資料2-2 「科学研究費助成事業(科研費)の在り方について(審議のまとめ その2)」に向けた論点メモ

1.科研費が果たすべき役割について

○高等教育予算や科学技術予算の大幅な増額が望めない中で、研究費の助成を通じた若手研究者の養成、研究基盤整備等、学術研究の振興に科研費が果たすべき役割や意義について、どのように考えるか。

  • 第4期科学技術基本計画(平成23年8月閣議決定)においては、科研費の新規採択率30%及び間接経費30%の確保並びに基金化による研究の成果、効果の検証を踏まえた必要な取組の推進とともに、多様な人材育成、研究施設や設備、研究開発環境の整備についても記載。
  • 平成24年度予算案においては、国立大学法人運営費交付金が対前年度105億円減の1兆1,423億円となるなど厳しい状況にある中で、科研費予算は助成額で対前年度103億増の2,307億円を確保し(予算額では対前年度67億減の2,566億円)、基金化の対象種目の拡大等の制度改善を進めているところ。
  • 科研費は研究費の助成を通じ、大学等における研究環境の整備においても大きな存在となっていることから、平成24年度より、科研費の合算使用による共用設備の整備を可能とした。

2.基金化の拡大について

○厳しい財政状況が続く中、今後の科研費の基金化をどのように進めるか。

  • 平成23年度、総額500万円以下の種目である基盤研究(C)、若手研究(B)、挑戦的萌芽研究について複数年度研究費の改革(基金化)を実現し、平成24年度には基盤研究(B)、若手研究(A)についても、1研究課題毎に研究費総額のうち500万円を上限として基金化を拡大したところ。これにより新規採択件数の9割は基金化されたが、配分額でみるとその対象は4割にとどまっている。
  • 基金化の成果については、研究費の総額に関わりなく2~3割の研究成果創出上の効果を挙げる研究者が多数あり(平成23年9月最先端研究開発支援プログラム基金活用状況調査)、種目の大小にかかわらず、研究費の効果的、効率的使用が期待できる。
  • 今後、残された比較的大型の種目について複数年分の研究費をすべて基金化するためには多額の予算措置が必要となるが、現在の財政状況では困難が予想される。

 科研費の研究種目の図

○基金化された件数

【平成23年度】20,216件(科学研究費全採択件数26,870件のうち約8割)
【平成24年度】23,267件(科学研究費全採択件数26,870件のうち約9割)

○基金化された金額

【平成23年度】853億円(科学研究費全体額2,633億円の約3割)
【平成24年度】1,052億円(科学研究費全体額2,556億円の約4割)

【検討の方向性】

○科研費における基金化の成果、効果については現在調査中であり、5月頃にまとめる予定の調査結果を基に検証を行う予定である。その一方、今後の基金化対象種目の拡大については、現下の厳しい財政状況を考えると、後年度に配分する予定の研究費全額を予め確保しなくても弾力的な研究費の使用ができるような基金の仕組みを行政として考えるべきではないか。

3.新学術領域研究の見直しについて

○平成20年度に発足した「新学術領域研究」において構築された学術研究ネットワーク等の成果を踏まえ、研究のさらなる発展を図るためには、どのような支援が適切と考えられるか。

  • 「新学術領域研究の在り方に関するアンケート調査」(平成23年9月)においては、「既存分野の深化、新展開、水準向上を目指す研究や学術的重要性から推進すべき研究について支援すべきである」、「成果が認められた領域については、5年間の研究期間終了後も期間延長や発展的な再申請を認めてほしい」等、継続的な支援を求める意見、要望が多数あった。
  • また、最適な人材による研究グループ編成の必要性、(若手)研究者の情報交換や研究連携推進の必要性、安定した研究継続の支援の必要性から、特に公募研究の重複応募制限の緩和を求める意見も多数あった。

【検討の方向性】

  • 新学術領域研究の対象に既存分野の新展開、水準向上等が含まれることを公募要領等において明確化し、応募する研究者、評価を行う審査員双方に周知するとともに、既存領域の継続的支援については、次の2案について検討してはどうか。

支援方法

メリット

デメリット

(1)優れた研究成果を創出したと評価される領域については、領域の再申請も可能であることを明確化する
(この場合、研究期間の中断が生じないよう「前年度応募」を認めるかどうか、前年度応募・採択を認めた場合、実施中の研究(特に公募研究)の扱いをどうするか、審査基準をどうするか(領域設定時と同様でよいか)について検討する必要がある)

  • 構築された既存領域のネットワークを活かしつつ、実際に研究を継続することができ、研究の深化、新展開が期待できる。
  • 領域全体としては成果が出ていても、個々の計画研究の成果が芳しくない場合の当該計画研究の排除が困難。
  • 領域メンバーが固定化し、領域の固定化につながりかねない。
  • 前年度応募の場合、計画研究は「廃止、再交付」、公募研究は「継続」とすることが考えられるが、その場合、初年度の公募研究の分の予算が必要となり、新規領域の採択を圧迫しかねない。
  • 新規領域の採択を圧迫しかねない。

(2)科研費から若手研究者等の人件費を支出可能とし、複数PIの活動拠点として継続的な研究が行えるような組織を整備できるようにする。(25年度からの適用を前提としない)
(この場合、どのような場合に使用できることとするか、総額をどの程度に設定するか(他の領域とは別の総額、研究期間、審査基準等とするか)、大学等の研究機関に対し何を求めるか、審査体制をどうするか、について検討する必要がある)

  • 若手研究者等の育成に資する。
  • 目に見える研究拠点となり、研究の発展や国際発信力の強化が期待できる。
  • 科研費から人件費を措置することについて、他の事業との整理が必要(研究代表者本人の人件費や新規採用教員の人件費を科研費で充当することが原則となるおそれがある)。
  • 相当の予算が必要となり、当該領域の研究費や新規領域の採択を圧迫しかねない。
  • 研究期間経過後の研究者の処遇が不安定である。

 

  • 公募研究の重複応募制限の緩和については、多数の研究者に研究に参画する機会を広げるという観点から、次の2案について検討してはどうか。

(1)複数課題の応募を(上限あり(例えば3件程度)・なしで)可能とするが、受給制限を課し、1件のみ受給可能とする。

 この場合、交付内定後の需給調整において混乱が生じないよう、予め優先順位を申請者に記載させ、審査においてはそれを踏まえて補欠採択課題を決め、交付申請辞退があった領域において補欠の課題を採択することとする。

(メリット)
  • 採択の可能性が高まり、安定した研究環境の確保につながる。
  • 受給を1件とすることにより、多様な研究者が領域研究に参加できる。
  • 受給制限により、不合理な重複や、研究費の過度の集中が排除できる。
(デメリット)
  • 受給制限のため、審査の際、公募研究の補欠採択課題を決定することが必要。
  • 成果を上げている研究者でも公募研究を1件しか実施できず、領域研究における情報交換等の機会が制限される。

(2)複数課題の応募を(上限あり(例えば3件程度)、なしで)可能とし、条件付きで複数受給も(上限あり、なしで)可能とする。

 この場合、応募者には予め応募状況と優先順位を記載させ、応募受付後は、複数課題応募者を採択しようとする領域は、交付申請辞退者が出る可能性があるという前提で、必要に応じ補欠採択課題を決めておく。
複数課題採択者については、事務局において交付申請時に複数課題実施の意思確認を行い、また、研究課題の不合理な重複があると判断される場合、研究計画を打ち切る可能性があることについて同意を得る。この際、交付申請辞退ないし交付減額申請があれば、領域によっては補欠採択を行うことを可能とする。

(メリット)
  • 採択の可能性がより高まり、安定した研究環境の確保につながる。
  • 複数課題の受給が可能となり、成果を上げている研究者が多様な課題に取り組み、情報交換等を行う機会を得られる。
(デメリット)
  • 不合理な重複や、研究費の過度の集中を排除するための確認が必要となる。
  • 新学術領域研究全体でみたときに、公募研究に参加できる研究者数が減る可能性がある。
  • 審査の際に公募研究の補欠採択課題を決定することが必要。

4.研究成果公開促進費の見直しについて

○研究成果公開促進費学術定期刊行物について、どのように見直すべきか。

  • 「日本の学術情報発信機能を強化するための科学研究費助成事業(科学研究費補助金(研究成果公開促進費))の活用等について」(平成23年12月6日科学技術・学術審議会学術分科会研究環境基盤部会学術情報基盤作業部会)において、研究成果公開促進費に関し、ジャーナルの発行に必要な経費を助成すること、国際発信力強化のための取組内容を評価すること、オープンアクセスの取組に対し助成すること等が改善の方向性として提言された。

【検討の方向性】

  • 日本学術振興会学術定期刊行物改善検討タスクフォースにおける研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の具体的見直しに関する検討結果についてどのように考えるか。

5.その他科研費に関する改善事項について

○今後、学術研究を支援する研究費制度の在り方について検討すべき課題として何が考えられるか。

  • 平成23年12月の科学技術・学術審議会人材委員会のまとめにおいては、公的研究費が研究者育成という意義を有していることから、若手研究者等の養成に資するよう運用すべきことが記載されている。

(参考)文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~(平成23年12月20日科学技術・学術審議会人材委員会)
(2)基本的な考え方
○そもそも、政府の公的研究費は、研究成果のみならず、我が国の未来を担う研究者を育成するという重要な意義や、研究プロジェクトの中で育てられた人材を通じて研究成果を社会へ還元するという意義を有している。さらに、公的研究費で雇用された若手の博士研究員がその後、公的研究機関の研究者はもとより、企業等で活躍する人材となるためには、新たな道を切り拓く自由な発想と幅広い視野を身に付ける必要があり、このためには、異分野や異業種との交流などを推進することも有効である。
したがって、政府の公的研究費は、優秀な若者が希望を持って積極的に科学技術の道を選択する好循環をもたらし、広く社会で活躍できる能力が養われるように運用することが求められる

(3)文部科学省及び公的研究機関に求められる事項
1文部科学省の公的研究費の公募要項等に反映する事項
文部科学省においては、公的研究機関や研究代表者の取組を促すため、各事業の目的や特性に応じて対応可能なものから、今後新たに公募する事業の公募要項や評価基準に以下の事項を盛り込むことが求められる。
1)公的研究費により若手の博士研究員を雇用する公的研究機関及び研究代表者に対して、若手の博士研究員を対象に、国内外の多様なキャリアパスの確保に向けた支援に積極的に取り組むよう公募要項等に記載する。
各事業の申請書には、公的研究費により雇用する若手の博士研究員に対する多様なキャリアパスを支援する活動計画(以下「キャリア支援活動計画」という。)(例:機関が行う企業等と協働して行う講義、長期インターンシップ、企業交流会、カウンセリング等への参加の推奨、異分野を含めた研究活動への主体的な参加の推奨など)を記載することとし、審査の際に確認する
2)若手の博士研究員の能力開発に要する経費は、研究活動を支える基盤的な経費であるとの考え方に基づき、上記の申請書に記載したキャリア支援活動計画に基づく若手の博士研究員の活動の一部を、研究エフォートの中に含めることができることを記載する。
3)中間評価や事後評価においては、各事業の目的や特性に応じて、上記のキャリア支援活動計画に基づく取組状況や若手の博士研究員の任期終了後の進路状況を報告させ、プラスの評価の対象とすることを記載する。

(4)その他
○文部科学省においては、公的研究費の公募要項等に、博士課程(後期)学生をリサーチアシスタント(RA)として雇用する場合は、経済的負担を軽減する観点から、給与水準を生活費相当額とすることを目指しつつ、労働時間に見合った適切な設定とすることを推奨する旨を記載することが求められる。

 ※文中、ローマ数字の1は「(1)」、丸囲みの1は「1)」と記載している。

  • 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は優れた研究環境と高い研究水準を誇る「目に見える拠点」の構築を目指し、大学等へ集中的な支援を行うもの(支援の中に研究プロジェクト費は含まれない)。本プログラムの研究拠点に雇用された研究者は、拠点のための活動とみなせる範囲においては、海外を含む他の機関にて共同研究等に一部従事することも可能となっている。
  • 一方、科研費においては、科研費柀雇用者には雇用契約等において雇用元の科研費業務に専念する義務があるため、雇用元の業務に充てるべき勤務時間を前提とした科研費への応募が認められていない。

【検討の方向性】

○科研費制度が若手研究者の育成に大きな役割を果たしていることを踏まえ、今後、若手研究者のキャリア形成のための環境整備という観点から、例えば科研費被雇用者のインターンシップ等キャリア形成活動への参加や、科研費への応募を可能とする(科研費業務のエフォートについてキャリア形成に資する活動を含める等)ような運用の見直しについて検討すべきか。

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課企画室

小久保、神田
電話番号:03-5253-4111(内線4092)
メールアドレス:gakjokik@mext.go.jp

(研究振興局学術研究助成課企画室)