資料3 学術情報の発信・流通の促進のための基盤整備に向けて

1.日本の学術情報発信・流通のための基盤(現状認識と報告書の目的)
(1)背景:学術情報発信・流通の変容
(2)日本の現状
(3)課題
(4)目的
 ・研究者が自分の研究成果をオープンアクセスにすることができる環境を整備することを提案する
 1.日本の学協会誌のオープンアクセス化の推進
 →研費研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の制度改善
 2.公的資金による研究成果公開のためのオープンアクセスの活用

2.科研費研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の制度改善について
 『日本の学術情報発信機能を強化するための科学研究費助成事業(科学研究費補助金(研究成果公開促進費))の活用等について』

3.科研費等の競争的資金による研究の成果公開におけるオープンアクセスの活用について
 主要な流れ(項目案)を提示

4.機関リポジトリの利活用
 「議論のたたき台」を提示

5.今後の課題

3.科研費等の競争的資金による研究の成果公開におけるオープンアクセスの活用について

(1)目的(意義)

  • 学術研究活動は、人類の知識の増進を重要な目的の一つするものであり、すべての人がその成果を利用できることが望ましい。
  • とりわけ、競争的資金を使った研究の成果は、納税者への説明責任を果たす意味からも、国民のすべてがその成果を利用できるようにする必要がある。
  • 電子的通信手段の進歩は、とりわけ、インターネット、ウェブなどの技術革新によって、きわめて容易に研究成果の公表を可能とした
  • 第4期科学技術基本計画(p.39)においても、オープンアクセスの推進が謳われている。研究成果のより自由な流通は学術の振興、研究基盤の整備のために必要である。
  • 国としては、日本における研究活動がその人類的、国家的課題に応えていることを示すためにも、研究情報基盤を充実させることによって、研究成果のオープンアクセスを推進すべきである。

(2)研究成果のオープンアクセスの実現方法

  • 研究成果のオープンアクセスの実現には、主として以下の2種類の方法がある。
  1. オープンアクセス雑誌
    日本の研究者がオープンアクセス雑誌に投稿する、ないしは購読誌においてもオープンアクセスを選択して掲載を許可できるような取り組みを支援する。
  1. 研究者が、該当研究成果に対する知的財産権保有者が許す範囲で、インターネットに公表する。
    日本の研究者が自らの研究成果を公表しやすい環境を整備する。

(3)オープンアクセス雑誌の利活用

  • 日本におけるオープンアクセス雑誌の刊行支援に関しては、学協会が中心になって行なう成果公開の国際発信機能の強化としてすでに論じており、平成25年度からの科学研究費の制度改善に繋がっている。<第2項>
  • 研究者のオープンアクセス誌への投稿を支援する一環として、掲載料を科学研究費補助金の直接経費で支払うことは既に可能となっている。大学は、この費用を科学研究費補助金の間接経費や校費でも支払うことができるような措置を講じる必要がある。
  • オープンアクセス雑誌の数はまだ少なく、現時点でオープンアクセス雑誌だけで研究成果の公開すべてを網羅することはできないため、他の方法も併用することが望ましい。

 (4)インターネットによる研究者の成果公表方法

  • 研究者が自ら研究成果を公表する方法については、公表を行なう場所、公表されるタイミング、公表の際の文書の性格の3つの観点から多様な組み合わせが考えられる。

[公表を行なう場所]

 a.成果を生み出した研究資金を助成した機関が準備するウェブサイトで公表する

 b.所属する機関が設置するウェブサイトで公表する

 c.個人が設置するウェブサイトで公表する

[公表のタイミング]

 l.当該成果が、質的な観点から発表を最初に許可された時点
 m.当該成果が、質的な観点から発表を最初に許可された時点から一定期間を経た時点
 これは「エンバーゴのあるオープンアクセス」と呼ばれ、エンバーゴの期間については半年から3年までさまざまな可能性が考えられる。

[公表される文書の性格]

 p.出版社など著作権所有者が公表と認識する版・形式

 q.上記に至るまでの各段階の版(いわゆる「著者最終稿」など)

  • 現在日本では、オープンアクセスに向けた取組として、大学等の機関リポジトリが約200機関構築されている。上記の多様な方法のなかで、オープンアクセス推進のための受け皿としてこの機関リポジトリを活用することが、現実的な方策と考えられる。
  • 競争的研究資金の対象となる研究者には大学等に所属していない者や現在機関リポジトリをもたない大学に所属する者も含まれる。このような場合には、NIIのJAIRO Cloudサービスを活用することで、各機関はシステムの構築、維持管理を行うことなく、機関リポジトリを構築することができる。また、このサービスを拡充することで機関リポジトリをもたない機関に所属する研究者の成果公開をより安易にする方策を推進することが望ましい。
  • また機関リポジトリにコンテンツを登録するに当たっては、学協会の雑誌刊行に関わる著作権ポリシーを確認する必要がある。SHERPA/RoMEOプロジェクトは国際的に著名な出版社に関してその情報を収集、公開している。日本の学協会に関しては、学協会著作権ポリシーデータベース(SCPJ)が作成、公開されているが、方針が明確にされていない学協会が多く、十分活用されているとは言いがたい。この種の基礎的な情報の収集、提供に関しても今後拡充することが求められる。

(5)オープンアクセスに向けて必要な基本的な環境整備

  • 研究助成機関は、助成した研究の成果がどのように社会から利用可能になっているかを知るために、研究成果がどこに発表され、どこで利用可能になっているかの報告を研究者から求める必要がある。とくに有料講読誌に発表されているものについては、購読契約をもたない場合にどのように利用され得るかにの報告を求めるべきである。
  • これら研究成果については、NIIのKAKENデータベースなどの拡充によって、研究助成とリンクされた形で広く公開されることが必要である。
  • さらに、オープンアクセス化された研究成果が実際に全世界の研究者に利用されるためには、当該論文の「可視性」もしくは「検索可能性」を向上させるための施策が必要である。基本的には、1)メタデータの標準化、2)論文識別(同定)方法の標準化、3)著者同定の標準化が重要である。
  • 1)のメタデータ標準化に関しては、関連諸機関の連携の下での標準の制定とそれらの国際連携が必要である。2)の論文の識別方法としては、世界的にも普及しているDOIの付与が最も効果的と考えられる。3)の著者同定に関しては、たとえば研究者データベースであるe-RadとORCIDとの連携などの方法が考えられる。
  • これらの施策については、すでに着手されている面もあるが、いまだその必要性について広く認識が浸透しているとはいえず、オープンアクセスのための環境整備の一環として国がイニシアティブをとることが重要である。
  • いずれの施策も一機関が個別に行うのではなく、学術情報基盤の整備もしくは環境整備の一環として、関係機関相互の連携の下で行うことが重要である。さらに、標準化等に関しては国際的な連携が必要不可欠である。

5.今後の課題(夏までには特に検討しない)

  • オープンアクセスを実現することによって、研究成果がより利用されるようになったのかを示すためにも、利用統計を整備し、公表していくことが求められる。
  • 国立国会図書館等で構築されてきている古い年代に刊行された図書、学術雑誌の電子アーカイブと、各大学で構築されている機関リポジトリのコンテンツに関しては、蓄積・組織化の方法の標準化の推進、横断検索の実施などにより、相互に活用が推進されることが望まれる。
  • 電子ジャーナルや研究成果公表の形式も現在変化してきており、マルチメディア等の表現形式が展開されるだけでなく、結果の根拠としての研究データの公開が求められる例も出てきている。研究データは慎重な扱いを必要とするものも多くあるが、現在および将来の学術研究がデータに依存する割合がますます高まることは間違いなく、今後の研究活動の活性化のためには、データに関するオープンアクセスについても検討をおこなうべきである。

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