第7期研究費部会(第3回) 議事録

1.日時

平成25年6月26日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3階1特別会議室

3.議題

  1. 科研費等における研究活動の不正行為防止のための取組について
  2. 我が国の論文生産への科研費の関与状況等について
  3. その他

4.出席者

委員

佐藤部会長,甲斐委員,髙橋委員,柘植委員,金田委員,小安委員,谷口委員,上田委員,山本日本学術振興会学術システム研究センター科研費ワーキンググループ副主査,佐久間日本学術振興会研究事業部長,富澤科学技術政策研究所科学技術基盤調査研究室長,市川信州大学医学部特任教授

文部科学省

袖山学術研究助成課長,山口学術研究助成課企画室長,生川振興企画課長,佐藤科学技術・学術政策局基盤政策課人材政策企画官,他関係官

5.議事録

(1)我が国の研究開発力の抜本的強化のための基本方針について

事務局より,参考資料1に基づき説明が行われた後,質疑が行われた。

 

【佐藤部会長】
 事務局から説明がありましたとおり,若手研究者の支援や国際化の動向に対応したトピックスにつきましては,後ほどこの場で議論することになっております。その他全体につきまして,ただいまの総会の決定につきまして,御質問とか御意見とか伺えれば有り難いと思っております。

【北岡(伸)委員】
 1ページ目の下から3行目の英語対応というのは,具体的にはどういうことでしょうか。申請書を英語で書いてもよいということでしょうか。

【山口企画室長】
 はい。主にその点を含めて,後ほど議題で具体的に取り上げたいと思います。

【北岡(伸)委員】
 私が今,学長をしている大学は外国人教員が大勢おりまして,いろいろな申請書を出すのに,結局,日本語を操れる教員が随分手伝わないとできないというのが多いです。それをなるべく簡素化していただければ有り難いというのを申し上げたいと思いました。
 それから,6ページの一番後の11に,初等中等教育段階におけるうんぬんというのがありますが,私が今まで教えた中でやはり一番伸びたのは,大学一年生のときに教えた学生です。大学一年生のときに新鮮な刺激を与えて,研究,学問って面白いんだと思わせることが非常に効果的なので,これは多くの中の一つというよりはもっと強調していただけると有り難いと思います。

【佐藤部会長】
 どうもありがとうございました。前者につきましては,今日の大事な議題の一つでございますので,後ほど詳しい報告があるかと思います。

【山口企画室長】
 本来冒頭に申し上げるべきでしたが,前回,金田委員からこの総会ペーパーにおける研究開発力の定義について御質問がございました。厳密な定義があるわけではございませんが,いわゆる研究開発力強化法というのがございまして,基本的にはそのイメージ,すなわち,大意は,科学技術に関する研究又は開発の成果の普及,実用化などを行う能力ということでございます。ただし,法律では人文科学のみに係るものを除くということになっておりますが,ここではもちろん科研費を扱っていることからしましても,全分野を含んだ議論であると,最後の点を強調して御報告申し上げたいと思います。

【佐藤部会長】
 学術分科会の下にある部会委員にとりましては,開発力と言われると何となくちょっと違和感を覚えてしまうのではないかと思っております。
 それでは,議題に入っていきたいと思います。

 

(2)若手研究者への支援について

 事務局より資料2,3に基づき説明が行われた後,更に日本学術振興会より資料3に基づき説明がなされ,質疑が行われた。

【梶山人材育成事業部長】
 日本学術振興会で人材育成事業部長をしております梶山でございます。私から,特別研究員制度の改善の方向性について御説明させていただきたいと思っております。
 今御覧いただきました資料3の後ろに,日本学術振興会のタイトルで「特別研究員制度の改善の方向について」という資料が載っております。こちらを御覧いただければと思います。
 特別研究員制度でございますが,今お話しいただきましたように,昭和60年に創設以来,大体30年たちました。ただ,様々な流れの中で現状を見てみますと,競争的資金で雇用されるポスドクの増加に伴い,その在り方を再考する時期に来ているのではないかというところから,私ども日本学術振興会において特別研究員制度の様々なプロセスに関与していただいております学術システム研究センターにおきまして,議論を重ねたところでございます。今回その方向性についてまとめたところでございまして,それがこのペーパーです。
 まず検討において個々の項目に入る前に,特別研究員制度の目的,それから意義について再確認させていただいたところでございます。大きく言いますと,この中に書いてある枠囲みにありますけれども,若手研究者が自らの発想と研究意欲を基に自立した研究者として育ち,将来的に独立した研究者の育成を図る。ここに私ども特別研究員制度の意義が非常に大きく,そこを充実していくべきではないかと,そのような議論がなされたところです。
 具体的には,皆様御承知のところだとは思いますが,個々の研究者の自由な発想と研究意欲が学術研究の源泉ということでございまして,研究者の存在があって初めてその成果が期待できるというところでございます。今後の水準を高めていくために,若手研究者を適切に育成・確保し,その自立を促していくことに関しては,学術研究の基盤の強化,我が国の社会・経済の発展に欠くことのできない要件であるということ,若手研究者につきましては,将来の研究の中核となるばかりでなく,現在の担い手でもあり,新しい発想や研究の新しい展開を生み出す可能性を持っている。したがって,研究者の養成・確保の観点から,必要な経済的支援をしつつ,研究に専念する機会を与えまして,若手研究者が自立した研究者として育ち,将来的に独立した研究者へ育成するための適切な支援を講じるということはやはり学術研究を発展させるための重要な課題の一つであろうと。そのようなところを考えて特別研究員制度を位置づけようというところです。
 ただ,先ほど話がありましたように,競争的資金で雇用されるポスドクの方々も増えていますが,その方々というのは,やはり競争的資金の目的に沿った研究を実施する方々です。これに対して,特別研究員の方々について,個々の研究者の発想に着目し,多様な研究分野を分け隔てなく継続的な研究の推進を図り,裾野の広い研究体制を構築すべく支援を実施するということが,私ども振興会に課せられた使命ではないかと。したがって,繰り返しになりますが,自らの発想と研究意欲を基に自立した研究者として育ち,将来的に独立した研究者へ育成するということをより明確にした制度の改正を検討していく必要があるのではないかというところが議論の大前提となっているところです。
 そのために,2以降の個々のことに関して検討したところですが,特に本日関連の深い点といたしまして,2ページ目の4「多様な機会の提供と流動性の向上を介した,自立した若手研究者への成長を促す制度」というところを御覧いただければと思っております。そこのことに関しまして,以下の3点,研究機関移動の要件化,それから,採用期間の5年化,科研費の他の種目への応募というところについて検討しましたところです。
 まず,一番上の研究機関移動の要件化というところですが,先ほど来申し上げますように,若手研究者が自由な発想で自由な研究を行う自立した研究者ということを進めていくためには,異なる研究環境下での研究活動を経験することが重要ではないかと。現在,私どもの特別研究員のPDについては,博士の学位取得時と異なる研究室で研究を行う研究室移動を位置づけているわけですが,むしろ研究機関を変えて研究活動を行っていただく,より自由な,今までの研究をより大きく発展させる新たな課題に取り組んでいただく,そのような機会を与える制度としてこの特別研究員制度がよいのではないかと。そのようなところから,研究機関移動の要件化を考えたところです。
 次のページを御覧ください。先ほど来,研究機関の移動とともに研究期間が短期の支援の場合,どうしても大きなテーマを選びにくく,小さくまとまったテーマに偏りがちになって,真(しん)に独創的な研究を行いにくい環境になるのではないか,研究機関を変える場合には,立ち上げから成果に関して研究期間が長くなるのが一般的であると,こういうことから,採用期間を5年間として,移動後に若手研究者が安心して研究活動に専念して,研究者の育成を図るというような制度にすることを検討したところでございます。ただ,5年間という場合には,今までよりも若干長くなるわけでございますので,3年目に評価を実施して,評価によっては継続支援を行わない場合もあり得るのではないかと,このようなところを検討したところです。
 それから,(2)でございますが,これが本日御検討いただいているところです。今申し上げているように,様々な若手研究者の方々が自立して多様な発想のもと研究を行うという際に,やはり研究費が非常に重要です。また,先ほど申し上げているような,研究資金で雇われたポスドクの方,こういう方々についても科研費へ応募できる場合が多いですので,PDに特別研究員奨励費以外の若手研究等の科研費に応募するということについては,当初計画に関連する想定外の研究着手にも可能とするとともに,より実を上げるような研究をしていただいて,優秀な研究者を育むことができるのではないか。このような観点から制度改正を行うことがふさわしいのではないかというようなことで御検討いただいたところでございます。
 関連してPDに関していえば,前に戻っていただいて,様々なキャリアパスの中で研究者になられる方が増えておりますので,年齢制限の廃止や,反対に,人文・社会科学においては特別研究員PDに関して今まで満期退学に関しても認めておったわけですが,実際上の人文・社会,それから他の分野の融合によってそこがちょっと明確じゃない部分も出てきているのではないかというところと,やはり大学における課程博士において一定の教育をされれば博士を取っていただくというのは重要なところでございますので,そういうような観点からも学位取得に限定するという方向でできないかというところについても併せて検討したところです。
 3を御覧いただければと思いますが,PDに関しまして,受入れ研究室において自立した活動を行っていただく,その方々の自由な発想のもとで研究を行っていただくというところはあるわけではございますが,PDの受入れ環境がそれぞれの機関によって大きな差がある場合が見られるんではないかと。最低限,こういうことに関して御配慮いただくとか,そのような事項について私どもからも呼びかけていくというようなところがあるのではないかというわけでございます。
 PDを中心に御説明させていただきましたが,PD,特別研究員が自由な発想に基づく学術研究を担うというところにつきまして一定期間の研究に専念するということから,大きな若手研究者のキャリアパスになっておるところでございます。そのキャリアパスを一層充実させる観点からどのようなことができるかということに関して検討させていただいたのがこのペーパーでございます。現在,このペーパーについては日本学術振興会のホームページに実は載せておりまして,自由に御意見を下さいと伺っているところでございます。御説明は以上でございます。

【山口企画室長】
 1点補足でございますが,今,日本学術振興会さんから御説明があったとおり,採用期間の5年化ということがもしなされるとすれば,それに伴いまして予算要求上どうするかという問題はございますが,科研費も基本的には奨励費を5年に延ばしてという感じで連動するのが自然体ではないかと今のところ考えております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。この特別研究員につきましては,この場におられるほとんどの先生方がお世話になったのではないかと思います。私自身ももちろんポスドクをやりましたので,大変お世話になりました。また,この精神も本当にすばらしいもので,今,梶山先生から説明がありましたように,独立した研究者ということで,世界に例を見ないような本当にすばらしい制度だと思うんです。ほとんどほかのポスドクはプロジェクト・研究者に直接雇われ研究課題に制限がありますが,本当に独立で研究できるということで,世界でも本当にユニークなシステムと思います。
 この議論をする前に一般的に今回の特別研究員制度にかかる改善の方向全般についてまず御意見をお伺いしたいと思うのですが,いかがでございましょうか。

【髙橋委員】
 大変すばらしいと思います。革命的な改革で,今,私も感銘を受けているところですが,研究室を変わる,変わらない,研究機関を変わる,変わらないところで若干気になったところを申し上げます。この理念は大変すばらしいのですが,研究機関となりますと,いろいろな大学,研究機関によって事情が違うかなと思います。
 一番大切なことは,今までやってきたことから大きく一歩踏み出して違う分野に若者として挑戦をするということを私たちは全面サポートするということであって,その一つは,研究機関を変えてみなさいよということなのですが,研究機関を変えるとなるとまたいろいろな裏技があるのですね。研究機関を変えると,同じ分野をやっているところが,京都から東京に行って同じ分野をやったりとか,様々,ああ言えばこう言うというのがあるので,研究機関を変えてというのはちょっとラディカル過ぎるかなと思います。
 ですから,その理念を絶対的にサポートしつつ,ここはちょっと緩やかな,具体的にはどうこうと申し上げられないのですが,実質的に同じ研究機関でも大きな分野を,分野を超えた融合,それから誰も今までやっていなかったことに大きくチャレンジする,こういうものはそれでもいいというか,全面,積極的にサポートするような,もうちょっとここは練った方がいいかなと思います。それ以外は大変すばらしいと思います。以上です。

【佐藤部会長】
 髙橋先生から研究機関を移動することについて御意見を賜ったわけでございますけれども,これは議論が結構いろいろあるのではないかと思いますが,いかがでございましょうか。

【谷口委員】
 年齢制限というお話も出ておりまして,これも髙橋委員がおっしゃったように大変画期的だと思いますが,確認ですけれども,今,若手研究(A)とか(B)というのもございますよね。つまり,若手の定義というのは何かということだと思うのですが,今回のこの書類に書かれていることは全くもっともなことで,年齢制限を撤廃すべきだと。つまり,若手研究者というのは研究者として若手なのであって,年齢的に若手だということではないという,そこを明確にというのはかなり大きな改革だと思うのです。ですから,ほかの科研費も,若手といった場合はそういうものを指すという定義でよろしいのでしょうか。
【髙橋委員】
 賛成。

【武川主任研究員】
 今,二つの点が出されましたので,学術システム研究センターのワーキンググループの中で行われた議論について若干御紹介をさせていただきたいと思います。
 最初の研究機関移動に関してですが,センターでは,人文から理工から幅広の分野の主任研究員がおりまして,当初はソクラテスとプラトンの例を挙げながら,師弟関係というのは永遠に続いた方がいいという議論もありました。しかし,実際に特別研究員の方々を調査した結果などを見ましても,移動してよかったというような意見が多数を占めておりました。
 それからまた,先ほど機関移動だと裏技というお話がありましたが,研究室移動という要件だけの場合の方が裏技的に実質的に変わっていないというようなことがより可能であるという観点から,この際思い切って機関移動という縛りをかけた方がいいのではないかという結論になった次第です。特に理科系の先生の方々から多かったのですが,全く新しい独創的な研究を行うためには,単に研究室を移動するだけではなくて,全く新しい環境に移って,場合によっては全く違う分野にチャレンジする。そうじゃないと本当に新しいものは生まれないのだというような強い御意見もございまして,最終的には,機関移動を原則とすると。ただし,昨今の事情から例外的に機関移動ができない場合もありますのでその点についてはよろしいのですが原則は機関移動でいくということに決まった次第であります。
 それから,年齢に関しては,科研費以外の各学会などでも,若手奨励賞などというのも,社会人入学の方々が増えてきているということもありまして,暦年齢ではなくて,修士修了後何年とか博士課程修了後何年以内というような形で要件化していくというのが一般的だと思われます。そういう中にあって,特別研究員も,暦の上での年齢ということではなくて,研究を開始してこれから発展していく可能性があるという方々を暦年齢にこだわらずにお助けするという趣旨がいいのではないかということで,暦年齢廃止ということになった次第であります。

【谷口委員】
 確認ですけれども,これにかかわらず,科研費全体で,若手と呼んだときはもう年齢制限はないという,そういう理解でよろしいのですか。違いますよね。それはやはり齟齬がないように。外国にもそんなシステムはないと書かれていますよね。そのとおりだと思います。だから,そこは本部会でこういうことをよく議論していただければよいと思います。

【袖山学術研究助成課長】
 方向性として,科研費についても,現在,特別研究員の方で検討しているような方向性を検討していく必要はあると思いますけれども,現状,一方では若手は年齢で切られている。その年齢を超えた場合に基盤研究でアプライできるという面ももちろんあるわけですし,研究活動スタート支援については年齢制限が特に課されていないというようなこと,そういったことの中で全体の採択率や,あるいは予算の配分の状況なども見ながら,併せて検討していかなければいけないと思っております。来年から直ちにそういった方向でできる状況では今はないと思っておりますけれども,日本学術振興会の特別研究員の制度と併せて,今後検討していきたいと思っております。

【谷口委員】
 今回は本件だけということに当面は限るという理解でよろしいですね。
 それから,先ほど髙橋委員がおっしゃった研究室の移動の件ですが,あえて申しますと,皆さんしきりに研究者の自由な発想とおっしゃいますけれども,本当にそれを尊重するのであれば,所属研究室で新たに自由な発想で研究するケースもあれば,あるいは逆のケースで,別の機関に行ったけれども,その機関では自由な発想というか,ボスの何とかでやったという,そういうケースもあり得るわけなので,それを審査するのは行政側が審査するとかそういうものではないわけですよね。やはり研究者としてちゃんとエバリュエートということが基本にあるということが私は大切だと思います。コメントです。

【小安委員】
 恐らく採用期間の5年化ということが非常に重要な点だと思うのですけれども,もしこれで科研費に応募できるとなると,今までのいわゆる単なるポスドクではなくて,これはテニュアトラックに近い,若手にとって非常に魅力的なシステムではないかと思います。ですから,これは是非進めていただきたいですね。いわゆるプロジェクトで雇われているポスドクとは明らかに違う制度となって,本当に独立した研究者への登竜門になるのではないかと思います。
 それからもう一つは,現在,労働契約法の改正が非常に大きな問題になっていますけれども,このシステムのある意味すごいところは,雇用関係がないところですね。ですからこの制度で,5年間で非常にいい成果を上げた場合には,例えばその機関で更に続けてやるということが比較的スムーズにできるという意味があると思います。独立したポジションを得るためには,逆に労働契約法の問題があったから魅力的になるというところがあるのではないかなと思います。特別研究員をやっている間に科研費に応募してそれを獲得できるということは,明らかに独立した研究者としての一歩を踏み出すということになりますので,やはりそれとセットでいくというのが,独立を促す,自立した研究者をつくるという点では非常に良いのではと思います。

【佐藤部会長】
  ちょっと細かな質問ですけれども,武川先生,機関移動は原則的にとおっしゃったということは,例外もあるということでしょうか。どの程度の例外がありますか。

【梶山人材育成事業部長】
 例えば身体障害のある方など,そういう場合や,『源氏物語』のこの写本を研究している,この写本はどうしてもここにしかないということであれば,それは当然そこでしかできませんので,研究室移動をしなくてもいい例として例示されております。

【佐藤部会長】
 それから,若手の定義の話ですけれども,いろいろな財団なんかでも若手支援をしているわけですけれども,そのとき,最近は,学位を取って何年以内,ただし,産休期間とか育休で研究できなかった期間は除くとか細かく規定しているところもありますよね。この場合,日本学術振興会で考えているのは,もう一切撤廃という感じで進めるという予定でございますか。

【梶山人材育成事業部長】
 学位を取ってから何年というところでございますので,その後に例えば育児になった場合でございますよね。そこについては,ちょっと検討していく必要があろうかとは思いますが,現時点では,申し訳ございません,考えていないところでございます。

【鍋倉委員】
 今の年齢の件ですけれども,基本的にこれはやっぱり将来,日本の研究を担う研究者を育てるという,育成というのが非常に重要なので,その点ではおのずと,例えば60歳の方が応募するとかそういうことで,客観的な評価がある程度できるのではないかと思います。
 それからもう一つは,5年という非常に長い期間,この間をどのように過ごすか。研究室移動もそうだし,特に優秀な若手はやっぱり海外ということがかなり視野に入ってくると思うのです。そのときに,海外に対して,今の海外ポスドクとの違いを含めて,例えば奨学期間に3年,4年行きたいというときにどうするのかと。当然,日本の研究を担っていただかなければいけないので,日本に帰ってきていただきたいのですが,5年の中で2,3年は行きたいということが結構出てくる可能性があるんですよね。それをどうするかということを教えてください。

【梶山人材育成事業部長】
 現時点では,3年間の中で半分,1年半,自由に海外に行っていただいてやることができるようになっております。今後,自由な研究を行いたいという点では,5年間にしたとしてもその性格は変わらないと思いますので,同じようなことができないか検討していくことになろうかと思います。

【鍋倉委員】
 その場合というのは,今,最初から行きたいとかいうのはどうですか。

【甲斐委員】
 私が言うことではないですけれども,最初から外国に行きたいときは,海外特別研究員制度が別個にありますので,そちらをとればいいんだと思います。このPDをとって外国に行けるのは半分までという二つの規定があるので,最初からずっと外国に行きたいときは,違う特別研究員をとればよいということじゃないでしょうか。

【小安委員】
 先ほど髙橋先生と谷口先生がおっしゃったことですが,今でも研究室移動を義務づけてはいますが,きちんとした理由を書けば,例えば加速器がここにしかないと書けば,良い訳ですね。これは審査をちゃんとピア・レビューでしているのですから,どうしてもやはりこういう条件で自分はここで独立したいということをきちんと書かれて,それを審査員が認めればできるというような余地は残されるという理解でよろしいですね。

【梶山人材育成事業部長】
 基本的にそういう性格は当然あると思いますので,そのことを前提に検討していきたいと思っております。

【奥野委員】
 全体の方向としてはいい方向で動いていると思います。さっきから出ているような,若手の定義とか研究機関の移動とか余り縛りはかけない方が,できるだけ自由にした方がいいと思います。
 それとの関係で,応募資格要件のところで,人文学・社会科学分野における特別研究員,PDの資格要件を学位取得者に限るということになっているわけですが,正直言って,人文科学,社会科学の,その中でも専門分野にもよるのですが,難しい面があるんじゃないかというのが私の印象です。
 なぜかといいますと,例をとれば,歴史学分野。私は経済学ですが,経済学の中にも経済史という分野がありまして,この分野では,欧米でもドクターを取るのに7年とか8年は普通かかるんです。だけど,それにこういう縛りをかけてしまうと,今,DCの奨学金というのは大学院の博士課程の3年しか出ませんから,その後もあと2年ぐらいどうしても博士を取るまでにかかるというのが実態だと思うのです。
 そうすると,その間,DCが終わってしまったけれども,PDがとれないということになりかねないので,縛りをもう少し弱くする。例えば学位取得者じゃなくて,学位が数年のうちに取得できるということを指導教官が何か紙をつけるとか,あるいは少なくとも最低限,何かもう少し弱い形の資格。要するに方向として,特別研究員制度というのをより多くの人に使えるような仕組みにしたいというのが今回の改正だと思うのですが,その中で,研究機関移動じゃないといけないとか今の話とかいうのは,むしろ少し縛りをかける方向のわけですね。そこがちょっと実態に即していないのではないかと,そこを私は非常に心配して発言させていただきました。

【佐藤部会長】
 既に十分議論されているのではないかと思いますが,いかがでしょうか。

【武川主任研究員】
 そういう形の議論はかつて私もしましたし,いろいろ出てきました。ただ,この制度が始まって,満期退学者も文化系の場合は応募資格に入れるというふうになってから既に10年以上経過していて,その間に学位取得状況が変わってきているということとともに,一応標準修業年限が決まっていて,いろいろな奨学金も含めて,学費免除制度も含めて,あらゆるものがそれを前提にして動いているという中で,その制度から逸脱するような形で学位取得を奨励するということが必ずしも大学院生の利益につながらないのではないかということなど様々な意見が出てきて,最終的には人文学・社会科学班でも意見を聞いたのですが,これに対する余り強い反対意見はなくて,むしろこういう方向で行っていいのではないかという結論になった次第です。

【奥野委員】
 だとしたら,例えばDCをもう少しまず先行で,やっぱり人文・社会科学の中でもいろいろな科目があって,一律に縛るのは少し無理があると思うのです。しかも,経過措置3年でもってやるというのは無理で,実態として学位が出るようになってきていることは事実ですけれども,出るようになってきているだけであって100パーセント出ているわけでは全くないわけで,これは少し無理がどこかで出てくる。ですから,DCの年限を科目によっては3年じゃなくて5年間出すようなとかですね,要するに3年で博士が取れないというのが実態としてある分野というのが結構たくさんあると思うので,そこを少し理解した方がいいのではないかと思います。

【武川主任研究員】
 その問題も議論がありました。実態として確かに,私は社会学の専門ですが,PDをとりながら,最初の1年か2年ぐらいかけて学位を取るというようなケースが多々あるということはまさにおっしゃるとおりかと思います。
 そういうことがあるので,いきなり制度を変えるということは難しいだろうということで,経過措置を置く必要があると。ドクター3年の学生にいきなり,「来年からもう資格がないよ」と言うのは,これまでの継続性という点から考えると難しい。ただ,修士を修了して博士課程に入る学生に対して,「これからは3年間でやっていってください」というようなメッセージをその時点で伝えておくということができれば,それはそれで受け入れ可能なのではないかということで,経過措置をとりながらそういう方向に向かっていったらどうかということです。
 あとは,人文・社会系の場合,どうしても時間がかかる。一つは,文学系ですと語学の習得に時間がかかるので,なかなか3年では難しい。3年にすると学位の水準が下がるのではないかというような懸念が絶えず寄せられて,そういう議論があるんです。ただ,実際のところ,それだけ年数が博士の学位を取るためにかかるということであれば,教育課程をそういう方向で,3年ではなく5年とか7年とかいう形で改めていこうという議論は,少なくとも私の聞いている限りでは一切ないです。
 したがって,センターの意見になってしまうか個人の意見になってしまうか分からないですけれども,とにかく博士課程5年間,後期課程3年間を経て研究者としてのライセンスを身につけてもらって,そこから,この特別研究員制度やほかの制度を使って更に立派な研究を完成させていただくというのが今回の改正の趣旨じゃないかなと理解しています。

【佐藤部会長】
 この議論は,これを参考にして日本学術振興会の方で御検討をお願いしたいと思います。

【髙橋委員】
 さっき谷口先生がソフトにおっしゃったのですが,若手の定義,私は極めてクリティカルだと思います。袖山課長が考えていらっしゃるのは分かりますが,これは早く動かないと。つまり,日本学術振興会のPDだけ変わってあとはもぐもぐやっていると,日本が変わったという印象は若者には来ないのです。全体がゴーンと変わると,「おっ,これは何か面白そうだ」と日本全体が動きますので,そうするとやっぱり研究の方に流れてくると思います。そういう全体のことをお考えくださって,すぐには無理かもしれないけれども,遅くとも1年後シンクロして動くということは極めてクリティカルですので,是非よろしくお願いします。
 もう一点,これは説明がなかったのですが,最後の3ページの5番。これはドクターの2年の5月に申請して,D3とD4,いわゆるD4でもらえる人が今たくさんいるのですが,これをなしにするということですよね。それでいいですか。

【梶山人材育成事業部長】
 はい。

【髙橋委員】
 これはかなり厳しくて,私,実際こういうのはたくさん見てきましたけれども,これじゃ全く魅力がないですよね。それから,1年ぽっきりで何かができると。現場としてはかなり魅力半減。つまり,もっと理屈をいいますと,例えば学部から大学院を変わって頑張ろうという学生がいます。それから,修士からドクターに変わって,それこそさっきの議論ですよ,場所を変わって頑張ろうという学生がいます。そういう人は,実際ものすごくできる学生でも,何だかんだといって,それなりのデータを出して,説得力のある申請を書いてとなると,彼らがドクターの2年の春ぐらいまでかかるというのもしょっちゅうあることで,その人たちの夢をわざわざ摘(つ)むということは今日の議論からは全くおかしいので,これはやめましょうとお願いします。

【梶山人材育成事業部長】
 想定するところを御説明させていただきますと,今,ポスドクの博士課程に関しては,DC1,DC2という制度がございます。DC2というのは,基本的にドクターレベルの2年生,3年生を中心に2年間の支援を行うんですが,3年生からDC2をとって,1年間だけ20万円出しますと。学位を取られてポスドクになられた方が,1年間,引き続き36万6,000円,PDのお金をもらうという取扱いになっておりまして,そのことについて,それが適切なのかどうかというようなところから,こういうような議論がなされたところでございます。

【髙橋委員】
 ドクターを取って,お小遣いが上がってとかいう,そこはカットしようということですか。それとも,1年間だけで終わるのですか。

【梶山人材育成事業部長】
 1年間だけで終わらせてはどうかと考えております。

【髙橋委員】
 それじゃ魅力半減ですよ。やはり学生のやる気がなくなってしまいます。私,そういう学生をいっぱい見てきて。ドクターを取れたらお小遣いが上がるというのは,それは確かに魅力です。でも,それはあんまりだというのだったら,それは議論の余地ありだと思います。でも,だからといって,D3だけで一年,それはちょっと論理のすりかえのような気がします。よろしくお願いします。

【佐藤部会長】
 日本学術振興会の方で詰めていただきたいと思います。

【濵口委員】
 すいません,プラクティカルな質問ですが,重複撤廃,申請可能にするというのはすばらしいと思うのですけれども,科研費の申請期間がひょっとしてPDの期間より長い申請が出てくる可能性があると思うんです。これはどう扱われるか。自立性を促すという意味ではサポートは必要だと思うんですけれども,かなり難しいハンドリングが要るだろうと。それからもう一つは,科研費を得た後で海外に行きたいという方に返上させるのかどうか。この2点をお伺いしたいのですけれども。

【袖山学術研究助成課長】
 科研費については,海外に行っている間は支給できないという形にさせていただかざるを得ないと考えております。
 それから,PDの期間よりも科研費が長くなるということは,当然それは想定されると思いますけれども,ある意味,逆に科研費は取得しているということをもって,先ほどお話が出たように,テニュアにつなげていただくというような側面も出てくるのではないかと。通常の科研費であれば,間接経費というところで機関の方に措置される分がございますので,ある意味,科研費を持っているということがテニュアのポストを得るということに非常に有利に働くという面もあると思います。そういったところで科研費を取得しているということをある意味積極的に生かしていただけるというのが,今回の制度の一つ大きなポイントになるんではないかと思っております。

【濵口委員】
 すばらしい御判断だと思いますが,実際の応募要領なりにしっかり明記していただいて,機関の責任者が「これは長過ぎるから駄目だ」とかいうような判断が出ないように是非していただきたいと思う次第です。

【金田委員】
 反応が遅くて申し訳ないのですが,奥野委員からの御意見に全く賛同だということで,是非考えていただきたいと思いますのは,特に人文系の場合ですと,3年で学位を取るということを前提にするということは,非常に有効な発想とか有効な議論を小粒のままで,あるいは未完成のままで学位論文にしてしまうということに結びつきかねません。やはり私は世界的な趨勢もそうだというふうに承知しておりますが,3年という限定を,学位取得上は教育システムとしてはそれで特に反対する原理はないのですけれども,ただ,通常2倍くらいの形で実際上有効な形で研究の成果が出るという猶予を是非とも認めるようなシステムを考えていただきたいと思います。反応が遅くて申し訳ないですが,そのことを人文系のところからもお願いしたいと思います。

【奥野委員】
 さっき髙橋委員がおっしゃった,5番のDCの博士課程在籍期間に限定という話も同じなんですけれども,博士課程を3年間に限定しているというのは,文科省とか今の日本の制度であって,その制度が実態に合っているかどうかということの方が本当はおかしいと思うんです。外国だったら,別に博士3年とか博士5年という大学もたくさんあって,1年や2年で博士が取れるところも山とあるし,7年,8年かけても全然文句を言わない,その間ずっと奨学金を払うという大学が幾らでもあるわけですよね。学問の実態によって全部,いい仕事をさせるためにどのぐらいの期間が必要なのか,それは全然違うわけですから,そもそも博士課程3年という話を頭に持ってきて,それでこういう縛りをかけるというのは全く本末転倒な議論であって,こういうのはやめていただきたいと思います。

【平野委員】
 思うところを簡単にお話ししたいと思います。こういうようにチャレンジングな提案を日本学術振興会でされてきたのは大変いいことだと思います。
 それから,今日の御心配もよく分かるのですが,私,是非きちっと皆さんに伝えておいていただきたいということがあります。小安委員が言われたように,心配している労働契約法に対する大きなチャレンジだと思いますし,懸念している問題へのチャレンジだとも考えます。問題点を指摘しないと,機関の長は分かっておるんですが,現場の先生方の御理解がないと採用形態を考えなければ思い違いが出てきます。そういう点ではどうあるかということをあらかじめガイダンスをされておかれることを望みます。

【北岡(伸)委員】
 奥野委員,金田委員の御意見に賛成だということを申し上げます。
 それから,急速な変化が過去何年かで起こった結果,大学の体制がついていっていないですよね。特に,申し訳ないけれども,きちっとしたドクター論文,学術論文を書いていない人が指導教授になってしまっているケースがいっぱいあるんです。玉石混交で一概に言えないですけれども,実務家,実務経験のある方を歓迎するという方向もあって,そうすると,その方たちは学術論文を書いたことがないという,そういうこともあって,あるいはかつて教養課程で教養だけを教えていて,学術論文があんまりないという方の中で指導され悲惨な目に遭っている学生はいっぱいいるということは申し上げておきたいと思います。

【佐藤部会長】
 文化系の方は多様で,なかなか難しいところがあることはよく分かりましたし,多分これも日本学術振興会の方では十分御認識はされていると思いますが,更に議論を詰めていただければ有り難いと思います。
 科研費につきましては,ほかに御質問ございませんでしょうか。例えば若手(A)・(B)とか,基盤(B)・(C)とか,新学術領域の研究領域提案型の公募研究,挑戦的萌芽研究に応募できるという形で種目を限っているわけですが,その他科研費に関することでは何か御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。大体妥当だとは思いますけれども。では,後の議題がありますので,この件は終わりにしまして,次に進みたいと思います。

 

(3)学術研究の国際化の進展に対応した科研費の在り方について

 事務局より,資料4に基づいて説明があった後,質疑が行われた。

【佐藤部会長】
 英語での申請,それから研究成果の報告の問題であります。日本語でないと国民に対する責任が説明できないとか,そういうこともあって議論をしていただいたわけでございますけれども,日本学術振興会より追加していただくことはありませんでしょうか。では,委員の皆様方から御意見を伺いたいと思います。

【小谷部会長代理】
 これから外国人を増やすという発言が安倍総理からもありましたとおりで,日本の国際競争力をつけるために,外国人の研究者を世界中から招く必要があると思います。私は,先ほど御紹介がありましたWPIにおりまして,やはり研究費の獲得に皆さん非常に苦労されています。その中で,科研費については英語での公募要項もあり,応募も可能ということで大変助かっております。これを他の競争的資金にも広めていく上でも,是非とも科研費がその先導的な役割を果たしていただければと思います。
 ここに書いてあることだけでも十分有り難いのですが,先ほど言及がありましたように,実は今,科研費の申請はウエブと申請書と2段階になっておりまして,ウエブの方は英語に対応していないのではないかと思うのですが,ウエブ入力時の説明,それから,ウエブの脇にも英語がないので,ちょっと苦労されているようです。そこは日本学術振興会だけではなかなか対応できないところかもしれませんけれども,お考えいただければ大変助かります。
 また,その先の話ですが,若手のスタートアップとしての研究費の在り方を議論いただきましたけれども,実は外国人,特に海外で経歴を積まれて日本に来たいという方にとっては,やはり日本国内でのコネクションが非常に薄いことから,スタートアップをまず得るというところで随分苦労されているようです。これはまたかなり予算等を伴う話ですので,いきなりここで議論いただくことは難しいかと思いますけれども,海外にいる研究者,海外から日本に定着したいと思われている方がそういうところで苦労されているということは御理解いただいて,いつか御検討いただければと思います。
 それから最後に,やはり日本の研究費のルールはかなり複雑なシステムで,外国人になかなか理解しづらいところもございます。それは担当の事務が説明するときに非常に苦労されていると思うのですが,幸いなことに,2007年からWPI研究拠点が五つありまして,そこではどこでもそういうことにある程度対応していると思います。その辺の情報を集めていただいて,研究費の使い方の細かいルール等の英語化を少しでも図っていただければと思います。せっかく国の予算を使って国際化をしているWPI拠点の実績を活用していただければ大変有り難いと思います。よろしくお願いいたします。

【梶山人材育成事業部長】
 私の担当とは異なりますが,日本学術振興会におきましてもWPI事業をやっております。日本学術振興会内において,全体として意見交流を進めていく,情報交流を進めていくというところの重要性につきましては,理事長も申しているところでございますので,関連の部署には本日のお話は伝えたいと思っております。

【佐藤部会長】
 私もWPIにちょっと関係していましたけれども,基本的に,外国人の方でも特別推進研究を出されますし,そういう方の事務手続は周りの人がものすごくサポートして出しているわけです。けれども,それはものすごい負担ではあることは確かですね。これから外国人の若手の人を特に招請したいということであれば,やはり英語のみで全て処理できる可能性を残しておかないと,外国人にとっては大変だとは思います。最終報告も日本語による報告が義務づけられておりますけれども,これもグループ研究だったら,周辺の関係者,研究者によって十分サポートができると思いますが,個人研究になると難しいかも分かりませんね。いろいろな問題があると思いますが,ほかの先生,いかがでしょうか。

【谷口委員】
 別の視点からお伺いしますけれども,日本学術振興会や文科省で科研費を扱われる事務体制ですね。例えば極端に申しますと,科研費の申請は全て英語でやるということになった場合,もちろん私は英語で書くことが国際化だとは毛頭思っておりませんが,必要条件の一つだとも受け取れます。そういうときに,事務的な体制としてそういうことをハンドルできる体制にあるのかどうか,いかがでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 日本学術振興会はさておきまして,文部科学省といたしましては,正直なところ大変貧弱でございます。御案内のとおり,英語力もさることながら,やはり学術全般に対する専門的な知見を十分に有していない事務方がおりまして,それをサポートしていただく学術調査官がおりますけれども,特に英語も含めたそういう学術的な面については,ある意味,学術調査官のお力をお借りしてやらざるを得ないと。学術調査官は言うまでもなく非常勤ということでもございますので,なかなか体制的に貧弱,難しい部分があるというのは事実でございます。この辺りをどう強化していくかというのは大きな課題であると思っております。

【谷口委員】
 学術研究助成課で全てが対応できるといった問題というよりは,国としてこれから将来をどう見据えていくのかという,それくらい大きな問題だと思いますので,学術研究助成課だけで何とかと申し上げているわけではありません。しかし,とはいえ,やはり各論的に,こういう問題をとりあえずこうしましょうとやらないと事が進まないということで,それが重要なのはわかります。しかしながら,一方ではグローバル化の時代に,日本のサイエンス,学術がどう対応していくかと大きく問題を捉えて,やはり,政府に言うべきことはちゃんと言って,予算なら予算をちゃんとつけてもらい,なおかつ,それに対応した体制を文科省側でもつくり,また,研究者側もその覚悟でもって臨むという共通の理念,ビジョンがないと,やはり気がついてみるとますます日本が地盤沈下するとか,そういう事態になりかねないというようなことも思うわけです。
 一方で,人文・社会系の先生方もおられますけれども,国際化というのは,全て英語にすれば済むとかそういう問題では決してなくて,私どものような,例えば医学,免疫学とかそういう分野でも,英語で書けばいいというものよりは,そこで何が語られるか,何が書かれているかという内容が重要ですが,その辺り人文・社会系もまた,国際化の在り方というのはいろいろお考えがあると思うのです。そういうものを一緒になってビジョン,理念をつくって,その文脈の中で議論していかなければならないという側面もあるのではないでしょうか。それはかなり時間のかかることですので,当面この問題を解決しなければいけないということはよく分かるのですが。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。谷口先生のおっしゃったとおり,これは科研費だけの問題ではなくて,例えば各大学で本当に給与規程まで英語で全部翻訳されているのかというと,結構怪しいものですよね。少なくとも大学のすべての規則が英語になっているとは思いませんね。

【濵口委員】
 近々,1,500名の外国人を日本に入れるというような議論がございますね。これ,きちんと科研費がとれる人を引き入れないと,単なる講義担当になってしまう。講義担当になってしまうと,非常に数が多いですから,日本に対する失望は非常に深いものが出てくるだろうと。国際化を進めるというステップの上で,ひょっとすると,この1,500人という数字はクリティカルポイントになってくる可能性がある。
 先ほども議論でありましたけれども,スタートアップのところで皆さん非常に苦労されると思うのです。これだけ入れるということは,やっぱりシステマティックな改革が必要な時期へ入ってくるのだろうと思います。その点で,スタートアップのところだけでも,外国人専用の科研費をつくる構想はないのかどうか,そこを検討していただかないといけない時期へ入ってきているのではないかと思うのですがいかがでしょうか。

【佐藤部会長】
 それは,日本にいる外国人向けということですか。

【濵口委員】
 はい。

【袖山学術研究助成課長】
 現状の研究活動スタート支援も,外国で研究されていて,我が国の研究者として始められる方は応募できる仕組みにはなっております。十分その辺が周知されているかどうかというのがまず一つございます。

【濵口委員】
 英語で応募できるのですけれども,審査側が英語と日本語とどっちも受けていますよね。そうすると,審査員は日本人ですから,それは日本語の方がアドバンテージがあるに決まっているわけですよ。だから,もう完全に構造を変えてしまわないとフェアトレードができないのではないか。

【袖山学術研究助成課長】
 現行の種目での対応ということと,御提案のございました新たに外国人の方専用の,ある意味枠内種目を作っていくということについては,課題として検討させていただきたいと思います。

【小谷部会長代理】
 大変力強い御発言がありまして,私も実際,外国人を受け入れるところで一番困っているのはスタートアップでございます。英語,日本語という問題もございますけれども,日本はやはり割と狭いというか,緊密なネットワークができている国ですので,最初に外国からいらした方がそのコミュニティの中で認知をされない中で,最初の研究費を獲得するのに非常にハードルが高くなっています。それは現実に多くの外国人は感じていることです。
 そういうこともありまして,もちろんスタートアップに外国人が応募できるということだけでも大変大きいことですけれども,もし本当に1,500人,しかも外国で活躍されている外国人の方を日本に定着させるのであれば,ある程度プロモーションのところではそういうことに対する御配慮が必要だということは日々感じています。

【甲斐委員】
 新しく外国人のために研究費制度をつくるかどうかは,これはまた全然別の議論ですので,今,私はその議論には入りません。もしも本気でそれが課題になりましたら,議論をしたいと思います。現状で,審査委員が実際に科研費を審査しているのをチェックすることをしばらくさせていただいた経験をもとに言いますと,審査委員のレベルや質というのは,やはり審査委員も教育を受けていかないとより審査委員になれないということもありますから,それはいろいろあるとは思いますけれども,拝見していると,ほとんどの審査委員は大変まじめに読んで,きちんと審査しております。それが英語だろうと何だろうと関係ないと思うのです。英語がよく用いられる分野の審査員は,論文の英語のピア・レビューをやると同じぐらいに一生懸命やって,ものすごくたくさん書いていらして,その内容を読む限りでは,非常にまじめにやっています。だから,内容さえよければ,英語だから,日本語だからという,そういうのが印象じゃないかなと思いますね。現在の科研費制度に関しては,全て日本国の税金で,他の国からもらっているものではないので,そこでとってそこで戦いたいと考えるのだったら,今の制度の中で,英語で出す出さないは別ですけれども,とりあえずは同じに戦っていいと思います。別にもちろん外国人用のものを設けて,日本は外国人だけを特に採りたいのだということを政策でするなら別ですけれども,私は日本はもうちょっと進んだ国じゃないかなと思います。外国人様だけを別枠にしなければいい研究はスタートできないと,そこまで卑下しなくてもいいのではないかというレベルじゃないかと信じているのですが。
 科研費は割と開かれていて,既に公募要領と応募書類は英語で可なんですよね。英語で可なので,そうすると,現実に後の方で必要となる交付申請書とか,実績報告書とか,成果報告書をどうするかというのがここの議題かなと思ったのですが,実は交付申請書と実績報告書は英語にされても,別に事務的にはそれほど負担じゃないのではないかと思います。それほど英語が難しくないですし。だから,ここまでは可にしてですね。 ただ,成果報告書というのは別で,国民のお金をもらってやっているのであれば,これは国民に対してすぐに公開する義務があると思うのです。私,ちゃんとしたデータを持っているわけではないのですが,アメリカの研究者たちと話すと,アメリカの一般国民が普通にネットで自分たちの払った税金で出されている研究費の成果というのをチェックしているというのです。チェックして,例えば自分の子供が病気で,その病気に関わる研究がどこまで行っているかを常に見ていて,出た途端に電話がかかってくる。それは国民の権利だと思うと。正しいと思います。
 日本は何だか,日本の国民が払った税金で,英語で報告出していいじゃないか,これはグローバル化だというのはちょっと失礼じゃないかなと思います。一般国民も全員英語が完璧に自由に使えるという状況ではないのですから。これは別に日本だけではなくて,フランスでも,フランスの国費でやった研究はフランス語で出ていますよね。全部英語にするとは言っていないわけです。最後の成果報告書だけはせめて,英語で書いたとしても日本語の概要をつけるとか,日本語で書いたら英語の概要をつけると,これはするべきではないかと。ここで日本語をなしにするのはちょっとラディカルかなと思います。他のところは日本語,英語どちらも可にしてもよいのではないかと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。大事な観点の議論ですね。また事務局及び日本学術振興会で議論を詰めていただいて,後の議論につなげていければと思っております。よろしいでしょうか。
 今日の主な議題は終わりましたが,参考資料について,事務局から御説明を頂きたいと思います。

(3)その他

事務局より,参考資料2,3及び4について説明があった後,意見交換が行われた。

 

【佐藤部会長】
 参考資料3は研究者が状況をどう考えているかという意識調査で,興味深いデータもたくさんあるかと思います。
 何か御質問や御意見を伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。

【髙橋委員】
 今日の議論ではないと思うのですが,最後のところで,国際力という点についてはやはり本当に私たちも一生懸命考えております。国際共著論文以外にも,例えば国際シンポジウム等のアクティビティ,それから,国際ソサエティにおける役職うんぬんも一つの指標になり得ますね。また,私たちの分野で言えば,いろいろなジャーナルのエディターあるいはエディターに準ずる者。私たちが世界を見渡すときには,この人はどういうアクティビティを持っているのかについて,論文とかそういうアクティビティ,いわゆる社会活動が大きな指標を占めるのです。そういうものは入っているかなと思いながら,今,もし今の時点でお分かりになれば何かコメントをお願いできますでしょうか。

【山口企画室長】
 ありがとうございます。大学関係者などからも示唆に富む多様な御意見を頂戴しており,適宜反映している部分もございます。今般お示ししているものの特徴としては,基本的に公表データを基に,公平性の観点から定義のイコールフィッティングや統計上のフィージビリティが比較的担保できると考えられるものをベースにしておりまして,御指摘のような,より実質的な可能性のあるものについても今後引き続き検討していく必要があると思っております。

【髙橋委員】
 先ほど私が申し上げたものも数値にもなり得ると思います。きちんと記録に残るものですから,そういうものも入れて悪いことはないと思います。

【谷口委員】
 基本的には大学の研究力を強化するということで大変重要だとは思いますが,あえて一研究者として申しますと,やはり大学を強化するために必要なのは,学術研究という文脈で申しますと,参考資料4-3で示される数値で判断されるような傾向があることがちょっと気になるところでございます。
 大学の研究力の強化というのは,例えば中間評価のレベルで論文の数が大きく増えたとか少し増えたという問題だけではなく,やはり今,基盤的経費が大幅に削減された状況で着々と進行しているのは,ある特定の分野は結構発展をしているけれども,特定の分野は草がぼうぼうに生えているような状況を大学の中で生んでいる。長期的に見ると,それが大学の研究力の低下につながるのではないかと懸念しています。結構大勢が懸念していると思います。それをどうやってバックアップ,強くしていくかということこそが,イノベーションというのは置いておきまして,学術という文脈から見た大学の研究力強化には最も重要なポイントではなかろうかと思います。
 ですから,余り過度なこういう評価をするというよりも,拝見したところ,一番高いところで年間4億円のサポートということで大変な金額ではありますが,これをどうやって使うかということを,すぐ論文が出るような感じに使うとかそういうような形でないような形で,大学の底力を強くするという形で使っていただけるといいのかなというのが個人的な希望です。
 同時に,そういう文脈で申し上げるならば,総長の裁量権といいますか,リーダーシップを強く発揮していただいて,これを有効に使っていただくとか。どこまでどうやって文言を書けばいいか私にはわかりませんが,要するに,機関長ですね。そういうようなところもやはりすごく重要なのではないかと。つまり,みんなで薄めて使ってしまおうというものではないような経費なのかと思いましたけれども,いかがでしょう。

【袖山学術研究助成課長】
 この研究大学強化促進費は,今,正に谷口委員の御発言いただいたようなことを狙いとして予算化しているところでございます。今回の大学を選定するに当たっては,ポテンシャルを見るということでの指標という部分と,正に御発言のありました,大学として学長を中心とした大学全体の研究マネジメント力を自らの分析を踏まえてどのように発揮していくかという構想を示していただいて,ヒアリングの結果,これを一対一で見ていただいて,最終的には審査委員会でお決めいただくという仕組みにしております。
 そういう意味では,予算的な規模もございまして,今回の促進費は,正に研究マネジメントを大学全体としてどのように強化をしていくかを十年という長期的な構想に基づいて実施していただくというところに主眼を置いた事業でございます。ヒアリングはこれからでございますので,そういった視点を各大学において大いに検討していただき,その構想を踏まえて具体的な採択大学を決定していきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 今回の事業は,基本的にはURAを雇用して,研究支援を強化して研究力を強め研究環境の改革をするということでございます。直接,研究者を雇用するというものではないのですけれども,これによって大学の研究力の強化が進めばいいのではないかと思っております。

【髙橋委員】
 この会議全体のことをお伺いしてよろしいでしょうか。例えば今日,日本学術振興会の学術システムセンターからの特別研究員制度に関する提案について議論したわけですが,今後,研究費部会においてどのように決めていくのでしょうか。

【袖山学術研究助成課長】
 振興会から頂いた提案を踏まえてこの場で議論いただいたものを,最終的には研究費部会としての報告という形でおまとめいただきたいと思っております。その結果を踏まえて更にフィードバックをして,日本学術振興会の方で具体的な制度設計を更に深めていただくというようなことを考えております。そういう意味では,本日頂いたような御意見も踏まえて研究費部会としての総体としての御意見としてお取りまとめいただきたいと思います。特別研究員制度自体につきましては,私どもの制度でございますので,私どもの方で考え,決定させていただきたいと思いますが,本日頂いた御意見を勘案するとともに,私どもがなぜこのようなことを考えているかという趣旨を先生方にまた幅広くお伝えするとともに,先ほど議論のありました経過措置等についても十分検討していきたいと思っておりますので,申し添えさせていただきます。

【小安委員】
 最初の資料2のところで御説明があった件ですが,若手(B)の応募件数が減っているという件については,平成23年度に新規採択率が30パーセントに上がったので,10パーセント上がると2,000件減るということではないのかと思います。チェックしていただいた方がよいのではないかと思うのですが。

【袖山学術研究助成課長】
 もちろん前年度採択の影響というのが出てくるところはあると思いますが,長期的,5年ぐらいの経過としても少しずつ減ってきているという状況もございますので,どういった原因でこのようなことが発生しているのかについて,もう少し詳細に分析をしてみたいと思っています。今,小安委員がおっしゃったようなことも当然影響してくると思います。それ以外の影響があるかどうか見ていきたいと思っています。

【佐藤部会長】
 時間が来ましたので,本日の審議はこのあたりで終了したいと思います。今日はどうもありがとうございました。

 

―― 了 ――

 

 

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