第4期研究費部会(第19回) 議事録

1.日時

平成21年1月8日(木曜日) 10時30分~13時30分

2.場所

如水会館 「松風の間」

3.出席者

委員

 平野部会長、井上(孝)委員、笹月委員、鈴木委員、中西委員、深見委員、三宅委員、伊賀委員、石委員、井上(明)委員、甲斐委員、小原委員、垣生委員、岡本委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、大竹基礎基盤研究課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

 審議に先立ち、事務局より参考1-1に基づいて平成21年度科学研究費補助金の予算案について報告を行った。

(1)基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について

 事務局より資料2-1及び資料2-1について説明があった後、「基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について(提言)」について審議を行い了承された。

【平野部会長】
 前回の部会において、基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について議論していただき、委員の方々から大変多くの建設的なご意見をいただいている。そのご意見等を踏まえ、基礎研究・研究者の自由な発想に基づく研究について、提言という形で取りまとめている。さらに修正等のご意見があれば伺いたい。なければ、この形で最終取りまとめとしたいと思う。
 それでは、この提言を今月20日と23日に開催予定の学術分科会及び総会に報告させていただきたい。

(2)その他

 鈴木科学研究費補助金審査部会長より、資料3「『科学研究費補助金における生命科学系3分野(がん、ゲノム、脳)への支援の在り方について(審議のまとめ)(案)』の概要」に基づき報告があった。
 その後、岡本委員より、参考2「恩賜賞・日本学士院賞における『科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術図書)』の交付を受けた著作(岡本委員提出資料)」について説明があり、質疑応答を行った。

【平野部会長】
 出版への支援が非常に厳しい環境の中にあり、これまでも1つのアウトリーチとして検討が必要ではないかという意見があった。そういう中の1例としてご説明をいただいたが、何かこれに関係することで、出版等の問題も含めてご意見があれば伺いたい。

【山口学術研究助成課長】
 ご指摘いただいたように、厳しい予算要求の中で研究成果公開促進費は非常に厳しい状況になっているが、やはりこれについても、増額等を図ってほしいというお声をいろいろといただいている。

【平野部会長】
 どうしても全体が非常に厳しいので、これまでも予算要求の中での対応に苦慮してきたのではないかと思う。

【磯田研究振興局長】
 財政制度等審議会において、研究成果公開促進費のデータベースと学術定期刊行物について、経理の管理がよくないというかなり厳しい指摘を受けたことがあり、その当時に廃止も含めて検討した結果、かなりの予算削減になっている。その関係で学術図書に対する支援も非常に厳しくなったということである。従って、そういうことも含めて少し体制を考え直す必要があるし、また、作成していただいた資料は非常に有効なので、特に人文社会科学系において、いかに図書出版が長く研究を支えてきたかということを訴えてもらいたいと思う。

【平野部会長】
 人文社会科学系だけに限ることではなく、どのような形できちんとアウトリーチができるのかということを全体で考えていく必要があると思う。今日ここですぐに結論を出すということではない。状況についてご理解いただいたと思っている。

【岡本委員】
 少なくとも外に対する説明やアウトリーチがどのようになっているかということについてはプラスの資料だと思う。科研費が研究の役に立っているという説明の仕方はいろいろあると思うがこれも1つだと思う。今までこういうものがなかったということもあるので、考えればこういうプラスの説明ができる材料というのはいろいろあるのではないかと思っている。

【平野部会長】
 確かに、基礎研究がどのように人類や世界等の役に立ってきているかということは見えにくいと言われる。それに対して、どれかを取り上げてということは難しいが、すべての基本になっているといつも言っている。例えば、今、文部科学省自身もニュース等を出しているが、イノベーションの基として科学研究費が役に立っているというデータを、さらにアピールできるように加えておく必要があると思う。

【石委員】
 このような形で科研費のメリットを社会的に認めさせるためには、確かに日本学士院賞というのは1つの大きなタイトルかもしれないが、学界には他にもたくさんある。経済学関係でいうと、日経図書文化賞や毎日出版文化賞、サントリー学芸賞などたくさんあって、その中には出版助成を受けて受賞したものがかなりあると思う。この整理はなかなかつかないと思うが、誰が受けたかについては、過去何十年分は問い合わせればわかるので、著者に直接聞いてみるしかない。その価値はあると思う。毎年出ているのは五、六件、10年で50件ぐらいになるので、そのうち答えてくれるだけでもかなりのものが上がってくると思う。今、ここから受けた印象では、そういうことをもう少しやって、さらにプラスの相乗効果を持たせれば良いという気がする。理系にも結構あると思うし、また、賞の中身で良いとか悪いとか言ってもしかたがないので、賞をもらったらそれだけでプラスということで整理すれば良い。

【平野部会長】
 これも、自由な発想から始まった研究が何らかの形で皆さんの役に立つということが反映されているものになるので、やはりそういうデータをわかりやすく出しながらアピールするということが非常に重要だと思う。また、石委員が言われたように他の賞なども含めて拾っていただければと思う。

【深見委員】
 今の研究成果公開促進費のことで、人文系のことが全く分からないので少しバックグラウンドについて教えていただきたい。人文系においてこういう出版をする場合、全体というつかみ方が難しいと思うが、研究成果公開促進費が全体に占める貢献度はどのぐらいか、また、これ以外の科研費はどのぐらいの比率で、どのような形で出版に対する役割を担っているのか、そのあたりを教えていただきたい。

【岡本委員】
 私も人文系ではないが、科研費の中で本の形で出すものはこれしかないだろうと思う。そのほか、いろいろな財団や大学からの補助などを使って出版している。多くの場合、こういう本は印税なしで、いろいろな工夫をしながら補助をいただいて何とか出版していると思う。
 おそらく人文科学では、ドクター論文とか長年の研究をこういう本の形で出すということが、研究発信の重要な柱の1つなのではないかと思う。実は、私は、著作ではないが1回だけこの学術図書をいただいたことがある。東北大学にも和算関係の資料がたくさんあるが、宮城県立博物館に非常に貴重な資料が埋もれていて、それを発掘するということを人文系で行った人がいた。その資料が膨大なものになるが何とか公開したいということで、私は数学史として、その人とチームを組んで科研費の助成をいただいた。それは、資料であって、売り買いしても10万円ぐらいするものしかできないので、科研費の補助をいただかないと、到底何百部という単位ではつくれない。しかし、そういうものをつくっておくことは、論文ではないのでそのときの仕事にはならないとしても、若い人がその資料を見て、ほかの資料とすり合わせて研究の糧にできるので、科研費で補助をいただくのはとても良いことではないかと思って応募したという経験がある。

【石委員】
 私も人文系というよりは社会科学系であるが、私自身が三十何年前にもらった経験を言うと、幾つかのレベルがあって、本屋は科研費がないと引き受けないというのが1つ。それから、引き受けるが、補助を獲得することで価格を下げられ出版業界、出版社としてもプラスになるのでもっと頑張れという部分的なものと、全体の面倒を見るものとに別れていると思う。例えば、経済学では、学術書は2,000部ぐらいしか売れない。それでいいという人もいるかもしれないが、そうすると、何千万円とかかる印刷機を入れて、全体としてコスト計算ができる。私がこの科研費で三十数年前にもらったとき、二、三百万円で出版会社の総コストの1割ぐらいになったが、1割でも科研費が入ってくると、本来の定価が、例えば5,000円で売るところが、4,500円になる。そうすると、売れ行きも大分いいというような話にもなる。ただ、三十数年前の話で、今は大分変わっているのかもしれないが、現場の人は、幾らぐらい支援して、どういう効果があるのかということはつかまれていると思う。
 1つ気になったのは、ある出版会社でこれを専門に出しているところがあり、学術図書をもらった人をねらい撃ちしている。そういう変なマーケットができているのも事実で、最近はどうなっているかわからないし、それはそれでいいのかもしれないが、その辺の出版会社はかなりずさんで、それを食い物にしているというイメージもある。ただ、岡本委員が調べてくれたようなタイトルだと、本屋はまず引き受けてくれないので、そういう意味で、全体的に引き受けさせるために必要という触媒効果、呼び水効果が非常に強いと思う。
 もう1つ、価格面でのプラスを期待してということも文系にはあると思う。私は理系については分からないが、マーケットの大きさから言えば、理系のほうがもっと出版事情が悪いと思う。

【長澤企画室長補佐】
 学術図書の現状について説明させていただくと、平成20年度の応募採択状況は、791件の応募中224件が採択され、採択率は28%である。平均の配分額は164万円で、最高額は800万円である。学術図書は実費の精算払いであり、雑誌社が販売して赤字が出るようだと当然引き受けないので、その部分の支援を行うという仕組みになっている。

【平野部会長】
 出版については、文系だけでなく理系でも当然文化の一端を担っているので、きちんとしたものとして出すべきものは、何らかの形で社会に出せるような体制を維持しておいたほうがよいと思う。必要なところについては今後検討していただきたいと思う。
 本日は、第4期の最終の会合なので、これまでのことも含めてご意見があれば自由に承りたいと思う。

【伊賀委員】
 今の研究成果公開促進費に関連して、私も日本学術振興会にいたときにこれの審査を通じて見ていた。研究成果公開促進費自体は、今の学術図書、ジャーナルを発行するもの、データベースをつくるものと、大ざっぱに言って3つある。全体が12億円だとすると正確ではないが図書出版は大体3分の1ぐらいである。
 昨年、日本学術会議の金澤会長が、日本の文化、科学研究成果の社会的な発信ということを政府の方へ提言されて、私どももいろいろと議論をしていたが、それがこの研究成果公開促進費の役割の1つだと思う。ただ、どれだけ役に立っているかということを、今のような形で必ずしもアピールしてこなかったという気がするので、今回の試みは重要と思う。また、学会が発行するジャーナルへの補助も非常に膨大な数であり、外国の『サイエンス』や『ネイチャー』などの商業誌と比べても、ボリュームとしては莫大な量を出しているので、そのような文化の量というものを明示すべきだと思うし、学術図書はこういう形で他の賞でもどれだけ貢献しているかということを出すべきである。データベースは、ただ単にデータをつくるというだけではなく、古い資料を読み下しながら、それを電子化したり復元したりするという研究とデータベース作成の両方を支援している部分が非常に大きい。そういうところをこれから主張していく必要がある。
 不幸にして、データベースを入れるために、ある研究者が汎用商品を買ったことがあり、それは音楽を聞くためのものであり、不正使用であると指摘された。その翌年にこの研究成果公開促進費が減った。ある種の誤解に基づいて調査をしたものを新聞が書いて、それが直接影響したとその時関係者は認識したが、それで予算が減って苦しい状況になっている。データを蓄積する道具を自前でつくるとコストが10倍にも100倍にもなるので、一般製品を制度的にはきちんと使っていたということで非常に残念に思った次第である。そういう意味でも、研究成果公開促進費の持つ意味をアピールする方法を将来考えていただくとよい。

【平野部会長】
 今の研究成果公開促進費も含めて、皆さんに科学研究費補助金全体を理解していただけるように当事者が大いに努力すべきであると思っているが、同時にそれをサポートする何らかの体制が必要であれば、さらに検討していただきたいと思う。

【岡本委員】
 今後こういうことを検討されたらどうかということだが、実験系の方が科学研究費を受けて研究をしているときに、薬剤などいろいろなものを購入して実験をされると思う。その廃液処理の問題であるが、今でも科学研究費で実験をして廃液が出たら、その科学研究費でしかるべき処理をするということは、制度的にできないことはないと思う。ただ、大きく考えると、例えば、どこかの安全センターへ持って行って処理するときに、その廃液が本当にこの科研費でやった研究なのかといったいろいろな問題がある。実際には、科研費も含めて大学の経費も関係すると思うが、最近経費のマッチングができるようになっていたりするので、例えば、ある非常に大きな薬品を使う研究においては、それをどういう形で最終処理するかを書かなくてはいけなくしたり、科研費であれば、申請のときにそういうことを書かせたらどうなるかということまで考えたほうがいいのではないかと思う。
 私自身、薬剤は買わないが、例えば、科研費でコンピューターをたくさん買って、それを処分すると一種の産業廃棄物であるので、研究の中でそこまで考えるべき時代がだんだんとやってくると思う。薬品だけの問題ではないと思うので問題提起させていただいた。

【平野部会長】
 大変重要な問題だと思う。これは悩ましい問題で、当然のことだが使用しない薬品は、その後必ず処分、処理しなければいけない。これを研究体制、制度の中にどう入れ込むかということも問題だと思う。

【中西委員】
 私は今、東京大学の環境安全本部長をしているので、今岡本委員が言われたことは非常に苦労しているところであるが、本件は間接経費でも対応できることだと思う。ただ、研究者一人一人の意識がまだ研究のダウンストリーム側に向いていないことが多い。自分が社会的にみてそのようなことをしているか、コンプライアンスも含めて、このような意識を植えつけるような仕組みがこの科研費の中でとれたらすごく良いと思う。
 これは、今、東京大学で目指していることであるが、将来、科研費を応募する人にはeラーニングでこれらのことを全部クリアしてから応募してもらうような仕組みを考えているところである。

【平野部会長】
 これはきちんと対応しなければいけない問題である。研究にかかわる委員会としては大変重要な問題だと思うので、事務局でテークノートしていただいて、必要なことについては、また第5期に検討していただければと思う。

【三宅委員】
 何年か委員をやらせていただいて、送っていただいたたくさんの資料を積み上げてみると相当な量になっている。手元ですべて保管することが難しくなってきているので、できればどこかのサーバーに、委員の間だけ見ることができるような形で取っておいていただければ良いのではないか。大学でこのような書類の廃棄処分なども難しくなってきている。こういう対処ができると経費削減にもなるのではないかと思う。

【平野部会長】
 大学で経営会議をしていると、いろいろ建設的な意見が出る。特に外部の委員の方々から、この前も指摘があって、カラー刷りはもったいない、白黒にしなさいという意見であった。また、コピーを白黒にしたときに、ハーフトーンであろうが何であろうが見やすくするような色合いにしてほしい。そうしないと、一次資料のコピーをするときに、モノクロで刷る場合、色の合わせによって消えることがある、ということまで言われている。資料自身の今後の扱いというのは非常に重要であり、費用節減として、単に紙の資源的な問題だけではなく、人的な問題も非常に大きいので、これはまた事務局でぜひ検討いただきたい。

 審議の後、最後に磯田研究振興局長から挨拶があった。

(以上)

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