・論文数・被引用回数のシェアをみると、日本の水準が他の主要国に比べて低落傾向にあるのではないかと危惧する意見がある。
・科学技術基本計画では「基礎研究の推進」が記述されているが、これと「学術研究」との関係や、学術研究を推進するための方針が明確になっていない。一方、現実を見ると基盤的経費が削減される一方、重点分野の研究やプロジェクト研究に対し投資が集中しているのではないか。
・本委員会では、学術の本質論について検討し、中長期的な構造的変革につながるような議論や、研究の集積が社会に対してもたらすインパクトを踏まえた議論が必要ではないか。
・学術は、英語で言えば、Liberal Arts & Sciences である。
・サイエンスの根幹には、好奇心がある。好奇心こそが無から有を生み出す基盤である。知的好奇心を源泉とする自由で自律的な研究の中から、オリジナリティある新たな学問の創造や知のパラダイム転換が生まれるものであり、また新しい技術革新や文化の創造を通じて社会に大きく貢献する。
・一方で、学者には学問を体系化し、世の中の人が一般に参照するような教科書やリファランスを作り、リベラルアーツを創りあげていく役割がある。
・学術研究は、あるものの探求である「認識科学」とあるべきものの探求である「設計科学」とに分類できるのではないか。また、双方の関係は、二極的なものではなく、インタラクティブな関係にあるのではないか。
・学術研究は、基礎研究から応用研究に至る幅広い意味で捉えるべき。
・人類全体の英知を生み出す基礎研究に貢献することや、人材を供給することは、日本が世界に果たすべき国際責務である。
・学術の発展は、我が国の文化力や国際競争力を高めるものである。理工系は日本の経済・社会を支え、人社系は日本のビジョンを支える。
・自由な発想に基づく研究は、新しい発見や世の中を変革する力になる。
・学術研究の意義は、文化や歴史に貢献し、人間の持つ可能性の拡大という視点からも重要。
・学術研究は教育と表裏一体であり、大学の先端教育は学術研究なしではありえない。研究の衰弱が、教育の危機的な状況を生み出す。
・アメリカでは、面白そうなテーマがあると、方法論の違う人たちが集まって議論をし、そこにお金を出す仕組みがある。3~4年うまく回ることで、今までにない新しい学問分野がでてきて、変わるということが起きる。日本には、社会的な課題に対していろいろな分野の人たちが集まって考える仕組みがない。
・学術の発展のためには、寛容性、価値観の多様性という考え方を復権していくことが必要であり、自由で闊達な議論を保証することが必要。
・政府主導の研究に対して、大学等を拠点とする学術研究は、効率性ばかりを追求するのではなく、大学の自治や大学生・大学院生の存在といった、大学ならではのメリットに着目して、その意義を考えていく必要がある。
・学術研究は、我が国だけで研究を進めたり、先端的な研究だけを追い詰めて発展するものではない。
・新しい学問の創造を目指し、大学の制度や研究者の領域意識を壊すくらいの発想で、異分野交流のための仕組みをつくることが必要ではないか。
・公財政支出が伸びない状況にあるが、我が国が世界の学術水準に伍していくためには、研究組織の整備など、研究セクターの規模拡大を目指した投資の拡充が必要ではないか。
・一方、これから人口が減少し研究の担い手が減っていく中で、全ての学問領域をカバーしていくことができるのか議論が必要ではないか。
・各分野一律の制度を設けるのではなく、それぞれの特性に応じた研究支援体制、資金配分、評価などを実施すべき。
・日本学術振興会などのファンディングエージェンシーが、もっと学術全体の方向をアレンジするような役割を持つべき。
・東京大学の調査によると、同大学の化学系は、研究レベルでは世界のトップ5と同水準であるが、教授陣の世界的知名度(露出度)、建物、衛生安全、教育環境などの観点を含めるとトップ10ぐらいになる。現状の研究レベルで、給与や生活条件、研究条件をそろえられれば、世界から相当トップに近い教員、トップの学生を引き抜ける可能性がある。
・研究環境という点で、技術者、事務職員などの人的な研究支援体制が重要な論点。統計上、大学における研究支援者数は増加しているが、定員削減の影響により、非常勤や任期付きの職員が増えており、経験や能力の点で問題があるとの指摘もあり、実データに基づいた検討が必要。また、当該分野の研究に精通した経験豊富なコーディネーターは大学のインフラとして重要であり、そのような人材の定着を図っていくことが重要。
・国立大学の法人化以降、大学教員の総勤務時間が増えているものの、研究時間が以前よりも相対的に減少し、組織運営に関わる時間が増えている。時間が取られているのは、評価業務への対応や、競争的資金を獲得するための作業など、従来なかった業務に教員が関わるようになったためであり、教員の負担を軽減する方策が必要。
・留学生のリクルートから生活面での対応まで日本では全て教員がやることになっているが、現場を知る留学生担当の戦略機構が学科レベルで必要。また、研究においても、アメリカのようにリサーチアドミニストレーターが必要。アメリカの大学の場合、学科の意思決定は、合議制ではあるが、チェアマンが給料も含めて全部コントロールできる仕組みになっている。
・我が国の研究所において共同研究を推進していく際には国際的な視野が求められる。国際共同研究を推進するうえでは、大学における受け入れ施設の整備、英語の出来るスタッフの配置、海外からの研究者が生活しやすいような環境の確保が求められる。また、国外からの資金を受け入れるようなシステムも作る必要がある。
・アメリカでは、高い事務レベルを有するかという点で秘書にランクづけがある。ランキングシステムには個々の好みがあるが、技量に応じて給料を保証し、流動性が確保されるシステムがあることで、事務作業に対する対応が好転するようにり、研究者が研究に従事する時間が確保できるようになると考えられる。
・技術者やリサーチアドミニストレーターなど研究を支援する人材の確保と資質の向上が必要。
・研究者と社会・学生をつなぐ事務機構の確立が必要。
・外国であれば、テクニシャンは確立したポストであるように、多様な研究基盤、研究を支える人材を適切に評価することを、研究者コミュニティの中に確立すべき。
・事務作業は事務が、テクニックのことはテクニシャンが、教育と研究は教員が担当するというように、職務を明確に分担すべき。また、大学教員の職務について、教育・組織運営・研究をどの程度担当するかは、個々にかなり差があってよいのではないか。
・我が国では、運営費交付金等の基盤的経費が減少し、競争的資金が拡大するという状況にあるが、基盤的経費と競争的資金のバランスが悪くなっているのではないか。
・リソースのないリサーチはあり得ず、インフラストラクチャーの充実は重要な課題である。近年、研究の基盤を支えるものが急激に脆弱化しているのではないか。
・研究設備の整備費が減少傾向にあり、更新時期を迎えた研究設備が多数ある中で、十分な整備・更新が困難な状況にある。
・本来競争的資金でまかなうべきではない大型設備のメンテナンス経費のようなものが、競争的資金でまかなわれる状態がある。
・運営費交付金で足りない分を科学研究費補助金でカバーしながら大学院生に対する教育を行っているのが実態である。
・文系の研究者の場合は個人研究のケースが多く、運営費交付金の減少によって、図書が購入できなくなるなどの問題が生じている。
・運営費交付金が削減される中で、現在の科学研究費補助金に対し、大学院の教育活動経費の充実、設備の購入、先端研究の実施といった様々な役割を期待する面もあるが、それでは本来の性格が不明確になるおそれがあるのではないか。
・研究設備に関する課題の解決にあたっては、設備整備と維持の予算が分かれていることなど、制度設計レベルの検討をすべきではないか。
・大学の研究設備については、先端的な研究教育に使われるため、産学連携でも使えないなど、学内の共同利用があまり行われていない、利用する研究者が限定されているという実態があるのではないか。これを広く利用させるようなシステムをつくることが必要。その際、オペレーターとなる技術者不足の問題も含めて検討することが妥当。
・大学等と資料館や博物館等との交流は個別的なものに止まっている。それらとの交流関係を深め、さまざまな資料を有効に利用することについてさらに検討すべき。
・日本の研究をレベルアップするためには、安定的・継続的な研究活動を支える基盤的経費を充実することが必要。そのためには、競争的資金に間接経費を措置するだけでは不十分であり、基盤的経費のための新たなファンディングの仕組みを用意することも含めて検討すべきではないか。
・科学研究費補助金は、我が国の学問や文化を支えてきた最も重要な研究費である。基盤的経費が削減される状況にある中で、我が国の文化や科学技術を担うため、科学研究費補助金を、大学における研究を支えるものとして、改めて位置づけていくべきではないか。
・文科系から理科系に至るまで分野の特性に応じた研究費の制度を設けることについても検討すべきではないか。
・統計上、博士課程修了者で「進路が不明確」という者が30%であり、また博士課程修了者の15%が進むポスドクについても、その後自立した研究職に就くチャンスが少なく、高齢化が進んでいる。計45%の人材が、社会的に不安定な立場に置かれている。
・優秀な学生が大学に残らなくなっているが、定職を得られない先行きに対する不安、定職を得るまでの期間が非常に長いこと、さらには、大学院在籍中、大学院修了後自立した研究職に就くまで、経済的問題をどうするかという問題に原因がある。
・分野によっては、ポスドクの大半がプロジェクト経費で雇用され、成果を出すための要員として期待されているが、ポスドクの時期を研究者を育てる期間と見る視点に立った支援策が重要。
・若手研究者のキャリアパスの問題は、人文学の分野でかなり深刻であり、我が国の教養教育の仕組みをどう考えるかという問題と結びついている。
・研究者養成は、例えば、西洋中世史の場合、資料を読むためのラテン語、アラビア語が必要であり、研究文献を読むための、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語をマスターしておくことが基本となりつつある。そして、留学して訓練を受けることも前提条件となるなど、研究者になるためのハードルが非常に高く、そのための期間も長くなっている。
・アメリカでは大学院は博士を育てる場所だというミッションがはっきりしているが、日本では大学院の教育ミッションが不明確ではないか。
・アメリカでは、企業や社会が基礎研究でトレーニングされた人を高く評価するという風土があり、このことが、アメリカの研究レベルの高さにつながっている。
・米国大学院制度は、オープンで流動性の高い米国社会の要請に最大限に応えるように発展してきた。「名声好循環」、「昇進基準の明確化」、「博士一貫制」など米国大学院の精神を日本に移植するにあたっては、日本の歴史・文化及び日本社会が大学院に求めるものは何かを十分に把握することが重要。
・我が国では、工学分野の博士が創造力や企画力など産業側が求める幅広い能力の水準を大学において身につけていないとの指摘がある一方、産業側においても博士レベルの人材の確保の重要性に対する認識が不足しているなど、大学側と産業側の認識に乖離がある。
・大学院教育の現状は、人文系に関して言えば、国際的に活躍できる研究者を育てるのか、国内向けの教育者を育てるのか、個人の関心で勉強を続ける場なのか、大学院の目標をどこに置くかで教育内容も抱える問題も異なる。意識的に国際的に活躍する学者を育てようとする人文系の大学院は日本の中ではわずかであり、大部分は国内向けの教育者養成か、大学卒業後に専門の勉強を続ける場所となっている。
・IT系では、ダブルメジャーという、ITをほかのところに転用する能力を養成する教育観が非常に重要になっている。また、新幹線のシステムやSuicaのシステムなど実社会で求められるものを、大学の教育だけでつくるのは不可能。このため、専門職としての教育とのバランスが非常に重要となる。
・第4期の科学技術基本計画に向けて、人材の問題は非常に大きなテーマに柱として立てるべきではないか。
・大学における研究組織を整備・拡充することを含めて、若手研究者のポストを確保するための方策を検討すべきではないか。
・ポスドクの将来の職場やロールモデルを社会の中に作っていくべき。そのためには、博士学位取得者の社会的役割を明示する必要があるのではないか。
・ポスドクのキャリアパスを検討するに当たっては、一律ではなく、各分野ごとの状況や特性を踏まえることが必要。
・大学に残ることが研究者として優れているという価値観が日本の中に根づいているが、多様な研究者としての発展の在り方を認識できる社会をつくるべき。
・優秀な学生が研究者の道を選択するインセンティブをつけるには、競争やハードルは当然あるとしても、経路とゴールがある程度見えるキャリアパスを考えることが必要。このような観点から、任期制や流動性の在り方について現状の見直しが必要ではないか。
・日本の学問をリードする若手研究者、国際的に活躍できる研究者に対しては、定職につくまでの間の経済的サポートが必要。大学院生に一律に補助するのは無理としても、将来の日本を支える人たちに対して何らかのサポートをするべき。その際には、選別・評価をどのようにして行うかが重要。
・基礎研究を行うドクターコースや企業を意識したコースなど目的に応じた教育システムがあっていいのではないか。
・大学院の質を向上させることが重要。博士の質を確保する観点から、大学院生の定員やその充足率の問題点について再検討すべきではないか。
・我が国の大学院の競争力を高めるためには、外国から優秀な留学生や研究者を獲得することを進めるべき。
・大学教員は主として研究業績で評価されているが、大学院教育の質を高めるためには、教育面での貢献を正当に評価する仕組みが必要。
(参考)
平成21年2月2日 学術分科会
学術は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての学問に及ぶ知的創造活動であって、人間の知的好奇心と自由な発想とを源泉として真理の探究を目指すものであり、その歴史を通じて人類文明の基盤を形成することを基本としている。このような観点から、従来、主に大学等における研究者の自由な発想に基づく研究に対する支援として、学術の振興が図られてきた。
しかし、今日、国際的な経済社会情勢の急激な変化や、研究者の流動化、国立大学の法人化等、大学等の教育、研究を取り巻く状況の大きな変化が見られる。また、昨年、我が国から複数のノーベル賞受賞者が出るなど、学術に対する息の長い支援の重要性について社会的な認識が深まりつつある中、改めて学術の基本的な問題について幅広く審議を行い、学術の振興のための施策を高次の段階へと進める必要性があると考えられる。
このような観点から、学術分科会の下に「学術の基本問題に関する特別委員会」を設置し、学術の意義や特性等を明らかにするとともに、近年の諸情勢の変化を踏まえつつ、次期科学技術基本計画も視野に入れて、学術の振興のための施策の方向性について審議を行うこととする。
(1)学術の意義と特性等について
(2)学術と社会との関係について
(3)(1)及び(2)を踏まえた学術の振興のための施策の方向性について
学術分科会に「学術の基本問題に関する特別委員会」を設置し、分科会の委員、臨時委員を分属す
るとともに、新たに専門委員を任命する。
(参考)
石井志保子 東京工業大学大学院理工学研究科教授
小林誠 独立行政法人日本学術振興会理事
主査 佐々木毅 学習院大学法学部教授
白井克彦 早稲田大学総長
柘植綾夫 芝浦工業大学長
三宅なほみ 東京大学大学院教育学研究科教授
家泰弘 東京大学物性研究所長
樺山紘一 印刷博物館館長、東京大学名誉教授
鈴村興太郎 早稲田大学政治経済学部教授・日本学術会議副会長
主査代理 谷口維紹 東京大学大学院医学系研究科教授
平尾一之 京都大学大学院工学研究科教授
磯貝彰 奈良先端科学技術大学院大学学長
郷通子 長浜バイオ大学特別客員教授
古城佳子 東京大学大学院総合文化研究科教授
中村栄一 東京大学大学院理学系研究科教授
沼尾正行 大阪大学産業科学研究所教授
鷲田清一 大阪大学総長
(平成21年4月1日現在)
高橋、中村、谷村
電話番号:03-5253-4111(内線4295)、03-6734-4169(直通)
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