参考資料3‐1 新たなたんぱく質量推定に関わるアミノ酸組成に対する検証分析調査中間報告書

平成21年度文部科学省委託調査中間報告書

平成21年8月31日
財団法人 日本食品分析センター

本報告書は、文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室からの調査委託を受け、新たなたんぱく質量推定に関わるアミノ酸組成に対する検証分析調査の中間成果をとりまとめたものである。

1.食品のたんぱく質量の新たな算出法と新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」の考え方等について

平成21年8月31日
科学技術・学術審議会 資源調査分科会
食品成分委員会企画作業部会 資料

1.提案の背景

 「五訂増補 日本食品標準成分表」では,たんぱく質量は,基本的に改良ケルダール法により窒素を定量し,「窒素‐たんぱく質換算係数」を乗じて算出している。一方,資源調査会は昭和61(1986)年に「改訂日本食品アミノ酸組成表(以下,アミノ酸組成表)」を公表し,食品のアミノ酸含量について情報を提供した。これらの資料は,我が国の多くの場で有効に利用されてきたと言える。

 本来,食品のたんぱく質量は,それを構成するアミノ酸の量によって決まってくるものである。遊離アミノ酸も少量存在するが,特別な場合を除いて大きな問題にはならないと考えられる。

 食品のアミノ酸の量を定量することは,1960年代までは必ずしも容易ではなかったが,1970年代に入るとかなり正確に定量できるようになった。
 このたび,科学技術・学術審議会 資源調査分科会 食品成分委員会では,代表的な食品のアミノ酸組成のうち,134食品(予定)について定量しているところである。定量値は,アミノ酸組成表の収載値と非常によい適合性が認められつつある。したがって,アミノ酸組成表の収載値が,精度の高い値であったことを意味し,この収載値をもとに行われた食事設計等が有効であることを示している。
 今回の134食品(予定)のアミノ酸の分析では,新規に選定した11食品※(予定)を取り上げている。また,残りの123食品(予定)については,従来の収載値があるものの,日本人にとって主要な食品であることや流通している品種が変化したことなどから,あらためて分析を行うこととした。

 「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」の収載食品は,これらの分析結果と,さらに計算によって推定される食品を含め,400食品になる予定である。これは,アミノ酸組成表に収載されていた295食品から, 105食品増加することになる。この結果,「五訂増補 日本食品標準成分表」に掲載されている食品,全1,878食品のうち,21%について信頼に値するアミノ酸組成を示すことができる。

 以上を勘案すると,「五訂増補 日本食品標準成分表」に示されたたんぱく質量を,アミノ酸組成に基づくたんぱく質量に改定することが可能となる。さらに,その改定を行った方が,我が国での食事設計等において,より正確なたんぱく質量の情報を提供できる段階に達したということができる。

 最終的には,現在行っているアミノ酸の分析結果を待って,食品成分委員会で正式に審議・決定する内容であるが,以上の見解が成り立つことを前提に,「五訂増補 日本食品標準成分表」のたんぱく質量等を,新しいアミノ酸の分析結果に基づいて改定することを提案する。

2.たんぱく質量の新たな算出法と新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」の提案

 「五訂増補 日本食品標準成分表」に示されているたんぱく質量は,改良ケルダール法によって定量された窒素量から,茶類及びコーヒーではカフェインを,ココア類及びチョコレート類ではカフェイン及びテオブロミンを,野菜類では硝酸イオンを,それぞれ別途定量し,これらに由来する窒素量を差し引いたものを基準(以下「基準窒素(仮称)量」という)とし,これに,FAO/WHO等(FAO/WHO,1973,Merrill, A.L. and Watt, B.K.,1955,FAO,1970)で公表している「窒素‐たんぱく質換算係数」を乗じて算出している。

 一方,FAOの技術ワークショップ報告書(FAO,2003)では,たんぱく質の好ましい算出法として,個々のアミノ酸残基の総量として求める方法を推奨している。

 今回,アミノ酸組成表の改訂作業の中で,日本人の食生活において重要な食品について,正確なアミノ酸およびアンモニアの量を知る事が出来るようになったことから,より正確なたんぱく質量を求めるために,上記のFAOが推奨する方法を採用する。

たんぱく質量の計算にあたっては,

(1)アミノ酸がペプチド結合で結合したものであるとの前提に立って,その重合物の量として算出する,
(2)末端のアミノ基は遊離である場合が多く,補正を行う場合は,各食品についてたんぱく質を構成するアミノ酸の平均の数の情報が必要となること,アセチル化などの修飾がある場合もあることなどから,その補正は行わないこととする。遊離アミノ酸の補正も分析値が得られていないので行わず,たんぱく質態のアミノ酸として扱う,
(3)今回,初めて公表する予定のアンモニアの量については,原則として,すべてアミド態の窒素であると仮定して,たんぱく質量に含める。ただし,アンモニアがアミドとなる際に,水が除かれるので,その量は差し引く,
(4)アミド態の窒素であると仮定することができない余剰のアンモニアがある場合には,その量をたんぱく質の量に加えない,
こととする。

 以上の前提で,まず,アミノ酸分析を行った食品の可食部100g当たりのたんぱく質量(A)を求める。次に,基準窒素(仮称)量(B)を求め,両者の比(A/B)をとって,この値を新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」として記載する。

 さらに,「五訂増補 日本食品標準成分表」に収載されている可食部100g当たりのたんぱく質量を,従来の「窒素‐たんぱく質換算係数」で除すことによって,「五訂増補 日本食品標準成分表」の可食部100 g 当たりの基準窒素(仮称)量(C)を求め,これに,上記の新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」(A/B)を乗じ,「五訂増補 日本食品標準成分表」に準拠したたんぱく質量(C×(A/B))を新たに算出する。

3.今回改訂する予定の「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」の表示に係る提案

 今回改訂する予定の「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」の第2表のアミノ酸量には,「基準窒素(仮称)量」1g当たりのアミノ酸量を記載する。たんぱく質態のアミノ酸残基量ではなく,アミノ酸量そのものとして表示する。このため,その量の単純な合計は,前述のアミノ酸組成から算出したたんぱく質量より,加水分解時に加わる水の量だけ多くなる。

 第3表の「たんぱく質1g当たりのアミノ酸量」の表には,第2表の各アミノ酸量を前述の新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」で除して,新たな算出法で求めたたんぱく質量1g当たりのアミノ酸量としたものを記載する。すなわち,ある食品のたんぱく質1gを食べた時に,各アミノ酸としてどれだけの量を摂取できるのかという数値を示していることになる。

 第1表の「可食部100g当たりのアミノ酸量」は、「五訂増補 日本食品標準成分表」に収載されている可食部100g当たりのたんぱく質量を,従来の「窒素‐たんぱく質換算係数」で除して,「五訂増補 日本食品標準成分表」の可食部100g当たりの「基準窒素(仮称)量」を求め,次いで,これを「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」第2表の「基準窒素(仮称)量」1g当たりのアミノ酸の量に乗じて算出したものを記載する。

4.新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」の使用について

 新たに計算されたたんぱく質量は,前述のように,「基準窒素(仮称)量」とアミノ酸組成を基礎に算出されており,それによって得られた新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」も表示されている。したがって,食品のたんぱく質量を求める場合は,その食品の基準窒素(仮称)量に新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」を乗ずれば,従来の方法によるたんぱく質量よりも,より正確な食品のたんぱく質量を求めることができる。

 実際に,個別の食品のたんぱく質量を求めたい場合には,「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」に収載された食品であれば,その食品について別途定量した「基準窒素(仮称)量」に,この新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」を乗じて算出できる。「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」に未収載の食品は,できるだけ近縁な食品の新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」を用いることが推奨される。

 アミノ酸分析が,近縁の食品について行われていない食品は,従来の「窒素‐たんぱく質換算係数」を用いて算出することになる。


以上,

(1) 食品のたんぱく質量は,アミノ酸の組成に基づいて,その重合物の量として計算すること,
(2) 個別の食品のたんぱく質量を求める場合には,「基準窒素(仮称)量」に新しい「窒素‐たんぱく質換算係数」乗じて算出すること,
(3) アミノ酸量は,たんぱく質態となったアミノ酸残基の量ではなく,アミノ酸の量そのものとして表示すること(従来通りの記載方法),
を提案の骨子としている。

 炭水化物量は,基本的に「差し引き法」で計算されるので,たんぱく質量が改定されると,炭水化物量も改定される。日本食品標準成分表の大幅な改訂となり,六訂とするのが適当かもしれない。

参考文献
FAO/WHO (1973): Energy and protein requirement. Report of a Joint FAO/WHO Ad Hoc Expert Committee, FAO Food And Nutrition Series No.7, FAO Nutrition Meeting Report Series No. 52, WHO Technical Report Series No. 522, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.
Merrill, A.L. and Watt, B.K(1955).: Energy value of foods‐basis and derivation‐, Agricultural Research Service United States Department of Agriculture, Agriculture Handbook, No.74.
FAO (1970): Amino acid content of foods and biological data on proteins. Nutritional Studies, No.24, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.
FAO (2003): Food energy-methods of analysis and conversion factors, Report of a technical workshop, Rome, 3‐6 December 2002, FAO Food and Nutrition paper 77, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.

※  11食品
 01088 こめ[水稲めし]精白米
 05008 ぎんなん 生
 06268 ほうれんそう 葉,ゆで
 06269 ほうれんそう 葉,冷凍
 07006 アボカド 生
 09038 もずく類 もずく 塩蔵,塩抜き
 11041 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 赤肉,生
 11042 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 脂身,生
 11127 ぶた[大型種肉]ロース 赤肉,生
 11235 にわとり[副生物]皮 もも,生
 18013 ハンバーグ 冷凍

2.食品のたんぱく質量等の新たな算出法と海外の事例の比較

1.調査目的

 国際連合食糧農業機関(FAO)の技術ワークショップ報告書(FAO 2003,以下FAO報告書)では,食品分析の方法に関して,たんぱく質,脂質および炭水化物について,好ましい(preferred)分析方法と許容しうる(acceptable)分析方法を推奨している。それによると,好ましい分析方法は,たんぱく質については個々のアミノ酸残基の総量とする方法であり,炭水化物については利用可能(available)炭水化物と食物繊維とを同時に分析し,利用可能炭水化物は個々の単糖類および二糖類ならびにでん粉を直接分析する方法であるとされている。
 本調査で検討するFAOが好ましいとするたんぱく質量の推定方法(注1)に準じて求めたたんぱく質量は,「五訂増補 日本食品標準成分表」に収載されているたんぱく質量に比べ減少すると予想されている。従来,我が国の食品成分表では,炭水化物量(%)は,100から水分,たんぱく質,脂質,灰分およびアルコール等の合計量(%)を差し引く,いわゆる差し引き法により求めているため,たんぱく質量が減少すると,炭水化物量を増加させることとなる。前述のFAO報告書では,特殊な食品を対象とする場合を除いて,差し引き法は許容しうる方法であるとしている。また,Atwaterのエネルギー換算係数を適用した食品では,たんぱく質と炭水化物のエネルギー換算係数が同一なため,エネルギーには何らの影響はない。一方,科学技術庁「日本人における利用エネルギー測定調査」に基づくエネルギー換算係数を適用した食品やFAOのエネルギー換算係数を適用した食品では,たんぱく質量の減少を炭水化物量の増加で補うとエネルギー値も変わることになる。
 これらを踏まえ,我が国がFAO報告書で推奨している方法を採用することについて検討する際に,諸外国におけるその方法の採用状況に関する情報を収集することは,国際的な動きとの整合を図るためにも重要である。
 そこで,諸外国におけるたんぱく質量および炭水化物量の推定方法を調査して,たんぱく質量の新たな算出法の妥当性を評価する際の参考とすることを目的とする。

2.調査方法

(1)諸外国の食品成分表に関連する英文で記述されたインターネット上のサイトにアクセスし,たんぱく質量および炭水化物量の推定方法を調査する。
(2)調査の結果,明らかとなった炭水化物量の推定方法を利用して,「五訂増補 日本食品標準成分表」に適合するように修正した数値を用いて,例示的に,日本食品糖質推定成分表を作成し,検討のための資料とする。

3.調査結果

(1)調査した国

 英国,米国,オーストラリア,カナダ,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,アイスランド,イタリア,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー(英国および米国以外は,英名のアルファベット順)。

(2)外国の食品成分表におけるたんぱく質量の推定方法(第1表参照)

 測定した窒素量に窒素‐たんぱく質換算係数を乗じて求める国が多数を占めた。窒素‐たんぱく質換算係数として,Jones (1941)のものを使用すると明記する国(カナダ,フランス)が認められた。なお,Jones (1941)による換算係数は,「五訂増補 日本食品標準成分表」で使用している換算係数と違いはない。
 EUにおいて,食品栄養表示のたんぱく質は窒素×6.25で求めるとされていることから,この式によるたんぱく質量も収載する国(ドイツ,フランス)が認められた。
 アミノ酸組成は,多くの国でたんぱく質を構成する18種のアミノ酸のデータを収集している。コラーゲンやゼラチンに含まれるヒドロキシプロリンのデータも収集している国(カナダ,米国)が認められた。コラーゲンやゼラチンにはヒドロキシリジンが含まれているが,このデータを収集している国は確認できなかった。
 本調査で検討しているたんぱく質量の新たな算出法を用いている国は確認できなかった。
 FAO報告書で推奨している方法との関係については,許容しうる方法を採用する国が多数を占め,好ましい方法を採用する国は確認できなかった。

(3)硝酸態窒素等非たんぱく態窒素の取り扱い

 測定した窒素量はたんぱく態窒素と非たんぱく態窒素の合計量である。非たんぱく態窒素には,遊離アミノ酸,尿素,プリン類,ピリミジン類,硝酸塩等の中の窒素が含まれるが,由来が分からないものもある。測定した窒素量から非たんぱく態窒素量を差し引く等の適切な補正をすることにより,窒素‐たんぱく質換算係数を乗じて求めたたんぱく質量が過大になることを防ぐ必要がある。
 各国の成分表における非たんぱく態窒素の取り扱いをみると,英国の食品成分表(Food Standard Agency 2004, 以下英国成分表)では,尿素,プリン類およびピリミジン類に由来する窒素量を全窒素量から減じたものに,窒素‐たんぱく質換算係数を乗じている。硝酸塩については言及していない。米国の食品成分表(USDA 2008)では,チョコレート,ココア,コーヒー,マッシュルームおよび酵母については,特別な窒素‐たんぱく質換算係数を用いることにより,非たんぱく態窒素量を考慮している。硝酸塩については言及していない。なお,これ以外の国の成分表においても,硝酸塩について言及したものはみあたらなかった。

(4)外国の食品成分表における炭水化物量の推定方法(第2表参照)

 成分表における炭水化物の表記は国により異なり,「Carbohydrate, by difference(差し引き法による炭水化物)」,「Carbohydrate, total(全炭水化物)」,「Carbohydrate, available(利用可能炭水化物)」,「Carbohydrate, soluble(水溶性炭水化物)」等があることを確認した。差し引き法による炭水化物と利用可能炭水化物の二つを収載する国(オーストラリア)が認められた。また,同一の表記でも,国によって,内容が異なることがあった。さらに,多くの国ででん粉や個々の糖類等のデータを収載(収集)していることが認められた。
 我が国と同様に100から水分,たんぱく質,脂質,灰分およびアルコールを差し引いて,炭水化物を求めている国は限られており(米国,カナダ),これらの国でも,でん粉や個々の糖類等の成分値を収載(収集)していた。水分,たんぱく質,脂質,灰分およびアルコールに加え食物繊維も100から差し引いたものを差し引き法による炭水化物として収載する国(オーストラリア)があった。
 欧州では,でん粉や個々の糖類を測定した上で,全炭水化物あるいは利用可能炭水化物として収載する国が多く認められた。
 全炭水化物あるいは利用可能炭水化物に含まれる成分は国により異なり,でん粉と全糖類以外に,オリゴ糖類とマルトデキストリン類を含める国(英国),マルトトリオース,グリコーゲン,オリゴ糖類,マルトデキストリン,デキストリン類,ソルビトール,グリセリン,マンニトールを含める国(オーストラリア),ヒトが代謝する全ての炭水化物とポリオール類を含める国(フランス),オリゴ糖類,多糖類とポリオール類を含める国(ドイツ),オリゴ糖類とグリコーゲンを含める国(ニュージーランド),グリコーゲンを含める国(ノルウェー),ヒトが利用できないラフィノース系列のようなオリゴ糖類とイヌリンのような多糖類を含めない国(ドイツ)が認められた。
 でん粉にデキストリン(英国,デンマーク)やグリコーゲン(デンマーク)を含める国,レジスタント・スターチを含めない国(英国)が認められた。
 全糖類(Total sugars; Sugars, total)には,単糖類と二糖類が含まれるが,穀類のフラクタン類を含める国(英国),三糖類を含める国(デンマーク),オリゴ糖類を含めない国(英国)が認められた。
 成分値の表し方では,二糖類,オリゴ糖類と多糖類を,加水分解後の単糖量として表した単糖当量(monosaccharide equivalent)として表記する国(英国)が認められた。
 FAO報告書で推奨している方法との関係については,好ましい方法を採用する国が多数を占め,許容しうる方法を採用する国においても,でん粉や個々の糖類等の成分値を収載(収集)していた。

(5)日本食品糖質推定成分表(別冊)

 英国成分表には,でん粉,ぶどう糖,果糖,しょ糖,麦芽糖,乳糖の成分値が収載されている。そこで,主に英国成分表の成分値を利用して,「五訂増補 日本食品標準成分表」との整合性を確保した日本食品糖質推定成分表を作成した。

4.考察

(1)たんぱく質量の推定方法

 たんぱく質量の推定方法について,調査した各国においては,「五訂増補 日本食品標準成分表」と同様に,全窒素量に,国によっては何らかの補正を加えた上で,窒素‐たんぱく質換算係数を乗じる方法を使用していた。すなわち,たんぱく質量の推定方法に関しては,我が国は調査した諸外国と同様な状況にあることが判明した。また,本調査で検討しているたんぱく質量の新たな算出法と同じような方法を採用している国は認められなかった。
 食品はたんぱく質に由来しない窒素を含むので,基準窒素(仮称)量に窒素‐たんぱく質換算係数を乗じてたんぱく質量とする方法は,あくまでも簡易法であり,たんぱく質量は,FAO報告書が好ましい方法として挙げているように,アミノ酸残基の総量として求めるべきであると考えられる。
 しかし,FAO報告書におけるアミノ酸残基の総量をたんぱく質量とする方法では,たんぱく質の加水分解時にグルタミンおよびアスパラギンから遊離するアンモニア量について言及していないという問題がある。また,従来広く用いられ,膨大なデータの蓄積がある,ケルダール法あるいはそれと同等な方法による全窒素の成分値を利用できないという問題もある。
 従って,本調査で検討しているたんぱく質量の新たな算出法,すなわち,可食部100 g当たりのアミノ酸組成およびアンモニア量のデータをもとにアミノ酸残基の総量とアミド態窒素に由来するアンモニア量の和としてのたんぱく質量を求め,これを「五訂増補 日本食品標準成分表」に準拠させるため,アミノ酸分析に用いた試料の基準窒素(仮称)量を,「五訂増補 日本食品標準成分表」の当該食品の基準窒素(仮称)量になるように補正する方法は,優れた方法と考えられる。日本食品標準成分表のたんぱく質量の推定方法としてこの方法が採用された場合には,先進的な事例として,高く評価されるものと考えられる。
 しかし,FAO報告書では,窒素量や窒素‐たんぱく質換算係数を用いることなく個々のアミノ酸残基の総量としてたんぱく質量を求める方法を好ましいとしているので,この点については,FAO等の国際的な動きとは乖離したものと受けとられるおそれがある。このため,たんぱく質量の新たな算出法を説明する際には,

1) 本調査で検討しているたんぱく質量の新たな算出法は, FAO報告書が好ましいとしている方法を基礎として,アンモニア量を考慮するよう改良したものが基準となっていること,
2) アミノ酸分析の際には,常に同一試料を用いて基準窒素(仮称)量を測定しており,これを,「五訂増補 日本食品標準成分表」の対応する基準窒素(仮称)量に補正することによって,「五訂増補 日本食品標準成分表」に準拠させたたんぱく質量を新たに求めていること,
3) たんぱく質量の新たな算出法を,「五訂増補 日本食品標準成分表」の基準窒素(仮称)量に適用するために,新しい窒素‐たんぱく質換算係数(注2)の導入が必要となること,
4) たんぱく質のアミノ酸組成が同一と考えられる食品については,基準窒素(仮称)量を測定すれば,新しい窒素‐たんぱく質換算係数を乗じて,より正確なたんぱく質量を簡便に推定できる利点があること,

 などを,分かり易く説明する必要がある。

(2)炭水化物量の推定方法

 炭水化物量の推定方法について,現行の食品成分表と同等な差し引き法によって炭水化物量を求めている国は極めて限られていた。それらの国を含め,諸外国では,でん粉や各種の糖類の含量を個別にデータ化し,収載していることを確認した。すなわち,炭水化物量の推定方法に関しては,我が国は調査した諸外国と比べ,著しく遅れた状況にあることが判明した。
 作成した日本食品糖質推定成分表から分かるように,個々の利用可能炭水化物(糖類)の成分値を収載することにより,炭水化物の組成に関する情報を求める関係者の要望に応えることができる。また,FAO報告書にあるような国際的動向との整合性をとることができる。さらに,このような情報は,日本人が日常摂取する食品中の糖類の供給と摂取に関する現状と今後のあり方を検討するための基礎資料となり,栄養学,食品学,家政学,生活科学,医学,農学などの調査研究や様々な疾患に関する臨床分野においても幅広い活用が期待できる。
 従って,我が国においても,でん粉等の多糖類,ラフィノース等のオリゴ糖類,しょ糖等の二糖類,ぶどう糖等の単糖類,ソルビトール等のポリオール類,等の炭水化物に関する成分データを速やかに収集し,日本食品標準成分表(の成分値)に反映させる炭水化物の種類を決定して,全炭水化物あるいは利用可能炭水化物の成分値として収載することが望ましい。また,日本食品標準成分表にその成分値が収載されるまでの間は,今回作成した日本食品糖質推定成分表を暫定的に利用することができよう。

参考文献

FAO (2003): Food energy-methods of analysis and conversion factors, Report of a technical workshop, Rome, 3‐6 December 2002, FAO Food and Nutrition paper 77, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.
FAO/WHO (1973): Energy and protein requirement. Report of a Joint FAO/WHO Ad Hoc Expert Committee, FAO Food And Nutrition Series No.7, FAO Nutrition Meeting Report Series No. 52, WHO Technical Report Series No. 522, Food and Agricultural Organization of the United Nations (Rome).
Food Standard Agency (2004): McCance and Widdowson’s THE COMPOSITION of FOODS, Sixth Summary Edition, Royal Society of Chemistry,Cambridge.
Jones, D.B. (1941): Factors for converting percentages of nitrogen in foods and feeds into percentages of protein. USDA, Circular No. 183, issued 1931, slightly revised.
USDA (2008): Composition of Foods  Raw, Processed, Prepared  USDA National Nutrient Database for Standard Reference, Release 21.

〔注〕

(1)たんぱく質量;FAOが好ましいとする方法と本調査で検討する方法との違い
1) たんぱく質量を求めるには,FAO報告書が好ましいとするように,アミノ酸残基の総量として求める方法が最も正確である。本調査で検討する方法では,FAOが好ましいとする方法を基礎にして,アミノ酸残基の総量とアミド態窒素に由来するアンモニア量の和としてのたんぱく質量をまず計算し,さらにこれを五訂時の日本食品成分表の基準窒素(仮称)量に対応する量に補正している(たんぱく質の新たな算出法)。
2) 本調査で検討する新しい窒素‐たんぱく質換算係数は,上記の新たな算出法によるたんぱく質量が,「五訂増補 日本食品標準成分表」の基準窒素(仮称)量から簡便に求められるように考案したものである。
3) 本調査で検討するたんぱく質量の新たな算出法は,食品中のアミノ酸組成が試料により変わらないとの仮定に加え,さらに硝酸態窒素等以外の由来のわからない窒素の全窒素に対する割合(比率)も変わらないと仮定するので,FAOが好ましいとする方法に比べ,誤差が大きい可能性がある。

(2)   窒素‐たんぱく質換算係数;これまでの定義と本調査で検討するものとの違い
これまでの窒素‐たんぱく質換算係数は,日本食品標準成分表で用いているFAO/WHO (1973)によるものを含めて,Jones (1941)による窒素‐たんぱく質換算係数に基づいているものが多い。Jonesの係数は,基本的に,(当時の知識および手法の範囲で)各種の試料から分離した純粋なたんぱく質に含まれる窒素量の(小数で示した)割合から,その逆数として,求めている。
本調査で検討する係数は,食品中の全てのたんぱく質に含まれる窒素量と由来のわからない窒素量とを加えた量,すなわち「基準窒素(仮称)量」の「たんぱく質量」に占める割合の逆数に基づく点が異なる。

〔用語〕
アミノ酸残基:アミノ酸がペプチド結合で脱水縮合してたんぱく質となるが,たんぱく質の構成単位となったアミノ酸部分。
アンモニア:純粋なたんぱく質の加水分解時に生成するものは,グルタミンおよびアスパラギン残基の末端アミドに由来すると考えられる。
硝酸態窒素量等:硝酸態窒素量ならびにカフェイン中およびテオブロミン中の窒素量の和。非たんぱく態窒素量の一部。
全窒素:試料中の窒素の全てを改良ケルダール法(サリチル酸添加法を含む),燃焼法等で測定したもの。
ポリオール:糖アルコール。FAO報告書において,食品表示においてはこの用語を用いるよう勧告している。
末端アミド:グルタミンおよびアスパラギンに存在する1級アミド。ペプチド結合には関与しない。

 本報告書は文部科学省の科学技術調査資料作成委託事業による委託業務として、財団法人 日本食品分析センターが実施した平成21年度「新たなたんぱく質量推定に関わるアミノ酸組成に対する検証分析調査」の中間成果を取りまとめたものです。
 従って、本報告書の著作権は、文部科学省に帰属しており、本報告書の全部又は一部の無断複製等の行為は、法律で認められた時を除き、著作権の侵害にあたるので、これらの利用行為を行うときは、文部科学省の承認手続きが必要です。

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