研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第34回) 議事録

1.日時

平成22年6月25日(金曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、上島委員、植松委員、加藤委員、倉田委員、土屋委員、羽入委員、山口委員

オブザーバー

緒方横浜市立大学医学部教授

科学官

喜連川科学官

学術調査官

阿部学術調査官、宇陀学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 事務局より資料1-1「学術情報基盤作業部会 これまでの議論の整理【案】」、資料1-2「参考データ」、資料2「大学図書館の整備について(取りまとめに向けた論点メモ)、資料3「科学技術基本政策策定の基本方針(案)」に基づき説明が行われ、その後、大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【有川主査】

  ご説明のあった資料2の論点メモに沿った議論をしていただければと思います。
  まず、「大学図書館に求められる機能・役割は何か」について、電子化の進展と高等教育の多様化、また、特に学習・教育・研究への図書館の直接的な関わり方として、少なくとも10年前には考えられなかったことが出てきており、仕事が増えて進化してきている様相があります。
  典型的な例としては、機関リポジトリの整備がありますし、情報リテラシー教育は、より踏み込んだところにも関係するようになってきていると思います。また、地域貢献、国際化対応などもございます。そして、選書に関しても、図書館職員に強く求められるようになってきているという面があると思います。そのようなことなどについて、少し議論をしていただきましょうか。

【土屋委員】

  基本的なまとめの方向としては賛成ですが、現状認識に関して「学術情報基盤の今後の在り方について(18年3月報告)」(紫本)以降の進展をどう評価しているかが、表現上明確になっていないと思います。例えば電子化は、20年程の間に進展してきたので、現在、どう大きく変わっているのかということは何らかの形で表現しなければいけないと思いますし、高等教育の多様化も、長いこと指摘されていますが、それは今後、10年、20年で大きな変化があるかについては、人口のピラミッドなどである程度、見えるところはあるので、そのようなことを、述べた方がよろしいのではないでしょうか。これでは、十年一日の如く電子化といっていると言われかねないという印象を持ちました。
  また、情報リテラシー教育や、ラーニング・コモンズも、言ってみれば手垢のついた話になっている感じがして、現実にラーニング・コモンズも、様々なものが各大学で整備されつつあるという印象を持っています。
  事実を指摘することについては全く問題ないと思いますが、次のステップとして一体何があるかということが、仄かには見えるようにしたい。同様に機関リポジトリも整備が進んだので、次をどうするのかという感じがします。今の整理では、5年前と変わらないような感じであることが気になります。
  また、大学図書館が研究・教育に対して提供する資料は、決して本だけであってはならないので、「選書」という言葉が適切かどうか考える必要があると思います。

【有川主査】

  「選書」は本の形をしていないものも含めて、一般的な進化した言葉と捉えれば良いと思います。
  紫本は、平成18年3月の報告ですので、それから4年以上経過しています。例えば報告67ページの概要では、電子ジャーナルは「普及」という言い方になっていましたが、現在は定着してきています。また、機関リポジトリの構築は進みましたが、これは、他のものと違って継続しなければいけないことです。いわゆる遡及入力のようなことではなく、むしろ新しいものをそこに置いておくということです。それが電子ジャーナルに代わるような学術情報の流通にも関わってくることになると思います。
  まとめ方としては、紫本に指摘されている対応策について、どのような成果、結果が得られているかということを書いておけばいいのではないかと思います。

【倉田委員】

  基本的には、土屋委員のおっしゃる方向でよろしいかと思います。例えば、電子ジャーナルに関しては、各大学図書館における平均導入電子ジャーナル数やアクセスできる雑誌数は、確実に増えて、しかも全体的に普及したということは、簡単に示せるのではないかと思います。
  しかし、「バランスのとれた」というのはうまい言い方だとは思いますが、これでは5年前と変わらない感じがします。現在は、より電子化にシフトしたという感覚で対応することが重要で、将来に向けて、もう一言入れられるといいのではないかという感じはしました。
  同じく、機関リポジトリはどのような性質を持つものとして位置付けるのかがもともと曖昧なもので、現状の日本の機関リポジトリの大部分においては、紀要の電子化のプラットホームになっています。一方で、アメリカの一部では、eリサーチに対応することを明言するような機関リポジトリが出現しており、そのような多様な方向性を見据えて、今後の展開を考えるというように、もう半歩、踏み込んでいただけるとよりいいのではないかと感じました。

【有川主査】

  私も、この「紙媒体と電子媒体のバランスのとれた」というくだりは、電子化への大きな流れがある中で、どちらも同じようなものではないという意味で、表現自体、バランスのとれたということではないのではないかという気はしております。
  また、おっしゃいましたように方向性を示しておくということは大事だと思います。

【土屋委員】

  多くのものを電子化し、紙を捨てていく時代がこれから来るかもしれませんが、残すべきものが十分認識されていない危険性があります。他の図書館が持っているので、捨てるということを各図書館がばらばらにしていると、どこにもなくなってしまうことがごく自然に起こりえます。
  これは推測ですが、1990年代に日本の外国雑誌タイトルが一気に減ったのは、それにかなり近い現象だったと思います。今まで蓄積してきた紙媒体の中で、学問的価値があって残さなければいけないものをどう残していくかということについて考えることができるのは、文学部の一部の先生を除いては、図書館だけなので、しっかりとした取組みを大学図書館界がすべきであると思います。既に何度も図書館側から提案をして、予算の都合で頓挫してきたことですが、保存、共同保存、分担保存について、もっと明確なことをすべき時期であるので、そのようなことを盛り込めば、かえって、電子化の意味があるという感じはします。

【有川主査】

  方法について提案するところまでは難しいかもしれませんが、そのような問題が出てくることを、どこかに書いておいた方がいいでしょう。
  また、そのような議論をすると、特に人文系からは、紙媒体そのものの印刷や手触りなど、年とともにどう変化してくるかということなども大事であるという話が出てきます。したがって、デジタル化されたから、本は完全に捨てていいという話には絶対になりません。その認識、文化の違いを埋めることは簡単ではないと思っております。

【土屋委員】

  資料2・1・(1)の2つ目の丸の「大学図書館と学習・教育・研究との密接な連携の重要性が強調される中」については、大学図書館が大学にあって、大学の機能が学生の学習を支えて、学生を教育し、研究するというのは当たり前なので、それと連携しない大学図書館というのは、基本的にはないと思います。したがって、強調しなくても、その重要性は自明だと思います。
  むしろ、連携ではなく、教育のプロセスそのものの中に参画していく。また、研究のプロセスそのものに関わっていくという役割を求められているので、そのまとめ方としては、連携というよりも、図書館自身が学習・教育・研究という大学の機能の中に本質的に組み込まれていくという部分を強調したいと思います。

【植松委員】

  私も、土屋委員が言われたことが大切だと思います。今までの議論の中で、学生が、紫本の時代と相当変わってきているという部分がないといけない。講義中心の授業から自ら学ぶ、課題発見という方向に授業を変えていくと、文系の学生でもすぐにグーグルなど検索エンジンに依存してパソコンに向かうという状況があります。少し昔の言い方でいえば、紙から学ぶ、書物から学ぶ、あるいは情報を探索して、評価して、活用するという意味での情報リテラシー教育を図書館も含めて大学全体で行わなければいけないという部分がこの記述の中に必要だと思います。

【有川主査】

  まず、今の学生は、とりあえずグーグルで調べます。まともな人はそこで終わらずに、現物に当たって、自分の考えを確かなものにしていくという使い方になってきていると思います。グーグル等での探し方の教育という面は、18年から変わってきた。つまり、その辺は特に教育しなくても皆できます。その証拠に、少なくとも印刷物でのマニュアルはほとんど出てないので、探し方に関しては、教える必要もなくなってしまっている面があるのではないかと思います。

【植松委員】

  そのようなものに過度に依存している傾向が強まっているということは言えると思います。

【土屋委員】

  過度の依存は非常にいいことだと思います。例えば、大学の百科事典が置いてある場所に、大体、学生は来ないので、とりあえずグーグルで見る学生がいる時代のほうが、百科事典を見る学生がほとんどいなかった時代に比べれば、遙かにいい環境を普通に利用しているということなので、より促進すべきことではないでしょうか。

【山口委員】

  グーグルや、ウィキペディアなどを、学生が活用している傾向は存在していると思いますが、それを研究にどの様に効果的に活かすかの教育が必要なのだと思います。氾濫している情報を使いきれていない学生がいることも事実だと思いますので、きちんとした指導の上で活用することはよいとは思います。

【喜連川科学官】

  外国では、メディア・スタディーズという教科科目があると思いますが、我が国にはどういうわけかない。したがって、グーグルを使うことが問題ではなくて、時代とともに様々な情報、メディアが出てきて、その出てきたメディアに対してどう接するかという基本的な教育をすることが一番重要であって、出てきたものを使いましょうということだけでは済まされない。それによって社会が大きく誘導される可能性があるということをきちんと学生に教えることの方がはるかに重要なのではないでしょうか。

【植松委員】

  私も申し上げたかったことはそういうことで、大学の教員、図書館の職員も含めて、情報を自ら探索して、それをきちんと評価して活用していくという技術や能力を情報リテラシー教育で養うべきだと思います。

【土屋委員】

  情報リテラシー教育については、多分多義的で、90年代の段階では、図書館が専ら担当する情報リテラシー教育は、図書館の使い方を教えるという意味で、情報処理センターによる情報リテラシー教育はパソコンの使い方を教えるということですが、もはやそういう分野はほとんど不可能になっていると思うので、「情報リテラシー教育」という単語をきちんと定義して使ったほうがいいのではないでしょうか。
  喜連川科学官がおっしゃったメディア・スタディーズに相当するような内容が、具体的に何を意味しているのかということを明確にし、情報リテラシー教育が、現状で何を意味しているのか明確にするというような形の書き方になればいいという感じはします。

【有川主査】

  情報リテラシー教育そのものが進化していくと捉えておけばいいと思います。グーグルで検索して終わる人もいるのでしょうが、まともなことを書いたり表現したりしようとすると、それでは当然済まなくなるので、その先どうするかということに関しては、これまでの教育が参考になるでしょう。

【三宅主査代理】

  時期的には難しいときで、教材や教科書の電子化などが正しい形で進むと、いろいろなものを自分のニーズに従って集めて、自分なりの教科書を作って、そこに自分で書き込んで発信するようなことになると思いますので、情報リテラシーから話が大きくなってくる可能性があるところだと思います。したがって、曲がり角に来ていることは書いておく必要があるのかもしれないと思います。

【有川主査】

  学生から見たときには、いろいろメディアが変わろうと学習はしなければいけない。どこかで集中して読んだり、議論したりしなければいけないことがありますが、そのような場としての図書館に変わってきた面があると思います。それは同時に、引きこもりがちな人を表に出してきて人と接する、公的なオープンな空間でもって学習をするといった場としての図書館の意義が、あまり意識されていませんが、実は大事な面ではないでしょうか。
  本はどこからでもアクセスできるから、図書館の空間はなくていいかというと、そうではありません。スカイプ(インターネット電話サービス)などを使ってコミュニケーションもとれ、ネットを使って自宅で勉強できるので、大学は要らないかというと、やはりそうではないのと似たようなところがあります。自宅での勉強と、大勢いるところでの勉強では、後者のほうが、人格形成の面でも非常に意味がある。そのような側面が新たな図書館機能として出てきているのではないかという気もします。そういう意味で、この新しい学生の学習の場としての図書館が大事です。
  従来、少なくとも日本では、図書館では、とにかく静かにしなければならないということでしたが、ざわついた空間としての図書館機能というのは、いろいろな意味で大事になってきていると思います。
  また、喜連川科学官のおっしゃった「メディア・スタディーズ」は、きちんとどこかに位置づけておけたらいいと思います。

【土屋委員】

  「メディア・スタディーズ」という新しい言葉で言わなくても、本来の現状における「情報リテラシー教育」と言ってよろしいかと思います。それに対して積極的な関わりという言い方がちょっと引っかかります。つまり、情報リテラシー教育を行うと言えばいいので、何かそれが別にあって、それに関わるということではないような感じがします。

【羽入委員】

  関わるのではなく、図書館が主体的に何かをしなければいけない状況になったのは、これまでと大きく異なっているのではないかと思います。学習の場というのは、学習すべきコンテンツがあって、そこに行って何かを収集してくるということですが、もはや、そのために環境を整えるのが図書館職員ということではなく、むしろ教育にも携わるし、協調や連携以上に主体的に教育に図書館の専門家が関わっていくような状況に既にあるのではないかという気がします。
  例えば、現在、どの大学でもキャリア教育などが掲げられていますが、非常に多様なキャリアパスが出会える場所としても図書館があると思います。学習のみならず教育を主体的に行う場所であり、それを担うことが図書館や図書館職員に求められていて、そこで新たなコンテンツを作ることなどがあるのではないかという気がしまして、(1)の2番目の○の「密接な連携」よりも、もっとポジティブな表現があるという気がしております。

【上島委員】

  私も多様な役割が出ていると思います。私は私立大学ですが、大学基準協会の認証評価を7年に一度受けます。そのときの評価基準は、学生の定員数の10%の席数を確保することが必ず求められる。決して図書館の機能を矮小化するとか、否定しているわけではありませんが、蔵書数などの評価基準以外にも多様な評価の視点を入れることをどこかに書いていただくことができれば、それは非常に有難いと思います。

【山口委員】

  参加型学習の増加、評価基準の設定の変化、図書館の主体性を強化されたというのは、図書館を取り巻く環境の変化という意味でとても重要だと思います。
  資料の1-2のARLの「環境の分析」では「研究、教育、学習における図書館の役割の動向」がどのような変化のもとに成り立っているかというような文節になっています。例えば1番は「研究実践の根本的な変化」、要するに学際的領域の学生が増えた。また、4番は、参加型の学習への変化」、5番は、「図書館の概念に新しい息を吹き込む」、これは、遠隔教育学生数の回復、留学人気の高まり、入学者数や研究企業増加を目的とした環境の中で図書館の役割がどのように位置付けられるかというような分析になっています。この様な状況を変化としてまとめた上で、図書館の今後の機能・役割の分析をしていくと大変読みやすくなると感じました。
  特に資料1-1の「大学図書館の現状」では、環境の変化と役割の変化が一緒に書かれている部分がありますので、それを整理した上で機能・役割は何か、また、その多様性について整理すると、よりわかりやすくなるのではないかと思います。

【有川主査】

  本作業部会ですが、本日の議論の後、図書館の専門の先生や学術調査官の協力をいただきながら、議論などをもとにして、体系的にまとめていきたいと思っています。今の山口委員のお話なども含めまして、さまざまな観点からご意見をいただいていけば、プロの人もいらっしゃいますので、きっとうまく方向づけをしていただけると思います。
  確かに今のご指摘の資料1-2の21ページを見ましても、例えばiPadなどが出現して、それに類した、あるいは進化したものがこれから出現していくことなどを考えますと、ものの読み方や媒体などに、大きく影響を与える可能性があります。既に、紙は全然使わずに会議をする企業もあるようですが、会議の進め方だけではなくて、教育の仕方や教材の作り方にも影響が出てくると思います。そういったことも頭に入れながらやっていかなければいけないと思います。
  「組織・運営体制の在り方」について、少し議論をしていただきましょうか。最初の○のところなどは、多くのところではそうなっていると思います。一方では、図書館の機能を電子化、ネットワーク化を思想的に捉えてしまったということによるのかもしれませんが、後退しているような面もあります。その辺に関して少し言及しておく必要もあるのかもしれません。
  ここでは大学の戦略としてということですが、基本的には大学とは何かということまで考えてみますと、大学と図書館というのは切り離して考えるものではなくて、そのものというようなところがあると思います。
  また、卒業後に大学をどう意識するかということを考えますと、なるべく多くの時間を大学で過ごす、勉強するというようなことをきちんとしておかなければいけないのではないかという気もするので、図書館はポジティブに踏み込んだ戦略的な位置付けであるべきではないでしょうか。

【土屋委員】

  図書館に来る学生は少なくないですが、毎日来る学生は大体二、三割程度で、少なくとも学生の目から見たときに、図書館職員が考えるほど図書館は大学の中に位置付けられていません。図書館職員は図書館に来る人しか見ないので、来館者が多いという印象しか持ってないだけで、大学で図書館に行かない人は非常に多い。
  重要なのは、有川先生がおっしゃったように、大学図書館が大学の本質的な部分であるならば、図書館に来る来ないは関係なしに、学習する学生、研究する教員、大学院生が図書館のサービスを享受できるような形にしなければいけないと思います。これまで来た者にしかサービスしていなかったということが非常に大きな問題なのではないでしょうか。
  それに対して、例えば機関リポジトリは、来ない人にまで、出かけていってデポジットをしてもらっていることが大きな違いを生んでおり、大学での位置付けを、その観点から考えていただきたいという感じがします。

【有川主査】

  これまでの図書館は、どちらかというと学生にあまり来てもらいたくなかったのではないかと思います。私は約10年、大学図書館長をしていましたが、かつては、玄関の両わきに二重、三重にロッカー群があって、そこにかばん類を全部置いてから、図書館に入ることになっていました。また、入館したら、会話禁止、飲食禁止など、してはいけないことが山ほど書いてあったのです。最近、もう少し気楽に行ける勉強やおしゃべりの場所を設けることによって、やっと会話してもいい、食べてもいいというように、流れが変わってきています。
  昔の人から見ると、まともな勉強をしていないと言われるかもしれませんが、動機はどうであれ、図書館に行けば、勉強に関心が出てきて、書庫まで入ってものを見るようになる。そうしたことを誘導することは大事です。特に若い人というのは、ほんの少しのきっかけで、いい世界にも悪い世界にも入ってしまう、非常に微妙なところがあります。そうしたことに関して、あまりにも無頓着だったという気がしており、私自身は、大学にとって戦略的な位置付けとして、図書館はますます大事になると思っています。
  情報センターや情報基盤センターのコンピューターがどこにあるかということは、あまり意識する必要はありません。図書館に対しても似たようなところはあるかもしれませんが、全くそれと同じではなく、やはり行かなければいけない部分というのがあります。そのような違いがあって、残っていく種類のことかと思っています。

【三宅主査代理】

  図書館のバウンダリー(境界線)が緩くなってきて、どこまでが図書館なのかわからないということと同じように、大学がそれぞれ孤立した形で、そこに入学しないと、その中のリソースが使えないという感じではなくなってくるということがあると思います。そうすると、大学における図書館の位置付けや戦略というときに、それぞれの大学がどのような情報を発信すれば、どう使えるかということを考えなければいけないというような話は、入れておいたほうがいいということはないでしょうか。

【有川主査】

  それは大きく言うと、地域・社会との連携かもしれません。資料の共有に関しては、一般市民にも開かれておりますので、使えますし、借りることもできます。また、他大学と大学間で協定を結んで、その間では同様に使える、借りることもできるということは既に行われていると思います。

【三宅主査代理】

  大学の図書館がどの大学に所属しているかに関わらず学びたいと考える人たちに対して情報を発信する場所として捉えられるようになっていくことが、本格的に考えられるようになってきたので、そのようなことについて、この中にどう取り込んだら良いかという話です。

【有川主査】

  その辺は、切り口としては機関リポジトリがあります。また、九州大学では、教材開発を図書館の中で行うことを考えていて、そのような作業、仕事は、図書館職員の気質に合っていると思います。

【山口委員】

  私は、米国での研究教育の時間が長かったのですが、米国の大学では、図書館が大変身近です。日本と異なる点は、先ほど話題に出たメディアリテラシーの教育の一環として、例えば大学院のゼミの先生が、研究に関連付けて図書館の活用の仕方や、他大学・研究機関における資料・情報の活用法などを教えてくれるので、とても身近に感じます。
  また、成績のいい大学院生をTAやRAと同じ格付けで図書館において活用しているという事例が多くあります。仕事に従事することで、図書館のマネジメントを学ぶと同時に、例えばこういうものが欲しい、こういう研究をしていてこの様な情報が欲しい時に、同じ分野で、図書館のことを大変よく知っている大学院生がアシスタントとして働いていると、とても自然に活用できる場所になります。運営体制について、ライブラリアンに加えて、大学のリソースとして、学生も含めた少し大きい枠組みで考えていく必要があるのではないかと感じました。

【羽入委員】

  今、山口委員がおっしゃったことは、学生にとっての補助者のようなものと考えると、図書館が教育実践の場としても存在し得るといえると思います。

【有川主査】

  どこかに今のことを書いておいていいですね。既にTA、RA的な学生の活用の仕方をしているところもあると思います。

【土屋委員】

  運営体制の位置付けが難しい。図書館は大学の本質的な一部であって、それに対して財政基盤を提供しない大学は図書館とともに滅びることになります。

【有川主査】 

  財政基盤については、18年時点とかなり変わってきたと思います。少なくとも国立大学においては、かなりの経費が、いわゆる全学共通経費化してきていると思います。

【土屋委員】

  大学図書館組織の運営体制のあり方については、大学が責任を持って考えるべきだということが第一です。
  それは一般的に申し上げることができると思いますが、例えば、環境が私立大学と国立大学とでは全然違うので、どこまで踏み込んで書けるかが、大変難しいと思います。

【有川主査】

  例えば、図書資料費については、早稲田や慶應などはしっかりした予算があって、蓄積された蔵書数も多くありますが、財政的な基盤は十分もう確立されていると考えてよろしいのでしょうか。
  また、紙媒体の時代と電子ジャーナルが主流を占めてきている現在とでは、違う点があるだろうと思います。

【倉田委員】

  いろいろな統計のとり方はあると思いますが、国立と私立の差は明確で、私立大学のA、B、C、Dの規模別で言うと、Aクラスでは、国立と同等もしくはそれ以上のものを確保できていますが、C、Dレベルでは、電子ジャーナルを未だに導入できない大学が現にあるなど、非常に差が激しいので、全学的な経費ということは、現状においても、可能な限り一言入れておいていただいた方がよろしいかと思います。

【有川主査】

  この数年の間、大学の数はとても増えてきています。一番顕著なのは公立大学で、20年前の30校程度から、現在は80校程度になっています。国立大学は統合で少なくなって、100校から86校になっていますが、国公私合わせて、765大学あります。一方で18歳人口は減っている中で、図書館がどのような位置付けになるのかということはあります。したがって、一様に論じられないところが相当出てきています。
  しかしながら、急速に数が増えてきていますので、全体のバラエティーに関して、大変なことになっていて、そこまで立ち入ることはほぼ不可能だと思います。意識はしますが、このようなまとめ方でよろしいかと思っています。
  2ページ目の「図書館職員の育成や確保」について、ご議論いただきたいと思います。

【加藤委員】

  大学の国際化は議論されますが、図書館の国際化についてはあまり議論されません。図書館の国際化は、スタッフの養成と同時に、留学生に対する対応の先進性を示すべきだと思います。
  私たちが外国に留学したときに一番使うところは図書館です。これは外国の留学生が日本に来たときも同じでしょう。留学生対応に限りませんが、図書館の国際化を1つの例として考えるべきで、それを支えるスタッフの養成も必要だと思います。
  また、資料中「世界の知の集積」というキーワードが出てきますが、それはおそらく大学図書館そのものだと思います。その意味では、世界的な知の集積が大学図書館にあるからこそ、いち早く国際化に対応しなければいけないと思います。
  また、多機能化という問題について、従来、図書館が所蔵資料をさまざまな利用者にどう対応して、十分に使ってもらうかという意味で、特に留学生との関係だけ考えると、ライティング・センターなどの様々な機能があっていいと思います。その辺を入れていただければ、大変ありがたいと思います。

【有川主査】

  九州大学では、国際対応が進んでいて、現在、特に留学生対応で困っていることはありません。図書館の国際化が一番進んでいて、他の大学も同じようなことになっていると思います。

【上島委員】

  私立大学では、日本語教育機関、日本語教育センターなどを置いて、図書館にはメディアホール、スタディホール、ライティング・センターを置いて、海外の留学生に対応することが必要であると思います。

【土屋委員】

  国立大学も大学によって異なると思いますが、従来、留学生用の経費は潤沢にありました。しかしながら、その対応のミスマッチがあって、英語のサイン(表示)を置くことなどを一生懸命しますが、それよりは日本語のサインに振り仮名を振ることが留学生の要望であったりするので、その辺の意味で国際化そのものが何なのかということを、わかりやすくしておいた方がいいという気はします。
  また、単に図書館が連携、関与するというような、大学の機能としての教育研究への関わりではなく、教育に関しては図書館そのものが一定の本質的な役割を担うという形にならざるを得ないとすると、図書館員は、お手伝いしたり、支援したり、連携したりするという存在ではもはやあってはならないので、学生に対しては教員として相対する程度でなければいけないだろうと思います。
  資料1-1では、「教員との協力の下に」、「連携」などの表現が一貫しています。これは図書館にとっては、教員と連携するが、責任は教員にとらせるという部分があるので楽ではあるのですが、今の議論を強引にまとめてしまうと、もはや許されない。大学の教育の質の維持のためには、図書館職員自身も責任をとらせる体制をつくらなければいけないという印象を持っているので、「連携」、「協力」、「関与」などの表現は避けた方がいいという感じがします。つまり、教育そのものであるということです。

【有川主査】

  九州大学では、大学院のシステムが他大学と違いますが、研究院に研究者がいて、そこから学部や学府に教えに行く形になっています。研究者の所属先として研究院の他に、研究所や病院があり、同じように図書館もあります。これから、図書館職員は学府や大学院に教員として教えに行くことを実現しようとしており、まさにそこでは連携というより、きちんと単位を出す教員になります。
  情報リテラシー教育で、単位、成績を評価する問題は、職員が高度化、専門化してくると、ごく自然なこととして、対応できるようになると思っております。大事なことは、連携とか携えるということでの協力だけではなく、より踏み込んだものであるのではないかということです。

【緒方横浜市立大学医学部教授】

  大学図書館でサポートするかどうかは議論の余地があると思いますが、卒業後、学術情報を使って活動されている方々が多く存在します。医学系でも、ほとんどの人は卒業後、学術情報を使って医療などに従事しています。そうした方々は、大学に所属していれば問題なくオンラインから学術情報が得られるのですが、病院や中小規模の研究所に行ってしまうと途端に情報が得られなくなってしまう。しかし、大学とこれらの機関は、そこに所属する方々にとって、大学から外部機関に移っては再び大学に戻ってくるという、キャリアパスの一環にもなっており、国レベルでの医療水準の維持にとって、大切な役割を担っている。病院等で学術情報が得にくいという現状には、非常に問題がある。
  これに関して、卒業生は、その卒業大学が面倒を見る必要があるのか、あるいは大学に限らない全国レベルのことなので、国立国会図書館の長尾館長にもご相談したのですが、国立国会図書館などにサポートをお願いする必要があるのか、いずれにしてもコンソーシアムに入れない専門家の方々に対して、どこかで学術情報が得やすい環境サポートする仕組みが必要ではないでしょうか。つまり、あまり高額でない登録料を払えば、専門活動にとって支障がない程度に学術情報が得られるような仕組みが必要ではないかと思います。
  また、一般市民でも、これからの時代は自宅からでも、登録料を払えば本が読めるような仕組みがあっても悪くはないのではないかとは思います。

【有川主査】

  契約の問題なので、どうしようもないと思います。利用に耐えるような財政的な基盤を持っているかどうかというだけの話だと思います。

【土屋委員】

  しかし、イギリスのNHS(ナショナル・ヘルス・システム)のように、全病院で見ることができるという例もあります。

【有川主査】

  OBの医師であれば、いろいろな方法があると思いますが、一般市民のために、国立国会図書館が学術情報を収集して、アクセスできるようにするためには、天文学的な金額が必要になります。現状のサービスを維持するだけでも予算が大変だと言っていますので、うまくいかないでしょう。
  それよりも、機関リポジトリなど、オープンアクセスを進めて、実質的に必要な情報にはアクセスできる環境を作っていくことの方が現実的かもしれません。これは、前回の報告の中で触れていますので、今回は踏み込まなくてもいいと思います。

【土屋委員】

  大学図書館職員の育成については、時代に合った必要なテクノロジーや知識は変わるので、随時、その時代に合った人材を供給できるようになっていればいいのではないでしょうか。硬直した教育システムをつくってしまうことはマイナスなのではないかという気がします。
  また、私立大学でもはや図書館職員という概念はないと伺っていて、大小関わらず委託・派遣などによって、何とか機能を提供している状態になっている。一方で、国立大学図書館は2,000人弱の枠の中で、図書館員が採用され、キャリアパスも、その範囲内で作ることを原則としているという制度上の二元的、複線的な状況があります。その辺は、全く無視するということはできないと思います。
  例えば機関リポジトリについては、私立大学、国立大学、公立大学の職員も含めて一緒に活動している。国立大学の場合は、さらに雇用形態が非常に複雑になっていると思うので、実際の状況と、制度上、明確に複線化している状況をどう理解するのかということを、教えていただけたらと思います。

【倉田委員】

  制度上、私立においては、もはや大学図書館員という枠で採って、継続的にその職場にいられるという保障は一切ないというのは事実ですが、結果として大学図書館に長く勤めている者が、まだ居続けていることも事実です。
  幾つかの私立の中でも、機関リポジトリの構築などの活動が非常に活発な図書館に関しては、同じ職員が継続的にいることは事実だと思います。しかし、それは制度上保障されていません。常にいつ異動になるかわからない不安定な状況で、活発な図書館は、その職員を無理に動かすことはないということで処理しているだけではないかと私は認識していますで、今まで、図書館が活発でも、最終的な決定を下される方の考えが変わってしまえば、大きく変わってしまう可能性があって、そのような意味では非常に脆弱な形であることは事実だろうと思います。

【土屋委員】

  私立大学では一般的には、いわゆる専門制度の認識としては、大学職員としての専門性があればよいという判断ですか。

【倉田委員】

  少なくとも公的な見解としては、そうだろうと思います。

【有川主査】

  その上でオン・ザ・ジョブ・トレーニングのような訓練をしていく。また、研修に関してはいろいろな方法が定着していて、それは他の分野に比べても、しっかりしているのではないかと思います。一方で、慶應と筑波の大学院レベルでの育成なども、どのような方向性を持った職員を育成していくのかということを明確にしておく必要があるだろうと思います。それは当然、専攻の目的、方針で書いていますが、その辺を整理しておいて、公共図書館、専門図書館、大学図書館など、この時代にどのような仕事をする人材を育成しているのかということを押さえた上で、今後の方向を示していくことになるのではないかと思います。
  また、一度紹介させていただきましたが、九州大学もライブラリーサイエンス専攻をこれからスタートさせ、普通の図書館より広いところも考えながら大学院教育を行おうとしていますが、そこでは目指す方向はあります。その辺も少し取り組むような方向で、まとめていただければいいのではないかと思います。
  一方で、図書館にも、いわゆる庶務や会計などの事務的な部門は残りますが、今までの司書というレベルではなく、高い専門性が、さまざまな形で要求されてくるのではないでしょうか。今起こってきているさまざまな変化がありますが、これがそこで止まるとも思えないし、これからもそのようなことが繰り返されていくとするならば、より柔軟に対応できるような専門的な職員の確保は大事なことになっていくのではないかと感じております。

【植松委員】

  図書館が大学の学習や教育に主体的に関与すべきということで言えば、土屋委員がおっしゃったようなことと関連して、身分的な保障を持たないアウトソーシングというものは馴染まないと思います。アウトソーシングを取り入れていた組織も、図書館職員として身分的な保障のある者を採るべきという方向に転換する必要性について認識する必要があると思います。
  また、国立大学の場合、現在、市場化テストの適用が検討されていることもあるので、その辺のところは少し慎重な表現にしていただきたいということを申し上げておきたいと思います。

【有川主査】

  市場化テストのまとめ案については、現在、最終段階の非常に大事な時期になっていると思います。
  本日も具体的な、さらに進んだご意見もいただいきましたが、今後、これまでいただいたご意見をしっかり位置付けて、ご専門の方のお力をいただき、個別的に相談もさせていただきながら、まとめを考えるということになると思います。
  本日は、これで終わりたいと思います。ありがとうございました。

 

――了――

お問合せ先

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井上、首東、新妻
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ファクシミリ番号:03-6734-4077

(研究振興局情報課学術基盤整備室)