかなと思うのです。生命科学の分野で時々気がつくダークサイドのことを少し申し上げると,こういうことが一人歩きすると,例えばの話,もう20年も前に作ったノックアウトマウスなのに,ひょいと上げて,私の名前を入れろとか,抗体を上げたから入れろとか,言い出したら切りがないのですけど,共著論文を増やすがための,少しレベルの低いことが先行してしまい本末転倒になる。ここで言いたいことは,本当に年寄りも若手も含めて,インターナショナルにコミュニティを活発にしようではないかということがないと,単に国際論文に名前をつけて,それでいいのだという事態を招きかねない。これは再三再四出ていますが,今,もう本当に熾烈な競争の中でみんな頑張っていますから,そういう悪いところを助長するということがないようにと,そういう願いがあります。

【袖山学術研究助成課長】
 国際共著論文をはじめとします国際共同研究などの在り方については,データを照会するときに一通り御議論いただきましたが,ここのところを突っ込んだ形での議論というのは,これまで十分していただいていないと考えております。
 したがいまして,今回の中では,論文の状況だけを,データの状況だけを報告いたしまして,今後,更に具体的にここの部分について検討いただきたいと思います。そういう意味では,その検討課題を,今頂いた御意見を踏まえた形で敷衍して記述させていただいて,それに基づいて,今後,具体的な検討を進めていただきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。

【谷口委員】
 全く今髙橋委員がおっしゃったことが正しいと思います。国際的な,まさにこの文面に沿って言えば,ボトムアップ的な国際連携が更に発展することによって,結果的に共著論文が出たということが大切なんだということを,我々の部会としては,どこかに記載していただくといいのではないかと思います。
 つい数日前も,『ネイチャー』のオフィスからメールが来まして,私の論文が出るからと言われて,何かと聞いたら,昔,まさにノックアウトマウスという資料を提供したということがあって,それで,その人が名前を載せてくれたらしいのですよ。私はすぐに断りました。断るのは,全てのケースとは言いませんが,仮に不正行為があったときに,私は連帯責任を負えないと。その研究の内容を実際に把握してもいないのに,オーサーになるなんてとんでもないことなので,私の主義に反すると言って,もちろん断って,了解いただきました。そういうケースも結構あって,あまり共著論文の数を過度に強調し過ぎると研究者を悩ましい状況におとしめる可能性もあるのですね。やはり自然にそういう形が生まれてくるということが望ましいなと思います。
 とはいえ,一方では,先ほど袖山課長が発言されたように,現実問題を考えますと,科研費の成果の一端として,トムソン・ロイターに代表されるような評価のいい科研費がどうやって乗っかるような形に検討するかということも大切ではないとは言えないので,こういう分析が行われたということはすごく意味のあることだろうと思ってもおります。ただ,これだけが一人歩きしてはいけないというのが,先ほどの髙橋委員がおっしゃったポイントではないかと思うので,しっかりと現実とリスクというのをうまく踏まえて書いていただくといいなと思います。

【佐藤部会長】
 袖山課長からおっしゃっていただきましたように,この点,今後議論を進めたいと思います。私,基盤研究(C)のような小さな研究の場合,日本人だけの研究になる場合もあるとは申し上げましたが,世界で同じような研究をしている方がいるのだから,コラボレーションすることによって,その研究が新たな方向へ発展をする可能性があります。そういうふうに世界中に共同研究者を求める活動をすれば,研究のレベルが上がって,すばらしい研究ができるわけですから,世界中に共同研究者を求める努力は必要です。
 それでは,次は,3番,科研費において当面講ずる制度の運用改善についてでございますが,いかがでしょうか。

【柘植委員】
 先ほど,いわゆる国際共著論文の話のところではなぜこういうことが大事なのかというのを頭に数行書くということだったと思います。それを受けて,この国際化の進展に対応した科研費の在り方の中でも,どこかにそれを,我々の課題として残すというのをこの3章でも是非。2章では,課題設定の背景,認識は書いたけれども,今後どうするかという話は,13ページのところ以降のどこかに残してほしいですね。そうすると忘れないと思います。

【奥野委員】
 最初のところで谷口委員がおっしゃった,冒頭で大学というのは社会と少し切り離された存在になっているとしているがそれはおかしくて,社会と密接に協力しながら基礎研究というのはつくっていくものだと。だから,むしろ山中教授のiPSもそうですし,山海教授のロボットスーツもそうですし,「はやぶさ」などでもある意味でそうですけど,社会のニーズがあるからこそ基礎研究の意味が出てきて,基礎研究があるから,今度は社会的によいものが還元されると。そういう社会と科学との,あるいは学術との間の循環といいますか,相互依存といいますか,そこをもう少し強調すべきだという御意見があって,それは私,非常に感銘を受け,また,非常に大事な点だと思いました。
 それから,2番目の髙橋先生がおっしゃった国際化ということに関して,国際共同研究ということだけに関わるのではなくて,ネットワークをつくるというようなことの方がむしろ重要であるというお話があって,そこも,私,やはり少し気になっておりまして,佐藤部会長がおっしゃった基盤研究(C)なども,もっと世界的なことをみんな考えるようになった方がいいとおっしゃることは,まさにそうなのですが,では,今の日本の若手研究者がそういうことをやろうとする気概を持てるような社会になっているかというところは,非常に疑問です。
 そういう意味で,今の柘植委員がおっしゃったこともそうだと思いますけれども,要するに,グローバリゼーションといっても,受け身で,外国人に科研費をつけましょうという話よりも,科学研究,それに対する資金援助というようなものを通じて,社会をもっと活性化して,その中で科学を生かしていこうではないか,あるいは,科学がまず率先して日本の社会の閉塞感というものを打破していこうではないかというような,もう少し積極的な前向きな思考というものを,全体のこの文案の流れの中に入れていただけると,気持ちとして明るくなって,それこそ閉塞感が少し打破されるかと。そのために科研費があるのだという,そのぐらい強いメッセージを出していただけないものかなと思っていました。今の段階では時遅しかもしれませんが,できるだけそういう方向をお考えいただければと思います。

【西川委員】
 この部会は,もちろん科研費を中心とした研究費部会ですから,科研費によってどういう効果が現れたかということを検討することはもちろんです。その一方,私たちが論文の数,あるいは質といったものを議論する場合に,その原因を分析することも重要と思っています。現在の状況をみると,お金がなくなったからではなくて,むしろ忙しくなり過ぎてということがあり,これは,研究者すべての実感だと思います。こうした分析が何か生かされるような格好であったらいいなと思っています。
 現在の大学教官は,それから他のプログラムやプロジェクトへの申請,採択されたらそれはそれでの膨大な事務的業務,そうした状態で本当にあっぷあっぷしてしまって。本当に質のいい,じっくり腰を据えた研究というのがなかなかしにくくなっているというのが現実としてあると思います。
 私は,今回通る研究大学強化促進事業に大いに期待しているのですが,是非それで日本の研究者,大学の教官,皆忙し過ぎると思いますが,それらが,URAシステムの導入や推進でどれくらい改善される方向にいくかということを追跡調査するような仕組みをつくっていただけたらいいなと思っております。

【佐藤部会長】
 最後に,研究力強化の事業の報告もあると思いますので,また,それの評価もいずれあると思いますので,先生のおっしゃったことを取り入れたような格好で進むことを期待しております。

【柘植委員】
 今の西川先生のおっしゃった話ですが,確かに,これを読む人がリマインドされるかどうかを一度チェックした方がいいかなと思います。
 外では,御存じのとおり研究大学強化促進事業,あれはリーディング大学をサポートしたのですけれども,それ以外の大学でも,同じ趣旨でリサーチ・アドミニストレーター,ユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーターをもっと増やしています。昨日発表されたのは上位だけでして,上位は頑張ってもらわなければいかんですけれども,しかし,裾野を支えている大学にも,研究者の本当に研究への専念度,クオリティも上げてもらうような施策は,URAの制度,かなり広くやっていまして,御指摘は私も思いますが,この資料に,そういう施策がされているので有効に活用してくださいよとか,それが本当にうまく有効にされたかどうかトレースできるような,そういうようなところが研究者から見ても読めるようになっているかというのは,一度チェックされたら価値があるかなと,感じました。

【袖山学術研究助成課長】
 研究大学強化促進事業との関係については,12ページに,大型のプロジェクト経費が措置をされていたとしても,結局,そのことによって逆に大学全体のマネジメントがうまくいかないような場合もある,そのようなところを改善するという観点からもこの研究大学強化促進事業というものが必要であって,これについては拡充も必要だというような切り口で書かせていただいてはおります。
 一方,研究費という切り口以外にも,学術研究振興という観点からの研究環境改革の必要性でございますとか,今お話に出ましたような研究者の多忙の解消といったような,非常に重要な観点もございます。そういったことについては,もし必要であれば,第1章のところで少し付言しておくことも検討したいと思っております。
 また具体的な案文でもって御相談をさせていただきたいと思います。

【谷口委員】
 先ほどの奥野先生がおっしゃったことと関係しますが,みんなが元気が出るということが非常に重要だと思います。先ほど論文の数の問題とか,いろいろな問題も出てまいりましたけれども。
 例えば,この前,アメリカの研究者がやってきて話をしました。近隣諸国とかいろいろ回って日本にもやってきたということです。そこで,文科省でもいろいろ議論があって,論文の数でどこかの国に追い抜かれたとか,これから日本のサイエンスはどうなるんだという議論もやっているということを申しますと,彼が言うのには,それは違うのではと。論文の数は確かに重要ではないとは言わないけれども,やはり品格が重要だと言うのです。日本の学問,科学というのは,やはり品格があると。よその国と比べてとは彼は言いませんでしたので,そういうつもりで申し上げているわけではありません。ただ,それを聞いて,私もなるほどという気がしないでもない。
 自画自賛となってはいけませんが,やはり日本の学問というのは,それなりの尊敬を世界から受けていて,それを築いてきた基本がやはり科研費にあると私は思っています。だからこそ発展させなければいけないという文脈で,これからの日本の学問の在り方を考えたときに,品格という言葉がいいのかどうかは分かりませんが,それに象徴されるような,やはり日本独自の在り方,それで世界と協調するという,その在り方こそが大切なのではないかと思います。
 というふうな前提の下に,できましたら,あえて奥野先生の御意見等をお伺いしたいのですが。今皆さんの議論を聞いていて,もう一度見直してみますと,1ページにある学術研究のかけがえのなさという,この流れはどちらかというと理系に見えます。ですが,あえて申し上げれば,日本にもし品格があるならば,それはやはり人文・社会科学が強いからだと思います。これは文部科学省がひたすら学術を,大学を支えてきた,その発展を支えてきて,その中にいろいろな思想が生まれ,哲学が生まれ,文学が発展し,そういうことがあったからこそ,理系と一緒になって日本の今の学問レベルの高さを生み出しているのではないかというように私は思いますね。そういうことが,この前半のところから少し希薄な感じがする。
 つまり,社会科学や人文学の重要性というのをもっとうたっていいのではないか。そういう研究を支援するのは,競争的資金では科研費以外にないでしょう。そこがやはり科研費の重要なところでもあると。基盤経費も含めて,それこそが国の品格をつくっている基盤になるのではないかと私は思うのですが,先生,いかがでしょうか。

【奥野委員】
 私の専門である経済学というのは,どちらかというと,人文・社会学の中では一番理科系に近い学問であるのですが。
 私自身は,日本の品格も大事ですが,日本の欠陥というものもやはりもう少し見る必要があるように思います。
 経済学で非常にドラスティックに大きな社会的な貢献を行った基礎研究というのは,多分,この10年間に世界的に言えば二つくらいあって,一つはオークションです。これは典型的に言うと,電波をオークションするということをして,電話回線,携帯電話などは全部電波が必要ですから,それを政府が適正な価格でみんなに売るわけです。それでもって税金を大体10兆円とか20兆円レベルで節約した,要するに,周波数オークションの収入を上げたというようなことを,アメリカやイギリスはやってきた。一方日本では,総務省は反対して,ずっとやってきていない。でも,そのそもそもの研究は,実はもう本当に基礎研究,経済学者がやった基礎研究というところから始まって,それが産学連携のような形で社会と接点を結んで政府が使うことになって,それを,別にNSFが始めたような基礎研究を電波管理局が事実上はやるというような形でやっていったわけです。
 もう一つが,マーケットデザイン。去年のノーベル経済学賞を取った研究で,簡単に言えば,これでもってある業界の就職市場というものが非常にうまく機能するようになった。これもまた非常に基礎的な学術研究から,社会に非常に有効なものを生み出したというような研究があるわけですね。
 ですから,まさに基礎研究だから大学のものだ,社会ではできないというのではなく,むしろ社会-大学-社会-大学という,こういう連関ですよね。しかも,社会が必要なものに対して基礎研究のお金をどんどんつけて,やりがいがあるというようなものを一生懸命にやる。それを,今度は社会の方が積極的に生かしていく。場合によっては,企業と大学との連携も深める。そういうようなものを,もう少し科研費というものも考えてもいいのではないだろうかというのが私の一つの問題意識としてありますというのが1点。
 それから,もう一つの国際共同論文などで考えると,やはり留学の問題というのは非常に大きくて,少なくとも私の分野ではアメリカとかヨーロッパの大学は留学生が非常に多い。そうすると,先生自身が大体その国の人とは限らないわけですけれども,その人と,当然,異なる国籍の学生,この人たちが共同研究をやって,しかも変な師弟関係ではなくて,本来の意味での共同研究というものができる。これは,日本にはなかなか留学生がやってこないし,やってきても師弟関係の中に巻き込まれてしまって,共同研究という形にならない。
 そういう,科研費を生かす社会インフラというようなものがどうも十分にできていないといいますか,そこを,来年以降に問題意識として是非事務局にもお持ちいただきたいと思います。そういうことから先ほどの発言をいたしました。谷口先生の御質問のお答えになっているかどうかは分かりませんが。

【佐藤部会長】
 奥野先生の分野は,文化系であってもおっしゃるように理科系に近くイノベーションにも関係しますけれど,インド哲学などの分野になりますと,全くイノベーションには関係ないけれども,日本の学術の本当に深層,奥深いところを支えているわけですよね。ついついイノベーション絡みになってしまいますので今回のところでは書きにくいところですが,文化系のそういう話は加えることはできますか。

【袖山学術研究助成課長】
 個別具体にというよりは,科研費全体として,そういうところまできちんとサポートをしているという,学術研究としての科研費の意義というようなところも含めて記述を工夫してみたいと思います。

【上田委員】
 今,非常に本質的な議論がかなり行われていたように思います。基礎研究が社会につながるというようなことをメッセージとしていくというのは,非常に重要なことだと思います。
 ただ,例えば,そういう言い方をしても,一般の人が本当に納得感を持てるかというと,必ずしもそうではない。それは言葉の上でのあくまでも説得みたいなものであって,やはりもう少しエビデンスベースドで,実際,例えばiPSなど分かりやすいですね。再生医療で難病が治るのだ,これは是非やってほしいとか。
 だけども,余り社会に役立つとか,そういうことを言い過ぎると,当然,次の結果として,何があったのですか,今までの科研費で社会に役立つもの,私たちが有り難いと思ったものはどんなものがあったのですかということを列挙しないといけなくなる。これはある程度列挙しないといけないのかもしれませんが。
 では課題は何かといったときに,今の資料では表層的で,例えば,論文数が少ないと言われていると,それに対してこうだと。共著論文が少ないと言われて,それに対してはこうだと,やや言い訳っぽくまとめているような感じがあります。先ほど質問のあった,国際共著論文が少ない多いというのは何を論点にするのですかというような視点が抜けているのと同じで。
 ですので,科研費がこれからもっと若者を育成するだとか,社会に貢献するだとか,元気を与える,活力を与えるんだとかというのだったら,現状は今どうだという分析をもっときちんとそういう面でされていて,そういう記述があって,それに対して,こういうことを本当に取り組むのだというような,そこまで踏み込まないと,先ほどの議論はここだけの議論になってしまって余り伝わらないのではないかということを少し申し上げます。

【髙橋委員】
 そういう議論に関しては,本当にもう根が深くて,もうおっしゃるとおりだと思いますけど,前回でしたか,私がアメリカのスミソニアン博物館議論を持ち出したのは。ティラノザウルスの全骨標本を前にして,この恐竜が社会の何に立つのかと言う人は,恐らく全世界に誰もいないわけです。
 それは分かりやすい例ですが,私は今悩んでいるのは,私はいろいろ立場的に,高校生などを前にお話をすることがありますが,今私は実験をやっています。私の専門は発生生物学です。それを一所懸命分かりやすく言って,これがこういう病気を治すのに役立ちますというやり方もあるかもしれません。だけど,それをあえて言わずに,「ほら,面白いでしょう。あなた方は何を感じますか」という実験中なのです。今のところの答えは,やはり子供たちは,「うわあ」と感動してくれます。
 私は,こういうことが,やはり今言われている理科離れを防ぎ,あるいは,もっと論理的な思考を育む――もちろん,そこには夢もロマンもあります。そのための科学であると。これがやはり私は,何のためのと言われたら,それに尽きるというふうに信じて,この会議に出させていただいておりますし,日々の活動をやっています。
 もっと言いますと,例えば,私,NHKスペシャルの取材を受けようとか思っているのですよね。やはり国民に,こういう美しい発生の映像を届けたいなと。なぜなら,私は10代のときにそういうので育ちましたから。これは今度頑張らなくてはと思うのですが,何といっても時間がない。科研費の報告書も書かないかんしなとか,中間報告もたくさん書かないかん,困ったなと。これが大きなジレンマなんですね。それは西川先生がおっしゃった,まさしく今そこで私は大きな問題を抱えています。
 だから,そういうことを,いろいろな,少しでも――京都大学も人員削減で,事務の人がいなくて,それでてんてこ舞いをしているから,NHKスペシャルに出られない。そうなのですよ,本当にね。だから,全部ここに含まれている。そういうふうなことを,やはりいろいろなところで訴えていきたいなと思います。
 ですから,社会への還元という意味において,私たちは科学をして,とにかく若者を育てて,夢のロマンと科学的論理思考で,そして,正しいことを考えられる人間を育てるのだと。これが科学の,学術の一番の役割であり,それがなくなると,いかにこの5年間の中にiPSができ,何とかが治っても,20年後の日本はないということですね。
 もう一つ,今の17ページ,若者の支援のところ,日本学術振興会のことが触れられておりまして,日本学術振興会の特別研究員PDでも科研費に出せるようにしたらいいのではないかという議論が出ました。それに関して,全くよろしいかと思います。
 そこのくだりで,17ページの(ア)現状のすぐ下,この3行目の,様々な競争的資金により雇用されているポスドクが増加しており,それらのポスドクは科研費を含む他の競争的資金等に応募できることが多いという実態があるようですが,実は,これもあんまり徹底されていないと思います。できているところもあるのでしょうが,研究機関によっては,割と勝手な解釈をされているのではないでしょうか。私の身近なところ,何大学とは申しませんが,いろいろな意見が分かれていて,なかなか科研費で雇ったポスドクがほかに出せない,あるいは,いろいろな大学で特任助教とかあるようですけれども,その助教が,やれ教育したら科研費からの給料を減らすだとか,エフォートだとか,本質とは全く違うところで若者が困っています。
 ですから,私は日本学術振興会のことに意見をしているのではなく,ほかのところはオーケーだというところは,これは若干認識が違うと思いますので,ここに書くかどうかはともかく、よろしくお願いします。
 そして,先ほどから出ております国際化などにつながることで,また今後の課題だと思いますが,今よりももっと取れた科研費で若者を,例えばポスドクを雇うのであれば,海外にどんどん出て,コラボレーションとまではいきませんが打合せとか何とかいうのを更にもっと建設的な意味で推奨するような方法もあるかと思います。谷口先生,奥野先生が言われたような,若者を元気にする方策としては,そういうのもあるのかなと。もう少し私たち知恵が出るかなという希望を持ちましたので,今後何か考えていくという中に,是非ともそういうのを盛り込んでいただければと思います。

【袖山学術研究助成課長】
 具体的に御指摘のありました応募資格うんぬんのところについては,ほかの競争的資金の状況を詳細に確認したわけではありませんので,応募できないものもあるかもしれませんし,また,その応募によっても細かい条件等をつけているようなものがあるのかもしれません。科研費については特段そういうことはないわけでございますけれども,一方で,そこの応募できるということを十分に研究機関に周知されているかというところについては,課題があるやもしれません。そこについてはきちんと対応していくとともに,そういう実態を踏まえて,書きぶり等についても,これで誤解を生むようなおそれがあるようでしたら,少し調整をしたいと思います。

【佐藤部会長】
 若手の方に入っていますので,そこも含めて議論をお願いしたいと思いますが。3の(2)はどうでしょうか。

【平野委員】
 資料2-2の16ページ中段ぐらいに,これは女性の方たちも含めてなんですが,やはり前から気になっていた点です。ここで指摘がありましたような「LaborからLeader」へというのは,ここでも生きていくのでしょうか。基があるものですから,あのときから私は気になっていたのです。先ほど建議の頭を大事にして,ここに入れ込んでと言いながら気になっていたのは,この点です。前回のところで局長からも説明があったのは議事録から理解はしておりますが,ここはどうされる予定なのでしょうか。どうもLaborと思っていますかね。もう1回ここで言っては悪いのですが,ちょっと納得できない。

【山口企画室長】
 御指摘ありがとうございます。外国人研究者のところで直した書き方で平仄を合わせることで,御懸念を引き起こすことのないようにしたいと存じます。

【佐藤部会長】
 外国人は除いたが若手と女性については載せているのは,何か少し見識が違うということになってしまいますので,御配慮をお願いします。
 若手,また,その次にある新研究分野支援のための科研費の在り方につきましても御意見を賜りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
 新研究分野については,特段というか,赤字を入れている資料2―1では,24ページのあたりに結構変更,修正していただきましたけれども,よろしいですか。
 次の倫理のお話に移っていきたいと思います。これはもう昨今新聞をにぎわせている課題でございまして,先日,本部会におきましても随分議論したところであります。御意見をいただければと思いますが,いかがでしょうか。

【谷口委員】
 今後の対応方針のところですけれども,26ページの上から9行目あたり,「なお,教育プログラムを導入する際には~」という文章があって,この文章が全体的に少し長いのと,下手をすると誤解を招きかねないという印象を持ちます。ここは書きぶりを検討していただいた方がいいのではないかと思います。
 まず,気付いた点を申しますと,若手研究者がモチベーションを損なわないようにというのは確かにそうなんですが,ここで求められているのは,若手研究者がチャレンジ精神を持ってやるということを求められていると思うのですね。その後で述べられておりますように,科学というのは多くの試行錯誤によって進歩するものであって,絶対的真理を追究するものではないわけです。やはり今日の真実が明日の真実で塗り替えられるといったような,その繰り返しがあるからこそ,たゆまぬ知の創造というのが学術研究で必須であると。それこそが国の原動力を支えているのだというのが,科研費等における根幹にある考え方だと思います。そこが少し誤解されるのではないかという気がいたしますので。
 例えば,あえて御提案することがあるとすれば,「若手研究者がチャレンジ精神を持って研究を遂行するようなモチベーションを損なわない配慮が大切である」とか,「大切である」で,もうポチで切ってもいいと思いますね。特に科学は言うまでもなくでもいいのですけれども,絶対的真理が何とかとかいうようなことを書いていると,科学と宗教なんて問題になってしまうので,「科学はむしろ多くの試行錯誤によって進歩するものであり」でいいと思いますが,そこで「誤謬を恐れてはならない」と。つまり,誤謬というのは不正とは違うのだということを書いていただいた方がいいので,「意図的な不正と結果としての誤謬の違いこそが重要である」となるのと,微妙なニュアンスの違いといいますか,我々が言いたいこととは違うのかなという気がします。なかなか名文が思い当たりませんが,下手をすると,不正と不正の結果としての誤謬というふうにまさか取る人はいないでしょうけれども,そういう危惧を覚えますので,その辺,少し書きぶりを検討していただけると有り難いです。

【佐藤部会長】
 要するに,チャレンジする心を持ち続けることが必要であるということですよね。

【谷口委員】
 だから,仮説を立てて,チャレンジをして,その開発が間違っていたとしても,別の仮説によって塗り替えられるということこそが科学の原動力になるというようなことがよく理解されるということが重要で,それを,不正と間違えて,間違いを犯したらいけないからもう教科書どおりの実験をやりましょうぐらいの感じになってしまうと,研究の進展はおぼつかないと,そういうことだと思います。

【平野委員】
 私も今の谷口委員に全く同感であります。特に,反省はしつつ,変な意味のシュリンクは避けなければいけないと考えます。そういう意味で,評価部会においても,リスクの大きい課題についてであったのですが,どのようにほかの方に波及していくか,そういうこともきちんと見ましょうという議論をされているところであります。
 それからもう一つ,最後の丸のところが気になります。何となくこれを読むと,こういうことをやっているのが不正の背景だというのは,これは少し飛び過ぎではないかと思います。上で,機関を含めてどのように対応しなければいけないということが丁寧に書いてあるのですが,最後だけがどうも。それでは一体何を入れたらいいかというのが非常に問題でありますが,論文成果主義だけでは駄目だということは事実でありますが,これも書かないと成果も問わないのかとなります。それについては,できれば,評価部会からの答申で両面きちんと書いてあるので,文章として参考にしてもらえばどうかと思います。これだけでいくと,これが今の不正行為の背景なのだというふうになるのは,少し誤解を生ずるのではないかと考えます。
 それから,例えばある国のように,この研究費,これだけの規模の研究費だったら,SCIレベル論文何報が義務であるというような,主旨を間違えてリードすることになります。

【奥野委員】
 経済学の立場でお話をすると,どうも誤解をされるおそれがあるのですが。
 25ページの留意点の三つ目に書いてあることで私が少し心配しているのは,研究者倫理教育ということを余り強調し過ぎると,結局,そのためにまた時間が食われて,何のために研究をやるのかという話になってしまう。
 それから,悪いことをした人には何か罰を加えなくてはいけませんが,そういうときに,前回お話しした脱税などの場合,それはそれなりに機能している一つの理由は,悪意のある大きな脱税をしたときには,重加算税といって脱税をした額の3倍,5倍という厳しい罰を与えられます。
 要するに,鉛筆1本ちょっと私用に使いましたというようなものは,これは誤謬でもありませんが,かといって,そんなに気にしても始まらない,それこそここに書いてあるみたいに社会的コストがかかり過ぎる。大事なのは,むしろ非常に悪意があって,非常に悪いことをした人に重大な,非常に大きな罰,刑事罰であるとか,そういうことをもう少し強くかけると。
 他方,本当に,誤謬という言い方がいいのかどうかは分かりませんが,チャレンジ精神でもって何かしてしまったというような人は,もうそういう人は別に気にしなくていいのではないかというふうに切り分ける。その理由として,もう少し社会的コストみたいなものを入れて,場合によっては,インセンティブとして,何か悪いこと,悪意を持って何かしようとしたときに,やはり降ってくる厳罰の可能性があるというのを見通すと,幾ら性悪説で考えても――性善説の人は当然そうですが,性悪説の人でさえ,みんなやはりびびるわけですよね。ですから,そういうことをもう少し書き込めないだろうかと。
 だから,むしろこの留意点の丸3みたいなものの並びとして,先ほど谷口先生がおっしゃったこと,平野先生がおっしゃったようなことを,もう少しうまく整理して書いていただけないかなと思います。

【佐藤部会長】
 ただ,チャレンジして誤謬があっても,そういう研究を発表するときには,誤差がどの程度あって,どのくらいの信頼性があるということも本人が書いてほしいですね。 
 それでは,本日の御議論を踏まえて,まず事務局において修正案を作成していただきたいと思っております。それを委員の先生方にお送りして,また御意見を伺った上で,部会長の私に一任,取りまとめることにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。

(異議の声なし)

 では,今言いましたようにさせていただきます。
 

(2) その他

事務局より,参考資料に基づき説明がなされた後,本部会全体のことについて委員より意見が出された。

【佐藤部会長】
 全体のことにつきまして,何か御意見とかコメントがございましたらお願いできればと思いますが,いかがでございましょうか。

【谷口委員】
 NIH構想と科研費の関係について,昨日,内閣府でのいろいろな議論があったというようなことを伺っておりまして,もし差し支えなければ,今どういう状況なのかということをお聞かせいただくと有り難いなと思います。

【袖山学術研究助成課長】
 日本版NIHについては,科研費との関係について,本部会でも御質問等があったかと思います。これについては,政府全体といたしまして,健康・医療戦略推進本部というものが立ち上がり,昨日第1回の会合があったと承知をしております。
 その中で,日本版NIHの考え方の基礎となります,各省が所管する医療関係の研究開発予算の一元化ということについて来年度に向けた方針というものが示され,その中では,この科研費はその一元化の対象とはなっていないと聞いているところでございます。
 したがいまして,御心配いただいたような形で,科研費に係るいわゆるライフ系の予算がそちらの方に移管されるということはないわけではございます。しかし一方で,我が国全体の研究開発として,そういった医療分野の研究開発にどう貢献をしていくか、具体的に言いますと,NIHの研究開発に科研費からどうつないでいくかというところについては課題であるというような指摘も受けておりますので,そういった体制をどう整備していくかについては,審査部会などでも御議論いただかなければいけないのではないかと考えているところでございます。

【佐藤部会長】
 それでは,ほかに御意見ございませんでしたら,本日の審議はこれまでとします。


―― 了 ――

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