第5期研究費部会(第4回) 議事録

1.日時

平成21年5月29日(金曜日) 10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省第2講堂

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、佐藤委員、中西委員、深見委員、三宅委員、家委員、井上(明)委員、井上(一)委員、甲斐委員、金田委員、鈴村委員、水野委員、宮坂委員

文部科学省

 山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

(1)これまでの議論を踏まえた論点整理

 事務局より、資料4「これまでの議論を踏まえた論点整理」、資料5「平成20年度「若手研究(A)」の応募状況」及び資料6「若手研究と基盤研究の再編成のイメージ(議論のためのたたき台)」について説明を行い、その後意見交換を行った。

【甲斐委員】
 若手研究の制度の変換について資料6のたたき台をいただいているが、何らかの形で若手研究を基盤研究にシフトしていこうという考え方は良いと思う。最初にできた若手研究が基盤研究(C)とは別の審査を行って、採択されやすくスタートができるという趣旨は大変良かったと思うが、後から若手研究(A)や(S)ができたことはどうか。若手研究(S)は42歳で採択されて、5年間で47歳になるが、本当はPIとしてばりばりやっている時期。諸外国では、大きなグラントで若手を優遇するというような年齢差別をしているところはないし、40代になった若手が別枠で応募できるというグラントもない。若手と称して別枠を設けている変わった制度だったのではないかと思う。
 現実問題として基盤研究(C)が大変苦しいことになっていて、若手の制限を超えてしまった方々が実際に採択されないという状況がある。その中で、決められたパイを分けるということであればそこを改めていこうというアイデアは大変良いと思う。若手研究(B)を別枠で優遇するということは続けるべきだと思うので、基盤研究(C)の中に審査区分として若手研究(仮称)といったものがあるというのは良いと思う。それから、基盤研究(B)に若手優遇措置があることは若手が育ったときのためということで良いが、基盤研究(A)は、既にかなり確立したPIと言えるような、自分のアイデアを持って戦える人が応募する種目だと思うので、さらに若手優遇措置を設けることに少し疑問を感じる。ある程度力がついたら、きちんとした研究費に挑戦するのが世界的に普通だと思うが、これを残すのであれば、年齢をもう少し下げたところでの優遇措置を考えることが一つの手だと思う。ただし、現実の審査員の立場を見ると、大型研究費にすぐれた若手が応募してきた場合であってもそれなりに高得点をとっているように思う。審査員の方々も、基盤研究(A)に30代の半ばぐらいの人が応募してきたときは気になって読むし、すごく斬新なものであれば採択されていると思うので、若手優遇措置として甘い制度をつくることは疑問。現在の私の感覚としては、基盤研究(C)に若手の審査区分を入れ、基盤研究(B)に優遇措置を設けるというのは良いかもしれないと思うが、この場合、基盤研究(C)をもっと充実させることと合わせて考えていただきたい。

【有川部会長】
 非常に大事な点をご指摘いただいたと思う。若手といっても、例えば特別推進研究に40歳前後で応募して、採択されたということもある。また、30代で特定領域研究の代表を務めてすばらしい成果を上げた若手もいる。若いからだめという判断はしていないと思う。こうして見ると、若手ということでくくらないほうが、溌剌とした創造力を発揮できるのではないかと思う。そういう意味では、基盤研究(C)や(B)にある種の枠があるのは良いかもしれないが、基盤研究(A)や(S)については同じ土俵で競争してもらう方がいいのではないかと思う。

【家委員】
 今の甲斐先生のご意見に基本的に賛成である。基盤研究(A)、(B)のところに、若手優遇措置という抽象的な言葉が書かれているが、システムとして具体的にどういうことを考えているかということが問題で、審査の段階で審査員にそういう意識を持ってもらうということであれば、分野によって異なるかもしれないが、有川先生が言われたように既にかなりあると思う。それから、若手研究や昔の奨励研究などといったものは、私は必要だと思っているが、それを明示的に出すか、基盤研究(C)の中に入れ込むかは少し考えたほうが良いかもしれない。基本的な考え方としては賛成だが、甲斐先生が言われたようなことや、優遇措置という場合にどういうことを考えるのか、採択枠を確保するようなことを考えるのかということがあると思う。

【山口学術研究助成課長】
 少し補足すると、今も基盤研究(C)では最終年度の前年度応募の重複制限を外すという制度があるが、基盤研究(C)に審査区分として若手研究をつくれば、それによって、若手研究をとっている方が最終年度の前年度に基盤研究にも応募でき、基盤研究へ移行することを促進することになるのではないかということで資料6を作成した。また、基盤研究(A)、(B)に若手優遇措置を案として入れているが、それは、資料5で若手研究(A)の応募がかなり高い金額に集中しているということもあって、必ずしも基盤研究(B)の範囲にはとどまっていないので、これを移行するとすれば基盤研究(A)にも一定の優遇措置が要るのではないかということで作成したものである。したがって、例えば枠をつくるとか、かさ上げをするといった具体的な内容までは詰めていない。一定の措置が要るのではないかという議論のたたき台としてこの図をつくらせていただいた。

【有川部会長】
 資料5を見ると、若手研究(A)は金額の高い応募が多くなっているが、これは、若手の多くはそのくらいの規模の研究費を使った研究に取り組んでいるという見方もあると思う。若手研究から基盤研究(A)、(B)等へ移行するときに少しハンディがあるということは、この委員会の資料でも出されていたとおりであるが、若手でもかなり大きなテーマにPIとして取り組んでいるということではないかと思う。

【家委員】
 今の事務局のような分析も一つだと思うが、一方で3,000万円という上限を設定すると、応募者は大体上限付近で応募する。3,000万円という規模が基盤研究(A)と同程度なのでということであれば、基盤研究(A)と同じ土俵で勝負していただくか、今の若手研究(A)のように若手だけの土俵で勝負していただくかという、サブ世界で勝負するのかユニバーサルに勝負するのかという問題だと思う。
 優遇措置といった場合に、例えば今でも基盤研究の2段審査で地方大学や私立大学などに、ボーダーラインのところで多少優遇をしているが、その程度のことなのか、もう少し制度的に何か優遇するのかということで大分異なると思う。

【有川部会長】
 ここでおかしなことをやると、先ほど甲斐先生がいわれたような問題が出てくる可能性もあって難しい。

【甲斐委員】
 事務局からの説明は、現状の金額から考えて若手研究を基盤研究にスライドするとこうなるということであると思う。それは正しいと思うが、3000万円という現状の金額が高過ぎるので、そのぐらい高い金額を獲得できる人は、基盤研究(A)に応募しても戦える人だと思う。そういう人は速やかに外の世界で戦うべきであって、それを移行というのではないかと思う。現実問題として、基盤研究(C)や(B)に応募されている方がとても苦しい、十分ではないという状況があると思う。それに比べて若手がすごく優遇されているという不公平感が現場の人たちにあると思うので、このようにまとめるのであれば、基盤研究の金額を上げてはどうかと思う。少し極端な意見を言うと、例えば基盤研究(C)は1,000万円にしたほうが良いと思う。3年から5年であれば、3年で応募すれば300万円になる。若手研究(B)の金額は年間250万円なので、基盤研究にシフトさせるのであれば、年間300万円ぐらいで若手研究(B)より高めにしておくのが筋だと思う。年間250万円で応募している人を年間150万円で応募しろというのでは移行措置にならないと思う。ただ、この意見は生物系の話なので、文系は今までのほうがやりやすいということであれば、基盤研究(C)にさらにa、bや1、2などをつけて、例えば1が1,000万円、2が500万円にすれば良い。文系の方は圧倒的に2のほうが多くなると思うが、それは自然なボトムアップのヒエラルキーで、文系の方は500万円のほうに応募して、理系の方は1,000万円のほうに応募するが採択数は減るということになれば良いのではないかと思う。
 生物系の話をすれば、基盤研究は1,000万円にするべきだと思う。そうすると上限が基盤研究(B)と重複してしまうが、その場合、基盤研究(B)を1,000万円から3,000万円などにすれば解消される。財源があるのであれば、基盤研究(B)を1,000万円から3,000万円、基盤研究(A)を3,000万円から6,000万円にしてもらいたいが、それは無理だと言われると思うので、基盤研究(A)は3,000万円から5,000万円の据え置きにするとしても、シフトしていくという感覚がないと、若手研究から基盤研究へ、基盤研究(C)から基盤研究(B)へと移行していくことはないと思う。
 例えば基盤研究(B)を1,000万円から3,000万円にすれば、今までの若手研究(A)の範囲の人は基盤研究(B)の範囲に入ることになるので、基盤研究(B)に若手優遇措置を入れて、基盤研究(A)からはなくす。基盤研究(A)に応募する人はたとえ幾つであろうと、普通に挑戦してくださいという形で良いと思う。

【三宅委員】
 資料6の右端に研究期間をどうするかという話もあって、何となく昔の科研費の形に戻るような雰囲気もあるが、基盤研究(C)で研究したいというときに、どの分野でも3年よりも2年ぐらいでまず何か成果を上げておいて、そこから基盤研究(B)や(A)に移行したいということや応募するときに少しテーマを変えたいということもあり得る気がするので、上限が低いもので期間が短いものが基盤研究(C)の中にあっても良いと思う。
 それから、資料4の真ん中のところにある「若手研究支援を行っているのは、徒弟制度のような我が国の研究体質を改め」というところについて、これ自体をこのように言い切ってしまって良いのだろうか。欧米や他のところに徒弟制度がないのかというとそんなことはなく、しっかりした研究組織が一つのコミュニティをなしていて、学びというのはそのコミュニティの中に参加することであるという考え方もある。そのように考えると、いろいろなものをうまく吸収していくためには、若手支援ということよりも、ある程度の分野変えなどをやってみたいというところが試されても良い気がする。

【深見委員】
 若手研究と基盤研究の改変ということで、こういう斬新な新しいアイデアが出てきたことは本当に喜ばしいという思いで見ている。総じて大体賛成であるが、基盤研究を充実していくということで、甲斐先生が言われたように応募金額の上限を上げていくことが重要だと思う。実際問題として、このところ研究期間を延ばす傾向があって、それは審査の簡略化、軽減ということもあるので、その方向は間違いないと思うが、研究期間を長くしたことによって、年度当たりの研究費が大幅に減っているという現実をもう少しきちんと理解していただく必要がある。トータルは同じだと言われても、実際の年度の研究費がすごく減っていて研究者たちが困っている。研究期間は3年ぐらいが望ましいのではないかと思うので、それを考えると全体を上げることしかないと思う。やはり基盤研究(C)を500万円から1,000万円にするというのは妥当なところだと思うし、基盤研究(B)も最低でも3,000万円、むしろ5,000万円ぐらいまで持っていくべきだと思う。基盤研究だけで考えていたら無理かもしれないが、科研費全体、あるいは他の研究費も流動的に動かして、基盤研究が一番重要だということをもっと強調していく時期なのではないかと思う。

【有川部会長】
 基盤研究が非常に大事だということで、最後のところは特に科研費において明確に主張できる点だと思う。
 それから、最近ずっと若手優遇措置がとられてきているが、その背景には、先ほどの4ページの表現であれば徒弟制度みたいなことがあって、それはそれで当然良い面もあるが、若手が独立して研究ができないということが様々なところから指摘されて、そうした措置がとられている。一方で、数年前に教授、准教授、助教という制度が導入されたときに、すべての教員はみんな独立して研究ができるということになり、助教と准教授と教授を区別するのは「優れた」とか、「特に優れた」といった形容詞や副詞の違いだけになっている。「独立して」ということはみんな共通であり、したがって、助教は教授のいうことを聞く必要はないということになっている。そのことはかなり浸透し始めていて、これはネガティブな面だと思うが、教授が定年で退職するときに、昔は自分の講座を完全に空にして出られていたのに対して、最近では自分だけおやめになって、そのまま准教授、助教がそこに居残るということが出てきている。若手優遇策はこうして制度面でも既に措置されている。

【金田委員】
 基本的には賛成で、特に基盤研究(A)はできるだけオープンなシステムに持っていくべきだろうと思う。基盤研究(B)、(C)で、具体的な議論にはまだ至っていないと思うが、何らかの若手優遇措置を考慮すべきであろうというのも賛成である。ただ、議論の中で1つだけ気になるのは、基盤研究(A)、(B)、(C)をランキングのような同じパターンにするのは少しまずいと思う。特に人文・社会系の立場からいうと、そんなにたくさんの資金は要らないとしても、1つの研究が1年や2年で終わることはまずないし、個人で細々とやることで良いというものもある。金額の問題ではなく多様性を残す方向をお考えいただきたい。3年でも5年でも構わないが、例えば1、2年で完結して、次の年にまた同じテーマで応募できないということになると、人文系の研究者の多くは非常に困ってしまう。次も同じことをテーマにせざるを得ないが、また同じテーマで応募するというのは非常に難しく困るところだと思うので、基盤研究(C)には多様性を残していただきたいと思う。

【有川部会長】
 1つのテーマの期間は、例えば3年であったり、5年であったりするが、研究経費のトータルの額を固定して、それを何年かけて研究しても構わないというような制度も考えられる。そうすると、金額は少なくても長くやる必要があるところと、お金はかかるが短期間に行いたいところが同じ枠に入り、幅が出て分野間の違いも吸収できるかもしれない。

【水野委員】
 今のご意見と基本的には同じだが、理系と文系とでいろいろと異なる。先ほどの徒弟制の話でも、文系の場合には研究室単位の徒弟制など全くなく、指導教授との関係は盆暮れのあいさつぐらいということになっている。本当に必要なのは本を買うお金と学会に行く旅費ぐらいなので安い金額でも良いが、それぐらいの金額のために毎年申請書を書くぐらいであれば、時間のほうが重要だと考えて申請書すら書かない研究者がいる。ただ、今は全体の状況の中で大学本部の締めつけも厳しくて、人文・社会系でも間接経費の必要性から応募書類を書かなくてはならないという状況もある。
 一方、理科系の友人に聞くと、300万円ぐらいでは話にならなくて、1,000万円もらわないと研究室の機械を動かす電気代だけで終わってしまって、研究費まで全然回らないということもあるようである。つまりニーズが全く異なっているものを、同じ枠の中で行うことのひずみがあちこちに出てきているような気がする。大規模な研究費、特別推進研究や特定領域研究などの人文・社会系の評価に携わせていただいたが、例えば人文・社会系はその他という分類が入ってくるので、純粋に人文社会と言うより理科系に近いようなチンパンジーの研究などは、お金はかかってもそれだけの必要があると思えるが、一方で、純粋な人文社会では、あまりよく練られていない世論調査をして調査会社にたくさんお金がかかったとか、あるいは外国人を呼んできて国際シンポをすることで随分お金を使われたというようなこともある。人文・社会系でもデータベースをつくるなどお金がかかっても、それだけの必然性があるという研究はあると思うが、それをこういう大きな理科系に準じた枠の中でやると、この枠を誰かに当てはめるときに必ずしもふさわしくないものにもいってしまいかねないというリスクを感じる。
 それから、先ほどもご意見があったように、上限の枠があれば、人文・社会系でもどうしても上限の枠で応募することになる。その分、間接経費も自動的に増えることになるため、常々学部の中でも電気代すらなくて苦しいというようなところがあって、間接経費が増えればうれしいので、もらえるものならもらって、国際シンポを開催して直接経費を消費することにも値打ちがあるというような発想になりがちになる。このため、全体の設計をするときにはそれぞれの動きに合わせて考えていただきたいと思うが、そのときに応募金額に比例して交付の枠、取り分を定めるという全体の設計になっていると、どうしても人文・社会系でも自分の取り分を要求するということになるので、むしろ総額は総額で保障した上で、それをたくさんの応募者にまんべんなく与えるという形にしていただくほうが人文・社会系にとってはありがたいと思う。

【井上(一)委員】
 若手研究は、若手が独立して研究できないとか、研究としてスタートアップできないところに特別の手当をするということが目的で始まったのだとしたら、その目的が果たされているのかという点の検討が行われるべきだと思う。その観点から、皆さんのご意見を伺っていると、若手研究が本来の目的に則して非常に重要な役割を果たしているというご意見は出てないように思う。私自身の分野でも、個々の研究者の萌芽的研究にとって科研費の比重が非常に大きくなっているので、研究グループとして、若手には若手研究のほうが応募しやすいテーマを割り当てて、一緒に工夫してみんなで応募するということが実際に起こっている。環境がこの若手研究がスタートしたときの考え方と少し変わってきているのではないかと思う。若手研究への応募の姿勢の中に限りなく基盤研究へのものに近い部分が増えてきているので、若手の奨励研究的な部分は残すとしても、全体に基盤研究を充実させる方向で整理し直すことに賛成である。

【宮坂委員】
 基本的にさきほど甲斐先生が言われたご意見に賛成である。それから、今、水野先生も言われた人文系と生物系の違いについて、これはかなり明確になってきていて、例えば、生物系で少額の研究費で5年も続けるということはあり得ない。今、生物系では、技術が革新的に変わってきていて概念の変化が起きてきている状況なので、ある一定のお金を短期間で使うことのほうが圧倒的に多く、少額を長期にわたって使うということは基本的にあり得ないと思う。先ほどの話を伺っていると、例えば外部委託をするとか、人材派遣をするとか、人によっては無理にお金を使っているのではないかと思えるようなところもないわけではないが、生物系では全くお金が足りなくて、無理して使うどころではなく非常に困っているというのが正直なところ。これをどのように今回のスキームに入れていくかは別としても、人文系と生物系は基本的に異なるということを意識して制度設計を考えないといけないのではないかと思う。

【三宅委員】
 分野が違うということをどうやって入れていくのか。結局、今は年度や金額ではなく、研究の質やタイプで分かれているのではないかという話が出てきていると思う。少し飛躍した話になってしまうが、若手研究(S)が研究者独立支援ということでそのまま横に移行して名称変更しているものが、どこに入るのかということが少し不思議で、融合領域をよく行っている人間から考えると、40代ぐらいの人が分野を変えるときに大変お金がかかるので、少額でもいいので、そこをサポートしてくれるシステムがあると良いと思う。
 欧米には、例えば今まで文系で心理学をやっていた方が脳科学に移行したいときに、2~3年は自分が抜けても心理学部の研究や教育体制が困らないような資金を払えて、新しいところで一から勉強しながら研究グループをつくるお金も払えるという大変セレクティブな分野があるが、何となく日本の徒弟制度が悪であるという見方の上には、人はどこかの分野に入ったら、一生その分野に居続けるという考え方が非常に強いのだと思う。そうではないものもサポートされると、もう少し分野の変更によって、新しいことが起きていくのではないかと考えている。

【有川部会長】
 研究分野の変更に対応できるものとして、萌芽研究というものがある。50歳ぐらいになっても、あるいは定年前の人でも萌芽研究を獲得した人がいて、聞いてみるときちんと新しいことをやっている。そこでは業績リストは出さなくても良い。分野の変更については、今でもこれで対応できる。

【家委員】
 分野によって必要経費が違うというのはもちろんそうだと思う。生物系でも大きな実験をやるところはもちろん多額の経費が要るし、例えば理論系では、かなり人文・社会系の研究スタイルに近いところで細く長くやって継続的に欲しいというところがある。先ほど医学・生物学では300万円では全然足りないということを言われたが、資料3を見ると、基盤研究(C)の医歯薬学にこれだけの応募件数がある。これをどう見るか。これではとても足りないと言いながらやっているのか。研究者たちはこれに採択されたらもらえる金額を倍にして、採択件数は半分でも構わないという覚悟で言われているのか。もちろん全体の予算が増えれば良いが、今の枠組みを変えようと思えばそういうことにならざるを得ない。

【宮坂委員】
 採択率を半分にして、額を増やせば良いとは誰も思っていない。

【家委員】
 これがそれなりに機能しているのかどうかということ。

【佐藤委員】
 基盤研究(C)の中での若手の必要性や応募件数などを背景にして、基盤研究(C)の総額をもっと増やせということが共通の回答だと思うが、そのことが今のところはっきりと書き込まれていないので、最終的にまとめていくときにはもう少し強いメッセージとして、きちんと書いたほうが良いと思う。
 そこで、資料4の若手研究のところを見ると、スタートアップと独立支援ということだけが書いてあって、基盤研究(C)の中に若手領域をつくることとは関係のない話だけを特出ししようというのが今の案なので、議論の中心となっている基盤研究(C)の中で若手研究をどういう形で充実するかということをもう少しきちんと書き込まないと、全体の報告書としては弱くなるのではないかという印象を持った。

【鈴村委員】
 基盤研究の枠の中のものについては、キーとしてフレキシビリティをできるだけつくっていただきたい。その際に分野別の事情の違いというのがあることも一つだが、それぞれの分野の中でも非常に多様な研究があるので、研究費の枠がこうだから応募しにくいというようなことをできるだけ避けることが重要だと思う。とりわけ一様な制度がいろいろな意味で研究に対して大きな制約を課していると、機会があるごとに言ってきたが、今回、このチャンスにぜひそれを実現していただきたい。
 もう一つ、若手研究のところから点線できているところについて、これを独立させる際の若手に限ったものではないような制度を考えていただきたい。
 それから、独立支援という言葉をこういう文脈の中で使うことはやめたほうが良いと思う。先ほど水野委員も言われていたが、我々は盆暮れも関係ないし、リタイアする際に助教授などをどこかへ出すということも全く聞いたことがない。その意味では社会科学の中で我々の分野は少なくとも文字通り独立研究者としてやっている。それは我々のところだけがそうだという意味ではなく、一番よく見えるので例として言っているだけで広くそういうことはあると思う。こういうカテゴリーを何らかの形でつくることはわかるし賛成もするが、独立支援という考え方はもう少し考えていただきたい。
 それから、スタートアップのようなものが必要だったのもよくわかるし、萌芽研究というカテゴリーが一つの受け皿だというのもわかるが、これもやはり年齢にリンクしているものとしてではなく、今回、こういう改変をするのであれば、萌芽研究とこれを組み合わせられるような形でもっと充実するということで良いと思う。年齢にかかわらず新しいことを始めるのは非常に重要なことであるが、分野が変わればそこでは新人である。新人とはいえ、研究の経験とそこで培ってきたネットワークというのは、新しい分野でもそれなりに生きると思うので、そういうことが制度的に助成されるようなことを入れておくことは、学術の世界全体としてフレキシビリティを得るためには大事なことだと思う。
 ただし、こういうクラスの研究費をとってそれだけのことをやっても、今度これに移るから対応するものを保障しろというのは新人なので無理だと思うし、そういうことをしないと、こういう制度の制度らしいところはなかなか生きないと思う。もちろん例外があって、例えばオックスフォード大学にオールソールズというカレッジがあって、フランス文学の専門だが自分はもともと数学の専門だと言っていた私の友人が、これから音楽をやるといって、その都度、修士、フェローという身分的には保障された地位のまま移行していた。そういうことを認めた上でフェローとして選出して移行するのを助成することは必要で、そこは優遇ではなく機会を制度的に提供していくということがポイントだと考えている。

【小林委員】
 前からの議論に戻ってしまうが、基盤研究の金額を見直すということは必要だと思う。ただ、基盤研究(C)で金額を増やせば、5年間の応募が増えるのかということは、必ずしも検証されていることではないので、どういうことになるかはわからない気がする。
 それから、これを具体化しようと思うと、それぞれの優遇措置や区分についてどのように設計するとどのような影響があるかとか、先ほどからの分野の違いを考慮しようとすると採択数の配分の公式をどうするかとか、具体的な問題がたくさん出てくると思う。そういう問題は、経験を持っている日本学術振興会のシステム研究センターで検討する機会を設けていただきたい。あわせて、基盤研究(S)と特別推進研究との関係についても日本学術振興会の中で議論があるので、その点もどこかで議論する機会があればという気がする。

【井上(明)委員】
 これは先ほども質問があったが、若手研究の制度ができて年月がたってきたときに、文部科学省としてこの有効性の分析というか、その結果として委員の意見をまとめられているが、それに対して、若手研究者がどのように育ってきて、制度のどこが良くてどこが問題だったのかという分析結果的なものはあるか。
 それから、特に若手人材育成は、単に科研費だけの問題ではなく、大学の新しい助教制度をはじめとするいろいろな制度と密接にかかわる学術全体の問題なので、そういうものと一緒に有効にやることによって相乗効果が発揮できるのではないか。科研費だけでやるよりはもっと有効な手だてがあるのではないかと感じた。
 それから、人文・社会系では若手研究(S)で初めて独立ということは考えられないことで、ドクターを終えられたとき、あるいはドクターのときから指導教官とは独立してやられるという、自然科学系では考えられないような実態にも合わせる必要があるのではないかと思う。さらに、間接経費に関しては、もちろん各大学の裁量にゆだねられているが、このあたりをもう少し有効に若手や本人の独立的なものに使うというようなことも付帯事項的に総合的な取り組みの一環としてあっても良いような気がする。

【有川部会長】
 若手の育成は、科研費だけではなく、それぞれの大学や機関でやれることがあるのではないか。それから、間接経費の使い方などは、現在でもそれぞれの大学の裁量で使えるが、そういったことも含めて、総合的に考えなければいけないのではないかというご指摘だと思う。
 幾つかの区分に分けて議論しようと思っていたが、うまい具合に全体にわたった議論ができていると思う。ただ、研究成果関係は種類が違うので、その議論のための時間を意識しながらもう少し議論したいと思う。
 先ほど鈴村先生からの独立支援という言葉遣いは良いのか、というご指摘は大事である。それから、若手という言い方でいいのかということも非常に大事な点だと思う。もちろん、一般的には若手とか独立とか言うのは問題はないが、独立支援というのは、ドクターやポスドクに対しては自然であるが、先ほど言ったように、少なくとも既に准教授は独立した研究者になっているはずだという見方がある。

【家委員】
 鈴村先生が言われたように、この部分は本当によく考えて制度設計しなければいけないと思う。今の独立支援という言葉は、例えば内閣府の総合科学技術会議の中でも似たような議論があるが、非常に違和感を持ちながらそこに参加している。
 それから、スタートアップ支援ということに関して、この意見の取りまとめの3ページの真ん中あたりの若手研究(スタートアップ)のところの最初の丸は私が発言したものだと思うが、少し違うニュアンスで書かれている。基本的には、例えばある人を機関にリクルートして採用した場合には、その人のスタートアップはその機関が用意するのが本来の筋だと思う。ただ、今、運営費交付金の削減などでなかなか思うに任せないので、現状、やむを得ない面があるかもしれないが、逆にこういうことをやってしまうと、「スタートアップの科研費があるからそこに応募しなさい。」で済まされてしまうような気がして、非常に危険なことだと思う。本来、そういうものを競争的資金制度に求めるのは筋が違うというのが原則だと思う。

【中西部会長代理】
 資料6は非常によくまとめられた図だと思う。基盤研究(A)(B)(C)(S)は金額で分けられており、制度としては良いと思うが、採択率をどうするかというところでいろいろ議論になっていると思う。より多くの金額を希望する人はより上のランクを応募するという形式は、システムとして非常にすっきりしているのではないかと思う。
 制度の運用面では若手など、ハンディキャップの考え方をどうするかということが問題だと思う。鈴村先生が言われたように、ブランクのある人や若手はもちろん大切であるが、これから企業と大学の間で人事交流がさかんになっていくと思われるものの、企業にいた人はあまり論文数が多くないなどハンディキャップが予想されるが、そのような人もここに入れ込んでいくことが大切だと思う。そういう意味で基盤研究(A)(B)(C)(S)の中味をどのように充実させていくかということが一番の問題ではないかと思う。それから、応募回数制限を設けてはと一番下に書いてあるが、特に基盤研究(C)は最も基盤をなす学術研究なのでもっときちんと議論をすべきだと思う。
 また、自分がしていることを社会に対して公表すべきということはそのとおりである。その発表のしかたについては、いろいろな意見が出るとは思われるが、方法についてはやりながら精査していけばよいので、とにかく、これはと思う手法はどんどん取り入れて実施していくべきだと思う。これだけ一般の人や社会に伝えているという言い訳的とも思われるシンポジウムの開催ということではなく、これはと思うことを何でも試してほしい。また、ホームページに載せる場合もあるが、公表した結果をきちんとフォローして、どういう効果があったのかということをきちんと評価するようにしていただきたいと思う。
 それから、5ページの評価のところについて、評価のためには必要なコストをきちんとかけて、誰がどういう評価をしたかという責任を明らかにすることが必要ではないかと思う。

【甲斐委員】
 独立支援のことはまだ十分議論も煮詰まっていないし、個人が独立ということではなく、各大学で独立した研究室を持たせるということだと思うが、そういう場合には大学が何らかを用意するというのが当たり前だと思う。さきほど井上(明)先生から間接経費の発言もあったが、間接経費の中に言葉で盛り込むとか、もう少し大学は自助努力しなさいと言うほうが良いと思う。もちろん無いよりはあったほうが良いが、限られたパイなので優先順位を考えると、基盤研究(C)を上げる、続いて基盤研究(B)を上げるという順番だと思う。こういうまだ煮詰まってない独立性を維持するような制度を設けるよりは、先ほど家先生が言われた採択件数が減っても上げたいということではなく、採択件数を維持したまま上げたいということである。そのためにはどこかを削るときに、趣旨としては良いから何でも盛り込むということではなく、独立支援がまだよくわからないので、もう少し大学に自助努力を促すことにして、こちらの経費を回そうという議論があっても良いのではないかと思う。

【家委員】
 先ほどの発言はあまり適当ではなかったが、私の疑問は基盤研究(C)にこれだけ応募があって、本当に足りないのであれば、なぜもっと基盤研究(B)や(A)に分布がいかないのかということである。

【甲斐委員】
 それは当たり前であって、年に関係なく最初にその仕事を始めた人たちがいきなり基盤研究(B)に応募できるかというとやはりできない。

【家委員】
 最初に応募した人がこれだけの数いるとは思えない。

【甲斐委員】
 分野による違いや、大学による構成ということなどがあって、必要でも基盤研究(B)はとれないという方もいるし、基盤研究(C)で十分という人もいる。基盤研究(C)は絶対必要だと思う。

【家委員】
 もちろんそこに異論は全くない。

【有川部会長】
 多分、人文・社会系には基盤研究(C)で研究を通している人が多いと思う。それで通常の研究はそれで十分やっていけるということだと思う。

【深見委員】
 先ほど家先生が言われたスタートアップは機関が用意すべきという原則論に関して、こういうことを用意するからこそ機関がやらなくなってしまうという実態は意外にあるのではないかという気がする。要するに機関でやる必要がないと認識されてしまう危険性があるので、本来、機関がすべきことだということを浸透させるためにも、こういうことをあまり制度として推奨するべきではないのではないかという気がする。
 ただ、男女共同参画の産前産後の育児休暇というところは少しこだわりたいと思う。これがあるからこそ復帰できるという人もかなりいる。私は基本的には全部原則論で、あんまり変な制度は入れないというのが自分の根本的なスタイルであるが、このことに関していえば、そういう私の原則に照らしても少し考慮して良い項目なのではないかと思う。

【有川部会長】
 非常に大事なご指摘で、スタートアップも独立支援も本来は機関がやるべきことであって、間接経費等も整備されているので、そういったものをうまく使いながら、機関が機関の裁量でやることかもしれない。一方で、深見先生が言われたように、我が国は女性研究者の比率が非常に少なく、構造的な問題になっている。若手や独立支援に代わりに、例えば女性研究者の支援のための特別枠を設けることを考えていいのかもしれない。

【佐藤委員】
 スタートアップも独立支援も筋からいって、今のご議論はよく理解できるが、多分、必要があってこれをつくって今まで運用してきたのだから、その運用の実績を分析して、維持するかどうかの判断材料として出されることを望みたいと思う。

【山口学術研究助成課長】
 スタートアップのお話についてであるが、現在、年複数回応募であるとか、産前産後に復帰するときなど、一定の締め切りに間に合わなかった研究者の方々が応募するといった様々な要素が入っているので、整理が必要ではないかと思う。

【有川部会長】
 先ほど申し上げたように、間接経費が整備されてきて、個々の大学の特徴ある取り組みとして対応するということも考えられる。導入されたのは必然性があってのことであり、これまでそれなりに機能してきたと思う。佐藤先生、家先生、井上(明)先生からもご指摘があったが、実際にどうなっているか、あるは、実際の審査等における問題点などについても、報告をいただいたらどうだろうか。

【小林委員】
 大きな変更なので慎重に議論をすれば良いと思うが、スタートアップの名称変更だけは、去年、複数回応募の内容を含めたことによって、名称と合わなくなっているので、早く決めていただいたほうが良いのではないかという感じがする。

【有川部会長】
 資料4の6、7ページに科研費の研究成果の公開、あるいは研究成果公開促進費についてまとめてあるが、その辺について議論をしていただきたい。
 この研究成果公開促進費については、主に図書の出版を支援するものと、学会等が出す定期刊行物を支援するもの、それからデータベース構築を支援するもの、シンポジウムなどを行うものといった、大体4つに区分されている。その中で、例えば、昔はデータベースの構築ができるような計算資源は、7大学に置かれていた大型計算機センターのマシンぐらいしかなかった。その後状況は大きく変わり、現在ではやろうと思えば、その当時やろうとしていたことよりはるかに大規模なものが自分の手元のサーバー等で簡単につくれる。一方で、非常に巨大なデータがリアルタイムで集められている状況もある。
 それから、図書に関して、特に人文・社会系について、この支援で出版されている図書は非常に質が高いという評価・指摘もあって、そういう意味で時代を超えてしっかり機能している部分である。
 また、定期刊行物などの学会誌の刊行への支援については6ページにあるように、最近ではオープンアクセスや機関リポジトリのようなものがある。機関というのは通常は大学や研究所などであるが、学会なども含めてそういったネットワーク社会に適応したICTを活用するやり方があると思う。そういう意味では、この部分は導入されたときからすると社会構造が変わって、技術も変わってきたということで、新たな視点が導入されてしかるべきであるという気がする。この問題は、実際には国立情報学研究所のCSIすなわち、サイバーサイエンス・インフラストラクチャーという事業の一環として、わずかな予算ではあるが各大学に公募して委託事業のようなことで急速に整備が進んできた。今では100大学ぐらいが対応していて相当な成果を上げている。大学側は図書館が対応している。そういったことを一つのお手本として、恒久的でなくスタートアップを支援するようなことも考えられる。そうすると、税金でサポートして展開した研究の成果を誰でも見ることができ、公平性や透明性が確保でき、社会に対して説明がきちんとできる。場合によっては、それをオープンアクセスへ持っていく、あるいは機関リポジトリを推奨するような仕掛けを考えてみてもいいのではないか。
 以上述べてきたことは、個人的な意見である。しかし、一方で、科学技術・学術審議会の研究環境基盤部会の学術情報基盤作業部会でも議論しているところでもある。科研費等でサポートされてできた研究成果に、ひどい場合には著者でさえもアクセスできないという状況も起こっている。基本的には税金で行われた研究に関しては、国民が等しく見られるようにしておく必要がある。例えばNIHや、イギリスなどでもそういった動きが出てきているので、日本もそういった対応をする必要があると思う。このような方向・動向を見据えて、そこへ向けた支援という意味で、これまでの研究成果公開促進費を考えてみる必要があるのかもしれない。

【家委員】
 今の学術誌の話はいろいろな学会が大いに悩んでいるところで、学術論文の経費負担を、論文を書く人の投稿料、読む人の講読料、それから公的な資金の中でどういうバランスで行うかというモデルが全然確立してない。しかも外国の大手出版社の攻勢があったりする。
 それから、6ページの下から2つ目の丸のところに、「同じ組織が繰り返し人を変えて申請するなど」という委員の発言があるが、これを知らない人が読むと、姑息なことをしているような印象があるので、これは学会の長がかわるから名前が変わるのだということを少し補足しておきたい。
 分野や、学会によって自前の学術誌を、歯を食いしばってやっているところと、完全にギブアップしてしまったところといろいろあって、公的に何らかの支援があるべきというのはそうだと思うが、たくさんある中でどこまでを支援するかということが、数が多くて、特に分野によっては非常に小さな学会が林立しているところもあるので、非常に難しいところだと思う。

【宮坂委員】
 今の学術定期刊行物について、今、家先生が、学会の理事長なり会長がかわるから人がかわっていくと言われたが、継続してサポートされていること自体に問題があると思う。本来、スタートアップのところで支援するなら良いが、ある特定の学会が人をかえて継続してやっていくこと自体が問題点として指摘されていて、そこは厳然としてあると思うし、それはいかがなものかと思う。

【家委員】
 それは学会の財政状況の問題で、本来はこういう公的資金に頼らない強い体制ができれば良いが、今はそれがなかなか難しい。つまり講読料や投稿料を上げれば、投稿が少なくなったり、講読がやめられたりということでそこのバランスが非常に難しい。

【宮坂委員】
 継続的に、雑誌によっては10年も20年もこういう補助を受けているものがあるとすれば、それは少しおかしいと思う。各学会みんな自助努力で何とかしている。

【家委員】
 それは学会による。完全にギブアップしてしまった学会もある。
 こういうものは競争的資金にはなじまない話なので、国として支援をするなら別に継続的に支援をすべき。毎年応募するほうだって、応募して採択されるかどうかわからない状況というのは、年間の予算を立てる上でも非常に難しい問題になっているということがある。以前から、競争的資金になじまないので国として支援するのであれば、もう少し違う仕組みを考えてほしいということは申し上げている。

【有川部会長】
 学会等には大小様々なものがあって、基本的には大きいところは自分たちのところで行っていて、小さいところは定期刊行物の出版支援に毎年応募しているということがあると思うが、先生が今言われたように、基本的にはこれはスタートアップの支援であって、背中を押してあとは自分たちでやらなければいけない。これまでは印刷物を出していたので、資金がないとやれないということがあったと思うが、現在ではほとんどの論文がワープロでできているので、それを例えば機関リポジトリのような形でホームページやネットワーク上に置くということは簡単にできる。そういう技術が習得されるまでの間、おそらく2年もあれば十分だと思うが、その間支援していけばどこでもできるようになるし、その際問題になってくることは、おそらくそのサーバーをどこでどうするかということだと思う。その辺は国全体として考えるか、あるいは学術会議が考えるか、いろいろなことをしなければいけないと思うが、技術がそのようなことになってきているので、それを使わない手はないと思うし、それを使えば、もう少し広く支援することができると思う。

【金田委員】
 学術雑誌の刊行に関しての問題点は今ご指摘のとおりだと思う。確かに、短期的に見ると、特に技術革新の著しい分野において数年経たものなどは、それほど価値がないというか、事実、廃棄された雑誌の山を他の部局で見たこともあるが、分野によっては古いほうが値打ちがあるなど、いろいろな価値があるし、機関リポジトリなどにしても、そういった電子媒体によるオープンなシステムがずっと継続されるという保証は必ずしもない。新しい分野を否定はしないが、そういう媒体によって研究体制や研究の質を変更せざるを得ない形になるのはまずいと思うので、媒体としての有効性を認めると同時に、旧媒体であってもそのシステムはある程度維持することを観点の中に入れていただきたい。

【有川部会長】
 媒体に関する今のご指摘は非常に大事なことで、現時点では一番確かなのは紙だと言って良いと思う。コンピューターの歴史を考えればすぐわかると思うが、昔の8インチのフロッピーは、今では見ることができない。次々に媒体の変換をしておかなければいけない。これは業界ではマイグレーションと言っている大きな問題はあるが、ここで言っているのはそういう古いものをどうするかということではなく、新しい成果を論文として出す定期刊行物を支援するということである。

【金田委員】
 そこに全部移行してしまう形を助長するのはどうかということを申し上げている。

【有川部会長】
 例えば論文等がネットワーク上にあるとして、それを紙媒体で保管しておかなければいけないということであれば、そこからプリントしておけばいい。そういう時代ではないのかと思う。

【三宅委員】
 実は学術図書についても、高くて部数が少なくしかできないということが助成をしにくくしていると思う。研究成果公開促進費で学術図書のようなものを出版する場合も、基本的に将来的には電子的な媒体で公開するほうが安くて、たくさんの人に見てもらえるということがあると思う。

【有川部会長】
 冒頭で申し上げたように、学術図書に関しては現在でも圧倒的な評価とニーズがあるので、ここはあまり手をつける必要はないと思うが、三宅先生が言われたように、それを特定の人しか見られないのはまずい。機関リポジトリ化しておけばどこでも見られる。それから、廃棄された雑誌類というお話があったが、これも保管に要するスペースを少なくするための手法として電子化されるところもある。

【鈴村委員】
 数年前、この研究成果公開促進費にまとめの形でかかわったことがある。その後制度が変わっているかもしれないが、私が理解していたやり方でいうと、学術図書、定期刊行物、データベースは全部ひとまとまりの研究成果公開促進費として、配分自体もそこで議論する。
 もう一つは、生命科学、理工学、人文学、社会科学などを全部一緒に行うが、そうすると、先ほど別のカテゴリーの話にも出ていたように、分野の事情というのはまるで異なっていて、自然科学の方々は学術図書に対しては、なぜこんなものにこれだけの巨額を出さなければいけないかという反応が出てきてしまう。それからデータベースも、人文・社会系では大変期待をしていて、このカテゴリーの中では相当巨額のものの応募が出てきて、トータルとしては大きなパーセントを占めてしまう。しかし、こんなものをなぜ科研費で出さなければいけないのかというのが自然科学の方の反応である。逆に自然科学の方は、ジャーナルの刊行に非常に重きを置いて議論をする。日本語のものは対象外で、全部英文での発行ということである。そういう形で流れていくので、そこでの分野の事情の違いを調整する立場の仕事を背負うと、なかなか大変なものがある。
 私は一緒に議論することのメリットも半ば認めているが、他方ではそういう事情の違いを何とか制度の中で安定化していくような工夫がどうしても必要だということを、最終のまとめのときはいつも言っていた。今がどうなっているのかということが関心の一つである。
 その上で申し上げるが、まずデータベースに関しては2つのタイプのものがあると思う。特定の研究課題があって、そのためのデータベースをつくりたい。研究会があって、その研究会がデータベースを公開するためにこういったものをとりたいというものと、もう一つは、機関が定期的に行っている作業というものがあって、話の中に出てくるのでは後者のほうが問題だということである。これは金額としても、例えば定期刊行物などよりも規模の大きいものなので、少なくともデータベースに関しては見直したほうが良いのではないだかという印象を持っている。ただ、それを一緒に議論することで問題を錯綜させているので、ある程度切り離せないだろうかという印象を持った。
 定期刊行物は最後の大問題で、日本学術会議でも今、ジャーナル問題と称して勉強会を重ねているが、1つの問題は日本の成果を刊行するものがいろいろ制約を受けていて、ここで特に科研費での助成が得られないということになると、ジャーナルを統合して、統合されたほうは廃刊になって数が減ってしまう。そうすると、投稿する立場からいうと、アウトレットの選択肢がそれだけ減るという問題がある。もう一つ、外国の出版社との契約でそちらのほうにいってしまうという場合は、今度は外国の出版社のパッケージとして売りつけられるので、それを契約できない大学が出てきてしまって、今、非常に大きな問題になっている。
 そういう中でこのジャーナルに関して、科研費がどういう役割を果たせるのかということを議論しなければいけない。ただ、データベースや図書の場合とは相当次元の違う話だと思う。

【有川部会長】
 大事なことをご指摘いただいたと思う。分野や規模による違いは考えなければいけないが、電子ジャーナルで今問題になっていることと、そうした小さい規模の学会等が出される定期刊行物の問題というのはかなりの距離があると思う。例えば、大手出版社が関心を持つようなものであれば、それは相当強いはずなので問題にならないと思う。日本の非常に小規模の学会等の活動をエンカレッジしながら、しかも財政的に必要なサポートをしていくということを効率的に考えると、先ほど言ったようなやり方が良い方法ではないかと思う。
 実際にプラットフォームができた後を考えると、論文ができて、審査や査読などが済んでそのままそこに置いておけばジャーナルができる。そういったことが可能な時代なので、それを使わない手はないと思う。それでも、印刷物が必要であれば、そこから印刷をしておけばいいだけの話である。しかも機関リポジトリ等に収録されている論文はメタデータなどもしっかりとられて、世界中に流通できるようになっている。
 そういう状況にあるので、こういったことを反映させ、そういう方向へ進むように支援の仕方を考えていけばいいのではないかというのが、冒頭で申し上げた趣旨である。

【宮坂委員】
 基本的に今のお考えに賛成であるが、皆さん紙離れができない。どうしても紙にこだわって、紙で見ないと気が済まない。ただ、言われたように、例えば今、オンラインジャーナルもできるし、必要なものだけプリントアウトするという形にすれば良いと思う。
 我々医学・生物学系では、インパクトファクターがとても重要な役割を果たしていて、インパクトファクターがとれないような雑誌は徐々に整理・統合、再編成されていく。おそらく、日本の特徴の一つだと思うが、日本はいろいろな学会がタケノコのようにたくさんあって、それぞれがみんなジャーナルを出したがっている。本当にそれが全部必要なことかというのが問題で、出すことが目的になってしまっている部分があると思う。そういう意味では本来、整理・統合、再編成されてもしかるべきものもあると思うし、うまくこの電子化のシステムを使って省力化をしなければいけない。もっと情報の整理をすべきだと思う。

【有川部会長】
 インパクトファクターの問題はここで議論することではないと思うが、先ほどの機関リポジトリのようなところに置くと、どれだけアクセスされたか、何回ダウンロードされたかなどがわかるし、あるシステムではそういったものをずっと調べていって、サイテーション情報を自動的にとることもできる。技術的には、今行われているようなサイテーションや、それに基づくインパクトファクターに代わるようなことができる状況である。
 実際には、主に人文・社会系に多いが、今まで印刷物だけでやっていたところが機関リポジトリに入れたところ、世界中からアクセスがありびっくりしたとか、自分の論文が何千回も読まれているということがわかって非常にうれしい、といったこともよく聞いている。やってみると全く違ったことが起こるのではないかと思う。そのことと伝統的な印刷によるものとは競合するようなことではなく、むしろそれを推し進める一つの手段であるとお考えいただければと思う。
 本日は、「若手研究」の意義・制度の趣旨ということで、基盤研究と若手研究との関係、応募要件と年齢制限等、それからスタートアップ、若手研究(S)のことについて議論してきた。また、今後の「基盤研究」の在り方について、その意義・役割、期間・応募総額、審査体制・評価といったこと、さらに、研究成果の公開について議論していただいた。基盤研究の意義・役割について深見先生から言及していただき、基盤研究という言葉遣いの重要さをご指摘いただいた。まだ少し時間があるので、基盤研究に関してご意見をお持ちでしたらお願いしたい。

【家委員】
 本日、このたたき台を示していただいたが、この具体的な制度設計はどのぐらいのタイムスケールで、どの辺をターゲットにしていると考えておけばよいか。

【山口学術研究助成課長】
 今回ご議論いただいている中には、少し時間をとってしっかり見ていく必要があるものもあると思うし、特に来年度の概算要求に向けて、夏までにまとめていかなければならないものもあると思う。特にお話があった基盤研究(C)のようなものについては、基本的な方向性としては間違いなく重要だということになってくると思うので、そういった面についてはできる限り夏の概算要求へ向けて、まとまるところはまとめていただきたいと考えている。ただ、それでももう少し慎重にきちんと議論すべきだということについては、夏を超えて引き続きご議論いただくことになると思う。私どもの希望としては、特に概算要求、来年度の予算に絡むものについては、なるべく夏までにおまとめいただければ幸いだと思う。

【有川部会長】
 大体、夏ごろまでにということである。

【家委員】
 そういうタイムスケジュールでやったときに、応募する側にとっては最速でいつから変わることになるのか。

【山口学術研究助成課長】
 大きく変えるのであれば、公募要領から根本的に変えないといけないので、そのスケジュールでやらなければならないと思っている。従って、9月に公募要領を出すとなると、その前段階の夏にはある程度まとめていただく必要があると考える。

【家委員】
 事務局としては、可能ならば来年度の応募からということを考えているのか。

【山口学術研究助成課長】
 それは大きな話なので、部会でご議論いただいて。

【家委員】
 やるのであれば本当に詰めてやるべきだと思う。

【山口学術研究助成課長】
 それも含めてご議論いただければと思う。

【有川部会長】
 来年度に間に合わせるためには、9月にはできてないといけない。夏には終わってないといけないということか。

【山口学術研究助成課長】
 9月に発送することを考えると、もっと早くできてないといけないと思う。

【家委員】
 学振のご意見もあるのではないか。

【小林委員】
 日程的に少し厳しいと思う。今の枠組みのまま金額を変えるなどのレベルなら可能かもしれない。

【有川部会長】
 今回の議論はもう少し根源的なことで、幾つかの条件や時代的な変遷もあるので、そういう意味ではもう少し議論した方が良いかもしれない。

【井上(明)委員】
 大学の基盤的経費が右肩下がりで、スケジュール的にも運営費交付金等が今年の12月にこれまでの評価に基づいてということなので、少し時間を置いて、人件費等の比率の高い大学はあまり減らされない可能性もあるだろうし、そのあたりの動向も見てから決めても遅くはないと思う。

【有川部会長】
 今のことは国立大学法人のことであるが、最初の中期が終わろうとしている時期であるので、国立大学の側からすると大事なことだと思う。

(2)その他

 事務局から、次回の研究費部会は6月23日(火曜日)13時30分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課