参考

アミノ酸の解説

1 アミノ酸とは

 アミノ酸とは、一般には、1分子中にアミノ基とカルボキシル基をもつ化合物の総称として用いられるが、アミノ酸の種類によっては、アミノ基はイミノ基である場合もあり、また、カルボキシル基でなく、スルフォノ基、ホスホノ基である場合もある。以下では、特にこれを断らず、アミノ酸、アミノ基、カルボキシル基とだけ記述する。
 アミノ酸は、自然界に遊離の形でも存在するほか、他のアミノ酸と結合してペプチドを形成している場合もある。しかし、大部分のアミノ酸は、生物のからだを構成するたんぱく質(ポリペプチド)の構成成分として存在している。
 食品も、大部分は生物体やその代謝産物であるので、食品に含まれるアミノ酸も、大部分はたんぱく質を構成するアミノ酸である。

2 ペプチド、たんぱく質とは

 アミノ酸は、1分子の中に、アミノ基とカルボキシル基をもつので、あるアミノ酸のアミノ基と他のアミノ酸のカルボキシル基が脱水縮合して共有結合を形成する。この結合をペプチド結合とよぶ。ペプチド結合を酸やアルカリなどの存在下で加水分解するとアミノ酸を生成する。
 アミノ酸2つ以上がペプチド結合で結合した化合物はペプチドとよばれる。2つのアミノ酸がペプチド結合で結合したペプチドをジペプチドとよび、数にしたがってトリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチドなどとよばれるが、2から20程度のアミノ酸が結合したペプチドをオリゴペプチドと総称する(IUPAC&IUBMB-1983)(注1)。さらに多数のアミノ酸が結合した物質をポリペプチドとよぶ。たんぱく質はポリペプチドで、天然に存在するアミノ酸の大部分は、たんぱく質の形で存在する。

3 天然に存在するアミノ酸

 天然に存在する大部分の遊離アミノ酸並びにペプチド及びポリペプチド(たんぱく質)を構成するアミノ酸は、α-アミノ酸で、これは、カルボキシル基と結合した炭素原子(有機化合物の命名法における2(またはα)の位置の炭素原子)にアミノ基が結合しているアミノ酸である。そのほか、3(またはβ)の位置の炭素原子にアミノ基が結合したβ-アミノ酸なども天然に存在するが、大部分のたんぱく質の構成アミノ酸ではない。以下、α-アミノ酸を単にアミノ酸とよぶ。

4 たんぱく質を構成するアミノ酸

 たんぱく質は、通常20種類のアミノ酸で構成されている。それらは、50音順に、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、イソロイシン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン(システインは、スルフヒドリル基を持っているので、2分子のシステインの間で酸化によりジスルフィド結合が形成される。このシステイン2分子で構成されるアミノ酸をシスチンという。天然のたんぱく質には、ジスルフィド結合をしているシスチンが多いが、システインも存在する)、スレオニン(トレオニン)、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、リジン(リシン)、ロイシンである。生体にはさまざまな種類のたんぱく質が含まれているが、特定のたんぱく質を考えると、いずれも、そのたんぱく質に特有の配列でアミノ酸がペプチド結合で結合している。すなわち、あるたんぱく質のアミノ酸の配列は一定であり(同一種内で、ある特定のたんぱく質のアミノ酸の配列に遺伝的な違いがある場合は、遺伝的多型とよばれる)、これは遺伝情報として世代を超えて伝達される。

5 天然のアミノ酸の立体異性体

 アミノ酸は、2(α)の位置の炭素原子に水素とアミノ基が結合し、また側鎖とよばれる原子団が結合している。従って、側鎖が水素であるグリシンを除いて、2の位置の炭素原子が不斉炭素原子となるため、立体異性体が存在し、光学活性を有する。IUPACおよびIUBMBが勧告している命名法(1983)では、アミノ酸の立体異性体はD、Lで表示することができ、たんぱく質を構成するアミノ酸は、立体異性体のないグリシンを除いて、すべてL型である。また、より一般的にRSで表示することができ、たんぱく質を構成する大部分のアミノ酸はS型で、システインはR型である。アラニンを例にFischerの投影式で示すと図1の通りである。
 さらに、イソロイシン、スレオニンは、もう一つの不斉炭素原子をもっているので、その不斉炭素原子についても立体異性体が存在する。

6 アミノ酸の表示

 アミノ酸は、一般に慣用名が広く使用されており、系統名が使われる場合は少ない。記号として3文字記号が用いられるが、生化学の分野では、たんぱく質やペプチドのアミノ酸の配列順序を示す場合に、1文字記号が広く使用されている。表1を参照されたい。

7 アミノ酸の側鎖

 アミノ酸の化学的性質の違いは側鎖によって決まる。側鎖の性質によってアミノ酸が分類されることがある。

8 必須アミノ酸

 アミノ酸には、体内で合成できるアミノ酸とできないアミノ酸がある。後者を必須アミノ酸もしくは不可欠アミノ酸といい、これらのアミノ酸は、食事から摂取しなければならない。ヒトでは9種類が必須アミノ酸である。すなわち、イソロイシン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、リジン、ロイシンである。必須アミノ酸以外のアミノ酸は、非必須アミノ酸もしくは可欠アミノ酸といい、体内で合成できるアミノ酸である。体内で合成できるけれども、生理的条件、遺伝的要因などによって、からだが必要とする量に見合う量を合成できないアミノ酸がある。これらを条件必須アミノ酸ということがある。アルギニン、システイン、チロシンなどは、条件必須アミノ酸である。

9 アミノ酸の分析

 本組成表に述べられているように、食品中のアミノ酸は、大部分がたんぱく質の形で存在しているので、アミノ酸の分析を行う場合は、予めたんぱく質やペプチドを加水分解しておく必要がある。大部分のアミノ酸は、塩酸による加水分解することによって定量できる遊離のアミノ酸となるが、トリプトファンは、酸による加水分解では破壊されてしまうので、アルカリで加水分解して定量される。また、酸によって完全に破壊されなくても、酸による加水分解によって一部が破壊されるシステインなどは、予め酸化してシステイン酸に変換し、それを定量して求める。メチオニンも酸化してメチオニンスルホンの形で定量される。グルタミンやアスパラギンのような酸アミドは、酸による加水分解によってグルタミン酸、アスパラギン酸へと変化するので、本組成表では、グルタミンとグルタミン酸の合計量をグルタミン酸として、アスパラギンとアスパラギン酸の合量をアスパラギン酸として示している。

10 たんぱく質の栄養価の判定

 われわれは、必須アミノ酸を摂取しなければならないが、われわれが通常摂取するアミノ酸は、たんぱく質の構成成分としてのアミノ酸である。たんぱく質は、消化過程で加水分解されて、遊離のアミノ酸の形で血液中へと達し、体内で代謝され、またたんぱく質などの合成に利用される。われわれは必須アミノ酸を必要とするが、9種類の必須アミノ酸それぞれについて、どの程度の量を必要とするかは、栄養学の研究によって明らかにされている。摂取するたんぱく質が、どれだけの量のアミノ酸を含んでいるかを知ることによって、アミノ酸が摂取されている量を知ることができることは、栄養学上重要である。しかし、実際はたんぱく質を摂取するので、しばしばたんぱく質の栄養価が問題となる。たんぱく質の栄養価とは、ほとんどの場合たんぱく質のアミノ酸組成で決定される。特に消化率の低いたんぱく質の場合、分析値は高くても栄養価が低い場合があるが、大きな問題になるケースは少ない。
 われわれが必要とするアミノ酸の量に関する知見を基礎に、その量を充足するだけの必須アミノ酸が食事のたんぱく質に含まれているかが問題にされることがある。歴史的には、栄養価の高いたんぱく質の必須アミノ酸組成と、問題にするたんぱく質や食事のアミノ酸組成の比較が行なわれた時代があるが、現在では、われわれの必須アミノ酸必要量に関する知見を基礎に、食事のたんぱく質に含まれていることが望ましい、もしくは含まれているべきアミノ酸の量を求め、その量と、実際に摂取するたんぱく質のアミノ酸組成を比較してたんぱく質の栄養価を判定する場合がある。この標準となるアミノ酸組成を、通常「評点パターン」とよぶ。食事摂取基準の策定に際して、わが国では、「評点パターン」による摂取たんぱく質の栄養価の評価法を使わず、食事調査などをもとに、日本人が食べているたんぱく質については、評点パターンを充足しないものはないとし、消化率のみを良質なたんぱく質の90パーセントであると判断して、たんぱく質の所要量を求める場合の補正項としている。

11 アミノ酸組成表について

 このアミノ酸組成表を用いることによって、摂取している食品の種類と量がわかれば、食事からどれだけのアミノ酸が摂取されているかを求めることができる。その結果は、集団間のアミノ酸摂取量の比較などに用いることができ、また、全国又はある地域のアミノ酸の需給状況の判断に使うこともできる。
 また、アミノ酸の摂取量に配慮すべき疾病に罹患した場合の患者が、食事からどれだけのアミノ酸を摂取しているかを知るためにも使うことができ、それらの患者の食事設計のための資料として使うこともできる。
 現在、健常人の各必須アミノ酸の食事摂取基準は決められていないが、将来それが策定された場合には、本表は、個人や集団のアミノ酸摂取量の適否を判断するための基礎資料として用いることができよう。

1 たんぱく質を構成するアミノ酸の慣用名、記号、系統名((注2)は必須アミノ酸)
慣用名 3文字記号 1文字記号 系統名
イソロイシン(注2) Isoleucine Ile I 2-Amino-3-methylpentanoic acid
2-アミノ-3-メチルペンタン酸
ロイシン(注2) Leucine Leu L 2-Amino-4-methylpentanoic acid
2-アミノ-4-メチルペンタン酸
リジン(リシン)(注2) Lysine Lys K 2,6-Diaminohexanoic acid
2,6-ジアミノヘキサン酸
メチオニン(注2) Methionine Met M 2-Amino-4-(methylthio)butanoic acid
2-アミノ-4-(メチルチオ)ブタン酸
システイン Cysteine
(Cystine)
Cys C 2-Amino-3-mercaptopropanoic acid
2-アミノ-3-メルカプトプロパン酸
フェニルアラニン(注2) Phenylalanine Phe F 2-Amino-3-phenylpropanoic acid
2-アミノ-3-フェニルプロパン酸
チロシン Tyrosine Tyr Y 2-Amino-3-(4-hydroxyphenyl)propanoic acid
2-アミノ-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸
スレオニン(注2)
(トレオニン)
Threonine Thr T 2-Amino-3-hydroxybutanoic acid
2-アミノ-3-ヒドロキシブタン酸
トリプトファン(注2) Tryptophane Trp W 2-Amino-3-(1H-indol-3-yl)-propanoic acid
2-アミノ-3-(1H-インドール-3-イル)-プロパン酸
バリン(注2) Valine Val V 2-Amino-3-methylbutanoic acid
2-アミノ-3-メチルブタン酸
ヒスチジン(注2) Histidine His H 2-Amino-3-(1H-imidazol-4-yl)-propanoic acid
2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)-プロパン酸
アルギニン Arginine Arg R 2-Amino-5-guanidinopentanoic acid
2-アミノ-5-グアニジノペンタン酸
アラニン Alanine Ala A 2-Aminopropanoic acid
2-アミノプロパン酸
アスパラギン酸 Aspartic acid Asp D 2-Aminobutanedioic acid
2-アミノブタンジオン酸
アスパラギン Asparagine Asn N 2-Amino-3-carbamoylpropanoic acid
2-アミノ-3-カルバモイルプロパン酸
グルタミン酸 Glutamic acid Glu E 2-Aminopentanedioic acid
2-アミノペンタンジオン酸
グルタミン Glutamine Gln Q 2-Amino-4-carbamoylbutanoic acid
2-アミノ-4-カルバモイルブタン酸
グリシン Glycine Gly G Aminoethanoic acid
アミノエタン酸
プロリン Proline Pro P Pyrrolidine-2-carboxylic acid
ピロリジン-2-カルボン酸
セリン Serine Ser S 2-Amino-3-hydroxypropanoic acid
2-アミノ-3-ヒドロキシプロパン酸

1 アラニンの立体異性体