研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第31回) 議事録

1.日時

平成22年3月19日(金曜日)16時~18時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、植松委員、倉田委員、加藤委員、土屋委員

オブザーバー

緒方横浜市立大学学術情報センター長

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 上田慶應義塾大学文学部教授より資料1「慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻における現職者教育」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【上田慶應義塾大学教授】

  慶應義塾大学大学院は、博士課程の前期を修士課程、後期を博士課程と呼んでおります。もちろん2年間、3年間ですが、それぞれに入学試験があり、5年制ではありません。文学研究科には、専攻が13あり、その1つが図書館・情報学専攻です。2004年から大学院文学研究科図書館・情報学専攻の下に情報資源管理分野を開設しており、これが現職者のためのコースです。
  毎年、東京近辺の通学可能範囲の大学図書館や公共図書館に情報資源管理分野のポスターを配っていますが、その中では「図書館員に修士号」をキャッチフレーズにしています。図書館員教育に関する科研(LIPER)で国内外の状況を調査しましたが、欧州は異なるものの、大学院におかれたライブラリースクールで図書館員養成を行うアメリカ型のモデルは、アメリカの影響下にある国々だけではなくて、アジアの国々でも広がっています。日本は、他の国々に比べて非常に特殊な制度で図書館員養成をしていますが、図書館員に修士号を取らせるという形で米国型と結果を同じとすることを考えました。
  入学定員は10名で、学術大学院です。専門職大学院では修士論文なしで授業を受けるだけで修了できますが、学術大学院では修士論文を書くことがハードルとなります。出願資格としては社会人を入学させることを念頭に置き、大学を卒業しているほかに、卒業後3年経過していることと、図書館等の実務経験又は司書資格があることを出願要件としました。試験科目は、一次試験は専門科目(図書館情報学)で、二次試験は面接です。
  授業は、慶大の三田キャンパスで18時10分から21時20分までの時間帯で、週2日、また、土曜日の午後も行っています。最初の修了者が出た2006年から、博士課程を昼夜開講制に変えました。 
  授業の内容は、最新動向を中心として、経営・管理、情報技術、また、論文執筆能力という今の大学図書館員に必要とされる力をつけることを加えております。科目は、これらの柱に合わせて構成しています。
  主として大学図書館員と公共図書館員を対象としており、試験問題も、授業もそれに沿っています。これまでの修了者は6年間で61名です。大学図書館員が32名と、過半数を占めており、公共図書館員が2割程です。その他、専門図書館や学校図書館、派遣会社に所属の方々もいます。年齢層は20歳代後半から30歳代が中心ですが、60歳前後の方もおります。大学図書館員の半分以上が国立大学法人の正職員の方々です。
  教員は、専任教員が7名で、有期教員が1名です。非常勤講師を4名から5名頼んでおります。
  第1期の卒業生の方ががある雑誌に、この慶大の大学院で得られたものとして、学ぶ楽しさ、レポートなどを作成しているときの達成感、学生の立場で図書館を利用するという視点などを得られたと書いていらっしゃいます。また、異なった職場で同じようなことを考えている方といろいろ話し合えて、それが有意義であったということです。一方、仕事とのつながりでは、他と比べて自分自身の図書館の評価ができるようになったことや、最新トピックの議論ができるようになったということ、「図書館」について考えるようになった、また、論文執筆に取り組むことで得られたものが大きいことなどをあげておられました。
  研究者養成のプログラムにいる院生と図書館員との間でいろいろな交流やディスカッションがあり、現職者、社会人は年齢層が様々で、教員側もいろいろな観点の意見を伺うことができ、大変勉強になるというメリットがあります
  また、大学院にいる間に転職や雇用の機会に結びつく例も幾つかあります。
  問題は、夜間などの授業担当で教員側の負担が大きいことです。また,志願者層が変化している実感はあります。正職員の比率は下がってきています。
  応募者が現状では合格者の2倍から3倍程度で推移をしているのですが、今後どうなるのかはよくわからないところです。

  以上でございます。

【植松委員】

  昼間の修士課程の定員は何名なのでしょうか。

【上田慶應義塾大学教授】

  定員は10名です。 昼間の修士課程では、博士課程、研究者に進む者と大学図書館や国立国会図書館に進む者がいます。

【有川主査】

  公共図書館や大学図書館の職員が入学し、修了して、それぞれの職場に戻ると思うのですが、そこでの待遇、またはユーザーに対してのサービスや対応の仕方が劇的に変わったということはあるのでしょうか。

【上田慶應義塾大学教授】

  研究活動という面では、卒業後に論文や本を書く方はかなりいらっしゃいます。ただし、それが図書館員としてはどうかということは何とも申し上げられません。実際のサービスに直結して、サービスが劇的に変わったという事例は聞いておりません。

【有川主査】

  図書館・情報学専攻ではもちろん研究者も育っていくのでしょうが、実際に職を持った社会人が学生ということであれば、職業人、技術者として高度な仕事ができるようになることが一つのゴールではないかという気もします。
  日本の大学図書館と、アジア諸国も含めた日本以外の大学図書館というのは明らかな違いがあるということを様々なところで感じますが、いわゆるサブジェクト・ライブラリアンがたくさんいて、非常にしっかりした役割を果たしていると感じています。そのようなサブジェクト・ライブラリアンを育成するというようなことは、この大学院のプログラムではあるのでしょうか。

【上田慶應義塾大学教授】

  アメリカの大学図書館のウェブページを見ると、主題別の担当者の名前、写真、メールアドレスが入ったリストが掲載されています。そのような状況に日本もならなければいけないと思うのですが、こうしたコースで主題を教えるのは困難ですのでサブジェクト・ライブラリアン養成には別の方策が必要と思います。

【植松委員】

  司書資格は取得要件である科目は学部教育だけで制度化されているので、大学院では司書資格を満たすような科目の教育ができません。例えば、医学部を卒業して、図書館員になるために大学院に入っても、司書資格は取得できません。司書資格そのものは、公共図書館を主なターゲットにしていますので、大学図書館とは関係がないのですが。
  また、現職者は、修士号を取得しても、それが直ちに給与には反映されません。日本の場合には、就職したときの学歴や勤務年数で給料が決まるので、修士号を取得しても給料が上がらないことがインセンティブにならないということは言えます。

【上田慶應義塾大学教授】

  大学図書館員の中に、自分自身の生き残りのために学位や資格を取っておかなくてはいけないのではないかという考えはあるように思います。

【有川主査】

  司書資格は、公共図書館員育成が主眼にあったのでしょうが、大学図書館職員は、それとは明らかな違いがあると感じています。その中でいわゆるサブジェクト・ライブラリアン的な人材をどう育成していくか。また、植松委員からご指摘がありましたように、給料が変わらないのでインセンティブが働かないということも、しっかり考えておく必要があります。これは、いわゆる博士課程の大きな問題とも絡んでくるのではないかと思います。
  したがって、可能なことから変わっていったほうがいいと思いますし、サブジェクト・ライブラリアンに関しては、その出身のサブジェクトをしっかり生かしていくことが大切です。また、しばらく経つと、自分が持っている知識も古くなってくることもありますので、大学院などにおいては、例えば学科長や学部長などが兼任で来ていただいて、そのような自分の分野のサブジェクト・ライブラリアンを育成することに対して貢献していただくことによって、大学図書館全体をしっかりしたものにしていくという姿勢が大学側にあってもいいのではないかと思います。

 

(2)  阪口筑波大学大学院准教授(学術調査官)より資料2「筑波大学における図書館員等の養成・教育について」に基づき説明が行われ、その後、質疑応答並びに慶應義塾大学及び筑波大学の発表を踏まえた大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【阪口筑波大学大学院准教授】

  筑波大学は学部、学科と言わず学群、学類という名称ですが、学類も含めて説明資料をつくらせていただきました。
  4年制大学として図書館情報大学が前身にあり、大学院は当初、修士課程のみだったのですが、2000年に図書館情報メディア研究科として、博士前期課程2年間、博士後期課程3年間で開設し、現在の筑波大学に統合してからも続いています。図書館情報大学時代の学部は、当初は120名の定員だったのですが、途中で拡充し、150名になっていましたので、統合時、図書館情報専門学群としたときには定員が150名となっています。大学院の定員は特に変わっておりません。
  2007年に筑波大学の学群の全体の見直しがあったので、それにあわせて情報技術系の学類と一緒に情報学群へと再編したときに、もともと専門学群で持っていた定員を割り振り、情報メディア創成学類が50名、知識情報・図書館学類100名という構成で、主に図書館員養成については、この知識情報・図書館学類が担っています。この学類は、2007年度より学生を受け入れたため、現在、卒業生はおりません。卒業生の傾向に関しては、前身の専門学群の話になります。基本的には定員100名と3年時編入学の定員10名です。
  基礎科目、専門基礎科目、専門科目という分類は、筑波大学全体で決められた科目構成で、基礎科目はいわゆる教養と外国語、体育関係です。専門基礎は学科、学類ごとに構成する特にその分野の基礎となる科目です。それを1、2年生の間に習得して、3、4年生で専門科目を修得します。その3、4年生の時にある程度学生の志向するところによって、主専攻に分かれています。
  主専攻は、知識科学主専攻、知識情報システム主専攻、情報経営・図書館主専攻の3つです。知識科学は、扱う知識、情報そのものの性質を見る。人間も含めて知識をどう扱っているのかということも含めた視野での主専攻になっています。知識情報システムは、図書館や情報を扱おうとすると、情報技術は欠かせないものになってくる。その情報技術に軸足を置いて学びます。情報経営・図書館は、図書館という制度、社会上の仕組みなど、図書館を含む世の中での情報を扱う様々な制度、社会的仕組みなど、社会に注目する主専攻になっています。
  学類で明示された資格としては、公共図書館、学校図書館を指向したものしかありません。公共図書館を指向した資格としては司書があり、これは学類の専門基礎科目、専門科目に対応づけています。ただし、大学院生も、これらの科目を履修すれば、他の学類でも司書資格を取得できることになっていますが、現時点ではほとんど実績はありません。司書教諭は学校図書館、5科目10単位というのがあります。
  授業については、専門情報を扱うものとしては、特に医療情報や特許情報に関してよく話題になりますので、そのような科目が展開されています。
  また、学術情報としては、学術メディア論、学術情報基盤論を展開しております。電子図書館ということで、ディジタルライブラリという科目を展開しています。
  また、他の司書課程を持つ大学と違うのは、情報技術は欠かせないため、演習で情報技術やシステムに関するものをきちんと身につけてもらいます。プログラミングに関しては1年生の2学期、3学期と通じて行っていますし、J-BISCデータを用いたOPACなどを必修で全員につくらせます。ウェブベースのCGIを使って全員につくらせて、動かない限り単位は出しません。
  最近では、ウェブページの検索が学生にとっても目につきますし、一番多く使われますので、ウェブページのデータを検索することに関しても必修の演習で展開しています。インターンシップという科目は、単位化して、大学図書館、公共図書館等で実際に実習を行っています。
  進路例ですが、決して図書館に就職する人数は多くはないのが現状です。特に、大学図書館に関しては、公務員採用試験受験者向けの特別指導も行っているのですが、毎年5名前後です。公共図書館も多数を占めているわけではありません。企業が主な就職先です。
  次に、大学院の説明に移ります。図書館情報メディア研究科も博士課程は、5年間一貫ではなく2年、3年の区分制をとっています。博士前期課程で定員37名。博士後期課程は定員21名。博士前期課程に関しては、定員を満たしているのですが、博士後期課程に関しては最近難しい状況になっています。
  大学院では約60名の教員がいて、人数は完全にバランスしていませんが、社会、マネジメント、システム、開発という4つの分野に分かれています。いわゆる図書館学に最もフォーカスしているのはマネジメントになると思います。複数指導教員、つまり指導教員が1人だけではなく、主・副の指導教員の体制をとっています。
  我々としては、直接、サブジェクト・ライブラリアンの養成に完全にフォーカスしていませんが、さまざまな分野を経て、図書館情報学、情報メディア学を学びたい者を受け入れるため、入試に関して、特にどの分野の出身者であるかは限定してはいません。したがって、図書館情報メディア関係の出身者以外に、全く他分野の出身者もいますし、社会人に関しても、現職図書館員に限らず、中には銀行にお勤めの方などもいました。
  社会人に関しては、特に定員は設けずに若干名としており、受験していただいて優秀な方であれば受け入れています。入試の形態は、筆記試験ではなく口述試験です。受験志願のとき、それまでの略歴と研究計画を書いていただき、試験のときにはそれに関してプレゼンテーションをした上で、さまざまな質疑に答えてもらい、修士を目指すことに耐え得るかどうかを複数の試験官で判断しています。
  大学院の科目は、人的資源構成論、学術情報流通システム論、ライブラリー・ガバナンス、情報資源管理論、コンテンツ流通基盤技術論。他にも様々な技術要素や、図書館にまつわる要素を扱う数多くの授業が展開されています。これに関しては少し弊害もありまして、中には受講者が1年に1人いるかいないかとかいう科目ができたりするので、これに関しては集約する話は出ています。
  経営管理コースは、図書館流通センターの寄附講座ですので、公共図書館などの経営管理についてフォーカスしたコースを設けています。現職図書館員、社会人、大学院生などを受け入れ、7科目を展開しております。これに関しては、大半は社会人の方で、このコースの取得のために、科目等履修生になっていただいて、実務経験や口述の面談などに基づいて、コース修了認定を研究科より出しています。
  大学院の社会人の受入れ状況について、基本的に在職社会人を指向していますが、大学を卒業して3年以上ということが要件です。在職社会人は昼間の受講が難しいので、平日夜間時間割の設定で、月~金で7時限目、8時限目を設けています。必ずしもすべての枠で開講していませんが、社会人の受け入れに関して定員を設けていませんので、教員の中で、学生たちの希望も聞きながら、どの科目を7時限目、8時限目に開設するか、土曜日に開設することも調整しています。その結果、実際に社会人が取りやすい科目と取りにくい科目が分かれてしまっています。社会人の希望者が多い科目に関しては夜間に開設しますが、それ以外の科目は、興味はあるが少し取りづらいという話は学生から聞こえてきています。
  筑波は、交通の便、立地条件がやや悪いので、東京サテライト(筑波大学の大塚地区)でも開設しています。東京に出向いて授業をするにしても、筑波でも授業を取りたい学生がいますので、ネットワークを通じたテレビ会議システムを導入して、両方で同時に受講できます。ただし、教員が一方にしかいないということになるとやはりアンバランスなので、必ず1回か2回はもう一方にも出るように教員に指示はしています。
  大学図書館職員長期研修に関しては、いろいろな先生方にお世話になりながら、附属図書館が開設し、我々の研究科もコミットしています。また、新任図書館長研修は4日間実施しています。公開講座の中でも特に図書館情報センター等の職員向けとして「『これからの図書館像』を実現するために」を4年程、シリーズとして開講しています。
  司書養成科目が24年度から改訂され、科目構成の変更、追加があります。現在、23年度中の認定申請に向けて学類担当の、特に教育課程を構成するグループにおいて検討中です。いかに学生の負担増にならない範囲で、現在開設している科目でうまく吸収できないかを検討しています。
  大学院については、社会人の定員を決めていないので、希望者に応じて夜間に開設するなど、科目を随時調整しています。しかしながら、希望する科目を十分取れないという意見が必ず聞こえるので、もう少し社会人にフォーカスした「図書館情報学キャリアアッププログラム」を23年度より開設する準備を現在進めております。目的としては、自分たちの業務の課題を見出して、解決策を考えて研究できる高度専門職業人の育成を考えています。専門職大学院ではなく、修士号を取得するという大学院の枠組みの中でプログラムを設けるので、このような表現になりました。したがって、キャリアアッププログラムであっても、最終的には研究して修士論文をまとめていただくことになっています。
  従来、授業は東京と筑波に分散していますが、基本的に最低限必要な科目は東京ですべて受講できるようにしています。また、東京で受けていると、その授業に来る教員しか接する機会がないのは相談する相手も困るので、毎年2名、プログラム担当教員を決めて、授業の内容にかかわらず、さまざまな相談に乗ります。例えば、研究の進め方など、中に立ち入らない範囲での相談に乗る担当者を決めて、ある程度、東京サテライトにいることを目指しています。
  平日の夜間、土曜日だけで、様々な科目を開設しようとすると枠が足りなくなり、教室の制限もあるので、講義科目そのものは厳選して複数人で、例えば半分ずつ担当するなどして、うまく内容を盛り込む。そして現職社会人はしばらく大学から離れていますので、調査し、論文にしてまとめる過程を学ぶために、セミナー系や、調査研究方法論などの研究指導に関わる科目に重点を置きます。
  総合科目、教養科目は、筑波大学全体の科目ですが、我々の学類が担当している「知の探検法」という科目で、他の学類生に向けて、図書館やインターネットの各種データベースなどの情報探索ツールの使い方を習得してもらうため、2単位(2コマ10週)中、4週を附属図書館員が担当しています。その附属図書館員の方には正式な非常勤講師に任命してやっていただいています。

  以上でございます。

【土屋委員】

  進路の例をお願いします。

【阪口筑波大学大学院准教授】

  20年度に卒業した者の場合、公務員、図書館、学校関係が38名、電機、通信などシステム関係が36名、その他、事務、流通、広告などの企業が67名で、大学院進学者が31名となっています。
  公務員、図書館関係は、昨年度に関しては、公共図書館が5名、大学図書館が1名です。大学図書館は例年5名程ですが、昨年度は少なくなっています。

【土屋委員】

  設置の目的とのずれをどのように認識されているのでしょうか。

【阪口筑波大学大学院准教授】

  図書館だけを睨むのではなく、知識情報を扱うエキスパートを育てることが、教員としての意図ですが、若干、図書館に進む者が少ないという意識はあります。入学する学生は、図書館員になりたい者が結構多いのが実態ですが、図書館への就職者が圧倒的に少なく見えてしまいます。

【有川主査】

  それはどうしてでしょうか。図書館員を募集すると、優秀な人が沢山殺到するということも聞いているのですが。

【植松委員】

  極端にマーケットが小さいということです。例えば、某私立大学で正規職員1人という募集に対して500人程の応募者があるという例もありました。

【有川主査】

  筑波大学は、博士課程をつくるときに、「情報メディア」になり、方向の転換があったと思うのですが、学生の進路も関係があるのでしょうか。需要と供給の関係が崩れている気もします。
  また、いわゆる図書館だけではなく、専門的な知識を習得していれば、サイエンスコミュニケーターや、科学記者などの人材も視野の中に入れて良いと思います。そのような意味では、過渡期的なのかもしれませんし、市場については、公共図書館も、大学図書館も、専門的な知識を持った職員のニーズがありますが、実態がそうなっていません。実際に統計では、大学図書館職員数としては相当数あるので、専門職がきちんと配置されるということであれば、市場は少ないはずはないと思います。

【土屋委員】

  市場のことを言えば、要するに供給過剰状態です。考えようによっては、質が保障されており、大学としては困るかもしれないが、図書館側としてはいい状態であるとも考えられます。一方で、いろいろな議論の中で、公共図書館と大学図書館の状況というのは、例えば電子化一つとっても随分違うのですが、図書館学という枠組みの中で、ひとまとめにできるのかということについてのご検討というのは、学部・大学院レベルでどのような状況になっているのか教えていただければと思います。

【植松委員】

  例えば電子化に関する科目は、専門科目として開設しているので、公共図書館、大学図書館の違いについても対応できていると考えています。

【土屋委員】

  別の観点で、大学図書館、専門図書館、公共図書館という、いろいろな異なるコンテクストでの、ある程度似た図書館的な事業に携わる人を育てるために、どのようなカリキュラムで行われているのですか。

【植松委員】

  筑波大学では、専門基礎や教養科目の中で企業論などが設けられているので、図書館情報メディア研究科の教員構成は、図書館情報学プロパーに絞りつつあるのが実情です。

【土屋委員】

  学生には、他で授業を聞いてきなさいという指導になっているということですか。

【植松委員】

  そのような実態です。

【倉田委員】

  慶應義塾大学の場合、学部と大学院では養成の目的が異なっています。学部の場合、慶應義塾大学も筑波大学と同様に総合大学ですので、図書館情報学プロパーの科目以外に、その他の専門科目を一定単位数以上取ることが履修上決められていますので、その中で各自の興味に沿っていろいろな科目を聴くという形で進めております。
  図書館は、幾つもの館種があるので、その館種ごとに基本的な授業科目は全部開講されていますが、学部教育ですべての知識を身につけることを最終的なゴールとはしていません。むしろ、基礎的な力を養うのが学部教育だと思っておりますし、日本の大学の場合には、専門職業人を学部レベルで教育することは無理ですし、多くの方に期待されていることとは違うと認識しております。
  一方で、現職者向けに開講している資源管理分野において、科目名をある程度抽象的にしているのは、その時々のトピックをできるだけ取り入れて、新しい形で対応できると考えているためです。例えば図書館、特に公共図書館で公共性や、管理の問題などが出てきたときには、その専門の先生を非常勤講師や、一時的な職位付与によって来ていただいて、特別に関連する内容の授業を組みます。公共図書館を専門とする専任教員が、法学部の法律を専門とする教員や、経済学部の経営管理や地方自治体論を専門とする教員と組んで、1つの授業をしている例もあります。次の新しいトピックが問題になってくれば、同じように授業内容を新たに考えていくという形でカリキュラムは柔軟に対応できると考えております。
  したがって、情報資源管理のように現職者を対象としたカリキュラムであれば、十分対応できると考えております。

【有川主査】

  両大学にお聞きしたいのですが、既に図書館で働いている人を受け入れるため、夜間開講となっていますが、大学図書館の場合は、例えば夜10時まで開館しているなどの形態があります。例えば、ある職員が、昼間に開講している授業に、学生として行くかわりに、その職員が夜間は、図書館職員として働くという形態があるのではないでしょうか。つまり、そうしないと、同じ先生で昼も夜も授業を行うというのは非常に負担が大きい気がします。公共図書館も、少し遅くまで開館していただいて、昼間、普通の学生と同じ時間帯に勉強ができるようにすることもあり得ると思うのですが、そのようなことは空論でしょうか。

【植松委員】

  筑波大学では、教員は裁量労働制ですが、職員は裁量労働制ではありません。公共図書館でも同じような状況で現実にはそのようなことは難しいのではないかと思います。

【倉田委員】

  そのような事例は今まではなく、個々のお勤めの大学や図書館の事情によると思います。逆に、公共図書館の方は、大抵日曜日は開館し、月曜日は休館ですので、公共図書館の職員の方が月曜日の昼間の授業科目を履修することができ、慶應義塾大学の場合、8単位まで昼間の科目を取って良いことになっているので、それを取る方は結構多いようです。

【阪口筑波大学大学院准教授】

  私が担当している授業の受講者の場合でも、働いている場所によって、かなり事情が違うと思います。

【土屋委員】

  資料1に「学位を持った図書館員を増やす」とありますが、学位を持っていると得になったという話があるのでしょうか。

【倉田委員】

  給料や職位が上がったという例はあまり聞いていません。残念ながら、現状の日本の大学図書館ではそのような優遇は難しいと思っています。
  しかしながら、修士号の取得を希望する個人は相当数おり、修士号の取得は、単にそのコースを修了したということ以上に、ある種の達成感を得ていると考えています。

【有川主査】

  2つの大学からご報告をいただき、質問や意見交換も相当してまいりましたが、全般的なことで、大学図書館職員の専門性、能力、資質というようなことに関して何か感じていらっしゃることはございませんでしょうか。
  例えば大学図書館基準等では、大学図書館に関しては、図書館情報学関係の修士などが書いてありますが、そうしたことで何かございますか。

【加藤委員】

  大学図書館職員は、研究支援のために研究に関する情報を十分に活用してもらうためのサービスを提供するための専門性を持っていなければならない。また、個別領域における、サブジェクト・ライブラリアン的な専門性を持っていなければならない。理想的にはこの両方を兼ね備えていることだと思います。
  しかしながら、日本の司書制度自体がいろいろな問題を持っている感じもしますし、新しい時代の中での図書館員の養成は、過渡期にあるという感じがしています。
  したがって、図書館員の資格も含めた広い意味でのステータスの確立をどのような方向に動いていけばいいのか、模索してみる必要があると思います。
  また、卑近な例でお話を申し上げて恐縮ですが、私の妻がライブラリアン35年の経験を持っております。現在、ある著名な財団法人の児童関係の図書館の司書として勤めておりますが、その図書館では、公共図書館の職員や筑波や慶應義塾などの大学の図書館情報学の若い方たちなどをお預かりして研修をしています。その話を聞いて一番感じるのは、若い層が欧米などのライブラリアンの理想像を頭に浮かべながら、仕事の夢を持っていますが、外的な条件の中でさまざまな制約を受ける。また、過渡的な状況の中で、その可能性が摘まれてしまうということは、将来の大学図書館の学習支援や研究支援を支えるという役割を果たすという意味での図書館員の養成という観点から考えると、もう少し真剣にその方向性を考えるべきではないかでしょうか。ステータスも含めて、きちんとしておいてあげる必要があるのではないだろうかと強く感じます。

【有川主査】

  司書と司書教諭のように、大学までそのような方向で押し広げるということが必要なのかもしれません。そこにある種のヒントがある気もします。学校図書館の現場ではかなり機能しているという面があるのではないかと感じております。 

【土屋委員】

  加藤委員のお話を伺っていて感じたのですが、おっしゃったのは、養成制度というよりは、その後の話ですね。
  例えば、国立大学の図書館員の場合には、基本的に司書資格は要求せずに、試験で選考していたので、いろいろな種類の人が受験できます。したがって、非常に多様な人材を採っていて、図書館情報学に限らない、いろいろな専門の修士を持っている、時には理系の修士を持っている人でも、実際に活躍している方は沢山いると思います。そのような意味では、養成制度に限定するのではなく、その後の処遇や、環境が変わっていくことにどう対応していくかという事柄が、少なくともこれからしばらくの間、特に大学図書館の状況の変化にとって重要ではないかという感想です。

【三宅主査代理】

  人はどのようにして情報を検索するのかという検索の認知科学の視点が司書の中にないと、人の知が外化されているデータベースそのものが育っていかないように思います。本だけではなく、ウエブ上で人が書いたものが、知的リソースとして司書の扱う情報の中にあるのであれば、それが養成課程の中に入っているべきなのではないかということを考えていました。

【植松委員】

  例えば、レファレンスの演習では、レファレンスインタビューといって、相手が本当に何を聞きたいのかということをインタビューの中から引き出してくるという練習が入っています。ただし、これは、授業としては非常に難しい。
  また、例えば、生物学の研究者の情報探索行動を研究されている研究者が授業をするというようなことをしています。

【倉田委員】

  図書館情報学の中に情報探索行動、もしくは情報利用という領域があり、それは学問領域の一つとして確立しております。三宅委員がおっしゃったことそのものではないかもしれないのですが、人がいかに情報を探すものなのかということを理論的に、もしくは実証的に研究する領域があり、その基礎的なものだけですが、慶應義塾大学では、学部のときから必修の科目としてあります。筑波大学でも類似した科目は開講されていると思います。司書資格の科目群の中には入っておりませんが、実際に専門家の養成を行っている大学や大学院では当然実施しています。

【有川主査】

  本作業部会において、一橋大学から、教員の方がサブジェクト・ライブラリアン的な機能を果たしており、ある特定の分野においては、かなり高度な図書館職員としての機能が発揮されているという紹介をしていただきました。そのような観点から、現状がどうであれ、一つの方向性というのはあると思います。そうした点について、具体的に話を詰めていかなければいけないのではないかと思います。
  本日のお話を中心にもう少し考えていったほうがいいと思うのですが、大学院等の教育と、職員の研修というものがありますが、それをどう位置付けるのか。研修は、人事の記録に残り、それが次の昇進などに役に立っていますが、教育システムとして考えたときに研修を積み上げていって、例えば修士が取得できるなどというようなことも考えられるのではないかという気もするのですが、そのようなことについて何かご意見はございますか。筑波大学では、実際に多くの職員の研修や、館長の研修も実施されていると思います。

【植松委員】

  大学図書館職員の研修を、大学で単位として認定するか否かということが一番大きな問題だと思います。単位として認定するためには、しかるべき時間とプログラムを充たすものでないと認定できないことになっているので、それが一番解決すべきところだと思います。

【土屋委員】

  研修の場合には、その受講は、本人の希望があっても、最終的に職務命令によるものなので、研修によって得た知識というのは、本来、還元されるべきものであって、個人の利益にならないという議論は当然あり得るでしょう。それに対して、教育の場合、授業料を払うというプロセスを経た上で対価を得るので、当然、自分のものになる。自分の将来のプラスに使ってよいということだと思うので、現状の研修制度そのものを単位に読みかえるためには、相当の仕組みをつくらないといけないという感じがします。

【緒方横浜市立大学学術情報センター長】

  研修というのは、図書館学全般の基本的なことをきちんと学んでいただく。例えば、図書館以外の分野を卒業した方で、図書館に入って活動したいという方のために研修制度がある、という理解でよろしいでしょうか。そういう方向性は非常に重要だと思います。それと同時に、図書館学を勉強した方が、それぞれの各論的な分野でいかに専門性を発揮するかということが、私など自然科学系の人間からすると非常に重要だと思います。例えば、大学として多くの教員は、学術情報が重要でないと考えている教員はほとんどいないと思いますが、学術情報の運用を担っている大学図書館職員の存在意義に関しては、あまり認識が高くない、非常にないがしろにされているという感じがします。
  ここ数年、特に自然科学系を中心にして、学術情報の流通の仕方は激変しましたし、その情報量は膨大です。研究者が適切な情報を得たいと思っても、なかなか検索スキルが上がらないという面があります。そのような状況の中で、例えば、利用者として考えたときには、その検索スキルのみを専門的に追究されて、情報検索ツールなどの動向を踏まえ、できる限り効率的に必要な情報を網羅的に得ることを教員と共有しながら伝授していただくという仕組みがあれば、非常に好ましい状況になるだろうと思います。
  システムの問題もあると思うのですが、本学では図書館長は教員ですが、それ以外の図書館職員は全員事務サイドの配置で、その人事配置も、事務系が主導で行われている。しかし、実際には、教員、学生のニーズに応じて図書館を運営していただきたいのです。教員側はこうしていただきたいのだが、事務側では人事や予算が厳しいので、この布陣では難しいという話になって、目指す方向性は明確でもなかなか実体が動かない。この際、教員と同じ位置付けか、職員とは別の専門性のある位置付けとして、実質、図書館がきちんと機能できるような運用体制を確立する必要があるのではないかと思います。
  各論では、検索の専門的内容や、研究で行われている実際の内容を図書館職員の方々がよく理解する必要があると思います。そのためには、例えば、ある一定期間、研究室配属があると研究で行われていることが明確に理解されると思います。論文検索とは何か、また、教員が日頃どういう活動しているかを知っていただいた上で、教員と密に連携をして、大学の活性化につなげるということが実現できれば、非常によくなっていくのではないかと思います。

【土屋委員】

  緒方先生がおっしゃったように、事務系職員というカテゴリーで待遇、人事を行う限りは、大学が大学図書館に要求している機能を担う人材を育てて、かつ、活用していくことは不可能だと思うので、事務系職員の枠を外した人事制度を大学図書館について考えることができれば、それがある意味ですべてではないかという感じすらします。
  もちろん、待遇的には、教員にすると、結果的に予算の関係で人数が減ることになりますが、人数が減っても構わないような体制をつくるなど、いろいろなシステムを導入するなどしてでも、そうしないといけないのではないでしょうか。もちろん、移行には相当困難なこともありますが、何かしらの切りかえをしないといけないのではないか。特に、国立大学全体として2,000人弱の図書館職員をある程度維持して、これから大学における教育的研究のために一緒に仕事をしていこうとするのであれば、当然、その枠を維持するための方法としては、事務系職員と違う処遇や人事制度を導入するなどしないと、もう無理なのではないか。もし国立大学で率先してできれば、随分違うのではないかという印象は持ちます。緒方先生のコメントに関連して、基本的に図書館員として入ってきた人に、途中から自然科学を教えるのは非常に難しいと思います。

【有川主査】

  私の経験では、図書館職員が、IT関係でものすごい力を発揮し始めたこともあります。また、自然科学系の人が図書館職員になっている場合もあります。要するにあきらめてしまったら、そこから何も進みません。
  本日の話は、いわゆる普通の司書と、大学図書館職員とが混乱して、はっきりしなかったのですが、緒方先生にうまくまとめていただいたと思っております。
  次回も、図書館職員はどうあるべきなのかということについて議論を深めていきたいと思います。

【植松委員】

  緒方先生がおっしゃったことに私も多くは賛成ですが、申し上げておきたいこととしては、情報検索などの技術開発の方向はセルフサービス化、要するに、欲しい人が一番欲しいものがわかっているので、それを代行してもなかなか本当に欲しいものに到達できないというのは昔から言われていますから、セルフサービスを進めることが今の技術開発の方向です。その上で、図書館員がすべきことは、例えばこのようなものをこの資料の中から探してみたらどうかというようなことをアドバイスすることであって、一緒に探すということは本来すべきことではないと私は考えております。

【有川主査】

  私自身も若いころに、図書館職員の力を借りて必要な文献を探し得たということを何回も経験しております。
  また、図書館職員を事務から切り離して独立したものにすることは、国立大学は法人化後に可能になっていると思いますが、現状では、ほとんどの大学が教員と事務職員とに二分されています。実際には、看護師や技術職系の職員を除くと、いわゆる事務職員はそれ程多くありません。図書館職員でもいわゆる事務をする部分として、庶務、経理がありますが、専門性の高いところは図書館職員として切り離して、ある種の専門的な意識を持ってもらうことは非常に大事です。そうした上で、今度は人事交流をすることなども大事なこととして出てくるのではないかと思います。そのようなことをしないと、特に国立大学法人は事務職員が多いと言われることもありますので、単に教員と事務職員を二つに分けるだけではなく、実態に合うような分け方があるのではないでしょうか。国立大学に関しては第2期中期目標期間において、取り組むべき課題なのかもしれませんし、公私立大学も、ある意味ではやりやすい面もあると思いますので、そのようなことを睨みながら、大学が大学らしく機能するために図書館はどうあるべきかという観点から、人材育成のための教育システムについても考えていくことになると思います。

 

 

(3) 事務局より、次回の開催は日程調整後、連絡する旨の案内があり、本日の作業部会を終了した。

 

――了――

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