資料2-1 審議のまとめ(その2)素案

はじめに

 第6期科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会(以下「本部会」という。)においては、平成23年7月28日に「科学研究費助成事業(科研費)の在り方について(審議のまとめ その1)」(以下「『審議のまとめその1』」という。)をとりまとめた後も、引き続き、科学研究費助成事業(以下「科研費」という。)を中心とする学術研究助成の在り方について審議を行ってきた。

 本まとめは、「審議のまとめその1」以降、第4期科学技術基本計画や大学改革をめぐる様々な議論など、学術研究をめぐる新たな情勢等を踏まえ、平成25年度以降の科研費等による学術研究助成の在り方について審議のとりまとめを行ったものである。

1.大学等における研究力強化のための支援

学術研究の役割

 科学の発展やすべての研究活動の基盤には、研究者の自由な発想に基づいて行われる学術研究がある。大学等における学術研究は、研究の多様性を維持しつつ、独創的・先端的な研究活動を展開することにより、我が国における重厚な知的基盤の形成に貢献するとともに、将来のイノベーションの芽を育てるという大きな役割を担っている。このように持続的発展をもたらす学術研究は、我が国にとって重要な社会的・文化的資源となっている。

 さらに、現在地球規模で大きな課題となっているエネルギー問題、環境問題の解決への貢献のみならず、低迷する経済や震災からの復興、加速する少子高齢化といった喫緊の課題への適切な対応等、学術研究に期待される役割は大きくなっており、その効果的な支援を図ることが極めて重要である。

 また、学術研究が社会から離れて存在しうるものでないことは言うまでもないことであるが、研究者が、改めて大学等における学術研究の社会的資源としての意義や重要性について認識し、持続可能な社会に向けて学術研究がどのように貢献すべきか、社会からの付託にいかに応えることができるかといった意識を持って研究を行うことも重要である。

大学等における研究力強化の支援

 大学等における学術研究を効果的に行うためには、教育研究活動をしっかりと支える基盤的経費と、優れた研究を優先的・重点的に助成する科研費等競争的資金の双方による支援(デュアル・サポート)が必要である。基盤的経費により教育研究環境が確実に整備され、研究の芽が育てられてこそ、競争的資金による研究を効果的に行い、よりよい成果を早期に創出することができるのである。このため、公的財政支出において基盤的経費から競争的資金への単純なシフトを進めることは適切でない。これらについては、従前から本部会においても指摘してきたところである(注1)。

 一方、科研費の配分状況と英米の競争的資金の配分状況とを比較すると、ピア・レビューによる審査の結果として、上位層の研究機関に研究費が集中する傾向がある(注2)。また、国際的に見ると、相対的に論文数等による我が国の研究全体の国際プレゼンスが低下する傾向にあり(注3)、さらに研究者が一部上位層の大学間以外に異動しにくいなど、人材流動性の面での問題も指摘されている(注4)。これは、研究面において国際競争力を有するような研究機関の層が薄いことを示している。

 また、大学等の教育研究活動を支える基盤的経費である国立大学運営費交付金や、私学への経常費補助が削減されたため(注5)、科研費等の競争的資金獲得に至る前の研究の芽を育てることや、長期的視点に立った高度な研究人材を育成することに著しい支障が生じ、あわせて、競争的資金による研究を行う上でも、研究設備の維持や研究支援者の措置等、先端的な研究活動を支えるインフラストラクチャーを適切に維持・更新できなくなっている(注6)。このままの状況が続けば、科研費等競争的資金による研究を行うための前提となる学術研究基盤の脆弱化及び機関間の格差の拡大により、人材の流動性や研究の多様性が失われ、ひいては我が国の学術・科学技術全体としての活力が低下していくことが強く懸念される。

 このような状況を打破し、今後、我が国の大学等が国内外の研究機関との頭脳循環により切磋琢磨し、国際競争力を発揮するためには、世界に伍する厚みのある「リサーチ・ユニバーシティ」群を形成・強化していくことが重要であり、従来のデュアル・サポート体制に加え、「研究力」の強化が期待できる大学等に対する新たな支援策が必要である。こうした支援に基づき、各大学等がそれぞれの研究戦略に基づく魅力ある研究環境の構築を図ることにより、競争的資金による研究活動がより一層効果的に行われるという好循環をつくり、我が国全体の研究力が強化されることが期待できる。

2.基金化の拡大

基金化の意義

 学術研究は、最新の研究動向を踏まえながら未知なる世界を切り拓くという性質上、研究の進展に応じ、当初の研究計画を随時見直しながら研究を進める必要がある。平成23年度からスタートした科研費の基金化は、年度にとらわれず、必要なときに必要な額の研究費を使用できるようにすることにより、研究活動のさらなる活性化及び限られた研究費の効率的活用を図ることができるという大きな意義を有する画期的な制度改革である。

基金化の拡大

 「審議のまとめその1」においては、先行して基金による研究が実施されている「最先端研究開発支援プログラム」において、研究の流動性が高い国際共同プロジェクトや長期的視点が必要な研究計画にも機動的・柔軟に対応することができ、研究パフォーマンスの向上という成果が既に現れていること、2,600億円を超える科研費(平成23年度予算額)が効率的に使用されればメリットが多大であること、基金化は様々な変化に柔軟に対応できる強い研究費制度であること等から、科研費の基金化を計画的に進め、できるだけ早期に基本的にすべての研究種目について基金化することが必要であるとの提言を行った。

 これを受け、平成24年度予算においては、平成23年度に基金化した3種目(基盤研究(C)、若手研究(B)、挑戦的萌芽研究)に加え、基盤研究(B)、若手研究(A)の2種目についても、総額500万円を上限として研究費の一部が基金化の対象とされ、複数年度での研究費の使用が可能となったところである。

基金化による効果の検証

 研究費の基金化により、どの程度の効果があったかという点については、昨年秋の最先端研究開発支援プログラム中心研究者への追加調査(注7)において、6割以上の研究者から、

  • 年度をまたぐ数ヶ月もスムーズに研究ができ、早期に成果が創出できた
  • 年度末・年度初めの研究成果を学会等でスピーディに公開できるチャンスが増大した
  • 研究費の前倒しや長期雇用契約による優秀な人材登用が可能となり、研究が飛躍的に進展した

 等、研究成果創出上のプラス効果が2~3割程度あったとの回答を得ており、このほか、単年度の研究費とは質的な差があり基金化のメリットは計り知れないという回答もあるなど、大きな効果が認められた。

 さらに、科研費の基金化の効果等について、アンケート調査による検証が行われた(注8)。これによれば、研究機関の90%、研究者の80%以上が、「研究費を自由に次年度に回せるようになったこと」及び「年度末の使い切りをする必要がなくなったこと」をメリットと感じており、具体的には、

  • 研究開始後の大きな発見やアイデアが生じた時に、年度区分を気にせずにそのアイデアを柔軟に追求できるようになったことが非常に大きい
  • 研究に割くことのできる時間が増えた

 等の回答があった。

 また、その他の種目の基金化については、研究機関の57%、研究者の65%が「できるだけ早期にすべての種目を基金化すべきである」としている。一方、「基金化の効果を時間をかけて検証した上で判断すべきである」とした意見は研究機関、研究者のそれぞれ27%程度であったが、その理由としては、基金化による予算増に伴う採択率の低下や研究費規模の減少への懸念、平成24年度導入の一部基金化に伴う事務手続の煩雑化が挙げられている。このほか、回答の中には、研究費の効率的使用や柔軟な使用という基金化のメリットは高額の種目においても大きいという意見や、研究期間が長期間の種目ほど効果が大きくなるという意見があった。

 基金化による研究成果創出にあたっての効果・メリットの程度については、1割~3割のプラス効果があるとした回答が72%であった。具体的には、

  • 大学の研究者が研究を集中的に進められる年度末から年度始めの期間に途切れることなく研究を継続でき、予定より早く研究計画を進められた
  • 年度末の学会発表や資料調査などを制約なく実施できた
  • 必要な時期に優秀なポスドクの雇用ができたため、研究パフォーマンスの向上に寄与した
  • 技術的進展に応じ、より高精度かつ高額の受託解析や装置購入を前倒しで行うことができ、早期の研究成果創出上の効果があった
  • 自治体と協力したデータ収集を行う際に研究費を柔軟に使用できることで、自治体の都合に合わせたデータ収集ができ、非常に有益である
  • 研究の発想、進展に大きな自由度が生じたメリットは計り知れず、数字化できるものでない

等、最先端研究開発支援プログラムの場合とほぼ同様の回答内容となっており、研究費の基金化は金額の多寡に関わらず、研究成果創出に大きな効果を生じることが明らかとなっている。

 このほか、調査の結果、研究費の節約など効率的執行については約8割の研究者が効果を感じていること、研究費の適正管理については研究機関の77%、研究者の96%がほとんど支障を感じていないこと、基金化による研究費の不正管理への影響については研究機関の67%、研究者の82%が基金になって管理がルーズになることはないとし、研究機関・研究者の50%以上がむしろ不正を減らす効果があるとしていることがわかった。

 一方、複数の調査項目において、研究費の種類の混在(補助金、基金、上限額付きの一部基金)による研究費の執行管理の煩雑化に懸念を示す回答が目立ち、研究機関からは、補助金と基金という性格の異なる経費が混在することにより、事務負担や事務コストが増えたとする回答が30%あった。これは、科研費の管理方法や作成書類の簡略化に関する課題でもあるが、特に上限額付きの一部基金化については、現時点においてはまだ実際に研究費が使用されてはいないものの、一つの課題に対し2つの資金の管理が必要となることから、全額基金化してほしいとの要望が多い。

 なお、アンケート調査の回答に見られるように、研究現場によっては研究費の年度内執行に関する固定観念から脱しきれていないところもあることから、基金化の制度について一層周知し、積極的に活用することが強く求められる。

今後の基金化の進め方

 基金化された種目は、科研費の全研究種目に対し、新規採択課題の件数では9割が基金の対象となったものの、配分額では、24年度に基金化の対象となった2種目について基金からの配分額が総額500万円までとなったこともあり4割にとどまっている(注9)。

 今回、科研費についても、金額に関係なく基金化の効果が期待されることが明らかになったことから、残された研究種目についても、基金化を図っていく必要があるが、これらの研究種目は、総額5,000万円~十数億円という比較的大型の種目であり、基盤研究(B)や若手研究(A)のような500万円を上限とした一部基金化では、総額に比して金額が小さ過ぎ、基金化による研究の効率化、効果化というメリットを活かすことができない。また、基盤研究(B)や若手研究(A)同様の効果を得るためには、平均配分額総額の3割程度の金額を基金化することが必要であるが、そのためには多額の予算措置が必要となる。現下の厳しい財政状況において、これらの研究種目において後年度に必要な研究費を積むような方法で基金化を進めることは財政効率面での課題があるとも考えられる。

 また、検証によって指摘されているように、補助金と基金が混在する方式では、研究費の取扱いが複雑となり、研究現場の負担が増え、基金化の効果が充分に発揮されないことが強く懸念される。

 このため、今後科研費の基金化を進めていくに当たっては、研究費の全額を基金にすることが望ましく、さらに財政効率の観点からは、後年度に必要な研究費を予め措置するという考えにとらわれずに、既に日本学術振興会が基金化した5種目の後年度分の研究費として保有する「学術研究助成基金」を他の種目の研究費の前倒しなどにも柔軟に活用できるようにするなど、できるだけ予算増を伴わない基金化の仕組みを構築することを早急に検討すべきである。

3.新学術領域研究の改善

新学術領域研究の趣旨

 「新学術領域研究」は、従来の「重点領域研究」や「特定領域研究」というグループ型研究の種目を継承し、「特定領域研究」及び「学術創成研究費」を発展的に見直すことにより平成20年度に創設された研究種目である。創設の契機となったのは、「特定領域研究」について、「新しい学問分野の創出・発展に寄与するという視点よりも、既に研究領域としてある程度確立された領域の水準向上を目的とするものが多く設定される傾向にある」とされ、また、「学術創成研究費」について、「推薦者が専門とする既存の学問分野の研究テーマが推薦されるケースがあり、新しい学問領域の創成という点で、研究種目の趣旨・目的が十分に活かされていない」等の指摘を受けていたことであり、これらの指摘を踏まえ、「既存の研究分野の枠に収まらない新興・融合領域や異分野連携などの意欲的な研究を推進することにより、革新的な学術研究の発展を促すこと」を目的として創設された(注10)。

制度改善への要望

 平成20年度以降24年度までに多様なテーマに関する約100領域が発足し、研究を展開しており、これらの領域に関しては、異分野連携による多様な視点や手法の取り込みによる研究の発展や、領域内の密接なコミュニティによる若手研究者育成といった成果について高く評価されている。

 このように新学術領域研究は我が国の学術研究発展のために極めて重要なものとなっているが、初年度に発足した領域については24年度に5年間の研究期間を終了する予定であり、これまでの成果を踏まえた制度改善を図るため、「新学術領域研究の在り方に関するアンケート調査」(平成23年9月)(注11)及び審査部会において、見直すべき点について意見を聴取した。

 その結果、

(1)これまでに各領域において構築されてきた特色豊かな研究ネットワークを活用し、領域研究のさらなる発展を図るための継続的な支援を求める意見
(2)最適な人材による研究グループ編成の必要性、研究者の情報交換や研究連携推進の必要性、安定した研究継続の支援の必要性から公募研究の重複応募制限の緩和を求める意見
(3)新学術領域研究の計画研究代表者として最適の研究者を配置する領域編成ができるよう、新学術領域研究以外の研究種目との重複制限の緩和を求める意見
(4)領域申請・領域審査において、新たな学術分野の創成という観点になりがちであることから、既存分野の深化、新展開、水準向上を目指す研究や学術的重要性から推進すべき研究についての支援を求める意見

があった。

 また、「学術新興上の重要な取組について(これまでの意見のまとめ)」(平成23年7月15日学術の基本問題に関する特別委員会)において、研究者ネットワークのコアとなる研究グループの形成という観点を新学術領域研究に取り入れることなどについて検討することが求められており、これらを受け、領域研究の成果をより発展させるための支援の在り方について、本部会において検討を行った。

継続支援

 学術研究は常に新たな展開をしながら発展していくものであり、過去に採択された領域の支援策として単なる継続を認めることは、かえって新たな発展の芽を阻害することにもなりかねないことから適切とは考えられず、むしろそのときどきの学術動向を踏まえながら研究内容を見直し、過去に採択された領域を発展させた新たな提案を促していくことこそが学術研究の発展に資するものと考える。このため、新たな領域提案が、過去に採択された領域研究の成果をベースとしている場合には、これまでの領域研究の成果やその評価を領域申請書に記載することとし、審査に適切に反映することにより、構築された研究者ネットワークの発展を促すことが必要である。

 また、研究期間終了前年度の申請を認めることについても検討を行ったが、

  • 領域研究の固定化や領域メンバーの固定化につながりかねないこと、
  • 継続中の領域の研究が完結する前に審査をすることとなり、当初の計画に対する評価が適切にできなくなる懸念があること、
  • 継続中の公募研究への対応等を考慮すると制度が複雑化することになり、好ましくないこと

から、適切でないと考えられる。

 さらに、研究者の人件費を一部支出可能とし、複数PIを集約した活動拠点を形成できるようにすることについても検討を行ったが、

  • わが国最大の競争的資金である科研費において、限定的であっても、現在研究機関において措置されている研究代表者や研究分担者の人件費支出を可能とすることは、弊害が大きいこと、
  • 研究期間終了後の科研費により雇用されていた研究者の処遇が不安定となること

から、現時点においては適切でないと考えられる。

 一方、異分野連携・共同研究等により新たな芽を育む研究を支援していくことが学術研究の発展にとって重要であることはいうまでもなく、新学術領域研究内での成果評価のみならず、様々なかたちで築かれつつある研究者ネットワークの成果についても、適切に評価していくことが重要である。

公募研究の重複制限の緩和

 公募研究の重複応募制限については、かつての「重点領域研究」、「特定領域研究」において複数課題への応募が可能であったところ、「新学術領域研究」創設時に1領域のみの応募・受給に制限された。これは、多額の研究費が1人に集中することを避け、限られた財源でより多くの研究者が研究できるようにするため、同一研究種目・審査区分内、または性格が類似する研究種目においては、複数の研究の同時実施を認めないこと、各種目の審査体制に応じた応募件数の適正化を図ること等、重複制限の基本的考え方を踏まえ、新学術領域研究においても応募件数抑制による審査・評価の一層の充実や各研究者の応募機会の均等化を念頭に置いたルールとすべきであるとされたことによる(注12)。

 これにより、特定領域研究であったときと比較すると、重複応募・採択の割合が減り、重複応募・採択なしの研究者が増えている(注13)。

 公募研究の応募を過度に制限することで、若手研究者の領域内外の研究者との交流機会や共同研究の機会が減少することは、新学術領域研究の目的に反することとなる。また、現在の公募研究の1課題あたり配分額は300万円程度となっており(注14)、複数応募・採択を認めたとしても研究費の過度の集中とはいえない。

 このため、審査負担や受給調整の負担も考慮し、公募研究への応募・採択をそれぞれ2件まで認めるように改めることが適切であると考える。

 この場合、これまでに比べると相対的に公募研究に参加できる研究者が減る可能性があるため、併せて各領域研究における公募研究の割合を一定程度確保することについても検討する必要がある。

【以下資料2-4に基づいてご審議をお願いします】

 すなわち、現在、新学術領域研究の各領域における公募研究は数件程度から数十件程度まで、研究費も領域全体の予算額の数%程度から数十%程度までと幅があるが、領域全体に占める公募研究の割合が過度に少ない領域においては、新たな発想による独創的な研究や、研究人材育成の取組を通じた領域研究の発展という新学術領域研究の趣旨が十分に生かされない可能性がある。このため、領域全体の中での公募研究の件数または金額の設定に関し、ある程度の基準が必要であると考えられ、このようにすることにより、多様な研究者が公募研究に参加できる機会が拡大するとともに、領域に新たな視点がもたらされ、研究者ネットワークの発展につながることが期待される。

他種目との重複制限の緩和

 新学術領域研究以外の研究種目との重複制限に関しても、基盤研究(S)の研究代表者と新学術領域研究の計画研究代表者の重複受給ができないことにより、特に新学術領域研究の計画研究代表者として最適の研究者を配置する領域編成ができないという弊害があることが指摘されている。

 基盤研究(S)との重複受給制限については、研究費の過度の集中の排除という観点から、特定領域研究の計画研究代表者と両方採択された場合、特定領域研究を優先させるという受給制限が従来からあったものの、新学術領域研究発足に際し、両方採択された場合、どちらかを選べる方式に変更されたことにより、領域編成に影響が出るケースが多くなった。また、近年、科研費以外の大型の競争的資金との間で、基盤研究(S)及び新学術領域研究の計画研究代表者との重複制限がないものが見られるなど、現在の競争的資金制度全体のバランスを踏まえ、応募・受給制限の見直しについて検討を行う必要が生じている。

 【このほか、特別推進研究・研究分担者×新学術領域研究・計画研究代表者、特別推進研究・研究分担者×新学術領域研究・公募研究代表者の重複制限についても、資料2-5に基づき併せてご審議をお願いします】

既存分野の支援

 既存分野であってもこれを発展させる研究計画については、従来より新学術領域研究の対象として含まれているが(注15)、領域申請及び領域審査の双方において、異分野融合・連携や新規性の面がより強調されているのではないかとの指摘が少なからずある。

 今後、公募要領や領域審査において、既存分野の研究の深化、新展開、水準向上等を目的とする領域研究についても新領域と同様に重要であることを明確にする必要がある。

4.研究成果公開促進費「学術定期刊行物」の改善

 研究成果公開促進費は、我が国の学術の振興と普及に資するとともに、学術の国際交流に寄与することを目的として、優れた研究成果の公的流通の促進を図るものであり、現在、学会等によるシンポジウム等への支援を行う「研究成果公開発表」、学会等による学術誌等の発行への支援を行う「学術定期刊行物」、個人又は研究者グループ等による学術図書の発行への支援を行う「学術図書」、個人又は研究者グループ等による学術データベースの整備への支援を行う「データベース」の4つの種目から構成されている。

 この研究成果公開促進費「学術定期刊行物」の在り方については、平成11年のまとめ(注16)において、学術誌のクオリティを高めるため、査読体制の国際化、外国人編集委員や国際的視野による専任エディターの採用、欧文校閲体制の充実等により、編集体制を強化すべきであり、そのため、研究成果公開促進費の大幅な拡充と重点的配分が必要であること、我が国の学術誌の電子化出版への対応について、早急に検討する必要があること等が提言されていた。

 その後、平成21年7月の第5期研究費部会の審議のまとめ(注17)においては、研究成果公開促進費の予算が近年大きく減少しており、研究成果の公開の取組を一層進めていくためには、予算の拡充が必要であるとしつつ、情報技術の発展と研究成果公開促進費との関係については、デジタル化・ネットワーク化が進展する中で学術情報基盤作業部会において検討が進められている学術情報の流通の仕方についての議論も踏まえながら、引き続き検討すべきであるとされていた。

 第6期の学術情報基盤作業部会においては、日本の学術情報発信機能を強化するための研究成果公開促進費の改善等について審議が行われた結果、「学術定期刊行物」について、電子化の進展や国際情報発信力強化に向けた改善が必要であり、そのため、ジャーナルの発行に必要な経費の助成、国際発信力強化のための取組内容の評価及びオープンアクセスの取組への助成の必要性という改善の方向性について提言がなされたところである(注18)。

 これを受け、日本学術振興会において制度改善による影響を検証しつつ、具体的な検討を行った結果、

(1)種目名を「学術定期刊行物」から「国際情報発信強化」とし、助成対象を「定期的に刊行する学術誌」から、「国際情報発信力を強化する取組」とすること、
(2)査読審査、編集、出版及び電子ジャーナルの流通に係る経費等国際情報発信力の強化に必要な経費を助成の対象とすること、
(3)事業期間を5年間とし、実施計画が刊行物の国際情報発信強化に向けた目標達成に向けて妥当なものか、これまでとは異なる新たな取組であるかを評価すること、
(4)従来の購読誌については、応募総額により応募区分を設定した「国際情報発信強化(A)」、「国際情報発信強化(B)」により助成を行い、新たにオープンアクセス誌の育成を支援するための応募区分として「オープンアクセス刊行支援」を設けること、

等について報告があった。

 科研費等による優れた研究成果を広く国際社会に発信し、我が国の学術研究のさらなる展開を促進するためにも、また、国民の研究成果へのアクセシビリティを向上させるためにも、電子化やオープンアクセス化等学術情報流通形態の急速な変化に応じた支援が喫緊の課題となっている。

 このため、上記報告を踏まえ、ジャーナル発行に関する新たな取組に対し、効果的な支援ができるよう、種目名の変更、電子ジャーナルの発行等に必要な経費への助成、新たな取組に対する評価及びオープンアクセス誌への支援等、研究成果公開促進費の制度改善を図るべきであると考える。

 なお、「学術定期刊行物」以外の種目についても、引き続き適切な支援を行っていくものとする。

5.その他

 新たな研究の芽を育て、学術の多様性を確保することは学術研究の根幹を成しており、複雑化する社会の中で、既存の学問分野の枠にとらわれない研究者の柔軟な思考と斬新な発想に基づく優れた研究計画を適切に評価していくことが必要不可欠となっている。科研費においては、学問動向に照らし応募しやすいものとなるよう、また、適切な審査が行えるよう、系・分野・分科・細目表の大幅な見直しを行い、平成25年度公募から適用することとしている。これに加え、さらにきめ細かな審査が可能となるよう、審査制度の基本的枠組みである細目を超えた審査の在り方も含め、改善を図ることが必要である。

 また、本部会においては、科研費による研究についての評価や科研費の研究種目の在り方等についても審議を行ってきた。

 学術研究は、必ずしも短期間に明確な成果が現れるとは限らず、また、研究分野により研究成果として捉えられるものが異なるという特性があるため、画一的・短期的な指標による評価にはなじみにくいという性質を有している。しかしながら、国費を投入して行われる事業については、可能な限り科学的根拠に基づく指標を用いながら政策立案及び評価を行い、その結果をわかりやすく説明するという社会的責任がある。科研費により行われた研究についても、一般的に研究活動に関し論文数や論文の被引用回数などの定量的な指標が用いられることが多い現状において、科学的根拠に基づく政策立案という観点から、どのような指標を用いて評価を行い、対外的に説明をしていくことが適当であるのか、そのためにどのようなデータ構築が必要であるのかについて、今後引き続き本部会において検討を進めていくこととする。

 このほか、若手研究の種目の見直しや、基盤研究における研究期間及び研究費総額の設定の在り方等についても、これまでの議論を踏まえながら、引き続き議論を行っていく予定である。

注釈

(注1)「科学研究費補助金において当面講ずべき施策の方向性について(審議のまとめ(その1))」(平成19年8月10日研究費部会)1~2頁、「科学研究費補助金において当面講ずべき施策の方向性について(研究費部会「審議のまとめ(その2)」)」(平成20年7月16日研究費部会)1~2頁、「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について(提言)」(平成21年1月8日研究費部会)3~6頁、「第4期科学技術基本計画の策定に向けた検討と科学研究費補助金の在り方について(意見のまとめ)」(平成21年10月29日研究費部会)15~16頁

(注2)米国(FederalGovernmentalFunds)・英国(ResearchCouncil)・日本(科学研究費補助金)の研究費獲得額が1位の大学の研究費を100とした場合、10位の大学の獲得額は米英日それぞれ36%、35%、15%であり、20位の大学の獲得額26%、17%、6%、30位の大学の獲得額21%、14%、5%となる(平成21年日本学術振興会資料)

(注3)「科学研究のベンチマーキング2011」(2011年12月科学技術政策研究所)28~29頁によれば、主要国の論文数シェアにおいて、日本のランクは1998年-2000年平均の3位から2008-2010年平均の5位へと低下している。また、Top10%補正論文数においても1998年-2000年平均の4位から2008-2010年平均の7位へと低下している(いずれも整数カウント)。

(注4)「論文の被引用数から見る卓越した研究者のキャリアパスに関する国際比較」(2011年8月科学技術政策研究所)25頁によれば、高被引用研究者(トムソンロイターISIHighlyCited.comにおいて一定期間内に発表された研究者論文の合計被引用数が当該分野の上位250位までの研究者)で大学に勤務する123人中48.4%の研究者が異動しておらず、78人(63.4%)が科研費の採択課題数上位12大学のみで勤務していた。

(注5)国立大学法人運営費交付金は平成16年度の12,415億円から平成24年度の11,423億円へと992億円削減されている。また、私立大学等経常費補助は現在の補助形式となった平成19年度の予算額3,281億円から24年度の3,263億円へと削減傾向にある。

(注6)「科学技術の状況に係る総合的意識調査(定点調査2010)」(2011年5月科学技術政策研究所)によれば、大学等の研究施設・設備の整備状況は2006年度から一貫して充分でないとの評価(問6)、研究支援者については著しく不充分との評価であり、研究資金について不充分であるとして評価を下げた回答者の多くが運営費交付金の削減を理由として挙げている(問37)。また、望ましい能力を持つ人材が博士課程後期を目指していないという認識が年々強まっており、博士課程後期を目指すための環境整備は一貫して不充分であるという評価である(問12~問14)。

(注7)文部科学省において、基金による研究上の影響について調査するため、最先端研究開発支援プログラム中心研究者30名を対象とし、研究成果創出の効果及び研究費の効率的執行の程度についてアンケート調査を実施した。

(注8)「科研費の基金化の効果等に関する検証」(平成24年4月文部科学省学術研究助成課調べ)

(注9)基金化された件数は平成23年度の3種目で20,216件(科学研究費全採択件数26,870件のうち約8割)、平成24年度の5種目で23,267件(同26,870件のうち約9割)、金額では平成23年度の3種目で853億円(科学研究費全体額2,633億円の約3割)、平成24年度の5種目で1,052億円(同2,556億円の約4割)である。

(注10)「科学研究費補助金において当面講ずべき施策の方向性について(研究費部会「審議のまとめ(その1)」)」(平成19年8月10日)7~8頁

(注11)文部科学省では、平成23年9月、新学術領域研究に関し見直すべき点について、各系委員会(人文・社会系、理工系、生物系、複合領域)委員61名、平成20~22年度採択の領域代表者78名、学術調査官27名を対象としてアンケート調査を実施した。(本まとめ参考資料参照)

(注12)「科学研究費補助金において当面講ずべき施策の方向性について(研究費部会「審議のまとめ(その2)」)」(平成20年7月16日)7~8頁

(注13)平成15年度におけるほぼ全種目に対する重複応募状況は、重複なしが69,000人(82.8%)、2件が11,724件(14.1%)、3件以上が2,617人(3.1%)であったのに対し、平成22年度においては、重複なしが96,326人(89.4%)、2件が9,486人(8.8%)、3件以上が1,979人(1.9%)となっている。

(注14)平成23年度採択の公募研究の1課題当たり平均配分額は321万円である。

(注15)新学術領域研究の対象として、平成20年度当初より「多様な研究者による新たな視点や手法による共同研究等の推進により、当該研究領域の新たな展開を目指すもの」が含まれており、これに該当するとして採択された領域は採択領域のうち約67%であった。

(注16)「科学研究費補助金「研究成果公開促進費」の在り方について(報告)」(平成11年8月25日学術審議会科学研究費分科会企画・評価部会研究成果公開促進費の在り方に関するワーキンググループ)

(注17)「科学研究費補助金に関し当面講ずべき措置について(これまでの審議のまとめ)」(平成21年7月16日研究費部会)21~23頁

(注18)日本の学術情報発信機能を強化するための科学研究費助成事業(科学研究費補助金(研究成果公開促進費))の活用等について」(平成23年12月6日科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会)

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