第5期研究費部会(第13回) 議事録

1.日時

平成22年1月21日(木曜日) 10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省 3F1特別会議室

3.出席者

委員

 有川部会長、佐藤委員、鈴木委員、田代委員、中西委員、三宅委員、井上(明)委員、井上(一)委員、岡田委員、金田委員、鈴村委員、谷口委員、宮坂委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、山脇振興企画課長、山口学術研究助成課長、松川国立教育政策研究所総括研究官、石﨑学術企画室長ほか関係官

4.議事録

(1)科学研究費補助金の在り方について

 事務局より、資料2「科学研究費補助金の在り方について(論点メモ)」について説明を行った後、審議を行った。

【有川部会長】
 1ページから8ページにかけては若手研究の在り方についてということで、特に4ページから6ページでは、若手研究(S)、(A)については廃止し、基盤研究の充実のためにその財源を充てるとともに、平成23年度公募を中止するという方向で検討するということ、また、若手研究(A)を廃止した場合の優遇措置として3つの案が示されているが、これらについてどのように考えるかなどについてご意見をいただきたい。それから、7、8ページの若手研究(S)、(A)が廃止・統合された場合の若手研究(B)の在り方や、受給回数の制限に関する考え方についてもご意見をいただければと思う。

【岡田委員】
 昨年暮れに事業仕分けがあり、多くの研究者が非常に心配をしたということがあった。私は現在、分子生物学会の理事長をしていて、12月初めにその年会があったが、そのときに事業仕分けに関して文部科学省や民主党が科学研究をどのように考えているのかということを聞きたいということで、緊急のフォーラムを開催して、民主党からは参加していただけなかったが、文部科学省からは2人来ていただいた。
 そのときに数百人の学会会員が集まって様々な意見交換をしたが、学生、ポスドクから教授まで含めた人たちの意見として、若手の研究者や学生が将来に対する不安を非常に強く持っているということが一番印象に残った。不満もあるし、研究者としての将来の生活設計が本当にできるのかということに対する不安もあって、もう絶望しかかっている人もいる。そういう意味でも、この科学研究費補助金の制度設計をどのようにしていくかということは非常に重要で、まず文部科学省のこのような部会において、若手研究者をエンカレッジするようなメッセージを出すことが重要だと思う。
 そういう視点で一番大事なことは、新たに大型の研究費の制度を導入したときに、若手研究者を対象とする科学研究費補助金の採択率が下がって、採択されるプロジェクトの数が減るという影響が、若手の人たちに来るのではないかということを不安に思っているということである。いろいろな御意見があると思うが、まず、特に若手で言うと、採択件数が減らないようにするということを第一に考えることが大事ではないか。若手の人たちに対して、文部科学省も我々も、皆さんのことを一生懸命考えて、しっかり頑張ってくれるようにやっているんだというメッセージをいかに出すかということだと思う。例えば、若手研究(A)を廃止して基盤研究(B)の中に位置付けるということにはいろいろ議論はあると思うが、そのときに今まで若手研究に応募していた人たちに十分な採択数が保障できるかどうか、あるいはそれをもっと増やすことも十分考えられるというようなメッセージが、制度の中できちんと伝わるようなシステムにしなければいけないと思う。

【有川部会長】
 大事な点をご指摘いただいたと思う。
 これまでの議論や、緊急に対応した若手研究(S)の新規募集停止なども含めて、若手の枠を1つきちんと確保するということで、若手研究(B)を一般化して若手研究としたらどうかというようなことになっている。そこを充実させることによって、若手の採択率はかなり確保できるということが言える。一方で、若手研究は現行では2回まで受給できるので、そこで力を十分つけて、もっと多様な可能性のある基盤研究になるべく早くチャレンジしていただくというようなことも言える。その辺のやり方に関しては、若手がエンカレッジされていないと思うかどうか意見が分かれてくると思う。新規募集停止した若手研究(S)は採択件数が極めて限定的であり、若手ということがなくても十分戦っていけるような人たちではないかということもあるので、少し長い目で見たときにどうかということまで考えると、少し違った見方も出てくるのではないかという気もする。若手研究について考える上で極めて大事なことだと思うが、その辺についてどう考えられるか。

【山口学術研究助成課長】
 少し振り返ってご確認いただければと思う。第5期第7回の研究費部会の資料に、昨年の夏に最終的にまとめが出されたときの資料が入っている。その資料2-1をご覧いただきたい。
 昨年夏までのご議論では、若手が中心であった。例えば今の若手研究の問題点として、基盤研究を科研費の中核であるとした場合に、若手研究はそこに至る前の経験が薄い人への、ある意味助走期間としての優遇措置だろうということで、若手研究者支援の意味は非常に重要だとしても、やはり基盤研究へ移っていく方法を考える必要があるということであった。特に、若手ばかりを続けて取っている人がいるということについてはいかがかということや、若手研究のピラミッド体系と基盤研究のピラミッド体系との連携を図っていくべきではないかということで、回数制限や最終年度前年度応募等々の措置を認めていただいたところである。
 その際、個別の種目について言うと、若手研究(B)については、やはり引き続き重要であろうということであったが、若手研究(A)については、非常に大きな研究種目であって、かなり実力のある方が受給しているのではないか、基盤研究に行っても見劣りのしない方々がやっておられるのではないかということであった。若手研究(S)についても同様であった。しかしながら、若手研究(A)と基盤研究とを比較した場合、若手研究(A)の方がかなり優遇されているので、基盤研究が見劣りして魅力がないのではないかというようなご議論があったと考えている。その意味では、若手研究(A)については、将来的に基盤研究の中に位置づけていくのではないか、その際、例えば優遇措置をどうするのかといったことについては、日本学術振興会等の意見を聞きながら、さらに検討するということが昨年の夏の段階でのまとめだったと思う。
 今、話があったように、秋に若手研究をめぐっての事業仕分けがあったので、それを踏まえた上で、若手研究者に対してどのようなメッセージを与えるかということについても、さらに1つの要素として、今後、ご検討いただく必要があると思うが、夏までのまとめとしてはそういうことであったので、補足として少し申し上げさせていただいた。

【有川部会長】
 今、岡田先生からご発言があった点について、もう一つ、採択率が落ちないようにするということが極めて重要である。現在は辛うじて20%を超えているような状況だと思うが、それが10%台に落ちてしまう可能性がこれまでも指摘されている。

【井上(明)委員】
 若手に関しては、最先端研究開発支援等でも若手を育成しようということで、若手・女性研究者等に日が当たる配慮がなされている。一方で、若手研究(A)が廃止の方向で検討され、秋には若手研究(S)の新規募集が停止されている。この若手研究(S)や(A)は、若手をできるだけ早く自立させようという趣旨等もあったと思う。最先端研究開発支援でも、若手を自立させようということが鮮明になっているが、科研費では若手研究(S)や(A)のような比較的大きなもので自立を促すことを狙い、その後基盤研究に移そうとしている。必ずしもそのような自立的促進を抑え込むということではないと思うが、科研費で自立をエンカレッジするという姿勢が感じられなくなるという印象を与えることはないか。政府全体の政策として若手に重点を置いているときに、ボトムアップ的な科研費が反対の方向に向っているということにならないか。採択件数が充分に確保された上で基盤研究に移るということが、結果的に若手が早く一般競争の中に入り、実力をつけていくということにつながるという視点はもちろんある。ただ、研究者の自立の促進に対して科研費はどうするのか。過去に若手研究(S)や(A)に採択された人が、本当に自立的なことができているのか、あるいは必ずしもうまくいかなかったのか、そのあたりの分析・検証はされたのか。

【有川部会長】
 参考資料4の最先端研究開発支援についても言及していただいたが、ここは若手・女性研究支援ということで、補完するものも入れると800億円ぐらいある。これはいわゆるグリーンイノベーションやライフイノベーションということで、比較的限定的なものであって、大きく分けるとトップダウン的な政策課題対応型ということになる。科研費はボトムアップ的な自由な発想に基づく研究ということで、しかも全学問分野をカバーしていなければならないということなので、最先端研究開発支援で若手についての配慮がされているとしても、全分野の多様な研究ということでいうと、科研費が唯一という状況にある。
 それから、若手ということでいうと、ポスドクの問題や安定的な雇用の問題などでも、個人的な生活面とは別に、研究費の面でもう少し何か考えなければいけないが、科研費の制度を変えるとしても基本的には若手をエンカレッジしているというメッセージが見えてこなければいけない。現行の案では、若手研究として若手研究(B)を中心にきちんと1つ残して、若手研究(A)などは基盤研究に移行させて、現在私学等に対して行っているような優遇措置を講ずることを考えてはどうかなど、幾つかの方法がある。そのような方法を使って、若手をエンカレッジするというメッセージを盛り込むことは可能ではないかと思う。

【鈴村委員】
 先ほど岡田先生が言われた懸念は私も十分理解しているし、公共的な制度のつくり直しということが議論のテーブルに乗っている以上、真剣に考えなければならないことだと思っている。
 資料2の1ページの、若手研究(A)を基盤研究にどのように位置づけるかというところに、優遇措置を講ずるとしてどのぐらいの期間を講ずるべきなのかとあるが、これはかなり重要なことだと思う。優遇措置や保護措置というのは、一旦導入されると永遠に続く可能性が大いにあるが、優遇措置などが本来の目的を果たすためには、むしろ時限でなければならない。つまり、目的を果たす期間をはっきりさせて、そのような優遇措置が成果を上げたときには、制度としてきちんとソフトランディングして、何も特別な優遇をしなくても機能できるようにすることが最も重要であると思う。仮に、今のように、若手研究(A)を廃止して基盤研究に統一するというときには、過渡的に優遇措置を考慮することが、突然廃止されたという更にネガティブなメッセージを送らないためにも重要だということは理解できるが、やはり将来のソフトランディングのためには、一体どのような時限的な制度にするのか、その上でその間に何をしなければいけないのかということをはっきりさせることが、将来への希望という点では重要ではないだろうかと思う。
 この議論をしている際にしばしば出てきたのは、むしろ大学や研究機関の中で安定的なジョブの機会が若手に対してなかなか開かれていないということである。その意味で、結局そこが保障されないと、どのような経過的措置を重ねたとしても問題は残ってしまうので、その点はかなり重要なメッセージとして我々も意識すべきだし、送るべきだと思う。それと相まって初めて、これが実際に導入されれば将来に希望を持てるということもメッセージとして送れることになるのではないか。振り返ってみると、かつてもポストドクターのフェローシップや、またその上のスーパーなど先送りをしていても、結局その間に着地するべきところを作れなかったことが一番大きな問題だったと思うので、今回のこのことについても、ぜひ、どのくらいの期間講ずべきなのかということについては、制度設計の中にはっきり自覚的に入れるべきだと思う。

【有川部会長】
 先ほどの井上先生の質問に対するある種の答えのようなところも入っていたと思うが、若手研究を行っていて、その効果として実際に自立していったかどうかというようなことに関して、何かデータのようなものはないか。なかなか難しいとは思うが、例えば、若手の人が科研費での研究の終了後にどのようなところに進んだかという追跡調査のようなものがあれば、先ほどの井上先生のご質問には答えられると思う。

【山口学術研究助成課長】
 特に今のご指摘の中では、若手研究(S)が若手研究者の自立支援ということでつくられてきていて、どのような形で役に立っているのかということについては、おそらくこれから日本学術振興会でも追跡調査等が行われると思うが、現実問題として、まだ完成年度に達していないので、残念ながら十分なデータはまだないと思う。

【有川部会長】
 鈴村先生の優遇措置の期間が大事だということについて、そもそも若手に関して議論を始めたのは、今期の部会の最初のころに、若手枠を設定するということが必ずしも公平ではないのではないか、若手をエンカレッジすることにつながっていないのではないかというような議論があったためではないかと記憶している。そういうこともあって、回数制限を設けるというようなことを1つの具体的なアクションとしてとってきた。

【谷口委員】
 先ほど岡田委員からも事業仕分けの話などが出て、皆さん非常に関心を持って、不安に思ったこともいろいろあったと思う。東京大学でも緊急のシンポジウムなどが開かれているが、一連のことに関連して、科学者コミュニティの弱さが露呈したのではないかと強く思った。やはり研究者コミュニティの強化は急激には進まないかもしれないが、しっかりとした対策を立てて進めないと、今後の科学技術に影を投げかけるのではないかと思う。
 振り返って今回の問題をとらえると、やはり一番つらいのは、テクニカルな問題に終始しなければならないということである。若手研究をなくすか、(B)や(A)をどうするかというときに、何を根拠にどのような計画を立てるべきかという根本的なところが欠落しているので、結局は手続き論で議論が終わってしまう。どういう検証に基づいて、どういう結論に至ったのか。検証が無理だとしても、長期的には追跡評価をやるべきだと思うし、少なくとも、ある考えに基づいてこうあるべきだ、だからこういう改変をすることに意義があるのだという位置づけをしないと、禍根を残すのではないかと思う。
 それから、いわゆるシステム論のことは議論されているが、実際にどう審査するかという問題も、特に若手などにおいては重要だと思う。近々に実現可能なプロジェクトを支えることを奨励するのか、あるいは他とは違った計画で実現可能かどうかはわからないとしても、独創性があるかどうかやその個人の能力にかけてみるのかなど、審査における視点をどうするかということも非常に重要なポイントだと思う。それがあってこそ初めて、明日花が開くかどうかわからない、芽が出るかどうかわからないような若手の研究者に新しいインセンティブを与えるという考え方が生まれてくると思う。従って、研究支援、研究、教育に携わっている我々研究者コミュニティが、そういうことをしっかりととらえて、行政側の方々と一緒に議論を進めて、しかるべきシステムをつくるということが重要ではないかと思う。この部会で議論をすべきことはこの部会で議論しなくてはいけないが、もう少し広く考えると、これからの科学技術の在り方や若手の在り方、あるいはこれからどのような日本の人材育成を目指すかといったようなことに関しては、研究者コミュニティの強化というようなこととあわせて、例えば日本学術会議などに諮問するということも可能ではないかと思う。やはり研究者コミュニティがどう考えるかということをよく聞いて、あるいはそれに加えて確固としたデータや理論に基づいて、こういう議論をすることが本当は望ましいのではないかと思う。
 それから各論的なことを申し上げると、16ページに新学術領域研究の取扱いについてとあるが、その研究の目的として、確実な研究成果が見込めるとは限らないもののという文言が出てくる。今まで見過ごしていたのかもしれないが、こういう文言は正しいのだろうか。研究というものは、みんなこういうものだというところもあって、よほど何かのプロジェクトということであれば別であるが、基礎研究全体に関わる問題でもある一方、このような文言をそのまま出すと、成果が見込めない研究に投資してよいのか、という議論になりかねないようにも思える。この辺の文言を含めて新学術領域研究の在り方についても、もう少し議論をしていただくとありがたいと思う。

【有川部会長】
 後半の新学術領域研究については、要するに、研究実績は必ずしも十分ではないけれども挑戦的な提案というようなことを表現しているのだと思う。ここは後ほど議論させていただくことになると思う。
 今、先生ご指摘の理念、哲学に基づいてというようなところは、当然極めて大事なことで、親部会の科学技術・学術審議会でも議論していただかなければならないし、そういったことは、例えば、次期の科学技術基本計画に向けての特別委員会の中間報告や人材委員会の報告にも触れられている。この研究費部会でおそらくそこまでやるわけにはいかないと思うが、基本的には今話題にしている若手に関して、科研費でどのようにサポートしていくのかという、科研費だけの話ではなく、実際には、生活が成り立たないという状況のほうがもっと大きなことだと思う。そこが混乱してしまっているのではないかと思う。
 それから、結果を気にせずチャレンジングなことをやる研究は、これまでは校費などの基盤的経費を使ってやってきていた。そして、例えば、教授のもとにいる若手はそういうある種の揺籃期を経て科研費等に応募していたのだと思うが、その辺が非常に弱くなっているというのが国公私問わず言えるのではないかと思う。そういう中で、間接経費も含めて科研費が果たさなければならない役割が広がってきているのだと思う。
 あまりにも大き過ぎてどうするのかという問題はあるが、ここは上の委員会も含めて議論が一段落しているので、機会があればそういうことを提起して議論していただくというようなことをしてはどうかと思う。

【谷口委員】
 もし今言われたような資料的なものがあるのであれば、そのようなものを参考にしながら議論するということも大切ではないかと思う。
 それから、やはり何らかの検証を行い、それをコミュニティの中でしっかりと受けとめて社会に対する理解を求めるというようなことをしっかりやっていかなければ、科研費の増額というものはなかなか難しいという状況もあると思う。その辺も視野に入れて検討していただくとありがたい。

【有川部会長】
 今、冒頭に言われたコミュニティのことについて、科研費ではピアレビューで研究者コミュニティが審査をしている。フィールドによって、それぞれ力点の置き方、物の考え方も哲学も異なると思うが、実は、ピアレビューとしてコミュニティが審査を行うことによって、そうしたものが反映されているのではないかとも思う。
 それから、今回の事業仕分け関係のことなどでも、突然あのような局面に対応せざるを得なかったものであるが、それぞれのコミュニティが、そういった経験をほとんど持っていないにも関わらず、短期間に迅速に動いていただいたのではないかという気がする。ただ、一方でもっと大事なことは、一般の市民、社会に対して、必ずしもきちんとわかりやすい説明をしてこなかったという面があるのではないかということで、谷口先生が言われたように、私もコミュニティとしてもう少しやっておかなければいけないことがあったのではないかという感想を持った。

【三宅委員】
 今までに出てきた話と重複する部分もあるかもしれないが、やはり科研費というものが、日本の中のどのような研究をサポートするのかということについてのグランドビジョンがないといけないという気がしている。
 若手が1人で自立できないからそれに対処するということは、若手が1人で研究して自分の研究室を持って、それぞれが1人でばらばらにやっていくという状況を、科研費の将来ビジョンとして見ていることにならないか。そこに谷口先生のコミュニティが弱かったというご発言を組み合わせて考えると、本当は若手もシニアも、科学者コミュニティの中で基盤研究を活用して、質の高い研究を一緒に協調的に吟味をしながら全体のレベルを上げていくような、いいグループに入って切磋琢磨するということが大事なのではないかと思う。私は科研費をもらって大きなことやっているが、隣の研究者が何をやっているかを知らないということが良いのかどうかというと、多分、そうではないと思う。
 今、有川先生が、ピアレビューというシステムでコミュニティが機能してきたというように言われたが、何かシステムを見直していくのであれば、私が行うべき方向だと思っている見直し方というのは、形はシンプルだが多様なものが入っていて、しかもどれを選ぶかというところでコミュニティが機能しているだけではなく、科研費を取って良い研究ができることでコミュニティが強くなっていくというような形のものであるべきではないかという気がする。原則論のようにもなってしまうが、そういう形でやっていけば、若手もシニアも良いグループに入って切磋琢磨できるようなものを支援するということで、個人が蓄積した能力にかけているような研究も、芽が開くかどうかわからないがテーマにかけるという研究も、やり始めようと思う人が若手かシニアか男か女かは関係ないので、そういうものについては、そこから入っていってコミュニティを大きくしていけるというように、様々なものを吸収できる1つのシステムがあっても良い。研究者がここでこれをやりたいというもので、若いかシニアか男か女かに関わらず、適当な場所が選べてコミュニティの中に入っていけるという形でコミュニティを養成する方向で基盤研究が使われていく。そういうビジョンに基づいて全体を見直して、形はシンプルだがいろいろな応募の仕方や支援のされ方があるというようなものを示せれば、それが研究の推進と一緒にその中で人材が育っていく。そういう人たちと一緒に新しい場所をつくって、ある意味新しい雇用の窓口をつくって、新しいコミュニティとして世界的に打っていくというようなものができれば、比較的わかりやすくなるのではないかと思う。

【有川部会長】
 そういう意味では、少し整理してシンプルにしようということが1つあると思う。それから、若手研究は1人で行うが、基盤研究では複数人で行うことができるということもあるので、グループをつくって、ある種のリーダーシップを発揮しながら研究するということもできる。それから、シニアも若手も女性研究者もというようなことからすれば、特定領域研究や新学術領域研究の研究領域提案型などは、実際に若手育成のプログラムとして非常によく機能している面があると思う。そういうことで、多様性はあって、当然、さまざまな議論を重ねて導入されてきているので、今言われたようなことは、かなり対応できているのではないのかと思う。

【田代委員】
 いろいろと考え方はあると思うが、研究者がどうやって一人前になっていくかということを考えてみると、若手研究(A)、(B)は30歳代の自立を支援していこうという方針が見られる。
 この30歳代がどういう年代なのかというと、非常に不確定で、まだ自分の上役がたくさんいて、部門によっては多額の研究資金を獲得した偉い先生に使われてしまう年代でもある。その人たちが、自分の考えで1人で計画を立てて研究できるということは、やはり素晴らしいことだと思う。
 科研費が昔から考えてよくなったのは、若手研究が非常に充実したという点だと思う。それが昨今の情勢によって、整理・統合していかなければならないという傾向もわかる。ただし、それは非常に痛みを伴うのだということを考えなければいけない。若い人たちが非常に危惧や不安を感じているということ、例えば、若手研究(S)が募集停止になっただけで非常な混乱を招いているということは事実だと思う。今度、若手研究(A)が基盤研究(B)に統合されて1つになるということで、早く基盤研究に行きなさいということは、今まであったはしごを外されてしまうような不安な気持ちになると思う。研究に対する情熱がまだしっかりとできていない人たちの心を折ってしまわないように、支援体制をきちんとしてあげたほうが良いと思う。
 統合するのは仕方ないのかもしれないが、そうするのであれば、できるだけ手厚いやり方、例えば2回と決めた回数制限なくしてあげる、あるいは採択件数をもっと増やしてあげるというような形でカバーして、不安をできるだけ解消してあげなければいけないと思う。
 基盤研究は、既に自立した研究者がみんなでいろいろと作戦を立ててくるので、それなりの技術的な方法で改修できると思うが、若手研究は、やはり若手研究者の自立支援で、しかも30歳代というのは、例えば女性研究者にとっては出産、育児という問題を背後に抱えている年代である。別に男女で採択率を変えるべきというようなことではないが、そのようないろいろな問題や不安を抱えている年代だということを忘れてはいけないのではないか。ここで審議している我々は、もう既に30歳代を通過してしまっているが、自分達が30歳代であったときのことを考えて、今まであった研究費の枠が外されていくということに対する不安などに、もう少しケアしてあげたほうが良いのではないかと思う。

【中西部会長代理】
 若手をケアするということはわかるが、実際に科学研究費に応募する場合に、一般の人に比べて若手は何が不利なのかという具体的なことをあまり議論していないと思う。不利な点が除かれればフェアになって、年齢は関係なくなるという見方もできるし、例えば、同じような研究計画や目的であれば、年齢によって差別してはいけないと思う。何が不利かというと、多分、業績や今までの経験などではないかと思うので、その辺の項目を設けて、その項目で下駄を履かせてあげるようなことでコンセンサスが得られれば吸収されていくのではないか。もちろん若手の人をメンタル面でサポートするということもあるが、やはり研究費なので、研究をサポートするということにおいては、不利な点を取り除いた上で研究者としては平等に扱ってもいいのではないかと思う。

【有川部会長】
 現在は若手のことについて議論をしているが、基盤研究のことについても少し議論していただこうと思う。当然この両者は今までの議論でも関係しているが、今度は少し基盤研究のほうに力点を置きながら議論していただければと思う。

【山口学術研究助成課長】
 追加的に申し上げると、昨年夏からの議論の続きを、今回、論点メモという形でご提案しているが、今後、来年度の概算要求や公募につながってくるということもあるとすれば、最終的には夏までにおまとめいただくことが必要ではないかと思っている。次回には結論をというようなスケジュールは考えていないので、じっくり十分なご議論をしていただければと思う。

【有川部会長】
 漠然と議論すると発散してしまうので、こういった論点メモを見ながら、先ほど谷口先生が言われたような、もっと深い理念的、哲学的なことも含めて議論していけば良いと思う。資料2の後半のほうに基盤研究について論点が整理されている。9ページから15ページでは応募総額について3つの案が提示されているが、これについてどう考えるか。それから基盤研究について、平成20年度に研究期間を3年から5年に延長しているが、これはこれまでの議論にもあったように2年で十分できるという研究もあると思うし、データもある。2年間の応募を可能にするというようなことを考えたほうがいいのではないかという意見もあったが、その辺についても少し議論しておいていただければと思う。

【鈴木委員】
 概算要求のたびにこのようなことを議論しなければいけないのだろうか。何かというと、今回は基盤研究(A)、(B)、(C)の何が悪いからこうなったということを議論しているのではなく、若手研究からの流れ込みを考えて議論している。そのときに、単にそれのみで議論するのか。先ほどから議論が出ているように、もっと大義名分のようなものがあって、それをどうするかという中で考えていくというようなことでなければ、概算要求のたびにいろいろなあの手この手が出てくることになる。だから、例えば、この研究費部会として採択率を上げるということがきちんと定まれば、いろいろな議論の半分は消えてしまう。その意味で、この研究費部会として常に中心にあるものがあって、まずそのもとで議論して本質を決めないと、そのときの気分によって変わってきてしまう。
 もう一つ、なぜ若手研究から基盤研究への移行がまずいかという議論を見ていると、若手研究に応募できる37歳までの採択率が高くて、基盤研究に入ってくる38歳を過ぎると途端に下がっているということがあるので、ここを何とかしなければいけないということである。若手が育ってないから、若手がきちんと基盤研究で戦えるぐらいの力をつけなければいけないと言うが、研究というのは単にそういうものではない。若手のうちに良い研究が出れば良いのであって、採択率などというよりも、33歳から37歳までの研究者の中から今までなかったこんな良い研究が出たということで、この施策としては成功だと思う。ただ単に38歳を過ぎた後の採択率が低いからということは平均的な問題であって、やはり10%でも良いものが出ればいいはずである。むしろそのような評価を踏まえた上で、この38歳から42歳の間の採択率が低いことを何とかしようというように考えなければいけない。平均的に見て採択率が下がったからここは育ってない、だから何とかしようということではなく、基盤研究(A)、(B)、(C)に若手枠を設けようという議論をするときには、もう少しデータの分析も含めて、きちんとやったほうが良いような気がする。

【有川部会長】
 37歳ぐらいと39歳ぐらいで採択率に開きがあるというのは、要するに若手研究でやれなくなったから基盤研究に行くということで、内容はともかくとして、若手が優遇されているということになっているのだと思う。それから、いろいろな調査等については、定期的に日本学術振興会などが行うことになっているのか。今、鈴木先生が言われたような、10%でも良い研究が出たかどうかということを、どう調べてどう評価するかということや、それを全体としてどう見ていくかということはなかなか難しいところがあると思うが、最近、特別推進研究では追跡調査を行っていて、そのようなことを若手研究についても行っていくということは、やり方としてはあると思う。

【鈴木委員】
 この問題は、基盤研究(A)、(B)、(C)の採択率を上げるように概算要求しただけでは解決しないのか。

【山口学術研究助成課長】
 昨年の夏のご議論として、研究種目の「枠」というものをどう考えるかということが1つ大きな問題であった。例えば、基盤研究(C)は3年から5年で500万円ということになっていて、研究者の方々は自分の研究に必要な規模で応募すれば良いはずであるが、枠があると、やはりその枠いっぱいに応募してしまうということもあるのではないか、要するに枠によってその行動が制約されてくるところがあるのではないかという議論があったと思っている。
 そこで、例えば500万円の枠を1,000万円に上げると、そこまでは自由に応募できるようになるというご意見があったが、そうなった場合には、基盤研究(C)という枠の中での採択率がかなり変わってくることが予想される。予算が増えない場合に、もし応募額が2倍になれば、採択率が半分になってしまうこともありうるだろう。また、競争する相手も変わり、競争の質も変わる。全体の議論もあるが、この基盤研究(A)、(B)、(C)の枠をどう考えるかということが前回の議論であったと思うので、今回は特に枠をどう考えるかということを中心に、たたき台として案を3つほど用意させていただいている。

【鈴木委員】
 先ほど言ったように、この部会としては採択率のアップが重要だと判断すれば、枠を考えずに単にこの問題を解決するために、まず採択率上げるような概算要求をしてその予算を持ってくるということが考えられるのではないか。
 それから、研究というものはお金と非常に密着に関係しているように見えるが、お金がなければないなりに工夫するようになると思う。基盤研究(C)で500万円の上限額を1,000万円にするというような議論をあまり細かくやることが本当に必要なのかどうかということは、あまりよく理解できない。

【有川部会長】
 概算要求では、頑張ってようやく2,000億円に届いたところであるが、今後も要求すればどんどん増えていくというようなことには当然ならないだろうと思うので、与えられた範囲でどうしたら一番効率的にできるかということを模索しなければいけないのだと思う。
 それから、データで示されているように上限額や期間が設定されると、そこの中で一番長いところ、あるいは一番高いところに張りつく傾向があるので、その辺は非常にテクニカルなことかもしれないが、少し検討してみてはどうかというスタンスである。

【田代委員】
 応募する側から言うと、例えば基盤研究の(A)と(B)が2,000万円というラインで切られていて2,000万円ぐらい必要だという方は、応募するときに、採択されても8割ぐらいしかもらえないのであれば、8割にカットされても良いようにするために、上の枠に応募せざるを得ないと考えることがある。これは応募する側のテクニカル的な部分であるが、それを踏まえて応募する側の便宜を考えると、基盤研究(A)、(B)、(C)の枠をなくしてしまうということも確かにあるのではないかと思う。上位、中位、下位というグループの分け方は難しいのかもしれないとは思うが、思い切って枠をなくしてしまうと、応募する側としてはそれほど考えなくて済むのかもしれない。
 ただ、前回の会議で日本学術振興会から、基盤研究(C)の応募者の90%の方が3年の研究期間に集中しているという報告があったが、これはやはり相当な問題があるのではないかと考えている。いろいろな方に聞いてみたが、特に人文系では2年という枠で多くの方たちが応募していた。分野によっては2年の枠なんか必要ない、2年では絶対成果は出ないはずだと信じている方もいるかもしれないが、分野によっては異なると思う。準備段階が非常に長くかかるが実際に研究に入る期間は2年でいい、実質上は1年半ぐらいかもしれないが、それで成果が出せるという分野もある。だから、3年のところに90%の人がいるということは、やはり2年が欲しい人がやむを得ず3年に流れ込んでいるという部分もあるのではないかと思う。

【有川部会長】
 そういう点では、3年にしたところではあるが、やはり2年ということも可能にしておいたほうが良いのだと思う。
 それから、ご指摘のように基盤研究(C)は非常に多くの人が頼りにしているところで、基本的にはいわゆる基盤的経費が確保できていない方も来ていると思うので、ここを充実させて採択率を確保するということが1つの方向としてあると思う。先ほども申し上げたが、いわゆる基盤的経費が貧弱になってきたために、科研費の性格が少し変わってきているという面があるのだと思う。

【井上(一)委員】
 先ほど採択率の議論があったが、1人の研究者がどれぐらいのサイクルで科研費を受給できるかという意味でいえば、採択率が問題なのではなく、例えば5年間のサイクルで研究を回すなら5年が採択されればその次にすぐ採択されなくてもいい。5年のサイクルであれば、同じ予算内でいえば採択率自体は低くせざるを得ない。どちらかというと、年度当たりの上限という考え方を入れるのがいいのではないかと思う。
 さらに、先ほど三宅委員も言われていたように非常に柔軟な基盤研究という考え方を入れるのであれば、2年もあるし5年もあるというような考え方を入れるべきだと思う。それぞれの分野で、最適な部分が自然に選ばれるようになるのではないかと思う。
 問題は、1人の研究者がどれぐらい飢える時期があって、どれぐらい研究をやれる時期があるかというようなことをどのように考えるかということだと思う。なかなか難しいと思うが、100%与えられるものではなくみんなが競争になるので、競争があって初めてこういうものが生きるというときに、その競争としてどれぐらいのところを目指すのがいいかということの議論がきちんとあるべきではないかと思う。

【有川部会長】
 採択率がどのくらいであればいいかという問題は、先生ご指摘のように、5年続くものであれば、乱暴な言い方ではあるが20%でいいというようなことにもなる。それから分担者となって一緒に研究するというようなこともあるので、そういうことなども考えると、ある程度のことが出てくるのではないかと思う。これまで、いろいろなところで採択率が30%あったらうれしい、20%では大変だということが言われてきていたと思うが、その辺はそういった感覚を反映したことになっているのではないかと思う。

【宮坂委員】
 私自身は基盤研究(C)に関して、やはり採択率を上げることが重要なのだと思っている。それとは別に、先ほどの2年、3年という話であるが、例えば医学の臨床分野では、2年でできるものはいくらでもある。そういうものは前から種をまいて、ある程度育ってきたときに2年で成果を出すということで、もちろん初めから始めて2年で終わるという研究ではないが、そういう意味で2年で終わるものは当然あると思う。
 それから、2年を選ぶか3年を選ぶかというときに今まで出ていない議論としては、3年で採択されても額が少なければなかなかよくないので、それよりは2年で単年度当たりの額をもう少し多く応募したほうがいいということで、我々の分野などでは2年で研究できるかできないかは別にして、別の要素で3年ではなく2年を選んでいる人たちも多くいるのは事実である。

【有川部会長】
 そういう意味では、年ごとに例えば200万円を上限にするというようなことにするのではなく、トータルで500万円なら500万円、800万円なら800万円として、その研究内容によって柔軟に対応できるようにしておくことが大事ではないかと思う。現行ではそのようなことはできることになっているが、装置などを初年度に買って、それを使って研究するというようなことを考えると、毎年一定額というわけにはいかないという面が出てくると思う。それから資料2の16ページに、新学術領域研究の研究課題提案型の取扱いについて、結論的にはこれを廃止することにしてはどうかということが書いてある。
 今日は時間がなくなったので、今日議論になった若手研究や基盤研究のことも含めて、次回にもう少し議論していくことにしたい。

(2)その他

 事務局から、次回の研究費部会は2月22日(月曜日)15時00分から開催予定である旨、連絡があった。

(以上)

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