研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第25回) 議事録

1.日時

平成21年6月25日(木曜日)15時~17時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

 3. 出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、上島委員、植松委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、羽入委員、米澤委員、山口委員

学術調査官

阪口学術調査官

文部科学省

倉持大臣官房審議官(研究振興局担当)、舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長   その他関係官

4. 議事録

(1)事務局より資料1「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方(審議のまとめ案)」、資料2「国立大学協会における検討の経緯(電子ジャーナル問題)」及び資料3「日本学術会議科学者委員会学術誌問題検討分科会について」について説明が行われ、以下の意見交換が行われた。

 

【有川主査】

  審議のまとめ(案)として、資料1のとおりサブタイトルは「大学図書館の現状と課題(特に電子ジャーナルの効率的な整備に関して)及び大学等における学術情報発信の強化等」であり、また、「はじめに」「1.大学図書館の現状と課題」(以下「1.」)、「2.学術情報発信主体としての大学及び学協会の情報発信力強化のためのオープンアクセス及び機関リポジトリの推進」(以下「2.」)という項目に整理をしてはどうかということですが、議論いただく前に、この点について少しご意見をいただきまして、そして内容、特に1.につきましては、国大協及び日本学術会議における検討に関するペーパーも含めて意見を交換できればと思います。

【土屋委員】

  2.のタイトルですが、「学術情報発信主体としての大学及び学協会の情報発信力強化のためのオープンアクセス及び機関リポジトリ」というまとめ方では、現在、学協会の雑誌の通常の販売によって収入を得ることについては、全体として非常に否定的な意見でまとめるということなのでしょうか。
  つまり、オープンアクセスと機関リポジトリというと、要するに学協会の販売する雑誌は要らないように聞こえてしまうので、もう少し抽象化した方が良いのではないかと思います。

【有川主査】

  元々タイトルが少し長い感もあります。もう少し短目にした方が良いかもしれません。確かに、オープンアクセスあるいは機関リポジトリにしましても、学会の運営ということからしますと、少し問題があるのかもしれません。

【土屋委員】

  1.に関しましては、やはり、いろいろなところの議論も電子ジャーナルの価格という問題に集中してしまっていますが、本当に今の大学図書館を全体として考えたときに、これだけで良いのかということの議論とチェックはしておかなければならないのではないでしょうか。議論の中心としてこれが据えられることは仕方ないとしても、「基本的な役割」という以上は、必要なものは一とおり並べた上で、特にここについて議論したという感じのまとめ方にしていただけたらと思います。

【有川主査】

  「基本的な役割」に書かれていることは、主に電子ジャーナルを中心にしたことになっていますが、大学図書館の基本的な役割ということからしますと、もう少し他のことも書いておいて、その上で電子ジャーナルに焦点を当てていくべきでしょう。そのような意味では、基本的な役割に関して、必ずしも十分な議論をしていません。もう少し大学図書館とはということを議論してみる必要があるでしょう。

【山口委員】

  第21回のときに、図書館の在り方や役割を議論した際に、人材育成についての議論がなされたと思います。図書館で働くプロフェッショナルの育成を日本としてどのように考えていくかという点について、海外との国際競争力を含めて話もしたと思いますので、日本の大学における職員のプロフェッショナルな位置付け及び人材育成についての重要性という点をどこかで入れておくのは必要だと思います。

【有川主査】

  人材育成とか学習機能、図書館機能なども少し触れるのか、あるいは、特に電子ジャーナルに焦点を当てて大学図書館の現状と課題に焦点を当てるのか、その辺はどういたしましょうか。

【舟橋情報課長】

  今回の部会で、ご議論を始めていただく際に、論点を整理させていただいた資料における当面の検討課題について今回、審議のまとめ(案)として書かせていただいておりまして、今ご指摘がありました図書館の基本的な機能の確認、人材養成や国際競争力などについては、中長期的な視点に立った検討課題として、基本的には当面の検討課題をお取りまとめいただいた後に、またご議論をいただいてはどうかと考えている事項に入っているものでございます。しかしながら、大学図書館の基本的な役割と言っていながら、その記述があまりに薄いというのは問題かと思いますので、もう少し記述を膨らまして、これまでご議論があった人材育成の点などは少しこの段階でも加えておくことが適当かとは思います。

【土屋委員】

  中長期的というのは大分先になることが予想されるので、少なくとも当面ではないということでしょうか。しかしながら、例えば、資料費が前年度比1.4%増と大して増えていないことに対して、運営費が9.8%減になっている。非常にその部分が弱くなっているのではないかと思います。そのようなことを考えると、9.8%、1割減っているということはかなり大変なことで、緊急性を要するのではないかと思います。資料費の場合、電子ジャーナルは、為替の関係もあるので、ブレはあるが、そういうことのない運営費に関しては純減していると思うので、次に議論というよりは、ある程度は触れておくべきではないかという印象を持ちました。

【有川主査】

  「大学図書館の現状と課題」という項目を立てるのであれば、まとまった議論をしなければなりませんが、実際には図書館における電子ジャーナルの問題が当面の検討課題ということですので、場合によっては、1.についてもう少し焦点が合うチャプターにすることが考えられます。
  その場合、「はじめに」において、今、土屋委員が述べられた意見について触れておいて、電子ジャーナルあるいはオープンアクセスなどに今回は焦点を当てておくという書き方もあるかと思います。基本的な役割について議論しますと、最低でも1回、2回は必要だと思います。
  しかしながら、コンテンツは確かに増えている一方で経費は上がっている状況があります。さらに、もっと大変なことは、国立大学の場合、運営費交付金がどんどん減っており、人件費も減少していますので人員を削減しなければなりません。そのような中で図書館を維持しているということの大変さなどは、「はじめに」で触れておいて、我々が今まで議論してきた問題をまとめる方向で進めるのはどうかと思います。
  ただし、中長期的とは言っていますが、人材育成の問題や、大学図書館でなければできない新たな問題が明確になってきていますので、これは引き続き検討する機会があると考えて、今回はそのようにまとめたらと思いますが、よろしいでしょうか。

【三宅主査代理】

  今、人材が減っているという話と、将来的に必要な人材というのは、そのまま今の人たちが移行していけばうまくいくという話ではない。新しい人たちが今のものを支えながら新しいほうに移行していく何らかの仕掛けがないと、若い人がいるからうまくいくとは限らないのではないのですか。そのようなことも盛り込んでいく必要があるということでしょうか。

【植松委員】

  経費の面で非常勤職員だけではなく、定員流動化や人員削減などがありまして、専門的な知識と技術を持った職員や部課長の異動を含め、特に「はじめに」の部分にぜひ記述していただければと考えます。

【有川主査】

  今の異動というのは、国立大学の問題ですね。私学の場合はむしろ異動がないために大変ということがあるのかもしれません。

【土屋委員】

  私立の場合、伺った話では、基本的には図書館職員はいない。つまり、大学職員が図書館で仕事をしているだけであって、図書館職員として専門性を評価して雇用されたりプロモーションされたりするという大学は現在、若干あるかもしれないが、ほとんどない。

【倉田委員】

  私立の場合にはほとんどの場合、大学職員としての採用しかありません。ただし、一部に技術職や途中採用の場合に限って、ある種の技能を持った人を特定的に採るようなことが一部あるだけで、基本的にはどこに回されるかわからないし、どこから来るかわからないという状況です。

【有川主査】

  そうしますと、私立の場合にも国立と似たような問題があるということでしょうか。学内での異動で専門家がなかなか来ない。しかし一方では、かなりの専門性が要求される。これまではそのような意識が少なかったかもしれませんが、IT関係の専門だけではなく、大学図書館の専門家が必要であるという認識が広まりつつあると私は思っております。あまり深入りしますと、それだけで1冊になると思いますのでその点は少しだけ「はじめに」で書くことにしましょう。
  そのような視点から「はじめに」、「大学図書館の現状と課題」、「図書館の基本的な役割」を少し特化した書き方で整理するということでどうでしょうか。
  2.のタイトルは少し長いので、せめて1行に収まるようにしてはどうでしょうか。大事なことは情報発信と流通の在り方に関することだと思います。また、オープンアクセスとか機関リポジトリというのは残した方が良いだろうと思います。

【土屋委員】

  平成18年当時、オープンアクセスを前面に出した報告を書けなかったときから比べると、極めて大変な進歩であるというあたり、3年間でこれほど変わったかということを大変喜ばしく感じております。

【有川主査】

  平成8年の建議では、電子ジャーナルについては記載がなく、コンセプトさえ定着していないという状況でした。その後、この10年程の間にもう一つ報告が出ておりますが、この10数年の間にやっとこのようなところまで来られたという感じもいたします。
  そのような意味では進歩しており、方向性や問題意識などに関しても、しっかりまとめていただいたと思います。

【倉田委員】

  まず、項目の名称ですが、2.のタイトルが「リポジトリ」になっておりますが、これは「機関リポジトリ」のことだけしか書かれておりませんし、いろいろな意味合いを含ませてしまいますので、「機関リポジトリ」の方がむしろ良いのではないかと思いました。また、中身に関して重複等があるので、少し整理していただいた方が良い点があると思います。

【飯澤学術基盤整備室長】

  議論の中では、分野別リポジトリや共用リポジトリのお話も出てきましたので、今後の部分については「リポジトリ」ということで書かせていただいていたのですが、少しご議論いただければと思います。

【有川主査】

  分野別リポジトリも含めて「機関リポジトリ」と言ってしまって構わないのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

【土屋委員】

  分野別リポジトリを項目的に含めるにせよ、「機関リポジトリ」の方が記述の疎密からいうと適切ではないかなと思います。

【有川主査】

  それでは、少し中身に入りまして、またそれを議論する上で見出し等についても議論をいただければと思います。
  「はじめに」において、大学図書館の課題などについても特に経費面から触れるということは、先ほど言ったとおりですが、それ以外のことでご意見をいただきたいと思います。

【土屋委員】

  大学図書館の整備、学協会が刊行する学術雑誌というところに話が納まっていくプロセスに少し記述がない感があるので、それを「はじめに」のところで書いておいた方がよろしいのではないでしょうか。2つのテーマに絞ったということがわかる形にしていただく方がよろしいかと思います。

【有川主査】

  それでは、国大協と日本学術会議の検討に関してご意見を伺います。国大協の方はまだ正式なものではないと思いますが、かなり具体的なスキームが提案されております。
  1つは、電子ジャーナルの高騰対策となっていますが、オープンアクセス化というのは電子ジャーナル高騰対策ということではないと思います。これは少し違う気がしています。むしろ結びつけないほうが良いと思います。これは国大協がまとめられたことですので、ここで言うことではないかもしれませんが。
  フェーズ1の図の左側は国大図協の対応方法ですが、それに対する右側の対応案について何か意見がありますか。

【土屋委員】

  日本の国全体より小さな規模で、例えばオハイオリンクはかなりこれに近い。オハイオ州のコンソーシアムですが、その専任スタッフは大体20人弱で、多分NIIの学術コンテンツ課のスタッフよりも多い。実行するとすれば、NII機能の3倍ぐらいの増強は必要ではないでしょうか。
  また、ネゴシエーターやエージェントを委員会指名で行うというのは少し無理ではないか。今の商慣習から指名するのは問題なので、やはり入札をするしかないと思うのですが、入札をしたときに質的に劣化することは、イギリスなどの例でも実際に経験済みなので、理想的に機能すれば素晴らしいかもしれませんが、その理想を阻むことは結構現実的だという印象を持ちます。

【有川主査】

  1つは、EJ高騰対策委員会にかかる資金は、文科省あるいは国大協から賄うことになっていますので、大学から見ますと、その分だけ安くなるという判断があるのかもしれません。国大協が出すとしますと、国大協は各大学の会費で成り立っているので、会費を上げるということはあると思います。

【土屋委員】

  考え方としては「J-PubSci Central(仮称)」に保存し、大学等に配信するということですが、学術雑誌の選択という話が当然出てくる。そうすると、そのコントロールをすること、要するに現在すべての出版社が分担している機能をここが全部持つということになるので、確かに技術的開発課題としては興味深いものですが、NIIはオペレーティングスタッフだけではなく、研究開発も増強しなければならないと思います。

【坂内委員】

  まだ計画ですので、今言われるような課題、意見集約や予算などは、これからいろいろなことを国大協で詰められていく中で、私どもとしては、ご要望にお応えするような努力はしなければならないとは思っています。

【土屋委員】

  右側に委員会指名のネゴシエーターやエージェントとあり、左側にコンソーシアム協議という形になっていますが、日本の国立大学も公私立大学も今まで10年近くの出版社とのつき合いを経て、専門的な知識はかなり蓄積されていると思うので、それ以外の誰が専門的な知識を持っているのか少しわからないという感じはします。
  それ以前というのは、日本の図書館は外国の出版社と直接交渉した人は一部の図書館を除いて、ほとんどいないので、代理店と称せられるところとしか話していなかった。それがこの10年間で著しく専門的なスキルが上がったと思いますので、それを活用する方向で考えるのが自然なのではないかと思います。
  ネゴシエーターが果たしてどこまでできるのか。多分、一番良いのは外国人を雇うことですが、対策委員会はどこまでコントロールできるかということに関して現実的な危惧は結構あるのではないかと思います。

【有川主査】

  これは基本的には高騰対策ですので、このスキームでどのくらいトータルで経費削減を図ることができるのかの見通しがないというのはいかがなものでしょうか。

【羽入委員】

  高騰対策ということで国大協の経営支援委員会で議論しているので、おそらくどのようにうまくネゴシエーションができるかということが主な観点だと思いますが、この場で議論することと、国大協で議論されていることや日本学術会議で論じられていることがどのような関係にあるのかということが理解できておりません。
  つまり、今議論したような国大協の事柄について、ここで発言すると、それが国大協に返っていくのかとか、そういう関連性を少し教えていただけるとありがたいと思います。

【有川主査】

  我々は今まとめをしようという段階ですが、その時点で奇しくも2つの提案がなされることを今回のまとめの中に何らかの形で反映させなければならないものでしょうか。つまり、2つの検討がかなり進んでいて、良い提案であれば、それはそのまま使えると思います。この提案されたものに対して我々は議論しておく必要があると思います。

【羽入委員】

  私立大学の場合も図書館協会等が交渉していると思うのですが、たまたま私たちの手元に届いたものについて議論するというより、やはり組織的に具体的に電子ジャーナルの問題について議論してきたものを対象とすべきではないかという気が少しいたします。

【有川主査】

  資料2の最初の方にありますが、昨年の2月の時点で文科省に要望書が出ていることなども受けた形で今回本作業部会においてこれを議論していることも一方であります。
  これは国大協の報告でありますが、実施するのであれば私立大学、公立大学も一緒にしなければならないと思います。
  また、オープンアクセス化については、先程申し上げましたことを除けば、我々が議論してきたことと同じようなものだと思います。

【土屋委員】

  フェーズ2に関しては、新たなOA-EJ発刊の要請というのがありますが、これは多分今まで本作業部会では議論になっていなかったのではないかと思います。

【有川主査】

  ここで提供されている「J-PubSci Central(仮称)」は、NIIに相談はあったのでしょうか。

【坂内委員】

  具体的にはありません。ただし、電子ジャーナルの問題を解決していくというプラットフォームは必要で、具体的にどのような形が最終的なソリューションとしてあり得るかというのはこれからの議論だと思います。そのような中で、NIIに何らかの役割を担えというお話ですと、それはお応えしなければならないと思っています。

【有川主査】

  NIIの実績としては、電子ジャーナルに関しては、シュプリンガーなどのアーカイブがあります。
  それでは、もう一つの日本学術会議の方ですが、これにも少し触れていただきたいと思います。

【土屋委員】

  日本学術会議の第3回の会合に出てきた話の第2番目の外国雑誌地区センター構想は、既にある話ではないかと思うのですが。

【有川主査】

  既にあるのは、地区ではなくて専門分野別です。これは地区ということに意味があると思います。しかしながら、ILLについては意味がわからない。

【飯澤学術基盤整備室長】

  少し補足をさせていただきますと、外国雑誌センターについては、東と西とそれぞれ分野ごとに設けられているという実態にございます。特に医学・生物系については、大阪、東北、九州と3館あると伺っております。
  また、日本学術会議の外国雑誌地区センターについては、必ずしも冊子体だけではなく、電子的な情報も集めて、それを複写サービスのような形で提供していくという構想もあると聞いております。詳しいことはあまり情報がありません。

【有川主査】

  地区ということでは、例えば東京では東大図書館に行けば見られるということで地区というのが意味を持ってくると思います。いわゆるウオークインなら良いと考えますと、東京の人が東北まで行くのは大変だが、東京都内であれば必要であれば行けば見られるという意味での地区センターということは考えられる。一方で迅速なILLと言っていますから、行かなくても届けてもらえるということを言っていることになっています。そのことを除きますと、日本学術会議でもこの問題を取り上げていただいているということで良いのかなと思います。国大協の方は少し具体的なことが入っていますので、もう少し聞いてみなければならないと思います。
  それでは、資料2と3につきましては、これくらいにしまして、資料1について、もう少しご意見をいただきたいと思います。
  2.(3)3で、研究成果公開促進費が何カ所か出てきていますが、現在、研究費部会でこのようなことも含めまして科研費のあり方について議論しているところですが、研究成果公開促進費に関しては、特に人社系、文系の人たちの考え方がまるでここで議論しているのと違いまして、印刷物でなければならないと強く主張されており、電子化については、なかなか理解いただけない状況にあります。
  さらに、学術図書に関しましては、かなり評価も高く、あまり問題になっていないのですが、我々はそれを電子的なものにしておかないと多くの関心ある人がアクセスすることが困難であることや散逸してしまうことなどを指摘しています。しかし、人文社会系の方々の考え方は、ここで議論していることとはかなり違います。

【三宅主査代理】

  物理的なものがあれば電子化されても構わないという、プラスアルファとして、情報発信力強化という範囲であれば、別に許容はできるということはあるかもしれないと思います。
  電子化すると一部の情報が落ちてしまうと強く主張されるわけではない。ただし、物理的なものがないと困る世界はあると聞こえるので、国で学術図書の刊行を補助するときは、基本的に電子化の部分を補助することに徐々になっていくことはあり得ます。しばらくは平行線でもそれは大丈夫ではないかと感じています。

【土屋委員】

  今時、ワープロで書いたものを印刷して、紙が大事だというのはどうかと思いますが。

【有川主査】

  ワープロで書いたものを原稿として提出するのではなく、手書き、活字、初校、再校、三校して、そのプロセスでしっかりしたものをつくり上げていくという意識があるようです。

【羽入委員】

  研究成果はいろいろとありますが、例えば美術史の研究では、画像があり、それを電子化すると違ってくるということがあります。
  また、研究の対象としている資料が著作権や版権の問題で電子化できないものが中に含まれた論文もあります。例えばあるお寺の仏像などを対象にした研究の場合には、その資料については電子化しないでほしいと言われた場合、その論文全体が意味をなさなくなってしまうということもあり、単に手書きして何度も校正してということで紙媒体が必要だということだけではない意味もあるだろうと思います。

【有川主査】

  今の問題は、機関リポジトリを立ち上げるときに直面した問題でもあります。印刷物で発行部数限定の紀要であれば問題にならないことが、機関リポジトリに論文を置いた途端にプライバシーの問題になるというおかしなことを私たちも経験したことがあります。また、かなり前には、写真はデジタルだと粗いから駄目だという話がありましたが、今はさすがにそういうことはなくなっていると思います。そのような問題がある一方で、このような時代になっているのですから、電子化の促進を強調しなければならないのだと思います。

【羽入委員】

  電子化する場合に、例えば非常に進歩の早い分野の場合には、古い論文は意味をなさなくなるということがあると思いますが、古いがゆえに意味をなすものがある文化もあって、その場合に、電子化を常に生かしていく作業をしていきます。そうすれば、生かす必要があるものは生かしていくが、そうでないものは多分要らなくなって捨てていくことになると思います。そこで捨て去られるようなもので必要なものが生じることを人文系の人は考えるのではないかと思います。要するに、情報の質が文字化される情報だけではなく、例えばある本がこの時代にこのようにできたという文化的背景をそこに込めたいという人がいてもおかしくないと思います。

【三宅主査代理】

  基本的にどのようなものを機関リポジトリやオープンアクセスなどで研究者の共有財産にしていくかというときに、国の予算で保存するものは基本的に電子的なものであると言っても、電子的なものだけでも良い人はそれで良いし、どうしても元の紙を見ないと、筆がどのぐらい立っていたのかというのがわからないと主張する方は、どこかに1部あれば良い。それを複製して共有することはこちらが保証するという言い方をしたときに、特にそのこと自体に反対をする方はいないのではないかと考えています。

【有川主査】

  まさに14ページは機関リポジトリなどの事業で、その有効性は証明されたといっていいと思います。機関リポジトリに登載すると、いろいろなところからアクセスされて、紙が大事と主張されていた方も含めて皆さん喜んでいらっしゃるということがありました。

【倉田委員】

  13ページの3の2番目の「国の助成を得た刊行物」という言い方は、これが何を指しているのかがあいまいで、そのまま読むと、電子化されたものを中心の助成とつながってしまうというところは誤解を生むのかもしれないと思います。つまり、これは学協会の学術雑誌の場合には、少なくとも電子化を重点的に助成した方が良いという意味だったと思います。しかし、「国の助成を得た刊行物」と言いますと、学術図書も当然入ってしまうようにも読めますので、この辺は少し整理した方がよろしいかと思います。

【有川主査】

  学協会の刊行物に係る助成のところですね。定期刊行物はこれでよろしいですか。

【舟橋情報課長】

  はい。国の助成を得た学術定期刊行物という意味です。

【土屋委員】

  13ページの3番目の丸ですが、これはオープンアクセスにする学術雑誌に対してパイロット事業的に重点支援を行うという、要するにお金をしばらく出すからオープンアクセスにしなさいという支援の意味合いだと思いますが、オープンアクセスにすると国際競争力が増すかということについては、必ずしも検証済みではないと思います。典型的な例が、J-STAGEにあるオープンアクセス雑誌はたくさんありますが、国際競争力を増してないものの方が多いわけです。ですから、つまりインパクトファクターがつかない雑誌が多いので、これは根拠がないかもしれないと思われます。
  また、「国立情報学研究所が実施するSPARC Japan事業」は、この中の雑誌の支援に関して、今まではビジネスモデル構築ということで、むしろ売るということになっていた記憶がするので、オープンアクセスの話と結びつけることは反対ではないのですが、そこで生ずる誤解をとっておいたほうが良いということがあって、表現に注意しなければならないと思います。

【有川主査】

  国際競争力ということではそうかもしれませんが、ここではどこからでも読者、研究者がアクセスできるので、そのような意味で競争力が出るという話だと思います。
  これは1回助成をすると、それを続けるということではないということです。NIIの機関リポジトリ構築連携支援事業はスタートアップの資金としては非常に有効でした。そのような助成の仕方が健全なのではないかというのがこの意見の背景にあるのではないかと思います。
  J-STAGEは、助成がなくなると、学協会がJ-STAGEからの発信ができなくなって、結局、商業出版社にそのまま出すということが起こっているという意見も聞いております。

【土屋委員】

  質が劣化している雑誌は、商業出版社は買いませんので、そのようなことはないと思います。

【倉田委員】

  駄目になっていくのではなく、学協会のビジネスモデルの二極化があるというお話だったと思います。つまり、1つは丸投げ、ただし、その場合も一定の評価がなければ商業出版社側も買い取ってはくれないと思うのですが、商業出版社側もかなり幅広く手を出しているようですので、日本の雑誌は最初の評価としては入れてもらえるものが結構あると聞いております。

【土屋委員】

  もちろん、ポテンシャルを見ているところはあるだろうと思いますが、学術雑誌を出版社が買う場合も、基本的には期限のある契約関係でしかありません。出版社と学協会との関係は、委託販売や委託製作など、いろいろなレベルはありますが、出版社側も渡り歩くし、学協会側も渡り歩くというのが国際的な実態だと思っていて、それを日本の学協会も行うようになっただけのことなので、健全なマーケットが日本の中にも侵入してきたということでしょう。要するに、学術雑誌は国際的でしかあり得ないので、当然の帰結であり、その上で、なおかつ日本の学協会の雑誌刊行を助成することにどこまで意味があるかということは、やはり微妙な問題があるのではないかと思います。

【有川主査】

  助成については、研究費部会の話なのですが、中小、弱小の学協会等からは、助成は本当に大事で、それがなければ続けられないという意見が圧倒的に多いです。そのようなときに、助成されているので、なるべく電子的にして会員だけではなく、他の関心のある人もアクセスできるようにしておくことは主張しても構わないと思います。

【米澤委員】

  12ページの下から3つ目の丸ですが、最初の部分、海外の評価の場に置かれることにつながるというリスクを認識するというのは、深読みすれば、評価ではなく、アイデアを盗まれるということで読めというのであればわかりますが、評価の場に置かれることがリスクという認識というのは、理解しがたい。

【土屋委員】

  オフィシャルに書くときに、基本的に研究は国際的なところで行われているので、国内と国外を区別する議論を表に出すのは、もはや無理ではないかと思います。

【三宅主査代理】

  追加意見かもしれませんが、学会によっては投稿されてきたものを電子的にとにかく載せてしまおうという話もある程です。それを考えると、この最初の3行は書いておかない方が良いと思います。

【山口委員】

  1の3つ目の丸ですが、海外における評価の高い学術雑誌については、研究者を見出し、さらに評価を高め、発展していくといった状況が見られるが、そこまでは良いのですが、「我が国の多くの学協会はそのような対応が困難な状況にある」というのは、とてもジャンピング・トゥ・コンクルージョン(結論への性急な飛躍)で、もう少し説明が必要であるというのが1点と、もう一つは、海外における評価の高い学術雑誌についてはこうであるが、我が国の多くの学協会はそのような対応が困難な状況にあるというのは、評価が高くないと自ら言っているようにも読める。その議論も少しあったと思うのですが。

【三宅主査代理】

  そのような人材を養成する必要が日本でもあると読むのは無理でしょうか。

【山口委員】

  我が国の学術雑誌でも、やはり評価が高い学術雑誌はこういうことをしていると思います。この書き方だと、我が国の多くの学協会は、要するにマジョリティー(多数派)がそのような対応が困難な状況ということは、評価が高くない学術雑誌だと読める。もし言うのであるとすれば、もう少し説明が必要なのではないでしょうか。なぜそのような状況になっているかということも必要だと思いますし、現状はそうかもしれないのですが、少し分析が足りないのではないでしょうか。

【倉田委員】

  幾つか話が複雑に入り組んでいると思うのですが、個別に見れば日本の幾つかの学協会の学術雑誌は、世界でも一定の評価は得ていると思います。ただし、今、学術雑誌の情報流通全体を見たときに、数少ない商業出版社が大部分の雑誌を出していて、その全部が高い評価ではなくても、世界のトップジャーナルの多くが大手の出版社に収斂してしまっています。電子ジャーナルの時代になって個別の学協会が単独で雑誌を刊行していくことは構造的に非常に厳しくなっていることは、日本だけではなく全世界的に言えることです。少数の独立できるトップジャーナルを出せる学協会だけは何とか食い込んでいますが、それ以外の中小の学協会誌は、大きな商業出版社の波に呑み込まれており、委託契約等をしてそこに入っていかなければ、電子ジャーナルを出すことができにくくなっていっているということは大きな問題であるとできれば指摘しておきたいと思います。

【有川主査】

  このところは少し問題がありそうですけれども、全体としては学協会からの情報発信に関して、このような問題があるということを指摘していることにもなっています。

【土屋委員】

  ただし、気になるのは、学協会の学術情報発信と書いてありますが、学術雑誌刊行を学協会は情報発信だと思っているのでしょうか。つまり、例えば日本の多くの学会誌が自分の学会員のみの投稿を認めて、学会費を払っている人にしか配らないことを通例としているところはたくさんあります。それを情報発信とは言い切れないのではないか。

【有川主査】

  一方で数万人規模の学会もあって、学会の会員は当然ですが、それ以外のところにも当然流通はしています。ここは、そういう意味では大きな学会などを想定していると思いますが、ある意味での悪循環に陥っているということの1つの指摘なのでしょう。しかし、だからどうするということが書かれていません。

【舟橋情報課長】

  10ページの2つ目の丸のところに、これはオープンアクセスの項目に入っていますが、「我が国の学協会が行う学術情報の電子化等への支援の強化が必要である」ということを書いておりまして、このような趣旨のことを12ページでの学協会のところでも言おうとして、流れを整理させていただいたのですが、確かにここにはどうするのかということが書いていないので、そこはよく記述の整理をさせていただきたいと思います。

【有川主査】

  それでは、たくさんの意見をいただきましたので、本日はこれで終了したいと思います。今日いただきましたご意見をまとめたものを次回に用意していただけるのではないかと思います。

 

(2)事務局より、次回の開催は平成21年7月16日(木曜日)15時から17時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

 

―― 了 ――

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研究振興局情報課学術基盤整備室

高橋、布川
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