第5期研究費部会(第1回) 議事録

1.日時

平成21年3月30日(月曜日) 13時30分~15時30分

2.場所

如水会館 「松風の間」

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、鈴木委員、田代委員、中西委員、三宅委員、家委員、岡田委員、甲斐委員、鈴村委員、谷口委員、水野委員、宮坂委員

文部科学省

 山口学術研究助成課長、松川国立教育政策研究所総括研究官ほか関係官

4.議事録

(1)部会長及び部会長代理の選出について

 委員の互選により、有川委員が部会長として選出された。有川部会長の指名により、中西委員が部会長代理となった。

(2)議事運営等について

 事務局より、資料2-1から2-5に基づき説明があった後、「科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会運営規則」及び「科学技術・学術審議会学術分科会研究費部会の公開の手続きについて」について、原案のとおり了承、決定された。

(3)第5期研究費部会において検討をお願いしたい事項について

 事務局より、資料3「第5期研究費部会において検討をお願いしたい事項」及び参考1「科学研究費補助金について」に基づき説明があった後、意見交換を行った。

【家委員】
 科研費をはじめとする競争的資金を議論する上では、以前からデュアルサポートシステムの重要性を指摘しているが、まず、経常的なインフラの部分があって、それに対して競争的資金がどう生かされるかということが必要だと思う。そういう意味で、参考資料の中に非常に興味深い資料がある。4ページ目の、私立大学における経常的経費と経常的補助金額の推移はある意味で非常にショッキングなグラフに思えるが、分析をお聞かせいただきたい。補助金は伸びずに経費がどんどん増えているとすると、残りの部分は、授業料や寄附金で賄われていることになるのか。あるいは大学の数が増えているから全体の経費が増えているのか。この急激な変化は私には予想外であった。

【山口学術研究助成課長】
 この資料がターゲットとしているところは、青い部分が伸び悩んでいることを言っており、家先生のご指摘は後ろの白い部分の増大が何を示すのかというご質問だと思う。この部分については詳細を持ち合わせていないので、次回にでも、背景等について説明させていただきたいと思うが、おそらくご指摘のように、可能性として一つには大学の数が増えてきたということかもしれないし、コストが上がってきているという面があるのかもしれない。

【家委員】
 例えば、これに対応する国立大学法人の資料を作ったとしたら、運営費交付金が削られているので、おそらく右肩下がりになるだろうと思う。そういう中での私学における競争的資金と国立大学法人における競争的資金とでは、大分状況が違うような気がする。

【甲斐委員】
 参考資料の5ページで、応募件数と採択件数のグラフの伸びとカーブを見ると、明らかに応募件数の伸びの右肩上がりの角度が高くて採択件数は低い。それが次の6ページのグラフの新規採択率が20%にまで減少していることの要因だと思う。応募しても2割程度しか採択されないのは大変厳しい状況なので、何とかして変えなければいけないことだと思う。
 この検討事項の中に、応募資格の緩和などもあり応募件数が増え続けていると書いてある。確かに、以前応募資格のある登録機関を民間企業も可能とするなど大幅に広げたが、そのことで増えた件数のデータはあるか。

【山口学術研究助成課長】
 データそのものは、例えば、民間企業や独立行政法人など、拡大してきた機関数の推移等はある。ただ、それに基づく応募者の増加はそれほど多くないのではないかと思う。

【甲斐委員】
 そうすると、ポスドクがメインなのか。

【山口学術研究助成課長】
 数自体の背景については推測で申し訳ないが、今まで科研費を出さなかった先生方も出さざるを得なくなった部分があるのかもしれない。要するに、運営費交付金がどんどん厳しくなって、結局のところ、研究しようとすると科研費に応募するしかなくなる。あるいは科研費に応募しないと学内的にも非難されてしまうという状況があるのかもしれない。

【北風企画室長】
 現在研究機関として指定されているのは、大学も含めて約1,700機関ある。民間の企業やNPOの団体で指定されているのは60件から70件程度なので、全体としては極めて少ない部類に属する。

【山口学術研究助成課長】
 指定されているNPOや民間企業の数は少ないかもしれないが、独立行政法人については大学と同様に運営費交付金が非常に厳しい状況であるので、応募件数は増えているのかもしれない。そのデータはチェックさせていただきたい。

【鈴木委員】
 科研費が目指す方向性は、これまでの研究費部会の議論では、できるだけ研究種目の新設や改善によって予算を増やすことが主であったように思う。しかし、科研費の方向性として、良い研究をいかにして発掘・育成するかという側面もある。参考資料1に、特別推進研究、基盤研究(A)(B)(C)、若手研究とあるが、全部金額で区切られている。そうではなく、科研費は金額に関係なく質の良い研究によって研究種目を付与することも考えられる。金額で研究の質を決めるのではなく、科研費の研究の質の向上を図るように、特別推進研究や基盤研究を実施するようなシステムを考える必要がある。

【谷口委員】
 11ページは科研費を38億円増やそうという期待があるという話か。

【山口学術研究助成課長】
 11ページについては、21年度の予算(案)を38億円増で認めていただいたということである。9ページをお開きいただきたい。ここ数年の予算は、十数億円の増で推移している。例えば、平成18年度は15億円の増、19年度は18億円の増ということであるが、来年度4月1日以降の予算については、予算(案)として38億円の増を認めていただいたということである。その38億円増の内訳を示したのが11ページである。この増の部分だけで言うとかなり大きな額のようにも見えるが、一番下に既存の費目の見直しによる63億円のマイナスがあり、トータルの差し引きで38億円の増という形になっている。

【谷口委員】
 学術分科会に出席したときに、この国の科学技術関係も含めた体制そのものがかなり疲弊しているので、根本的に見直さないとだめな時期に差しかかっているのではないかと申し上げた。この部会で議論しても仕方のないことだが、そういう視点で実際に何をするかを粛々と進めなければいけないという意味で少し申し上げたい。研究者の自由な発想に基づく基礎研究とそうでない基礎研究ということが科学技術基本計画に書かれていて、おそらく後者の場合は科研費に属さないということがポイントだと思う。そうすると、システム的には研究計画・評価分科会というこの部会とは全く関係のない部会で議論される事項になる。
 今も、結局、基盤経費がすごく重要だという話が出たように、基盤経費の問題が非常に大きな問題になっているが、これは、そもそも研究振興局の問題ではなく高等教育局が責任を持って遂行する仕組みになっている。この仕組みが変わらない限り、根本的に研究と教育を通した明日の科学技術が何であるかを議論するのは非常に難しい。通俗的な言葉で言うと、パッチワークのようなことを繰り返さざるを得ないという状況が続いている。ただ、やはり科研費は科研費だからしっかりとここで議論するという視点は非常に重要だと思うので、そこは一生懸命努力したいと思うが、全体的にはそういうことだと思う。

【有川部会長】
 冒頭で申し上げたように、少し審議事項を超越していたとしても、これらはすべてに関連すると思う。初等中等教育も人材育成という面では関係してくるし、そうしたところから誰が何のために研究するかを考えると、すべてのところに関係すると思う。我々は研究費部会にスタンスを置きながら、一方でより良いものにするために相手に遠慮なく提案していかなければいけない。そのくらいのことは許されるし、むしろそのようなこともしないと良いものにはなっていかないと思う。

【小林委員】
 基盤的経費について、このレポートの中では「確実に措置することが重要である」というような表現をされているが、大抵のところはそういう表現で終わっている。それ以上踏み込んだ具体的な議論はどこにもないのではないか。どこか他のところで議論されているのかどうかは知らないし、踏み込めば多分難しい問題もたくさん出てくるが、それを乗り越えなければ実現しない問題もあると思う。

【鈴村委員】
 資料3や提言としてこの1月に出された「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について」を見ていてどうしても「研究者の自由な発想に基づく研究の意義」という表現が気になる。これはいつも、基礎研究という言葉が出てくると、その後にカンマとして入ってきているが、それが一体どういうかかわりを持っているのかということが、文章としてはよくわからないことがある。あえて言えば、仮に政策に関連するような研究テーマがあったとしても、その中で自由な発想をしないわけがない。これは研究者の性質であるし、それができなければ前進があるわけがない。だから、これが切り口になるということに、あまりとらわれないほうが良いのではないか。自由な発想に基づく研究というのはむしろ当然の前提であって、我々があまりこれを基礎研究との紛らわしい表現のように使わないほうが良いという印象を感じている。ただ、背景的なことについてあまり詳しくはないので、もしこれがどうしても必要だということならば、改めて理解させていただきたいと思う。
 それから、今、谷口委員、小林委員が言われたように、科研費について議論するにしても、研究の支援体制全体の中での位置付けをした上でなければ、科研費そのものに対しての改善プランも当然浮かび上がってこない。従って、最終的な着地点としては科研費についての提言をすることになるとしても、ここでの議論としては、少し自由な発想での議論もさせていただきたい。

【山口学術研究助成課長】
 「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について」という冊子について、この提言をおまとめいただく際にも、「基礎研究」という言葉や「自由な発想に基づく研究」あるいは「応用研究」と、いろいろな言葉が使われていて、どこをターゲットとして提言をまとめていくかについて少し議論があった。1ページの一番下の丸の「また」以降に、当然の前提として、研究者の自由な発想に基づく研究については、主に基礎研究が多いとは思うが、応用研究も入ってくることになるであろうということが書いてある。また、研究活動に対する財政支援のあり方として、研究者の自由な発想そのものを支援しようというボトムアップ型支援のあり方と、ある一定のテーマをトップダウン型で設定して、それに基づく研究を支援しようという支援のあり方と2通りがあるのではないかという前提の下で、この部会の検討に当たっては、主に研究者の自由な発想に基づく研究、特に基礎研究に関する研究者の自由な発想に基づく研究活動を念頭に置きつつご議論いただくことにした。それから、財政支援のあり方として、「ボトムアップの支援」のあり方を「研究者の自由な発想に基づく研究の支援」という形で置き直すことも可能ではないかと思うが、そういったことをターゲットとして置いたということである。特にボトムアップかトップダウンかについては、支援のあり方の議論として、この提言をまとめられるときに議論があったのではないかと思う。人によって考え方が微妙に異なるところもあると思うが、この提言はそういった形でまとめられたという点だけ申し上げておきたい。

【有川部会長】
 「科研費による若手研究者への支援の在り方について」もいろいろな議論があると思うがどうか。

【中西部会長代理】
 若手研究者のことについて思っていることを話させていただければと思う。先ほど基礎研究や自由な発想に基づく研究はどういうことかということを言われたが、基礎研究は、やはり個人に資することだと思う。個人が何かの研究をする。そう考えると、研究の内容が一番大切なことだと思う。従って、同じ研究内容を例えば30歳の人がしたい、45歳の人がしたいと言ってきたときに、30歳の人だけに助成をしていいのかという問題は考えるべきと思う。まず内容本位で審査をして、その結果多くの若手の人が未熟なために落ちてしまったことがわかったら、ある枠を設けて若手の人を支援するということは大切だと思うが、最初から年齢で区切っていいのかということは少し疑問に感じるところである。若手の人がみじめな状況にあるということもあって考えられたのだろうが、大分浸透してくると、もう一度考え直してもいいのではないかと思う。
 それから、先ほどの議論に戻るが、やはり基礎研究とプロジェクト研究があると思う。将来、どのくらいの規模で科研費を考えるかということもあるが、プロジェクト研究や何人かで行う研究というのは、どちらかというと流行り廃りのものであったり、期限があったり、連続性がなかったりするものなので、期限が終わったら基礎研究でも継続できる可能性を増やすというように、基礎研究とプロジェクト研究の予算を一緒にするという考え方はできないものかと思っている。プロジェクト研究が少なくなるということはないと思うが、規模が少し小さくなったら、その分、基礎研究を増やすというように弾力性を持たせることも可能ではないかと思った。

【有川部会長】
 ここを議論するとこれで全部になりそうだが、整理をすると、本来、若手研究者の応募は年齢ではなく内容で判断するべきではないかということか。一方で、若手研究者の年齢が徐々に高くなっているような気もする。今、何歳から何歳までを若手というのか。

【山口学術研究助成課長】
 応募時点のルールとして若手研究(S)の42歳が一番上であり、その後5年間続くので、最終的に47歳までが若手ということになっているが、問題は若手が若手でなくなった途端に基盤研究で競争しなければならないということであるため、この年齢で基盤研究に移ったときにギャップが大きくて苦しいという声をいろいろといただいている。

【有川部会長】
 47歳ぐらいまでは若手ということのようだが、今、中西先生が言われたように、年齢だけの問題でもなさそうである。それから、ほかの萌芽研究などの例もあるが、そういう意味では幾ら年をとっても意識としては若手であるということだってあると思う。

【谷口委員】
 私も基本的に中西先生と似たような疑問を持っていて、例えばアメリカなんかでこんなことをやったら大変な騒ぎになるのではないかという気がする。法律がご専門の水野先生がおられるが、これは法律的に許されるのか。国民の税金を年齢で差別して、応募できる枠を閉じてしまうことは、例えば、訴えられた場合に耐え得るのかどうかという問題も気にならないと言えばうそになる。研究者の立場で言えば、学費を増やすためのやむをえない作戦という気もするが、こんなことで本当に若手が育つのかという問題は、学者としては一言申し上げたい。

【水野委員】
 エイジングが差別になるかどうか一つとっても非常に難しい問題があるので、とても法律学者を代表して言うような自信はないが、おそらくいろいろな政策的な配慮があって、若手に有利な枠を設けたのであり、そのうちの一つの配慮が若手の研究者を育てたい、研究職に残ってもらいたいということであったのだと思う。もともと給料が少なくても好きなことができるということが研究者という職業を選択するメリットであったわけだが、好きなことすらできず経済的に恵まれない上、そもそもポストが少なくなってしまっている。優秀な人はいつまでも不安定で先の見えない職種には残らない。特に私の専門の領域などはそうで、法律実務家や上級公務員という進路と競争しなくてはいけないので、昔は一番優秀な学生を大学に残そうとして学卒助手などの制度を工夫していたが、法科大学院等が発足してからますます実務家や実業界に流れてしまって、研究室に残ってもらいたいと思う大変優秀な学生はみんな残ってくれない。人社系は全体的にそういう問題を広く抱えている。そういうときに、優秀な若手に、生活は苦しいかもしれないが安定して研究ができるといって残ってもらうために、若手を優遇するということはあるのだと思うが、それを「科研費によって」というのが良いのかどうかは疑問に思っている。恵まれた環境を準備しないと若者が研究者になってくれないという問題意識を皆が潜在的に広く持っていたため、若手研究者支援といったときにコンセンサスができたのではないかと想像するが、本当に必要なのは若手研究者に安定的なポストを用意することであって、それを科研費にシフトすることが妥当であったのか、疑問がないではない。

【家委員】
 若手の問題はいろいろな意見があると思うが、人材育成ということになると、競争的資金、科研費の話だけではなくて、むしろポストの問題などのほうが大きい。例えば、若手研究(スタートアップ)という制度が議論されたときに、私はあまり賛成ではなかった。ある研究機関が若手を採用するのであれば、その人のスタートアップ経費はその機関が用意するのが当然の話であって、それを競争的資金で優先的に措置しろというのは筋が違うのではないかと思った。そうはいいながらも、運営費交付金はどんどん削減されているので、振る袖がないという事情はよくわかる。そういう意味で、デュアルサポートとして、運営費交付金などその研究機関が戦略的に研究者を育てることができるような公的な資金があることを前提にするのか、ないことを前提にするのかで、競争的資金の考え方が全く違ってくる気がする。
 日本の場合、若手にしても何にしても、PIという考え方があまりはっきりせずあいまいだと思う。例えば、ポスドクの位置づけにしても、科研費が応募できるということはある意味PIとして認めようという方向だし、一方で、科研費でポスドクを雇っているということもあって、その辺の若手に対する考え方の整合性がない。それこそ谷口先生が言われているパッチワークで制度がどんどん膨らんでいるような気がする。

【鈴村委員】
 私も若手研究者支援という表現自体に最初から非常に抵抗がある。少なくとも自分がある程度知見を持っている限りでは、外国でこういった形で区別をする発想はない。ただ、むしろ先ほどの自由というキーワードに引っかけて言えば、自分自身の背景を生かしながら研究エリアを変える際に、従来の研究分野ではエキスパートで研究業績もあり、本人に意欲と自信があって新しいところにチャレンジしようとしても、その分野の実績が全くなければ、当初はその分野の方々になかなか受け入れられない。イノベーティブであればあるほどそういうことは起こり得ると思う。そうだとしたら、もう一つのカテゴリーで萌芽的な研究という名前があるが、何がしかくくる表現として若手という年齢にかかわる表現はやめて、研究としてはスタートアップの時点にある研究を助成するなど、多様な試みの中から本当に育つものがきちんと足がかりを得られるような制度としての助成を考える。そのことの一部として、従来の若手研究の中でも本当に必要なものは位置づけを得ていけば良いのではないかと考えている。

【有川部会長】
 定年間際の方が萌芽研究に応募して採択されているというものもあった。実際に今までの仕事と全然違った、経験があるから新しい分野を想起できたという感じのことで、なかなかいい制度だと思っていた。若手であれば自動的に萌芽なのかもしれないが、年をとってもそういったことはやれるだろうと思うし、そういう意味ではリスキーなことにもチャレンジできる面もあると思う。
 基盤研究(C)が非常に増えているという状況にあるが、「今後の『基盤研究』の在り方」について、少しご意見をいただきたい。

【山口学術研究助成課長】
 補足説明であるが、先ほど申し上げた1月の提言の10ページでも、科研費において中核的なのは「基盤研究」であって、基盤研究(B)や(C)を中心に今後発展を目指すべきであるというご提言をいただいている。一方で、先ほどの若手研究との関係で申し上げると、基盤研究の体系から若手を分離して外に出してしまうと、若手研究者の支援のために基盤研究をもっと充実させる必要があるという理屈が難しくなり、基盤研究の予算を獲得するという面からいっても、別建てになっているのは難しいと感じている。
 それから、参考資料1の8ページの基盤研究のグラフをご覧いただければと思う。基盤研究自体は全体として応募件数が増えているが、中身を見ると小額の基盤研究(C)の応募が一番増えている状況にある。その結果、少額であっても同じように審査をしなければいけないので、審査コストが非常に大きな負担になっている。おそらくは厳しい状況がまだ続いていくので、応募件数はまた増えていくと思われる。そういった面と審査との関係を考えたときに、特に基盤研究(C)について今後どう考えていったらいいのかは事務局の一番大きな悩みである。それだけつけ加えさせていただきたい。

【有川部会長】
 今、課長が言われたように、基盤研究(C)の応募件数がこれだけの数になると、時間や人も含めて審査にかかるコストが大変な問題になっているのだと思う。この辺も議論していただきたい。

【宮坂委員】
 今の審査コストの話は、要するに審査にかける手間隙と人にかける賃金という話か。

【山口学術研究助成課長】
 手間隙とか賃金というよりも、もっと端的に申し上げると、審査をお願いする先生方への負担が大きくなってしまうことが我々の一番気になるところである。

【宮坂委員】
 その点について言うと、この間、私は科研費の二段審査を担当したが、例えば、5段階評価をしなければいけないのにしていない人がいるとか、あるいはAやDの評点を付けているにもかかわらず評価コメントを書いていない人がいる。本来、科研費の審査員になるということは、国からその道のエキスパートとして役割を付託されたのだから、必ず履行しなければいけないことであって、それは責任だと思う。私がその話をしたら、担当の方に「いや、先生にあまりお願いをすると、なかなか無理がかかる」と言われたが、それを言い出したら切りがないので、やはりこういったことはみんながきちんと責任を持ってやるべきだという認識に立たないと、お願いをして嫌な顔をされるから云々というのは話の筋が違うのではないかと思う。

【有川部会長】
 それも非常に大事なところで、いわゆるピア・レビューというのはそういったことなのだと思う。

【岡田委員】
 私も同じ感想を持った。金額が低い科研費の審査であるからお願いするのが大変で、高くて大きなものであればいいという発想があるとしたら、それは全く違う。金額にかかわる問題ではない。
 特に、基盤研究(C)がなぜ多くなっているかを調べているのかどうか、もしあればお聞きしたい。研究費が通らず研究ができなくなるという心配は、PIとしてみんなが恐怖として持っている時代になってきている。校費が少なくなって、デュアルサポートの一方が非常に縮小してきているので、競争的資金にどんどん応募しようということになってきている。実際に良いアイデアがたくさんあることで応募件数が増えているのであれば良いが、セーフティネットとして金額の低いものから応募しておこうということで増えているのであれば、それは問題であって根本的な改善を考えていくべきポイントだと思う。

【水野委員】
 文化系では大きな金額の資金は不要で、少額をまんべんなく割り振ってもらいたいが、理科系は異なるのかと思っていたけれど、同僚の理科系の先生方に伺うと、理科系でも大きな資金援助は問題が多いと言うことである。つまり科研費、競争的資金に切りかわったことによって一番致命的なのは、今、日が当たっている領域の兵隊を雇うお金がとれるだけで、あす日が当たる領域は根こそぎにされているという言い方をしていた。つまり、今は水をやって苗を育てる時期なのでそんなにたくさんのお金は要らないが、そこからあした日が当たる領域の研究が出てくる部分を全部根こそぎにして、今現在はやりの領域で兵隊を雇うお金にしか当てはまらない形になっているため、理科系の研究の将来は非常に暗いという同僚たちの嘆きを聞いている。私は、できるだけ今はやりの領域ではなく、あす芽が出るところに広く水をやっておかなくてはならないという危機意識を持っているが、この基盤研究(C)はそれに当たると考えることができるのか。本当は研究者の財産は時間なので、審査のエネルギーも馬鹿にならないから、まんべんなく与える方がいいのだけれど、予算がなくてそれができないとすると、明日芽が出る領域を支援する審査はピア・レビューという形で研究者全体が義務感を持って当たらなくてはならない領域だと思う。

【有川部会長】
 今の点は非常に大事な点である。自由な発想に基づくものと政策課題対応のプロジェクト型という2通りがあり、プロジェクト型は今必要なこと、日の当たっていることをやるものである。自由な発想に基づくものは、すべての分野がカバーでき、ピア・レビューでコミュニティがしっかり理解できている分野であれば、明日であろうが明後日であろうが、きちんと理解されるはずのものである。また、その辺をサポートするのが科研費の大事な役割であって、そのことをきちんと言うために「自由な発想に基づく」という表現をあえて使っていると私自身は整理している。

【三宅委員】
 情勢が変わったころから、今まで応募したことがないが応募しないといけないという上からの命令が来るので数だけは応募するようになった、という話を周りでよく聞くことがある。それによって件数が増えている部分もあるような気がする。
 もう一つ審査について考えたいが、審査をする人員がカバーできる領域は限られているので、特に融合領域など新しい分野が生うまれようとしているところではその新しい動きをキャッチできる人が審査に当たっているかどうかが審査の適切性を左右することがありえるだろう。審査する側がある種のキーワードや方法論をとっているかどうかを重視して審査する傾向があるなどすると、そこにミスマッチが生まれる可能性がある。また、応募が増えたことへの対処として、全体としての充足率を抑えても採用件数を確保するのかどうかなどはきちんと整理すべき問題だろう。

【鈴木委員】
 応募件数が増えることはあっても、多分減ることはないと思う。審査員の負担は増える一方であろう。そこで一般論であるが、日本の研究者の評価システムの改善が必須である。日本では評価委員や審査員になってもそのことが評価されない。海外では、審査委員や評価委員になると、それが評価されて俸給・昇格などに反映される。だから、一生懸命やる。日本はそういうシステムがないため、審査しなさい、評価しなさいと言っても負担を嫌い、拒否する傾向にある。日本の研究者評価体制の構築とあわせて議論すべきである。

【田代委員】
 基盤研究(C)が増えているということで、応募した側から言わせていただくと、基盤研究(C)は非常に研究しやすい金額、期間である。研究者の自由な発想に基づく研究をする場合、特に人文科学及び社会科学の研究者にとって、二、三百万円ぐらいというのは個人で研究をしていくのには非常にやりやすい金額と言える。私はこれを何度もとらせていただいて、自分の研究にとってこんなにありがたい制度があることを享受していたので、これが増えていくことは非常に喜ばしいことであると考えている。研究期間として前は2年があったが、今は3年から5年になってしまったのが少しやりにくくなったと思う。3年という枠をつけることによって応募しにくくしているような節が見られるので、むしろ基盤研究(C)にこれだけ応募されるということは、それだけ研究者に迎えられていると考えて、審査コストなどを持ち込まないで、むしろこれこそ科研費に求められている分野だと切りかえて考えたほうがいいのかもしれない。
 もう一つ気がついたことは、若手研究がほんとうに充実していて、私が若いときはこんなになかったのでとてもうらやましい限りであるが、研究がずっと充足してきて60代、70代にかかったシニアの研究者が、逆に科研費の恩恵を受けにくくなっていることも事実である。今まで教育に情熱を注いできて、定年後に初めて研究を開始できると思って、60代のエネルギーがあるうちにと勇んで選択定年で早目に辞めてみたら、自分の勤める大学がなくなった途端に科研費に応募できなくなる。うちの大学ではどこかに研究室や事務所を借りればいいと言うが、そうすると事務用経費がとられてしまう。そういったシニアに対する基盤として何か配慮を、生涯にわたって研究者として生きていく者に対する科研費のあり方も考えていただくとありがたい。

【小林委員】
 日本学術振興会にいるので、審査の負担のことで少しコメントするが、金額でどうのと言っているわけではなく、基本的に件数だと思う。現在、日本学術振興会で担当している分だけでも毎年5,000名を超える審査員を選ばなくてはならない。このクオリティーを維持するのは大変なことである。
 審査コストの観点だけからいうと、科研費の期間を長くすることが一つの方法である。そのため3年から5年になったが、現実の審査の傾向を見ていると、3年で応募されている方のほうが圧倒的に多い。それが金額の問題なのかどうかは分析が必要だが、そういうことまで含めて考えて、やはり全体としての審査コストを下げることも重要なことで、それに沿った制度の誘導も必要だと考えている。

【岡田委員】
 先ほど、審査のときにきちんと審査していないのではないかと言われたが、私はそんなことはないと思う。私自身がそれほど広い経験があるわけではないし、生物系に限られたことではあるが、科研費の一段審査、二段審査、あるいはその上の審査に委員として選ばれるのは、非常に名誉なことであり、審査員になった人はきちんと考えてやっていると思う。実際に私が出たいろいろな審査会においても、非常に厳しいコメントがある中でこの人は選ぶ、この人は次善であるといった議論が常に行われている。もちろん首をかしげるようなコメントをされる方が全くいないとは言わないが、全体としては日本の審査は非常にうまくいっているし、真摯に行われている。

【谷口委員】
 基盤研究のことに関連して申し上げると、我が国では約20万人の研究者に登録している大学教員のうち、5万人程度が科研費によって最低限度の研究費、つまり一人平均300万円を得ているらしい。それは、逆に言うとほとんどの人は科研費をもらっていないということである。そういう文脈で考えて、先ほど部会長が審議事項を超えても良いと言われたので、そうすると、9ページの運営費交付金は1%ずつ削減されていて、私の推測するところで間違っていたら教えていただきたいが、科研費をもらえない研究者の多くは、校費を使って講義、実習や自由な発想に基づく研究を粛々とやっているということなのかもしれない。研究というのは何もしないで、全く自由な発想で好き勝手なことをやっていいというものではないと思うので、やはりそれなりのピア・レビューを受けて研究を行うことが重要なことだと考えると、1%削減するのであれば、研究振興局と高等教育局がうまく議論して、その分を科研費に回すという方策があるのではないか。そうすると、科研費に応募しないと自分の研究ができないということで、いわゆる自由競争で研究費が増額されるというシステムが考えられる。これにはいろいろな議論はあるかもしれないが、そういう視点もあるということを参考までに申し上げた。

【有川部会長】
 運営費交付金は減っているが、3ページの図でいうと、運営費交付金の中で競争的な部分である特別教育研究経費は増えている。それから、科学研究費補助金も、間接経費込みで微増という感じで増えている。そういう説明を少なくとも現場では聞かされている。

【谷口委員】
 もっと厳密に言えば、運営費交付金として配られた予算を大学本部がどうやって使うかもいろいろ議論になっている。研究費として来ているのかどうかも議論されているところがあって、やや複雑なところがあるのではないかと思う。

【有川部会長】
 場合によっては、それぞれの大学に対してこういったお金はこんなふうに使えということを言ってもよいのかもしれない。
 「科研費の研究成果を社会に還元していくための方策等について」、より広く国民に知ってもらうためにどうするか、あるいは科研費の仕組みの中にある研究成果公開促進費について、何かご意見があれば少し承っておきたいと思う。

【田代委員】
 私は何年か前に学術図書の審査員として審査に携わらせていただいたが、科研費の研究成果を社会に還元していくこの出版助成金が削減されていくのはとても悲しいことである。非常に採択率が低いので、どこかを都合してでも予算を削減という方向はやめていただければと思う。
 もう一つ、審査しているときに考えたことは、いわゆる課程博士あるいは論文博士が博士論文を出した後、出版するところで、学術図書の出版助成金のほうに皆さん食い込んでこられる。それはいわゆるセミプロの方がプロと対抗しなければいけないということで、この採択率が非常に悪いことは仕方がないことだと思うが、一般の出版社に依頼して見積もりを出してやっているので、企業的な背景からいろいろな見積もりが出てきている。ここら辺は、件数に応じて授与した大学に何か支援していくことで、課程博士の博士論文の図書出版と、プロが科研費をいただいて研究成果を出していくものとが一緒に採択されようとしているのを分ける手だてはないのかということを議論していただくと大変ありがたい。

【山口学術研究助成課長】
 状況だけ申し上げると、研究成果公開促進費の予算は33億円ほどであった時期もあったが、19年度の予算から大きく減り、現在は14億円前後という状況になっている。この部分の予算の減額はかなり大きいと思う。
 それから、これまで研究費部会、科学研究費補助金審査部会あるいは学術分科会の中で、特に人文系の先生方にとって出版助成が非常に大きな役割を果たしていて、この助成を得た者がさらに上の成果を出していることもあるので、この部分については、やはりもう一度議論して充実を図っていくべきではないかという議論があった。その点についてもつけ加えさせていただきたい。

【三宅委員】
 予算は減らさないでもっと増やしたいという話になるが、今、出ている成果はどうやって探して、どうやって見たらいいのかがわからない。有川先生のご専門かもしれないが、若い人たちが何か新しいものを応募しようとするときに、今までどんなものがあったかということが、簡単に探せてすぐわかるというようにはでき上がっていない。出版するという形でかちっとした本にして箱に入れることと一緒に、電子化してよく見えるようにする、あるいはそういうところに上げると少なくとも概要が英語になるようにするなど、こちら側からも少し努力をしないと、せっかくの財産が生きないのではないかということを感じる。

【有川部会長】
 機関リポジトリという国立情報学研究所が中心になってやっているものがある。全国の多くの大学図書館が関係していて、例えば、論文や本などについて、それぞれの機関で電子的なものをつくり、それぞれの機関リポジトリのホームページに置いて見ることができるようにしている。そこにはメタデータがきちんとあって、そういう点でしっかりと引用してもらえるとか、何回アクセスされたといったこともわかる仕掛けがある。そういったこともあわせて考える時代になっているのではないのかという気がするが、もちろん最終的に本にしなければ落ち着かない分野もあるので、出版は後でやるとか、少しこの時代に合った考え方もあるのだと思う。

【家委員】
 今の学術出版の話は非常に悩ましい問題で、分野によって全く事情が違う。人文系の場合は多分単行本で勝負されるので、そういうケースはこういう競争的資金がある程度なじむと思うが、一方、自然科学の多くの分野は、いわゆる専門誌に投稿する形になっている。日本の多くの分野で、自前の学会の学術誌、欧文誌を、歯を食いしばって頑張っているところもあるし、もう完全にあきらめてしまって欧米の商業出版社のなすがままになっているところもある。今は科研費で日本の学術出版に対する助成をしているが、これはどう考えても競争的資金にはなじまない。ただ、ほかに何か方法があるかといったら、今、私には思いつかない。そういう状況がずっと続いているので、科研費以外で、何か継続的な国際的な学術情報発信に対する支援の仕組みを文部科学省で考えていただけないか。

【有川部会長】
 例えば、機関リポジトリのようなものを国としてもう少しサポートする。今、国立情報学研究所が試行的に、研究所が確保した予算の中でスタートアップ資金を補助するというようなことをやってくれているが、この辺をもう少し制度的にやると良いのではないのかと思う。

【家委員】
 誰がそのコストを負担するのか。投稿者や読者か、あるいは機関や政府なのかという考え方がまちまちで、今の機関リポジトリという一つの考え方もあるし、あるいは最近はオープンアクセスという動きもある。一体誰がコストを負担して、特に我が国から国際的に学術情報を発信していくのかということは国家的な戦略だと思う。

【有川部会長】
 それについては、研究環境基盤部会のもとの学術情報基盤作業部会で議論しているので、そのうち何か提案がでてくると思う。

(4)その他

 事務局から、次回の研究費部会は4月28日(火曜日)10時30分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

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