平成27年6月8日
科学技術・学術審議会 戦略的基礎研究部会
今日、世界の成熟国における社会の持続・発展は、知識の生成、伝達、活用などに大きく依存しており、知識集約型の社会・経済活動がもたらす付加価値が各国にとって重要となっている。
このため、これまでとは異なった考え方、仕組みを取り入れて、新たな価値を生み出し、知識集約型の社会・経済活動に大きな変化を起こすイノベーションへの期待が高まっており、特に新たな科学的・技術的知見に立脚したイノベーションは、非連続な発展を引き起こし、社会・経済活動に持続可能な競争力などをもたらすものとして大きく期待されている。
論文等で公表された新たな「知」(科学的知見)はイノベーションの核であるため、その量的な創出や多様性の確保が求められる一方で、そのままの姿では社会的・経済的価値の創造に直結しないことが多い。このため、「知」を社会的・経済的価値の創造に結びつけるためには、「知」の理解・展開を円滑に行える社会の仕組みも必要となる。
すなわち、科学技術イノベーション(※1)を創出するためには、「知」の創出や展開の機会を増強し、高度な知的基盤社会を構築・発展させることが重要である。その要となる基礎研究は、社会的・経済的価値の創造に結びつくには高い不確実性が伴い、市場原理に委ねるのみでは十分に取り組まれないことから、その推進は政府の責務である。
その際、「知」の創出の多くの部分を担う学術研究が基盤として重要である(※2)とともに、国が目標を示すことなどにより、生み出された多くの「知」を進展・統合させることで、社会的・経済的価値の創造に向けて大きく発展させ、また、用途を考慮することの中から新たな「知」の創出にも貢献する戦略的な基礎研究を推進することが重要である。
戦略的な基礎研究の推進に当たっては、戦略的な基礎研究の在り方に関する検討会報告書(平成26年6月27日)において整理された「出口を見据えた研究」に係るファンディング施策を効果的に行うことが重要であることから、「出口を見据えた研究」を担っている国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、「JST」という。)の戦略的創造研究推進事業(新技術シーズ創出)及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、「AMED」という。)の革新的先端研究開発支援事業において事業の根幹をなす、文部科学省が定める戦略目標及び研究開発目標(以下、「戦略目標等」という。)が、「出口を見据えた研究」の趣旨を踏まえて適切な粒度と方向性を持って策定される必要がある。
そのため、本指針においては、戦略目標等が「出口を見据えた研究」の性格を踏まえ、学術研究等によって創出された「知」の広範な探索から、社会的・経済的価値の創造に向けた効果的・効率的な「知」の発展を図るための検討を経て適切に策定されるよう、その策定手順等を定める。
なお、本指針は、「出口を見据えた研究」に係るファンディング施策の改善を絶えず行う政策マネジメントサイクルを確立するために、毎年度策定される戦略目標等の策定過程等についての評価結果を踏まえ、必要に応じて改定を行う。
戦略目標等は、「出口を見据えた研究」の趣旨を踏まえ、以下の手順に沿って検討・策定する。
我が国あるいは世界の基礎研究を始めとした研究動向について、科学計量学的手法を用いた分析等を行い、研究動向を把握する。
分析結果等を活用して、最新の研究動向等に関する知見を有する組織・研究者に対する質問調査を行い、調査結果を踏まえて注目すべき研究動向を特定する。
ワークショップの開催により、注目した研究動向に関する研究の進展等による社会・経済の展望等を検討した上で、科学的価値と社会的・経済的価値の創造(※3)が両立可能な戦略目標等を決定する。
我が国における基礎研究を始めとした研究動向を俯瞰するためには、すべての分野にわたり独創的・先駆的な学術研究を幅広く支援する我が国最大規模の競争的資金制度である科学研究費助成事業において支援している研究を確実に把握することが重要である。
このため、文部科学省は、独立行政法人日本学術振興会(以下、「JSPS」という。)及びJSTの協力を得て、JSTが構築した科学研究費助成事業における課題情報等を広範に参照可能なデータベース(Funding Management DataBase(FMDB))を活用し、我が国における基礎研究を始めとした研究動向の分析を行う。なお、分析を行う際には、新たな研究概念の登場、研究間の連携・融合の進捗等を把握するために、研究動向の時間的な変化を分析することが重要である。
世界における基礎研究を始めとした研究動向を俯瞰するためには、科学計量学的手法を活用して研究論文の発表状況や研究論文の相互関係を把握するとともに、研究に関する国際的な会合における動向を把握する必要がある。
このため、文部科学省は、科学技術・学術政策研究所(以下、「NISTEP」という。)において作成している優れた俯瞰図であるサイエンスマップ(※4)を活用しつつ、JSTの協力を得て、研究論文の共引用関係又は直接引用関係を用いた、世界における基礎研究を始めとした研究動向の分析を行うとともに、研究に関する国際的な会合における議題や発表題目について情報を収集する。なお、研究論文に係る分析を行う際には、新たな研究概念の登場、研究間の連携・融合の進捗等を把握するために、研究動向の時間的な変化を分析するとともに、研究論文の責任著者や発表雑誌の情報もあわせて分析することが重要である。
Step 1において行う研究動向の俯瞰は、論文といった書誌情報等を用いて行われるものであるため、近過去の状況のみを表し、最新の研究動向を正確には表していない可能性がある。また、研究分野によっては、必ずしも書誌情報等が研究動向を反映しているとは限らない分野も存在する。
この課題を解決し、注目すべき研究動向の特定に必要な情報を収集するために、JST研究開発戦略センター(以下、「JST-CRDS」という。)の戦略プロポーザルや各種科学技術に関する動向調査等(※5)も活用しつつ、Step 1において得られた情報を客観的根拠として用いて、最新の研究動向に関して知見を有する組織・研究者に対し、質問調査を行う。具体的には、文部科学省が、Step 1において得られた情報等を活用しながら、JST-CRDSの各分野ユニットやAMEDのプログラムディレクター等、NISTEP科学技術動向研究センターの専門家ネットワークに参画している専門家等に対し、注目すべき研究動向の特定に関する質問調査を行うことで、最新の研究動向の知見に基づいた注目すべき研究動向の特定に必要な情報を収集する。なお、質問調査を行う際には、質問調査の回答者の所属や分野バランスを考慮するとともに、質問調査に対する回答がシーズ・ニーズのどちらを意識して回答したものであるかや国際的な連携の下に進める必要がある研究動向であるかを明確にすることが重要である。また、情報科学技術など書誌情報等では拾い上げることが特に困難な研究動向についても情報が収集できるよう、質問調査手法を工夫することが重要である。
文部科学省は、最新の研究動向に関して知見を有する組織・研究者に対する質問調査の結果を踏まえて、注目すべき研究動向の候補一覧を取りまとめる。その後、文部科学省は注目すべき研究動向の候補全体を俯瞰しつつ、研究動向の注目度、発展可能性等の観点から注目すべき研究動向について検討し、これを特定する。
「出口を見据えた研究」を推進するための目標を設定するためには、注目すべき研究動向に関する研究の進展等による社会・経済の展望等を検討することが重要である。
このため、文部科学省は、JST及びAMEDの協力を得て、人文・社会科学の専門家の知見を活用しつつ、注目すべき研究動向に関係する研究者と産業界やベンチャーキャピタルなどの新たな市場の開拓等に関する知見を有する識者や公共ニーズに関する知見を有する識者、医療従事者などの参画を得たワークショップ等を開催し、注目した研究動向に関する研究の進展等による社会・経済の展望等を検討する。
具体的には、ワークショップ等において、注目すべき研究動向に関する研究が進展した際に社会的・経済的に与え得るインパクトやその結果実現し得る将来の社会像、当該研究動向に関し特に注目すべき国内外の動向、将来の社会像の具現化等に向けて取り組むべき研究課題について議論を行い、注目した研究動向に関する研究の進展等による社会・経済の展望等を検討する(※6)。なお、ワークショップ等における議論の際には、必要に応じてSTEP1の情報分析に立ち戻ることや、分散的・多様な学理追求の研究を融合・統合しながら社会的・経済的価値に結びつけるための課題、将来における研究人材の需要についても考慮することが重要である。また、医療・健康分野については、有効な治療法が確立されていない疾患(アンメットメディカルニーズ)など、より具体的な需要に加え、潜在的なニーズについても検討することが必要である。
文部科学省は、ワークショップ等における結果を取りまとめ、注目した研究動向や取り組むべき研究課題、研究推進の際に見据えるべき将来の社会像等を記載した戦略目標等の案を作成する。
その後、文部科学省は全体を俯瞰しつつ、注目した研究動向に関する研究が進展した場合に創出されうる科学的知見の革新性や社会・経済に与えうる影響の大きさや広さ、また研究推進の際に見据えるべき将来の社会像が実現しうる蓋然性の高さ等の観点から検討を行い、戦略目標等を決定する。
戦略目標等の検討を行う際には、戦略目標等の下でJST及びAMEDでそれぞれ設定される研究領域及び研究開発領域の存続期間がおおよそ8年間であることから、各分野の特性を踏まえつつも、戦略目標等策定後の8年間の研究推進によって、研究領域内及び研究開発領域内において創出された研究成果のうちの一定程度が実用化に向けた民間企業等との共同研究に結びつき、その後比較的短い期間で社会的・経済的価値に結びつくことを念頭に置くことが必要である。
また、社会・経済に大きな影響を与えるものとして、プラットフォームとなり得る技術を考慮するとともに、現状では出口をある一定以上明確化できないものの、重要な研究課題があることにも留意する必要がある。
他方、戦略目標等を策定する際には、「出口を見据えた研究」の主体が研究者であることを踏まえ、過去の戦略目標等の粒度を参考にしつつ、研究者のモチベーションを保つ目標となるよう留意する必要がある。
例えば、戦略目標等の策定に当たっては、研究者に政策意図を的確に伝えられる目標を掲げる必要がある一方で、基礎研究段階においては高い不確実性が存在することを念頭におき、過度に先鋭化された目標を掲げることで研究を萎縮させないよう留意する必要がある。
平成27年6月8日現在
阿部 晃一 | 東レ株式会社代表取締役副社長 | |
有信 睦弘 | 国立研究開発法人理化学研究所理事、東京大学監事 | |
◎ | 大垣 眞一郎 | 東京大学名誉教授、公益財団法人水道技術研究センター理事長 |
角南 篤 | 政策研究大学院大学教授 | |
土井 美和子 | 国立研究開発法人情報通信研究機構監事、 株式会社国際電気通信基礎技術研究所客員研究員 |
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○ | 西尾 章治郞 | 大阪大学大学院情報科学研究科教授・サイバーメディアセンター長 |
宇川 彰 | 国立研究開発法人理化学研究所計算科学研究機構副機構長 | |
長我部 信行 | 株式会社日立製作所ヘルスケア社CTO | |
貝淵 弘三 | 名古屋大学医学系研究科教授 | |
片岡 一則 | 東京大学大学院工学系研究科教授 | |
川上 浩司 | 京都大学大学院医学研究科教授 | |
小谷 元子 | 東北大学原子分子材料科学高等研究機構長・東北大学大学院理学研究科教授 | |
小山 珠美 | 昭和電工株式会社安全性試験センター長 | |
鈴木 蘭美 | エーザイ株式会社上席執行役員 グローバルビジネスディベロップメントユニットプレジデント |
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竹山 春子 | 早稲田大学理工学術院先進理工学部教授 | |
波多野 睦子 | 東京工業大学大学院理工学研究科教授 | |
柳川 範之 | 東京大学大学院経済学研究科教授 | |
若山 正人 | 九州大学理事・副学長 |
(敬称略、50音順)
(◎:部会長、○:部会長代理)
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