資料2-1  「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」に関する学術分科会の主な意見(案)

学術分科会における東日本大震災に係る主な意見の整理

【東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証】

(基本的考え方)

○ 東日本大震災からいかに復興するかという議論が、科学技術・学術の発展につながるという理念に立ち、災害をどう受け止め、学術研究をどう進めていくべきかの議論が必要。

(震災に関する検証の視点)

○ 大震災について、想定外であった部分、備えがあって機能した部分も含めて科学的な調査を踏まえながら、検討すべき。今後の学術振興を考える上で極めて重要な経験となる今回の大震災を生かすべき。学術振興上の重要な取組についても震災と関連づけて考えることが必要。

○ 歴史的な記録の発掘も含めた震災の記録保存については、貞観地震などの震災の記録のほか、そこから復興に向けてどのような人間活動(施策も含めて)があったか、救援救済活動があったか、住まいを高台に移すなども含めて、人文社会科学者の間で可能な限り掘り起こしが必要。

○ 科学技術の問題だけではなく、現在の社会システムが弱さを露呈しており、社会の在り方を検討することが重要。また、日本人の倫理的行動は十全に機能したと言えると思うが、それがどのように培われてきたのか、重要なテーマであるし、記録と同時に学問として掘り下げていくことも重要。

○ 今後起きるであろう災害に対して、いかにして被害を減らすべきか、学術の世界から発信するという姿勢も必要。

○ 東日本大震災の記録保存や学術調査の実施は、非常に重要。その際、各研究機関に蓄積されているデータを相互利用すべき。

○ 世界中の災害に機動的に対応できる体制の例を作るべきではないか。

○ 震災の記録保存について、YouTubeなど多様なメディアがデータのアップを始めており、スピード感を持って対応することが大事。

【課題解決のための学際研究や分野間連携】

(分野間連携を推進するための取組)

○ 分野を融合した新しい分野を開拓するためには、異なる分野間の研究者の不断の接触が必要。今ある分野や領域を前提にした分野横断では新しいものは生まれない。学問が1箇所に集まることによって新しい分野や領域を形成し、それが学術を先導していく、という方向性が必要。単なるネットワークではなく、強制的に融合することも必要ではないか。

○ 学術の世界において課題解決のための学際研究や分野間連携を進めるためには、政策誘導的なメカニズムがないと実現できないのではないか。

○ 学術研究のネットワークについては、ネットワーク強化と自発的な離合集散のダイナミズムとの間でのバランスが必要。

(課題の把握等)

○ 現場で話をしながら被災者の生活再建等に学術がコミットすることは、従来あまり考えられなかった新しい学術の推進の仕方だと思う。意識的にノウハウを蓄積・共有して、さまざまな分野の研究者がコミットしていく体制を作ることが重要。 

○ 現時点では、東日本大震災への対応は、復旧作業が中心だが、その活動の中から、学術研究につなげるテーマを見つけ出すことが課題。学術の現場でも行政でもスピード感をもってお互いにリンクしながら進めることが重要。 

○ 東日本大震災への対応については、スピード感やダイナミズムが重要。ファンディングに関しては、アメリカにはいろいろな社会問題に対して早急に対応するRAPIDという枠組みがあり、日本でもそれを参考に科学技術振興機構がJ-RAPIDを作った。ただ、社会問題は時間の経過とともに課題が出てくるものなので、それに対応するための工夫も必要。 

(人材育成)

○ 国として、人類として、長期的なビジョンを持つことは重要であり、それができるのが学術。分野として社会科学も重要だと思うが、ハード的な社会インフラを作るという意味で、工学、エンジニアリングも重要であり、人材育成において工学の大事さがもっと考えられてもいいのではないか。

【社会への発信と対話】

(社会への発信と対話)

○ 科学者・技術者への信頼が低下していることに関して、今後、社会に向けていかにきちんと説明をして信頼を取り戻していくか、議論が必要。

     中学生、高校生などは、科学技術・学術研究は役に立たないと思っているかもしれない。社会、特に中学生、高校生に研究がどう役立つのか説明していくことが必要。

○ 科学者は情報発信をしているが、不十分であったり、口べただったりして社会に対してうまく伝わっていない。科学者と社会をつなぐ媒介者はすでに大学等にいるので、そういう方々と協力して、文科省で情報を集中的にまとめて科学者のコメントとして発信することも必要。

(科学リテラシー向上に向けて)

○ 情報発信に関しては、情報の質の管理が重要。最終的に信頼すべき情報やその意味について一般の人が理解できるよう、情報を選別して解釈を整理する者が必要。その役割を担っているのは研究者もしくは学協会であり、研究者や学協会はそういった認識を持つことが必要。

(参考)東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点

平成23年5月31日
科学技術・学術審議会決定

   第5期に設置された基本計画特別委員会では、S(科学)とT(技術)に、I(イノベーション)を加えたSTIへの転換が提言された。しかしながら、我が国観測史上最大の地震やそれに伴う原子力発電所事故等による未曾有の災害を踏まえ、新たにR(リコンストラクション(再建)、リフォーム(改革))を加えたSTIRを政策の基調とすべきである。

   こうした考えのもと、今後、科学技術・学術審議会においては、東日本大震災の現状を踏まえ、科学技術・学術の観点から真摯に検証を行う。その上で、国家的危機の克服と復興、環境変化に強い社会基盤の構築への貢献を視野に入れ、我が国の存立基盤である科学技術・学術の総合的な振興を図るために必要な審議を進めていく。

   その際、総会及び各分科会、部会、委員会等においては、これまで以上に「社会のための、社会の中の科学技術」という観点を踏まえつつ、以下の視点に留意し、検討を行う。特に、科学技術・学術の国際連携と、自然科学者と人文・社会科学者との連携の促進には十分配慮することとする。

1.東日本大震災についての科学技術・学術の観点からの検証

    震災下において、科学技術・学術の観点から、適確に機能した面、機能しなかった面、想定が十分でなかった面はどういうところか。

    これらの検証により判明した震災からの教訓や反省を踏まえ、今後の科学技術・学術政策を進めるにあたって、改善すべき点、取り組むべき点、新たにルール化すべき点は何か。また、研究開発を推進するための環境や体制を変化に強いものにする方策として何が必要か。

2.課題解決のための学際研究や分野間連携

    社会が抱える様々な課題の解決のために、個々の専門分野を越えて、様々な領域にまたがる学際研究や分野間の連携がなされているか。特に、自然科学者と人文・社会科学者との連携がなされているか。

    また、社会が抱える様々な課題を適確に把握するための方策は何か。課題解決のための学際研究や分野間連携を行うためにはどのような取組が必要か。

    さらに、これらを支える人材育成のための方策として何が必要か。

3.研究開発の成果の適切かつ効果的な活用

    様々な研究開発の成果が、適切かつ効果的に結集され、社会が抱える様々な課題の解決に結びついているか。
  また、研究開発の成果が、課題解決のために適切かつ効果的に活用されるためには、どのような取組が必要か。

4.社会への発信と対話

   研究者、研究機関、国等が、科学技術・学術に関する知見や成果、リスク等について、情報を受け取る立場に立った適切な表現や方法で、海外を含めた社会へ発信し、対話できているか。
   また、社会への発信や対話を一層促進するとともに、国民の科学リテラシーを向上するためにどのような取組が必要か。 

5.復興、再生及び安全性の向上への貢献

    被災した広範な地域・コミュニティの様々なニーズや、復興、再生にあたって直面する問題をきめ細かく捉えているか。また、それらを踏まえ、科学技術・学術の観点から、復興、再生、安全性の向上及び環境変化に強い社会基盤の構築のためにどのような貢献ができるか。その際、国土のあらゆる地域で自然災害への備えが求められる我が国の地学的状況を踏まえることが必要である。

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研究振興局振興企画課学術企画室

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