学術研究推進部会 人文学及び社会科学の振興に関する委員会(第6回) 議事録

1.日時

平成19年7月23日(月曜日) 14時~16時

2.場所

霞が関東京會舘 「シルバースタールーム」(35階)

3.出席者

委員

伊井主査、立本主査代理、井上孝美委員、白井委員、中西委員、西山委員、飯吉委員、家委員、井上明久委員、伊丹委員、今田委員、岩崎委員、小林委員、谷岡委員、深川委員

(外部有識者)
佐藤次高 早稲田大学文学学術院教授

文部科学省

藤木審議官、吉川科学技術・学術総括官、江崎企画官、松永研究調整官、高橋人文社会専門官 他関係官

4.議事録

【伊井主査】 

 それでは、ただいまから科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会人文学及び社会科学の振興に関する委員会第6回を開催いたします。
 本日は、早稲田大学大学院学術院より佐藤次高先生をお迎えいたしまして、プレゼンテーションをしていただくことにしております。佐藤先生、どうもお忙しいところ、ありがとうございます。
 まず、本日の会議の傍聴登録状況につきまして、事務局からお願いいたします。

【高橋人文社会専門官】 

 本日の傍聴登録状況でございますが、傍聴希望の方は5名いらっしゃいます。
 以上です。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 それでは、続きまして、配布資料の確認をお願いいたします。

【高橋人文社会専門官】 

 資料につきましては、お手元の配布資料一覧のとおり、配付させていただいております。議事次第の2枚目が配布資料一覧となっております。欠落などございましたら、お知らせいただければと思います。
 それから佐藤次高先生から「イスラーム地域研究」のパンフレットを追加で配付させていただいております。緑色のものでございます。
 それから本日ご欠席ではございますけれども、猪口先生から、これまで政策目的型の研究などにつきまして、いろいろ審議いただきましたけれども、その関係で研究プロジェクト(案)のリストということでA4、1枚の資料をいただいておりますので、ご参考に配付させていただいております。あわせてご確認をいただければと思います。
 また、いつものとおりでございますけれども、基礎資料につきましては、ドッチファイルで机上にご用意させていただきましたので、こちらの資料もご参考にしていただければと思います。
 以上でございます。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 それでは、これから議事を進めてまいります。本日は2つの議事を進めていきたいと思っておりますが、毎回、この会議の冒頭に申し上げて恐縮なのでございますけれども、我々はいつも審議事項の全体の中での位置づけということを確認しながら進めていこうと思っております。我々に課せられておりますのは3つの審議事項でございますが、第1の審議事項は、「人文学及び社会科学の学問的特性について」ということでございまして、ここでは、自然科学との違いについて留意しながら、研究内容や研究手法などの面から見た人文学及び社会科学の学問的特性についてご審議をしていただいているということでございます。
 第2につきましては、「人文学及び社会科学の社会との関係について」ということでありまして、人文学及び社会科学の社会的意義や研究成果の社会還元のあり方についてのご審議をしていただいているということでございます。
 第3の審議事項といたしましては、「学問的特性と社会との関係を踏まえた人文学及び社会科学の振興方策について」ということでございまして、これまでは、既にきょうで6回目でございますけれども、第1回目が人文学及び社会科学の学問的特性とか、社会的な意義につきまして、全般的なことにつきまして、第1回目はお話をしていただきました。
 第2回目以降は、研究内容や研究手法などの面から見た人文学及び社会科学の学問的特性を中心に、その社会的意義とか、支援方策を含めまして、それぞれの分野に絞った形で各委員から意見発表とともに意見交換をしていただいているというところでございます。これまでには、立本委員、今田委員、伊丹委員及び前回は岩崎委員からいただいた次第でございます。
 今回は、本日でありますが、これまでの審議とは異なりますテーマとしまして、人文学及び社会科学における共同研究とか、ネットワーク型の研究につきまして審議をしていきたいと思っております。人文学及び社会科学の研究者は、国公私立を含めまして、全国にあちらこちらにいらっしゃるわけでございます。そのため、個人研究が中心であり、ポテンシャルを十分生かすことが困難な状況にあると思われるわけでございまして、このような問題意識から、本日は私学を拠点として研究ネットワークを構築していっております研究を紹介していただき、そしてさまざまな問題点をお話をしていただくということでございまして、佐藤先生をお迎えした次第でございます。
 先生からは、「NIHUプログラムイスラーム地域研究」と題しまして、いつものように30分ばかりプレゼンテーションしていただきました上、各委員からの質問、ご意見を伺いたいということでございます。できるだけ多くの方々からご意見、ご質疑をいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 それでは、佐藤先生、よろしくお願い申し上げます。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 それでは、「NIHUプログラムイスラーム地域研究」という題で報告をさせていただきます。きょうは、パワーポイントを使いまして説明をさせていただきますが、今、映っておりますのは、何年か前に中国のトルファンを訪れましたときに、たまたま町の中の小さなモスクの中庭で少年がコーランを読んでいまして、撮ったのですが、シャッター音で緊張の糸が切れてしまいまして、その後はこの少年はコーランを読むのをやめてしまいましたので、ちょっと迷惑をかけてしまいましたけれども、私が気に入っている写真の1枚ということで紹介をさせていただきました。
 まず最初に、「イスラーム地域研究」、現在行っておりますプログラムの経緯を少しお話ししておきたいと思います。長い歴史がありますけれども、主なものを取り上げますと、まず、1988年から3年間、91年まで「イスラムの都市性」プロジェクトというものが板垣雄三先生をリーダーにして実施されました。これは英語では、「Urbanism in Islam」というタイトルをつけておりましたけれども、初めのいわば国内ネットワークを形成する、構築する、そういう企画であったかと思います。もちろん、国際会議なども開催しましたけれども、主に中心は国内の研究者がさまざまな研究グループをつくりまして、それでイスラーム文明の一つの特徴であります都市的に生きること、それはどういうことなのかという問題をイスラームの都市、それからそれ以外のアジア、あるいはヨーロッパの都市を比較することによって都市性というものを明らかにしていこうというプロジェクトが3年間行われました。
 この「イスラムの都市性」プロジェクトを基礎にしまして、その後、しばらくしてから、1997年から2002年までの5年間にわたりまして、「イスラーム地域研究」プロジェクトが実行されました。これは東京大学の人文社会系研究科を中心にしまして、上智大学のアジア文化研究所、それから東洋文庫、そして、さらには大阪の民族学博物館の企画交流センターが加わりまして、ネットワーク型のプロジェクトを実行いたしました。これは現代のイスラームの問題を出発点にしまして、思想・政治・経済・社会・文化、総合的なイスラーム研究をネットワーク型で実行していこうという、こういう試みであったかと思います。
 これは前回のイスラームの都市性プロジェクトに比べてみますと、外国の研究者とのネットワークづくりがさらに進展したというふうに言えるのではないかと考えております。そういう点で、このイスラーム地域研究プロジェクトは国際的なネットワークの拡大というものを目指していたということが言えるかと思います。
 ただ、これは2002年度に終了いたしまして、その後、さまざまな研究成果を発表いたしましたら、この5年間だけで終わってしまうのはもったいないのではないかというさまざまなご意見をいただきまして、それで2006年度、昨年度から新しいイスラーム地域研究を開始するということになった次第です。
 それで今回の場合には、海外の現地の研究者にも初めから分担者として加わっていただきまして、その企画実施にあたって中心的な役割を果たしていただくということにしております。そういう点で新しいイスラーム地域研究、「NIHUプログラム」というふうに名付けておりますが、NIHUと申しますのは、National Institutes for the Humanitiesの略称でありまして、人間文化研究機構との共同でこのプログラムを実施するというふうに考えております。
 それで、この新しいイスラーム地域研究の目標、目的といいますのは、したがって、今、現地の研究者と申しましたが、これがいわば地域の「当事者」の目から見た地域のイメージ、それから私たち外国からの「他者」の目を通した地域のイメージ、そういう両方の目を通してイスラームと地域のかかわり方を分析していこう。それによって、地域を通さない画一的なイスラーム理解というものを乗り越えていかなければならないというふうに考えております。この「他者」と「当事者」双方の目を通して考えてみるというのが今回の一つの眼目でございます。
 それから第2番目は、前回のイスラーム地域研究でアラビア文字による情報検索システムを整備・開発いたしました。これを今回はさらに発展させていきまして、アラビア文字を使ったアラビア語、ウルドゥー語など、こういう言語による情報をシステム化しまして、それでその資料のデータベース化を図るとともに、これを国際的にさらに発信していこうということを考えております。この第2番目の情報検索システムの整備・発展ということは、主に第3の拠点であります東洋文庫が担うという予定にしております。
 それから第3番目の目的ですが、これは前回から継承したものですけれども、次の世代のイスラーム研究を担っていく若手の研究者を育成していきたい。そういう意味で大学院の、特に博士課程のレベルの人たちの研究への参加、協力、それを促していきたいというふうに考えております。
 そういうことで、今回は、きょうお配りしましたパンフレットの裏側のところにも組織図が書いてありますけれども、早稲田大学のイスラーム地域研究所を中心拠点にしまして、拠点の第1が東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センターイスラーム地域研究部門というのがつくられまして、ここが東京大学での研究の拠点を形成していくということであります。それから拠点2が上智大学アジア文化研究所イスラーム地域研究拠点というものがつくられました。それから拠点3ですけれども、財団法人東洋文庫研究部にイスラーム地域研究資料室というものができまして、ここが資料センターとしての役割を果たしていくということにしております。それから拠点4ですけれども、京都大学大学院にアジア・アフリカ地域研究研究科附属イスラーム地域研究センターというのができまして、ここが一つの特徴ある拠点を形成していくということにしております。
 個々の特徴につきましては、後でお話しいたしますけれども、今回のプログラムの特徴は、期限つきのプロジェクト型の研究ではなくて、少し永続性のある拠点形成のための研究事業というふうに考えております。そういう意味でプロジェクトという言葉は使わずに「プログラム」という言葉を使いました。
 それから特徴の第2は、例えば、COEのような大学ごとの単独の研究事業ではなくて、大学、それから研究機関を結ぶネットワーク型の国際的な共同研究事業というふうに考えております。この2つが今回のプログラムの大きな特徴ではないかというふうに考えております。
 それから研究事業につきましては、ここに簡単にまとめてみましたが、それぞれの拠点に、これまで5年間にわたってイスラーム地域研究を進めてまいりましたので、それぞれの拠点のある程度の特徴というものができてきております。それを今度生かして新しいテーマを掲げていくということで、継続と発展の両方の面を持っております。中心拠点の早稲田大学では、大きなテーマとしまして、「イスラームの知と文明」というやや大きめのテーマを掲げました。それから2つの研究グループがありまして、1つは「イスラームの知と権威・動態的研究」というグループです。それからもう1つは、「アジア・ムスリムのネットワーク」という、こういう2つのグループが現在活動を開始しております。
 それから拠点1の東京大学ですが、ここでは、以前と同じ系統のテーマを掲げまして、「イスラームの思想と政治:比較と連関」というテーマで研究を進めることにしております。グループが2つありまして、第1のグループは「中央ユーラシアのイスラームと政治」、それから第2は、「中東政治の構造変容」という題を掲げております。
 それから拠点2の上智大学ですが、ここでは「イスラームの社会と文化」という、最初は「イスラームの社会と経済」という名前でやっていただきたかったのですけれども、現在のメンバーでは経済は少し荷が重過ぎるということで、「イスラームの社会と文化」というテーマで研究を進めることにいたしました。この上智大学では3つのグループができておりまして、グループ1が「イスラーム主義と社会運動・民主運動」、それから第2のグループが「東南アジア・イスラームの展開」、それから第3のグループは「中東政治の構造変容」、こういう3つのグループが現在活動を開始しております。
 それから拠点3の東洋文庫ですけれども、ここはちょっと長い題ですが、「イスラーム地域研究史資料の収集・利用の促進とイスラーム史資料学の開拓」というテーマで、この拠点3では、全国の研究機関や図書館に散在しておりますイスラーム関係の資料をまとめまして、これをデータベース化していこうという、そういう計画を現在進めております。
 それから拠点4の京都大学では、リーダーの小杉泰さんの特徴を生かしまして、「イスラーム世界の国際組織」。それでグループは1つですが、「イスラーム世界の国際組織の基礎研究」というグループができております。これはご存じのように、現在、世界各地にイスラームの穏健なグループや過激なグループ、さまざまにありますけれども、これを組織的に研究していこうという拠点でございます。
 それぞれの拠点には、人間文化研究機構から研究員が派遣されておりまして、例えば、中心拠点の早稲田大学には、教授相当のポストが1つ、それから准教授相当のポストが1つ、合計2つ与えられております。その他の拠点では1人ずつ、准教授相当の方、あるいはもう少し若いポスドク相当の研究者がそれぞれ1人ずつ派遣されております。こういう人員を派遣し、それから研究費も人間文化研究機構から提供されるという形で、それぞれの拠点が研究事業推進のためのスペースを提供して、そして共同でネットワーク型の研究を進めていこうということにしております。
 それで、この中心拠点の早稲田大学は、それではどういう役割を果たしているのか。それからそれぞれの拠点間の結びつきというものはどの程度の固さのものであるのかということを簡単に説明しておきますと、中心拠点が行っておりますことは、まず第1は、和文と英文のホームページを立ち上げまして、これを管理して、全体の研究計画の発信、それから研究成果の取りまとめということを行っております。それから第2には、5つの拠点の共同によります合同集会、国際ワークショップ、あるいは国際会議というものの取りまとめを行うということにしております。それから第3の役割は、プログラム全体の研究成果の出版事業の取りまとめということもこの中心拠点の役割の一つと考えております。それから第4には、こういうことを実現するために、この5つの拠点の代表者で構成されます「研究推進連絡会議」というものを必要に応じて開催して、全体の結びつきの促進を図っております。
 そういうわけで、それぞれの拠点というものは、それぞれの拠点の特徴を生かした研究事業の拠点づくりをしているわけですが、全くばらばらなわけではなくて、全体を結ぶ共通のテーマ、それも考えながら進めていくということにしております。予算はそれぞれ拠点ごとに独立して執行しております。
 それで、もう一つ研究事業を進めていく場合の共通の事柄ですが、研究方法にかかわることですけれども、2つの基本的なアプローチを考えております。1つは、現代の問題を出発点として研究事業を行いますけれども、これを歴史的にたどっていく、歴史的な理解の仕方を試みるという、そういう歴史的アプローチの重視というものを考えております。それは日本人の研究者の特徴の一つですけれども、思想研究、政治研究、経済研究に比べまして、歴史研究の人数が圧倒的に多いものですから、やはりそういう日本の特徴を生かすためにも歴史的なアプローチというものが有効であろうというふうに考えております。
 それからもう一つは、地域間の比較という問題です。これは先ほど申しましたように、イスラームというのは、ともすると金太郎あめのようにどこを取っても同じというふうに思われるかもしれませんけれども、現実には非常に統一的な側面と、地域による多様な側面というものを持っております。そういう統一性と多様性というものを同時に考えていきませんとイスラーム理解というものはうまくいかないと思いますけれども、その地域に根ざす伝統的な文化とイスラームの出会いによって、それがどういうふうに変わっていくのか。そういう点で地域ごとの特徴を生かし、そして地域間の比較をすることによって、またさらに地域の特徴を、理解を深めていくということを考えております。そういう意味で、研究法としては、歴史的なアプローチと地域間比較を重視しようということでは、この5つの拠点のメンバーは共通の意識を持っております。
 こういう研究法を実行いたしまして、成果をさまざまに公開していこうと考えておりますけれども、第1には、英文及び和文のWebサイトを利用して、それで研究の予告、計画及び研究成果の報告を行いたいと思っております。そこに出ておりますのは、昨年度招聘しましたシリア人のアブドル・カリム・ラーフェフ先生を1カ月ほどお呼びして、主に大学院生を相手にアラビア語文書の解読の連続講義をしていただきました。これは主に東京都内の大学が対象になりますけれども、さまざまな大学の大学院生が集まってまいりまして、そこで難解なアラビア語の文書を解読するという講義を連続で受けました。なかなか高度な授業なのですが、若い人にとっては大変有益な講義であったと考えております。
 それが第1でありまして、第2は出版でありますけれども、出版には、英文出版、それから和文出版、さまざまに考えておりますけれども、英文の出版は、前回のイスラーム地域研究と同様にロンドンのルートレッジの出版社から論文集を発行するという契約が既に済んでおります。それからもう一つは、伝統的なオランダのライデンにありますブリル社が出版をぜひしたいというふうに申し出てくれておりまして、これもこの夏に私がオランダまで行きまして、実際にこの出版の計画を詰めてこようと考えております。これが実現しますと、性格を分けたいと考えておりますけれども、ルートレッジのほうから論文集、あるいはブリルのほうからはモノグラフシリーズが英文で刊行されるということになろうかと思います。
 それからbの和文叢書ですけれども、これはやはりこの研究成果を拠点ごとに、例えば、1冊ずつ叢書の形で刊行するということも考えております。それからcの基本文献訳注シリーズは、イスラームを理解する上で必要な基本的な文献が、例えば、予言者モハマッドのモハマッド伝といいますか、伝記から始まりまして、19世紀、20世紀の古典と言えるような大事な文献がアラビア語、ペルシャ語、トルコ語で書かれているわけですけれども、そういう重要なものを選びまして、それで訳注のシリーズを刊行したいというふうに考えておりまして、これは具体的な文献が十数点挙がっております。
 それからdの一般向け入門書シリーズですけれども、これはこういう共同研究の成果をわかりやすく公開するということを考えまして、高校生、大学生、一般の人たちを対象にして、入門書シリーズを刊行していこうということを考えております。
 それから最後にイスラーム地域研究のこれから、未来ということをちょっと考えておきたいと思いますけれども、2つ重要な問題があると思いますが、1つは、公開性の維持ということです。これはどういうことかと申しますと、現在、研究の核になる研究分担者が四十数名おります。全体で四十数名です。それから必要に応じて研究の協力をしていただく若手の研究者を中心とした研究協力者が六、七十名おりまして、全体では120名程度の研究体制ができているわけですけれども、これ以外に研究分担者として参加したい、あるいは研究協力者として協力をしたいという方がたくさんおられます。こういう意欲を示している人たちをどんなふうにしてこのプログラムに入っていただいて、協力をしていただくかということを常に考えていかなければいけないというふうに思っております。
 とりわけ、研究協力者というものをあまり固定することをせずに、これを柔軟にローテーションを組みまして、新しい方にも加わっていただく。それには外国の研究者も同様に加わっていただくというふうに考えております。そういう意味でイスラーム地域研究の公開性を維持していきたいということを考えております。
 それから第2は、国際的ネットワークの形成ということですが、今回は研究分担者に初めから現地の研究者に加わってもらっておりますけれども、これをさらに、例えば外国の大学、あるいは研究機関、あるいは個人と連携で研究を進めていくということをもう既に考え始めておりますけれども、そういう国際的な共同研究で得られた成果というものを私たちだけが独占してしまうのではなくて、それをその地域へ還元していく方法を考えなければならないだろうというふうに思っております。とりわけ、研究成果を日本語だけではなくて、英語、あるいはアラビア語、その他の言語で刊行することによって、これを地域の人たちにも共同で享受するということができるようにしたいと思っております。そういうことを考えることによって、このイスラーム地域研究の未来というものが開けてくるのではないかというふうに考えております。
 一応、私の報告はこれで終わらせていただきます。

【伊井主査】 

 どうもありがとうございます。
 単独の大学なり、研究機関だけではなくて、ネットワークということを通じまして、イスラームという一つの統一したテーマで研究をしていくという、ある意味では、今後の研究のモデルケースになるかもしれませんけれども、ただいまの佐藤先生のプレゼンテーションをめぐりまして、何からでもよろしいので、どうぞご意見、ご質問等をお願いいたします。
 どうぞ、伊丹委員

【伊丹委員】 

 大変興味深く聞かせていただきましたので、事実について幾つか追加の情報提供をお願いしたいのですが、まず、予算の規模はどれぐらいで、各拠点には、別にディテールはよろしいのですけれども、どういう感じで配分されているのか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 一つ一つお答えいたします。予算の規模ですけれども、きょうそういう予算の規模までお話ししたほうがいいのか悪いのかちょっとわからなかったものですから、私のほうから最初はお話ししたかったのですが、研究費が、早稲田大学の中心拠点に今年度は2,800万円、ほかの拠点には大体1,500万円から1,800万円という規模です。それに研究員の派遣された俸給の問題が含まれてきますので、それを全部加えますと、研究費及び人件費、両方加えまして、全体で1億2000~3000万円という規模でございます。

【伊丹委員】 

 これは2006年から始まったというふうに先ほどお聞きしましたが、終わりの時点が一応は明示されていないタイプのプログラムですか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 とりあえず5年をめどにやりますけれども、5年で研究成果の評価をしていただきまして、それでリニューアルをして、次の5年にまた進んでいくというふうに考えておりまして、私の希望としましては、5年、10年、15年というふうに続けていくということが拠点の形成には必要ではないかというふうに考えています。

【伊丹委員】 

 最後の質問です。研究分担者の数が四十数名で、院生等の研究協力者、若手研究者が60名から70名という数をおっしゃいましたが、これは母数として日本全体にイスラーム地域研究に該当しそうな研究分担者になり得るかもしれない人は、トータルでどれぐらいいる中の40なのか、院生もトータルでとれぐらいいる中の60、70なのかというのを、全くの概数で結構でございます。教えてください。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 そうですね、なかなか簡単そうで難しいのですが、今、日本で一番大きな中東研究、現在のイスラームの研究は中東だけではなくて、ヨーロッパから、アジアからアフリカにも及んでおりますけれども、中東研究の中東学会という一番大きな組織があるんですが、その会員が現在約800名ということになっております。さらに、現在のイスラーム地域研究では、それを超えた地域が加わりますので、実際の数は1,000名を超えることが考えられます。その中で、これに加わってやっていこうという人の、意欲を持っておられる方が何%になるかは難しいところですが、いずれにしても、500名を超えるような人たちができればチャンスがあれば加わっていきたいと考えていると思いますので、その中の百数十名というのは非常に限られた数というふうに考えていいかと思います。ただ、研究会等に参加して報告していただくとか、そういうことはもっと広くやっておりますので、何らかの形で関わる人たちは、この百数十名よりもっと多くなってくると思います。

【伊丹委員】 

 院生のほうはどうですか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 院生のほうは、大学院生はなかなかつかみにくいのですが、そういう統計資料がないわけではないのですけれども、東京大学とか、東京外国語大学とか、京都大学、九州大学、そういうところに分散しておりますので、それぞれの各大学ではそれほどたくさんの数がいるわけではないのですが、例えば、東京大学が最も多いかもしれませんが、それで大学院生の数が、ドクターコースの人の数がせいぜい10名程度だと思いますので、それほど巨大な数がいるわけではありませんが、年々増えておりますので、そういう人たちにこれからどういうところで活躍してもらうかということが将来的に大きな問題になるかと思います。

【伊丹委員】 

 ありがとうございました。

【伊井主査】 

 ついでに伊丹先生の今やっていらっしゃるCOEプログラムがございますね。知識・企業・イノベーションのダイナミクス、それとの比較で何かおっしゃられるようなことがありますでしょうか。

【伊丹委員】 

 意外に小さいのでびっくりいたしました。私が研究の拠点代表者をやっておりますのは、年間に1億3,000万円のお金がいただけていまして、人件費は全然別でございます。事業推進担当者は24名、研究協力者等の若手の研究者は、これはうちの大学だけで四、五十名の人間を総動員しております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 どうぞ、飯吉先生。

【飯吉委員】 

 質問ですが、今の予算に絡むのですけれども、これはどういう予算として出ているのでしょうか。共同研究経費として。これは人間文化研究機構を通して共同研究経費として出ているのでしょうか。共同利用の経費。それとは別の、例えば特別教育研究経費というような、ああいう形で出ているのでしょうか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 いろいろ推測はできるのですが、人間文化研究機構のほうから、どういう経費を集めてこれを提供するということは一切説明がありませんのでわかりません。一応推測はしているのですが。

【伊井主査】 

 どうぞ。

【西山委員】 

 単純な質問ですが、5ページの研究事業では拠点が幾つかあって、5つに課題が分かれていて、機関研究される方が四十数名おられるとのことですが、これは常時入り乱れて研究していらっしゃるのでしょうか。あるいは、それぞれ別々にやっておられて、時折集まって議論するという形態でやっていらっしゃるのでしょうか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 これはそれぞれの拠点で、先ほど申しましたように研究グループをつくっておりますけれども、常時はそういう研究グループを単位にして研究会を開いたり、あるいは1つの拠点が1つのワークショップを開催するということも、このグループ1、2をあわせて行うということもやっております。それからさらには、先ほど申しましたように、拠点の全体をあわせた合同集会、合同研究会というものも1年間に最低2回は開いておりまして、そういう小さいところから広い大きなところまでを含めた、さまざまなレベルで行っているということでしょうか。

【伊井主査】 

 西山委員、よろしいでしょうか。
 どうぞ。

【中西委員】 

 内容的にすばらしいと思っておりますが、自然科学者の参加はどんなふうに考えているかということなのですが、例えば、今お話があったのは歴史とか、経済とか、もちろん考え方とか、一番メインなところだと思いますけれども、例えば、聖書にも随分科学的記述があるとか、人の考え方の中には自然科学のもとになるようなものがあると思うのですね。特にこれから環境とか、いろいろ学際的なことを考えていくためには、ここでいろいろ研究されたことがものすごく大切なインパクトを与えると思うのですが、そういう人たちの参加はどうなっているのかということをお伺いしたいのですが。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 現在のところは、パンフレットをごらんいただいてもおわかりいただけると思いますが、そういう自然科学を専門としている人たちは入ってきておりません。ただ、前回、地理情報システムですね、GISを使いました、それを人文科学にどういうふうに応用するかという問題で5年間やりまして、その成果を受け継いでいる人たちが何人かおりまして、地理情報システムの方法をこの人文学に導入するということは現在でも続けられております。ただ、今おっしゃられたような、もう少し環境問題ですとか、そういうことは現在は入っていないのですが、先ほどの予算とも関係するのですけれども、もっともっと予算がつけば、そういう分野の拠点をつくるということも当然可能だと思います。
 それから、ちょっとついでにつけ加えさせていただきますと、このネットワークには東京外国語大学のアジア・アフリカ言語文化研究所も加わっていただきたいと思っていたのですが、あそこは今、COEやら何やらで手いっぱいでとても余裕がないということで、落ち着くのを待とうということになっておりまして、そういうことで、これから新しく拠点として加わっていただくものも出てくると思います。ですから、そういう場合に今の自然科学の問題なども考えていかなければならないというふうに思っております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。今、西山委員からは研究会のあり方とか、どういうような討議をしていくのかとか、中西委員からは自然科学の分野はどういうふうに参画していくのかというような問題が出ましたが、それ以外でも、同じようなことでもよろしいですよ。何でもどうぞ。

【井上(明)委員】 

 これは非常にすばらしい拠点形成が行われている。大学等、京都、早稲田、上智という、イスラームのキーワードになりますと、非常に限られた大学になるのかもしれないのですけれども、例えば、今、自然科学の問題も出ましたが、そういうようなことで広く含めますと、例えば、我々の大学の例で恐縮ですが、エジプトだけでもそういう意味での連携拠点的な、それは自然科学に関することですけれども、カイロ大学だとか、アシュート大学だとか、何か今後、連携研究推進において調査していただいて、自然科学も含めて、いろいろな大学において、おそらくイスラーム圏でかなり古くから連携研究が行われてきていると思いますので、そのあたりも、予算が限られていて、その限られた予算を有効に使うためにも既存のネットワークをフル活用することによって、さらに効率よくこのネットが生かされてくるのではないのかなというふうに思われますので、何かその視点での調査、その方々も入っていただく。人数は多くないのかもしれないですけれども、そういう仕組みがあってもよろしいのではないかなと思われるんですけどね。

【伊井主査】 

 それについて、何か佐藤先生のほうからございますか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 実は前回のイスラーム地域研究でも、例えば、エジプトのあるグループとは共同でやるということがありました。ところが、実際にはお金だけ要求されまして、実際の共同研究にまでは至らないような、そういう事態が起きましたので、外国の研究機関とか大学と連携する場合には、非常に私は慎重に調査をして、ここだったら大丈夫という、そういう確信を得た上で進めていきたいというふうには思っております。

【井上(明)委員】 

 今、私が申し上げたのは、いきなりここのセンターとエジプトのというのではなしに、日本のほかの既存の大学が既にネットワークを持っていて、その日本の大学の先生をスルーするような形だと、直接相手と接触して経費を要求されるということではないのだと思われるのですが。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 わかりました。その点につきましては、例えば、同志社大学で現在進められております一神教の比較研究のグループがありますけれども、そういうところとも連携してやっていきたいというふうに思っております。今、誤解をいたしましたが、そういう点では有効にネットワークを広げていく必要があると思っております。

【伊井主査】 

 その拠点とは何かということにもなってくるんだろうと思いますけれども、何かほかにございませんでしょうか。

【家委員】 

 今のお話にも多少関係するのですが、最後のところに、未来として「国際的ネットワークの形成」と書いてあります。このことについてなんですけれども、国際的という意味ですけれども、ここには「地域への還元」と書いてあると。そうすると、国際的と言っても、当該地域との連携というか、ネットワークかなというふうに思うのですがも、例えば、イスラーム以外の欧米ですとか、イスラーム地域以外のアジア、そういうところでのイスラーム研究というのも当然あると思うのですが、そういうところの連携というのはどういうふうに考えていらっしゃるのか。つまり、この研究のスタンスが、日本の研究者がイスラームを研究することに意味があると考えているのか、もう少しイスラーム研究それ自体を目指しておられるのかという、その辺のスタンスですけれども。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 まず、最後の点から申しますと、日本人によるイスラーム研究というところだけに重きを置いているということはありません。先ほど最初申しましたように、現地の人たちに企画の段階から研究者に加わってもらっておりまして、そういう両方の目を通して研究を進めていくということを基本的に考えておりますので、そういう意味で「国際的」というふうに使っているつもりです。研究の対象地域が、ご存じのように、現代イスラームの場合には、中東以外にヨーロッパとか、アメリカとか、中国の西側ですね、それから東南アジアにも及んでおりますので、この場合の地域といった場合には、ほぼ世界の全地域というふうに考えていくべきではないかと思っております。

【伊井主査】 

 どうぞ、飯吉先生。

【飯吉委員】 

 予算にこだわるわけではないのですが、実は私がお伺いしたかったのは、今、研究環境基盤部会のほうで共同研究というものをもっと重視していこう。だから共同利用研究所のようなものをもっとしっかりサポートしていこうという議論になっているのですが、そのときに、従来ですと、共同利用研究所というのは国立大学が主なわけですね。ですけれども、それを私立大学、公立大学に広めていこうという、ある意味では、この一つの流れに沿っているのだろうと思いますが、その視点から考えると、先ほどお話を聞くと、お金は人間文化研究機構に行って、そこから私立大学の早稲田の研究所に流れてくると。

【伊井主査】 

 それぞれの拠点に行きます。

【飯吉委員】 

 行きますね。そしてここを見ますと、人間文化研究機構はプログラムには入っていないのですよね。ですからお金を出す作用しかしていないように見えるのです、これですと。そういうことはないと思いますけど。ですから、もしそうであるならば、将来は早稲田大学に直接お金が行くような、要するに共同研究所として早稲田大学のこの研究所を認知して、そしてダイレクトにそのお金が行くような仕組みということも将来考えていく必要があるのではないかというふうに思って、もちろん、これは一つの過渡的な方法としてはこういう形でよろしいと思いますけれども、そこのことをちょっと申し上げたかったものですから。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 直接という意味が今よく理解できなかったのですが、直接という意味は、人間文化研究機構から直接ということですか。

【飯吉委員】 

 いや、そうではなくて、文科省からです。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 文科省から直接ということですか。

【飯吉委員】 

 そうです。要するに共同利用研究所というのは今までは国立大学に限られていたわけですね。ですけれども、それをこういうふうに、私立大学も機能がそういう性質を持って研究活動を非常に活発にやっているのであれば、私立大学の研究所もそういう資格が持てるように、そういうふうな方向へ、今研究環境基盤部会のほうではそういうふうな流れが出てきていますので、これは非常にいい例だと思いますけど、ぜひちょっと考えて。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 わかりました。人間文化研究機構について一言お話しいたしますと、この人間文化研究機構の中に「地域研究推進委員会」というのができておりまして、私もそのメンバーに入っているということです。その地域研究推進委員会のさらに下の部会に「イスラーム地域研究部会」というのができておりまして、そこにこの各拠点の代表者が委員を構成していると、そういう仕組みになっております。

【伊井主査】 

 私も人間文化研究機構に所属する者ですが、人間文化研究機構のもとに地域研究推進センターというのが一応ありまして、6年度からはイスラームの研究をしていこうと。今、また新たに中国研究をしていこうと。いわゆる地域研究推進センターがコーディネートしながら、いろいろニーズ対応的な研究課題を人間文化研究機構から発信して、それぞれの研究機関にお願いする、委託するという形で今進めているところだろうと思っておりますが、文科省のほう、事務局のほうで何かそれにつきましてご説明がございますでしょうか。

【藤木審議官】 

 お尋ねがありましたので、少し私の承知する限りでお答え申し上げたいと思いますが、今、井上先生がおっしゃられたとおり、共同利用、特に大学共同利用機関に関して、今、研究環境基盤部会の議論をしております。ここにおられる多くの先生がご参加いただいておりますので、ご承知の方も多いと思いますけれども、従来の大学共同利用機関は国立大学法人中心だったということは、これは間違いないところでありましたけれども、最近の議論では、国公私を通じた全国共同利用のあり方というのを考えなくてはいけないということでかなり活発な議論がなされております。そこで、ここでは国公私を通じた全国共同利用ということで、そこにどのような支援を行うべきかという議論が今活発になされているという状況でございます。
 その中で、特に従来4つの機構、大学共同利用機関法人を中心とした十六、七の大学共同利用機関がありますけれども、そういった一つ物理的に拠点を構えた、そういう機構を中心に、大学共同利用機関を行うという形以外に、いわゆるここで既に先駆的になされておられますネットワーク型のような新しいタイプの共同利用のあり方もあるのではないかという議論がなされておるという状況でございます。
 そこで、来年度以降の予算におきまして、そういったタイプの共同利用機関、共同利用タイプの研究の進め方をどのように支援するかというのがこれから文科省にとって、夏の概算要求をこれから考えてまいりますけれども、一つの課題であるというふうに思っております。
 そういったときにどのような支援をこれから行っていくかというのは、まさに今後の課題でございますので、まさにここでこれから議論いただくことをいろいろ考えさせていただきまして、最適な制度を新たに考えてまいりたいと思いますけれども、特にここで議論していただいております人文科学・社会科学系統につきましては、従来、人間文化研究機構がございますけれども、それ以外にどのような形の支援が行われるのかといったことも考慮に置いておりまして、例えば、今議論に出ておりますような大学共同利用機関を通じずに、直接拠点機関に支援を行うようなタイプのやり方もあるのではないかというふうに私ども考えておりまして、そこはここで十分議論をいただければ、それを踏まえて私ども考えていきたいというふうに思っているところでございます。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。ネットワーク型の研究組織というようなことで今議論になっているところでございますけれども、その拠点が置かれております早稲田大学のほうでありますが、白井委員は何かそれにつきましてございますでしょうか。拠点を持っているということの意義とか。

【白井委員】 

 始まったばかりというふうに実は認識していて、もちろん佐藤先生にもいろいろご説明を伺ったり、シンポジウム等々でもいろいろ参加させていただいて、私もちょっとだけですが、のぞいて、もうちょっとイスラームの勉強をして下さいというふうに言われて、今、一生懸命勉強中です。そんなところで、大学としてはとりわけというあれではないのですが、こういう新しい形のものが出発したということで、早稲田大学としてもどういうふうにこれを、大学全体でも支援していくというか、一緒に参加しながらこれを成長させるというふうに、どうすればいいかという議論は大学として既にいろいろやっております。ですから、ここでまたご議論いただいてというふうに思いますが、今は特に大学はこれがどうあるべきだというようなことを考えているわけではありませんが、佐藤先生には非常に頑張っていただいております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 何かほかにございますでしょうか。どうぞ。

【今田委員】 

 ちょっとおくれて来て途中からであれですが、ちょっと興味を持っていたものですから一言だけ。とてもグローバリゼーションが進んでいる中で、イスラーム文明圏というのはなかなか手強いというか、なかなか異色な存在で、文明の対立や衝突の大きな原因にもなっているので、こういう研究が進むことで、そういう文明を理解するのはとても大事だと思います。絶対キリスト教文明には譲らないですよね。何でなんだろうと言って結構みんなで議論したことがあるのですが、いろいろ調べたら、もし石油エネルギーなかりせば、あれぐらい強くならないのではないかという話も結構出て、そういうことを調べたことがあるんですけれども。
 何が言いたいかと思いますと、この研究ネットワークの中にそういうエネルギー問題みたいものをアラブのイスラーム世界、豊富にありますけれども、の関係と、そういうイスラーム文明、文化との関係も考えてみるようなセンターというか、拠点みたいなものがあると、より説得力が増して、大手商社とか何とかというのは、文明の宗教的対立はどうでもいいんのと。エネルギーがちゃんと確保できるかどうかだけだというので、そういうことを結構調べている方が一般の企業には多いんですけれども、何かエネルギー問題と宗教、文明的な問題の間の関係もかなりあるのではないかなというので、そういうのができてくれると、とても役に立つのではないかなという気がいたしました。

【伊井主査】 

 ついでに先生のいらっしゃる社会理工学研究科のような拠点といいましょうか、それとのかかわりで、今のネットワーク型の研究というものとのかかわりで何かご感想ございますでしょうか。

【今田委員】 

 社会理工学研究科では、特にエネルギー問題とか、そういうのに特化しているわけではないのですけれども、意思決定の問題がコアになりますから、価値判断の問題とプランニングの問題、社会のデザインの問題とマネジングと、それから人的資源の問題、そういう観点から意思決定をどうするかということをやっていますので、そういう側面から広角的にイスラーム文明を解剖してみるのも、というのは言えますけれども、それは言えるだけで、専門ではないものですから。

【伊井主査】 

 ありがとうございました。

【立本主査代理】 

 コメントですけれども、2つございます。1つは、最初の紹介にございましたように、88年からやっておられるということで、もう20年と。こういうふうなのでイスラーム地域研究というのが花を咲かせるのかどうか知りませんけれども、こういうふうな成果をずっとやっておられる。1つは、人文社会科学は息の長い支援というのが必要であるというのが第1点でございます。
 それからもう一つは、何やかやと言っておりましても、このイスラーム地域研究は多くは前半といいますか、今の早稲田に移るまでは東京大学が中心になっていた。移動してもいいけれども、ネットワークの拠点が必ず必要であると。拠点のてこ入れというか、さっきの予算の面でもございましたけれども、そういうふうなので、ネットワークの拠点の育成というものが非常に重要ではないかという、この2点だけコメントとして。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。それにつきまして、何か佐藤先生のほうからございますでしょうか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 特別ないのですが、今言われたように、もう20年経過したのかという、改めて思いましたけれども、そういう点では、板垣先生が始められたこういうネットワークづくりの努力というのは、今日のこういう形で研究組織が出てきた、その基礎づくりをしていただいたのだなと思っております。それから中心拠点は、今のはころころ変わってはいけないという、そういうあれでしょうか。

【立本主査代理】 

 いや、変わっていいのです。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 今度の場合には、例えば、東京大学ですと、先ほどのように政治・思想というものに重点を置いた特色のある拠点づくりということを目指しておりますけれども、ただ、現在の日本の教員のポストの補充ということが、必ずしも前の人の専門を受け継ぐ形で新しい人事が行われておりませんので、その辺の継承の問題というのが非常に将来大きな問題になってくるのではないかというふうに、今の人事のやり方の問題点があるようにも思っております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 イスラーム研究というのは、非常に重要なことは皆さんもわかっているわけでありまして、それをどういうふうにこれから拠点として研究していくのかと。予算とのかかわりもあると思いますが、今いろいろご質問があったのは、環境だとか、エネルギーだとか、そういうふうな分野との研究の拠点とのかかわりでありましょうが、5年終わって、その次、これからも4つの拠点といいましょうか、中核にしながら、さらにさまざまなところと連携しながら進めていこうというようなご計画でございましょうか。そこらは。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 先ほどアジア・アフリカ言語文化研究所の話をちょっと持ち出しましたが、この5つの拠点で固定していこうというふうには考えておりませんで、必要に応じて新しいところに加わっていただくということも考えております。ただ、現在の状況からいいますと、5年、10年やったから、これで離れますというところはあまりないように思いますが、ですから、新しいところに加わっていただくということは将来十分可能性があることだと考えております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。どうぞ。

【伊丹委員】 

 共同研究とかネットワーク型研究というのは、基本的にいいことだというふうに、みんなが総論ではすぐ賛成するのですが、実際に実を上げようとすると、案外難しい。私もやったことがございますけれども、ばらばらで研究をやっているというのとどこが違うのかというようなことがよく出るものでございます。このイスラームの共同研究の場合には5つの拠点に分かれていて、拠点をまたがった研究事業というのはないのですよね。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 全体のテーマはあります。

【伊丹委員】 

 テーマはあるんですけれども、事業としての形で、先ほどご説明いただいたのは、全部拠点に分かれておりますね。これのやり方が、共同研究でなければ出てこないようなタイプの成果というのはどんなものがあったか、ちょっとお教えいただけますでしょうか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 これは前回のイスラーム地域研究の成果をお話ししたほうがよかったのかもしれませんが、前回、5年間、テーマはやや違いますけれども、行いました。確かに一つどんと大きな共通のテーマを決めて、そのうちのこういうもの、こういうものというふうな形ではありませんが、意識としましては、現代イスラームを理解するための共同事業というふうに位置づけておりまして、そういう理解のために、拠点1ではこういう政治思想の研究を進める、拠点2では社会の問題を進めるというようなぐあいで、ばらばらに独立の研究テーマというふうには考えておりません。
 それで、そういう共同の研究事業を、例えば、前回東京大学出版会からイスラーム地域研究叢書という形で8巻のものを出したわけですけれども、そういうものをごらんいただくと、それぞれの拠点がいわばばらばらに事業を進めているということではなくて、全体として現代イスラームの理解をこういうふうに進めていくのだということがおわかりいただけるような仕組みになっていると思うのですけれども。

【伊丹委員】 

 テーマの分担というのを決めるという段階までは、私も比較的簡単だと思うのですが、実際の研究活動が共同で行われてインターラクションが起きて、そこでそれぞれの拠点がそれぞれの分担されたテーマを独立でやっていたのでは起きないような効果が起きるというのが、多分一番いい姿だと思うのですけれども、そういうのが何かなかったかなと思ってお聞きしたわけです。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 そうですね。あるのですが、ただ、それをちょっと今すぐに、「はい、これがそれです」ということを具体的にお答えするのは難しいように思うのですが、少し考えさせていただきまして。

【伊丹委員】 

 いやいや、別に結構でございます。

【伊井主査】 

 何かほかにございませんでしょうか。何でも結構でございますけれども、どうぞ。

【白井委員】 

 先ほどはいいかげんなことしか申し上げませんでしたけれども、こういうネットワーク型の研究形態でやるのは、わりに適切といいましょうか、やりやすいというか、そういう研究テーマと、それからやはりどこか強力な研究拠点がきっちりあって、進めたほうがより適切だと。これはそのときの研究者がどこにおられるかということにも依存するから、どっちともなかなか言いがたいところもあるけれども、性格的にはどうもあるのではないかなという気が私はします。イスラームに関する研究というので、少なくとも早稲田大学なんかの状況を見ていると、うちにははっきり言ってあまり伝統層があったわけでは全くなくて、たまたま佐藤先生がうちのほうに来られたということと、若干の研究者がいたと。それが佐藤先生が来られて、求心力が出てきて、みんな「じゃあ、集まろうか」というようなことになって、今に至っているのですね。
 そういうことからなのだけれども、学生なんかを見ていますと、今、どこの大学もかなりイスラームに関することをきっちり講義してくれというのが要求としては結構強いのですね。そういうことを考えると、相当数の大学でこういう講座があったほうがいいというのは事実なのですね。ですから、こういうテーマだと、若干ネットワークで分散しているのは必然性があるのかなという、最近ちょっと僕はそういう印象を持っています。そういうことがないと、なかなか研究に興味を持って、需要性が高いにもかかわらず、人が育ってこないということがあるのではないかなという、最近そういう気がしていますけれども。

【伊井主査】

  ありがとうございます。COEなどであれば、一つの大学なり、研究機関が中核になって、外部の方も入りますけれども、それぞれの大学の成果を競い合うというところがあるわけですが、このネットワーク型の場合には、一つの大学に拠点が置かれながらも広範囲にお互いに研究し合うと。そして成果を出していくという一つの新しい試みであろうと思っているわけでございますが、それ以外に何かご質問、ご意見ございませんでしょうか。

【立本主査代理】 

 研究内容のほうにかかわることなので質問しようかどうかと思っていたのですけれども、ほかの委員からも、例えば伊丹委員とか、今田委員とかのご質問にも関係するのですが、アプローチの仕方といいますか、歴史研究の強みを生かして現代の問題を、あるいは現代の問題を歴史的にたどっていくという、そういうような視点でやっていかれるということで、これは今の日本の人文学というのはそういうふうにしなければいけないと思うのですが、それで思い出しますのは、中国学といいますか、中国研究のちょっと前までで、中国が開放されるまでといいますか、調査できなかったということもありまして、欧米の研究者から見ると、日本の中国研究はすばらしい。しかし、それは全部昔のこと、古代のことということで、現代の中国を、Contemporary Chinaをやる者がだれもいないというのが二、三十年前で、現在は非常に変わりました。
 そこで、おそらくは歴史的な研究という強みを生かすのはいいのですけれども、その歴史的な研究と現代の問題というのはちょっと乖離があるのではないかというのが、そこが1つの質問の点でございまして、歴史研究をずっとやっていくというふうなもので、現代の問題もやるけれども、そうすると、現代のものが抜けてくるというようなことはさておいて、2つのポイントで若手研究者とネットワークということで、若手研究者ということで、また別の指導しているとか、中心になっている歴史研究に強い先生方とは違う若手研究者をどのように生み出していくのかというのが第1点目。
 もう一つは、歴史研究のネットワークと、これはイスラーム学のネットワークですね。そういうふうなものと地域研究というか、現代研究のネットワークというのと、これはネットワークの質が違うのではないかなという感じがいたしまして、国際的ネットワークというような形成のときに、現代の問題といったときに、地域への還元というのはもちろんですけれども、地域への還元は学術的なものでもいいわけですけれども、実際の現代の問題と、そういうふうな現代イスラームということを中心にされているし、期待はそういうふうなところだと思いますが、そこら辺のギャップといいますか、何か期待に沿えるのかどうかという、そこら辺はいかがでございましょう。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。いかがでございましょうか。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 これからやってみないとわからないところも実際にはあるのですけれども、歴史的なアプローチという点については、むしろ全体の研究グループから見ますと、現代問題に重点を置いているグループが圧倒的に多いのですね。歴史を専門にしていこうというグループはごくわずかでありまして、今、先生が言われたような古いことだけやっていって、現代の問題とギャップができてくるのではないかというようなお話なのですが、実際には現代問題が中心になっておりまして、その現代問題を理解する上で、どの程度の歴史的なアプローチが有効かというところで、あまり古い古代までさかのぼらなくても、せいぜい、例えば19世紀から理解してみるとか、そういう必要に応じた歴史的アプローチというふうに現在は考えております。
 それからネットワークという場合に、国際的なネットワーク、実際には、私の今頭の中にありますのは、個々の研究者を結ぶネットワークということが1つと、それから連携研究が進んでいく場合には、連携研究の中での機関を結ぶネットワークという2つの事柄を考えておりますが、ちょっと今回の場合には2年度目に入ったばかりですので、あまり具体的なところをお答えすることができないのですけれども、そんなところでよろしいでしょうか。

【伊井主査】 

 よろしゅうございましょうか。
 いろいろとこれからの課題も多いことだろうと思いますし、テストケースということもあるだろうと思いますが、いろいろお聞きしますと、やはり予算をもうちょっと増やさないと、もう少し大規模にできないなということをつくづくと思いました。もっといろいろ取る工夫をしなくちゃいけないなと思った次第でございます。
 特にないでしょうか。ないようでしたら、このあたりで一応、佐藤先生のプレゼンテーションと質疑応答を終わることにいたしますが、よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。

【佐藤次高早稲田大学教授】 

 どうもありがとうございました。(拍手)

【伊井主査】 

 それでは、引き続きまして、2つ目の議題に入ってまいることにいたします。「人文学及び社会科学の振興について」審議のまとめということでございまして、これまでこの委員会につきましては、人文学及び社会科学の学問的特性とか社会的意義につきまして、委員の皆様からご発表を交えながら意見交換をしてまいったところでございます。ほんとうにさまざまなご意見を賜ったわけでございまして、それにつきましては、逐一まとめさせていただいておりますけれども、これまで事務局が人文学及び社会科学の振興に関する委員会における主な意見としてまとめて、毎回皆様のお手元にお配りしているところでございますが、ご存じのように、前回も井上委員から出たと思いますが、概算要求の時期でもございまして、このあたりでこれまでの審議内容を踏まえて、人文学及び社会科学の振興のための施策のあり方について、一度討議を行う必要があるだろうと考えているわけでございます。
 そこで、お手元の資料2のように事務局との相談の上、まとめさせていただいたのが「人文学及び社会科学の振興について」審議まとめ(案)でございます。このあり方に関しまして、論議の参考として、論点及び施策の方向性の案を提示したものとなっているわけでございますが、本日は、まずそれをご紹介いたしまして、次回、8月9日でありますけれども、この委員会の場でまとまった意見を、時間をとりまして論議をしていきたいと思っている次第でございますが、まず、資料2につきまして、事務局のほうからご説明をお願いいたします。

【高橋人文社会専門官】 

 それでは、資料2の「人文学及び社会科学の振興について」審議のまとめ(案)につきまして、ご説明させていただきたいと思います。
 これまで、本日まで6回にわたりまして、本委員会でご審議をいただいてまいりました。中間報告とかいうようなきちっとしたものではありませんけれども、6回ほどかなり濃密にご議論いただきましたので、一たんこのあたりで意見がある程度集約された部分を抽出して、先生方にご確認をいただこうかなという趣旨でございます。
 本日は、あと残り40分ぐらいでございますので、この案につきましてご説明させていただいた上で、次回の8月9日の委員会のほうで、ほぼ丸々2時間審議の時間ということになろうかと思いますので、そこでかなりご議論いただくのかなというイメージでございます。
 それでは、中身のほうを説明させていただきたいと思います。内容は、大きく3つの部分からなっておりまして、「1.人文学及び社会科学の意義」、それから「2.人文学及び社会科学の特性」、それから3ページのほうでございますが、「3.人文学及び社会科学の振興方策について」ということで大きく3つの部分からなっております。意義と特性のところが基本的な考え方で、3.のところが施策に結びつくような、そういった流れででき上がっております。概算要求の時期ということもありますので、施策につながっているようなところを主に抽出してつくっております。
 それでは、一つ一つご説明させていただきたいと思います。
 まず、「人文学及び社会科学の意義」という1.のところでございますが、こちらにつきましては、第1回目の伊井主査からのプレゼンテーション、それから2回目の立本主査代理からのプレゼンテーション、それから平成14年に出ております人文学・社会科学の報告がございますので、そういったものをミックスしながら、大体このあたりだったかなというところでまとめてみたものです。
 4点からなっておりまして、1つ目は、「英知の創造」ということでございます。人文学や社会科学は、人間の経済行動や社会の構造、機能といった「事実」の問題のみならず、人間が生きる意味や社会のあるべき姿といった「価値」の問題も研究対象としており、このような意味で、技術的な「知識」の獲得に加え、人間性や道徳も含めた「英知」の創造という、そういう役割を担っているのではないかと。若干いろいろ言葉などは補って少し膨らませてつくっている部分がございますけれども、大体このような趣旨の意見交換がなされたかと思っております。
 それから2つ目でございますが、「文化や価値の継承」でございます。人文学や社会科学には、研究活動を通じて、人類が創出してきた「文学」であるとか、「歴史」といった文化的なもの、それから「自由」や「民主主義」といった文化というよりは社会的な価値とでも言ったらいいのでしょうか、価値を時代を超えて継承していくと、そういう役割があろうかと思います。
 それから3つ目でございます。「社会における批判的役割」。人文学や社会科学には、地球環境問題や貧困問題などのグローバルな課題、それから少子・高齢化問題など我が国が直面するような課題、そういったものについて大所高所から必要な批判を行い、社会をよりよくしていくと、そういう役割がある。
 それから4つ目でございますが、「教育への貢献」でございます。人文学、社会科学には、人間や社会のあり方に関する見識や判断力を育成していくと。そういった観点から、次代を担う人間を育成していくという役割があるというふうに考えられます。
 次に、特性でございます。こちらにつきましては、研究の方法に着目した形で学問的特性の、これまでプレゼンテーションを何人かの委員の方々にお願いをして行っていただいたところですが、そういったものを踏まえて集約してみると、こんなところかなという形でまとめさせていただきました。
 まず、「人文学の特性」でございます。人文学は人間を研究対象とする学問であると。したがって、哲学や思想といった価値の問題それ自体が研究対象となり、一つの価値基準のもとで研究を進めることのできる自然科学とは性質を異にしている。
 それから2ページでございます。「社会科学の特性」でございますが、社会科学は社会現象を研究対象とする学問である。自然現象を研究対象とする自然科学とは異なり、社会現象を構成する人や集団の意図や思想を取り扱うことが不可欠であり、そういった意味で複雑な問題を取り扱っている。人文学と同じようなことでございますけれども、社会科学のほうは留意事項みたいなのがありまして、ただし、人の(外形的な)行動を測定するなど、自然科学的な研究手法をベースにできる部分も社会科学の場合はかなり大きいのではないかというふうな形でまとめさせていただいております。逆にするという考え方もあろうかと思います。
 それから3番でございますが、研究方法の観点から人文社会科学の学問的特性を考えてみると、こんなところではないかということでまとめさせていただきました。人文学及び社会科学は、自然科学のように客観的な証拠に基づき「真実」を明らかにするのではなくというか、というよりはというかもしれませんが、説得的な論拠により「真実らしさ」を明らかにすることを目指すものである。一見科学的に見える方法でも、どれだけ多くの人が真実らしいと考えられるかという人々の主観に依拠していると言ってよい。
 2つ目の丸でございます。人々の主観に依拠し、研究方法の精密度に限界があるため、現実の人間の在り方や社会現象についての理解には不十分である場合があり、研究者の多くが現実の解釈や現実の理論の適用という結論の段階で、一定の飛躍をすることは避けられないという特性がある。
 以上を踏まえまして、研究方法の観点から人文学及び社会科学の特性を考えますと、言葉による意味づけや解釈という研究者の見識や価値判断を前提とした伝統的な方法と、人間の行動や社会現象などの外形的、客観的な測定を行う科学的な方法とが併存しているということになろうと思います。
 まず、伝統的なほうですけれども、伝統的な学問観といいますか、伝統的な人文社会科学観によれば、人文社会科学の学問としての特性は、1つは、自然言語により記述する学問であるということ。それから2つ目は、解釈を通じた意味づけを行うようなタイプの学問であるということ。それから3つ目は、非実験系の学問であるということの3点にあると考えられる。さらにつけ加えて、そういった伝統的な見方の一方で、人文社会科学におきましても、自然科学類似の研究方法を活用すべきであるという考え方がある。この考え方からは、数理的な研究手法であるとか、実験的な手法、フィールド研究などの科学的なアプローチに基づいてなされるものと考えられる。
 3ページでございます。今のような1番、2番、意義、特性を踏まえて施策を考えてみると、このようなことではないかというのが3ページ以下でございます。議論をやや膨らませたところもございますが、1、2のような形で議論がなされていますので、そういったものを踏まえると、やや膨らませて書いてありますが、このような形で展開されるのではないかというような形でまとめてあります。
 まず、自然科学のほうから考えてみるのですが、現在、自然科学分野の研究については、おおむね以下のような施策の体系、全体の体系の中で支援や推進を行っていると。自然科学のほうがより支援のメニューが広いですので、それを見ながら人文社会科学の振興にあたって、どのような方策をとっていくべきかをまず考えることが必要ではないかと思われます。
 1つ目ですが、施策としては、まず大きく、(1)の学術研究を支援するタイプの施策と、それから(2)でございますが、政策目的の達成に向けた研究開発を推進するための施策ということで、大きく2つに分かれると考えられます。
 1つ目の学術研究支援のほうでございますけれども、これは科研費でありますとか、それから大学などの組織への助成であります教育研究一体型の競争的資金、COEでありますとか、「魅力ある大学院教育」イニシアティブ、あるいは現代GPとか、そういったタイプのものがあります。それから3つ目で、国立大学運営費交付金、私学助成などを通じました教育研究組織の整備支援、こういう支援メニューが性質に応じてあろうかと思います。
 それから2つ目の政策目的のほうですけれども、こちらは4つ掲げてございます。1つ目は、研究課題等を定め、公募、採択方式で実施する各種研究プロジェクトでございます。例えば、文部科学省のほうで研究目的とか、研究領域とか、そういったものを定めながら公募をかけるというタイプでございますけれども、例としては、新興・再興感染症研究拠点形成プログラムでありますとか、分子イメージング研究プログラム等々文部科学省のほうで分野を振興するためのプログラムということで用意しているようなタイプのものがございます。
 それから2つ目でございますが、科学技術振興機構による政策目的型研究推進のための事業ということで、戦略的創造研究推進事業というのがございます。ほかにもたくさんございますけれども、いわゆる政策目的型の基礎研究を推進するタイプの事業でございます。
 それから3つ目ですけれども、研究開発型独立行政法人による研究開発の推進ということで、理化学研究所でありますとか、物質材料研究機構等々のいわゆる政策目的型の研究開発独法を設置して、特定の研究を推進していくというタイプのものがあります。
 それから4つ目として、文科省以外の各省の政策に基づく政策的な研究資金ということで厚生科研費など、ほかにもたくさんございますけれども、そういったタイプのものがございます。おそらく自然科学まで含めて全体で考えますと、こういうメニューがあると。人文科学は主に(1)の学術研究支援施策の中でこれまで支援が行われてきたと、これは事実確認ということでございます。
 というふうに現状を確認した上で、3ページの下のほうでございますけれども、自然科学と、特に研究方法につきまして、これまで議論いただきましたので、特に自然科学と同様の研究手法による人文学・社会科学の振興、そういったものを考えるとどういうことになるかなということで、3ページ以下でございます。
 以下の3点につきまして、基本的な考え方としてはどうかと。ここは直接まだご議論いただいたわけではありませんので、疑問文の形で今は書いております。また、次回、次々回でご議論いただきたいと思っております。
 1つ目は、自然科学と同様の研究手法によらない人文学及び社会科学分野の研究については、今後とも継続的に研究のあり方を検討すると。この意味は、伝統的な人文社会科学については、まだあまりご議論いただいていませんので、これは今後の課題ということが1番です。
 それから2つ目でございますが、自然科学と同様の研究方法による人文学及び社会科学分野の研究については、自然科学分野における研究に対する研究政策をそのまま適用する。一応肯定文になっていますけれども、適用することは可能ではないでしょうかという問いかけでございます。これはこれまで委員の皆様方にご議論いただいたさまざまな研究方法に基づいて、自然科学類似の研究方法につきまして、これまでプレゼンテーションいただいたと思っておりますので、そういったタイプのものについては、特に政策目的型の研究開発推進施策にあたるようなタイプの振興策が考えられるのではないか、そういう意味でございます。
 それから(3)でございますが、(3)はいわゆる融合型ということで、融合型のものにつきましても、基本的には(2)と同様と。自然科学同様の研究方法による研究と同様、いわゆる政策目的型の振興方策というのがとれるのではないでしょうかという問いかけでございます。ここがいわば施策の総論の部分でございますが、4ページは各論ということになろうかと思います。3ページの問題の立て方と必ずしもうまくつながっていないところもあるのですが、各論ということでご説明させていただきたいと思います。
 まずは、「政策や社会の要請に応える研究の振興」ということでございます。これまで、我が国の人文学及び社会科学の振興方策は、研究者の自由な発想に基づき行われている大学等における学術研究を主に対象としてきたと。しかし、地球環境問題とか、貧困問題などのグローバルな課題や、少子・高齢化問題など、そういったさまざまな問題がございますので、人文学や社会科学に対する政策や社会の要請というのは今後ますます高まることが予想されると。こういったことも踏まえまして、学術研究に加え、政策や社会の要請に応える研究の振興というのを図っていくことが重要と考えられると。学術研究を振興しないという意味ではなくて、学術研究を振興することに加え、政策的なものも振興してはどうかと。これは先ほどの方法に基づく議論とはまたちょっと違う理屈立てで、政策や社会の要請に応える研究が大事というようなことを言っているわけですけれども、そういった2つの理屈からこういうことが言えるのではないかということです。
 それからこういった政策や社会の要請に応える研究におきましては、従来からの人文学的な研究手法も重要ですけれども、一方では、より自然科学と同様の研究手法を援用していくことも考えられるということで、政策や社会の要請に応える研究は比較的、実証研究という位置づけで、そこを支援していくような仕組みというのが必要なのではないでしょうかと、そういう問いかけです。
 それから次の2つ目でございますが、「国公私を通じた共同研究等の振興」ということでございます。これは研究環境基盤部会のほうでの議論などもこちらにご紹介するような観点も含めてここに書かせていただきましたのと、本日、佐藤先生にプレゼンテーションをいただきましたテーマとも絡みますので、ちょっと先取りみたいな形になるのですけれども、書かせていただいております。人文学や社会科学の研究者は、国立大学のみならず、私立大学等に数多く在籍しているが、少数の研究者が多数の大学に散在しており、共同研究の実施などに課題があるのではないかと思われます。このため、国公私等を通じた研究のネットワークを構築し、共同研究の推進や共同研究拠点の整備を図ることにより、我が国の人文学及び社会科学の発展の契機とすることが必要ではないでしょうかということでございます。
 2つ目の丸ですが、そういったネットワークの構築にあたりましては、調査データや資料等の集積がある大学とか、あるいは規模は小さくとも特色ある研究が実施されている大学など、いわばハブ機関とし、当該研究の拠点を育成していくという視点が重要ではないでしょうかという問いかけでございます。
 それから次に、科研費の関係でございますが、科研費において人文社会科学研究をどう考えていくかということでございます。これは、伊井先生からのプレゼンテーションの際に、科研費の中で人文社会科学に対する配慮のようなものが必要ではないかということもございましたので、書かせていただいております。人文学や社会科学の振興のためには、科研費のうち、研究費の規模が比較的小さな研究を対象とした研究種目を充実することが必要ではないでしょうかというものでございます。
 それから最後に、研究成果の海外発信ということでございます。我が国の学術研究の優れた成果を世界で利用可能なものとすることが重要である。日本語で書かれた研究成果の中で、質の高いものを大量に翻訳して出版するといった取組が必要であり、そのための組織整備や人材育成が今後重要となっていくということでございます。
 以上、意義、特性を踏まえて、施策についての、ここはあまり議論はいただかなかったのですが、施策についての総論的な見取り図、設計図といいますか、お示しした上で個別の施策の各論についてご説明をさせていただいたということでございます。
 私のほうからは以上でございます。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。いろいろご議論もあるところだと思いますけれども、少し残り時間でこれにつきましてご検討いただきまして、具体的にまた次回、詰めていきたいと思いますが、どうぞ。

【谷岡委員】 

 大阪商業大学の谷岡です。人文学及び社会科学の振興に関する委員会というので、いろいろなむだに使われているお金を、もうちょっと有効に使われるように変えていくのかという議論がとりあえず中心になるのかな。その中で予算も増やしましょうどうしましょうという観点も入れるのかなという感覚も実はございましたが、今までいろいろお話を伺っていた範囲では、例えばCOE、科研費であるとか、フロンティアであるとか、独立行政法人であるとか、日本学術振興会の人文・社会科学振興プロジェクト研究事業であるとか、きょうお聞きした人間文化研究機構の予算であるとか、人文社会にも別々に脈略なくと言ったら怒られますけれども、少なくとも横の連絡があまり感じられない範囲で、実はいろいろな方面に分野が分散しているような気がいたします。
 もちろん、それは結構でございますし、今後も自由競争の部分の予算と政策誘導の部分と分けて考えられるべきだと思いますので、それは全然気にならないのですが、今までの主導、国公私の例えば研究ネットワークを構築しというのを見ておりましても、大体今まで、大きな学会の大きな大学の有名な先生方のほうにわりとたくさんのお金が回っているように思いますが、私は逆だと思っております。というのは、小さい学校や新しい分野、トピックほどネットワークが構築しにくい部分がございますので、世の中に必要ではあるけれども、まだ分野としては小さな分野のほうによりいろいろなネットワークをつくるための資金といいますか、お手伝いをしてあげるほうが有効なのではないか。
 ですから、もちろんうまくおまとめいただいたのは大変評価しておりますけれども、今後、今いっぱい出てきた競争的資金にしろ、政策誘導の資金にしろ、一体人文社会科学にどれだけのお金がトータルで流れていて、それが一体どんなふうになっているのか。ちょっと一度紙にまとめていただけると、今後我々が議論するのにありがたいなというふうに考えておりますので、これはお願いとして、どれだけの今までいろいろな科学研究費にしろ、COEにしろ、とにかくどういったお金がどういうふうに流れていたのかというのをもう一度概略をまとめていただけないかということです。
 以上です。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。この委員会は人文学・社会科学の振興についてどうするかということで、今まで5回いろいろな形でプレゼンテーションしていただいたものをまとめて、審議のまとめとしてこういうふうにして、そしていよいよ具体的に概算要求をどう出すかということになるわけですが、今おっしゃってくださった谷岡委員の場合には、いろいろな人文学についても予算があちらこちらに散らばっていると。COEもあるし、科研費もあるしというようなことだと思いますが、確かにおっしゃるように、さまざまな支援施策はあるわけでございますが、かといってトータルとしてはその額は大きくないのだろうと思いますけれども、これはこちらでちょっと検討させていただいて、どういうふうに分けることができるのかですね。

【谷岡委員】 

 いや、分ける方法は結構です。ただ、だれがどういうふうに評価するのかとか、そういったところもちゃんとしておいていただかないと、評価軸が示されないのに、いつの間にかこういうプロジェクトはどこどこに決まりましたと言われても、我々としては納得しがたい面があります。文句つけているわけではないのですがね。ですから、評価軸が示され、公募があってこうだよと言うのであれば、それは結構ですし、政策誘導だからこうだよというのも結構です。ただ、どっちなのか、どうなのかというのが我々知らされていないので、そこのところを何とかということでございます。

【伊井主査】 

 COEであれば、21世紀COEなりのそれなりの評価なり、成果は出ているというふうに思っておりまして、科研は科研なりのそれぞれの評価、あるいは成果、勧告というのは出ていると。これは人文社会科学だけではなくて、理系を含めてすべての分野においてそうであろうと思っておりますが、予算をどうしていくかということにつきましては、今までの過去の例を振り返り、反省しながら進めていかなくてはいけないと思っておりますので、これはまたこちらのほうで検討をさせていただくことでよろしゅうございましょうか。
 どうぞ。

【井上(孝)委員】 

 この委員会で精力的に人文学及び社会科学の意義とか、あるいは特性、そういうものを議論して、結局はそれらの各人文社会科学の分野の振興をどう担保していくかということになると思うわけで、その場合、振興方策を見直して、その中で人文学・社会科学への研究資金の投入が自然科学に比べて、どうしても従来少なかったから、この際、人文社会、自然を通じた共同研究も必要であるし、前回も文理融合の研究が今後は多くなるので、そういうものについても配慮すべきだというご意見があったと思うわけで、そこで、実は研究費部会を先般行って、その中で学術研究支援策の中で科学研究費が一番中心になるわけでございまして、従来は、どちらかというと自然科学系に重点が置かれていたので、人文社会学等の研究に十分配慮した科学研究費の配分をすべきだと思います。
 それとともに、やはりそれだけでは必ずしも十分じゃないというのがあって、人文社会系は、どちらかというと大規模な自然科学系のような施設設備とか、研究施設というよりは、やはり研究者を中心として、大学共同利用機関でももちろん人文社会系の研究所がございますが、今後の新しいやり方としては、きょうイスラーム研究についてのネットワーク型の研究についてご説明がありましたので、そういうような研究を通じて課題をある程度、人間文化研究機構などそういうところで課題を設定して、そこを通じた研究費の確保は、確かに一つの方法ではないかと思っているわけでございまして、今、新しい動きがあるものについて、人文社会科学でそういうものを応用できる、適用できるような研究費確保の振興方策を次回でさらに、研究者の皆様方が経験されている、そういうものを生かした振興方策を議論していただけたらと、このように思います。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。今、人文社会科学につきまして真剣に考える委員会というのは、国ではここしかないというふうな状況でありまして、何とか我々はこれを大事にして、この委員会でさまざまな具体的な審議を重ねながら提言をしていきたいと。そして、できれば、学術研究というものは、最終的には人文学・社会科学、個人に期するところがかなり大きいと思いますけれども、政策提言によってでも、人文学・社会科学を推進していくということができればありがたいというふうなことを思っている次第でございますけれども、そのほか何か。どうぞ。

【飯吉委員】 

 自然科学者の立場からちょっとコメントさせていただきたいのですが、この中で、かなり人文と社会科学を意識したというか、表現が幾つかあって、先ほど来出ている自然科学との、今切っても切れない課題が幾つも世の中には提起されているわけです。ここにも書いてある地球環境の問題とか、今ほとんど社会的に問題になっているものは、みんな科学技術だけじゃとても解決できない問題ばかりです。だから自然科学者としても、ぜひ人文社会科学の応援をもらわないと、こういうことはできないだろうと。同じような意味で人文社会科学の先生方も自然科学者の、ですから連携ということが非常に大事だと思うのです。連携研究というか、そういったこと。それがこの表現の中に一言も入っていないものですから、ぜひ今後お考えいただきたいということでございます。
 何も社会科学に、ここでは自然科学と同様の研究手法を採用することって、かなりそっちの手法を自然科学から取り入れてというようなことをいろいろ書いていただいていますけれども、あまりろくなことがないと思います。ですから、社会科学・人文学はそれなりの方法でしっかりやっていただいて、そして自然科学のほうは自然科学のほうでしっかりやって、ただ、ある共通のテーマをできるだけグローバル、広い、いろいろな研究者が参加できるのはいいのでしょうが、ある程度明確にしたようなテーマをセットして、それで社会科学へと人文系、自然科学系を一緒になって研究するという、この連携研究の問題をぜひどこかに書き加えていただけるとよろしいのではないかと思います。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。それは今までも文理融合ということで出てまいりましたので、ぜひとも。どうぞ、今田委員。

【今田委員】 

 2点ほどお話ししたいのですが、1つは、研究のネットワークづくりのお話が出たので、その印象なのですが、人文社会科学で、私の個人的な経験からいって、どこかの大学の学部とか専攻がハブ機関になって、それを中心にしてネットワークでまとめるというのは、ほとんど無理だと思います。なぜならば、僕、理系にいますから理系の研究室を知っています。一番上にプロフェッサーがいて、それから助教授がいて、助手がいて、今は助教ですか、大学院生がずらずらっといて、要するに兵隊さんが二、三十人います。これで一つのテーマをわっとやるというぐらい労力が結集できます。それでハブになっていろいろなところとネットワークの調整をするというのはできると思うのですが、人文社会科学は、多分おそらくどこもそうだと思いますが、そういう組織になっていない。多くの先生方は一匹オオカミでおやりになっている先生とか、あったとしても、学科の中でも、例えば、私、社会学ですが、社会学でもいろいろな分野の先生がいて、あなたはそっちやっているけれども、自分はこっちだからというので、学生の大学院生も兵隊さんになるような者はそんなにいないというような状況になっているので、何が言いたいかというと、ほんとうに人文学・社会科学でやるなら、先生を大学から外して、前も言いましたが、どこか研究所機関、限定つきの10年なら10年の研究機関に集めて、そこですべてから解放されて、その研究に集中して、というようなハブをつくらないと、ちょっと効果が期待薄なのでは、せっかくやるのだったらそれぐらいしたほうがいいのではないかなというのが一つです。ほんとうにそういう新しい世界に誇れるような業績をつくるなら、それぐらいやらないという。
 それから文理融合型のことに関して、今、学術会議で第1部の人文社会と第2部の生命科学と、第3部の理工学、これの合同でリスク社会における安全・安心研究を立ち上げようとしています。これがまた大変です。それぞれの部のセクションのリスクをやっておられる先生方の立場があります。そこはこっちでやっているのだから、共同でやる部分はそこを外さないといけない。そっちはこっちをやってくれるなというようなことが結構あって、その調整が大変ですけれども、でもまあ、要するに大きなリスク社会で安全・安心を確保するには、理系の先生方も十分リスクコミュニケーションといいますかね、リスクについていろいろな人たちが相談し合って合意形成して、リスクに対応する対処の仕方とかというのが必要で、これは文系の先生方が入らないとうまくいかないというので、リスクのアセスメントに関しては理系のほうが環境アセスメントと一緒で強いから、これでコラボレーションして、最終的にリスクマネジメントのあり方というものも総合的なものを出しましょうということでようやく落ち着きそうなのですが。そういうのがあって、それは個別の大学から離れています。というような感じで、少し大学での教育、行政業務からある程度フリーになったところでやらないと、なかなか人文社会と理系のコラボレーションはやりにくいかなという感じがしています。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。そういう場は学術会議ぐらいしかないだろうと思います。理系と文系とが一緒になって新しく融合してやっていくというのはね。あと1つ目のところは、確かに一つの大学では拠点としてはなかなか難しいところがあるというので、自分のところに引きつけるようですが、大学共同利用機関というものがあるものですから、4つの機構がありますので、何とかそういうふうなものを活用して拠点づくりというようなことでネットワークしていくことができればいいだろうなという気はいたしますけれども。
 伊丹先生、どうぞ。

【伊丹委員】 

 先ほど飯吉委員が自然科学的な研究方法を使うと、ろくがないとおっしゃった。大変安心いたしました。ろくなこともたくさんあると思いますが、変にまねし過ぎると、ろくなことないというのはそのとおりで、したがって、政策目的、社会に有用な研究ということが必要だということをうたうためのロジックとして、「自然科学と研究方法が似ている分野については」という、こういうくくりはやめたほうがいいのではないでしょうか。何かちょっと人文社会科学者として恥ずかしい気がする。ぜひその次のページの「政策や社会の要請に応える研究の振興」という、ここの段落だけでよろしいのではないでしょうか。

【伊井主査】 

 わかりました。どうぞ、西山委員。

【西山委員】 

 振興することは明快ですが、結局、先ほど谷岡委員のご発言にもありましたように、現状やっている基盤的なことと全体とのバランスがどうですかということではないでしょうか。私は企業人ですから、その立場で申し上げますと、つまるところ、時間が限られている中で、資源をどう配分するかということになりますから、何をもって優先順位を高く選定するかということの合意に立つほうが非常にはっきりするわけですね。ですから、全体を振興するとなったときに、過去の人文社会科学のバジェットはこれだけあり、じゃあ、10%か、20%増額しましょうとするのか、増額するのであれば、何にそれを充てようとするのか、優先順位はどういう考え方でやるのか、というようなことが決まらないと、現実の政策にはつながらないと思うのです。
 今この程度の状況だと、8月の概算要求には多分間に合わないと思います。私が言ったようなことの具体的なアイデアが今回もう既に出ていて、こういうのをやりたいという人があったときに、どの順番でどういうふうにやるのが一番いいのかということをクリアにしないと、現実の政策につなげることは私にはできないように思えるのです。企業はそういうことばかりやり過ぎのようにやっていますけれども、国としても、お金には限界があるわけだし、時間にも限界があるわけだし、何事もすべてやるということは絶対にできないわけですから、走りながらやっていく際に、今回はここをやりましょう、でもほんとうのあるべき姿は、来年まで時間をかければ、ちゃんと仕組みも含めてできますねというような整理をすることが現段階では最も望ましいのではないでしょうか。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。今後の見通しについて、ちょっと事務局のほうから何かございますでしょうか。

【高橋人文社会専門官】 

 今後というのは、この2年間ぐらい。

【伊井主査】 

 ええ。概算との絡みでですね。

【高橋人文社会専門官】 

 概算要求との関係ですと、この審議のまとめ案につきまして、本日頂戴したご意見であるとか、また、私どものほうでいろいろ考えたことなど、伊井主査ともご相談しながら、次回にまたこれを膨らませた形でご提案をさせていただくことになろうかと思います。
 それからもう少し先のことですけれども、今、審議のまとめは概算要求向けという面もありますので、このまとめのご審議が一段落した段階で、より中長期的な観点で、特に人文学のお話がまだなされておりませんので、人文学の話であるとか、そういったところを含めまして、2年間きちっと使って、中長期での施策というのを考えてまいりたいと思っております。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。何かほかにございますでしょうか。

【白井委員】 

 今、西山委員から、もうちょっと具体的にきっちりしないと、こんなものではとてもじゃないけど予算に反映せんというお話だったのですが、これはかなり考えていただいたまとめになっていて、私はそんなに反対じゃないのだけれども、少しまだこれだとパンチ力に確かに欠けるなというのは否めないかなという気がする。とりわけ、人文学とか、そういうのはあまり世の中に役に立たないのが伝統的なやり方であって、そうなんだという議論もありましたけれども、しかし、そういう部分ももちろん非常に重要なのだけれども、それは従来からあるわけであって、科研費の充実だとか、そういうところで十分主張すべきだと思います。一方で、せっかく政策的なという部分をきっちりやらなきゃいかんと、人文社会科学でもですね。あるいは融合的な学際的な手法があるもしれないのですが、そういうことでやっていかなきゃいけないという部分で、そこをもう少し具体的にきっちり出さないといけないのではないかな。
 それからそういうふうに見ますと、1番目の意義のところで、3番目に社会における批判的役割。批判的なだけじゃしようがないので、ちょっと言葉が少し引いているというか、全体のトーンがですよ、そういう感じがします。もう少し踏み込んで人文社会科学はこういうふうに貢献する部分があると。あるいはほんとうにベストをつくっていくのだと。これはまさに伝統的な手法かもしれない。そういうところをもっと自信を持った打ち出し方にすべきだという気がちょっとしますね。
 それからもう一つは、国際性ということの、国際的な役割というのかな、人文科学、あるいは社会科学というのが、これから日本人ももっと外に出てやらなきゃいけない。ボランティア活動で世界がよくわかるかとか、いろいろ問題が出てくるかもしれないけれども、NPO、NGOなんかも含めても、そういうところにも学問のバッググラウンドを持った人がもっと出ていっていいわけですよね。自分の研究もやっているかもしれないけれども、そういう活動に参加しているということも大いにあり得るわけでしょう。ですから、それはその中である部分の自分の研究として、政策的な部分のある一端を担ってやるということだってあり得る。あまり学問学問と言わないで、我々学問だが、そうではあるのだけれども、特に人文社会科学のこれからの重要性、特に日本が世界貢献できるという分野の非常に大きな部分だと思います。そういう意味で、そこをもっと明確に打ち出さないと予算にならないのではないかという気がするんですが。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。非常に力強いお言葉でありまして、人文学は役に立たないとしょっちゅう言われるものですから、控え目に申し上げているところでございますけれども、文科省のほうとはいろいろ打ち合わせてわかるのですが、財務省に持っていくと、役立たないものはしようがないじゃないかということになりかねないので、何とか理論武装しなくちゃいけないと。それで自然科学的な手法も要るのだというようなことを述べてはいるのでありますけれども、これを次回はもうちょっと練っていただきまして、こちらもちょっと考えまして提案し直して、次回は具体的に話をしていただこうと思っております。非常にたくさんのご意見を賜りましたので、まとめて次回ということにしていこうと思います。
 時間になりましたものですから、本日の会議はこのあたりで終わらせていただきまして、次回のこと等につきまして、事務局からご説明のほどお願いいたします。

【高橋人文社会専門官】 

 次回以降の日程でございますけれども、資料4をごらんいただければと思います。次回、第7回につきましては、8月9日木曜日の15時から17時、霞が関東京會舘「シルバースタールーム」、この部屋でございます。こちらの部屋で開催させていただきたいと思います。また、第8回としては、8月22日の水曜日、この霞が関東京會舘「エメラルドルーム」、別の部屋ですが、同じフロアでございますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 それから資料につきましては、封筒に入れていただきまして、机の上に置いておいていただければ郵送させていただきますので、よろしくお願い申し上げます。それからドッチファイルにつきましては、机上に置いておいていただければと思います。
 以上でございます。

【伊井主査】 

 ありがとうございます。
 これまで6回はそれぞれプレゼンテーションがあったのですが、次回は今の人文学及び社会科学の振興についての審議のまとめにつきまして集中的に審議をしていこうと思っておりますので、よろしく、またご意見等がございましたら、前もってご連絡いただければと思います。どうも本日はありがとうございました。
 

 ―― 了 ―― 

 

(研究振興局振興企画課学術企画室)