研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第21回) 議事録

1.日時

平成21年3月5日(木曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.出席者

委員

 有川主査、三宅主査代理、植松委員、加藤委員、倉田委員、坂内委員、土屋委員、山口委員、米澤委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、倉持審議官(研究振興局担当)、舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官
科学官
 喜連川科学官
学術調査官
 阿部学術調査官、阪口学術調査官

4.議事録

(1)事務局より資料1「第5期科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会委員名簿」に基づき、委員の紹介が行われた。また、有川主査から研究環境基盤部会運営規則により、三宅委員が主査代理に指名された。

(2)事務局より資料2「科学技術・学術審議会学術分科会の組織について」及び資料3「学術情報基盤作業部会の設置について」に基づき本作業部会の概要、議事運営等について説明が行われた。

(3)審議に先立ち、磯田研究振興局長より挨拶が行われた。

【磯田研究振興局長】
 委員の先生方におかれましては、本作業部会の委員をお引き受けいただきまして、誠にありがとうございます。有川主査から、本作業部会の位置付けにつきましてお話がございましたが、学術研究全般を支えるコンピューター、ネットワーク及び学術図書資料等の学術情報基盤は極めて重要な役割を担っていると思っておりますが、その基盤について、いろいろな課題が生じていると承知しております。
 例えば国立大学につきましては、現在、第1期の中期計画期間が終了しようとしておりまして、それについての評価、あるいは次期に向けての議論が渦中にございます。国立大学法人化直後の第1期は、各大学が法人化への対応に努力をされたわけでございますけれども、その法人化のメリット、デメリットが第2期において具体的に表面化するという状況ではないかと思っております。その中でインフラと言われております情報基盤は、多くの先生方にご関心を持っていただいておりまして、今後の対応がぜひとも求められているという認識でおります。
 また私学につきましても、約4割の大学において定員未充足という状況の中で、これまでは大学院の拡充や、あるいは学部における進学率の上昇等で対応されてこられましたが、そういう対応も限界に来ており、抜本的な対策を各法人でとっていただいておりますけれども、そういう動きの中で研究基盤、学術情報基盤がどのように維持され、それが全国のネットワークの中でどのような位置付けで機能を果たしていくかが、非常に重要な課題でございます。
 具体的には、大学における電子ジャーナルの価格の高騰への対応という大きなテーマが顕在化しておりますので、そのような緊急に対応する課題についても、ぜひご議論をいただければと思っておりますし、また国立大学法人化や、高等教育を含めた大学の規模という議論の中における学術情報基盤の在り方については、ぜひとも大所高所から精力的なご議論をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

(4)事務局より資料5「『学術情報基盤の今後の在り方について(報告)』(平成18年3月23日、学術情報基盤作業部会報告)における指摘事項に関する現状等」に基づき、大学図書館及び学術情報発信に関する現状や取組等について説明が行われた。

(5)事務局より机上配布資料「学術情報基盤作業部会における審議の論点(案)」及び「学術情報基盤作業部会における当面の審議のスケジュール(案)」に基づき、本作業部会における当面の検討課題、中・長期的な視点に立った検討課題及び今後のスケジュール等について説明が行われ、以下の質疑応答が行われた。

【土屋委員】
 机上配布「審議の論点(案)」の中・長期的な視点に立った検討課題に関し、情報流通関係の項に「研究成果としての論文の適正な評価の在り方」という項目がありますが、論文業績をもとにした業績の評価という意味ならわかりますが、例えばこの物理学の論文がいいか悪いかについては議論のしようがないと思います。どういう意図なのか、もう少しご説明いただきたいと思います。

【舟橋情報課長】
 これは「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」で、雑誌全体のインパクトファクターを、そこに掲載された個々の論文の評価に転用するという誤った使い方が行われているという指摘を踏まえ、その後の状況も勘案しながら、この点をご議論いただいたらどうかということで入れております。

【土屋委員】
 わかりました。意図としては、論文そのものをどう評価するかという話ではなく、インパクトファクターという雑誌評価の指標を、個々の論文の評価に用いるのという手法について、問題点を指摘したということです。おそらく、論文の適正な評価の在り方というのは、情報流通の問題ではなく、学術そのものの問題という感じがします。

(6)植松委員(筑波大学附属図書館長)より資料6「大学図書館の現状」に基づき国立大学図書館の現状について説明が行われ、その後、質疑及び今後の審議において検討すべき課題等について意見交換が行われた。

【植松委員】
 「1.はじめに」に関し、大学図書館は言うまでもございませんが、大学における学習、教育、研究を支援する中核的な基盤施設であると規定されております。そこにおいて、研究支援という面では、電子ジャーナルをはじめとして、図書館では非来館型サービスに大きくシフトしているということでございます。また、学習支援という面に関しては、現在、来館型サービス中心ということで、学習図書館機能をいかに充実させていくかということが大きな課題になっているといえます。さらに、教育支援という面では、教員の授業等を資料や施設で支援するということでございまして、この部分は大学図書館が一番手を出せていないところであると感じております。
 私の説明では、大学図書館サービスを構成する資料、職員、施設という面から幾つかの点を取り上げて、お話し申し上げたいと思います。 
 「2.資料」といたしましては、まず電子ジャーナル等の電子的資料についてお話しいたします。「価格とその上昇」と表記しましたが、電子ジャーナルの価格の高騰という表現がありましたが、上昇率そのものは年5%弱と、著しいとは言えない状況に落ちついてきたとおっしゃる方もいます。しかし、経費総額が巨額であり、価格上昇が定常的に続くということが大学及び大学図書館にとって大きな負担であるということは言えます。
 筑波大学の場合、運営費交付金の約1%程度が資料購入総額であり、価格が5%程度上昇となりますと、数千万円の単位で購入経費が増していくということになり、これが大きな課題であります。電子ジャーナルの価格が上がっていくことで、図書館の資料購入費の相当部分を、電子的資料の購入経費に充当しなければならない状況にあります。
 また、この電子ジャーナルの購入に係る、出版社側が提供しているビジネスモデルについて教員等に説明しづらいという問題がございます。最も費用対効果の高い形態としてはパッケージ一括方式が提供されているわけでありますが、運営費交付金の削減等により、パッケージ一括購入を維持できなくなりますと、急激なサービス水準の低下のおそれがあります。
 例えば、最大のパッケージでありますエルゼビア社のサイエンス・ダイレクトの場合、筑波大学では、およそ400タイトル分の購入経費をもって、1,800タイトルの電子ジャーナルが読めるという環境になっておりますが、これがパッケージ一括方式を持続できないということになった場合、ほぼ同等の額でそれ以外の方策を探るといたしますと、次善策としては、タイトル数にして約350程度までしか買えなくなってしまうということで、1,800タイトル読めていた状況が350タイトル程度に減り、しかも支払うべき金額は同じくらいになってしまう状況があるということです。
 こうしたことから、柔軟で持続可能性の高い新たなビジネスモデルについて、出版社等と協議を開始する段階にある。開始しなければいけない。あるいは開始することを働きかける。出版社側もそういう機運が高まっているということで、柔軟で持続可能性の高い新しいビジネスモデルを締結する方向に進むべき段階にあると申せます。
 さらに、電子ジャーナル等の購入経費を、全学共通経費に移行することについて、先ほど、事務局より、各大学において全学共通経費化が進められていると説明がありましたが、実際問題としては、一部部局負担が残されている形での共通経費化というのが大概であります。電子ジャーナル等にかかわる購入経費の全額を全学共通経費によって賄う。いわゆる部局負担をゼロないしは非常に小さなものにしていく形で、電子ジャーナル等を大学における学術情報のインフラとして捉え直していくことが必要であろうと考えております。ちなみに筑波大学では、平成21年度から全額を全学共通経費化するということで決着いたしました。
 電子ジャーナル等はこれまでS・T・M、つまり、科学・技術・医学の領域に偏っておりましたが、人文社会科学系の電子的資料、全文データベース、電子ジャーナル等を購入・整備ないしは媒体変換等、館内で作成・蓄積する必要性が高まっているということが申せます。国立大学図書館協会等も協力していたSCREAL(Standing Committee for Research on Academic Libraries:学術図書館研究委員会)が調査したところでは、人文社会科学系の教員でも電子ジャーナル等をよく利用すると回答した人が増えてきているということでございます。
 したがって、電子ジャーナルについては購入額が大きい、あるいは定常的に値上がりしていくことが非常に大きな問題であり、現在、曲がり角といいますか、国立大学法人の第2期中期目標・中期計画期間に、運営費交付金が大幅に削減されると、電子ジャーナルを購入し続けることができない大学が現れるのではないかという危機から、新しいビジネスモデルを協議する段階になっているということが言えます。
 次に、図書等印刷資料についてですが、これは先ほど申し上げましたように、図書館の資料購入費の多くが電子的な資料に充てられるということで、教育用図書、研究用学術図書ともに図書館で購入できる量が減ってきている。教育用であれば、シラバス関連図書などに限定せざるを得ないとか、研究用であればシリーズ物に限定されるという状況であります。これまで研究用学術図書については、教員の個人研究費による購入に大きく依存してきたわけでありますが、教員も研究費が縮減されているということで、購入量が大幅に減少しております。特に洋書について言えることです。
 また、国立大学法人化前は文部科学省より、大型コレクション、人文社会科学系コレクション等特別図書購入費が措置されておりましたが、それが廃止されたということで、まとまりのあるもの、価値の高い資料が購入できない状況にあるということでございます。
 次は、サービスを構成する要素の2つ目としては、「職員」についてであります。まず、専門職員の養成という意味で、「学術情報基盤の今後の在り方について」(報告)において、サブジェクト・ライブラリアンという用語があり、高度の図書館サービスを提供するには、サブジェクト・ライブラリアンがその専門性を発揮する必要があるとまとめられています。私は、実際に図書館職員養成の教育課程を受け持つ教員でもございますが、サブジェクト・ライブラリアンを大学の教育課程の中で養成することは、現在の教育の在り方では非常に難しい。サブジェクト・ライブラリアンは実務の中で育つといえるのではないでしょうか。
 次に職員の新規採用に関しましては、図書館職員採用の専門試験の実施が国立大学協会の中で認められており、辛うじて存続いたしておりますが、採用がブロック単位になっているということで、北海道で受験した学生は北海道内でのみで採用されるという状況で、融通がきかなくなっているということが申せます。また、人件費の抑制に伴う職員の削減、派遣やアウトソーシングによって採用枠そのものが縮小しております。大学独自の採用が増加傾向にあり、このこと自体、悪いことではございませんが、図書館のように全国的な連携や相互協力が必要な部局にあっては、国全体という視点を持った採用ということも必要であろうと指摘できるかと思います。
 さらに、既存職員の異動も同じく原則ブロック単位になりまして、地区によって人材の数的偏りが生じています。特に少ないところでは、図書館職員が占めてきたポジションに他部局職員が異動する。特に管理職、課長等であります。図書館職員が学務、財務等、他部局との人事交流を求められた場合、図書館職員は有能、多能な人が多く、一度他部局に異動してしまうとなかなか図書館に戻してもらえないということが言えるかと思います。
 いずれにしても、新規採用、既存職員の異動という面では、図書館には専門職としての図書館職員がなぜ必要なのかということについて、大学図書館界として、説明が不足しているのではないかと思われます。
 それから、既存職員の研修について、どこの図書館も職員数の定常的な削減があって、オン・ザ・ジョブ・トレーニングが困難な状況にある。また、図書館は伝統的に研修機会が多いのですが、小規模大学にあっては、研修参加費用、交通費等の負担が課題になりつつあります。
 続きまして、サービスを構成する3つ目の要素であります「施設」についてであります。これも先ほどご指摘ありました老朽化と狭隘化ということであります。
 老朽化に関しては、耐震補強工事の必要性がございまして、耐震補強工事を行うと、図書資料などを一時的にどこかに動かさなくてはいけませんが、図書資料は非常に重いものでありますので、教室等の仮転用が難しい現状では、閉館や大幅なサービス縮小を余儀なくされるという状況が生まれております。
 狭隘化に関しましては、教員の図書が図書館に戻ってきている傾向にあることが一つの要因と言えようかと思います。
 書庫の狭隘化への対策については、自動書庫に可能性があるわけでありますが、施設と設備で大きな経費を要しまして、大学単独での負担は困難で、施設整備費補助金の交付を要するということでありますが、難しいということが申せます。
 また、利用の変化への対応については、ラーニングコモンズとしてインターネット利用環境の整備を行っている名古屋大学、お茶の水女子大、24時間オープンの自習スペースを設けている京都大学、喫茶スペースを付置している横浜国立大学、筑波大学、また、九州大学では来館者倍増計画を進めていると伺っております。
 5番目として、「情報発信」でございます。特に機関リポジトリに関しましては、全国で約90機関が構築しております。この機関リポジトリについては、情報・システム研究機構国立情報学研究所からの支援もあり、順調に進んでいると申せますが、大学の事業として、学内の研究成果、教育成果を発信するという位置づけ、認知を得られている大学は実はそれほど多くなく、大学図書館の業務と認識されているケースが多い。したがって、教員のセルフアーカイビング、即ち自分の研究成果等をリポジトリに提供するということについての理解促進が課題であります。
 教員業績評価システムとの連動や、学協会のリポジトリ等によるオープンアクセスへの理解が不足していることが挙げられる。国立情報学研究所の最先端学術情報基盤構築事業の一環でSCPJ(Society Copyright Policies in Japan)として、学協会の学術雑誌をリポジトリに掲載してよいかについて調べることを筑波大学が担当しておりますが、相当数の学協会がリポジトリ掲載についてノーと回答をしているのが実情です。
 次に、紀要の電子化について、紀要は発行主体が小規模であったり、人文社会系に偏っているため、電子化への理解が不足しているということが実情であります。
 また、オープンアクセスの促進に関しましては、国立大学図書館協会において現在、「オープンアクセスに関する声明」を策定中であります。年度末には案がとれる段階に至っておりますが、このオープンアクセスに関する声明を政府及び公的助成機関や大学、研究機関、学協会、出版社等々さまざまな関係者に対して、どのように働きかけ、オープンアクセスに関する声明の理解を得ていくかというところが課題であります。
 さらに、貴重書の電子化、あるいは情報リテラシー教育への図書館の関与といったことが言えるかと思います。
 7番目に「図書館システム」についてであります。これまで図書館の管理運営やサービスのためのコンピューターシステムは、おおむね印刷図書資料を基本につくり上げられ、非常に精緻なものに発展してまいりました。それがために、電子的情報資源の管理運営・提供という面では不十分な要素があるということで、平成19年3月に国立大学図書館協会の学術情報委員会において「今後の図書館システムの方向性について」という取りまとめを行い、国立情報学研究所等と協議を開始しているところでございます。
 最後にまとめということで、一部には大学図書館不要論もありますが、現在、国立大学図書館は電子ジャーナル整備の窓口等、非来館型サービスの充実、機関リポジトリの構築、情報発信の過程において、学内で生産される研究情報を集約する組織になった。  
 また、来館者への人的サービスの強化を図るとともに、快適な学習環境整備も行ってきており、大学内における存在感を高めるチャンスの時期にあると申せます。総じて、職員の意識も高い状況にあると私は認識しております。国立大学図書館は、学内における存在意義を向上させるため、今が頑張りどきであろうと思っております。
以上でございます。

【米澤委員】
 今後の審議のまとめ方に関係すると思いますが、大学図書館は、学生の自習の場からこういうふうに変わってきたということについて、例えば電子ジャーナル整備に関わる非来館型サービス等、うまく整理されていますね。この辺りのキーワードを基にすると、今後大学図書館がどうあるべきか、あるいは大学図書館がどう変わっていくか理解しやすいと感じました。

【土屋委員】
 さきほど事務局から説明があった資料5に「図書・雑誌の貸出(ILL)は増加」、「借受は増加」とあり、18年度の貸出14万冊、19年度の貸出15万冊、18年度の借受12万冊、19年度の借受13万冊とありますが、これは現物貸借の数字ですね。つまり複写に関していえば、1けた違うので、「図書・雑誌」とすると、ややミスリーディングかと思います。これは現物の貸借のことだと理解してよろしいですか。

【膝舘情報研究推進専門官】
 そうです。

【土屋委員】
 複写に関しては減少という状況です。外国雑誌に関しては、2000年~2002年の大体3分の2ぐらいになっているということです。外国雑誌掲載論文に関しては、電子ジャーナルで利用できるということによるものだと思います。
 また、日本語論文に関しては、2000年代になってから、実は非常に増加基調がでてきて、外国雑誌に掲載された論文に対する複写依頼の件数が減っているにもかかわらず、総数が維持できていたのですが、2006年度から2007年度にかけて初めて減少になった。この背景はよくわからないですけれども、日本語論文もやはり電子化が進みつつあることは事実だということです。

【有川主査】
 それでは、本格的な議論に入ります。最初に植松委員からご発表がありました、電子ジャーナル等電子的資料の価格上昇についてですが、国立大学では、運営費交付金が毎年1%減少し、科研費等競争的資金は微増しているが、他の予算は減少という状況にあるのに、電子ジャーナルは毎年5%も上昇している、という見方が重要だと思います。
 その際に、よく言われているのは、コンテンツ或いはタイトル数も増えているし、そして論文件数も増えているということです。それを勘定に入れて、どのくらいの上昇になっているのか。また、電子化が進捗し、出版にかかるコストは、紙媒体のときに比べると減っているはずですが、その上でこの5%の値上げについて、根拠を整理する必要があると思います。データをお持ちでしょうか。

【植松委員】
 いえ。出版社にはコスト構造を明らかにしてほしいと要求しているところでありますが、基本的に先方はコスト構造をつまびらかにすることはしないということです。
 そして、シンポジウムの場等々半ば公的なところでの発言の中では、インド、中国等が多くの論文を出すことに伴って経費がかかっているということです。即ち、電子化し、コンテンツを提供するためにかかる経費も、論文数が多くなれば、その分多くなっているということを言っています。
 一方で、例えばエルゼビア社などは、毎年高い利益率を維持している、もうけ続けているということもあります。それは資金提供ファンドから指示されていると言っていますけれども、ともあれ価格構造そのものはよくわかりません。
 さらに、例えば東欧諸国の医学系の雑誌等あまり利用されない雑誌を含めてパッケージ一括方式で販売することには、出版社の高コスト構造維持につながると指摘しておりますが、そういうマイナーな学問領域を育てることも出版社の使命だと言われてしまうと、なかなか反論しづらい部分があるということが申せます。

【土屋委員】
 コスト構造に関しては、商業出版社は基本的に明らかにしませんが、商業出版社だけではなくて、例えば、売上的に見ても、アメリカ化学会やアメリカ物理学会、IEEEなどは、上位5番目、6番目ぐらいに位置する出版社でして、マーケットシェアが10%近くあります。そういう学会等は非営利だということがあって、ある程度のコスト構造は見える形で出しています。それらが示しているところは、正確な数字かどうかは定かではありませんが、基本的には人件費が70%という数字が出ていることは事実です。
 おそらく、一般的には、出版経費のうち人件費が半分を占めるというコスト構造になっていることは、どうも正しそうな感じがします。

【有川主査】
 植松委員のご説明に関し、「図書館の資料購入費の相当部分を、電子ジャール等の購入経費に充当しなければならない状況」とありましたが、少なくとも九州大学の場合、半分以上がそうだと思っております。

【植松委員】
 筑波大学でもそうであります。今まで印刷物を購入する部分に充てていたところを相当削って電子的資料に回さなければいけないのが実情です。

【有川主査】
 大型コレクションについてですが、以前は、特別図書購入費がありまして、毎年10大学ぐらいに措置されていたものが廃止されました。これは文部科学省が、資料の電子化への対応するために廃止されたのだと思います。丁度その年に、これを見越したかのように、九州大学では電子ジャーナルの共通経費化に際して、人文社会科学系とのバランスをとるために、学内的に大型資料費という予算枠を主に人文社会系のために設けて対応してきました。こういう状況でこれまで頼りにしていた文科省の予算措置がなくなり、非常にがっかりしたことを覚えています。

【土屋委員】
 それは多分、実際に大学図書館では考えられているようで、大型コレクションというのは、共同利用が原則ということだったと思います。つまりどこかの大学が購入して、それ以外の持っていないところはそこへ閲覧しに行くという手法が電子化の時代になじまないというのは、あまりにも明白であるということだと思いますが、それに関しては、例えば今年度におけるHCPP(House of Commons Parliamentary Papers:英国下院議会文書)の共同購入などというのは、国立情報学研究所のご支援もいただいたようで、それに合わせて各大学が多分90%引きぐらいで購入できて、他大学に行く必要もないし、その場で見られるという、利便性と廉価性を実現しているようなこともあるので、工夫のしどころであることは間違いないと思います。

【有川主査】
 サブジェクト・ライブラリアンは実務の中で育つというご意見は、まさにそうだろうと思います。実務の中でということで、自分の大学に長く勤めることによって初めて身につく、そういった面があると思います。
 また、大学図書館職員のマーケットが小規模になってきているというのは、特に国立大学法人化後、多くの大学で図書館職員が減ってきている。私自身は大学図書館とそれ以外の図書館とでは、図書館職員、ライブラリアンの業務が違ってきていると思っております。その大事なポイントの一つは、一つは最近、国立情報学研究所を中心に事業が進んでおります機関リポジトリに関連したことです。今まではいわゆる資料購入、資料管理といったサービスが中心的でしたが、学術情報発信に関係する新たな業務が加わりました。
 それからもう一つ、教育や教材開発に関係することです。こうした業務をライブラリアンの中にしっかり位置づけるべきではないのか。特に大学院における教育にもかかわるべきだと考えています。
 九州大学では学府・研究院制度を敷いています。教員が所属するところが研究院で、大学院学生の組織が学府です。教員は、研究院から、学部や学府に指導に行くという格好になっています。普通の研究科ですと、教員と学生の組織が同じですので、自由が利きませんが、学府・研究院制度だと教育に関して非常に迅速かつ柔軟に対応できます。
 この研究院に相当するところを、大学図書館に置きかえますと、学位をもった図書館職員が大学院学府の教育を担当するといったことが自然に可能になります。大学図書館も研究院に相当する組織であると考えるわけです。そうすると、「実務で育つ」ということでしたけれども、大学図書館というフィールドを使って、ちょうど医学部と大学病院のような関係が実現でききます。図書館職員と研究者、教員との境や区別がつかなくなり、相互に入れかわることもあり得るわけです。そこまでゆくと、学生のための学習図書の選定、構築だけではなくて、研究図書の構築まで大学図書館職員が行った方がいいといったことが現実味を持ちます。教員に選書を任せていますと、ある分野に関して非常に偏ったものになり、次の教員が就任した際、何でこんな大事な資料を揃えていないのだ、ということになりかねないわけ。今申し上げたような環境が実現いたしますと、非常にいい体制になるのではないかと思います。

【土屋委員】
 植松委員に伺いたいのですが、さきほどの説明で、「図書館には専門職としての図書館職員がなぜ必要なのか」についての説明が足りていないとおっしゃいましたが、今の有川先生のご指摘というのは、まさに専門職としての意味があるのだということだと思います。これは、大学図書館界が説明していないということなのですか、それとも説明の仕方が十分ではないという意味なのでしょうか。

【植松委員】
 両方です。今、国立大学図書館協会の人材委員会でも、この辺のところを議論しております。今年度の報告書の第一項には、なぜ大学図書館には専門職としての大学図書館職員が必要なのかということを、いかに大学及び関係者に訴えていくか、理解してもらうように働きかけるかということを掲げようとしているところです。今まで大学図書館は全体としてアピール力が不足している、説明下手ということがありましたし、論理的にもやや弱い部分があったということだと思います。
 先ほどの件で申し上げますと、デジタル・ライブラリアンであるとか、あるいは公共図書館を中心に教育される司書に代わる、大学図書館司書という資格を考えたらどうかという議論もされています。これは倉田委員もご承知のところであろうと思います。また、有川主査がおっしゃったことに関して、eラーニングの教材作成のためには、大学図書館職員の支援が不可欠なものになっているということは言えると思います。

【山口委員】
 大学図書館になぜ専門職が必要なのかについて、最も重要な点は、やはり質の高いサービスを提供する役割があるからだと思います。検討課題はたくさんありますが、大学図書館にかかる優れた人材の育成・確保については、時間をかけて検討したほうがよい課題だと思います。
 「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」の「学術情報基盤としての大学図書館等の今後の整備の在り方について」においても指摘されていますように、「図書館サービスの問題点」が、大変よく現状分析がなされていると思います。「主題知識、専門知識、国際感覚を持った専任の図書館職員が不十分」及び「利用者ニーズの把握が不十分」という点には全く同感です。
 対応策として、「高度の専門性・国際性を持った大学図書館職員の確保・育成の方策」を見出すことが重要です。私は大学の国際化事業の様々な取りくみにかかわっておりますが、今後、特に留学生30万人計画などが推進される場合に、やはり国際性を持った専門職のライブラリアンというのは大変重要な要素になってくると思います。
 大学の国際競争力をつけるための様々な側面を見た場合に、大学のサービスの重要な要素の一つには、やはり大学図書館のシステムの利用度や、電子ジャーナルがどれだけ充実しているかが考えられると思います。大学の国際競争力をつけるという意味でも、大学図書館のサービス向上には、専門知識及び国際性を持った専門職員というのは欠かせません。もう少し広く国際的なスタンダードから見て、なぜ質の高いサービス、質の高い専門職としての図書館職員が必要なのかを議論していく必要があるのではないかと思います。

【米澤委員】
 専門職という時に、いわゆる司書という話がありましたが、司書の方はどういう知識、国際性等を備えてその役職に就くのか、その辺がよくわかると、議論しやすいかと思います。

【倉田委員】
 まず、司書資格というのは、専門性がそこまで高いものではないと思います。年間1万人規模で取得されている資格でございますので。やはり図書館職員の国際標準は大学院資格です。ただ、日本の場合、筑波大学、東京大学、京都大学、慶應義塾大学など、本当にわずかなところでしか大学院教育を行っているところがないというのが、基盤として弱いところで、シンガポール、東南アジアの国々においても大学院の資格を持っている方たちが勤めています。中国も台湾も全部そうです。それが基本なので、その点では我が国は極度に劣っていると言わざるを得ないと思います。

【三宅委員】
 一方では、学部の学生が勉強するときに、図書館から借りて読んでいるのは、ハンドブックとか講座本のような種類の図書が多いということもあるので、一部分しか読まず、そうすると全部を借りてくる必要はないので、誰かが借りてきてコピーしてみなで使うという話になりますね。
 また、授業中に皆が少しずつ違うものを読んで話し合いながら、自分たちで全体像をつくっていくような授業を行おうとするときには、数ページを持ってきて、それを読んでもらうという授業になるのですが、これが例えば訳本であったりしますと学生は文体の難しさが邪魔になってなかなかうまく読めないようです。そういう時には、学生が読みにくい漢字や昔の専門用語を書き直して資料をつくることもあります。そうやって、書籍という形で提供されたものが、現実に学習者に渡るまでに何層もの編集が加わって資料として活用されている場合もあります。
 こういう編集作業を経たものが活用されており、その著作権などをどう管理するのか、という問題もここで議論しておく必要があるのではないでしょうか。

【土屋委員】
 この5年間ぐらいで、日本やアメリカの大学のユーザー調査が結構盛んに行われるようになってきて、いくつか目を通してみたのですが、基本的に資料を見るために大学図書館に来館するという学生はほとんどいません。ですから、調査上では、大学図書館は学生のための資料を揃える必要はないとも言えます。

【植松委員】
 大学図書館が全体として電子的資料の整備、非来館型サービスにシフトしてきている一方で、印刷物の図書とか雑誌論文を読んで、学ぶという機会は減ってきていることは確かですね。
 また、先ほどの学習図書館機能などは、一度皆が認識し直して、図書の「館(やかた)」として、印刷媒体のものが蓄積されていて、そこから学ぶ、そういう場としての図書館というものを、ある意味復権させる必要があると私は思っています。

【有川主査】
 学習の場としての図書館が、学生にとっては極めて大事だと思います。その際に資料が印刷物の冊子であろうが、インターネット経由で閲覧するものであろうが、とにかく図書館にスペースがあって、必要ならば書庫に行って必要な本が取り出して来ることができる、勉強ができる、場合によってはグループで議論もできるというような環境面も含めての学習図書館機能というのは、非常に大事である。
 そして、なるべく図書館の滞在時間を長くする。こういったことが大学の活性につながっていくのではないかと思います。

【加藤委員】
 二点ほど感想めいたことを申し述べさせていただきます。
 一つは、大学図書館の現場にいて、大学図書館の機能が、学生たちに伝達されているかどうか、あるいは利用しやすいものになっているかどうか、これが一番の問題であると感じていました。先ほど、非来館型、来館型というお話がありましたが、実は非来館型であっても、来館型でもどちらでもいいわけです。つまり、大学図書館が持っているツールをきちんと学生たちが使いこなせるように、大学図書館がリーダーシップをとっているか、ここが実は問われているのだろうと思っています。
 したがいまして、これまでも努力をしてきたのだと思いますが、研究支援をベースにしながら、そこに特化してしまって、図書館職員が図書館の中で仕事をしているという部分が多かったのではないだろうかと。その意味で、もう少し発展的に考えるときに、先ほど学習支援機能ということがお話に出ました。これは一つには、今申し上げた図書館の持っているツールを学生たちが十分に使いこなしているかということを実証する上で、図書館職員が学習支援に携わるということが非常に重要だろうと私は思っています。
 したがって、特に可能ならば図書館情報リテラシーを全学共通科目として置いてもらうような仕組みを考えています。ここを大学図書館と学生、利用者をつなぐという意味で活用できないだろうかと。実は、昨年6月に図書館でデータベースをつくってもらいまして、ゼミの学生60人を対象に90分授業を行ってもらいました。そのときに学生が後で感想を述べてくれました。
 一つは、この受講者は3、4年生でしたが、大学に入ってからコンピュータを目の前にして体系的な教育を受けたのは、初めての経験だと言うんです。したがって、それが面白かったということ。
 それからもう一つは、一般的には導入教育部分で座学的に学生たちにいろいろな図書館の機能を教えますが、そうではなくて、むしろ実際に学生が欲しているのは、そのツールを使いながら、どうすればレポートが書けるか、どのデータベースに当たればよいかということだと思います。そこを図書館がきちんとした受け皿になっていかなければいけないという感じがいたしました。

【植松委員】
 確かに大学入学時、オリエンテーションの際に大学図書館の利用の仕方を教えるわけですが、多くの学生は聞いたことすら忘れてしまうということで、筑波大学では、昨年から、いつでも見られるようなプロモーションビデオをホームページで公開し、さらに詳しく知りたい場合には、必要に応じて、必要なインストラクションが得られるような仕組みを整備しつつあります。

【坂内委員】
 植松委員のご説明で、「利用の変化への対応:魅力ある場への転換」という項目がありましたが、「魅力ある場への転換」というテーマについて、重点的にターゲット設定をして、かつ、我々もかかわらせていただくべきかと思います。大学によっては大学図書館、情報処理センター等が一体化しているような組織、またミュージアムと一体化しているような組織があります。したがって、魅力ある場、現代における知のストックの場所、発信の場所という意味で、現状の組織である程度魅力的な像をつくり、それから、その中で個々の問題のソリューションがとれないのかと思います。
 さらに、コンテンツに関しては、要するに価格とかクオリティーに関しては連携力で対応するしかない。出版社の場合、株主に対して責任があるので、トータルインカムを右肩上がりにしなければならない。そうなれば、ただ連携してもなかなか交渉はうまくいかない。それなら購入するのをもう止めるといえば、出版社は買ってくれとなる。しかしながら、止められないとしたら、少し古くてもよいのか、クオリティーを落としてもよいのか等々、もし価格を下げるなら連携をして、どういうところを我慢するのか、我慢できなければ投資をするのかという議論が起こる。教育研究における情報の価値と、投資が重要性を帯びていく中で、そういった議論が必要ではないかと思います。

【喜連川科学官】
 国立国会図書館の方々とか、私の在籍する東京大学の図書館電子化部門の方とお話しする機会があるのですが、結局、ライブラリアンの方は、どうやってツールを使うかということに、ほとんど終始しているのが現状ということです。国立国会図書館の方からは、そこを何とかできないかというご要望をいただいています。
 私どもとしては、いわゆるサーチをどう考えるかという視点で見るのですけれども、図書館に必要な資料を探しに行く前に、グーグルでかなり調べていかないと、必要な資料が探せないというのが現状だという話があります。そうしますと、先日来、ニュースになっておりますグーグルブックの和解勧告が進みますと、先ほどの三宅委員のお話ですけれども、フラグメントだけで済む世界、つまり本全体ではなく、そのパーツだけでことが済む世界になってきたとき、今後、大学図書館あるいはライブラリアンが、そのアクセス方法をどう考えていくのかという、もう少し大局的な議論も必要になってくるではないかと感じました。

【土屋委員】
 本日は、学習のための大学図書館とか、学生のための大学図書館という役割が、非常に重要な位置づけとして議論されてきたと思います。ただ、平成18年3月の作業部会報告においては「教育研究」と常に4文字で書きながら、内容はどちらかというと、研究支援のところが重点的にまとめられている印象を受けます。
 個人的にはこの際だから大学図書館を総体として議論したほうが、実りある議論になると思うのですがいかがでしょうか。

【舟橋情報課長】
 やはり大学図書館の実態としては、教育と研究を一体として対象にするものだと思いますので、そこは制限なくご議論いただければよろしいかと思います。本作業部会は、科学技術・学術審議会の下にありますので、最終的なまとめとしては、研究が中心になる面はあるかと思います。「学術情報基盤の在り方について(報告)」においても、教育について触れられておるところはありますので、まとめとして入れられるところは入れて、省内関係局等にもお伝えをするということはできると思います。

【有川主査】
 教育・研究については互いに関連しているわけですので、制限無く議論を進めるということでよろしいかと思います。
 本日は、第5期科学技術・学術審議会の下の第1回目の作業部会でしたが、スタートとしては非常によい議論ができたと思います。本日の作業部会はこの辺で終了したいと思います。貴重なご意見をいただきましてありがとうございました。
 事務局より、次回の開催は平成21年3月26日(木曜日)10時から12時を予定している旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

―― 了 ――

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