第7期研究費部会(第1回) 議事録

1.日時

平成25年3月6日(水曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省3階講堂

3.議題

  1. 部会長及び部会長代理の選任について
  2. 第7期研究費部会における検討課題について
  3. その他

4.出席者

委員

甲斐委員、北岡(伸)委員、小谷委員、佐藤委員、高橋委員、柘植委員、濵口委員、大沢委員、北岡(良)委員、金田委員、小安委員、谷口委員、鍋倉委員、野崎委員、桑原科学技術政策研究所長

文部科学省

吉田研究振興局長、袖山学術研究助成課長、岸本学術研究助成課企画室長、他関係官

5.議事録

(1)部会長及び部会長代理の選任について

事務局より資料2-1から2-4に基づき説明があった後、委員の互選により、佐藤委員が部会長として選出された。佐藤部会長によって、小谷委員が部会長代理に指名された。

(2)第7期研究費部会における検討課題について

事務局より資料3-1等に基づく説明及び科学技術政策研究所より資料4に基づき説明があり、質疑が行われた。

 【北岡(伸)委員】
 今御紹介いただいた、資料3-1の2ページの(2)の丸の三つ目の中に、人文・社会科学系等研究分野の特性に応じた支援策というのが議論されたとありますが、どのような議論が出たのか御紹介いただけませんでしょうか。

【岸本企画室長】
 これは、人文・社会系の研究というのは、自然科学系の研究と比べますと研究費の規模としては多額の研究費は必要ないものの、短期的に成果が出るような研究課題が相対的に見て少ないのではないかということで、少額でもいいので長期的な研究ができるような形での種目の設定という意味で、分野の特性に応じた種目を新しく作った方がいいのではないかといった御意見をいただいております。

【北岡(伸)委員】
 私は政治学、国際政治、あるいは外交史などの専門でございますが、昨今の、例えば尖閣とか、一見、少しポリティカルな話に聞こえますが、竹島のことを見ても、中国の言い分や韓国の言い分が、やはりある時期世界を風靡するのです。それはなぜかというと、日本の人文科学、社会科学からの発信が足りないからだと思っています。私自身の責任も含めてです。それは幾つか理由があります。韓国、中国等の台頭、しかもアメリカに学生を大勢送り、Ph.D.を取り、下手でもよいから英語で発信する、中身は大したことなくても発信する。我々から見ても、これがあの一流大学のPh.D.かというレベルのものはたくさんあるのですが、何か書くのです。
 他方で、日本はハイクオリティにこだわって書かない。中身は良くても英語での発信が少ない。さらにつけ加えれば、アメリカが一番本場ですけれども、アメリカなどで日本研究に対する関心は非常に高いです。学生のアテンダンスは以前より多い。しかし日本からの留学生は少ないし、それから優秀な先生も減っている、かつ、申し上げれば、アメリカの一世代前の研究者は日本語を読むところから出発したわけです。ところが今は英語の文献だけで日本研究ができてしまう。だから、日本語で良い研究をつくっても、これが伝わらないということがあるのです。こういうところはやはり、国益上考えて、日本の良い研究がなるべく速やかに英語によって発信されるような方向の工夫というのは、巨額が要るわけではないですが、サイエンスのような、リングワ・フランカではないものですから、日本語で優れた研究であっても、それをさらに世界に広めるための努力というのは、やはり我々は念頭に置く必要があるのではないかということを問題提起させていただきます。今までも出ていたのかもしれませんが。

【佐藤部会長】
 確かに人文系の論文の発信では英語のものは非常に少なくなっておりますし、これは大きな問題だと思いますね。この第7期でも議論を進めていただきたいと思っております。その他、御意見等ございますでしょうか。
 それでは、先ほど吉田局長からもアナウンスがありましたが、ただいまの検討事項とも大きく関係があるわけでございますが、科研費による論文に関する分析を、科学技術政策研究所の桑原先生が行っていただいておりますので、御説明をお願いしたいと思っております。
 既に、第6期第9回の部会で日本全体の論文における科研費の成果論文の割合等について説明があったということでございますけれども、今回は、さらに質的な評価など、様々な観点からの分析をしていただいたということでございます。では、桑原先生、御説明よろしくお願いいたします。

【桑原科学技術政策研究所長】
 科学技術政策研究所の桑原でございます。お手元の資料4に基づいて御報告申し上げます。
 今日御報告させていただきますのは、今、部会長からもお話しいただきましたように、1月の第6期の本研究費部会の最後の会合で、一部、プレリミナリーな結果だけを御紹介しておりますけれども、それをもう少し充実させたもの、それからその時点ではまだできていなかった部分について、ある程度まとまった御報告をさせていただきます。
 まず、前段といたしまして、2ページから日本の論文に見られる科学研究の状況が、世界の中で、いささか低落傾向にあるというところからの復習をさせていただきたいと思います。2ページは、今日これから御紹介するのは、トムソン・ロイターによるWeb of Scienceのデータベースに基づく分析でございます。2ページにありますように、論文の量、あるいは各分野で被引用数がトップ10%に入る、トップ10%論文と言っておりますけれども、そういったものでの量、世界シェア、あるいは世界でのランキング、さらにその上の被引用数トップ1%に限った場合の日本のポジションがどうか。大体、10年間の変化を表しておりますけれども、残念ながら、量・質ともに低下してきているという傾向がございます。
これは世界でのランキングでございますので、中国のように倍々ゲームでふえる国があれば、どの国もランキングをだんだん落とすということはある種必然で、それ自体は心配するに値しないかもしれませんけれども、3ページを御覧いただきますと、中国のような発展している国を除いたドイツ、イギリス、あるいはアメリカ、こういった成熟した先進国の論文量の伸びと比べて、日本の論文数の伸びが著しく悪いということでございます。これは、論文数だけではなく、トップ10%論文、トップ1%論文においても、日本より規模の小さいドイツ、イギリス、あるいはフランスと比べて、日本はそれらの該当数や伸び率で残念ながら下回っていることが明らかとなり、これが大きな問題だと思っております。
さらに、その様相を分野ごとに見てまいりますと、4ページでございまして、分野によって、伸び悩みあるいはこの10年間でむしろ減少に転じてしまったということが顕著に見えている分野と、まだ上昇傾向は続いているという分野の濃淡がだんだん見えてきているということでございます。例えば一番左の論文の数を御覧いただきますと、マイナスが目立つのが化学でございます。それから基礎生命科学もほとんど伸びなくなっています。その一方で、大きな分野としましては、物理学等はまだ上昇基調は続いています。
 そういった減少の背景にある大きな要因として、5ページに示します研究活動の国際化ということが、大変効いているということであります。左側では英独日について、論文数の構造を示しており、水色部分が自国内だけで書いている国内論文、オレンジ色部分がどこか他の国と二国間協力で書いている国際共著論文、緑色部分は三カ国以上の国際共著論文を表しています。さらに右側は、質的指標としてトップ10%論文の数の構造を同様に見たものです。一番差が大きく見えているのは、右側のトップ10%論文でありまして、日本と英独を比較すると、水色部分の国内論文ではほとんど差がありません。即ち、国内で書いている論文では全く劣ることはない。ただ、英独との大きな差がついてしまうのは、オレンジ色と緑色で示します国際共著による部分でありまして、日本の国際共著率が遅れているということが、ここで大きな差を引き起こしてしまっているということがございます。今日は細かいデータで御紹介いたしませんけれども、全世界、アメリカを含めて、どの国においても、自国内のみで書く国内論文の平均被引用回数に比べると、どこかの国と組んで書いた論文の平均被引用回数は有意に高いという現象が現実の問題としてございます。
 6ページはもう一つ別の視点でございます。ここまでにご紹介したものは被引用数的な評価を見たものでございますけれども、科学研究費のような資金のもう一つの目的は、幅広い研究を支援し、研究のダイバーシティを担保するということにあると思います。このデータは私どもの研究所がつくっておりますサイエンスマップ調査から見えるものでございます。サイエンスマップは、全世界の過去6年ほどのトップ1%に入る高被引用の論文だけを集めまして、共引用関係(ある複数の論文が、他の論文から同時に引用される頻度が高い場合、それらは同様の研究内容の論文群であるとする手法)を用いて、その論文群をクラスタリングします。この手法の利点は、既存の物理学の雑誌であるとか、あるいは化学の雑誌であるとか伝統的な分類学を排除して、類似性のある研究をまとめていって1つの研究領域を抽出できることです。このようなアプローチにより、647の研究領域が全世界の研究から抽出される中で、日本のトップ1%論文が観測されるのは263。一方、イギリス、ドイツは388とか366ということで、国の規模が小さい英独に水をあけられています。逆に言えば、日本はかなり狭い研究領域に特化した研究をやっているのではないかということが見えているわけでございます。特に内訳の一番上にあります学際的・分野融合的領域においては、英国が100に近いのに対して、日本は66ということで、ここでもかなり差がついてしまってます。この辺が、今後を考えたときに懸念される事項ということになります。
 これが前段でございまして、以降、科研費についての分析の状況を順次御紹介申し上げます。7ページに書いておりますのが、どういうことをやったかということでございます。この後紹介いたしますデータベースとのマッチングをとるコードの開発、あるいはそれに基づくデータの分析を、今、私の後ろに座っております科学技術政策研究所の科学技術基盤調査研究室のメンバーが、この数カ月で実施したものでございます。大きな問題意識は、7ページの一番下にありますように、日本のWeb of Science論文のうち、科研費に由来するものはどの程度あるのか、それは増えているのか、減っているのか、時系列はどうか。また、分野や科研費の種目で分けたときに何が見えるのかということでございます。
 分析対象としたデータベースが8ページにございます。NIIがお作りになっているKAKENデータベースには、インプットである科研費の資金額、あるいは研究テーマ、それがどんな種目であるかというようなことから、それを受領した研究者が報告した成果も入ったデータベースであり、これを文部科学省を通じて全データをいただいて、我々が持っておりますWeb of Scienceの論文データベースと突合したということでございます。突合の詳細は参考資料(51~52ページ)にちょっと書いてございますけれども、今日は時間がないので省略させていただきます。Web of Scienceに収録されているデータが、大体、我々が持っている範囲で2,000万レコードございます。科研費の成果となる論文が、これはなかなか厳密に数えられませんけれども、数百万ございます。この数百万と2,000万を、一つ一つマッチングをとるというものを行ったということでございまして、これによって論文の数とかいうものが、ある程度の精度でカウントできるようになったということがございます。また、参考資料(53ページ)にありますが、この科研費成果と論文データベースのマッチングのプログラムコードの正確さがどの程度あるかということも、相当数のサンプリングをとって、専門性を持つ人間がやった場合との比較ということでチェックしております。我々の検証した範囲ではマッチング精度は99.5%であり、補足率は96.0%でございます。
 そこで9ページをご覧いただきますと、今日これから御報告する二つのアプローチを紹介しております。一つが、日本のWeb of Science論文全体を見て、その中で科研費に由来する成果がどんな位置を占めているのかというアプローチでございます。二つ目が、今度は科研費から生まれるWeb of Science論文を対象として、科研費の種目や科研費の分野でどんな差が見られるのかを明らかにするというアプローチでございます。
Web of Science論文と科研費成果の包含関係を図解したのが10ページのベン図になっております。赤でくくっておりますのが、Web of Scienceで観測される日本の論文で、今回はほぼ自然科学のみを対象にしております。したがいまして、人文科学の成果は必ずしも見えておりません。科研費成果のほうには、Web of Scienceと重複する部分以外に、重複しない部分、例えば日本語で書かれる論文は、右側の重複しない部分に入ってくると、このように御理解いただければと思います。以下、Web of Science はWoSと、科研費成果はKAKENと、WoSの中でKAKEN以外の部分を非KAKENと略記で表現させていただいております。
 11ページに、分析についての幾つかの留意点を記しております。先ほど申しましたように、自然科学系に限るということですとか、それから科研費の分析に当たってWeb of Scienceとのマッチングをとる際に、科研費データベースの収録状況も配慮しなければなりません。特に成果については、全ての研究種目について成果の記述を求めることに現在ではなっておりますけれども、ずっとさかのぼっていきますと、必ずしもそうではなかった時期もございます。そうしますと、カバー率が高まる段階で論文数が当然ふえるという現象が見えますので、それはパフォーマンスの変化ではないということになります。これらの背景を踏まえ、わりとロバストと考えられる96年以降を対象に分析をしております。前回プレリミナリーに御報告したときは2001~2002年ぐらいからの状況を御報告しましたが、約15年間さかのぼれるようになれたというのが今日の御報告でございます。
 そこで12ページを御覧いただきますと、Web of Science全体状況の中で、科研費に由来するものがどんなシェアを持っているのかということをグラフにしております。左側のグラフが日本のWeb of Science論文全体像であり、最近やや伸び悩んでいるという状況が御覧いただけます。一番右を御覧いただきますと、黄色い部分が科研費に由来する部分を表しております。科研費に由来するという表現を使っておりますのは、科研費を使った成果であることは分かりますが、科研費のみによる成果とは限らないためです。ほかの研究費が合算で使われているケースは当然あるはずでございますので、そういう意味では、科研費も使われている成果がどういう状況になっているかと、このように御理解ください。そうしますと、90年代の後半には、この科研費由来の部分が35%ぐらいでございましたけれども、それが中盤で40%、最近では47%まで増えているという状況がまずございます。
同様に、被引用数トップ10%論文で同様のグラフを描くとどうなるかというのが13ページでございまして、右下を御覧いただきますと、もともと科研費由来のシェアは、この高被引用論文では高くなります。90年代の段階でも50%を超えておりましたが、最近では全体の60%を超える部分が科研費由来の論文であると、こういう状況がまず見えるというのが一つです。
 量と質のバランスを、我々はQ値、クオリティのバリューと呼んでおりますけれども、それで数量化したのが14ページでございます。90年代のA期間、それから中間のB期間、最近のC期間において、黄色で示されますWeb of Scienceで、かつ科研費由来の論文の中で、トップ10%論文が占める割合(Q値)を算出しております。Aの期間ではやや高かったものがちょっと下がりましたけれども、まだ10%を超える水準にあります。それに対してブルーの科研費に依存していない日本のWeb of Science論文においては、Q値が大分落ちまして、5.7~5.8%という状況であるということが、まず一つ述べられます。
 ただいまの状況をさらに分類いたしまして、大学が関わっているか、関わっていないのかという情報を加えたのが15ページからのデータになります。15ページの右側にグラフがございますけれども、この下のブルーと赤の部分が、Web of Scienceで科研費由来の内訳です。それから上のグリーンと紫の部分が、Web of Scienceでかつ科研費以外の内訳であります。大学が関わるものというのは、著者の所属機関として大学が1つでも出てくれば関わっているとしています。したがいまして、例えば東京大学と理化学研究所の共著論文があれば、これは大学関与論文と見なすと、少し不公平かもしれませんけれども、こういう割り切りでこのグラフは描かれております。そこで御注目いただきたいのは、左側のグラフの下にある表でございます。W-K論文であり大学が関わる論文については、期間AからB、BからC、ともに増加しております。ただ、増加の程度は落ちてきているということは御覧いただけます。逆に、WoS-非KAKEN論文であり大学が関わる論文については、期間AからBで増加しておりましたけれども、最近のBからCの期間は大幅なマイナスに転じました。そこで、大学が関わる論文については、科研費が関わり増えた論文数部分を、この非KAKENのマイナス論文数を相殺し、トータルは微増ぐらいになってしまっていると、こういう状況が生まれてきているということが、最初の論点でございます。
 ただいまの論点を、個別の大学ごとに分析したのが16ページ、17ページになります。16ページは、先ほどの期間AからB、90年代から2000年代前半、17ページの表が後半ということになります。まず、16ページのテーブルを御覧いただきますと、一番左上のWeb of Science論文全体では、これは赤の欄がほとんどございませんから、全ての大学で増加していることが分かります。科研費由来の部分(WoS-KAKEN論文数)も、全ての大学でプラスであり、程度はいろいろありますが。WoS-非KAKEN論文については、一部の大学でマイナスになっていたということが分かります。
 ところが、17ページのテーブルを御覧いただきますと、WoS-非KAKEN論文が、ほとんどの大学でマイナスになっております。即ち、最近、科研費に依存しない部分の論文というのは、ほぼ全ての大学でマイナスになっています。その結果何が起こったかといいますと、左の合計欄であるWoS論文数を見ると、上位の十五、六大学は、トータルプラスです。科研費由来の部分(WoS-KAKEN論文数)のプラスのほうが、WoS-非KAKEN論文のマイナスを補ってトータルプラスになっているということです。ところが、十五、六番以降の大学になりますと、WoS論文数がプラスの大学とマイナスの大学が混ざってくると、こういうモザイク状が生まれます。下位の大学ですと、科研費由来の部分(WoS-KAKEN論文数)の伸びがあまり大きくないので、WoS-非KAKEN論文のマイナスに負けてしまうと、こういう状況だということです。それからもう一つ注目されますのは、WoS-非KAKEN論文のマイナスがたくさん出ておりますけれども、一部プラスがございます。その、まだプラスを保っている大学のほとんどは私立の大学であります。国立の大学はほとんどマイナスになっています。このデータだけで厳密な立論はできませんけれども、かつ、この期間BからCというのが国立大学の法人化の前と後になっておりますので、交付金に関わる問題が影響しているのではないかということは推測されます。
 ただいまの個別大学の状況を二次元でマッピングにしたのが18ページでございまして、縦軸が科研費由来の論文の伸び、横軸が非KAKENの伸び、あるいは減少でマップにしております。そういたしますと、第一象限、ともに伸びている大学は、ほとんど黄色の丸でプロットしております私立大学です。日本の研究の主力となっております国立大学の大部分は、第二象限に位置していると。こういう様相が見えます。
 また、19ページ以降は、それをWeb of Scienceの分野別に見たものでございます。一例だけ申しますと、19ページの3段目にF03の化学があります。化学は先ほど申しましたように、WoS-非KAKEN論文のマイナスが大きくて、WoS論文数トータルでもマイナスになってしまっているという状況でございます。少し先へ送っていただきまして22ページの一番下、F18の物理学は様相が違いまして、WoS-非KAKEN論文はやはりマイナスですが、科研費の増加が大きいので、WoS論文数トータルでプラスになっており、こういう分野によって様相が違うということが見えてきております。
 それを、同様の二次元プロットにしたのが24ページでございまして、日本の強いとされていた分野、あるいは論文量のボリュームも大変大きい物理学、化学、あと生命系ですね、さらに臨床医学、こういった大きな分野はほとんどが第二象限にあります。科研費のほうは増加しているけれども、その他はマイナスです。両方とも伸びている分野というのも第一象限に幾つかございまして、精神医学/心理学、計算機科学、地球科学、環境学、こういう分野がありますが、いずれも論文量自体がそれほど大きくない分野であり、それから過去のデータでは日本が世界の中で必ずしも強いとは言えない分野です。こういうところは両方とも伸びているという状況で、この解釈はより詳細な分析が必要でございますけれども、ベースラインが低かったところは、まだ少し伸びる余地があったのかなという感じがいたします。
 それから25ページが、ただいまの科研費由来の成果の中に国際共著がどの程度あるのかと、これが被引用に示されるクオリティに大きく影響するわけでございますが、それを見ますと、科研費由来の論文の国際共著は、実は日本のWeb of Science論文全体の国際共著平均を下回っております。これはちょっと私も意外でございましたけれども、ひょっとすると、科研費の制度に国際共著をファシリテートしない何らかの要因があるのか、あるいは別の要素で、何か必然があってこうなっているのか、ここはこれからよく検討する必要性があるのではないかと考えております。
 ただいまの結果を質的な観点から見ますと、26ページにありますように、科研費論文の中でも、国際共著で書かれた論文のクオリティは国内論文より有意に高いという傾向が、やはり観測されております。
 続いて27ページ以降、今回新しく加わった部分でございまして、生産性を見たということになります。先ほどまで分野と申しておりましたのは、Web of Scienceのほうで設定されている分野の議論をしておりましたけれども、ここからは主に、科研費の分類による分野をあらわすようになります。今回お示ししますのは、2005年から2007年にかかってスタートした科研費プロジェクトの成果を見たということになります。その下にありますように、2005年、2006年、2007年と、3年間にわたって実施されたプロジェクトがあるといたしますと、これは2005年開始のプロジェクトで、総経費は合計250万円、成果はWeb of Scienceの論文として2本が出たと、こういう数え方をしたということで御理解いただきたいと思います。
 また、28ページに書きましたが、幾つかの論文は、複数の科研費テーマの成果に共通しているものがございます。そういったものは、多重カウントになるのを避けるために、このような分数カウントで、トータルは100%になるという状況で分析をしております。
 29ページは、KAKENの分野は、一番大きなこの8つの分類だけを今回はお示ししているというようなことを御覧いただいております。先ほど申しましたように、30ページに書きましたが、今回はまだ、一時点のスナップショットの分析ができただけでございまして、時系列での分析等々はまだこれからの課題であるということを前提に、これから内容を御紹介いたします。
 31ページはインプットの表でございますけれども、縦軸にKAKENの分野、横軸に種目をまとめております。これを眺めましても、分野によりまして、どういう種目にウエートが高いかというのが異なるということが見えてまいります。例えば、比較的同質と考える基盤研究の(S)、(A)、(B)、(C)の中でも、医歯薬学系は基盤研究(C)の依存度が高く、数が多くなっております。それに対して化学や生物学は(C)のウエートは他の(B)、(A)、(S)に比べるとそう高くない。このような差がございますので、基盤研究(C)の分析をするときには、実は医歯薬学の影響は大きく出ると、あるいは医歯薬学と化学を比較するときには、基盤(C)の比率が高い医歯薬学と、その比率がそれほど高くない化学と、こういう二重構造が見えてきているということを考えながらデータを見ていく必要があるということでございます。下はお金のほうを見ております。
 32ページは、それを単純に割算しまして、課題当たりの経費を出しておりますが、これは分野の依存性はほとんどありませんで、種目の上限額できれいに決まっているということが観測されます。
また、33ページ以降は、縦横のクロスでWeb of Scienceの論文があるかないかを見ております。あるものについては、その比率がどうかと、こういうことでございますけれども、基盤研究の中で見ますと、やはり(C)が小さくて、(B)、(A)、(S)に上がるとWeb of Science論文が成果として出る率が上がってくるということがございますし、KAKEN分野の比較といたしましては、化学ですとか数物系は高い。それに対して総合領域、あるいは工学、複合新領域、この辺は相対的に低い傾向がございます。
 また、それぞれの研究テーマに関わっている研究代表者と、研究分担者の数を計算したものが34ページでございますが、それも分野によって様相が違うということが見えてきております。例えば同じ基盤研究(C)でも、医歯薬学系ですと3人、平均で出てまいりますけれども、生物学ですとか化学では1.7人、半分ぐらいしか出てこないと、こういうことがございます。
また、35ページに示します国際共著率も、今のクロス表で見てまいりますと、基盤研究の中で見ますと、やはり(C)が低くて、(B)、(A)、(S)と、次第に上がっていくと。ただ、基盤研究(A)とか(S)でも、日本全体の平均程度ということは出ております。また、分野は依存性が大変ありまして、数物系は国際共著率が高く、それに対して化学は低い。ただ、このトレンド自体は全世界共通でございます。アメリカにおいてもヨーロッパにおいても数物系は高く、化学あるいは臨床は低い。ただ、ベースラインがそもそも平行移動してずれており、やや低いのが日本だと、こう御理解ください。
 最後、36ページ、37ページが、以上、複合化した評価をまとめたものでございまして、上のほうから、水色の部分、あるいはグリーンの部分、これはインプットとアウトプットの、これまでご紹介した数字を、まずKAKEN分野ごとでまとめております。研究課題当たりのWeb of Scienceの論文数が平均何本出るかというのが黄色。資金1,000万円当たり、論文が何本出るかというのが赤。その中でも、トップ10%の論文もどうかというのを併せて見ております。先ほど申しましたように、これを単純に比較するのは、やや、一部リスクがありまして、費目の分布が分野によって違っているということがございますので、それも含めて詳細に見ることはこれから必要でございますけれども、ここから御覧いただいても、ざっくりした指標としてのトップ10%論文が出る率、これが目立って高いのは化学であります。続いて数物系、例えば工学ですとか総合領域、農学等々は必ずしも高くない。まず、この段階でそういうことが見えております。
 それから37ページ、今度は種目別で見ました場合に何が見えるかということで、ここで質が比較的近いと考えられる基盤研究で御覧いただきますと、Web of Scienceの論文が出る率というのは、課題当たりでいきますと、当然(C)から(S)に上がって増えてまいりますけれども、投資した資金当たりということを単純に計算いたしますと、パフォーマンスが一番いいのは基盤研究(C)であるというようなことになります。ただその一方で、トップ1%論文、あるいはトップ10%論文が出る率は、当然大型研究のほうが高いと、こういう様相にあるということと、もう一つ注目されますのは、若手研究の(B)、あるいは(A)、(S)、これがかなり高いパフォーマンスを示しております。基盤研究(C)、あるいは(B)に匹敵するぐらいの成果を若い人たちが出しているということは注目されると思います。
 後は御参考でございまして、38ページ、39ページは、Web of Scienceでの分野と、それからKAKEN分野、それがそれぞれどういう関係にあるかというものを見たものでございまして、38ページはWeb of Scienceの分野、横の合計が100%になるように表現をしております。
 39ページは縦の合計が100%になるように表現しておりまして、一例を申しますと、Web of Scienceで化学に分類される論文のうち、日本の論文ですけれども、科研費の化学から来ているものは38%しかありません。いろいろな分野から化学の論文が出てきています。逆にKAKEN分野、下の表で御覧いただきますと、科研費の化学を受け取った研究者が書く論文の75%は、Web of Scienceで言うところの化学に行っています。ただ、そのほかにも25%行っていると、こういう複雑な入れ子構造になっているということでございます。
 40ページ、41ページ、今、順次申し上げていたことを整理したものでございまして、42ページ、今後の問題点を書いてあります。特に後半で御紹介した論文生産性につきましては、まだ時系列での比較・分析ができておりません。ですからある時点で、どんな様相かというものがようやく見えたということで、これを時系列で見たときにそれでも上がっていれば、科研費の運用はきちんと実を上げているということを自信を持って言えると思いますが、まだそこを結論づけるにはやや早いと思っております。
 また、種目とKAKEN分野のクロスを見た場合に、今の分野配分、あるいは種目間の配分というのが適切なものになっているのかどうかというものも、時系列変化を見れば、ある程度議論ができるのではないかと考えております。
 さらに、重要な観点と思っておりますのは下の2つでございまして、研究の多様性、あるいは新しい領域を生み出すという、科研費の本来的なミッションが十分達成されているのかどうか、これは、日本全体の状況としましては、先ほど申しましたように、必ずしもうまく行っていないように見えます。そうであるとすると、その相当重要な部分を占めている科研費についても、さらに何らかの改善をする余地もあり得るのではないか。また、特にこれから拡大が必要と思われます国際共著、これについてはなぜかわかりませんが、すぐれた成果を出している科研費の国際共著率が低いということが見えてまいりましたので、それは一体何なのかということを探っていくのがこれからの課題かと思っています。
 私ども、これからこういう分析をさらに深めていきたいと思っておりますので、御批判を含めて、さらにこういうことを明らかにすべきであるというような御指摘をいろいろいただければ大変ありがたいと思っております。よろしくお願いいたします。

【佐藤部会長】
 桑原先生、本当にありがとうございました。なかなかエキサイティングなデータで、科研費の位置が非常によく見えるようになっております。
 桑原先生、今後の展開ということで、以降も研究を進められるわけですけれども、大体これは、いつ頃ぐらいにデータが出ると思ったらよろしいのでしょうか。

 

【桑原科学技術政策研究所長】
 まず、前半のパート1でご説明したデータについては、今回、96年までさかのぼったのですが、それ以前にさかのぼろうとすると、先ほど申しましたように、科研費の成果報告の研究者にお願いしているカバーが違ってくるということで、その影響を見ながら評価しなければいけないということが入ってまいります。まず、この96年以降に、大体フォーカスして進めたいと思います。そうしますと、次のステップは、パート2でお示しした生産性分析のところを、もう少し前の時点まで戻ると。ただ、これも科研費の種目が、時代時代でだんだん変わってきておりますので、一定の時系列で、ある程度追えるのはやはり限界がございます。大体、90年代の最後のころからの十数年間、これは何とかなるのではないかと思っておりまして、ここは、私限りでは、仕事量の関係で厳密なことは申し上げられませんけれども、また、これからの数カ月間で、時系列比較ができるようなデータセットを準備させていただきたいと思っております。

【佐藤部会長】
 ありがとうございます。桑原先生の御報告に関しまして、御質問や御意見があればお願いします。

【小安委員】
 今、科研費の関与、それから大学の関与という切り口で分類されたのですが、これを見ておりますと、大学と科研費が関与している分は、それほど落ちていないように見えます。ではどこが落ちているのかという話になったときに、プライベートセクターの部分が、どうしても気になります。プライベートセクターの関与あり、なしというような分析をしたときに、非常にドラスティックな差が出るのでしょうか。例えば、先ほど、独法と大学というような括りはあったと思うのですが、大学とプライベートセクターの共同でやっているようなものが極端に落ちているとか、そういうことがないのかということが気になりましたが、そういうデータはありますでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 日本の研究機関については、完全ではありませんけれども、プライベートセクターと大学の区分については、我々はマッチング精度99.5%ぐらいで識別できるようになっておりますので、今回、まだ科研費との絡みではお示しできておりませんけれども、そういう分類は可能です。
 ただ、産業が生み出す論文が、過去、20年ぐらいでどんどん減っているというのは事実でございます。ただ、論文の世界では、もともと、産業の寄与度は大きくありません。大きくないのが、また半分に減ったということなんですけれども、圧倒的な大きさを占めているのは、やっぱり大学でございますので、日本全体の増加、あるいは減少に影響しているのは、主に大学であるということには変わりはないと思います。
 最近の十数年で起こったことは、産業の論文が減った部分を独法の増加が補いました。大学はあまりシェアでは変わっていないと、これが大きな見取り図でございます。

【小安委員】
 もう一つ、私が知りたいのは、プライベートセクターが大学を支援して生み出している論文というのが、かつて、かなりあったのではないかと思いますが、そういうものが非常に減っているということはないのでしょうか。プライベートセクターだけから出ている論文という意味ではなくて、プライベートセクターと大学が一緒にやっている論文というのが、どうなったかということを知りたいと思ったのですが。

【桑原科学技術政策研究所長】
 産業が大学に出したお金で生まれた論文かどうかの識別は、現状、できておりません。また、多分、できないと思います。
 大きな問題は、今回、科研費、あるいは科研費に由来するという言い方でご紹介しましたけれども、科研費は、非常にデータがオープンになっております。したがって、こういう分析が可能です。プライベートセクター以前に、その他の国費による成果というのは、オープンになっておりません。文科省の資金についても、別に隠しているわけではないと思いますけれども、公開されていないので、その分析ができないというのが現状でありまして、まず、そちらに行くしかないのかなと。それで、最後まで残るのが、企業からの資金による研究ということだと思いますけれども、これはいろいろなコマーシャルベースでの契約や何かが関わってまいりますので、かなり方式的に難しい部分が残るかなという感じはしております。

【佐藤部会長】
 今のことでは、アクノリッジメントなんかで、謝辞を書いていますよね。そこまで調べるということは、Web of Scienceでは極めて難しいことなのでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 謝辞分析、我々のチームも、一部、始めております。ただ、謝辞については、それを書くのか、書かないのかが、研究者の私意に任されている部分がかなりありますので、そこで観測されたものが、全体の傾向をうまく表しているかどうかというところの心配が常につきまとうということがございます。

【佐藤部会長】
 その点を除けば、技術的には可能だということですか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 技術的には可能です。ただ、データの信頼性をどう評価するかということを、一緒に考えないといけないということになります。

【佐藤部会長】
ほかに、いかがでしょうか。

【大沢委員】
 大変興味深い分析ありがとうございました。いろいろなことを教えていただいたのですが、若手がかなり頑張っているという結果も出ていまして、この結果を、もう少し、性別とか年齢別とか、あるいは国籍間で多様性のようなものを組み合わせて見てみると、どんな傾向があるのかということはお分かりになりましたか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 JSPSは、多分、科研費の申請データで研究者はいろいろな情報を出しますから、把握されていると思いますけれども、今おっしゃったような詳細な属性情報は、NIIデータベースでは、必ずしも公開されておりません。したがって、そこまでのものは、JSPSが実施すれば可能だと思いますけれども、我々が公開された情報をもらっている範囲では、現状、できないと申し上げたほうが正確だと思います。

【大沢委員】
 わかりました。資料の中に、若手の研究者の研究時間が減っているというような資料があったと思うのですが、それと、若手研究者が頑張っているということを併せると、もう少し大学全体で、やはり能力がある若手が研究時間を増やせるような、そういった形の努力というのは、非常に重要かなと思います。
 私も、アメリカの大学と日本の大学とを両方経験いたしましたが、特に、私がいたアメリカの大学は、それほど有名な大学というわけではなかったのですが、就任当時、かなり積極的に研究をしろということで、研究プロポーザルなどを出しますと、授業負担を少し減らしてくれるとか、そういったことが、最終的には、長期的にいい研究者を生み出していくと思いましたので、感想を述べました。

【桑原科学技術政策研究所長】
 おっしゃるとおりで、2つの論点があると思うのですが、研究時間については、文科省の統計でも、2002年から2008年にかけて、大学の全教員の平均値で、2002年、46%の時間が研究に回っていたのが、たった6年のうちに36%まで落ちたというようなデータが出ております。
 ただ、大学に、いろいろなミッションが増えているのも事実でございますので、これを単純に増やすというのは、なかなか難しい。そうすると、先生おっしゃったように、大学の中の先生ごとに、ある種の機能を分担するような形で効率を上げるということが必要だと思いますし、それから、もう一つ、若手については、このデータでは、若手の人たちは、かなりよい仕事をしていると私は思いますけれども、ただ、同じく、私どもの研究所でやっております、アメリカのジョージアテック等々と共同研究をやった日本の大学研究チームとアメリカの大学研究チームで、どちらもいい論文を書いたようなケースを比較すると、アメリカの大学研究チームは、ファーストオーサーの過半が若手研究者であると。それは、博士研究員であったり、ポスドクであったりするのですが、日本ですと、三、四割と。ですから、日本の場合は、優秀な、ポテンシャルはあると思いますけれども、若手の活用度がまだ足りないのではないかと、このようなデータも見えてきておりますから、そういう御議論をこれから進めていただくとありがたいと思います。

【甲斐委員】
 昨今、科研費については、予算額としては非常に大きいため、予算額が増加しているのに、論文数の伸びが落ちているということで、結構やり玉に上げられて、問題視されていたのですが、今回の分析については、大変すばらしい成果と思います。ありがとうございます。一つには、国立大学の法人化以降、研究者は時間を大変とられて、また、運営費交付金も削られて、大学は苦しい状況にある中で、論文数の伸びが落ちてきたのかと思っていましたけれども、科研費を取っている分においては、結構、大学は頑張っているということがわかって、非常に心を強くいたしました。
 もう一つは、この科研費制度を所掌する本委員会としては、今後、科研費制度を考える上で、考えていかなければならないような示唆がたくさん入っていたと思うので、今後に、資料として大変ありがたかったと思います。
 その上で、幾つかわからないところがあったのでお聞きしたいのですが、最初に、Web of Scienceが2,000万データベースの中で、科研費が占めるのは数百万とおっしゃったかなと思いますが、そうすると、感覚的には半分に行っていないですよね。でも、何か後半のほうの棒グラフによると60%を科研費が占めている。この意味が一つわからなかったのと、あと、40%の方ですけれども、先ほどの小安委員の意見にあった、プライベートセクターの部分というのはどうなのかという質問に対して、その割合は、もともと少なかったから、これが下がったのはそれほど影響がないというお答えをされたので、そうしますと、その40%のほとんどは、独法が担っているということなのかと。それは、以前、2002年度では、50%だったのが40%に落ちたのは、独法が関わる部分が落ちたのかと。今後の分析のために、少しそのあたりの詳細を教えていただけますでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 はい。最初の部分は、すいません、イントロで申し上げたことで、我々が持っているWeb of Scienceデータというのは、1981年から30年分ございます。これが約2,000万レコードになっており、これは世界の全論文であります。
 科研費成果として載っている論文数というのは、これは実は重複があったりして、延べでしかわかりませんので、正確な数はカウントできないのですが、ざっと見て数百万件ぐらいあると。
 そのうちの、さっき申しましたように、ある分析では、科研費の何年から何年ぐらいの成果のみに注目すると。そうしますと、Web of Scienceも、その該当年限のものでマッチングをするということになりますので、ちょっと2,000万と数百万というのは、デフォルメしたイントロのお話でございました。
 それから、後半の部分は、日本の大学は、日本のWeb of Science論文の7割以上を、そもそも生み出しております。その7割以上を生み出す日本の大学の論文のうち、科研費に依存している部分がこのくらいあると。では、残りは何かというと、ごくわずか、企業のお金でやっている論文があると思いますけれども、相当部分は、例えば通常の校費で行われている研究ですとか、あるいは、科研費以外の政府研究資金、ですから、これは医療系であれば、厚労科研費があると思いますし、文科省のお金であれば、JSTの資金、あるいは、ちょっと前なら振興調整費とか、こういう資金。それから、最近ですと、FIRSTのような大型研究費もありますけれども、そういうものによって行われている研究が、その残りの大部分を占めていると思います。

【甲斐委員】
 50から40に落ちたのはどういうことでしょうか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 ええ。ですから、それはまさに科研費でないお金で生み出される論文が落ちたということで、ここは、先ほど申しましたように、資金ごとのアウトプットが公開されていないので、分かりません。何かが悪さをして落ちたと。それで、先生がおっしゃったように、企業の部分も、間違いなく落ちていると思いますが、ただ、WoS-非KAKEN論文の中で、企業のお金で行われているものは、そんなに多くはないだろうという感じがいたしますので、その他の政府資金の部分が落ちたと考えるのが素直ではないかなと思っております。
 ただ、ここは中身がないものですから、明確なことは申し上げられないという状況です。

【谷口委員】
 科研費の在り方についてということで、野依先生の参考資料3などを拝見しましても、関係があることが幾つか述べられていると思います。研究力が低迷している原因として、特に国立大学の指標の停滞が影響しているということや、大幅なシステム改革が不可欠であるということをおっしゃったり、アカデミアは、特性を生かしながらも実社会への貢献が求められているということも非常に重要なメッセージだろうと思うのです。
 ここは議論になるところでしょうけれども、およそ社会に還元のできない学術というのは、意味がないと言ってもいいのではないかというぐらい、やはり社会に対して、どう学術研究が向き合うかということは、非常に重要なことだと思います。
 そういう前置きは置いておきまして、先ほどから若手の問題というのが出ておりまして、確かにデータを拝見しますと、こういう若手研究を奨励する研究費から成果が生まれているということは喜ばしいことではありますが、先生方が本当に、現場での体験として、若手が本当にモチベーションを持って研究を行っている現状が、今の大学にあるかということを、最初でもあるからということもありますが、やはり認識するということが大切なのだろうと思います。
 ご存じのように、科研費を含めた競争的資金、こういうものは非常に増大しているわけですが、基盤的経費をはじめとする、大学のいわゆる学術を遂行する根幹に関わるようなところが、どんどんと掘り崩されているという厳しい状況があると思います。基盤的経費の削減も、典型的なものでありますが、ご存じのように、恒久的なポスト、いわゆる承継ポストが大幅に減少しているということもあって、ちなみに、私がおります東京大学では約6,400人の教員がおりますが、この中で4,000人は非正規雇用です。4,000人です。しかも、40歳代以下の大半は、いわゆる有期雇用です。こういう状況に応じて、先生方、ご存じのように、労働契約法というのが、今度5月から施行されますけれども、これが、大学の中で、我々がやむないということで適用しようとしますと、5年任期しか認めないということに行き着いてしまうという非常に深刻な状況にある。
 こんな状況で、若い人たちがモチベーションを持って研究できるかどうかという問題が横たわっていると思います。モチベーションというのは、ご存じのように、外来性のモチベーションというので、例えば報酬だとか、ポストだとか、あるいはノーベル賞もそうかもしれません。一方で、内在性のモチベーションというのもあって、やはりそれは自分が本当にこの研究を、こういう目的のために、社会からの要請に応えるためにやり遂げたいという基礎研究がたくさんあると思うのです。そういうモチベーションを強く持つということも重要で、若い人たちがこれらを持っていくということが、これからの学術の根幹を支えていく上で非常に重要なので、それがないと、科研費を幾ら増やしても、実質的な効果は現れないという構図になっていると思います。
 ですから、研究費部会で、研究費のこと、科研費のことを議論するというのは、もちろん重要であることは言うまでもないのですが、そういう視点があるということを、やっぱり踏まえていくことが重要ではないか。
 政権交代にもよりまして、「人からコンクリートへ」というキャッチフレーズということですけど、おそらく大学に多くの箱物が建つでしょう。箱物が建ったりして、じゃ、大学はよくなるかというと、そんなことはないわけです。つまり、いろいろなものができても、それを支える人たちの人材が枯渇するとともに、モチベーションの低下というのが、かなり深刻な状況になっているのではないか。そこをやはり研究費部会として何ができるかわかりませんが、そういった問題を抜きにして、やはり、これからの学術を語るわけにはいかないという側面があるということを、ちょっと申し上げたいと思いました。

【佐藤部会長】
 もう先生のおっしゃったことは、労働契約法の改正の施行で、本当にどうしていいのか難しい問題で、深刻な問題だと思いますね。これは日本の将来のことを考えると、極めて大きな課題だと思います。
 そのようなことにつきましては、桑原先生の報告の後に、議論したいと思っております。

【濵口委員】
 非常にすばらしい報告をありがとうございます。立体的にいろいろわかったのですが、一つ知りたいのは、この分析の中で、研究者一人当たり時系列的に、生産性がどう変わっているかどうかというのは分析できないかということと、それから、タイムラグはあると思いますが、政策の転換が影響を与えている要素はないかどうか。今後の科研費の政策を考えていく場合に、そこの視点で整理すべき問題はないかどうかというのをお聞きしたいと思います。

【桑原科学技術政策研究所長】
 最初の一人当たり生産性、これは、今日、後半御紹介したものの、もう少し古い時点のデータが出れば、それを計算することは可能でございますので、追って御報告できると思います。分野ごとで見るのか、あるいは種目ごとで見るのか、あるいは、分野と種目のクロスで、より細かく見ないと不十分なのかと、そういうことは、これからの課題だと思いますけれども、それは取り組んでまいりたいと思います。
 それから、政策転換の影響、これは大変重要なポイントだと思います。科研費制度に関わる政策転換の歴史には、私はそれほど詳しくはございませんけれども、先ほど来御議論がある若手研究者の問題、これも日本がとった道と、アメリカあたりがやっている道は、全く違っているわけで、アメリカでは、ポスドクがプリンシパルとして、グラントに直接応募するというのは原則ないという世界で、日本はそこを切り開いたわけですね。ですから、アメリカ由来の制度といいながら、全然違うスタイルにもう入っています。
 それが何を生み出して、当然、新しい政策は、プラスとマイナスがあるはずですので、そういったものを、そろそろきちんと評価するタイミングなのかなという気はしております。それから、もう一つは、これは政策転換と言えるかどうかわかりませんけれども、科研費のボトムアップを大原則として、資金の大きな分野割ですとか、あるいは種目間の配分が決まるというメカニズムは、極めて民主的な仕組みだとは思いますが、ひょっとすると、それによって、新しい新領域に研究者がどんどん打って出るということを、十分サポートできなくなっている可能性もあるような気もいたします。
 一例で、先ほどのような、世界でホットな領域に、日本研究者の論文のカバーしている率が、どうも低いというようなことは、そういうことが由来している可能性もあるような気がいたしますので、そういった点について、これから、この審議会でご審議いただくベースになるようなデータも、いろいろ工夫して作ってまいりたいと考えております。

【北岡(伸)委員】
 最初の全体の会合でも出たのですが、社会のニーズというのがある一方で、長い時間をかけて継続しなければならない仕事もあるわけですね。これは、谷口先生が言われたことに、少し同調するのですが、人文社会系で言いますと、継続的な資料の収集、調査、整理ということが欠かせない分野でありまして、そういう研究のインフラのようなことに取られる時間が非常に多くて、その上に研究をする時間というのは、どんどん取られているのではないか。あるいは、逆に言いますと、そうした資料収集をやることが自己目的化して、それでもって研究だということになっていて、その結果、いろいろな集めた資料を整理して、その上に何か組み立てる作業に投入される全体としてのエネルギー、時間は減っているのではないかという気がします。
 ですから、先ほど谷口先生が言われたとおり、これも大事なのですが、安定的に、我々、昔から、日本はキュレーターとか、そういうところが非常に遅れている、弱いわけですね。それは、今の運営費交付金の傾向から言って、それをどんどん削減される傾向にあって、それは非常にまずいと。成果主義による結果を出してくださるのは結構なのですが、そこのところと、やっぱりハンドインハンドでやらないと、大変まずいのではないかという傾向を持っています。
 我々の分野で言いますと、現代の外交や政治史のオーラルヒストリーというのは、非常に盛んになっているのですが、オーラルヒストリーのさらに上に何か、また作らないといけないのですが、そこでどうも止まってしまう恐れがあるという気がしておりまして、一つの懸念でございます。

【谷口委員】
 ちょっと誤解のないように申し上げたいと思います。私は、学術というのは、本当に日本の文化を支えていく大切な、非常に幅広い知的活動だと理解しておりますので、社会に貢献するというのは、何もすぐに応用開発につなげたりとか、そういうことを申し上げているわけでは決してなく、やはり人とともに生きるという、その姿勢が重要だということを申し上げたかったということです。それから、先生がおっしゃったとおりで、補足いたしますが、やはり競争的資金だけを拡充しますと、それはそれで重要ですが、その周辺自体、本当に文化国家としての日本を支えるための幅広い学術が衰退するのではないかという懸念もあるということを、もう少し申し上げたかったということでございます。失礼しました。

【北岡(伸)委員】
 私の言ったのも、半分はそれでございまして、例えば法学部で言いますと、ローマ法とか、法律の非常に基本的な部分ですけれども、当面、何の役に立つかと言われると、返答に窮するような科目がある一方、日本からなくなっても困るというのはあります。この懸念を、最初の全体会合で問題提起された先生があったものですから、併せて言及したかった次第でございます。

【小安委員】
 今のお話と関係すると思いますが、やはり文化としての学術ということを考えたときには、アウトカムは論文の数だけではないということを、きちんと言わなければいけないと思います。ここで見せていただいたデータは非常に重要なデータだと思いますが、やはり何をもって学術の成果とするかということを数で表すということが、本当にできるのか、私は前々から疑問に思っています。文化としての学術という観点を十分に含めていただきたいと思います。

【髙橋委員】
 私が前、初めて出させていただいた、科学技術・学術審議会の総会で、新米ながら意見を述べたこと、全く谷口先生、小安先生がおっしゃってくださって、心強い限りです。
 私自身は、特に科研費は、きちんとやっている研究者が、きちんとサポートされるシステムをつくるべきだというのが基本だと思います。その意味では、基盤や若手のA、Bと分けるのではなくて、きちんとやっている人が、来年科研費取れなかったらどうしようといって、若手が疲弊するということのないように、そういう観点のサポートをもう一度見直していただきたいというのが、私の周りの人たちの意見です。
 その意味において、今回のデータ、若手が頑張ってくれているというのはすばらしいと思います。ただし、私は生命科学、医歯薬の現場はわりとよく知っているのですが、若手のAやBをとれる若手研究者はどのような研究室にいるか、というところが問題なのです。大体、研究室を持つ研究者がきちっと研究費を取って、きちっと若手を育てている研究室から若手が育ちますね。ですから、これはうがった見方かもしれませんが、若手研究のAやBを取って良い論文を書いている人は、おそらく、大きな研究費を取っている研究室に所属している可能性が高いと思います。そこは非常にポイントで、つまり、このデータがあるから、万が一にも、基盤のAやBといった、シニアの研究者が細々とやっている種目はいけないという議論にはなってならないと思います。
 むしろ、研究室は安定した運営ができ、そこで初めて、きちんとした研究による若手の養成ができます。その証明が、この国立大学がよく頑張っている、これだけ苦境に立たされても、みんな歯を食いしばって頑張っているわけですね。
 ですから、研究者が、あるいは学者が、多くのおびただしい報告書に翻弄されることなく、若手をきちんと育てるために良い研究ができるためのサポートを、根幹から考えてくださってもいいかなという、この部会でその議論ができればよいと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。
 実はこの後に、先ほど室長から説明がありました、第7期の検討課題についての自由討論がありますので、最後の議論は、谷口先生のも、北岡先生のも、高橋先生のも、それに関係した課題だと思いますね。
 では、桑原先生への質問、議論はこれで終わりということでよろしいでしょうか。次に第7期の本部会の検討事項についての自由討論をしたいと思います。資料3-1について、室長のほうから御報告いただきましたけれども、皆様の御意見を自由に御発言いただければありがたいと思いますが、いかがでしょうか。

【小安委員】
 前期の最後の研究費部会でも申し上げたことなのですが、現在、この科研費の実際の審査委員の選考などを行う日本学術振興会の学術システム研究センターというところがありますが、やはりそこが一番現場に近いところだと思います。そこでの様々な議論を、ぜひ間断なく研究費部会へ汲み上げていただき、現場はどう考えていて何を困っているのか、どうしてほしいのかということをしっかり議論するような、そういう仕組みを作っていただきたいのです。センターから出てきたものというのは、かなり現場に即したものだと思いますので、それをぜひ取り上げていただきたいと、改めてお願いしたいと思います。

【佐藤部会長】
 全く先生のおっしゃるとおりでして、昨日、私は個人的に、学術システム研究センターの小林誠先生と話す機会もありまして、やはり現場との厳密な連携が本当に必要だと思うのですね。小林先生に聞いたところでは、少なくとも、この部会に学振の関係の方が参加される、列席されることになっていると聞いているのですが、そうでしょうか。

【岸本企画室長】
 今日は学術振興会での審査会の御都合がございまして、御欠席ですけれども、通常はこの研究費部会の議論に参加していただいております。

【佐藤部会長】
 そうですね。メインテーブルに座っていただいて議論できるのが一番良いと思います。御指摘ありがとうございます。
【柘植委員】
 小安委員のおっしゃった、現場の声が入ってくるという仕組みの大事さ、その一環で、ぜひ、私としては、各教育研究の現場の実態の中で、今日は科研費の研究の成果ということで評価されていますけれども、実際の先生方は、教育も一緒にされているわけです。現場の声を吸い上げる視点として、提案申し上げたいのは、研究と教育が不可分だということが、この科研費の部会の中にどのように反映していくかという視点です。
 すなわち、今、研究の予算を増やさないといけないのですが、日本の場合は、これ以上全体の予算を増やすわけにもいきませんので、他の部会でも申し上げていますのは、一石二鳥、本当は一石三鳥と言いたいのですが、三鳥までいくと、少し焦点がぼけてしまうもので、教育と研究の一石二鳥を現場ではやりくりして実践されていることが、こういう場や、あるいは、私がもう一つ参画している研究計画・評価分科会に上がってくると、なかなか、皮膚感覚では違う評価になってしまっている。このメカニズムを、もうちょっと可視化して、結果的にこの部会で何を引き受けるか。
 それから、もう一つ、私は産業連携・地域支援部会に参画していますが、ここではユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーターの定着ということを非常に大事にしています。これは必ず、この科研費の評価の議論にも貢献すると確信しています。
 先日の研究計画・評価分科会の中でも、小安先生の御指摘のように、やはり現場の評価されている人たちの意見を前向きに入れていく仕組みを入れるべきであるという議論をしました。いつも私が言いたいことは、研究と教育に本当に工夫されている先生たちの声を吸い上げないといけないということ、産業連携・地域支援部会や研究計画・評価分科会とともに一石三鳥ぐらいで吸い上げて、結果的に、この科研費の世界の中に活かしていくようなことを、ぜひとも第7期の検討課題に入れていくべきかと思います。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。少し補足ですけれども、私、文部科学省のリーディング大学院のことをやっているのですが、現地に調査に行きますと、正直に申し上げて、やはり先生方の評価は、基本的に研究で行うわけですから、特に若い方については、いろいろ討論するわけですけれども、本来のリーディングプログラムの目的である教育をしっかりやるというよりも、本音が出てくるのは、研究ですね。それでやらないと、評価されないのです。やはりこのあたりは、柘植先生が出ておられるような研究評価のところで、深刻に議論しなければならないと思います。この部会でも参考になると思いますし必要だと思いますけれども、やはり研究開発評価部会が、教育のところについては大きな役割を持っているのではないかと思います。

【野崎委員】
 少し違う視点で、先ほどの桑原先生への質問でもあるのですが、論文を生み出すための研究費全体の中で、日本国の予算の中で、我々が議論している科研費というのは、何割ぐらいの話をしているのでしょうか。JST、厚労省、経産省などのものは何割ぐらいですか。

【桑原科学技術政策研究所長】
 私がお答えするのが適当かどうかわかりませんが、まず、ブロック・グラントと呼ばれる交付金が、教育と研究、両目的で大学に交付される。それから、主に個人に対して競争的資金が配分される。そして、競争的資金の全体像が、今、多分、全省庁合わせて5,000億円弱ぐらいだったと思いますけれども、その半分強を科研費が占めているのは、まず事実です。
 ただ、逆に言えば、科研費以外も、科研費と同額か、ちょっと少ないぐらいですけれども、競争的資金として配分されている。
 それに加えて、運営費交付金から回る研究費が、現場でどの程度あるのか。しかし、これは、いろいろお伺いすると、ほとんどなきに等しいレベルになってしまっていて、それは危機的だということはよくお伺いしますけれども、それを論証する統計は実はございません。ですから、よくわからないとしか言いようがない。各大学の現場はおわかりでしょうけれども、日本全体を集計して、交付金のうちのどれだけが研究費に回っていて、かつ、研究費が回る大部分は人件費でございますので、人件費を除いた真水の研究費で、その人件費を除いた後、維持管理の電気代など、そういうものが当然引かれますので、さらに残った真水の研究費というのがどの程度あるのかというのは、なかなか把握できないというのが現状だと思います。

【岸本企画室】
 事務局から補足させていただきます。先ほどの資料3-2の2ページ目に、科学技術関係経費の推移というグラフがございますけれども、この中の薄いオレンジの部分、こちらに国立大学等の運営費交付金というのが入っておりまして、これがトータルで科学技術関係経費と呼ばれているものになります。濃いオレンジの部分、科学技術振興費というのがその内訳にございますが、こちらの中に科研費が含まれて計上されております。この濃いオレンジの部分には、科研費のほかにも、独法の運営費交付金ですとか、各種の委託費とか、他の競争的資金といったようなものも入ってきております。
 科研費予算が最大時の2011年度で、それぞれ科学技術関係経費が3兆6,648億円、科学技術振興費は、1兆3,400億円ということになっておりまして、そのときの予算額でもって科研費の割合を見ますと、それぞれ7.2%、19.7%になっております。
 一般的に、競争的資金と言われるものの中で、6割ぐらいを科研費が占めると言われておりますけれども、こういう科学技術関係経費とか、科学技術振興費という枠組みの中で見ますと、そんなに大きな割合にはならないという関係になっております。

【北岡(伸)委員】
 私は社会科学で、その中でも人文に近い方ですから、やや孤立した意見かもしれませんが、しかし、皆さんの先ほどからのお話で、結構、問題関心は共通していると思うのですが、人文社会系ですと、率直に言って、そんな巨額の資金がなくても、研究をできることが多いわけです。私も、東大の中のセンター・オブ・エクセレンスの内部調整や審査をやっていて思うのですが、半ば無理して大きく作ったものや成果をとるために派手に見せるものがないとは言えないのです。それは、しかし、実は大変な労力なのですね。
 ですから、新しさや、インターディスプリナリー、国際的というのはいいことですけれども、それを1年ごとに考えていくというのは、本当に生産的なのだろうかと。むしろ、着実な研究をしている人は、去年こんな研究をしましたので来年もこれを続けていきたい、という形でいいのではないかという気もしないでもないですね。もちろん、さっき言ったようなものもあります。でも、何か無理やり作り上げて、国際会議をやってへとへとになっているというのが、時々あるというのが実態ではないでしょうか。
 ですから、そのような非常に着実に足元を見つめて、真面目に地道な研究をやっている人は、地道に続けられるようなという観点も、今、あまり名案はないのですが、ぜひお考えいただければと思っています。

【佐藤部会長】
 まさにこれは定常的な運営費交付金の基盤的なものがどんどん減っていることが、大きな影響だと思います。

【髙橋委員】
 人文系でも全く同じだということが分かって、私は本当に嬉しいのですが、生命科学系でも似たことは多々あります。
 先日の科学技術・学術審議会総会や、委員になる前に文部科学省あるいは他省庁の会議等でも議論してきたわけですけれども、そこでいつも困るのは、科研費のようなものをばらまきだと言われるのです。それに対してやはり強く私たちは理論武装したいと思います。
 ばらまきという言葉は簡単に使われる言葉ですが良くないですよね。私は生命科学の現場ですが、いかにもある特定のものに集中すれば良いかのごとく、それ以外はばらまきだと言いますが、私としては逆転してみたいと思います。
 やはり学術とは、谷口先生がおっしゃったように文化そのものですから、それは絶対的に裾野を広げるというのは大前提です。大学現場は、それさえ危ぶまれている状況にある。これはよくないですね。ですから、これはばらまきではなくて、新しい萌芽を生み出すための集中投資だということを、私たちは声を大にして訴えたいと思います。集中投資です。
 何かのプロジェクトに投資したらよいだろうというような動きは、非常にわかりやすいのですが、これは非常に危険がありまして、非常に巨額の投資が今までも数年間、多々行われていました。私はそういったものの評価に結構関わっていますが、それこそばらまきだということはよくあります。その看板のプロジェクトの下に有象無象が集まってきて、そして、何も考えず、お決まりどおりの研究をやって、何かやったような気になる。これこそがばらまきなのです。
 特に私の分野のバイオロジーに関しては、分からないことばかりで、そして、自分でクエスチョンを開発し、開拓し、そして、細々でも、周囲から何をやっているのかと言われても、自分はこれをやるのだということで学術は進んできました。先日も総会で申し上げましたけれども、それをいかに国が認めるか。この国力で、学術の世界は信頼を勝ち得るのだと思います。このすばらしい論文の統計はありますが、これとは別に、数値にならないものは、その信用と、文化をいかに大切にするかという国民の成熟度。そういうところを、ぜひ科研費に反映していくように、私たちは頑張らないといけないと思っています。ですから、科研費をばらまきということは、私は100%反対させていただきます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。全く賛成でございます。では、あまり発言されていない先生方からも御発言をお願いします。

【野崎委員】
 私は化学の専門です。国立大学の法人化後、地方大学は、科研費がとれないと消滅しつつある運営費交付金に頼っていた裾野の広い分野の代表であります。
 結局、こちらに座っておられる方は、新しい施策を出さなきゃいけないため、こういうことになっているわけですよね。裾野の部分で着実に今までやってきたことをきちんと積み上げていった法人化前に比べて、どんどん新しいことをして、結局、良くない方向にいっています。政府が新しい施策を出していくことによってどんどん我々の時間を削っていっているということはみんなわかっているのをどうしたらいいでしょうか。

【鍋倉委員】
 もう一回、ちょっとこの分析のほうに戻ります。先ほど、髙橋委員が言われたように、大学の疲弊は激しい。特に、私は医歯薬ですが、基盤Cが増えている。これだけ割合が増えているというのは、やはり生物系というのは、それを維持するために、どうしても生水が必要なのです。そのために、運営費交付金のかわりにCを取って、やっと生きているという状態。現実はですね。
 そこで、例えば若手Bと、あとどの組合せで科研費がとれているか。髙橋委員が言われたように、大型の研究ととれているかといった分析も行ったら面白いと思います。どの組合せで研究が出ているか。それによって、多分、若手が育っているところの土壌というのが、ある程度、明らかになってくる。そして、例えば基盤Cなどが取れなくなったときに、その研究がどうなるかというのも非常に切実な問題です。そういう意味では、やはり運営費交付金というのをきちんと配分することが必要です。科研費というのは、外国、イギリスでもそうですけれども、本来なら、何かプロジェクトをしたいときに、大きなプロジェクトをしたいときに取っていくというシステムになるべきであって、通常だったら運営費交付金などでできるというシステムにする。将来的に、本当に長い将来では、そのようにすることで大学の基礎体力を充実させることが最終的な目的、目標じゃないかと思っています。

【金田委員】
 私は北岡委員よりもさらに人文系ですので、最も極端な意見になると思いますが、第6期の部会でも申しておりましたが、規模が一番小さな単位の個人でもできるDというような単位をぜひ大事にしていただきたいということをずっと申し上げています。また、学術研究は文化、知的社会の向上に資するというのが基本ですから、社会的なニーズや方向性に沿ってそこに集中投資をするということがあって良いと思いますが、それだけでは、やっぱり潰れてしまう。つまり、我々が現在では何がよいかわからないし、わからないままに、しかしながら、ひょっとしたらという、深海魚のようなものに餌をやるような、そういった作業というのは、ぜひ必要だと思うのです。それがなくなってしまうと、もう、我々が現在のレベルで判断できる研究しかサポートしないというのでは、もう将来の見込みはほとんどないと思います。
 ですから、特に人文系の場合には、そういうことは私の知っている限りは言えると思いますが、そういったことも、我々は念頭に置いて議論をすべきだろうと思っているということを、最初ですので、一言言わせていただきます。

【北岡(良)委員】
 理系の北岡です。今までの議論を、参考資料3の野依先生の発言の中に非常に重要なことが書かれていまして、科学技術の指標、例えば論文数等が低迷していることは明白であるというような意見があり、それがばらまきという形につながっている意見にもつながっています。科学論文の量、質、費用対効果が芳しくないという意見に対して、どのように理論武装して科研費の重要性を示していくかということが重要ですが、やはり最終的には、当局、予算を配分する側としては、やはり大学が大幅なシステム改革をできていないのではないかとか、あるいは、先ほど言われたように科研費の指標が低迷しているとか、そういうことをもってばらまきと見られ、予算増につながらない方向になっているわけです。優れた若手、女性あるいは外国人を思い切ったリーダーに登用するには、どのような予算スキームでやるのかとか、あるいは、現行で頑張ってもV字回復はないという認識を持たれているようですけれども、やはりアカデミアは伝統的な意味での学術の発展、進化に貢献しなくてはならない。その意味での科研費の重要性というのは非常にあるわけで、そういうことに対して、どのようにこの研究費部会で応えていくかということは、第7期で議論していく必要があるのではないかと思います。

【小谷部会長代理】
 皆さん一番危機感を持たれている問題について御発言がたくさんあり、私もそこが一番大切だと思い発言を控えておりましたが、別のことで一つお尋ねします。国際共著論文数が研究指標の低下には関係していると言われておりますことと関係し、英語による申請の伸び率及び採択率がどのようになっているかをいつか資料として出していただけますでしょうか。
 科研費は英語で申請ができる非常に数少ない競争的資金です。大変ありがたいですが、英語での申請は採択されにくいという印象を持たれている外国の方もいらっしゃいますので、何か改良できることがあれば、御検討いただきたいと思います。留学生の数は非常に増えておりますので。

【桑原科学技術政策研究所長】
 今の点は、JSPSの全面的な御協力が必要だろうと思います。
【佐藤部会長】
 JSPSとの連携は必要でございますね。ありがとうございました。基本的には議事はこれで終わりですが、事務局から、平成25年度の予算について御説明をお願いします。

【岸本企画室長】
 参考資料の1と2を御覧いただきたいと思います。参考資料1が平成25年度の予算案における科学研究費助成事業の概要でございます。右肩のところに数字がございますけれども、助成額ベースで、対前年度11億円増の2,318億円を確保しております。
 内容といたしましては、基金化の対象種目の拡大は盛り込まれなかったのですが、その代わりといたしまして、調整金の枠を設定するという改善を図っております。調整金の枠のイメージにつきましては、後ろの参考資料2、これは先月、事務連絡によって各研究機関に通知をしたものでございますが、2枚目に前倒し使用、3枚目に次年度使用のイメージ図が載っております。基金化されている対象種目以外の種目については、繰越制度の利用をまず前提とした上で、繰越制度が使えないようなものに関しては、次年度使用の制度を使うことができる。あるいは、研究が進展、加速し、前倒して使用することを希望する場合には、次の年度の研究費から、一部を前倒して研究費の追加配分を受けて使用するということが可能になっております。
 その他、平成25年度予算案は、例えば特別推進研究に国庫債務負担行為を導入しまして、複数年度での研究装置の製作、契約を可能とするというような改善ですとか、繰越業務の一元化・電子化を図るために、新学術領域研究の交付業務をJSPSへ移管するという内容になっております。以上でございます。

【佐藤部会長】
 ありがとうございました。これで本日予定した議題は全て終わったわけでございますが、特に質問もありませんでしょうか。それでは、本日の会議は、これで終了としたいと思います。ありがとうございました。


―― 了 ――

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