第5期研究費部会(第3回) 議事録

1.日時

平成21年5月14日(木曜日) 14時00分~16時00分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、田代委員、三宅委員、井上(明)委員、岡田委員、甲斐委員、金田委員、鈴村委員、谷口委員、水野委員、宮坂委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、勝野学術機関課長、大竹基礎基盤研究課長、山口学術研究助成課長、松川総括研究官ほか関係官

4.議事録

(1)今後の「基盤研究」の在り方について

 議事に先立ち、事務局より、資料3「世界最先端研究支援強化プログラム(仮称)等について」に基づき説明を行い、その後質疑応答を行った。

【甲斐委員】
 中心研究者の決め方に関して、総理大臣など総合科学技術会議の半分ぐらいが議員の方で、有識者がどのようにどの程度選ばれるのかわからないが、政治的に決まっていくような感じを持つ。それから中心研究者がすごく強い決定権を持っているように見えるが、こういうことには学識経験者や、文部科学省が持っている機関から選んでいくというようなことは議論されていないのか。

【松川総括研究官】
 この制度のスキーム全体については、立案した段階から総合科学技術会議を中心にオールジャパンで考えていこうということであるが、具体の課題や研究者を決める際には、やはり我が国の研究動向全体を視野に入れた議論が必要だろうと思っていて、例えばこの中で言う外部有識者の中には学問の分野での知見を有する方も入っていただく必要があると思っている。それから、「広く候補を調査」となっているが、動向を調査する際にはそういった分野での動向などもきちんとインプットしていく必要があると思っている。いずれにしても、総合科学技術会議を中心にオールジャパンで世界に通用するような研究を推進していこうというのが今回の制度の眼目なので、その中で大学の研究などもしっかりインプットしていきたいと考えている。

【鈴村委員】
 総合科学技術会議の位置付けからも予測されることであるが、科学技術分野というのは、人文・社会科学を明瞭に排除した概念になっているのか。

【松川総括研究官】
 総合科学技術会議の所掌から人文・社会科学が明示的に排除されていることはないと理解している。ただ、今回のスキームの中でどういったものを対象としていくかについては、今後の議論だと思う。

【鈴村委員】
 タイトルに世界最先端研究支援とある以上、人文・社会分野でも該当するものはあるので、最初から排除されていないと理解してよいことは心強いと思うが、仮に自然科学に集中するようなものになるのであれば、対応するプログラムを構想することも重要な課題だと思う。

【甲斐委員】
 科学研究費補助金の予算を増額することにすごく四苦八苦していて、少しずつ上げてきているが、ここに非常に多額のお金が出てきている。これはただ単に出てきているわけではなく、何らかの積み上げがあると思うが、どの程度の大きさのものをどのぐらいというような構想をもう少し話していただきたい。

【松川総括研究官】
 この点も今後、実際に選定していく際に決まっていくことだと思うが、総額が2,700億円で30課題程度を選定するということなので、1課題当たり5年間で90億円程度、1年当たりはその5分の1程度というのが単純に計算した結果である。ただし、30課題すべてが一律に同じ予算規模である必要はないと考えているので、それより小さいものもあれば大きいものもある。それから30課題という数字もこの程度ということで、世界に通用するものを選定する際に30より増減することもあると思っている。既存の研究助成スキームから比べると、かなり大型の予算によって集中的に研究支援をしていくという考え方のもとに、こういった制度設計ができている。

【三宅委員】
 若手研究者の派遣の話に関して、少し期間が短いような気がするが派遣期間が3カ月である理由は何か。

【松川総括研究官】
 個人支援型は3カ月以上ということなので、必ずしも3カ月というわけではない。また、組織支援型は3カ月が一つの目安となっているが、限定的にとらえようとは思っていないので、各大学のいろいろなプランに応じて幅広く採択できるようにと思っている。一方で、短いのではないかというご意見については、今回の事業では、特に最近、大学の研究現場が内向きになっていて、外に出ていくことが少なくなっているのではないかという指摘もあって、できるだけ国際研鑚の機会を幅広く拡大したい、派遣人数をある程度確保したいというような観点から派遣期間を設計したということである。従って、特に個人支援型で研究能力の育成ということを重視すれば、もう少し長期のプランもあり得ると思っているので、そういったものにも柔軟に対応できるような運用を考えていきたいと思う。

【中西部会長代理】
 2,700億円というのは、科研費全体で2,000億円なので、ものすごい額だと思う。1課題100億円というと、普通の研究者があまり思いつかないぐらい大きな金額なので、既存の予算との関係やどのように選ぶのかといったことはきちんとしていただきたい。それから、お金が引き起こす研究者間のモラルの崩れなど、研究社会全体に与える影響にも十分配慮していただきたい。科研費で100万円、200万円を獲得するために一生懸命努力して、コツコツ積み重ねてきている人もたくさんいる中で、突然多額の研究費を得た人が隣にいるようなことになるので、そういうことにも気を配っていただくなど、研究社会全体について少し考慮に入れていただくとありがたいと思う。

【有川部会長】
 そのことにも少し関係があると思うが、例えば科研費で、大きな特別推進研究などを行っている人が、こういった中心研究者として選ばれる可能性も非常に高いと思う。そうした場合に両立はおそらくできないだろうと思うが、その辺について何かお考えはあるか。

【山口学術研究助成課長】
 まだ法律も通っていないし、今後内閣府の総合科学技術会議を中心に具体化が進んでいくと思うので、今の時点でどうこうということは申し上げにくいが、30課題2,700億円、単純に割れば1課題当たり90億円という多額の国費が投じられるので、予算の考え方からしても、その額をもらう以上は基本的には専念していただきたいと思う。一方で、例えば特別推進研究を獲得している場合などは、審査に当たってエフォート等考慮した上で採択されているので、具体化していく段階で何らかの調整措置が必要になってくると思う。
 特に、例えば、全く同じテーマで両方採択されているような場合には、やはり御議論いただいて、何らかの調整措置を検討していただくことになるのではないかと考えている。

【有川部会長】
 もう一つの研究者派遣のほうは旅費や滞在費の支援だと思うが、最近、日本に限らず若手研究者が外国に行きたがらないということが言われていて、その理由の一つに、定員が相当削減されて、教育などをやっていく上で他の人に負担をかけてしまうということを考えて行きにくいというようなこともあるようである。そういうことから考えると、個人が行くための支援と同時にその人の留守中に関する支援といったことを考えなければいけない時代なのかもしれない。昔であれば、順番にそういうことをするという暗黙の了解があったと思うが、現在ではかなりぎりぎりのところでやっていて、長期にどこかに行かれると大変なことになるというようなことも言われたりしている。

【松川総括研究官】
 各大学でいろいろと工夫していただく必要もあると思うが、研究者や若手の方が内向きになっている理由や要因にはいろいろあると思っていて、少なくとも国としてはこういった経済的な支援ができるような施策を打ち出して、側面から支援しようとしている。あわせて大学内の体制などの整備も大学の意見を聞きながら考えていきたいと思っている。それから、今回、若手研究者というタイトルをつけているが、特に組織支援型のほうは、必ずしも研究者としてポストについている方だけではなく、むしろ大学院生、場合によっては学部生も含めた学生の方に国際研鑚の機会を与えるところにも主眼があるので、大学の国際化という観点からも重要な意味があると思っている。

【井上(明)委員】
 組織支援型で、「研究活動のための海外派遣」と書いてある。各大学が、今、海外インターンシップ等を行っているが、この目的が特に将来研究者になるべき日本の若手の学生が海外交流などで海外研鑚を積む、異文化に触れるという趣旨であるとすれば、この研究活動ということを広くとらえれば研究活動、教育を受けてくるなどいろいろなことが考えられるので、このあたりを広くとらえていただけると、大学側としては大変助かるすばらしいプログラムになると思う。

【松川総括研究官】
 具体的な、例えば公募のスキームや事業の枠組みの詳細はこれから検討するのでよく考えたいと思う。ただ、日本学術振興会の事業なので、こういった書き方になっているところであるが、できるだけ幅広く支援できるようには考えたい。

【岡田委員】
 こういう資金を出そうということ自体は非常に画期的なことだと思う。若手の研究者の海外派遣事業のほうは大体5年間で1.5から3万人、総額300億円だとすると、1人当たりは大体100万円ぐらいになる。そうだとすると、基本的には旅費と滞在費でほとんどが終わってしまうと思うが、実際に海外に行って研究をきちんとやるのであれば、やはり研究費をしっかり出さないと、先方で十分研究費の余裕があって一部やらせてくれるというようなことは最近では難しくなってきていると思う。実際に3カ月あるいは特に個人の場合には1年ぐらい行ったときに、きちんとした研究費を出すのかどうか。出すのであればそれに対して十分なお金が要るのではないかなど、その辺のところを少し調査して考えていただかないと、とにかく送ってしまえば何とかなるという時代ではないと思う。

【松川総括研究官】
 言われるとおり積算上は渡航費と滞在費である。審査する際に、研究活動を行うための体制や条件が整っているかということを見ることになると思うので、他のスキームとあわせて考えることだと思うが、ご意見は今後の検討の際に考えていきたい。

【谷口委員】
 今、今日の議事のどこになっているのかをお聞きしたい。この資料3はかなり重要な問題だが、私たちは文部科学省の研究費がどのようあるべきか、ということを議論するためにこの部会に参画している。若手の支援も何十年も前の日本にさかのぼったような印象を持つ話で、やらないよりはやったほうが当然良いので決して否定的なことを申し上げているわけではないが、これを議論する意義を教えいただきたい。つまり、研究費部会でこういう意見があったので、総合科学技術会議にぜひ提示すべきだとか、あるいは何らかの施策に生かすべきだということがあるという前提で議論をしているのか、それとも手の届かないところにこのようなものがあるのでご承知くださいということなのか、あるいはどちらでもないのか、その辺がある程度わからないと何を発言したら適切なのかがわからない。

【山口学術研究助成課長】
 前回の部会でこの件についてご質問をいただいたときに補正予算の関係の資料を全く用意していなかったので、このことについて説明し、できる限りのご質問にお答えしたいということで、最初に説明させていただいた。それから、これは補正の仕組み、あるいは総合科学技術会議の動きとして動いていくが、この部会あるいは審査部会においては、これをもらった方がいたときに科研費と何らかの調整が必要になるのではないかということについて、科研費の側、研究費部会の側としてご議論いただくことがあるのではないかと思っている。

【有川部会長】
 少なくとも間接的な効果はあるのだと思う。

【佐藤委員】
 いろいろ注意すべき点があるので、できるだけ良いものになるような意見を述べると良いと思うが、ただ、研究費の分野にこういうお金が入ってきたこと自体は評価をすべきことで、画期的なことなので、上手に運用できるような工夫をして活用したら良いと思う。ただ、心配なのは、これは景気浮揚策ということで、5年間、特定の目的のお金として入ってくるため、将来の研究費の土台にならないで雲散霧消してしまうおそれがあるので、そういうことがないように今後努力してくださることを要望したいと思う。

【金田委員】
 人文学の研究者の立場から申し上げるが、こういう巨額のお金が出てくると、どう使っていいのかということがわからない。実際上は、必ずしも巨額なお金でなくてもよいので、もう少し継続的な研究費が必要である。この巨額のお金を別に拒否しているわけではなく、大いに有効にお使いいただきたいが、そのときに巨額に積み上がらないとだめというような発想ではなく、できるだけ細かなところにも目配りのできるような形の配慮をお願いしたい。

【谷口委員】
 世界最先端の研究を行うために研究者を指名するということがこのプロジェクトの根幹であるが、その研究者をどうやって選ぶかということについては、研究者コミュニティの学識経験者の意見をどのように反映させるかなど、やはり何らかの形でできるだけ適切な方が選ばれる仕組みを考えていただきたいと思う。総合科学技術会議と両輪の役割を担う日本学術会議がどう関係するかということも全く明らかではない。
 それから、国際性ということを言うのであれば、世界の科学研究者コミュニティがどのようにその研究者を考えているのかということも視点に入れていただくことが重要ではないかと思う。日本では有名だが、外国では有名ではないという人はいないと思うが、やはり広く意見を聞いて適切な人材を選んでいただかないと、結局我々の次世代に大きな負担を強いる予算を使うことになるので、学者コミュニティとしては実りのあるものにするための適切な仕組みを考えていただきたいと申し上げるべきだと思う。

【有川部会長】
 非常に大事なご指摘をいただいたと思うので、ここでの議論が何らかの経路で伝わるようなことをお考えいただければと思う。

 次いで、事務局より、資料4「基盤研究の現状等について」に基づき説明を行い、その後意見交換を行った。

【宮坂委員】
 審査のコストということを言われたが、今、どの研究者も科研費をとるのに必死になっているので、その審査のプロセスは透明で、公正で、信頼が置かれなければいけないと思う。そのためにはどうしても必要なコストはかかると思うし、現状が果たして十分かどうかということを考える必要があると思う。今はコストがかかり過ぎているというように聞こえかねないと思ったが、その審査のコストについて少しご説明いただきたい。

【山口学術研究助成課長】
 審査のコストという表現は適切ではなかったと思うが、審査を適切に進めていくためには、審査員の方々にご協力いただかなくてはいけない。資料4の8ページに参考1があるが、応募が増加しているため、限られた期間にそれを見ていただくために、担当する件数を増やすことでは負担が非常に大きくなるので、どうしても審査員の人数を増やしていかなければならない。一定の質を持った審査員の方々をこれだけ確保するという部分での負担が非常に大きいと思っている。そのコストというのは金銭的な面や手間というよりも、審査手続全体の負担というようにお考えいただければと思う。

【宮坂委員】
 この間、二段審査に参加して非常に強く感じたが、審査員の方に協力をお願いするときに日本学術振興会の職員がすごく腰を引いている。審査員になることは、もちろんそれなりの負荷もかかるが、考え方によっては、その人が学問の社会から正当に評価されたという一つのステイタスにもなるので、当然その人は大変でもやる義務がある。そこはあまり遠慮する必要はないと思う。
 それから、一定のクオリティを持っている人を集めるのが難しいというように言われたが、果たして一定のクオリティを持つ人たちを集める努力を十分にしているかということも問題としてあると思う。この一段審査、二段審査をするのに日本にそれほど人が少ないとは思わない。ただし、例えば審査所見を十分に書かないとか、5をつけておきながら理由を書かない、お願いしているほうも理由を書いていないことを十分にチェックしない、あるいはチェックし切れないという問題があって、選ぶプロセスの問題もあると思うので、そういうことも含めて今後見直していく必要はあるのではないかと思う。

【小林委員】
 日本学術振興会で、現在、5万名ほどの審査員候補者のデータを持っている。これは過去に科研費を獲得した方などを基本にしていて、学会からの推薦なども含めて充実させているところであるが、科研費の審査だけではなく特別研究員の審査などもあるので、トータルの審査員の数というのは相当な数になっている。しかも、同じ人が繰り返し継続してやらないということを考えると、現在のこの数というのは選ぶのに苦労する数であるということもご理解いただきたい。

【有川部会長】
 言葉遣いの問題は別として、今、審査にかかるコスト、あるいは公平性、透明性をいかに確保した上で審査を行うかということが議論になっている。コストという言葉遣いについては、個人的には使って悪いことはないのではないかと思う。審査にはやはりそれ相当のお金がかかるものであって、しっかりした審査をするためにはやはり時間も手間もかかるし、コストもかかるということだと思う。

【宮坂委員】
 別にコストと言ったから悪いと言っているのではなく、それはかけるべきものだと思っている。それをコストがかかり過ぎるというような言い方に聞こえたので、それは少しおかしいのではないかということを言いたかった。

【有川部会長】
 前回は若手研究者ということで若手研究(A)、(B)などを中心に議論してきたが、そこから基盤研究への接続の問題、あるいは基盤研究(C)の90%程度が3年の研究期間になっているようなことなどは少し構造的な問題があるような気もするので、その辺のことについて議論していただければと思う。

【鈴木委員】
 評価をした結果が次に引き継いでいかないという問題があると思う。例えば、タイトルや中身が良いということで採択をして、その課題の研究期間が終了した後に評価をした結果が次の審査に引き継いでいかないので、次の審査をするときにまたタイトルや中身が良いということで選ばれるということがある。審査結果や評価結果を次に引き継ぐようなことを考えて審査、評価方式を見直さないとこれはなくならない気がする。

【有川部会長】
 基盤研究(C)も3年から5年ということになっているにもかかわらず、3年という計画が多い。これは単純に考えると、あまり長期の計画を立てたくないというようなことがあるかもしれないが、研究費の総額が決まっているので、3年の計画にして1年当たりをしっかり確保して取り組み、3年終わったらまた応募するということになっている気もする。そうだとすると、研究経費については総額というよりも何か別な工夫をすることもあり得るのだと思う。

【岡田委員】
 基盤研究(C)でだけ3年間が多いということではなく、基盤研究(B)でもそうである。こういったものに関してはいろいろな考え方があると思うし、今、鈴木先生が言われたような評価のことも非常に大事な点だと思うが、もう一つの点は、総額が決まっているので最終年度がどうしても取りまとめのようなことになって、非常に少額になってしまうということがある。ところが研究は、そのプロジェクトの最終年度の経費だけで済むかというと、学生もいるのでなかなか済まない。そういうときは別のプロジェクトに応募したいと思うが、今は非常に重複応募が難しくなっていて、最終年度が残っているために、それが引っかかって大きなものに応募できないというようなことがあるので、少額の最終年度はやめてしまうほうが良いという考え方が出てくる。そういう制度のいろいろな問題も出てくると思うので、最終年度の重複応募の制限を外すことなどは考える必要があると思う。

【田代委員】
 資料の7ページが問題になっていて、特に基盤研究(C)で3年間の応募が非常に多い。今までは2年間の応募ができてそれが60%ぐらいあった。基盤研究(A)、(B)は2年間がなくなったことがあまり響いていないのかもしれないが、この2年がなくなったことで、本当は2年間で応募したかった人が仕方なく3年間で応募している。これは理系と文系とで発想が少し異なり、文系は1年間にそんなに多くのお金は要らないが2年間ぐらい研究したいという方たちはいる。
 もう一つは、国立大学が法人化していろいろな研究費を削減しているので、この基盤研究(C)に個人研究が殺到している感じがする。そこで考えなければいけないのは、個人研究である基盤研究が1人または複数となっているので、そこに1人だけというものをつくれば若手研究からここにシフトできるのではないかと思う。基盤研究(A)、(B)と基盤研究(C)の間に谷間があるような気がするので、この辺をお考えいただければと思う。

【甲斐委員】
 基盤研究(B)も3年間の割合が50から75%になっているので、基盤研究(B)、(C)ともに問題だと思うが、急がなければならないのは基盤研究(C)だと思う。基盤研究(C)の研究期間として2年がなくなって3年以上になったときにも、総額が上がらないで3年以上になることに対しては議論があったと思う。それによって、ほとんど理系の人だと思うが、最低200万弱は必要だと考えていた方々がやむを得ず3年で応募している。その3年で応募した方々はおそらく若手ではないと思う。若手研究(B)を見ると500万円で2年間の応募ができるので、現実問題として、同じラボにいて、若手の人は500万円の半分で単年250万円、その7掛けぐらいの充足率で200万ほど獲得できるのに対して、それを超えてしまった人はその人のほうが上なのに、150万円ぐらいしか獲得できず、1年間非常に苦しいというアンバランスが起きている。研究が悪いわけではないのに、若手を出てしまった方々が応募する種目がない。もっと良くなってきたら、基盤研究(B)、(A)に挑戦したいと思うが、やはりそれはリスキーなので金額が低くなるとしても、どうしても基盤研究(C)に応募したいということが起きていると思う。やはり基盤研究(C)に関しては、年限を2年に戻すか、金額を上げるかのどちらかしかないと思うが、確かに審査員はぎりぎりの数でこれ以上増やすことはできないと思うので、金額を上げるしかないと思う。これを上げないと、若手研究(B)に応募できなくなった人たちはほんとうにかわいそうな現状だと思う。

【有川部会長】
 基盤研究(C)の金額を上げることが有効ではないかという話である。

【宮坂委員】
 人文学系と、医学生物学の研究ではかかる研究費がおのずから異なる。医学、生物学では何をしようとしても非常にコストがかかるようになってきていて、昔は150万円あれば論文が一本書けたが、今は150万円で論文一本なんてとても書けない時代である。基盤研究(C)は7掛けにすれば150万円ぐらいしかとれず、論文一本なんてとても書ける金額ではない。そういう意味で、理系か文系かで金額を変えることは問題だと思うが、少なくとも私たちの分野から見て一本の論文を書こうと思えばこの額は全く足りない額である。本来であれば3年間研究をして、論文が書けてしかるべきだろうと思うので、そういう観点から見れば全く少ない額だと思う。

【有川部会長】
 文系と理系とで金額を変える必要はなく、研究費の上限を少し高くしておいて、文系の人は低いところで応募するということにしていけばいいと思う。

【水野委員】
 これだけ基盤研究の研究費枠が足りなくて苦しんでいて、現状のように明日芽が出るところに幅広く水を蒔かないと日本の科学研究はだめになってしまうという危機感がずっと語られていて、生命科学系の三分野への領域支援を、ほんとうに涙をのみながら削ったというような状況のところで、世界最先端研究支援強化プログラムにこんなにお金が出せるということで少し力が抜けているが、最先端研究支援強化プログラムの説明のときに、そういうことも可能なのかと思った点があった。それは単年度のさまざまな事務的な制約をないことにして、まとまった年限の間、簡単にお金を使えるという話である。基盤研究などのさまざまな手続で我々はいろいろ苦労をして、研究者にとって一番貴重な財産である時間を審査や応募などに投入している。3年間なら3年間まとめて認められて、その3年間の間、毎年詳しい報告書や計算書を書かなくても良いというような、最先端研究支援強化プログラムで可能なことが、なぜ基盤研究では導入できないのだろうかという気がした。もっと省力化できるところは省力化したほうが良いと思う。
 それから、先ほど鈴木先生からご発言があったように、同じような方が同じように採択されるという問題はまた考えなくてはいけないのかもしれないが、徹底的に詳しく調べていくということになると、調べることについての研究者のコストがかかるということも考えなくてはいけないと思う。私は研究者の研究不正、ミスコンダクトのガイドラインなどでも胸を痛めているが、研究不正でも調べることについてのコストはやはり研究者の時間を奪うものである。もし予算がたくさんあればまんべんなくまいて、一定の割合で無駄が出ても、伸びるところが伸びていけばいいというのが一番良い形だと思うが、それが許されない予算状況なので、最初に研究者がきちんと責任を持ってコストを投入して研究者集団の中で投入するに値する研究を調べるということは仕方がないと思う。ただ、そこから先で、さらに徹底的に時間的なコストをかけて精密にふりかえって検証をしていくことは、結局研究者の首を締めてしまう気がする。企業活動でも一定の割合で絶えずロスは出ているので、それをどこで、どうした理由でこのロスが出たのかということを考えて分析するよりは、新たに発展するところにエネルギーを注いでいくというほうがトータルでは合理的なので、ある程度研究者集団を信頼して省力化して制度設計を考えていくというように切り替えていただければと思う。

【有川部会長】
 非常に新しい提案で、そうであれば現場の研究者にとっては非常にありがたいと思うが、一方で、不正が行われた場合には、社会的な糾弾はすさまじいものがあって、たとえそれが100円であってもどうにもならない面がある。それに対してはしっかり備えなければいけないので、さまざまな事務量が生じてきているということだと思うが、なかなか妙案がない。
 それから、基盤研究等の継続分については、書類はそんなに大変ではなかったと思う。交付申請書などで、実際の予算等について書いて出すというようなことだったと思うが、それもなくしてしまうのはまた別な問題をはらんでしまうような気がする。

【山口学術研究助成課長】
 単年度主義の話は大変大きな話なので、今後考えていかなければならないと思うが、今まで単年度主義の制約として言われていることは、複数年の研究計画で内約額を示してはいても、単年度主義なので、毎年の予算は毎年の予算が決まってから交付申請をしていただいて交付するという形になっているため、毎年切れてしまうということがある。それから、内約額が示されていたとしても、例えば科研費の予算が1割減ってしまえば、そのまま交付できるとは限らないという面もある。また、予算が成立した後からでないと、正式には動くことができないので、そういった面で予算に組み込まれているということの限定がどうしてもあるのではないかと思う。
 一方、今回の補正のプログラムについては、予算としては、研究者派遣分も含めて3,000億円であるが、これは補正予算に一括計上して、その後、日本学術振興会の基金の中で運用していくという形になっているので、ある程度柔軟な対応ができるのではないかと考えている。その部分が今回のスキームの異なるところではないかと思う。

【小林委員】
 科研費が補助金で単年度主義というのはやむを得ないと思うが、科研費の場合は、繰り越しの制度を整備してきていて、今は随分使いやすくなっていると思うので、ぜひご活用いただきたい。

【三宅委員】
 もともと60%もあった2年の研究期間をなくして3年以上にしたときに金額を変えなかったことで、いろいろなひずみがあったのではないか。人文系にしても最近は複数の研究者が一緒に研究することのメリットは考えられるようになっていて、前回も若手研究について若手研究者同士で複数になってもいいのではないかと発言したが、例えば基盤研究(C)の金額がいかに少ないかということを考えてみると、この500万円で3年から5年で複数の研究者の研究をやらなければいけないという話になる。そうすると、若手研究(B)でひとりで年間200万円使ってきた人をどうやって取り入れるかということを考えたときに、この基盤研究(C)の金額はかなり少なくて、基盤研究(B)でも複数できちんとやろうと思えばそれほどゆとりのある金額ではない。全体の構想と複数の研究者による研究を促進していくということはいい方向だと思うが、その観点からも金額や年数を見直す必要があるのではないかと思う。

【有川部会長】
 基盤研究(C)の500万円以下というところが少し問題になっているが、基盤研究(A)、(B)、(C)の境目を重なるようにして、選択が(B)でも(C)でもいいというような部分もあっても良い気がする。昔はそういう時期があったように思うが、そうではなかったか。

【山口学術研究助成課長】
 資料4の1枚目の基盤研究の(B)と(C)を見ていただくと、500万円以上あるいは500万円以下となっている。昔は未満と以上で変えていたが、応募する際に混乱される方が出てきたので、以上、以下という形でボーダーのところだけはダブるような書きぶりになっている。

【有川部会長】
 本当に点でダブっているが、そこは少し幅があると今みたいな議論や、あるいは人社系と理系の違いなどが吸収できると思う。
 今、何人かの方からご指摘をいただいたが、若手研究から移行するとしたら、基盤研究(C)が想定されていて、そこの整合性をつくっておくことが大事だと思う。あるいは若手研究から移行するときには、基盤研究(C)ではなく(B)だということであればまた別かもしれないが、この辺を少しご議論いただいて、特に基盤研究(C)に関しては方向性を出しておいてもいいのではないかと思う。

【井上(明)委員】
 4ページの資料で、基盤研究(C)の応募が非常に増えているが、これと人文・社会科学に門戸が開放されつつあるということが、統計的に大きく関係しているのか。今、各大学も人文・社会系の方がコンスタントに研究費が得られる体制というのを重視していると思う。

【山口学術研究助成課長】
 一つには、基盤的経費が減ってきていて、今まで応募していなかった、例えば地方の国立大学や私立大学等の方々が応募してくるというようなことでかなり増えていると思う。おそらくそういった面から言えば人文・社会系の分野での応募が増えているのではないかと思う。

【有川部会長】
 基盤的経費が厳しくなっているのは国立大学だけではなく、公立大学、私立大学も同じことであり、私立大学に関しては、外部の競争的資金に応募するときに、人社系が圧倒的に多いというようなこともあるのかもしれない。それから、科研費に最初にアプローチするときに一番応募しやすいということで、基盤研究(C)から入るということもあるのかもしれない。

【井上(明)委員】
 この4ページ、5ページにおいて、基盤研究(C)など、科研費の応募件数が増え採択件数も増えて、科研費への関心が非常に高まっている。そういう意味では今の法人化において、基盤経費等が右肩下がりになっている中で、科研費の重要度が高まっているということをアピールできる一つの資料ではないかと思う。

【山口学術研究助成課長】
 人文・社会系の応募に関して、今、ここにデータがないので、どういうデータがとれるか、次回ご報告申し上げたい。

【有川部会長】
 それから、6ページ。基盤研究(A)、(B)、(C)それぞれの平均配分額が共通して落ちてきているのも問題かもしれない。それほど大きく減少しているとは考えなくてもいいのかもしれないが、この時期に減少していることは確かである。競争率は高くなっていて、実際の配分額は減少している。先ほど井上先生が言われたように、科研費の重要性がますます認識されているということかもしれない。

【井上(明)委員】
 間接経費がほぼすべての研究種目にわたって措置されるようになっているが、そういうことが分かるグラフなどは科研費制度をアピールできる一つだと思うので、そういう資料も準備していただければと思う。

【山下企画室長】
 間接経費に関しては、グラフではないが、資料4の2ページ目の (7)の予算額の推移のところに、括弧書きの数字で示させていただいている。

【有川部会長】
 今は間接経費がほとんどの研究種目に措置されているので、科研費を獲得することも大学の基盤整備につながるということで、応募が増えているという見方もできると思う。

(2)科研費の研究成果を社会に還元していくための方策等について

 事務局より、資料5「科研費の研究成果の公開に関する取組について」及び資料6「研究成果公開促進費について」に基づき説明を行い、その後意見交換を行った。

【山口学術研究助成課長】
 資料5に関していろいろ考えなければいけないと思っていることは、例えば科研費に関するホームページは、現在、文部科学省と日本学術振興会の両方で行っているが、これを共通化するなどもう少し整理をし、充実させる必要があると思っている。それから、ここに科研費NEWSの2008年の3をつけているが、科研費NEWSの編集に当たって、私どもは普通の人が読んでわかりやすいものにしたいということをお願いし、なるべく柔らかく書いていただき、興味を持たれそうな写真や絵を載せていただくことに頑張ってきたが、先生方は研究そのものを正確に書こうという意志を持っているので、これはかなり難しいところがあった。やはりある程度そういった面の専門家の意見も踏まえながらやっていかなければいけないと感じた。

【有川部会長】
 科研費NEWSは、そういう点では専門的過ぎるような感じがするが、一般の人、例えば高校生あたりが見てわかる程度に作るということは一つの目安だと思う。ただ、実際にわかるように書くのは非常に大変な苦労が必要だと思う。

【三宅委員】
 この科研費NEWSとひらめき☆ときめきサイエンスのパンフレットは、どの辺りを読者層として想定して、どういう形で配布しているのか。こちらの努力不足もあるのかもしれないが、私が科研費NEWSを知ったのは、最初に科研費に応募しようと思った時期ではなく、この委員会の委員になってからであった。もしもこれから科研費に応募する若手とか、応募件数が少ない大学の研究者に対して配布していくということであれば、おそらく作り方も異なると思うし、サイエンスライターを入れて読んでわかるものにするなどの努力が必要だと思う。また、ひらめき☆ときめきサイエンスのパンフレットの方はさらに誰に宛てて書いたものなのかが疑問である。開けてすぐにひらめき☆ときめきサイエンスの活動の例が書いてあって、みかんやロボットの絵が並んでおり、小学生向きにも見えるが、小学生などがひらめき☆ときめきサイエンスの活動に参加して興味がわいたとしても、その小学生にこのパンフレットを渡したところで、内容を読んでわかるのだろうか。
 そもそも科研費、特に基盤研究の目的は、そこでわかったことを小学生にわかるように書き直せるものかという議論や、こういうものの読者として誰を想定しどう届けるかということをもう少し議論していただいてもよいと思う。

【山下企画室長】
 大変貴重なご意見で、こういう広報用資料はだれに対して出すのかということを、バリエーションも含めてその内容についていろいろと考えていかなければいけない。科研費NEWSについては、主に大学等の関係者の方に配布をしているが、それ以外にもホームページ等を通じて一般の方にも公表している。したがって、対象者を絞って、わかりやすい内容にしていくのか、あるいは専門的な内容にしていくのかなど、どういう情報をその中に盛り込むのかということもよく考えていく必要があると思う。

【鈴木委員】
 もとは科研費が非常に重要な役割を果たしているということを国民に知ってもらいたいということなので、このように研究成果をオープンにすることも良いが、例えば、新聞発表するときに強制的に科研費でサポートされたということを書かせれば、科研費の存在感が上がると思う。そのほうがずっと科研費の重要性を国民の人たちに認識してもらえる気がする。

【有川部会長】
 これは論文に書くときに義務化していなかったか。

【山口学術研究助成課長】
 実際上は、例えば記者発表した、あるいは新聞に載ったときは、必ず科研費による研究の成果であることを表示してください、所定の様式でそのことを報告してくださいとお願いしていて、研究者向けのハンドブックにも書いてある。なかなか知っている方が少ないのかもしれないがお願いはしている。

【谷口委員】
 実はこれには大変悩ましい問題があって、私どもも何度か新聞記事にしてもらったことがあるが、何度も何度も科研費をという名前を入れてくださいとお願いをしても、新聞記事になったときには消えてしまう。新聞社の都合でそうなってしまうところがあるのでなかなか難しいと思うが、それでも、学術論文を書くときや何かの機会には「科研費」ということを出す努力をする必要があると思う。もう少し一般的なことを言うと、社会に科研費を理解していただくことが重要であるが、一方で、先ほどから議論になっているように、特に法人化の後に、競争的資金の一つである科研費に対する期待感が非常に大きくなっているということもあって、何とかこれを増やしていく仕組みがないものかと思う。それは我々のエゴでではなく、やはり日本の科学技術の根幹を支えるのが科研費であるという位置づけだと思っていて、学術会議等でも、折あるごとに提言等いろいろな形で申し上げているが、なかなか現実の形で反映されないことが大変悩ましい。先ほど宮坂先生が言われた、生物系の150万円で論文が書けるのかといったような問題については、我々の自省の念も込めて申し上げると、科研費のあり方そのものが問われているという時代になっているような気がする。
 例えば今、学術の基本問題に関する検討委員会というものが文部科学省で行われている。その中でもやはり科研費をもう少し広くとらえて、学術研究費などの形でもう少し国レベルできちんとした位置づけをしていただく。それは他省の科研費とは異なり、ましてや、他省の開発プロジェクトの研究費とは異なるという位置付けをすることがすごく重要だと思う。そういう意味で考えていかないと、科研費の倍増というのはやはり夢物語に終わってしまうのではないかと思うし、もう少し具体的なアプローチをしていったら良いのではないかと思う。
 先ほど議論に出ていた単年度会計制度の問題は、間違っていれば直していただきたいが、国のルールのもと、財務省等に予算関係を管轄されていて、単年度会計制度を廃止するということになると、国交省や防衛省など広く省庁全般に係わる問題が出てくるのではないか。単年度会計制度は、ひいては科研費の基盤研究(C)にまで及んでいるということが現実だと思うのだが。従って、学術研究費としてきちんと位置づけされるのであれば、その部分に関しては研究者がより使いやすいようにするということで、特別に認めていただくというような努力も大切だと思う。そうでなければ今みたいな問題は永久になくならないのではないかと思う。

【有川部会長】
 非常に根本的な問題点をご指摘いただいたと思う。そういう中で、先ほど小林先生が言われたように、数年前から限定されているとはいえ年次を繰り越すことができるようになっていて、それは一つの進歩だと思う。
 それから資料6の研究成果公開促進費なども、大もとは税金なので、例えば科研費でやった研究や学術誌の発行などに関して、オープンアクセス可能、あるいは機関リポジトリ的なものにして、関心のある人はだれでも見られるようにしておくことは大事なことだと思う。そこで科研費によるものだということがわかれば、自分たちが払った税金の成果が、内容がわかる、わからないは別としても、必ず見られるという状況をつくっておくことができる。

 次のページの「参考1」にあるように、コンピュータネットワークや図書館、情報発信等について議論している学術情報基盤作業部会で、コンピュータネットワーク関係を議論していて、現在は3ページの一番下、3.にある電子ジャーナルの問題やオープンアクセス、機関リポジトリの問題を検討している。電子ジャーナルの価格が高騰していて、皆さん相当大変な思いをしていると思うが、その問題をどうするかということと同時に、現在、ネットワーク社会でIT化が相当進んでいて、学術情報の流通の仕方も大きく変わり得る、実際に変わっているところがあるので、オープンアクセスあるいは機関リポジトリというようなことを進めることで、電子ジャーナル価格高騰問題等も解決できるのではないかというようなことを検討している。いずれ何らかの報告等は出させていただこうと思っているが、この研究成果公開促進費の関係で言うと、例えばそのうちの2.の学術定期刊行物のようなものは機関リポジトリとして刊行することで、劇的な効果があらわれるのではないかと思う。実際には国立情報学研究所のCSIという事業の中で取り組んでいて、国公私立を問わず、全国の大学図書館が中心になって相当な成果を上げている。こういったことが一つのやり方になると思う。
 そして、研究成果公開促進費の予算が18年、19年にかけて落ちていて、もしそういうことが続くのであれば、デジタル化やネットワーク化といったことになじむようなところはそうしておいて、学術図書に関してはしっかり対応していくというようなことが考えられるのではないかと思う。その辺のことについて少し議論していただければと思う。

【金田委員】
 基本的に賛成であるが、資料6の下のほうにある総額や学術図書の点数などが、先ほどご指摘あった平成18年度、19年度頃に経理が問題視されたといういきさつ以外にも随分縮小していて大変危機的な状態だと思うので、その充実をお願いしたいと思う。また、先ほど三宅先生からご指摘のあったように、どこをターゲットにしてどのように公開するのかということは非常に重要な点だと思うが、もう一つ大事なことは、科研費の具体的な成果を公開するという直接の研究成果の部分と、例えば研究成果公開促進費で出版されるもう少し長期的に熟成された成果を刊行するという部分は、それぞれ非常に重要な使命を持っていると思うので、ターゲットと性格の違いをきちんと仕分けしながらお考えいただきたいと思う。特に、資料6の後ろのほうに挙げられている賞を受賞しているようなものなどは短期の研究成果というよりは、熟成されたものが多いと思う。
 今、有川先生がご指摘のように、電子媒体のほうが即効性もありアクセスの容易さもあって便利な場合もあり得ると思う。ただ、出版文化を擁護するという立場で申し上げているわけではないが、研究成果の発信の公開の媒体だけではなく、やはり研究の熟成度というのを考慮しつつ、ターゲットを十分意識しながらやっていただけたらありがたいと思う。

【佐藤委員】
 先ほどの予算単年度方式について、別に大蔵省の肩を持つ気は全くないが、これは憲法事項であって、それを免れるために繰り越しや基金で何とか工夫をしてしのいでいる。科研費を理由にして憲法を改正するというのは少しパワーが足りないような気がするので、自ずと限界はあるということを理解した上で闘わざるを得ないと思う。
 それから、情報は中身を工夫していろいろな形で整理をしていくことが大切であるが、その情報はどうしてもプッシュ型の情報というか、知っている人のところには届くが、それ以外の科学研究費に興味のない人のところには届かない。そういう人にはこのプル型の情報提供をしなければいけないが、それは大変難しい。例えば企業に頼んで、その企業のホームページの中にリンクを張ってもらうということは、あるいは学術会議を挙げて運動をすれば可能かもしれない。そういうリンクから呼び込んで、いろいろな人に成果をお示しするというようなこともあまりお金がかからないでできる仕事ではないかと思うので、一つのアイデアとして提案しておきたいと思う。

【有川部会長】
 ネットワークの時代なので、今言われたようなことなども考えられると思う。

【田代委員】
 この研究成果公開促進費の、特に学術図書については、先ほどから少し問題になっているように、採択数・採択率の現状が本当に悲劇的な状況になっているので、とにかく回復するよう努力していただきたいと思う。
 この研究成果公開促進費の審査を数年間やっていたときの経験で申し上げると、2.の学術的刊行物と4.のデータベースは、必ず同じ組織が繰り返し人を変えて応募してきていているので、これはむしろその機関あるいは組織に別な形で予算化することを考えれば良いと思う。一方、3.の学術図書は、特に人文・社会科学系の研究者にとって、博士号を取った後にどれぐらいのすばらしい成果を出せるかにかかっていて、研究者の命がかかっていると言っても過言ではない。しかも、学士院賞をこれほど取られているということは、それなりのものが選ばれて出てきていると思うので、ぜひここに予算を割いていただきたいと思う。

【谷口委員】
 若手の人材育成という話が出たが、こういう問題とも関係して思うことは、日本の研究制度はポスドクなどいろいろな制度の問題などが言われているが、研究や教育をする人と一般社会との間を埋めるような人など、多様な人材育成ということにもう少し努力があっても良いのではないかという気がする。例えば教科書を書くということは非常に重要なことで、その人の哲学が出た教科書ということこそが意味があるが、先生方なかなかお忙しくて、研究者は教科書なんか書かないというようなお考えの方も大勢いる。それはそれで良いが、教科書を書くなど、研究者の多様な活動がリスペクトされるということが非常に重要だと思う。チャプターごとに書いて出した本というのは結構たくさんあるが、その人の哲学が出るような本というのはなかなかないので、長い目、広い目で見たら、そういうものが学術の発展には重要だと思う。もう一つは、サイエンスライターと言えば狭義にとらえられるかもしれないが、社会と研究者の間を埋めるような人材を育成するということも、海外に大勢の研究者を派遣するのも結構であるが、これから重要なのではないかと思う。

【有川部会長】
 今、人材育成ということで言われたが、この研究成果公開促進費との関係からすると、例えば学術図書で人社系のものが主に上がっている中に、教科書のようなものが入ってきたり、あるいはサイエンスライターが書くようなものが入ってきたりするというようなことがあるのではないかというご指摘だと思う。
 この種目で言うと、例えばデータベースなどは、もともとはデータベース化をエンカレッジしなければいけないという時代にスタートしたのだろうと思うが、現在では大分状況が異なってきていると思う。それから、ITネットワークやそういうメディア等も変わってきていて、そういうことも含めて、限られた予算の中で何をやるべきかということをこれから議論していけば良いのではないかと思う。

【鈴木委員】
 この資料6の学士院賞が何を意味するのかということがわからない。本が出版されてから学士院賞をもらうまで何年かかったかということをチェックすると、1年が15回、2年が8回、3年が12回、4年が3回、5年が4回、あとは6年、9年が1回である。つまり、この本を書いたから学士院賞をもらったのではなく、ほとんどその前の成果で賞をもらっているように見える。

【有川部会長】
 これは実質的な因果関係というよりも、そのくらいクオリティが高いということだと思う。

(3)その他

 事務局から、次回の研究費部会は5月29日(金曜日)10時30分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

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研究振興局学術研究助成課